ミッション破壊作戦~哮る烈破の音を聴け

作者:宇世真

「いよーう、おっつおっつー。クリスマスのアレ、ぶちのめしたんだってな!」
 『クリスマスのアレ』ことゴッドサンタを撃破したケルベロス達を陽気に労いながら、久々原・縞迩(縞々ヘリオライダー・en0128)はすこぶる笑顔で両手を広げた。
「伝えたい事があるんだ。まあ聞いてってくれ。あの時、ゴッドサンタを倒して手に入れた『グラディウス』の使い方が判ったぜ!」
 グラディウス――長さ70cm程の、『光る小剣型の兵器』である。
 判明したというその用途について、彼は表情豊かに続けた。
「残念ながら、普通の武器の様には使えねぇらしいんだな。代わりに、魔空回廊を攻撃して破壊する事ができるってぇ代物だ。時間経過で消失するそこらの魔空回廊なら、グラディウスを使うまでもないんだが、固定型の魔空回廊にはかなりの有効打になるだろうよ」
 特に、現在日本各地の『ミッション』拠点となっている、『強襲型魔空回廊』の破壊が可能になる為、デウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込む事ができるだろうと彼は言う。
「一回使うと、グラビティ・チェインを吸収してまた使える様になるまで、時間も相当掛かるらしいけどな。――だが、今回手に入れたグラディウスには『すぐに使用可能な物』が多数ある。そいつを使って一気に、ミッション地域を解放する『ミッション破壊作戦』を実行に移せるって訳だ」
 そこでケルベロスの皆の出番だ、と手を打ち、不敵な笑みを浮かべるヘリオライダー。
 グラディウスの力を利用して、ミッション地域をデウスエクスの手から取り戻して欲しい、と――。
「どの場所を攻撃するかは、皆の決断次第だ。情報をよく吟味して決めてくれ。俺は、皆の決定に従って飛ぶぜ」
 強襲型魔空回廊があるのはミッション地域の中枢とあって、通常の方法で辿りつくのは難しい。貴重なグラディウスを敵に奪われる危険性も孕んでいる為、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行う事になる。
「攻撃方法だが、件の魔空回廊を囲う半径30mのドーム型バリアに、グラディウスを触れさせれば良い。それで充分攻撃できる。降下しながらでもな。おまけに、ケルベロス8人、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使って攻撃を集中すりゃあ、一撃で強襲型魔空回廊を破壊する事だって不可能じゃないときた」
 また、一回の降下作戦で破壊できずとも、ダメージは蓄積するという。
「最大でも10回程度。ぶちかませば、確実に破壊できる筈だ。……周囲には強力な護衛戦力が居るが、グラディウスで攻撃した時に発生する雷光と爆炎は、グラディウスの所持者以外に無差別に襲い掛かるっつーから、防衛部隊が如何に精鋭であろうと、防ぎきれやしねぇよ。そん時に発生するスモークは、撤収時にも利用できるしな。あーつまり、降下作戦後はその煙幕に紛れて退散してくれって話な」
 今回の作戦では、重要兵器のグラディウスを持ち帰る事も目的の内に含まれている事を言い添えながら、勿論、各人の命には代えられないが、と、彼。
「もしもン時ゃ無事帰る事を第一に考えるんだぜ。ンな選択を迫られる事態に陥らない事を願うけどな」
 ややシニカルな笑みを浮かべて、続ける。
「魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波で、ある程度無力化できる。とはいえ、完全にって訳には行かない。それだけ手強い奴が居るって事で、ほぼ確実にその手合いとやり合う事になる。戦闘準備も怠らずにしっかりと、な。……奴ら、混乱して連携どころじゃないってのが救いだな。その間に、目の前の強敵を素早く倒して、離脱だ」
 確認する様にケルベロス一人一人に目を向ける縞迩の、笑みが一瞬消えていた。
 もしも、時間を掛けすぎて、脱出前に敵が態勢を整えてしまった場合は、降伏するか暴走して撤退するしか手が無くなるかもしれない。と、警句を発する真剣な眼差し。
「……で、だ。ミッション地域ごとに、出てくる敵の特色があったと思うんだが、攻撃ポイントを選ぶ参考になるんじゃないか?」
 そう言って、縞迩は「さて」とゼブラ柄のマフラーを口元に手繰り寄せた。
 浅い一息。
「デウスエクスの前線基地――ミッション地域は今も増え続けてる。侵攻を喰い止めるには、皆の力が必要だ。何より、強い気持ちと魂の叫びがな。その場で何度もやり直せる訳じゃねぇから、一撃に全てを乗せて根限りぶつけてやってくれ!」
 そして、弾ける余裕の笑顔で、彼は拳を軽く突き出したのだった。


参加者
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
北郷・千鶴(刀花・e00564)
鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)
野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)

■リプレイ

●空を駆ける
 耳元で風が唸る。自由落下に身を委ね、全身で気流を裂きながら、眼下へと一様に構える光る小剣『グラディウス』。デウスエクスの支配からこの地を解き放つべく降下作戦に臨むケルベロス達を、阻むかの様にも感じられる真っ向からの風圧を切っ先で制しつつ、彼らが魂を燃やす程にグラディウスはその輝きを増して行く。
 ――叫ぶ。
 誰からとなく。それぞれが、それぞれに。
「これ以上デウスエクスに侵略なんてさせないんだから。守りたい、守らなきゃって思える様になったから。全力で、力いっぱいにあなたたちを倒します!」
 それが出来るのはケルベロスだけだと、鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)はもう識っている。フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)は今日もハイテンション。
「私は私教絶対唯一の神様、フェクト・シュローダー! 人よ、地球よ、世界よ、私に力を! 神様に逆らう愚か者を断罪する力を! 神様は、ここにいる!!」 
 自ら神を名乗り、神様を目指す彼女の心には一切の迷いも曇りも無い。言葉の先に捉えているのは、神域を侵す重罪人たるデウスエクス。一方、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)は少々、頼りなさげな表情を浮かべていたが、複雑な事情を抱えているが故にか、その観点はフェクトとは別のベクトルで独特だった。
「リアルなんてクソゲーだ。でもボクはこのクソゲーを愛してる。他人に強制リセットされるなんて冗談じゃありません。八王子・東西南北は二次元と、二次元を支えるリアルが大好きだ!!」
(――ボクはこの世界を守る。まだ見てないアニメや漫画が沢山あるんだ!)
 彼の魂を震わせるのは、熱い二次元愛。
 護る為に在るのは北郷・千鶴(刀花・e00564)も同じ。研ぎ続けて来た己が剣と力、その技量だけでなく、抱く決意や想いも総て一点に集める彼女の、桜花戴く癖一つない長い黒髪が美しく中空に靡く。
「成すべきは一つ――彼の者達を退け、此の地の平穏を取り戻す。野望も回廊も、纏めて打ち砕いてみせましょう」
 声を張りはしないが、彼女の言葉の根底には『人々の日常や平穏を護りたい』という芯が強く在る。込める想いはそれぞれで在ろうとも、目指すものは唯一つ。
 ――強襲型魔空回廊を破壊する。
「あァ、ゾクゾクするぜ。この溜まりに溜まった憎しみをぶつけられると思うとな」
 ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)を衝き動かすのはデウスエクスへの怒りと恨み、そして仄暗い歓喜だった。
「テメェらみたいな輩がいなければ――俺はこの眼を失いはしなかった。何よりあいつは死ななかった。全部全部、奪ったのはテメェらだ。デウスエクス……お前らさえいなければ、俺は……ッ」
 傷跡走る地獄化した左眼を力強く見開き、グラディウスを振り被る。
「だから全てぶっ潰してやる。あァ、一人も残さず全員だ――!」
 その為に自分は猟犬として生きて来たのだと。
「侵攻の一端、地球にいくつ作るつもり? ひとは学ぶんだ。二度も三度も繰り返せるとおもわないでよねえ!」
 野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)にとって地球は、家族や友人を得た特別な場所。大好きなその場所を、蹂躙され続けているのを黙って見過ごす事など出来ない。
「さあ、わたしと勝負しよう! わたしが地球をたいせつに思う気持ちと、きみたちが母星を思う気持ち、どっちが強いのかを!」
「っていうか、そもそも螺旋忍軍なんかに場所明け渡せるかーー!!」
 螺旋忍軍は故郷の仇とばかりアリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)が、全力で叫んでグラディウスを思いっきり投げつけた。ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)はうっかり手を滑らせてしまわない様、しっかりと柄を握り込む剣捌きで、堅実に。何度も練習して来た通りに。それをおくびにも見せないさばけた表情で、緩く波打つ燃える様な長い髪を踊らせ、叫ぶ。
「ここは返してもらうわネ。守るものがあるのは強みよ。絶対負けられないんだから、皆倒させてもらうわ!」
 各々が心のままに発する言葉が、叩き付ける熱い魂の叫びが、烈破と化す。
 それは、かの地を硬く覆った鎧を剥ぎ取る力だ。
「――これはその為の一矢だ、遠慮なく受け取りやがれェェェ!!」
「貫けボクのグラディウス!!」
 ローデッドは復讐の為と哮り、東西南北はありったけの萌えを込めて叫んだ。
 ケルベロス達の『声』が重なり、八振りのグラディウスが放つ光が空を奔る。鳥取県米子市、強襲型魔空回廊めがけて。投擲、突撃、三者三様のスタイルで魔空回廊を覆うバリアを穿つ――斬り裂く、突き破る。雷光と爆炎が激しくうねり、切っ先は深く、深く――。

●説破、そして
 凄まじい閃光が彼らの視界を灼いた。
 バリアが粉々に砕け散り、砕片すら残さず吹き飛ばしたその衝撃波は魔空回廊を巻き込んで、更に爆裂。轟音が地空を揺らし、引き摺り出される様に内から膨れ上がった熱波が回廊を喰らい尽くし、爆煙に巻かれながら螺旋を描いて上空へと立ち昇る。波状の衝撃に揺さぶられ、抑えつけられる様に、ケルベロス達は着地した。
 爆風に煽られ、鳴動する大地の上でよろめきながらも何とか踏み止まり、辺りを窺う。
 一帯を覆う炎や煙は彼らが残した爪痕だ。
 もうもうと立ち込める砂煙のカーテンに遮られて視界は利かない。が。周辺から混乱の気配は伝わって来る。それは明らかに予想以上で、只事ではない空気。
 上首尾に、胸元で小さく拳を固めるイチカ。
「やっ……た!」
「ようし、それじゃあヒット&アウェイで……!」
 長居は無用とばかりに退散を口にする東西南北に、フェクトが待ったの声を上げた。
「グラディウス、回収しなくちゃね!」
 仲間達の分もアイテムポケットに分担して収納しつつフェクトと千鶴は、アリシスフェイルが投げた残り一振りの行方を探す。突然、瞬く間に魔空回廊を失うという重大事変にデウスエクス達は右往左往している。今の内だ。注意深く、迅速に。煙幕に紛れつつグラディウスを探す間、離れ離れにならない様ムジカが目を配り、二人を護る様にイチカも傍につく。
「――あ。あった。良かった」
 幸いすぐに見つかり、ほっとしながら足を速めて拾いに向かうフェクトと千鶴。周りを固める仲間達。フェクトの手が、グラディウスに触れるや否やという、その時――!
「ンだァ?!」
 逸早く察知したローデッドが、煙幕の向こうから飛んで来た何かを叩き落とした。
 白い、折り畳まれた書状の様な――表に何か書いてある。何とはなしに東西南北が拾って読み上げる。
「……『果たし状』?」
 内容は『殺』の一文字。文章を綴る猶予もなかったと見える、その筆致をちらと一瞥してローデッドは鼻で笑った。
「ハッ。送り主は、問うまでもねェやなァ」
「小笠原ヒロユキ――」
 と言っても、それが本体でない事は百も承知のアリシスフェイル。次の瞬間、音も立てずに飛び出して来た忍者番長が問答無用で斬り付けて来た。狙われたのは、果たし状を手にしていた東西南北。
「わ、わあ、ちょっと……っ」
 実に勘弁願いたい状況。だがこれは、ある意味チャンス、なのか――?
「貴様等の仕業だろう。よくもやってくれたな……!」
 凄まじい殺気と共に、怒りに燃える眼で小笠原が番長名乗りを上げれば、刀傷以上に心臓を直接掴まれたかの様な痛みが彼を襲う。
「さあ、まとめてかかってこい! 日本最強忍者番長の器を持つ男、小笠原ヒロユキが相手をしてやる」
 戦闘はやはり避けられない様だ。業の縁は断ってこそかとムジカはぽつり。
「出来れば会いたくなかったけれど、鉢合わせちゃった以上は、仕方ないわネ」

●闘破、忍者番長
 その眼に己と相通じる光が灯っているのを見て、ローデッドは嗤笑を禁じ得なかった。
「まるで手前ェの生き死に掛かってるみてェな顔だな。えェ? オイ」
 忍者番長は答えない。増援が期待できない状況下、単身で、喧嘩を吹っかけて来た彼はこの期に及んで己の野望を捨ててはいないらしいが、
「そんな少年漫画みたいな野望……――」
 絶対に阻止します、と言い切る前に口の中が乾ききっているのに気づいて、東西南北が生唾を呑む間に、番長の殺意はさらに育った様だ。事ここに至って彼がこちらを殺す気で来ている事は間違いなさそうだった。俄然、ローデッドの血肉も沸き躍るというものだ。
「ハッ、見ろよ。十年経とうがこの新鮮さだ、この憎悪は。今まで思うまま好き放題してきたテメェらに反撃出来る、それだけで願ったり叶ったりだ」
「前にも思ったんだけど、日本最強の番長って目指すトコちっさくない? 私は神様を目指してるんだから!」
 目指す高みの差を見ても明らかとフェクトは胸を張り、負ける理由はないと力強く踏み込んで行く。跳ねる蹴打に流星が煌めく様は、とりわけ彼女らしい。
「学び舎で頑張ってる人達の邪魔だし、学生である私から言っても番長とか邪魔」
 アイシスフェイルも煽りつつ、自らの装甲から放つオウガ粒子で自身と、同列の仲間の超感覚を呼び覚ます。光粒子の範囲外から飛び込み、イチカは稲妻纏う高速の突きを浴びせ、
「行こうハクアちゃん。いっしょに帰ろう!」
「だいじょうぶ、後ろはまかせて。ユキドリ達があなたを守ってあげる。さあ、頑張ろ?」
 ハクアがそれに応えて、カラフルな爆発で東西南北に更なる癒しを齎すと同時に、忍者番長へと競り合う様に前に出るムジカやローデッドらの能力を高めるアシスト。
 静かに構えていた千鶴が気付けば忍者番長の目と鼻の先。
「『静心なく――』」
 瞬く間に一太刀を奔らせていた。軌跡に桜花舞い散る『花嵐』。重ねて行くのは、綻ぶ花を追い、鳥が獲物を追う様に、軽やかに身を運ぶムジカの鮮麗なる蹴打。予定していた主軸に代わる『花鳥(鬼貫)』だが、威力を増している分、更に鮮烈だ。舞う様な彼女の蹴技を見ながら、東西南北も百節棍を繰り出して行く。体は軽く、異状もないが、心はどこか曇ったまま。学生時代の記憶というと中学生活の半ばまでで、それも彼にとっては楽しいものではなかった。故にか、忍者番長を見ていると複雑な思いも湧いて来るのだ。が――。
(「過去があるから今のボクがある」)
 今の彼は前向きだ。
「この想いは、ケルベロスの誇りは、決してアナタの野望に劣ったりしない!」
「オラオラ、花鳥に見惚れてっと燃え尽きちまうぜ!」
 続け様、地獄の焔を宿したエクスカリバールを全力で叩き付けるローデッド。
 炎の中、忍者番長が舌を打つ。指を鳴らせば、どこからともなく響く下校のチャイム。東西南北の心が拒否反応を示しかけるも身体の方は何ともない。
「くっ……」
 耳を塞いでも無駄だった。
 アリシスフェイルは破壊力の影響が自分の他に及んでいないのを確認すると、仲間達の視線に平気だと応え、己に纏わりつく音を振り払う様に刃を構えて突進。神速の突きは雷帯びて忍者番長の服を裂き、更にフェクトが放った雷がその身の自由を奪う。間髪入れずケルベロス達が畳みかける高火力の攻撃を、踏み止まって耐え切る不敵な笑み。退がっても半身。一方が距離を取れば一方が迫り、その攻防が幾度続いただろうか。

 双方譲らず、互いに肩で息をする。まだ、煙幕の覆いは晴れてはいないが、それが無限に続く訳でもなければ、このままやり合っていて良い方向へは向かうまい。
「何をざわついてる? 安心しろ、勝つのはこの俺様だ!!」
 烈しく立ち昇るオーラを背に学ランを靡かせる堂々たる姿に、フェクトが喰ってかかる。
「何言ってるの、勝つのは私達なんだよ!」
 全員が同じ気持ちだった。負ける訳には、譲る訳には行かない。だが、敵もさるもの。この執拗な迄の粘り強さは、単にこの一帯を仕切る強敵であるという以上に――。
「――!」
 予感があった。
「ドラゴンくん、お願いね……!」
 己のサーヴァントに指示を出しながら、ハクアは宙に手を翳して瞬き一つ。解放された魔力は、糸を生み、欠片を生じ、数多の白い小鳥を創る。飛び立つ後には仲間達に力と加護を齎す白い雪が舞う。
(「ああ――でも……」)
 祈る様にハクアは見遣る。彼女のボクスドラゴンと共に走るイチカが固めた拳も、その先を行くフェクトが振り上げたロッドも、星座の力を刃に乗せんと構える千鶴の挙動も、目的は皆同じ。忍者番長が自らに施した強化を打ち砕かんとして肉薄する。彼女達には見向きもせずに踏み込んで来る敵を、アリシスフェイルが『翅餞-mane-』と『翅餞-nox-』の二刀で迎え撃つ。後方へ跳び、距離を稼ぎつつ。
「逃がさないわ」
 白雪が齎した癒しは今の彼女には微々たるもの。それでも最後の一太刀で奴の身体を斬り捨てる事が出来るなら。呼吸もその一瞬は鎮まってくれる。
「忍者番長たる俺の刃下に従うなら、ライバルと認めてやる!」
 宣言と共に振るわれる日本刀。穿たれて尚、強力な一撃である事は判っている。
 どの道生かしておく気はないらしいが、彼女とてそれは同じ。
「ライバルかどうかなんてどうでもいい。私はあなたを見逃せないだけ」
 刹那、刃が交錯する。
 庇うには距離がある。間に合わない、と蒼白になる東西南北を他所に、ローデッドは生命の灯となる青い炎を喚んだ。
「『尽きるには未だ――』」
 ――舌打ち。青い炎の尾を握り締める。届いた、けれど間に合わない。空間ごと両断された小笠原ヒロユキの幻影分身は崩れ落ち、刃を受けたアリシスフェイルも膝を折った。
 ムジカが慌てて駆け寄り、彼女の身体を支える。
「アリシス! しっかり!」
「ムジカ……怒ってるの?」
 強い語調に身じろぎながら、か細く尋ねて来る彼女に、ムジカは「怒ってない!」とまた強めの一言。皆で帰らなくてはとの思いがそのまま表れているだけだ。
「おわった、の?」
 再び細い問いかけ。はっとして、見遣る。
 忍者番長の身体はもうどこにも見当たらなかった。あの後すぐに消えてしまったらしい。彼の最期の場所で千鶴が頭を振っている。だが、分身とはいえ、撃破したのは間違いない。
「――いずれは必ず、根源から絶ってみせましょう」
 呟く彼女の傍、複雑な表情で佇む東西南北。何かを言いかけ、結局違う事に触れた。
「彼女のグラディウスは」
 千鶴はアイテムポケットを示して見せた。回収済み。なら一安心と和らぐ表情。

●凱旋
「一気に抜けるぞ」
 時間の経過で薄れつつある煙幕。
 これ以上留まるのは危険と判断したローデッドが、撤退の先陣を切る。逃げる方向は、降下前に確認できた地形情報からざっくりと決めていた。後は現状から本能的にルートを見極め、追撃の手が掠める余地を残さず一息に駆け抜けるだけ。かくして、東西南北が申し訳程度に発煙筒でスモークをちょい足ししつつ、全員揃ってその場を離脱したのだった。

作者:宇世真 重傷:アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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