ミッション破壊作戦~閃光のリベラシオン

作者:柚烏

「クリスマスを無事に過ごせたのも、皆が頑張ってくれたお陰だね。えっと、ゴッドサンタは……色々凄いダモクレスだったけれど、本当にお疲れ様……!」
 聖夜の余韻に浸りつつ、エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)はちょっぴり遠い目をして空の彼方を見上げていた。
 ケルベロス達の一斉攻撃により撃破されたゴッドサンタ――彼の残した言葉には色々と気にかかるものもあったが、取り敢えず『ぐわーやられたー』と言う断末魔は凄く印象的だったと思う。
「それでね、ゴッドサンタを撃破したことで手に入れた『グラディウス』の使い方が判明したんだよ」
 と、ゴッドサンタの思い出を振り払ったエリオットが告げたのは、彼に搭載されていた560本もの『グラディウス』なる兵器について。光る小剣の形をしたこの兵器は、通常の武器としては使用出来ないのだが――何と、デウスエクスの生み出す魔空回廊を、攻撃して破壊することが出来るのだと言う。
「通常の魔空回廊は、時間が経てば消失するから……グラディウスで破壊するまでもないんだけれど。でも、固定型の魔空回廊なら、グラディウスでの破壊がとても有効になるよね……!」
 特に、現在日本各地の『ミッション』の拠点となっている、『強襲型魔空回廊』を破壊することが可能となるのは大きい。このグラディウスを使えば、デウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込むことが出来る筈とエリオットは頷く。
「……どうやらグラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再び使用出来るようになるまで、かなりの時間が掛かるようなんだ」
 しかし――今回手に入れたグラディウスには『すぐに使用可能な物』が多数あり、それを使用して一気に、ミッション地域を解放する『ミッション破壊作戦』を行うことが出来る。
「だから……皆にはグラディウスを使って、ミッション地域をデウスエクスの手から取り戻して欲しいんだ」
 どの場所のミッションを攻撃するかは、皆の決断に従う――エリオットはそう言ってから、今回の作戦についての詳しい情報を伝え始めた。

 先ず、目指す『強襲型魔空回廊』があるのは、ミッション地域の中枢となる。その為、通常の方法で辿りつくのは難しいのに加え、敵に貴重なグラディウスを奪われる危険もあるのだ。
「……故に、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行うことになる」
 ――強襲型魔空回廊の周囲は、半径30mドーム型のバリアで囲われていると言う。しかしこのバリアにグラディウスを触れさせれば良いので、高空からの降下であっても、充分に攻撃が可能だとエリオットは断言した。
「そうして8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用して、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば……場合によっては一撃で、これを破壊する事すら可能なんだ」
 勿論、一回の降下作戦で破壊出来なくても、ダメージは蓄積する――そうやって最大でも10回程度の降下作戦を行えば、強襲型魔空回廊を確実に破壊する事が出来ると思われる。
 その周囲には強力な護衛戦力が存在するのだが、高高度からの降下攻撃を防ぐ事は出来ない――更にグラディウスは、攻撃時に雷光と爆炎を発生させるのだ。
「この雷光と爆炎は、グラディウスを所持している者以外に無差別に襲いかかるんだ。だから強襲型魔空回廊の防衛を担っている精鋭部隊であっても、防ぐ手段は無いよ」
 なので皆は、この雷光と爆炎によって発生する煙幕を利用して、その場から撤退を行って欲しいとエリオットは言う。無事に帰還を果たすのは勿論、貴重な武器であるグラディウスを持ち帰る事も、今回の作戦の重要な目的となるからだ。
「先程も説明した通り、魔空回廊の護衛部隊はグラディウスの攻撃の余波で、ある程度無力化出来る。それでも完全に無力化する事は不可能だから、強力な敵との戦闘は免れないんだ」
 ――しかし幸い、混乱する敵が連携を取って攻撃してくることは無いので、素早く目の前の強敵を倒して撤退出来るようにするべきだろう。もし時間が掛かりすぎて、脱出する前に敵が態勢を整えてしまった場合は、降伏するか暴走して撤退するしか手が無くなるかもしれない。
 尚、ミッション地域ごとに現れる敵の特色がある。此方は主に死神相手に戦うことになりそうだが、攻撃する場所を選ぶ参考にするのも良いだろう。
「デウスエクスの前線基地となっている、ミッション地域の解放……これは今までなし得なかったことが出来る、重要な作戦になるけれど」
 デウスエクスの侵攻を止めることも大事だが、何よりもエリオットは皆が無事に帰還することを願っているようだった。
 雷光と爆炎を生み出す光の剣――グラディウス。ひとりひとりがその刃であり、数多の光を束ねることでより強大な闇に立ち向かえると、彼は信じているから――。


参加者
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)
コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)
桐山・憩(焚き炎・e00836)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)
アルルカン・ハーレクイン(道化騎士・e07000)
御船・瑠架(紫雨・e16186)
マリアンネ・ルーデンドルフ(断頭台のジェーンドゥ・e24333)

■リプレイ

●解放への降下
 福岡県北九州市、再開発地区――其処はかつて数々のデウスエクスが襲来し、大きな被害を受けたものの、大建造期を経て目覚ましい復興を遂げた場所であった。
 しかし彼の地に固定された強襲型魔空回廊によって、今は死神たちの闊歩する絶望の土地へと変わってしまっている。戦火に巻き込まれた地区を憂い、ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)は微かな吐息を零したが――しかし再び人類の手に、復興の地を取り戻す機会が巡ってきたのだ。
 桐山・憩(焚き炎・e00836)がまじまじと見つめる光の剣こそが、回廊を砕く力を秘めたグラディウスだ。これを携えたケルベロス達は、ヘリオンからの降下作戦を開始――極限まで高めたグラビティで以って、中枢に存在する魔空回廊に光の刃の一撃を叩き込むことを目指す。
「空が、紅い……」
 高高度に位置するヘリオンから、眼下に広がる景色を一望した御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)は、その血を思わせる色彩を見て微かに顔を曇らせた。それは緋では無く悲と言うに相応しく、彼女の脳裏に蘇るのは、拭い去れない過去の記憶だ。
「これ程までに鮮やかであれば、刃の輝きもさぞ映える事でしょうね」
 一方のアルルカン・ハーレクイン(道化騎士・e07000)は、携えたグラディウスと手に馴染んだ惨殺ナイフを、交互に見つめつつ吐息を零していて。その隣では、御船・瑠架(紫雨・e16186)や葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)が無言で装備の点検を行いながら、彼方の魔空回廊を見つめていた。
(「あそこに、あいつが居る……!」)
 再開発地区を護るのは、死神によってサルベージされたかつての同胞だ。青白き馬を駆る騎手は死しても安息を得られずに、敵対者によって使役されている――死者の魂を弄ぶ死神へ静かに怒りを募らせつつも、唯奈は思いの丈の全てを一撃に込めようと誓った。
「……頃合いね。準備はいい?」
 と、張り詰めた空気の中に凛と響き渡るのは、コーデリア・オルブライト(地球人の鹵獲術士・e00627)の合図。がちがちと牙を鳴らすミミックを、片手であしらう彼女の黒髪が、ヘリオンの搭乗口に吹き付ける風によってうつくしく波打つ。そんな中、一直線に回廊目掛けて降下していくのは、断頭台に向かう覚悟にも似ているだろうかと――首元から噴き上がる地獄の炎を見つめながら、マリアンネ・ルーデンドルフ(断頭台のジェーンドゥ・e24333)は淑やかな佇まいで顔を上げた。
(「わたくしは名も無き殺人者、名も無き罪。これが贖いに足りずとも……」)
 ――それでも名も無き人々の為に、この命と魂を捧げる覚悟はとうに出来ている。そんなマリアンネが光剣を握りしめたその時、行くよと元気良く掛け声をかけて、先ず唯奈のしなやかな身体が空を舞った。

●光の剣、魂の叫び
「この日をずっと待ってたぜ! アンタとガチでぶつかり合える、この日をなぁ!」
 だがまずは、こいつをぶっ壊す――ありったけの思いを込めてグラディウスを振るう唯奈に続いて、ミミックと一緒に降下していくのはコーデリアだ。
「人の死を冒涜する死神は、許すわけにはいかない」
 しかも、よりによって同胞の魂をサルベージするとは――此方が戦いにくくなると思ったのかしら、と彼女は皮肉げに紅の瞳を細める。
「残念ね、逆に私たちを怒らせただけだわ。……貴方たちのしたこと後悔させてあげる」
 光の剣がその輝きを増す中、アルルカンも深紅の空に身を踊らせて、道化じみた相貌にふと誰かを悼むような――切なげないろを滲ませていた。
「自らの生まれが何であれ、護るべきものを仇なす存在に容赦する気はありません」
 ましてや死者の眠りを呼び覚ます死神は、大切な存在の死や、残された者の想いすら貶めるのだ。故に負の連鎖を断ち切る為、力を尽くそうとアルルカンは誓う。
「安寧を守護する番犬として、この牙振るわせて頂きましょう」
 ケモノの牙の如き刃を突き立てんとする彼の後方、豪快に床を蹴って夕暮れに飛び込んでいくのは憩だ。不屈の闘志を宿した彼女のまなざしは、眼下の魔空回廊を射抜いて――そうして侵略者たちに届けと言わんばかりに、その魂の叫びが大気を震わせた。
「テメェらは禁忌中の禁忌を犯した! 私達ケルベロスの魂を弄ぶクソ野郎共……いまブッ殺してやるから、そこで首洗って待ってろ!!!」
 鋸のようなギザギザの歯を剥いて、不敵な態度で憩が笑う。頼もしいことと頷く姫桜だったが、憩はヒャッハー的な精神で、只々思ったままをそのまま声に出していたようだった。
「あー、デウスエクスはとりあえず殴る! 感慨やら考察やらは皆に任せた!」
「適材適所と言うことね。……ええ、あの辛い日々の記憶をまた再び、呼び覚まさせはしないわ」
 翼を広げ、微笑みを絶やさぬ姫桜の隣では、相棒のボクスドラゴンであるシオンが、何処か哀しげな表情をした憩のウイングキャット――エイブラハムを慰めているようにも見える。と、それはさておき、姫桜の胸には過去の戦いで失った仲間との思い出が宿っており、護れなかった人たちのことは決して忘れないだろう。
「もう同じ過ちは繰り返したくないの。グラディウス、どうか私とシオンに力を貸して」
 ――過去の傷痕は消えない。けれど路は未来へと続き、物語もまた紡がれていくのだ。薔薇の如き美貌に、再び微笑みを灯すことを知ったハンナも、己の護るべきものの為に光の剣を取った。
「たとえ敵だとしても、傷つけて、ごめんなさい……。けれど、それでもわたしは」
 紅を切り裂くのは純白の翼であり、彼女の力が高まるにつれて、その身は淡い光の粒子を纏う。まもりたい、と――囁くように告げたハンナは、その手に握られた剣を振るうことを強く誓った。
「苦しみを、この星から退けたい……その覚悟は、できているわ」
「わたくしは名も無き刃……名も無き人々の為の刃。この地球を脅かす者を、わたくしは赦しません」
 夕陽に透ける金の髪を靡かせて、淑女然とした物腰に戦乙女たる矜持を抱くのはマリアンネ。全ての生命、全ての人生、全ての人の尊厳を穢させはしない――その想いを乗せた光剣の切っ先は、真っ直ぐに魔空回廊の障壁に狙いを定めていた。
「私はずっと飼い殺しにされた生を送っておりました。私が弱かったから……」
 ――まるで、これから戦いに赴くとは思えぬほどに。己を語る瑠架の所作はあくまでも優雅で、柔和な微笑みを浮かべるその姿は、彼が刃を握っていることを忘れさせてしまうかのよう。
「それ故に番犬となってからは強さを追い求め、強くなければ存在価値が無いと……強迫観念に苛まれておりました」
 ですが、とゆっくりとかぶりを振って先を続ける瑠架は、こうして素直に己の過去を口に出来る自分に――彼自身驚いていたのかもしれない。
「……居場所をくれる方々、想いが通じる方に出逢い、私は救われました」
 以前の瑠架ならばきっと、こんな言葉は出なかっただろう。自分は変わったのだと気づくと同時、この生を失くしてなどなるものかと、彼は強く思う。
「私に死ねない理由を与えてくれた方々に報いる為にも、ここは引けません――」
 唸る風の音に負けじと叫びながら、空を落ちていく――障壁に覆われた魔空回廊が徐々に視界を満たしていく中でも、不思議と心は穏やかだった。
「私は前へ進みます!」
 地上目掛けて降り注ぐ八つの光が、眩い輝きを放って魔空回廊の障壁を貫かんと迫る。着地のことなど考えずに、最大の威力で唯奈がグラディウスを叩きつけて――その隣では祈りを込めたハンナの光剣も、今まさに障壁を捉えた所だった。
(「……だいじょうぶ、ひとは強い。また、築いていける、信じてる」)
「この刃……グラディウスで、貴方達の暴虐に、今この時を以て終焉を告げましょう!」
 光の翼をはばたかせるマリアンネの刃もまた、希望の光となるべく吸い込まれていって。そして、圧倒的な雷光と爆炎が辺り一帯に襲い掛かり、真昼のような輝きが地上を満たしていった――。

●鋼の魚と青白き騎手
 確かな手応えがあった、と誰もが感じていた。しかし、地上に着地した一行が目にしたものは、今なお存在する魔空回廊の姿だった。
「……流石に、一撃での破壊は難しいですか」
 力を解き放ったグラディウスに視線を落としてアルルカンが呟くが、回廊にダメージを与えたことは間違い無い。それに一度の降下で破壊出来なくとも、蓄積されたダメージは次に繋げることが出来る。
 ――どうやらグラディウスの衝撃による混乱で、魔空回廊を防衛する部隊は混乱している様子だ。それに乗じて一行が中枢を脱出したその時、砂煙をかき分けて精鋭の死神たちが姿を現した。
「来た、かっ……!」
 それは鋼の如き鱗を持つ怪魚――ネオスチルスと、唯奈と因縁浅からぬ青白き騎手だ。まるで黙示録の騎士のように青ざめた馬を駆る宿敵を認めて、唯奈の口調が荒々しさを増す。
「貴方も被害者なのでしょうけど、放っておくわけにはいかないのよ」
 無感情な死神のまなざしを真っ向から受け止めて、ミミックと共にコーデリアが迎撃態勢を取った。人々を護り命を失ったものが、死した後に人類の脅威として立ちはだかる――それを思うと複雑な気分だが、自分たちが出来るのは、確かな死を与えてやることだ。
「……今度こそ、誰にも邪魔されない安らかな眠りを」
 星辰の剣を翻して、コーデリアが大地を蹴る。その卓越した技量から放たれる一撃は、ネオスチルスに狙いを定めており――鋼の鱗が切り裂かれると同時、彼女のミミックも嬉々として獲物に喰らいついていった。
 ギイィィと怪魚が上げる軋んだ悲鳴に、何処か心地よさそうに耳を澄ませるのはアルルカン。強化された個体であれば存分に戦いを楽しめるだろうと微笑む彼は、ケモノの牙を携えて、姿なき歌声に合わせて無音の剣舞を披露していく。
「さあ、踊りましょう――付いてきて下さいね」
 幻想の花弁は白から黄へと色を変え、金銀花葬の舞が死神を死へと誘う。其処で更に動きを封じようと、ハンナが古代語による石化の呪を紡いでいき――一方の瑠架はどす黒く染まった刃を握りつつ、体術を織り交ぜて怪魚を炎で包んでいった。
(「己が斬り殺してきた者達の怨念……己へ向けられた恨み辛みすら力として、利用してみせましょう」)
 ――例えそれが外法と呼ばれるものであろうと、瑠架は躊躇いなどしない。そんな中で火の粉を巻き上げながらもネオスチルスが迫り、青白き騎手は旋風の如き大剣の一薙ぎを繰り出すが、姫桜の散布する紙兵が仲間たちに加護を与えていく。
「どうか護って、私の大切な仲間たちを」
 更にマリアンネのうたう寂寞の調べが、魂を呼び寄せ破剣の力をもたらして。勇猛さと慈悲の心を併せ持つ乙女は、不死に終焉を告げるべく高らかに名乗りをあげた。
「わたくしは、霧夜のジェーンドゥ。魂の一片までもこの星と、そこに在る命に捧げた者なれば」
 ならばわが身は、この星の全てを守るためにここに在るのだと――マリアンネのその言葉に応えるように、周囲の地形を利用した唯奈の跳弾が、怪魚の死角を貫こうと迫る。
「――ハッ、雑魚が」
 そして憩は言霊の力で思考を侵して、敵を怒りに染め上げていった。自分を倒してみろと嘲笑いながら、振るう機械の腕は容易く袖を破ってしまったのだけれど。
「で、そっちの騎手は……イケメンか。イケメンなのか」
 と、青白き騎手を睨んでぶつぶつと呟く憩なのだが、敵は中性的な風貌をしているので定かではない――が、彼女はどうもイケメンに容赦が無いらしく、滅してやるだのと物騒な台詞が聞こえてくる。
「シオン、お願いね」
 その間にも死神たちは容赦なく襲い掛かり、傷ついた仲間たちの回復を頼むと、姫桜はサーヴァントへ激励を送った。しかし――撤退を前提とし、素早く敵を倒す為に攻撃を重視した布陣で、回復役を担うのがサーヴァント2体と言うのは心もとなかった。エイブラハムも羽ばたきで邪気を祓うことに集中しているものの、減退が生じて回復力が落ちている。
「これでは、此方が先に倒れかねないですね……」
 その為、攻撃を重視しようとしていたマリアンネも回復にまわらざるを得なくなり、それでも足りない時はコーデリアが光の蝶を舞わせて仲間を支えた。一方で、ネオスチルスは身動きを封じられつつも盾となり、怪魚に守られた騎手は苛烈な攻撃を繰り出して一行を追い詰めていく。
(「先に、騎手の攻撃へ何らかの対策をすべきでしたか……しかし」)
 怪魚の方はもう虫の息だと、刃を構える瑠架は禁呪を――魂纏の交霊術を行使しようと、禁忌の力を解き放った。その刃に降ろした怨念は鬼火として顕現し、獲物を追い詰めようと燃え広がるのだ。
「鬼火達よ、彼の者を黄泉路へ導いて差し上げなさい」
 ――鬼さんこちら、と笑い声が聞こえたと思ったその時には、ネオスチルスの肉体は灰になって宙へと溶けていた。

●あなたが望む世界
 残るは青白き騎手のみ――彼の宿敵に引導を渡そうと意気込む唯奈は、知らず前のめりになって無茶とも言える銃撃を浴びせていく。其処へ、極限まで精神を集中させた騎手が爆発を起こすが、庇いに入ったマリアンネは光翼を広げてその一撃を受け止めた。
「大丈夫ですか? どうか無理はなさらず」
 そんな、傷ついてなお気品に満ちた彼女の横をすり抜けて、雷の霊力を帯びたアルルカンの刃が、神速の勢いで騎手を貫く。守りが剥がれ落ちた其処へ振り下ろされたのは、重力を宿したコーデリアの剣だった。
「……貴方の手で、この戦いを終わらせて」
 出来れば彼女が止めをと、コーデリアの声に背中を押された唯奈は魔法の弾丸を放ち――その不思議な軌跡が騎手を追い詰めていく。けれど、その弾を受けても未だ死神は立ち上がり、速やかな死を与えようと此方に向かって来た。
「ね、いつか、あなたの願った世界を、わたしたちが叶えてみせるから……」
 可能なら、出来るだけ安らかに――祈りを込めてハンナが紡ぐ聖魔術は、氷輪の幻燈世界へと騎手を誘う。それは、天界の百合が咲き誇る紅き月の世界。其処に囚われた者は毒に蝕まれ、走馬燈に抱かれながら穏やかな眠りに導かれるのだ。
「いまは……やすんで、いいよ」
 睫毛を伏せるハンナの姿は、優しくも残酷な天の御使か――白薔薇の花弁が舞う中、こうして青白き騎手は安らぎに満ちた死を受け入れたのだった。

 ――魔空回廊を破壊しない限り、新たな死神が送り込まれる。しかし皆が挫けぬ限り、光の剣はいつか彼の地を解放に導くだろう。
 だから、とハンナは彼方に見える回廊を見据えて呟く。
「必ず、終わらせる……その日を待っていて……」

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。