「ゴッドサンタ討伐、おつかれさまだ。ケルベロス。そしてありがとう」
リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)の声は軽い。無事にクリスマスを迎えられた喜びは彼女にも平等だったのだろう。
「さて……件の物騒なサンタからのクリスマスプレゼントだが、使い道がわかったぞ」
らしくない言い回しだが、リリエはケルベロスたちに用件を話し出す。ゴッドサンタを撃破した時に手に入れた光る小剣型の兵器……『グラディウス』と名付けられた武器の話だ。
形状に反し、通常の武器としては使用できないようだったが……。
「これは、固定型魔空回廊の破壊兵器だ。すごいぞ、これは」
資料を配り、リリエは説明を始める。
デウスエクスたちの使う魔空回廊には時間経過で消失する通常のもの以外に固定型の魔空回廊……『ミッション』の拠点となっている『強襲型魔空回廊』というものがある。
今までは現れる敵を倒し続けてきたミッションだが、グラディウスで魔空回廊を攻撃すればミッション自体を破壊できるのだ。
「恒久的にミッションを破壊できる……これを駆使すればデウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込むことができるはずだ」
調査結果によるとグラディウスは一度使用した後、グラビティ・チェインを吸収して再び使用できるようになるまで時間がかなり掛かるらしいが、今回手に入れたグラディウスには使用可能なものも多数あったらしい。
「まずはこの使用可能なグラディウスを使用し、一気にミッション地域を解放しようというのが今回の作戦だ」
攻めるぞ、ケルベロス。言って、リリエは説明で乾いた唇に舌を走らせた。
「強襲型魔空回廊があるのはミッション地域の中枢のため、通常の方法で辿りつくのはグラディウスを奪われる危険もあり、難しい……が、我々にはヘリオンがある」
リリエが示したのはヘリオンを利用した高空からの空挺降下。
強襲型魔空回廊の周囲には半径30mドーム型バリアがあり、攻撃はグラディウスをバリアに接触させるだけ。高空からの効果でも十分に攻撃可能というわけだ。
「理論上だが……8人のケルベロスがグラビティを極限まで高めて回廊にグラディウスを集中すれば、一回の作戦で破壊できるとされている。また破壊できなくとも回廊にダメージは蓄積する、数度……最悪でも10回も作戦を行えば確実に破壊できるはずだ」
更にグラディウスでの攻撃は、攻撃後の離脱にも有利に働く。グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させ、グラディウス所持者以外を薙ぎ払う。
強襲型魔空回廊には防衛を担うデウスエクスが待機しているが、これらの攻撃によるダメージ、混乱、余波によるスモークを利用すれば、攻撃後の撤退も十分に可能だ。
「先にも説明した通り、回廊は攻撃を続ければ必ず破壊できる。降下攻撃後は無理せず、命とグラディウスを守って帰還して欲しい」
強襲型魔空回廊は敵の重要拠点だ。精鋭デウスエクスの多くは。グラディウスの攻撃の余波で無力化できるが、戦いを避ける事は難しいと、リリエは注意する。
「幸い、混乱する敵がすぐに連携をとって攻撃を行ってくる事はないはずだ。デウスエクスが態勢を回復する前に、妨害してくる敵だけを倒して帰還してくれ」
リリエは念を押していう。
もし脱出する前に敵が態勢を整えてしまった場合、降伏するか暴走して撤退するしか手はなくなりかねない。グラディウスも危険にさらされるだろう。それは避けなければならない。
「どのミッションを攻撃するかは、皆で話し合って決めてくれ。攻撃するミッション地域ごとで現れる敵も特色がでるだろうし、それらを参考にしてもいいと思う」
「今もデウスエクスたちはミッション地域を増やし続けている。この作戦は侵攻を食い止める大きな一歩になるはずだが……それだけに無理はしないように、気を付けてくれ」
混乱状態になるとはいえ、回廊周囲のデウスエクスたちは精鋭だ。戦いは避けられず、迅速な行動が必要となるだろう。
「準備と気迫は大丈夫か? では……往こうか、ケルベロス」
参加者 | |
---|---|
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393) |
クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595) |
メイカ・ミストラル(ガーリィフォートレス・e04100) |
杉崎・真奈美(呪縛は今解き放たれた・e04560) |
丸口・真澄(まさに緑・e08277) |
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895) |
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007) |
ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336) |
●スカイレイド
『作戦空域に到達するぞ。幸運を祈る、ケルベロス』
声に押されるように、ヘリオンより八人のケルベロスが飛んだ。
眼下に広がるは北陸の大地……北陸の空の玄関口、小松空港を喰らわんと飛び立つ異形のダモクレスたちの拠点。
その中心にある強襲型魔空回廊をウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)の目はしっかと捉えた。
「フフ、フフフフ……。さん、ざ、苦しめてくれた相手を弄れると思うと、感慨もひとしお、です、ね。んふっ。因縁の相手、しか、も……となれば……」
「ええ。私にも手伝わせてください!」
ウィルマの視線の先に、杉崎・真奈美(呪縛は今解き放たれた・e04560)は力強く声に出す。
下半身を戦闘機型モジュールに接続し、自在に空を飛ぶダモクレス……飛翔機士達の姿が、並び飛ぶクロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)の姉が改造されたものと同型らしいという道中の話は、ケルベロスたちの闘志の炎へ少なからずの油を注いだ。
まして今まで散々に悩まされたミッション地域を直接攻撃、破壊できるのだ。
「一撃目では回廊は破壊しきれなかったようです。魂の叫びを極限まで高めてぶつかりましょう」
「魂の叫び……」
淡々と、しかし献身的にメイカ・ミストラル(ガーリィフォートレス・e04100)がクロエにいった。
突入まであとわずか。しかしひどく長い僅かだ。
「難しく考えすぎない方がいいと思うんだよね。近辺を解放できれば今後楽になりそうとか、その場のノリと勢いで。頑張れるよね」
ひらりと身を回し、水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)は緊張を解くように笑いかけた。まずは実践とグラディウスを抜き、勢いよく宙を蹴る。
「僕だってお給料分ぐらいは働くんだからね! ミッション一つ分、ついでに休日手当とか危険手当ぐらいよこせーーーっ!」
「わかりやすっ!?」
丸口・真澄(まさに緑・e08277)も思わず突っ込む実直な一声にも、グラディウスは正しく応えてくれた。だいぶやりやすくなったな……と、間髪いれず彼女も友へと続く。
強襲に飛翔機士たちが反応し始めたが、もう遅い。
「あんたらが二度と来うへんように、普通の生活を、普通の旅行をもう邪魔させへんために、ウチらが元から止めさせてもらうで!」
「これ以上、一般人への被害を広げさせはしないっ……!」
守る意志を込めた真澄、そしてアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)の一撃。そしてメイカ、ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)の怒り……それすらも優しすぎる憎悪の一打が結界を刺す。
「平穏乱す魔空回廊は許しません、滾る怒りを乗せたこの一撃で砕きます!」
「お前らの行き着く先は何もねぇよ……ここがデウスエクス地球駅だってなら、絶望がてめぇらの終点だ」
更にウィルマ。
「さあ、無様な姿をよおく見せてくだ、さい、ね? そお、れ、どーんっ!!」
デウスエクスへの苛立ちと鬱憤、それを解放する歓喜の一撃が魔空回廊を揺さぶり……。
「……クロエさん!」
「願いなら、あるわ……! ロザリー姉さん、何処にいるの。クロエよ、聞こえるでしょ? もういいの! 今度は私が護りたいの! ねえ、出てきてっ!」
真奈美の声と共に、クロエは思いのたけを込めたグラディウスを突き出した。展開した装甲、ヘルメットへと伝わる衝撃に、バイザーへ数滴の雫が散った。
●叫びは閃光に消えて
小松の大地に炎が爆ぜる。
着弾の雷光と爆発が辺りを薙ぎ払い、備えの遅れたダモクレスの集団が宙を舞う。なかには運の悪い者がいたか、更に爆発。誘爆が続く。
「や、やりまし、た……?」
吹き荒れる嵐の唯一の例外、グラディウスを手にしたウィルマと仲間たちは噴煙にまぎれ、混乱を見回した。
「いえ、まだのようです。回廊、敵兵力、共に健在」
だが……メイカが首を振る。頑強と予測されたが、予想以上の強度で魔空回廊は二度目の攻撃にも耐えきった。かなりのダメージは与えられているだろうが、少なくとも機能は失われていない。
「姉さん、どこ……?」
地に落ちた飛翔機士の残骸を手にクロエは首を振る。彼女の目的もまだ達せられてはいない。戦闘に不向きとされた彼女がスーツを纏い、戦場を駆ける理由……自分をワームウイルスから庇い、姿を消した姉ロザリーの行方、それがやっとわかったというのに!
「クロエさん……その、人たちは」
「違ったわ。みんな、複製……同型だけど、違う」
首を振る彼女に、アーニャはかつて戦った端末型ダモクレス……友人の宿敵を思い出す。自己複製機械の性質を持つ彼女らはオリジナルの露見を避けるよう、端末を操り暗躍を続けていた。
「ロザリーさんをオリジナルとするなら……動き出すのは、完全に追い詰められた時……?」
アーニャの思案は轟音に遮られた。
「もう動き出したか。精鋭というだけはある」
「……現在地、出ました。場所は小松空港から……」
ラズェは並んだ空から視線を下ろし、抑えた真奈美の声に素早く地図を開く。
「北西に北陸自動車道がある。そちらへ抜けよう」
「オーライ。ウチは回復してくから、攻めは任せんで!」
真澄の返答を先頭にケルベロスたちは走り出した。『発煙筒Ⅱ型改』の吐き出す煙が、晴れてきた視界を再び遮る。
「ちょっと退いてくれると助かるんだよ~っ!」
グラディウスを懐に、残骸を蹴り飛ばしながら蒼月は駆ける。結果が出た以上、後は無事の帰還が優先任務だ。あの小松空港を爆撃していた飛翔機士の集中爆撃など御免こうむる……。
「水守さん、上!」
「おっと!」
思った傍からこれだ! 真奈美と共に身を投げた蒼月の脇を凍結光線がかすめていく。
「……上空を取られました。離脱は困難」
「わかりました! どんなに空に逃げようと……凍った時からは逃げられないっ!」
追いついてきた精鋭ダモクレスに、だがケルベロスたちの判断も素早い。メイカの分析にアーニャは切り札を切る。
「テロス・クロノス! 時よ、凍れっ!」
時空の歪む音。それを聞けるのは彼女だけ。静止した時の中をアーニャは飛んだ。あまり余裕はない。展開したアームドフォートとライフル、ガトリングガンありったけを飛翔機士に叩きこみ、着地。
そして時は動き出す。
「? ! !?」
飛翔機士のエンジンが爆発する。彼女を知らぬダモクレスからすれば、目前に突如攻撃があらわれたとしか思えなかっただろう。
ケルベロスたちは知っている。アーニャの時を止める力、時間停止中の砲撃『テロス・クロノス・ゼロバースト』によるものと。
「……メイカさんっ!」
「ターゲットロック……ヘルハウンド、ファイア!」
ゆえに、その反応は素早い。先読みで装填、シーカーを起動しておいたメイカの対デウスエクス用長距離ミサイル『ヘルハウンド高速誘導弾』がランチャーより飛翔した。
「異常事態発生、異常事態……」
飛翔する弾頭が飛翔機士をとらえ、由来となった黒炎を高く吹き上げる。
「迎撃を続行、増援を求む……」
だが、煙の中、飛行機じみたシルエットはまだ動く。煙の中から機械的な音声と共に放たれる冷凍ビームに撃たれた真澄から、盟友のオウガメタル『はぐれガメさん』が泡立つように現出し、オウガ粒子を散布する。
「頼むで、ガメさん!」
分解するまで手を止めてはならない。倒れるわけには、いかない。
●戦いは続く
吹き上がる煙のなかを黒い影が素早く動く。
「飛び立てはしないようだが……早いぞ、止められるか?」
「……いくわ……」
指輪型の『八式重粒子演算機関』を構えたラズェの脇を、真奈美は飛んだ。二尺二寸、無銘ながらも鋭い切っ先。遠隔爆破と雷刃突が払う埃煙の先で、滑走する飛翔機士が転回する。
「これ、ホバーってヤツ!? 回り込むよ!」
「了解……援護するわ」
音を立ててミサイルが装填される。身を投げた蒼月に頷き、クロエはバックパックからガトリングガンを引き出した。
……この際、目前の怪物がオリジナルでないのは幸いかもしれない。少女は躊躇いなくトリガーを入れた。
「オリジナルは何処なのよ! どけぇぇっ!」
「障害出現、レプリカント……1……」
飛翔機士の声が炸裂音に消えた。射手と並走し、前衛的軌道を描く空対地ミサイルへ、焼夷弾が食らいつく。
落としきれなかった弾頭が着弾し、ショルダーシールドが千切れ飛ぶ。
「……損害は軽微です。ドローン射出、対空戦闘を続行」
「あぁ、まったくイライラさせてくれます」
だがまだ動ける。メイカから飛び立つヒールドローンが応急処置し、ウィルマは冷めた殺意を念じて詠う。勢いで離脱を図ろうとする飛翔機士だが、アーニャのアームフォートの砲撃が再び出鼻を挫き、仲間たちが食らいつく。
「真奈美さん、ダブルインパクト!」
「あ、そこはトリプル頼むわ」
飛び掛かる蒼月の勢いに真澄のトボけた声と手拍子一つ。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ。やね」
釣られるように飛翔機士が傾く。傍には手拍子にしか聞こえないが、それは集束された『鬼呼びの手拍子』。翼端が地をこすり、致命的な数秒が失われる。
「それじゃ改めてっ!」
「貫く!」
如意棒を突き立てて高跳び、真奈美の『左片手平突き』に合わせた飛び蹴りが飛翔機士を襲う。
「EMERGENCY EMERGENCY……」
悲鳴のような警報を無視し、真奈美は加わる力で刀を一気に振り抜いた。即座に離脱。
片翼を失った飛翔機士が宙に跳ねていく。転倒の勢いを駆使し、距離を離そうというのか? 再び放たれるミサイルを切り裂きながら、ウィルマが『ブレイドマスタリーⅠ』が追いすがった。
「上は抑える! 方位6200ミル、仰角32.4度。追従演算、誤差範囲内……弾着、今っ!」
援護するはラズェ、降り注ぐ爆発によろめきながらも『重粒子相転移・弐式』の零距離爆撃が飛翔機士を再び地へ落とす。
「どうも。さ、あ手早く行きま、しょう」
スルリと一薙ぎ。詠唱を伴う直線的暴力が飛翔機士を両断した。
●イジェクション
爆散する機影。だがまだエンジン音は消えない。
上から、後ろから、次々と大きくなる音がケルベロスたちを急かし立てる。
「ちょいと時間喰いすぎたね。追われる前にはよ退こはよ退こ」
「クロエさん……」
手早く応急処置をすませていく真澄に、アーニャは渦中の人を見る。感情とは、理性だけで処理するには、しばしば人の手に余る。彼女は大丈夫だろうか?
「皆、ごめんね。後、ありがと……いきましょう」
「あぁ、よかったよかった。もしダメならファイアーマンズキャリーで担いでスタコラサッサでしたよ」
「全力で引きずってでもね!」
クロエは、少し疲れた顔で、しかし気丈に応えた。本気ともつかない……いや本気だっただろうウィルマに蒼月が混ぜっ返し、勢いのままケルベロスたちは駆けた。
「任務『未』完了……ですが、帰れば、またこれます」
「グラディウスも、私たちも力を蓄えられますからね」
傷ついたメイカ、真奈美もまたそこかしこに傷を負ったが、懐には輝きを失ったグラディウスが確かにある。戦う意志と力を失くさぬ限り、まだチャンスはあるのだ。
「ここで品切れかよ……走れ!」
発行筒『ライオット』も囮に使い、最後の『発煙筒Ⅱ型改』をほおりなげたラズェが声を荒げる。敵勢力圏外まで、あと少し。
ケルベロスたちは再選を誓い、ミッション地域を脱出した。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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