ミッション破壊作戦～生き様は自分、戦いは相手次第

■リプレイ

●熱き思いの衝突
　眼下に広がる山並みの先には海が広がっていた。
　背後を山地、正面を海に挟まれた少ない平地に唐津市は市街を形成している。その中心部、魔空回廊を目指して、一行は進んだ。
「目標直上まで、あと３秒、２、１、降下！」
　ヘリオンはカウントダウンに合わせて速度を落とし、カウントダウンに機を合わせて、機体胴体部の大きな扉を開く。真下には高空からは指先ほどの大きさにしか見えない魔空回廊を囲むドーム型のバリア。
「征くぞ……！」
「はい」
　低いがハッキリと聞こえる声で呟いた、コロッサス・ロードス（金剛神将・e01986）が手を差し出すと、鈴原・瑞樹（アルバイト旅団事務員・e07685）は、頷きながら、差し述べられた手を握り返す。
　それと同時、真っ先に飛び出たのは、リューディガー・ヴァルトラウテ（猛き銀狼・e18197）。取り出したグラディスの柄を握りしめながら、気持ちを込める。
　今回の作戦では、グラディウスと共に感情を叩き付けることが重要だと伝えられている。
（「俺は……この世界を守りたい」）
　何かが頭につけられるほどの真面目さと几帳面を持つ、彼に取って重要なのは、平和な日常が寸分違わずに明日も明後日もずっと続くと信じられる安心感、その安心安全を守ることだ。
「ささやかな幸せを望み懸命に生きる人々を、愛する妻と共にあるこの地に約束したんだ。必ず使命を果たし、彼女の許に帰る、俺たちは共に戦い、共に生きる！」
　自由落下に掛かる重力と空気抵抗を全身に感じながら、リューディガーはグラディウスを顔の前に突き出す。例えこの場にいなくとも精神は愛する者と共にある。バリアに激突するまでの僅かな時間、自身に繋がるありとあらゆる人に思いを巡らせた。
　直後、閃光が空を突き抜け、大気を揺さぶる轟音が響き渡る。バリアは軋み表面には無数のスパークが走る。立ち昇る爆煙と共に衝撃に弾かれたリューディガーの身体が舞い上がる様を横目にバリアに突っ込んで行くのは、八雲・要（英雄志望のドラゴニアン・e14465）だった。
「これ以上、エインヘリアルに滅茶苦茶にされる街を増やしてなるもんか！！」
　海と山に挟まれた狭い市街、突然の襲撃に為す術も無かっただろう。脳裏に浮かぶ、灰と消えた故郷の街並みと目の前に迫ってくる風景が重なって感じられる。
「今、ここで！　俺がエインヘリアル相手に一矢報いてやるんだー！！」
　自分ひとりの力は小さいけれど、それでもぶつけられずには居られない、悲しみも怒りも、淋しさも、そして未来への希望も、ひとつの形容詞では表し切れない万感を、手にしたグラディウスに込めて、要は叩き付ける。その身体も弾き飛ばされると同時、天を貫く閃光が立ち上がり、轟音と共に爆ぜ散った無数の電光がスパークと化して、バリアの周囲に嵐の如き電光をまき散らす。
「己の根幹である情熱赴くまま！　破壊するのだ！」
　ケオ・プレーステール（燃える暴風・e27442）にあるのは、単純な飽くなき力への欲求、手にした力、己の内にある力を使わんと欲する破壊衝動であった。
「その想いに雑念の入る余地があろうか！　いいや無い！　さぁ！　砕けろ！！」
　叫びと共にと突っ込んだ、ケオの身体が弾かれると同時、入れ代わるように、 平・和（平和を愛する脳筋哲学徒・e00547）が落下して行く。
（「くっくっく……日頃の鬱憤をグラディウスに乗せてぶちかましてやるぜ……」）
　雷光が煌めき爆音が轟く戦場には違和感のある笑みを浮かべ、和はグラディウスを構える。その胸の内にあるのは、憤り。自身に向けられたありとあらゆる誤解に腹を立てていた。
「一言目には『お嬢ちゃん』と言われ、夜に出歩けば補導され、身分証を見せれば、二度見される。デウスエクス共も、悉く人のことを女児だ、なんだと、好き勝手言いやがる。どうせテメエらも俺のことを女児だとかぬかすんだろう？　おのれぇ……許さぬぅ……！　誰が女児か！　俺は正真正銘大人の男！　断じて女児じゃねー！」
　言われたくないなら、自らを省みるべきとツッコミが入りそうな、元気な声と共に和は一撃を加える。
　ドーム型のバリアの周囲には煙が満ちて視界は悪かったが、ドームには目につく変化も損傷も確認出来なかった。半数の攻撃を繰り出しての状況だから、今回の攻撃だけでは破壊は難しいだろうと、着地した４人は理解する。
「さて……」
　そんな中、和は持って来た発煙筒を地面に置くと無造作に着火を始めた。
　それぞれの思惑が交錯する中、魔空回廊への攻撃は続く。
「ただ平穏に生きたいと願う人々の命を奪うは鬼畜の所業也。例え立場の違いはあっても、理性と知恵を持つ生物であれば忌避して然るべき筈。それを成さなかった貴様らの存在を赦すわけにはいかぬ……！」
　なぜと問いかける暇も無く、踏みにじられた小さな街の最期に思いを巡らし、コロッサスは吠える。
「ここは我々の世界！　我々が守るべき場所！　去れ！　悪しき終焉を齎す者たちよ！」
　理不尽な終焉を振りまく敵に、強大な敵に為す術が無い自身の力不足に、悲劇を起こし悲劇を食い止めら無かったありとあらゆる者への憤りを乗せて、コロッサスのグラディウスが激突する。
　華奢な身体をまっすぐに伸ばし、突き出した両手にグラディウスを構えた、天崎・ケイ（地球人の降魔拳士・e00355）が突撃態勢に入る。
「私は弱い……」
　息を大きく吸い込んで瞼を閉じる。
「だから強くならなければならない。あの頃の自分を超え、昨日の自分を超え、今日の自分を超え、明日の自分を超え……」
　過去の自分、現在、そして未来、想像が及ぶありとあらゆる自分をケイは思い浮かべると、閉じた瞼を見開いた。目の前には巨大な面にしか見えない、ドームの天井が迫っている。
「そして奴に再び会い、奴を超え……強くなるッ！　この命が燃え尽きるまでッ！」
　まだまだ強くなれる。その思いを胸に抱いた渾身の一撃がドームに突き立つ、かに見えた次の瞬間、立ち昇る光柱と共に、ケイの身体は弾き飛んだ。
　残るは、瑞樹と、蒼樹・凛子（無敵のメイド長・e01227）のみ。ドーム型のバリアは健在であった。
「この魔空回廊を破壊しないかぎり、ずっとここに住んでいる人たちが苦しむことになるのです……。私たちがこの苦しみを終わらせます！」
　――聖王女様、私達に力をお貸しください。今回の依頼を引き受けると決める前、瑞樹は祈った。自分の力だけではどうにもならない。だけど、コロッサスもいる、信頼できる者たちも、目標を共にする仲間がいれば、必ずやり遂げられる。
　目的を達するためならあらゆる努力を惜しまない、覚悟を孕んだ瑞樹の一撃が激突した。
「此方に訪れた反撃の機会、逃しません！」
　好意を抱く友の姿を思い浮かべ、蒼樹・凛子（無敵のメイド長・e01227）はグラディウスを突き出す。
　直後、８回目の光が爆ぜてり。衝撃に弾かれた凛子は荒れ狂う雷光と爆炎の奔流に揉まれながらも、翼を広げ辛うじて体勢を立て直した。

●撤退戦
　池に張った氷に亀裂が入る様な澄んだ音、耳を澄ましていなければ聞こえないような微かな音が響き渡った。
「あとは後続のチームに託しましょう。……頼みましたよ」
　グラディウス攻撃の余波の威力は凄まじく、そこかしこから炎が上がっていた。撤退を助けるかのように爆煙が霧のように地表付近に漂っており、成果は上々に見えた。
「……？　何でしょう」
　そんなタイミングで、仲間たちが着地した辺りから、まるで居場所を知らせるように別の種類の煙が噴き上がる。しかも２つ３つと数が増える様を見て、得体の知れない不安が過ぎて、合流を急ぐ。
「皆、無事でしょうか？」
「問題ありません」
　長居は無用とばかりにケイは空を見上げ、全員の無事を確認した凛子が殿に着こうとした直後、不安は現実となる。
「来るぞ！　散れッ！！」
　地響きの様な足音と共に現れたのは、通常のそれとは比べものも無いほどに強化されたユミルの子。そのあまりに醜悪な姿に驚いて、咄嗟に瑞樹がコロッサスにしがみつく。
「大丈夫、俺がついている」
　力強くコロッサスが微笑み返すと同時、来襲したユミルの子の繰り出した拳が和を強かに打ち据える。拳の直撃を受けた直後、和の少女の様な白い肌が赤い血に塗られる。癒し切れない深手を負った、経験から来る勘で悟り、血塗れになった胸を押さえて、和は地面へと倒れ込む。即座に瑞樹が癒やしの力を送るも、もはや共に戦うことは出来ない状態だった。
（「俺はまだ、何も成し遂げて……いないのに」）
　苦痛を堪える様に、少女のようにぎゅっと胸へ腕を引き付けて、和は無念を滲ませる。
「ほう！　矢張り簡単には逃がしてはくれんか！　ならば少し手合わせ願おう！　情熱的にな！　行くぞキオノス！」
　一方、迸る情熱を声に込めて、ケオは敵を睨み据える。想いを孕んだ声は炎のよう、全身の装甲から放出する光輝く粒子が超感覚を覚醒させる。続いて、リューディガーの呼び出したヒールドローンの群れから加護がもたらされると、動ける者は皆、攻勢に転じる。
「これで決めるよ！　一斉攻撃だ！」
　要が鼓舞するように吠えて、コロッサスと凛子、ケイが攻め掛かる。
　皮膚は裂け、抉り取られた肉が飛び散る。ケルベロスの中でも精鋭と言える者たちの連撃を受けてなおユミルの子は立っていたが、斬撃と破壊の力に穿たれた傷口からは、とうとうと血が流れ出ている。
　勝てる相手だ。３人が確かな手応えを感じた瞬間、ユミルの子は骨の露出した腕で天を仰ぎ、声にならない叫びを上げた。次の瞬間、その正面に飛び出たテレビウムが崩れ落ち、同時にユミルの子の抉れた肉が泡のように噴き上がる粘液に覆われて再生して行く様が見えた。
（「拙いな」）
　速やかに撤退するはずだったが、戦いは手こずりそうだ。しかも立ちこめていた煙が少しずつ薄くなり続けていることに気づいて、リューディガーは唇を噛みながら、銃を撃ち放つ。鋭い警告は通じず、銃弾は微かなダメージを与えるに留まる。
「そら！　私の情熱に痺れると良い！」
　 ユミルの子の半身に、ケオの突き出す槍が刺さる。揺らぐ巨躯。畳みかけるように、ケイの打撃。釘の生えたエクスカリバールの一撃がその頭部を捉えると、抉られた肉の塊が飛び散り、白い骨が露出する。だが――。
「またか！」
　地鳴りのような呻き声を上げながら、ユミルの子が腰と脚を折りしゃがみ込むようなポーズを取ると肉片の融合が始まり、たちまち傷を癒やし、健全さを取り戻してしまう。
「なぜ上手く行かないのでしょうか？」
　歯噛みするような凛子の思いと共に、何度目かの流星の煌めきを帯びた跳び蹴りが巨躯を捉えた。無駄と言うことは無い。少しずつではあったがダメージは着実に蓄積されている。だが、そのペースはあまりにも遅い。
　そしてダメージの蓄積に関しては此方側も同じ。メディックの手厚い支援があっても、ダメージの全快は難しく、癒やし切れない傷は着実に身体を蝕んでいた。
「私が必ず癒やします」
　瑞樹は仲間を癒やす為に、その強い意志があったからこそ、ここに来た。瞬きの間に判断して前衛の中でも傷の深かった要に癒やしを送れば、要の前に光の盾が具現化する。
　燃え立つような翼を持つ女。風に赤い髪が惑う、焦土と化した街並みが映る、金色の瞳は苦悩を映り、眉間には敵への恨みを表すような皺が寄っていた。
　風が吹き、立ちこめていた煙は、目に見えて薄くなり始めていた。
　そして前衛で耐え続けていた、ケオが拳の一撃に落とされて、さらに攻撃力が不足してくる。
　退却を阻むようなユミルの子の動きに、リューディガーは歯噛みする。
　不利に傾いてから、簡単に撤退出来るぐらいであれば、撤退作戦は必要ない。
　この敵は恐らく、死を顧みず、命が果てるまで追い続けて来るだろう。そんな予感がする。１体だけでもこの強さ。援軍が現れれば耐えきれない。不吉な予感が頭をもたげ始めた、その時、要が腹を括った。
「このままじゃ全滅だな。だが、そうはならない」
　――これを頼む。深手を負い戦列を引いたケオに、グラディウスを託す要。
「何をするつもりだ？」
　ケオが問い返すと同時、異形と化した要は、今までとは比較にならない速力でユミルの子に迫り、その眼前で鋭く地面を踏み込む。
「暴走か……それでも、ひとりだけでは、手に余るだろう？」
　終焉砕き――悪しき終焉を打ち砕く破邪の戦鎚に力を篭めて、コロッサスが構えを取れば、瑞樹の捧げる祈りから生み出される温かな気配が、深く刻まれたダメージを穏やかに癒やした。
「大丈夫です。ひとり置き去りになんて、しません」
「みんな、人が良すぎるぜ！」
　呆れたような叫びと共に、地獄化した翼を大きく広げ、空高く舞い上がった要の繰り出す、チェーンソー斬り。その強烈な震動が肉を抉り、骨を断つ。無数の肉片が千切れ飛び、血臭が満ちる中、今までとは比較にならないダメージに悲鳴にも似た叫びを上げながら、千切れ飛んだ肉をも集め回復姿勢を取るユミルの子。
　そこに、凛子の繰り出す斬撃が襲いかかる。
「我は水と氷を司りし蒼き鋼の龍神。我が名において集え氷よ。凛と舞い踊れ！」
　凛子の攻撃に、機を合わせてコロッサス放つ轟竜砲。撃ち放たれた竜砲弾が、斬撃の跡で炸裂し、巨大な傷が花開く。
「鬼神の一撃……その身で受けてみますか？」
「貴様は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめろ！」
　まるで機を合わせるように、ケイとリューディガーの２人は踏み込み、殆ど同時に攻撃を繰り出す。
　瞬間、ケイが練り上げた氣を掌にのせ、ユミルの子の体表で炸裂させれば、その閃光を目がけて銃弾が飛ぶ。
「これで、終わりだ！」
　感情の赴くままに要の振り回すチェーンソーの前に崩れ果てる。ユミルの子。
　それでも荒ぶる感情は留まるところを知らないのか、要は禍々しいほどの叫び声を響かせて姿を消した。

　戦いが終わっても戦場にはざわざわとした戦慄が満ちたままで、どこから新手が現れるかも分からない。
　強敵を倒した達成感を振り返る間も無く、深手を負った和とケオの２人と共に、今は撤退をするしか無かった。
　７人の踏みしめる焦土の色は黒く、その黒色にはありとあらゆる無念が混じりあっているようにも見えた。

作者：ほむらもやし	重傷：平・和（享年二十六歳・e00547） ケオ・プレーステール（燃える暴風・e27442）  死亡：なし 暴走：八雲・要（英雄志望のドラゴニアン・e14465）
種類： 公開：2017年1月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 8
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