ミッション破壊作戦~反撃の光剣

作者:そうすけ


 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は満面の笑顔でケルベロスたちを出迎えた。
「ゴッドサンタの撃破、おめでとう。みんなのおかげで、今年も日本中がクリスマスを安全かつ楽しく過ごせたんじゃないかな。ありがとう」
 ご機嫌なまま、それでね、と手を打ち合わせる。
「ゴッドサンタを撃破して手に入れた『グラディウス』の使い方が判ったよ。グラディウスは魔空回廊を破壊することができるんだ」
 『グラディウス』は、攻撃時に雷光と爆炎を発生させる、長さ70cm程の『光る小剣型の兵器』だ。だが、残念なことに、通常の武器としては使用できない。
「普通に現れる魔空回廊は、時間がたてば消えちゃうから壊すまでもないけど、グラディウスは固定型の魔空回廊の破壊に使える。特に、現在日本各地の『ミッション』の拠点となっている、『強襲型魔空回廊』を破壊できる点は大きいよね」
 『強襲型魔空回廊』を破壊できれば、デウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込むことができる。
 これはチャンスだ。
「ただ、ちょっと欠点が……グラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再び使用できるようになるまで、かなりの時間がかかってしまうみたいなんだ」
 しかし、今回ゴッドサンタの撃破によって入手したグラディウスには『すぐに使用可能な物』が多数あった。それゆえ、急ぎミッション地域を解放する『ミッション破壊作戦』を行うことになったのだ。
「今年最後の大仕事だよ。この期を逃さず、グラディウスの力を利用して、ミッション地域をデウスエクスの手から取り戻そう!」
 新たな戦いに向けて高揚感をみなぎらせながら、ゼノはどの場所のミッションを攻撃するかはケルベロスたちの決断に従う、といった。
「全作戦共通の説明を良く確認して、どこを攻撃するか決めて欲しい」
 強襲型魔空回廊がある場所は、ミッション地域の中枢となる為、通常の方法で辿りつくのは難しい。
 場合によっては、敵に貴重なグラディウスを奪われる危険もあるため、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行う。
「高空からの降下であっても、充分に攻撃が可能なんだ。強襲型魔空回廊の周囲は半径30mドーム型のバリアで囲われているよ。このバリアにグラディウスを触れさせればいいから」
 8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊する事すら可能だ。
「一回の降下作戦で破壊できなくても大丈夫。ダメージは蓄積するから、最大でも10回ほど降下作戦を行えば、強襲型魔空回廊を確実に破壊する事ができるよ」
 強襲型魔空回廊の周囲には強力な護衛戦力が存在するが、高高度からの降下攻撃を防ぐ事はできない。
 攻撃時にグラディウスが発する雷光と爆炎は、所持者以外に無差別に襲いかかるため、強襲型魔空回廊の防衛を担っている精鋭部隊であっても防防げないだろう。
「雷光と爆炎が起こすスモークを利用して撤退するといいよ。もちろん、貴重な武器であるグラディウスは持ち帰ってきてね」
 魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波である程度無力化できるだろう。
 が、完全に無力化する事は出来ないので、強力な敵との戦闘は免れない。
「突然の襲撃で混乱する敵がうまく連携をとって攻撃をしてくる事はないと思う。着地したら、素早く目の前の強敵を倒して撤退してね。離脱までに時間をかけすぎると、敵が反撃の態勢を整えてしまうよ。そうなったら、降伏するか暴走して撤退するしか手が無くなるかも……」
 ヘリオライダーは、そんなことにはなってほしくない、と目蓋を伏せた。
「強敵との戦いは必ず発生すると思って、準備を整えてほしい。ミッション地域ごとに現れる敵の特色が異なるので、場所を決めるときには戦う敵のことも考えて選んでね。みんななら大丈夫、やり遂げてくれると信じているよ」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
上月・紫緒(テンプティマイソロジー・e01167)
大神・凛(剣客・e01645)
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
伊佐・心遙(ポケットに入れた飛行機雲・e11765)
ヨエル・ラトヴァラ(白き極光・e15162)

■リプレイ


 ヘリオンが大きく旋回して、窓から差し込む光の方向が変わった。開いたドアから、七色の光放つ強襲型魔空回廊が見える。
「今度はこっちからよ! みんな、わたしの後に続いて!」
 勇ましくも先陣を切って飛び出したのは、氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)だ。
 風を受けて落ちながら、グラディウスを握る手に力をこめる。
(「今までどれだけのドラゴニアンの命を奪ってきたっていうの? ここを破壊してあなた達にも奪われるって事を教えてあげるわ」)
 かぐらには魔空回廊の表面で渦巻く光色が、ドラゴニアンたちの無念の情のように思えてならなかった。
 あれは壊さなくてはならない。必ず。
「まさか、高高度からの作戦になるとはな。いくぜ、ヴィヴィアン」
 吹き込んでくる風に飛ばされまいと、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は左手で帽子を押さえた。右腕を伸ばして最愛の人の腰をぐっと抱き寄せる。
 ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)は素直に恋人の腕の中に身を置くと、ひし、としがみついた。
 怖いか、という問いかけに首を小さく振って答える。
「大丈夫、怖いわけじゃないよ。鬼人が一緒だからすごく心強い。みんなで力を合わせて、絶対に作戦を成功させようね!」
 微笑みとともに見上げると、体を離して腕に腕を絡ませた。
「ああ、俺達が最後だからな。ここで破壊しなきゃ、な」
 飛べ、という掛け声と同時に、ふたりは空へ吸い込まれていった。
 すぐ後を追って、薄く色づいた藤の花が流れるような毛並みのボクスドラゴン、アネリーも飛び出していく。
「ある意味クリスマスプレゼントだったんですかね……」
 誰に話しかけるでもなく、空にを流れる雲に目をやって、ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)は呟いた。
 ゴットサンタ撃破はつい先日の事だ。デウスエクス勢にとっては悪夢、地球人にとっては希望。ゴットサンタの死は結果的に、とてつもない可能性を秘めた武器を地球側に落とした。
「このグラディウスの力で長く苦しめられてきた人々の為にも、強襲型魔空回廊、必ずや破壊して見せましょう」
 空へ飛び出した刹那、勇気をくれる愛しいあの子の笑顔がギルボークの脳裏に浮かんだ。
 複数の異なる時の波が重なってできている魔空回廊は、表面近くの時と内面深くの時が互いに干渉しあって光を放っている。
 上月・紫緒(テンプティマイソロジー・e01167)はダメージを受けて歪み、うねる、醜くも美しい光景にキスを投げ落とした。
(「狂っているのはわかっている。けど今は狂っていないと戦えない」)
 鼻歌まじりに腕に目立つ色の布を巻く。
 ――赤は情熱の赤、飛び散る血と砕け散る愛の色♪
 連続して行われたケルベロスの強襲作戦によって、いまや魔空回廊は軋みをあげ、ヒビ割れに時の果てたる漆黒を覗かせていた。あともう少しで砕け散るという予感がある。
 それでも危険は潜在しているのであり、現実に起ってくるのだが、紫緒は危険もゲ—ムのうちとうそぶいてみせた。
 ――私の愛を、憎しみを、受けきって♪
 手にしたグラディウスに口づけてると、歌いながらヘリオから飛び出した。
「よーし、じゃあ、三人と一台? ……で、一緒に行くよ!」
 伊佐・心遙(ポケットに入れた飛行機雲・e11765)は翼を広げて体を浮かせると、赤い布を巻きつけた左腕を伸ばして、ライドキャリバーのライトにまたがる大神・凛(剣客・e01645)の肩を掴んだ。
 反対側では、やはりヨエル・ラトヴァラ(白き極光・e15162)が翼を広げ、赤い布を巻いた右手を凛の肩に乗せている。
「僕たちが作戦最後の最後です。デウスエクスがこれ以上地球で好き勝手出来ないように、確実に破壊してしまいましょう」
 ヨエルの宣言に心遙が高くグラディウスを掲げて応える。
「うん。ここで確実にミッション破壊しておきたい……ううん、絶対破壊してみせるっ。思いっきりグラディウスを叩き込むよ!」
 凛は腰を上げて、全力でライトの発進ペダルを踏みこんだ。エンジンがかかる。
 オラトリオたちの意気込みに感化されて、ライトが低く重いエンジン音を響かせた。
 そのまま空に向かって開かれたドアの前にゆっくり進む。
「ライト、今日もよろしくな」
 クラッチをはずすと、ライトは轟音を上げて発進した。
 

 強烈な風圧を魂の叫びで切り払い、かぐらはグングンと迫ってくる魔空回廊を睨みつけた。
 両手でしっかりと握りしめたグラディウスを雄叫びとともに突き出す。
 それまで体を天に押し返すかのように吹きあげていた風が、今度は逆に、目に見えぬ無数の手となって両腕を支える。あたかも、デウスエクスらに犠牲を強いられ、命を落とした同胞たちが風に姿を変えて応援してくれているかのようだ。
 怒りと恨みを込めて撃ち込んだ一撃は、虹色の膜に突き刺さり、四方に光を迸らせた。ガードまで深々と刺さったグラディウスを引き抜くと、黒い裂け目が広がった。
「いける! いけるぞ!」
 地上に降り立つと、赤い布が巻かれた腕を大きく振って、後続に攻撃を促した。
「ヴィヴィアン、俺たちも続くぜ!」
「はい!」
 鬼人とヴィヴィアンは二人同時にグラディウスを差し出して、気迫で膨れ上がらせた破邪の光を重ねた。
「これ以上みんなを苦しめるのは、絶対許さないから! この一撃は、あたしたちの思いのこもった一撃だよ!」
 二振りの短剣が、愛の力で一振りの大剣となって振り抜かれた。
『我流剣術、鬼ぃッ!砕きぃッ! 如何なる強固な守りもぶち抜くのが、この技だ! 食らいやがれぇぇぇ!』
 一撃、二撃、三連撃! 
 黒い亀裂が大きく広がり、強襲魔空回廊を穿つ虚無の穴となる。
 砕けた魔空回廊の壁が、七色に波打つ時の破片となって舞い上がる中を、漆黒の翼を広げた紫緒が、螺旋を描きながら落ちていく。
 ――私の言葉は愛の歌。私は全てを愛します。この目に映るすべてを♪
 たとえそれが、この地球に死と恐怖をまき散らして来たデウスエクスの道具であったとしても。
(「だから……」)
 ――私の愛を、私のすべてを。この魂の全てを捧げて受け止めて♪
 紫緒はグラディウスが魔空回廊に突き刺さると、手首を鋭くひねって時の壁を抉った。にぃっと笑って、突き刺した短剣から狂気に満ちた愛を注ぎ込む。
「あは。感じたら、壊れてね」
 魔空回廊が暗く瞬き、木々を時の流れで刈り取りながら、のたうった。 ピシ、ピシとひび割れの音がたつ。
 ギルボークは死んでいった同胞たちの無念を思い、俄然、グラディウスを握る手に力が入った。
「ここから二度と、同胞のドラゴニアンたちを襲わせに行かせませんよ。奪われた鱗は必ずや取り戻し、あるべき場所へと帰してみせましょう!」
 いまここで、グラビーチェリの逃げ道を断つ。
「おぉぉっ!!」
 ギルボークがグラディウスを突き入れると、魔空回廊は柔軟性を失って小さく縮んだ。時の波を束ね、急速に落ちていく光を取り戻そうとする。
 ――が。
「グラディウス、確かに戦略兵器と呼ぶべき武器ですね」
 魔空回廊から吹きだすはげしい風のつぶやきの中にはっきりと、バリバリと時が割れる音がきこえてきた。どんどんひび割れていく。
「しかも再利用可能とは便利な……。必ず持ち帰り、いつかこれが必要なくなる時まで、戦い続けてもらわなくては」
 ギルボークはグラディウスをケルベロスコートの内にしっかりとしまい込むと、魔空回廊の奥からやってくる影に一瞥をくれた。
 デウスエクスだ。影は骨剣を手にしている。
(「グラビーチェリ……出てきたか」)
 とりあえずは先に降り立った仲間たちとの合流が先決だ。これまでに集められた情報から、一人で戦える相手ではないことは判っている。
 いま、魔空回廊の周りには警備兵がいない。先行して魔空回廊にダメージを与えたチームを追っているのだろう。これはチャンスだ。
 赤い布を腕から解いて手に持つと、やはり赤い布を頼りに仲間の姿を探した。
 グラビーチェリがちょうど魔空回廊の口に達したとき、告死の翼と破滅の翼を得た地獄の騎士が、轟音を響かせながら天より駆けくだってきた。
「いっけぇっ、消えてなくなっちゃえーっ!」
 気合満点の心遙が、左から崩壊間近の魔空回廊に全力でグラディウスを叩き込む。
「僕たちの先祖、デウスエクス・オラトリオたちの想い。それから僕の大切な人たちを護る為にも……砕け散れ!!」
 胸を突きあげる万感の思いを光る刃に込めて、ヨエルが流星の一撃を右側から魔空回廊に叩き込む。
「今こそ、私達の思いを力に変えて道を開かん! この一撃が勝利の一柱になることを! 大神凛、参る!!」
 大地に立ったグラビーチェリが天を仰ぐ。
 ドラグナーが吹きあげた炎の吐息を、ライトの車輪が轢き跳ね、心遙とヨエルの翼が起こした風が散り散りにして飛ばす。
 凛はライトから腰を上げて立ち上がると、魔空回廊に反撃の光剣、最後の一撃を撃ち込んだ。
 
 突然、大崩壊はやってきた。
 
 魔空回廊の内部は壁面といわず、天井といわず、いたるところで稲妻形の黒い亀裂がぶきみな口をあけ、断末魔の叫びをあげていた。
 輪郭が下から崩れ始めると、魔空回廊を形作っていた光の帯がひときわ鮮やかになった。
 回廊の彼方より放たれる時のオーロラが音をたてて砕け、虹をまき散らしながら周囲から熱を奪っていく。
 崩壊の衝撃波が周囲の木々を根から持ち上げ吹き飛ばした。大地が大きく震えてすさまじい岩なだれが起こる。
 ケルベロスたちは高台に集まって、強襲魔空回廊の最後を見守った。
  

 大地に深々とえぐられたクレーター状の大穴を見やり、かぐらは高らかに快裁の叫びを上げた。
 穴の内部に視線を落とせば、もはや何もかも、あとかたもない。崩壊の超低温にさらされて凍てついた、何かしらの細かな残骸が散らばっているだけである。
「やったね!」
「やったな!」
 鬼人とヴィヴィアンは笑い声をあげて抱き合った。
 幸せそうなカップルの横で、紫緒も至福の溜息をもらす。
 心遙とヨエルは跳びあがると、空中でハイタッチした。
「どうやら、喜ぶのは少し早いようですよ」
 ギルボークは唇をかんだ。
 凛はライトから降りると、愛刀黒楼丸を鞘から抜きだした。
「やれやれ。てっきり魔空回廊と一緒に消えたものと――」
 グラビーチェリの怒りに膨れ上がった右腕が鋭く薙がれた。
 崩れて赤ちゃけた土肌と黒ずんだ岩肌が段だら状の模様を見せる崖に、骨剣が深く切り込み、土をえぐり取る。
 刹那、ケルベロスたちの足元から大地が消えた。
「腕を離すなよ、ヴィヴィアン!」
 鬼人は恋人をエアライドで抱きかかえて降りた。
 土埃が忌むべき敵との間に幕を張る。一刻の猶予を得たケルベロスたちは、着地するなり次々と武器を抜き放った。
 かぐらはヒールドローンを放つと、前衛の警護につかせた。
「さて……直接の恨みはありませんが、その所業を聞いているからにはここで見過ごす訳には行きますまい。きっちり倒してから帰るとしましょうか」
 ギルボークが炎の吐息の下をかいくぐり、打って出た。
 いざ、七天抜刀術の露と消えるがいい!
『天権の貫き、空を駆ける!』
 霊力を帯びた斬霊刀から放たれた斬撃が、竜牙飾りを落としてグラビーチェリの胸を切り裂く。
「お、おぉぉ! おのれ、ケルベロス!! 重力に繋がれた駄犬が!」
 ドラグナーは白熱した怒りを全身で放ち、大勢のドラゴニアンから簒奪した鱗を震わせた。
 回復を果たした体が一回り大きくなる。
 グラビーチェリは足の指をしっかりと土に食い込ませると、肺いっぱいに空を吸い込んだ。
「グラビティチェインを残して死ね!!」
 吐き出された吐息が燃える龍となって、ケルベロスたちに襲い掛かる。
「敵からの威嚇は全て刀で打ち払って、恋人を護る。ちっぽけな事かもしれねぇが、恋人の前でみっともない姿を見せる訳にゃいけねぇんだ!」
 守らねばならぬ大切な存在を背の後ろに置いて、鬼人が地を駆ける。気合いとともに飛びあがると、地獄の炎を纏った日本刀、越後守国儔を大上段から振り下ろす。
 刃は左のホーンを切り落とし、ドラゴンの骨で作られた肩当てを叩き割った。そのまま肩に食い込んでグラビーチェリに片膝を突かせた。
 ずん、と大地が揺れる。
「こ、この程度……なめるな!」
「ぐふっ?!」
 グラビーチェリは重力の鬼と呼ばれる男の腹に、竜骨の刃を突き刺した。
 背から飛び出た骨剣の先を見て、ヴィヴィアンが悲鳴をあげる。
 鬼人は足で傷を負ったグラビーチェリの胸を強くけって、剣を体から引き抜かせた。腹に腕を回し、よたよたとよろめきながら後ろへさがる。
「鬼人、治してあげる!」
 体から自然と深い愛情が溢れでて桃色の霧になり、恋人の体を包み込んだ。
 アネリーも慈愛に満ちた藤色の風を送る。
 追撃しようとしたドラグナーを、地獄の炎で黒々と燃え上る羽の群舞が阻む。
『私の翼、私の炎で、アナタを引き裂くよ♪』
 紫緒の声は美しく響き、グラビーチェリを囲む景色の色を確実に変えた。
 鱗に覆われていない皮膚をに羽の根がいくつも突き刺さり、黒い炎で青白い肌を焼き焦がす。
「これは私が届ける愛と憎しみの恋文♪」
 濃い煙に包まれて視界を閉ざされてしまったグラビーチェリが、闇雲に骨剣を振るう。
 すかさず、かぐらと凛が前に出て、下るクラッシャーたちを凶刃から守った。
 ゾディアックソードを巧みに繰って剣を受け流しながら、かぐらは冷静に頭をフル回転させ、敵の体を守る防具の構造的弱点を探った。
「そこっ!!」
 アームドフォートに持たせたグラディウスで弱点を突く。
 纏っていた防具が弾ける衝撃で、肌につけていた鱗――ドラゴニアンたちから奪い取った――が幾枚も落ちる。
 これでもう、回復できまい。
「伊佐、あいつの動きを止めて! 一気に片をつける!」
 了解、とかぐらに応えると、心遙はにっこり笑って色とりどりのドロップスを真っ黒に汚れたグラビーチェリの頭上に複数出現させた。
『あまーい爆弾はいかが? 3、2、1……ゼロっ!』
 たくさんのドロップスが一気に破裂し、痺れを含む色とりどりの破片となって降り注いだ。肌の熱で溶けたドロップスが、色の尾引きながら黒く煤けた胸を滑り落ちる。
 痺れが全身に及んで動きが阻害される前に、グラビーチェリは最後の悪あがきをした。熱く燃え上がる妄執の念を吐息にしてまき散らす。
「ああ……なんと醜悪な。どうか、もう動かないで下さい。この世界を汚さないで」
 ヨエルは聖なる光翼を広げた。翼から放たれる光が大きく膨れ上がり、鎌鼬のように変形しながら敵を包み込む。
『Viikatemies Scythe』
 ヨエルの体が優雅に回転する。
 光で作られた死神の鎌が、グラビーチェリの首を切り飛ばした。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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