ミッション破壊作戦～グラディウス・インパクト！

■リプレイ

●想い、叫び
　石川県全域では、失踪事件が多発していた。
　犯人は、人々の依頼を受けて殺人を代行する『復讐屋』。
　その正体こそは、加賀市に『強襲型魔空回廊』を構えるシャイターン勢力であった。
　今、ケルベロスの眼下には、『復讐屋』の拠点となっている『強襲型魔空回廊』が鎮座していた。
「どーこも厄介だけど、難度高いっつって避けてもいらんないもんね。千里の道も一歩から……きりきりお仕事して、ヤってきちゃいましょーかね、復讐屋」
　開口したヘリオンのハッチから下方を覗きながら、『ヤって』の一言に物騒なニュアンスを含めてぼやくルードヴィヒ・フォントルロイ（キングフィッシャー・e03455）。ふと、傍らの喧嘩仲間に視線をやって首をひねる。
「で、ニケは何やってんの？」
「んーと……役に立つかわからないけど、一応、時間測っておこうと思って」
　ニケ・セン（六花ノ空・e02547）は熱心にストップウォッチをいじりながら答えた。
　スモークの持続時間は毎回変わるだろうから、一回限りの計測で何らかの結果は出ないだろう。ただ、統計をとって調査すれば、何かがわかるかもしれない、という判断だった。
「ついに『強襲型魔空回廊』を攻撃できる時がきたのね……」
　リリア・カサブランカ（グロリオサの花嫁・e00241）は薬指のエンゲージリングに愛おしげに触れた。
　不安がないといえば嘘になる。けれど、傍らには頼もしい仲間達。今ここにいない愛しい婚約者の心は、いつも共にある。
「……覚悟は決めたわ。奪われたものを取り戻す為に戦いましょう！」
　その言葉を合図に、ケルベロス達は一斉に宙へと躍り出た。
　景色が急速に上へと流れていく。凄まじい風圧と共に、『強襲型魔空回廊』と、それを囲うドーム状のバリアが、瞬く間に近づいてくる。
　ケルベロス達は、空中で素早く構えをとった。各々の胸に、それぞれの思いが溢れる。
　カロリナ・スター（ドーントレス・e16815）は祈った。そしてただ、魔空回廊の破壊を願った。
「主よ、どうかボクに邪悪なる道を封じる力をお与えください」
　全身をグラディウスに預け、切っ先から回廊にぶつかりにいく。
　ノーフィア・アステローペ（黒曜牙竜・e00720）は『復讐屋』の手口に強い危機感を覚える。
（「依頼した側に罪悪感押し付けて自分は要望があったから殺した、で逃げるのかな？　まあそんなことは考えてないだろうけど……」）
「ネットの都市伝説として定着されたら厄介だからね。今のうち、一撃でも早く断ち割って、復讐屋もまとめて廃業させるよ――っ！」
　ニケがグラディウスに籠めるのは、シャイターンへの嫌悪。
「妖精８種族という意味では同族だからかな。とっても気に入らないんだよね。悪いけど、さっさと退場してもらうよ。ヒトの心を利用するのもこれでお仕舞い」
　ルードヴィヒの心は、殺意に満ちる。
「復讐なんてちゃんちゃらおかしいや。オタクを討ちとって因縁の鎖はここでオシマイにしてやるよ。ヤらせてもらうよ、復讐屋！！」
　リリアが胸に抱くのは、ケルベロスとしての強い矜持。
（「『復讐屋』――彼等はわたしたちを怒らせた。その意味を教えてあげましょう」）
「この星に暮らす温かく愛しい人々……彼らの幸せな未来を守るために、わたしの持てる力の全てで、速やかに復讐屋を排除するわ！　勝利はわたしたち、ケルベロスのものよ！」
　神居・雪（はぐれ狼・e22011）の怒りは、ひどくストレートだ。
「要望を叶えてやっているとか恩着せがましい奴め……結局は自分たちの役に立つからやっているだけだってのに、あんな陰険野郎なんか、二度とこっちに来れねぇようにしてやるからな！！」
　ヴァンアーブル・ノクト（熾天の語り手・e02684）の脳裏には、凄惨な情景が広がっていた。
（「燃える燃える。森の中の小屋が燃える。燃えた後に残ったのは、黒焦げの――」）
（「……まだ、奪い続けるというのか。ひっそりと暮らす事さえ許さぬ侵略者共。通路共々無くなってしまえばよいよ。そうしたら、侵略なんてできないよね？！」）
「……今を奪わせない。これからを奪わせない。その為に、力を手に入れたのだから！！」
　マサヨシ・ストフム（蒼炎拳闘竜・e08872）は魂から立ち昇る怒りを、思うがままの叫びに変えて叩き付ける。
「人の心は弱い、だからといってその闇に付け込んでいい理由なんてない！」
「デウスエクスに復讐を誓う者として！　ケルベロスとして！　力無き者の守護者として！　オレは許さない！」
「――だからグラディウスよ。思いが、願いが、力になるのなら、全てを掛けて打ち砕け！！」
　八人八様の叫びを籠めて、グラディウスの切っ先が、バリアに接触した。

●撤退開始
　想いがグラディウスを輝かせ、バリアに突き立てられる。激しい雷光と爆炎が、辺りに弾けた。
　小剣を支えるケルベロス達の腕に伝わるのは、魔空回廊の抵抗とでも言うべき激しい衝撃。
　その手応えは――あまりにも、硬い。
「くぅ……っ」
「駄……目、か……！」
　八本のグラディウスは、同時にバリアに弾かれた。
　ケルベロス達は咄嗟に空中で体勢を整え、すでにスモークに満ちている地上へと着地した。視線は自然、破れなかったバリアと、そこに渦巻いたままの『強襲型魔空回廊』を見上げてしまう。
　一度での破壊に拘る必要はないとはいえ、今後を思えばここで破壊しておきたかった……そんな思いが各々の心をかすめるも、今はかかずらっている場合ではなかった。
　ケルベロス達の最大目標は、現時点をもって『無事グラディウスを持ち帰る事』に変わったのだ。
「……行こう。もうここに用はないよ」
　周囲を警戒しながら、ルードヴィヒが皆に呼びかけた。
　カロリナは、ケルベロスコートの下にグラディウスを大切にしまいこみながら頷く。
「ボクは後方を警戒するよ」
　怒号が飛ぶスモークの中を、ケルベロス達は息を潜め、固まって移動した。
　白々とした視界の向こうでは、遠巻きにシャイターンと思しき気配が動き回っているのがわかる。爆炎と雷光に打ち据えられ、膝をついているらしき影、残り火に焼かれていると思しき絶叫、状況を把握できずにただ怒鳴りつけるばかりの声……グラディウスのおかげで、敵は存分に混乱してくれているようだ。
　シルエットの一つ一つが強敵であり、どの個体が、いつ混乱から立ち直ってこちらに向かってくるかわからない。張り詰めた緊迫感の中、ケルベロス達はスモークの外への脱出を求めてひた進んだ。
　……その横合い、スモーク越しに、ぽつりと、爆炎ではない火が灯る。
「――右！」
　誰かが警告を飛ばした。
　皆が咄嗟に退いたその場所に、灼熱の炎塊が叩き付けられた。
　隙なく身構えるケルベロス達の前に、いつの間にか接近していた人影が、スモークを割って現れる。
　体に包帯を巻きつけ、人間の風体を装ったシャイターン。
「ずいぶんと、ナメた真似をしてくれたな……」
　忌々しげに顔を歪めるその男は、『復讐屋』と呼ばれる一人に違いなかった。

●シャイターン『復讐屋』
　爛々と輝く瞳には、獰猛な殺意。
　浅からず上下するコートの肩に、グラディウスの余波による影響が皆無ではなかった事が伺い知れる。
「こっちとしちゃやることはやったし、そのまま帰っても良いんだけどな。……やっぱムカつくからコイツはここで叩く！！」
　現れた敵に、早速勇ましい啖呵を切る雪。
「そういえばまだシャイターンは食べた事ないんだ。この機会にその魂、貰っちゃうよ！」
　かなりきわどい紙一重で炎を避けたノーフィアも、冷えた肝を宥めつつ拳を構える。
　豪胆に事構えつつも、予断ならない状況である事は、皆がひしひしと感じていた。
　混乱を真っ先に立ち直っただけあって、その『復讐屋』の発する鬼気は、決して楽観できるものではない。
　ひとたび対峙してしまった以上、この戦闘からの撤退はまず不可能だ。この『復讐屋』を倒さねば、帰還はならないと肝に銘ぜねばならないだろう。
　威勢の良いケルベロス達に、『復讐屋』は小さく失笑した。
「ぬかせ。簡単に素通りできると思ってもらっちゃ困るな……！」
　包帯を巻いたその指先に、グラビティが高まる気配。
　その瞬間、ケルベロス達は『復讐屋』へと襲い掛かった。
「テメェも燃え尽きて、死ねッ！」
　獰猛に笑うマサヨシの、蒼く燃える拳が一番槍をとった。身軽に躱そうとする『復讐屋』を、蒼炎の追尾が逃さない。
　退きそびれた半端な姿勢を、リリアのスターゲイザーが打ち据え、動きを鈍らせる。
　続けざま、雪の破鎧衝がフードを撃ち抜けば、大量に巻き付けられていた包帯が一部吹き飛ばされ、素肌の首がわずかに覗けた。
　横合いからノーフィアの鋼竜の魂を宿した腕を叩き付けられ、わずかにふらついた『復讐屋』に、和柄の和紙を貼りつけた桐箱のようなミミックが、囃し立てるように張り付いて嫌がらせのような攻撃を加える。
「さーて、桐箱きりちゃんも仕事してる分、僕らもやりますかねー。な、ニケ」
「言われなくても、ルードヴィヒには負けないから」
　背中を預け合うように立つ二人から放たれた遠隔爆破と気咬弾が、的確に『復讐屋』を打ち据えた。隙を与えず、カロリナのペトリフィケイションが追随する。
「――チッ、こうるさい連中が！」
　『復讐屋』は手元に生きた蛇を創り出すと、即座に食いちぎり咀嚼した。傷が癒えるのと同時に、敵の防護が強度を増したとわかる。
　即座に動いたのは、激しい猛攻の最中、一人静かに力を高めていたヴァンアーブル。
「その盾、破壊させてもらうよ！」
　脳髄の賦活を得て威力を乗せたさまよう水晶剣が、目に見えぬ盾を涼やかに破砕した。
　顔をしかめる『復讐屋』を、即座に後方からの旋刃脚が強襲した。
「早速守りに入ってくれるなんて、メディックの仕事が楽で助かるねぇ」
　戦いの愉悦に口元を歪めながら、カロリナは挑発するように『復讐屋』を嘲笑した。

●焼け滅ぶ炎の妖精
　戦いは激化の一途を辿った。
　『復讐屋』は炎を主軸に猛攻を振るう。的を絞った攻撃の、一撃一撃が重い。
「ぐう――っ」
　ケルベロス達の連続攻撃の隙間を縫って飛んできた追撃に、ノーフィアが膝をついた。ボクスドラゴンのペレが慌てて介抱に回る。
「キミに主の御加護がありますように」
　すぐさまカロリナが翼を広げ、魔力を貯めた羽をノーフィアに触れさせた。
「俺も手伝うよ。――汝、朱き者。その力を示せ」
　予断はできないだろうと、一声かけてニケも治癒に回り、前衛の力を強化。雪もカムイの力を借りて守護を顕現させる。
「くそっ、他の奴らは何してやがる……！」
　『復讐屋』の声音には苛立ちが滲んでいる。時折嫌がらせのように回復を差しはさみ、戦いを長引かせようと試みるが、守護を強化した端から破壊され、あまり功を奏していない。遠くからは未だ混乱の声が飛んでくる。増援は、すぐには期待できない雰囲気だった。
　かといって、ケルベロス達も余裕があるわけではない。グラディウスの余波はすでに収束し、徐々にだが、スモークが薄まってきている。
　手数で押して、三進一退といった状況。もはや敵は目の前のシャイターンというより、刻々と過ぎていく時間のほうかもしれなかった。
「しつこいね。けど――もう終わりだよ」
　敵の状態を見極めたカロリナが、素早く飛び出し旋刃脚を叩き込んだ。『復讐屋』は地面を擦るように大きく吹き飛ばされたのち、激しくえずき、血を吐いた。
「――クソがァァァァッ！！」
　『復讐屋』が吼えた。最大火力のゲヘナフレイムが放たれる。
　襲い来る灼熱の炎塊はしかし、自ら身をなげうったマサヨシの全身で受け止められた。
「どうしたッ！　その程度じゃあ今のオレは倒せないぞッ！！」
　弱みに付け込む卑怯者への憤怒が、咆哮となって解き放たれる。
「というかね！　圧倒的優位の癖に安全な場所からコソコソ、っていうのが格好悪いんだよ！　強者なら強者らしく、誇りや余裕を見せてみろ――っ！」
　竜のあぎとで食いちぎるが如き降魔真拳を浴びせて退きながら、ノーフィアががなりたてた。ペレが落ち着けと言わんばかりに、ぽん、と主の肩に手を置いてやる。
「帰るまでがお仕事、ちゃんと皆で帰んだよ！　ほらキリキリ倒す！」
　皆を鼓舞しながら、血色の狼犬を顕現させるルードヴィヒ。いらぬ因縁は根こそぎ断ち切る気概で、生命力をゴリゴリ吸い取ってやる。
「……そこにお祈りの時間も、慈悲も必要ない。愚かにも、わたしたちに牙を剥いた報いを、受けてもらうわ！」
　青翠の風を纏い優雅に舞うリリア。光を受けて煌めく風は、鈍い動きで逃れようとする敵を絡めとり、鋭く斬り裂いた。
　ライドキャリバーと共に飛び出したのは、雪。
「要望叶えてくれんだろ？　ならアタシからリクエストだ。……さっさとぶっ倒れろ」
　イペタムの激しいスピンに足を取られた『復讐屋』を、重力を乗せた獣撃拳が打ち据える。
　ヴァンアーブルは戦いのさなかにも過去を想い、心は千々に乱れていた。
（「平和に暮らせれば、それでよかったのに。なんで邪魔してくるのだろう？　……なんで、なんで、なんでなんだ？！」）
「……侵略者なんて、大嫌いだ」
　ぽつりと呟くと同時、太陽の如き輝く熱が、『復讐屋』を包み込んだ。
　絶叫が轟き渡り、不意に途切れた。灼熱の内側で、敵の姿は塵も残さず焼き尽くされた。
　スモークはもうずいぶん薄い。絶叫を聞きつけ、遠くで数人が動き始めた気配もする。ケルベロス達は即時撤退を再開した。
「殿こそ守護者の誉れ！　お前ら、さっさと逃げろ！」
　楽しむように焚き付けながら、マサヨシは最後尾について獰猛に笑った。

　今回の作戦にて、加賀連続復讐事件の中枢たる魔空回廊は、破壊ならず。
　シャイターン勢力の『復讐屋』の一体を撃破できたものの、また別の個体が『復讐屋』として暗躍を続ける事が予測される。
　しかし今回の襲撃によって与えられた魔空回廊へのダメージは、確実に次の作戦へと恩恵をもたらすことだろう。
　なお、八名のケルベロスは、八本のグラディウスを携えて、無事に帰還を果たした事が確認されている。

作者：そらばる	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年1月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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