ミッション破壊作戦～その魂、刃に乗せて

■リプレイ

●春日部解放作戦
　埼玉県春日部市。古くから東京のベッドタウンとして知られる町だが、しかし今や、そこにも邪悪なデウスエクスの魔の手は伸びていた。
　強襲型魔空回廊にドラゴンの尖兵。その一角であるオークキッズイタズラ団による、女性への様々なセクハラ行為も後を絶たない。
　所詮は悪戯、されど悪戯。最初は単なるスカートめくり程度で済んでいても、今にエスカレートして、より多くの女性達がもっと酷い目に遭わされないとも限らない。
　そうなる前に、止めなければならないのだ。ケルベロス達は高空より眼下に座するドーム状の光へと狙いを定め。
「我らは春日部を守るために集まった、正義の春日部グラディウス！」
　グラディウスの力を高めるのは、使用者の心を燃やす魂の叫び。まずはアデレード・ヴェルンシュタイン（愛と正義の告死天使・e24828）が名乗りを上げ、それに次いで他の者達も次々に『正義の使徒』として自らの名を叫び降下する。
「リコピン満天トマトレッド、推参っ！　貴様らの悪事も此処までなのだ！」
「同じく、トマトブラック、推参。ブラックトマトも美味しいぞ」
　月篠・灯音（犬好きの新妻・e04557）と四辻・樒（黒の背反・e03880）の二人が、ここぞとばかりに背中を合わせてポーズを決めていた。もっとも、何故にここでトマトなのかは、本人達のみぞ知るところなのだろうが。
「春日部グラディウス・ホワイト！　私は未来への人材を育む為に在ります！」
「それじゃ、俺はヤブホワイトってか？」
　正義のチームは、基本的に五人メンバー。残る二人として古海・公子（化学の高校教師・e03253）と天霧・香澄（ヤブ医者・e01998）が名乗りを上げるが、しかし生憎と色が被ってしまった。
「自分達も、何か名乗った方がいいっすかね？」
「う～む……ならば、春日部ケルベロス魔空回廊ブレイク隊というのはどうじゃ？」
　アドルフ・ペルシュロン（緑の白馬・e18413）の問いにウィゼ・ヘキシリエン（髭っ娘ドワーフ・e05426）が新たなチーム名を提案してみるものの、いつまでも決めポーズ議論をしているわけにもいかない。
「現時点で死傷者を出すほどの行為ではないのだとしても……女性の敵であることに変わりはありません。日常に潜む脅威は、考えようによっては故郷を奪われるよりも辛いでしょう」
　そっと眼鏡を外し、西条・霧華（幻想のリナリア・e00311）が光のドームを見据えて呟く。
「人の世の脅威を野放しにはできません。不退転の想いを込めて、より良き未来を切り開きます！」
　そう叫びながらグラディウスを握ったグラディウスに意思の力を込め、彼女はその切っ先を躊躇うことなく、強襲型魔空回廊を覆うバリアへと突き立てた。

●愛、それは勝利の絆
　光の障壁に短剣の刃が突き刺さると同時に、巻き起こる激しい雷光と爆炎。だが、それでも今の一撃だけでは足りないことを強く感じていたのは、攻撃を仕掛けた霧華自身に他ならなかった。
　壁は固い。送り込まれて来るのが幼稚な豚であっても、強襲型魔空回廊の堅牢さに差異はないのだろう。
　爆発に巻き込まれたのか、そこかしこで障壁を守っていたであろう敵の悲鳴が聞こえて来る。しかし、それを聞いて安心している暇もなければ、敵の生死を確認しているだけの時間も、今のケルベロス達には残されていない。
「……オークキッズイタズラ団、あの時に辱しめられたことは忘れておらんのじゃー！｣
　このまま一気に破壊すべく、続けてウィゼがグラディウスの刃を突き立てた。なにやら、個人的な恨みが主目的になっている気もするが、それはそれ。
「俺自身の地元ってわけでもねぇ。大層な正義感も持っていねぇ。だが……」
　そこにデウスエクスがいるというだけで、命を掛けて殲滅すべき理由になる。そう結んで、香澄もまた光の壁を刃で斬り付ける。
「力を貸せよグラディウス！！　今、この時、コイツを屠る為だけに！！」
　再び巻き起こる激しい雷撃と爆発音。だが、それでも壁は破れない。個人的な因縁や、親近感を覚えるといった動機では、魔空回廊を破壊するのには、まだ少し足りない。
「あのさぁ……抵抗できない奴を選んで襲うなよ。グラビティが欲しいなら、こっちに来いよ。武器も持ってない、権力者でもない一般人相手とか。戦えない相手選んで襲ってるのが、最高にカッコ悪いんだよお前らァッ！！」
　苛立ちを隠しきれない様子で、アドルフが叫ぶ。時に、感情を剥き出しにして戦うことは愚策とされるが、この瞬間に限っては有効な手立てだ。
　弱者を守りたいという想い。それが齎す怒りの感情は、ただの怒りに留まらず。親を、子どもを、そして親友や恋人を、時に辱められ、時に奪われた者達の悲しみを背負った正しき怒り。
　雷鳴が、爆音が、先程よりも激しさを増していた。その光景に勝機を見出したのか、公子とアデレードもまた正面からグラディウスの刃を叩き付け。
「私は高校の教師ですが、それこそ幼稚園児だろうと、高校生だろうと変わることはありません！　此処は、返していただきます！」
「掲げしは赤き情熱の炎！　春日部の平和のみならず女性の安寧まで脅かす連中を我が炎は……我らが炎が！　必ずや焼き付くじゃろう！｣
　炸裂する凄まじい閃光の嵐が、衝撃と共に視界を塞ぐ。それらを真正面から受け止めて、灯音と樒は互いの手を取ったまま軽く頷いた。
「この空にかけて、この海にかけてっ！　私達、ラヴラヴ夫婦がいる限りっ！　貴様らの好きにはさせないのだ！　いくのだっ、樒っ」　
「ああ、行こう灯。私と灯で、この星の全てで、この回廊を破壊する！」
　新年最初の共同作業。今の二人を、止められる者は何もなし。
「「超必殺！　空中降下仲良夫婦奥義！」」
　互いに声を揃え、それぞれにグラディウスを握る手に力を込める。一人では届かない想いであっても、二人あれば二倍……否、二乗の力を発揮することも可能なのだから。
「グラディウス……」
「入刀っぉぉぉぉぉぉ！！　春日部の平和は返してもらうのだっ！」
　悪戯好きの豚にはお仕置きを、愛情なきセクハラには天誅を。想い、願い、そして愛。全てを乗せて叩き込まれた二振りの刃が突き刺さり、光の障壁諸共に、強襲型魔空回廊は春日部の地から消滅した。

●不屈のセクハラピッグ
「……どうやら、成功したようですね」
　未だ勢いの収まらない爆風の余波に顔を顰めつつも、霧華は眼鏡を掛け直すことをしなかった。
　作戦の第一段階は成功したが、しかし戦いはこれからだ。ここが敵地である以上、強襲型魔空回廊を破壊されたオークキッズ達も、黙っているはずがないのだから。
　果たして、そんな彼女の予想は正しく、爆煙を掻き分けながら一匹のオークが姿を現した。
「ブ……ブヒィ……い、いったい、何が起きて……」
　ド派手なサングラスが特徴のオークキッズ。しっぷうのブヒ太族というやつだ。いつもであれば、他にも様々な仲間がいたはずなのだが、しかし今はブヒ太族一匹のみ。
「んぁっ！？　ブヒ夫族にブヒ也族……それに、ブヒ郎族もいない！　皆、さっきのでやられしまったのか！？」
　どうやら、グラディウスで攻撃した際の雷鳴と爆風に巻き込まれ、他のブヒ族達は漏れなく地獄へ落ちたようだ。
「はっ……！　お前達は、もしやケルベロスか！　おのれ、よくもやってくれたなぁっ！」
　ようやく、こちらに気付いたのか、残されたブヒ太族が鼻息を荒げて突っ込んで来た。が、そこで黙ってやられるほど、ここに集まった者達は御人好しではない。
「あくまで、私達の前に立ちふさがるか。ならば……」
「春日部のみんなの笑顔を守るっ！　この星の本気ってやつを見せてやるのだ！」
　間髪入れず、樒と灯音がブヒ太族に、氷結の螺旋や対デウスエクス用のウイルスカプセルをお見舞いする。凍った身体にウイルスなんぞを注入されれば、それだけでさぞ苦しかろう。
「ブヒックシ！　お前達、いったい何を……」
「問答無用じゃ！　そんなに寒いというのなら、次はこれで骨の髄まで焼き豚にしてくれるわ！」
　残念ながら、クシャミと共に告げられたブヒ太族の言葉は、最後まで紡がせてもらえなかった。地獄の業火を纏った大鎌で、アデレードがブヒ太族の触手を容赦なく斬り付け。
「この紅蓮の炎が、我らが情熱！　我らが怒り！　そして我らが正義じゃ！」
　其方等がどれだけ現れようとも、決して消えることなく全てを焼き尽くす。悪戯の代償は、お前の身体と命で支払ってもらおうと。
「ブ、ブヒィッ！　こうなったら、お前達のスカートをめくりまくって、そのまま押し倒してやるぅっ！」
　背中の触手に火を着けられながらも、諦めることなく女性陣のスカートに狙いを定めて突撃するブヒ太族。だが、そんな渾身の一撃も、ライドキャリバーのカブリオレが盾となったことで、なんとも微妙な光景に。
　スカートはスカートでも、めくれたのはバイクのスカート部分に当たるパーツ。そこが、ほんの少し動いた程度であり、色気も何もあったもんじゃない。
「お主には、散々辱しめられたからのう。お返しに、その服をボロボロにしてやるのじゃ」
　得意のスカートめくりさえ不発に終わったブヒ太族へ、情け容赦ない掌底を叩き込むウィゼ。思わず何かを吐き戻しそうになるブヒ太族だったが、それだけでは終わらなかった。
「魂の燈火よ、眠りし姿を呼び覚ませ。一時形成せ、戦士の姿」
　アドルフの詠唱により呼び出されしは、エゾオオカミのウェアライダー。獰猛な巨狼は野生の本能そのままに、食い千切るような視線と強烈な咆哮で、ブヒ太族を真正面から威嚇して。
「ブ、ブヒッ！？　もしかして、こっちを食べ……ブギャァァァッ！！」
　ブヒ太族の意識が逸れた一瞬の隙。そこを狙い、カブリオレが激しいスピンを伴って敵を轢き潰す。
「これまで、何人の女性を辱めて来たのですか？　大人しく、お仕置きされて反省しなさい！」
「そういうこった。悪ぃが、俺はガキだろうとデウスエクスには容赦しねぇぜ？」
　追い撃ちとばかりに降り注ぐ公子の蹴撃に続き、香澄の放ったケルベロスチェインがブヒ太族の身体を縛り上げた。いかに、あの爆発から生き延びたブヒ太族でも、これは少々分が悪い。
「ぬぐぅ……こんなことで、スカートめくり千人斬りの夢を果たさずに逝くわけには……」
　しかし、それでもブヒ太族は、未だに女性のスカートをめくることへの執着を諦めていなかった。生きるか死ぬかの戦いの中でもパンチラの方が大事とか、ある意味ではオークらしく、ブレていないのは流石だが。
「その邪な心が、多くの女性を傷つけると知りなさい」
　いつの間に、後ろに回り込んだのだろう。冷ややかな視線を向けながら、振り返ったブヒ太族の顔面に、霧華が渾身の力を込めた鋼の拳をお見舞いする。ド派手な赤いサングラスが砕け散り、オウガメタルにより強化された拳が、ブヒ太族の顔面にめり込んだ。

●疾風と共にさようなら
　撤退するケルベロス達の前に現れた、強力なしっぷうのブヒ太族。だが、どれだけ強い個体であっても、数の差による暴力の前には屈せざるを得ない。
　得意のスカートめくり技は、ダメージこそ与えられるものの決定打に欠ける。食らったところで、少々恥ずかしい気分にさせられるだけでは、毒や麻痺などよりも数段劣る。
「フンゴォォォッ！　この鼻息で、お前達のスカートを吹き飛ばしてやるブヒ！」
　満身創痍になりながらも、ブヒ太族は強烈な鼻息でケルベロス達を攻撃して来た。が、その直撃を食らったのは女性陣ではなく、スカートを履いていた香澄だった。
「ブヘェッ！　お、男のスカートをめくってしまったブヒ！　お前、気色悪いブヒ！」
　めくれ上がった中身が赤褌だったことも相俟って、完全に嫌がらせにしかなっていない。もっとも、スカートを姿を馬鹿にされたことで、当の香澄もまた完全にキレていた。
「お前は、全スコットランド人を敵に回した……」
　だから、今直ぐにここで、命を捨てて謝罪しろ。そんな香澄の言葉が合図となり、他の者達も一斉攻撃！
「豚肉ミンチになるがいいのじゃ！」
　錐揉み回転しながら突撃するウィゼの蹴りが、ブヒ太族の尻を直撃する。同時に、アドルフの蹴りも正面から相手の股間に炸裂し、果てはカブリオレが容赦なく横から轢き潰し。
「ブヒョォォォッ！　も、悶絶ぅぅぅっ！！」
　転げまわるブヒ太族。しかし、それを見据えるアドルフは至って冷静だ。
「女の子を傷つけたオークは急所を突いてもいいって、道徳の時間で学ばなかったっすか？」
　お前は死すべき、慈悲はない。今まで、散々女性に悪戯して来たことを、後悔しながら逝けばいいと。
「後ろは任せて。その分、攻撃に集中して」
「ああ、言われるまでもねぇぜ」
　公子が薬液の雨を降らせる中、香澄がにやりと笑って答える。瞬間、彼の手から無数の医療器具が放たれたと同時に、ブヒ太族の時間が刹那の間だけ凍結した。
「遅ぇんだよ……」
　そう、彼が告げると同時に、ブヒ太族に降り注ぐ医療器具の雨。メスが、鋏が、注射器が、それこそ雪崩のように降り注いで来たのだから堪らない。
「ブ、ブヒィ……ば、馬鹿な……」
「地球人にできねぇと思ったか？　先入観は良くないぜ」
　全身に刃の刺さったブヒ太族を、香澄が勝ち誇った様子で見据えて言った。もう、これ以上は遊んでいる時間もないだろう。そろそろ決着をつけなければ、今に他の敵が集まって来てしまう。
「人の世を脅かす悪因、斬り捨てさせてもらいます」
　腰溜めに刃を構え、擦れ違い様に抜き放つ霧華。その一撃でブヒ太族の身体が宙を舞ったところを、灯音と樒は見逃さなかった。
「樒っ」
「ん、灯」
　夜風を思わせる漆黒の刃と、銀色に輝く雷撃杖。それぞれの武器を引き抜いて、タイミングを合わせて間合いを詰め。
「さて、一手披露しよう」
「ただ、全てを切り裂くのみ」
　蝶を思わせる程に軽やかな太刀筋が、寸分の狂いも無駄もない斬撃が、幾重もの連撃となり敵を斬る、斬る、斬る！
「こいつはオマケじゃ。持って行け！」
　最後は、アデレードの放った燃え盛る蹴りが、三日月状の炎を呼んで、ブヒ太族に真正面から直撃し。
「ブッヒィィィッ！　もっと……スカートをめくりたかった……ブヒ……」
　燃え盛る火炎が、しっぷうのブヒ太族の身体を焼き尽くす。後に残されたのは、犬でも食わない丸焦げの焼き豚のみ。
「さて、これが片付いたら、冬休みはほぼ終了かしら？」
　教鞭で自らの左手を軽く叩きながら、公子は少しばかり複雑な表情で辺りを見回して言った。
　本当は、戦ったままにして帰りたくはない。だが、ここで引き際を誤ってしまうほど愚かでもない。
　とにかく今は、強襲型魔空回廊を一つでも多く潰せたことを喜ぼう。そう、心の中で割り切って、ケルベロス達は春日部の町を後にした。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年1月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 10
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。