ミッション破壊作戦~夜空を彩る魂の叫び

作者:沙羅衝

「皆、クリスマス楽しかったかな? それに、ゴッドサンタの撃破もご苦労さんやったで。……まあ、あっけなかったけどな」
 ケルベロスを前に、宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が少し苦笑いをしながら話をしていた。
「んで、そのゴッドサンタから手に入れた『グラディウス』の使い方が判明したんよ。それはなんと、魔空回廊を攻撃して破壊する事ができるちゅうことや」
 得意げな絹。ケルベロス達からは、おお、と感嘆の声があがる。
「『グラディウス』はな、長さ70センチくらいの『光る小剣型の兵器』やねんけど、普通の武器としては使われへん。でも、魔空回廊」が破壊できるんやったら、話は別や。普通の魔空回廊は10分で消えてまうけど、固定型の魔空回廊っちゅうのがある。せや、ミッションとかに使われとるやつや。この今現在日本各地の『ミッション』の拠点となってる、『強襲型魔空回廊』を破壊する事が可能になったわけやな」
 再びあがる感嘆の声。絹はうんうんと頷きながら、そのまま続ける。
「この『グラディウス』やけど、一回使ったら、グラビティ・チェインを吸収してまた使えるようになるまで、結構な時間が掛かるみたいなんやけど、今回手に入れたものの中には、『すぐに使用可能な物』が多数あってな、早速使う事になったんよ。それが、『ミッション破壊作戦』や!
 皆には、この力を使ってミッション地域に行ってもらう。勿論、目的はこの『強襲型魔空回廊』の破壊や。どこに行くかは決めてくれたらええ。全体の作戦に従うことやから、今から言う説明、良う聞いてな」
 成る程、と頷きつつ、ケルベロス達は少し前のめり気味で絹の話に耳を傾けた。
「まずは、このミッション地域にある『強襲型魔空回廊』への突入や。場所は各ミッション地域の中枢になる、当然敵もおる。下手したら道中で貴重なグラディウスを奪われるリスクもあるわけや。せやから、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』をやるで。
 強襲型魔空回廊の周囲は、半径30メートルくらいのドーム型のバリアで囲われててな、このバリアにグラディウスを触れさせればええわけや。高空からの降下でも、十分に『強襲型魔空回廊』に攻撃できるっちゅう事や。
 8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使って『強襲型魔空回廊」に攻撃を集中する。場合によってはな、一撃や。でもまあ、一回の降下作戦で破壊できんくても、ダメージは蓄積するから、最大でも10回程度の降下作戦をやれば、強襲型魔空回廊を確実に破壊する事ができるんちゃうかと、試算されとる。せやから、あんまり気張らんでもええんかもしれんな。ああでも、そりゃあ1回で済むならそれに越したことはないか、まあ、その辺も任せるな。
 しかもや、この作戦のええところは、『強襲型魔空回廊』の周りに居る強力な護衛戦力が高高度からの降下攻撃を防ぐ事が出来へん理由がある。グラディウス使ったら雷光と爆炎が出て、『グラディウスを所持している者以外に無差別に襲いかかる』特徴があるんや。せやからそれを高い所から一気にぶち込む。すると、防衛を担っている精鋭部隊であっても後の祭りってわけや。皆はこの雷光と爆炎によって発生するスモークを利用して、その場からさっさと撤退すればええんやな。あ、でも当然このグラディウスは持ち帰ってや。何本もある言うても、数には限りがあるからな。意外と重要やで」
『グラディウス』を得た事により、降下作戦が可能となった。そこで気になるのは、使い方である。当然、ケルベロス達はそれを尋ねた。
「このグラディウスの力の使い方はな、『グラビティを高める事』がその強さになる。強い意思とか願い、想い。何だってええ、熱いヤツや。その熱い魂の叫びをグラディウス籠めるんや。重要やで。皆、あるやろ? 『必ず平和にする!』とか。ホンマに心から思う重大なことやったら、『彼女欲しい』とか『おっぱい触りたい』でもええんや。どや? あるやろ、恥ずかしがったら効果は薄れるで」
 それを聞いたケルベロスが、少し赤面する。そして、口に出さないと駄目か? と聞く。
「叫び、っちゅうたやろ。想いは口に出してなんぼやで。ええやん、新年の気合のつもりで。誰も気にせえへんわ。お気軽に、やで」
 それを聞いたケルベロス達は、それぞれの反応を示す。しかし、絹は構わず説明を続ける。
「ええか、続きいくで。
 魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃である程度が無力化できるわけやけど、完全にはいかへん。強力な敵との戦闘はあると思ってや。幸いやけど、混乱する敵が連携をとって攻撃を行ってくる事はないから、素早く目の前の強敵を倒してさっさととんずらや。逆に時間が掛かりすぎてしもたら、脱出する前に敵が態勢を整えてしまう。そうなったら、降伏するか、最悪暴走して撤退するしか手が無くなるかもしれん。攻撃するミッション地域ごとに、現れる敵の特色があると思うから、行くとこ決めたらちょっと調べて備えるのがええやろな」
 暴走という言葉に、先ほどまでざわついていた雰囲気が止まる。
「グラディウスでの降下攻撃後は、無事に撤退するのが重要や。強敵ほど混乱状態から抜け出すのは早いやろ。その強敵が出てくるで。しっかり準備するんやで。で、絶対帰ってきてな」
 ケルベロス達は、真剣な表情でヘリポートに向かっていくのだった。


参加者
クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)
神崎・晟(海闊天空・e02896)
シィ・ブラントネール(水圏戯・e03575)
黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
鮫洲・蓮華(白き人魚に執われた少女・e09420)
ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)
三上・菖蒲(静かに消ゆる玉響・e17503)

■リプレイ

●願い
 ヒュオオォ……。
 三上・菖蒲(静かに消ゆる玉響・e17503)は、耳から聞こえる風切音を感じながら、季節の巡りを感じていた。
 辺りは暗闇に覆われ、自分達以外の気配はない。空を見上げると、星が無数に煌いているのが見えた。
「さて、あれですか……」
 荒廃した佐賀県唐津市の上空で、ヘリオンから飛び降りたケルベロスは、グラディウスを構え、グラビティの集中を開始する。
『のんびりお昼寝してたかったのです…、ぼくの邪魔するなぁぁぁぁああ!』
 菖蒲の叫びがグラディウスに伝わり雷光と共に、爆音が発生する。
「向こうにも相応の事情があるのだろう。だが、こちらにも護るべきもの、譲れないものがある。日本で生まれ育ったケルベロスとして……そして、元自衛官として」
 神崎・晟(海闊天空・e02896)がその荒廃した唐津市を想い、目を閉じる。隣には、親友であるガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)の姿。それに、友であるクーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)の姿も。この上なく頼もしく感じ、自然に笑みが漏れた。
「戦争屋らしく次から次へと本格的なのをぶつけてきやがって……!」
 ガロンドは、この真下に居るエインヘリアルに対しての怒りを吐き出す。ガロンドと晟は、同時に力を解放させた。
『これ以上、日本で好き勝手させるわけにはいかん! 因果の一つをここで絶たせてもらおう!』
『落ち着いて! 宝を! 探す! 暇すら! ねぇだろうが!! さっさと帰れ!!!!』
 その二人を見ながら、クーリンは決意を新たにする。常に私の前を行ってくれる二人。頼もしい彼らに、本当はもっと甘えていたい。だが、甘えてばかりもいられない。相反する想いが交錯する。
「でも、私はいろんな人に助けられたから……助けられた分、みんなに返していきたい」
 クーリンのその素直な想いは、綺麗な力となり、グラディウスを輝かせる。
『だから、まずはこの件に関しては絶対にここで終らせるよ。私に出来る事。全力で!』
 二人の大柄なドラゴニアンとクーリンの雷光が、ほとばしる。それを見て、シィ・ブラントネール(水圏戯・e03575)は微笑みながらうんうんと頷く。
「去年は最高の年だったのよ。地球は一歩平和に近付いて! 大切な従者と出会えて、沢山のお友達も出来て! そして何より!」
 ぱあっと最高の笑顔になるシィ。
『世界で一番大好きな人と結ばれたんだから! だから今のワタシは世界最強! こんなバリアなんかすぐに壊して、今年を去年よりもっと最高の年として始めるんだから!』
 そのシィの言葉を聞きながら、舞彩もこれまでの事を思い返す。
「まったく、羨ましいったら。でも、そうよね、一人では無い、待ってくれている人が、応援してくれている人が居る……最高よね」
 黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)は応援菓を取り出し、メッセージを読み返し、仲間から届いた言葉に、最高の感謝を籠める。
『私には、私達には、最高の仲間がいる! 私の想いだけじゃない。皆の想いに、ありがとう。グラディウスよ……応えて。貴方の力に!』
 再びあがる雷光と爆音。それを横目に、フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)は仲間との絆を胸に、皆を見回し降下してゆく。内気であった自分を変えてくれた存在。それは、仲間や友達だ。
『ん! い~っぱいお友達を作るの!』
 鮫洲・蓮華(白き人魚に執われた少女・e09420)は、その友達の一人でもある。蓮華は、それを聞いて、嬉しくなった。
「蓮華は色んな出会いを経験したい。デウスエクスでも虐げられている、誰かが居たら、手を差し伸べてあげたいんだ。
 だから、エインヘリアルに無理やり隷属されている種族がいれば、この手でその呪縛から解き放ってあげたいんだ!」
 はにかみながらも、自分の素直な気持ちを言葉にする。
『あの日に助けることが出来た多くのヴァルキュリアと同じように、助けを求める声があるのなら!』

●戦慄
 グラディウスから放たれた雷光と爆炎は、激しいスモークを上げて、強襲型魔空回廊に直撃した。
「流石に、一筋縄ではいきませんね」
 菖蒲が地面に降り立ち、そのダメージの様子を確認しながら言う。ダメージを与えることは確かにできた。だが、破壊までには至らなかったようだ。
「とりあえず、回復はしないんだから、また攻撃を仕掛ければいいよ」
 情報では、この魔空回廊は一番の強さを誇るということだった。蓮華は納得した表情で魔空回廊を見る。
「さあ、逃げるわよ!」
 シィがシャーマンズゴーストの『レトラ』と共に、後ろを向き、駆け出した。他のケルベロスもそれに続く。自分達が駄目でも、何度も攻撃を仕掛ければ、いかなる魔空回廊であっても、いずれは崩壊するのだ。
 無駄ではない。その事を感じながら、ケルベロス達は、一気に逃走を図る。
「まだ敵は我々に気付いていない。急ごう」
 周りのスモークをかき分けながら、敵の状態を確認する晟。絹の話では、この場所にいる敵『ユミルの子』は相当な強さだそうだ。強敵が現れることは明白だった。

 暗闇とスモークにまぎれて逃走するケルベロス達。唐津市の様子は何処も完全に荒廃していた。その姿を見ながら、いよいよあと少しでこの領域を脱出できる位置へと来た。
「待って!」
 ふと舞彩が静止の声を張り上げ、特製ハンズフリーライトで目の前にある巨大なビルのような物を照らす。
「ん、ビルじゃないの」
 フォンがフェネックの大きな耳を前に傾け、ボクスドラゴンの『クルル』と共に立ち止まる。
 巨大な黒い塊がこちらに向けて、強烈な殺気を放つ。それこそが、デウスエクス『ユミルの子』に他ならなかった。その存在感に、ケルベロス達は戦慄を覚える。
「しかしデカいな……高身長の秘訣を少々教えてほしいところだな」
 晟は強気にそう言いながら、ボクスドラゴンの『ラグナル』に後ろに下がるように指示し、己は前へ出る。
「ホント、強そうね。でも、絶対に負けないから」
 クーリンがランプの位置を確かめ、豆柴のキィをファミリアロッドへと変換していく。
「ユミルって正体不明の敵で、すごく気になってる。でも、目の前の敵に集中しよう!」
 蓮華がグラビティを集中しようとした時、それは唐突に放たれた。
「コオオオオオオオ!!」
 悲鳴のような咆哮が、ケルベロスに向かって放たれたのだ。
「な!?」
 驚愕のガロンド。自らのミミック『アドウィクス』が、煙を上げてガシャリと崩れたのだ。
「気を抜くな、ガロンド君! もう一度来るぞ!」
 ガロンドとユミルの子の間に、滑り込む晟。更に続けて放たれる咆哮を全身に受け、晟の膝が落ちた。
「神崎君!」
『ここで耐えねば男が廃る。護りは私の専売特許なのでな。』 
 強がりであることは明白であったが、何とか気力を引き絞りって立ち上がり、自身の肉体に砲戟龍の力を付与する晟。
「アキラ!」
 思わず駆け寄るクーリン。
「私を気にしている暇があったら、眼前の敵に集中しろ!」
 晟はクーリンを右手で制しながら、立ち上がる。
「……気遣いは無用。これが私の仕事だ。今も昔もな」
 ユミルの子の力は、ケルベロスの想像を凌駕していた。何とか逃げ出したかったが、この敵を倒さないと、後ろから無防備な状態で一人一人倒されていく未来が浮かぶ。圧倒的なスピードと攻撃力、それに加えて脅威の回復力を備えているという情報が、ケルベロス達を絶望の淵へと誘う。
 だが、その絶対的な力を前にしても、ケルベロスたちは対峙するしかなかったのだ。

●信頼
『この歌声で、あなたもきっとわたしの、ト・リ・コ♪』
 蓮華がコスチュームをチェンジし、混乱を狙うが当てる事が出来ない。
 ケルベロス達は、懸命に攻撃を繰り出すが、ユミルの子は、その巨体からは想像できないスピードでその攻撃を避ける。
 勿論、作戦を立てていないわけではなかった。しかし、これ程までの強さは想定していなかった。
『ん、癒しの力・・・飛んでくの!』 
 フォンがクーリンへと威力を上げるグラビティを施し、後方で狙いを研ぎ澄ましている舞彩、シィ、クーリン、それに各サーヴァント達が、その足を止めようと試みる。更に、消えることの無い炎や氷でダメージを底上げしようとグラビティを放つ。
 相手の状態異常を回復する手段がない所に目をつけたのだ。
 それには、まずは確実にその動きを止める必要がある。
 魔空回廊へとダメージを与えるという最大の目的を達成しているケルベロス達。ここを突破すれば、帰還することが出来る。だが、ユミルの子がそれを許さない。
「あなたの相手は私です!」
 菖蒲が勇気を振り絞り、目の前に飛び出すが……、
「コオオオオオオオ!!」
 再び襲う咆哮。その圧倒的な力に、菖蒲の身体は地面に叩きつけられ、大きくバウンドし、それ以上動くことが出来なくなってしまった。
「なん、でしょう。……この、出鱈目な強さは」
「いい加減に、しなさいよ!」
 鉄塊剣で重厚無比の一撃を放つ舞彩。
「レトラ! 注意を引いて!」
 続いてシィがレトラに指示し、霊魂での攻撃を与えさせる。すると、ユミルの子はギロリと舞彩へ注意を向ける。
 後衛による挑発に加え、更に足止めの効果、そして混乱など、あらゆる状態異常の攻撃を行うケルベロス達。これを繰り返せば、封殺できる。
 だが、ユミルの子の病魔の宿った拳が、晟を叩き伏せる。
「ぐ……あ……」
 晟は苦悶の嗚咽を漏らし、その場で倒れた。
「これは……参ったねぇ」
 呟くガロンド。彼は竜砲弾を放ちながら、状況を冷静に分析し始めた。敵はこちらを攻撃しつつも、回復してくる。
 こちらも何もしていない訳ではない。現に敵の動きは鈍り始めている。だが、まだ足りないのだ。
 そのうち封殺できるかもしれない。だが、その時にどれだけのケルベロスが生きているのだろうか……。
「コオオオオオオオ!!」
 再びユミルの子が、咆哮を上げる。
「あ……」
 その咆哮により、蓮華が倒れる。勝ち誇るようなその声はあたり一面に響き渡り、己の生を主張する。このままでは、その力の前に蹂躙されてしまう。
 シィは、その光景をみて、何もかもを悟った表情で頷いた。
「ちょっと、幸せすぎたのかしらっ。でも、誰も死なせない」
 シィはそう言って、己の内側にあるグラビティ・チェインの枷を外し始める。
「シィ……まさか。駄目、まだ何とかできるかもしれないから、考え直して!」
 彼女の異変に気付いた舞彩の言葉を聞きながら、シィは自分の身体を鉄の鎧で覆い始める。
「舞彩、あの人に伝えて。見つけてくれるって、信じてる。って。大丈夫、死ぬわけじゃないし、死ねないのよっ!」
 ウィンクをしながら、あくまでも明るく振舞うシィ。顔全体を覆うマスクを出現させ、左手に余り飾り気の無い巨大な槍、右手に幾重にもラインが入った鋼鉄製のライフルを具現化していく。
「シィ!!」
 舞彩の声が響く中、シィの羽根や全身に小さな白い花が咲き誇る。
 次の瞬間、シィが羽根を羽ばたかせると、一瞬にして上空に消えていった。そして、その消えた方向から、凄まじい力のグラビティが放出されたのだった。

●その先の未来
 シィの収縮させたグラビティが、ユミルの子の肩口を貫き、大きな穴が開く。
 その攻撃は、その回復力を持ってしても、傷を塞ぎ切れてはいないようだった。
 更に状態異常の攻撃を与え、攻撃の矛先を後衛のメンバーへと意識を向けさせるケルベロス。こちらの攻撃がほぼヒットし、混乱の効果と相まって、敵の攻撃を封殺し始めた。通常のデウスエクスであれば、これで勝利を確信する程の状態であろう。
「ん……」
 だが、無防備になったフォンへ、拳が放たれる。
 ドゴッ!
 鈍い音を立てながら、ガロンドがそのフォンへの攻撃を受け、そして地面へと叩きつけられた。
「一手、遅かったのかな……」
 どんなに低い確率だとしても、攻撃が牙をむく事もある。それが今だという事を恨みながら、ガロンドは立ち上がった。
『驕り無き強者に打ち勝つ術。それは、一人では無いということ。貴方も力を貸してくれる?ドラゴンスレイヤー!』 
 竜殺しの大剣を抜刀し、状態異常を倍増させることに成功した舞彩。これで、陣形は完成した。だが、時間がかかりすぎた。自らの肉片を融合させ、傷を塞いでいくユミルの子。
 ガロンドは、もう少し早くこの状況が完成していれば……あるいは。と思う。
「でも、最悪の状態は避けないとねぇ……」
 このままいけば、何とか倒すことは出来るかもしれない。
 だが、仮に倒せたとしても、こちらのダメージは相当なものだ。この状態で他のユミルの子との連戦など、出来るはずもなかった。
 ふう、と深く息を吐いた後、力を込めるガロンド。その動作に晟が反応する。
「……まさか。止めろ。止めろガロンド! 俺はまだ、まだ……動ける。それに、もう少しじゃないか」
「神崎くん。陣形は何とか完成させることが出来たけど、完全に封鎖できた訳じゃないよ。いつか来る力に誰かが犠牲になる、かもしれない。それに時間もかかってしまえば、他の敵が来る、かもしれない。この状態で、連戦は無理だよ……。
 皆には、暫く留守にするって言っておいて」
 そして、ガロンドは泣き顔のクーリンを見る。彼女の顔は、既にくしゃくしゃに歪んでいた。
「……嫌、だよう。沢山、助けられて支えて貰って……お返し、してない、よ」 
「ごめんね。出来れば、君にこんな想いはさせたくなかった」
 ガロンドはそう言って、クーリンの頭に掌を優しく乗せる。
「そうだ、僕を探してくれたら、嬉しい、かな。宝はまだ、見つかっていないからね」
 ガロンドはそう言うと、混乱し咆哮を上げているユミルの子を真正面から見据え、グラビティ・チェインの制御を解き放つ。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 ガロンドの身体は膨れ上がり、三つの頭を持つ巨大な黄金竜に変形する。
 地を蹴ったガロンドは、黄金の光となり、ユミルの子に突進して行く。
 ガロンドは消え行く意識の中、不思議な感覚を覚えていた。自らを犠牲にすることは美談ではないし、英雄譚でもない。ただ、意外と気分は悪くなかった。そして、気づく。
(「あ、そうか、僕はもう、見つけていたのかもしれないね」)
 シィの銃弾がユミルの子の腹を撃ち抜き、ガロンドがその傷に向かって突っ込む。ユミルの子の体内に入ったガロンドはそのまま周りの全てを破壊しながら一直線に上昇し、突き抜けると、そのまま暗闇へと消えていったのだった。

 ユミルの子の頭が爆散し、消滅する事を確かめたケルベロス達は、倒れた味方を背負い、全速力で走った。
 敵の強さを、他のケルベロスに伝えること。そして、消えた仲間を探すために、懸命に戦場を駆け抜けたのだった。
 その先にある未来の為に、奥歯を噛み締めながら。

作者:沙羅衝 重傷:神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) 
死亡:なし
暴走:シィ・ブラントネール(フロントラインフロイライン・e03575) ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925) 
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 7/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 19
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