ミッション破壊作戦~ブリッツクリーク

作者:黒塚婁

●ミッション破壊作戦
「まずはゴッドサンタの撃破、見事であった――そして、手に入れた『グラディウス』の使い方が判明したので報告と……次の作戦の説明をする」
 雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)のケルベロス達を見やり、そう告げた。
 『グラディウス』は長さ七十センチ程の『光る小剣型の兵器』だが、通常の武器としては使用できぬ――破壊できるのは、魔空回廊。
「通常、魔空回廊は時間経過で消失するゆえ、わざわざ破壊する必要は無い。だが固定型であれば有効だ。例えば日本各地にある『ミッション』の拠点たる『強襲型魔空回廊』を破壊すれば、デウスエクスの地上侵攻を食い止めることができるだろう」
 グラディウスは一度使用すると再使用までかなりの時間がかかるようだが、今回手に入れたものは『すぐに使用可能な物』が多数あった――よって、これを利用し、ミッション地域を解放する『ミッション破壊作戦』を行うことになった、ということだ。
「どの場所を攻撃するかは、貴様らに委ねられている。作戦概要を確認した上で決断せよ」
 一度辰砂は言葉を切ると、僅かに目を細めてケルベロス達の様子を見、再び続ける。
 
 強襲型魔空回廊があるのは、ミッション地域の中枢となる為、通常の方法で辿りつくのは難しい。
 場合によっては敵に貴重なグラディウスを奪われる危険もあるため、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行う。
 強襲型魔空回廊の周囲は半径三十メートルドーム型のバリアで囲われており、これを破壊するのだ。
 その方法であるが、バリアにグラディウスを『ケルベロス達がグラビティを高めた状態』で触れさせればよい。
 八人のケルベロスがグラビティを極限まで高めた状態ならば、場合によっては一撃で破壊することも可能である――が、一回の降下作戦で破壊できずともダメージは蓄積するため、最大でも十回程度降下作戦を行えば確実に破壊できるだろう。
 強襲型魔空回廊の周囲に強力な護衛戦力が存在していようと、この高高度からの降下攻撃を防ぐことはできない。
「グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させ、これはグラディウス所持者以外に無差別に襲いかかる。よって、強襲型魔空回廊の防衛を担っている精鋭部隊であっても防ぐ手段はない、ということだ。貴様らはバリアにダメージを加えた後、この雷光と爆炎で発生するスモークを利用し、その場から撤退してもらう」
 そう、本格的な戦闘が発生するのは地上に降りた後だ。
 魔空回廊の護衛部隊はグラディウスの攻撃の余波である程度無力化できるものの、完全に無力化する事は不可能だ――強力な敵との戦闘は免れぬ。
 幸い、混乱する敵が連携をとって攻撃を行ってくる事はないが――素早く撤退出来なかった場合、降伏か、暴走して撤退するか――ということになる。
 どんな敵と交戦することになるかは、地域によって異なる。
「現れる敵の特色も踏まえ、攻撃する場所を選ぶときの参考にするのがよかろう」
 辰砂は淡々と告げ、再度、ケルベロス達を見る。
「バリアの破壊までは容易な作戦だ。問題はその後だろう……完全な勝利となるかどうかは、貴様ら次第ということだ」
 ――貴重な武器を奪われず持ち帰る事も重要な任務であると心得よ、彼はそう付け足し、説明を終えた。


参加者
毒島・漆(咎人狩り・e01815)
クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)
ミリム・ウィアテスト(天誓騎士・e07815)
イルリカ・アイアリス(虹の願い・e08690)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)
ソル・ログナー(希望双星・e14612)
ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400)
アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)

■リプレイ

●魂の一撃
 山口県下関市は関門トンネル上空。
 ヘリオンから双眼鏡で目的地を見下ろすは、ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400)――空から、戦場を改めて確認していた。
 撤退時にどの方角を目指すべきか、予め頭に入れてはあるが、具体的にどのポイントに降下することになるかがわからぬ。
 それでも出来る限りのことを――彼女は双眼鏡を持つ手が強ばるのを感じつつ、静かに頷く。
 いよいよか、毒島・漆(咎人狩り・e01815)は煙草を咥え、グラビティを練り上げつつ、少し視線を上げる。
 視線の先にいるソル・ログナー(希望双星・e14612)は、黙り、じっと手にしたグラディウスを見つめていた。
「ソルにぃ……」
 イルリカ・アイアリス(虹の願い・e08690)は兄と慕う彼に何か声をかけねばと思ったものの、言葉が浮かばない。その肩を南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)がぽんと優しく触れる。
「集中させてあげよう?」
 彼女の言葉に、横にいるクライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)が深く頷く。
 落ち着いた彼女の近くで揺れるふさふさの黒い尻尾。
「アーニャさんは月喰島の探索以来ぶりだね。頼りにしてるよ!」
 ミリム・ウィアテスト(天誓騎士・e07815)は黒い耳をぴょこぴょこと動かし、嬉しそうにアーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)へと声をかける。
「はい、今日はみんな一緒で……心強いです」
 抱いている相棒のティナの喉を撫でつつ、彼女も微笑んだ。
 同時にその青い瞳に宿るのは、親しい者達を絶対に守るという決意であると気づき、イルリカは一度瞑目し、静かに深呼吸する。
 ――みなさんと一緒ならきっと大丈夫、と。
「さてと……準備はいいですか? ――行くぞ」
 見計らったように声をかけたのは、漆だった。
 強い声音で促しながら、グラディウスを逆手に持ち替え、宙へと跳んだ。
 間を置かず、次々とケルベロス達が後に続く。
 波打つ銀の髪を風に靡かせ、夢姫は一気に発する。
「デウスエクスにより失われた全ての命のために……! そして、生活を脅かされ苦しまされている全ての人々のために……! この魔空回廊を破壊させてもらいます!」
 姉と慕う人の声に続き、イルリカは真っ直ぐ結界を見据える――否、その先に待つであろうデウスエクスを。
(「死者を生き返らせて、利用する……そんな生きた意味を、生きている人を冒涜するようなことが許されるはずがない」)
 そして、何より。
「大切な人を傷つけたあなたを、わたしは許さない……!」
 思いを練り上げ、グラディウスに籠める。
(「デウスエクスに苦しむ人々に死――そんな理不尽はもう見たくないし見飽きたんだ……で、何故ここに来たって?」)
 そうだ、風に黒髪を靡かせ、ミリムは叫ぶ。
「目に映る人を救う為だ! 平穏な日常を得たい為だ! ボクを友と認めてくれた者の力になりたいが為だ! ――死を振りかざす侵略者を自由にはさせない!」
 羽ばたきながらついてくるティナに見守れ、アーニャも強くグラディウスを握りしめた。
「あなたたちの思い通りにはさせません! これ以上の侵攻をさせない為にもここで破壊します……! 私たちが世界を守る、守る為ならどんな力だって使う! いつか来る平和の為に私は戦う……!」
 皆の叫びに負けじと、ザフィリアは迫る結界を強く見据えた。
(「使命に背いた姉を手に掛け、姉妹の絆は砕けて散った。ですが、約束しました。残る姉妹達で、お互いを守らんと。ええ、ですから――幻想だと分かっていても…あの日の誓いだけは、守ってみせます――たとえ、全てを失ってもッ!」)
 思いを高めていけば、決して愉快なものではないかつての出来事が蘇ってくる――だが、だからこそ、その思いをここに集約する。
「もう、私達の様な姉妹を生み出さぬ為にも、この世界をデウスエクスの嘆き苦しみから守ると決めたッ!」
 強くそれが力を増していくのを感じつつ、銀縁眼鏡の向こう、黒い瞳を細めるは漆。
「敵は殺す……神は殺す……侵略者は……略奪者は……デウスエクスは鏖殺だ! まずはこの忌々しい魔空回廊をぶっ壊す! これ以上テメェらの好きにはさせねぇよ……砕け散れっ!」
 獰猛な叫び。合わせ、練り上げたグラビティを解放する。
「森羅万象を征し、一天四海を絶つッ!」
 瞑目していたクライスはかっと眼を開き、技の名を叫ぶ。
「天地開闢ッ!」
 そして、ここに至るまでじっと感情を抑えていたようなソルであったが――遂に、その思いを解放する。
「嗚呼、もう上っ面は止めだ。貴様だけは殺す、絶対に殺す! 家族も友も未来も奪われた過去を背負い、俺は来たぞ。此処からはケルベロスじゃねぇ! ただの"ソル・ログナー"として、貴様との因縁ブチ砕いてやっらァァァッ!!」
 この先に待ち受けるデウスエクスに向けて、ソルは吼えた。
 八つのグラディウスから放たれた雷光と爆炎が、結界とぶつかる――目も開けておられぬ閃光と、腕に走る衝撃――それは瞬く間に煙幕と化し、彼らの姿を包んだ。

●対峙
 ケルベロス達が降り立ったのは、トンネルにほど近い道路の上であった。空はまだグラディウスの生み出したスモークが立ちこめている。
「破壊はできませんでしたか……」
 空を見上げ、ザフィリアは僅かに瞳を曇らせた。だが、結果を惜しんでいる暇はない。
 結界に与えられた衝撃に招かれた守護者が凄まじい速度で迫ってくるのを、ケルベロス達は感じ取る。
「来たッ!」
 ソルの一声が向けられると同時、ケルベロス達の眼前を黒い疾風が薙いだ。
 ひと跳び退いた彼らの眼前にあるは、しなやかな動作で禍々しき形状をした大鎌を納め、構え直す女――ソウル・ディカスティス。
 女性らしい肢体、残酷さを隠さぬ笑みを浮かべ、サルベージしたデウスエクスを傀儡と呼び操る死神。
 その赤い瞳は冷ややかに、ケルベロス達を一瞥する。
「よもや、魔空回廊の破壊を試みるとは……このまま帰るつもりは……元よりなさそうだな」
 彼女の威圧感は既知のものより格段に上であった。だが、ケルベロス達は怯まない。
 その胸に輝くペンダントを睨み据え、ソルは徒手にて構える。
「俺を忘れたとはいわせねぇ……いや、忘れていようが関係ねぇ――貴様だけは殺す」
 死神の瞳に特別な感情はない――覚えているのかいないのか、あるいは思い当たることが多すぎるのか、読み取れぬ。
 攻撃の切っ掛けを探り、双方一瞬、凍えたように動きを止めた。
 先陣を切ったのはアーニャの相棒であるティナ――音も無く宙を駆け上がると、尻尾のリングを死神へと放つ。
 圧縮された時が動き出すように、ケルベロスは一気に攻め込んだ。
(「私は守る……」)
 誰も死なせたりしたくない、その思いを乗せアーニャは寂寞の調べを奏でた。
 彼女に呼ばれた魂を纏い、漆と夢姫はドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変じる。
 両腕の剣を翼のように広げたミリムが、一気に加速し距離を詰めるにあわせ、二人の砲撃が解放される。
 多方向より直線的に迫る攻撃を、正面から受け止めようと構えたソウル・ディカスティス――ミリムが叫ぶ。
「今だ! ソルさん!」
 彼女を飛び越えるように、頭上よりソルが蹴撃する。
 イルリカのブレイブマインを背に受けて加速した旋刃脚は、死神の腕を強か撃つ。
 死神を足蹴に、素早く距離を取ったところへ、滑り込む、脚を狙う緩やかな孤を描く斬撃。
「さて、足止めといかせてもらおうか?」
 束ねた白い髪が踊らせ、クライスが踏み込むのを目掛け、忌々しげに顔をしかめた死神は黒い鎌を思い切り薙いだ。
 大振りであれど的確に振り下ろされたそれを、漆がハンマーで受け止める――刃が止まったにもかかわらず、斬撃は黒い衝撃破となって、黒衣を裂き、肩から血が弾けた。
 守りを固めた上で、一撃でこの鋭さ――侮っていたわけではないが、強敵であることに違いないと冷静に判断しつつも、漆は嘲るような声音でソウル・ディカスティスを挑発した。
「そんな程度か」
 眉宇を顰めた死神へ、軽やかに美しいステップを刻んだザフィリアが手招く。
「さぁ、踊りましょう。死の舞踏を。ヴァルキュリアが誘うは冥府。お付き合い頂きますよ?」
 死者を運ぶのは死神ばかりではない――青い焔を鮮やかに燃やし、彼女は地を蹴った。

●交錯
「支援だよ♪ やっちゃえ!」
 魔力を込めた光輝くオーラをアーニャから受け取り、正視できぬほどの眩い光がミリムの拳に集まっていく――騎士の誇りと威厳も篭めた、ヘブンリィナックル。月光の恍惚を重ね、その輝きは更に強く。
「覚悟はいいですか」
 共に駆けだした夢姫が一足先に、跳ぶ。
 流星の煌めきを纏う脚と、輝く拳が死神を挟撃すれば、畳みかけるように気咬弾をソルが放つ。
 それらを陽動に、影から仕掛けるはクライス。突き立てた刃で傷口を掻き斬る。
 更にザフィリアがルーンを発動させた呪いの刃を振り下ろす――のを躱し、ソウル・ディカスティスがケルベロス達に掌を向けると、澱んだ闇で出来た槍がケルベロス達を目掛け、放たれる。
 それらは身体の何処かへ食らいつくと、痛みを与えながら、生命力を吸い上げた。
 すかさず漆がオウガ粒子を放出し、仲間達を癒やす。
 魔空回廊を守護するべく強化された死神は、強かった。呪縛をもって相手の脚を狙う策がなければ、まともなダメージは期待できなかったであろう。
 だがそれ以上に、相手の一撃がかなり重い。自ずと回復に手を取られ、攻撃に向ける余裕が減っていた。
 この状況を打破したい――強い思いを乗せ、イルリカが叫ぶ。
「繋ぐための一撃――!」
 虹色に輝く想いの光を糸状に変化させた、ウェイブ・チェイン。
 相手を搦め捕るための一投。
 それを起点に、星座の重力を宿したミリムの双剣が十字の斬撃を叩き込む。
 虹色の鎖と、重力とで動きづらくなった死神へ、更に夢姫の竜砲弾が打ち込まれる。
「ァアア!」
 吼えながら、ドラゴニック・パワーを噴射し加速するハンマーを、ソルは身を反らし、叩きつけようとしたが――死神の鎌の柄で、タイミングをずらすように小突かれ、受け流されてしまう。
 結果、ソルは前のめりに態勢を崩すことになる。
「笑止!」
 その姿をソウル・ディカスティスは一笑に付し、大鎌が大気を斬り裂きながら、その首元へ振り下ろす――。
 ソルにぃを守らなければ。
 その一心で、イルリカは飛び出した。
 後ろから押しのける形で、刃の下に身をさらした彼女の背を、深々と黒い三日月が斬り裂いた。
 すぐさまティナが羽ばたきをして邪気を祓うが、止まらぬ血が彼女の足下を赤く染めた。
「イルリカちゃん!」
「大丈夫……夢姫おねえちゃん」
 悲鳴に近い声をあげた夢姫を安心させようとイルリカは立ち上がろうとする――が、ペインキラーで誤魔化しても、身体は思うように動かなかった。
「みんなで帰りましょう……待っていてください」
 そんな彼女を、アーニャが優しい声音でその場に留めた。

●魂の裁定
 攻防は、平行線を辿っていた。
 ソウル・ディカスティスは徐々に動きが鈍っていく反面、ケルベロス達の体力も確実に削られていく。
「はッ!」
 気合いを籠めた一声と共に、ザフィリアが踏み込む。踊るように軽やかなステップから、グラビティを乗せた鋭い一閃――稲妻を帯びた鋒が死神の肩を穿った。
 走る雷電の衝撃に、死神は声をあらげた。
「裁定を下す!」
 ごう、と薙ぎ払われた刃は彼女の腰から肩までを斜めに斬り上げる。
 そのまま数メートル吹き飛ばされる形で、ザフィリアは倒れ込む。悔しそうに、その視線は強く死神を睨み付けていたが、傷は深く、動くことも儘ならぬようであった。
 これ以上、耐えられるだろうか――治療の為、彼女の元に駆けつけながら漆は一瞬、思案する。
 夢姫も僅かに表情を暗くする。
「傲慢にも魂の裁定者を名乗るだけはありますね」
 皆で定めた条件を満たしてはいないが――撤退は元より、いざという時、友を失わぬよう理性を振り払う覚悟をもっていた。
 ソルは絶対に撤退しないと断言している通り、その視線は死神に注がれ、揺るがない。
 そうはさせぬと皆で、ここに集ったのだ。
 ――護るために。
「ボクが、切り拓く」
 深呼吸をひとつ、きりりと耳と尻尾をたてたミリムが強い口調で言い、地を蹴った。
 地を打つ音は数度。
 一気に距離を詰め、獣のような速度で斬り込むは旋刃脚――同時にソルが反対側を駆けることで判断を惑わせる。
「ちょこまかと――」
 最初の蹴撃を受け止めることで、次なる攻撃に応じようと大鎌を返したところへ、白刃が顔の前に迫っていた。
「かはは、うぬが大切なものを奪うならば、それをさせぬ事も楽しいのう」
 咄嗟に傾ぐ死神の負傷した肩を更に深く斬りつけ、クライスは笑う。
 ええ、ならばその逆も――死神も薄く笑みを浮かべた。
 そのまま振るわれた容赦ない斬撃が、彼女を地へ叩きつける。痛みが灼熱のように全身を駆ける――だが、彼女はこれで充分だと判断した。
「離れなさい……!」
 虚の力を纏わせた翠玉の大鎌を振り上げた夢姫がもう一方の肩を深く抉る。
 両肩をだらりと落とした死神が次の動作を行うより早く、背後より急速に伸びた蔓草が四肢を搦め捕る。
 彼女にそれを素早く振りほどく力は、もうない。
「行け、ソル!」
 発したのは漆――ええ、と頷き、ソルが身体を捻り、拳を上げた。合わせ、アーニャが月光の恍惚でその力を更に引き上げる。
「俺の過去を砕き、未来を拓く為に!」
 堅く握った拳に、ふたつの焔が蜷局を巻くように絡み合う。
 自身の生む焔と、絆から生まれる焔より生まれた眩い白焔――それを彼は希望と呼ぶ。
 無限の未来拓く、希望の双星。
 紅と蒼の腕を重ね合わせ、彼は地を蹴った。閃光のように真っ直ぐ奔り、死神へと拳を突き出す。
「此の両腕に込めて、貴様を穿つ!」
 肉を穿つような感触を察しても、渾身の力で更に振り抜いた。
 衝撃で吹き飛び、地に叩きつけられた死神を、白焔が一気に包み込む。
 だが断末魔をあげるでもなく――胸を穿たれた死神はくく、と笑みを零す。
「この魂の裁定はなされたか……だが、魔空回廊が破壊されぬ限り、我が傀儡は尽きぬ」
 不穏な言葉を残し、ソウル・ディカスティスは燃え尽き、灰と化す。
 ――だが、喩え酷似したデウスエクスが現れようと、ソルの仇はこの女。この魂だ。
 それを討った――。
 天を仰いだソルの瞳に、輝くものが光る。拳の中には、蒼い形見のペンダント。
「サヨナラ。俺の過去。俺の、未練。父さん、母さん、みんな……」

 やや時間は掛かったが、デウスエクスの気配は未だ無い。
 負傷者に手を貸しつつ、皆、誰一人欠けることなく無事生還するのであった――。

作者:黒塚婁 重傷:クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034) イルリカ・アイアリス(虹をかけるよ・e08690) ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。