ミッション破壊作戦～魂の刃を突き立てよ！

■リプレイ

●ミッション４－１「鯖江眼鏡戦線」
　福井県鯖江市郊外――眼鏡フレームの日本シェア９６％を誇る鯖江市が、螺旋忍軍の一派『コンタク党』に包囲されて久しい。「鯖江眼鏡戦線」は今も尚、続いている。
「世界に眼鏡を、眼鏡に光を。コンタク党誅すべし！」
　高高度上空のヘリオンで、メリッサ・ニュートン（コンタク党壊すべし・e01007）は称号からしてヤル気全開だった。
「遂に怨敵コンタク党と雌雄を決する時が来ました！　聖地ＳＡＢＡＥを護る為に！　今こそ私の眼鏡力総てを以って闘います！」
　幸い、眼鏡力って何だ、とか無粋にツッコむ者はいない。
（「新年早々、何だかめんどくさい事に首を突っ込んじゃったけど……これ以上、鯖江市に何かあったら大変だ！」）
　正月中ごろごろしていた身体に鞭打ち、鯖江の為に立ち上がった眼鏡の自宅警備員（はサブジョブ）でありガンスリンガーの橘・相（気怠い藍・e23255）。服はジャージがあれば十分だが、眼鏡フレームくらいはお洒落したい。
「鯖江の町は眼鏡ストにとって憧れの地。何としても取り戻したいね」
「ええ、鯖江を失う事は多大な眼鏡的損失となりますから」
　大らかに頷く篠村・鈴音（焔剣・e28705）は、黒髪に赤のアンダーリムの眼鏡がよく似合う。
「そして、眼鏡とコンタクトの均衡を保たねばなりません」
「手ぬるい事を！　メガネに仇なす者に禍々しき指紋の汚れを！　死のひび割れを！！」
　メロウ・グランデル（眼鏡店主ケルベロス受験生・e03824）の言葉はいっそタカ派だが、眼鏡への愛は勿論、メリッサ率いる『眼鏡真教』の一員としての強い自負の表れだ。強気なメロウの様子に、ウイングキャットのリムが小首を傾げている。
「大丈夫ですよ」
　あくまでも明朗な敬語で、フフフと微笑む鈴音。
「コンタク党のコンタクトは、これでもかと割りまくってやりますから」
　それはもう執拗に、徹底的に、粉微塵に……シリアス？　そんなもの紛失しました。
「さっき確認したんだが、ミッション地域周辺に民間人はいないな」
　鈴音の笑顔に『属性：腹黒眼鏡』が見えた気がしたのは……きっとレンズが汗で曇った所為だ。黒縁のＰＣ眼鏡をクロスで拭き直す軋峰・双吉（黒液双翼・e21069）。
「コンタク党の包囲網は絶えずケルベロスが押し返しているしな。警察の避難の手間は省けそうだぜ」
「じゃあ、殺界形成も不要、ですね……っ」
　双吉に頷いた夜陣・碧人（幼竜の守歌・e05022）がピシリと固まった。箱から見上げてくる円らな瞳に撃ち抜かれ、堪え切れずぎゅうっとボクスドラゴン（属性：陽）を抱き締める。
「嗚呼、フレア可愛い！　超可愛い！」
「ギャウ！」
　眼鏡と関係ない所で萌えているが、碧人にとって眼鏡はフレアとの大切な思い出の１つ（詳細後述）。
「……まあ、女の子が眼鏡外したら実は美少女でおぉ！　ってなる浪漫は判る！」
　深淵を覗くには早くとも、判り易い浪漫だってある。ゲームのフラグみたいな事を呟き、うんうんと頷くゼロアリエ・ハート（魔女劇薬実験台・e00186）。多分、若草の髪に紅緋の瞳の少女とか思い浮かべている。
「俺がしてるのはゴーグルだろって？　細かいコトは気にするなよ、トレーネ！」
　ゼロアリエに話を振られたテレビウムは、ストイックにも無視を決め込んだ。そろそろ反応してくれる優しさが欲しい。
「アルトゥーロ、時間だってさ」
「……判った」
　肩を竦めたゼロアリエに起こされ、アルトゥーロ・リゲルトーラス（蠍・e00937）は仏頂面で目を開ける。ヘリオン搭乗時の要求通り、到着までそっとされたのも、きっと優しさの１つ。
（「コンタク党ねぇ」）
　「鯖江眼鏡戦線」のミッション発令は、第四次の最初。アルトゥーロには通り過がりにぶちのめしたような記憶しかない。改めて資料を読み直してみたが。
（「……全く。どこぞのビルシャナに洗脳されたような馬鹿の集まりだったんだからな」）
　出来れば、もう２度と地球に湧き出させたくない連中だ――何か色々と燃え（或いは萌え）ている仲間を見やり、青年は人知れず溜息を吐く。
　……取り敢えず、殲滅したいのは螺旋忍軍の方だ、念の為。
「鯖江は眼鏡の他にも、漆器や新鮮な野菜等々、名産品も沢山有るんですよ！」
　アルトゥーロが起きた所で、鯖江のご当地グルメ「サバエドッグ」を配るメリッサ。肉巻きおにぎりのフライにソースを付けた「あるくソースカツ丼」で英気を養う。
「鯖江の名産で作ったお弁当も用意していますから、後で食べましょう！」
　溢れる鯖江愛に、メリッサの意気込みが感じられた。

●魂の刃を突き立てよ！
　――光あれと神は言った。
　世に光が満ちた。
　次に神は光を集めるレンズを作り、それを支えるフレームを作った。
　眼鏡の誕生である（眼鏡創世記１－１より）。

「コンタク党倒すべし！」
　先陣を切ったのはメリッサ。勢いよくヘリオンから飛び降りる。
（「皆さんの言う通り、世界に誇る鯖江を失う事は眼鏡的損失！　その影響は計り知れません」）
　全鯖江市民と眼鏡を愛する全人類の心を代弁したくて、グラディウスに眼鏡力を込める。
（「眼鏡は、無限にも通じる神の器物ですから！」）
　無限に高まった眼鏡のグラビティ・チェインが魔空回廊を破壊すると強く信じている。
「そう、メガネがあるから……世界が見える！！」
　メロウにとっても眼鏡は特別。裸眼は手元も怪しい視力の彼女にとって、世界を広げてくれた眼鏡には圧倒的な感謝しかない。
　加えて、鯖江の崩壊が引き起こすだろう眼鏡界の経済的損失と技術的後退への焦燥。世界に誇る鯖江製高品質眼鏡の価値や人類の発展にさえ寄与する眼鏡テクノロジーへの畏敬。そして、眼鏡のみならずコンタクトまでをも汚したコンタク党への怒り――諸々を込めて、グラディウスを振り下ろす。
「全ての眼鏡の為、全ての眼鏡人の為、ひいては全人類の為。全身全霊、悪しきコンタクトは一切葬ります！」
「うおおお、もってけグラビティ！」
　熱意溢れる鈴音に続き、相も渾身の眼鏡力を込めてグラディウスを投擲……すると回収が面倒だから、握り締めて魔空回廊へ叩き付ける。
（「市民の大半が眼鏡事業に関わっている鯖江市。その鯖江市民に被害があったらとんでもないよね」）
　『眼鏡真教』の同志を頼もしげに見送り、５番手の双吉もヘリオンから飛び出す。
（「大所帯のテメェらには分からねぇだろう、孤独ってーのは辛いんだよ」）
　嬉しい事も悲しい事も分ち合う相手がなければ、生きる意味さえ見失ってしまう。
（「そんな俺にも、眼鏡のお陰で繋がった縁がある。出会えた同志がいる」）
「今日は『徳』のためでなく！　『感謝』で鯖江を守るんだぜッ！」
　碧人の脳裏に過るのは、大切な思い出。彼の２つの眼鏡は伊達だけれど。
　黄色の眼鏡はケルベロスになる前――故郷でドラゴニアンの男友達と買った。彼とは10年近く会えていない。
　赤色の眼鏡はケルベロスになった後――大切な相棒、フレアの色と合わせた。
　黄も赤も、どちらの眼鏡もヒールしつつ大事に使っている。
「伊達眼鏡でも大事な思い出。コンタクトでは代わりにならない！　勝手に思い出を滅ぼすんじゃない！」
（「うん、何がスキなんてのはヒトの数だけあるもんだし」）
　だからこそ、主張を通す為に街を破壊しようとするコンタク党は言語道断！
（「俺達ケルベロスが絶対に止める、皆を必ず守るから……グラディウスも力を貸して！」）
　魔空回廊を破壊して、鯖江に選択の自由と平和を取り戻す！　――そんな決意を込め、ゼロアリエは翔ける。
（「俺が、『鋏』以外の武器を扱う日が来るとはな……いや、兵器なら構わんか」）
　そうして、殿のアルトゥーロは思いの丈を叫んでヘリオンから飛び降りる。
「お前ら、本物の馬鹿か――っ！！」
　人相どころか目鼻も無いような連中が、したり顔で眼鏡やコンタクトレンズを語るとは！（螺旋模様の仮面とかはこの際棚上げる）
「今こそ湧き起れ、俺のグラビティ・チェイン！」
　グラディウスに、しょうもない事に手間取らせた怒りを乗せて。
　次々と強襲型魔空回廊に突き立てられる魂の刃――雷光と爆炎が起こる事８度。スモーク立ち込める中、メロウはグラディウスを握り締めたまま徐に立ち上がる。
（「な……っ！」）
　次の瞬間、メロウは愕然と眼鏡越しに薄紅の双眸を見開いた。

●俺達（眼鏡とコンタクト）の戦いはこれからだ！
「何が、足りなかったのですか！？」
　確かに手応えはあったというのに、魔空回廊のバリアは健在だった。忸怩たる思いで、メロウは唇を噛む。
　打倒コンタク党の士気が、鯖江解放の決意が、けして弱かった訳では無かろう。だが、比較的初期のミッションでも、１度で破壊出来る確証は無い。
「……それだけ、一筋縄ではいかないという事ですね」
　メリッサもとても悔しげだったが、思い切って踵を返す。
「行きましょう。撤退しないと」
　降下攻撃を敢行した今、迅速な撤退は死活問題だ。素早く１ヶ所に集まるケルベロス達。
「必ず全て無傷で持ち帰るよ」
　ゼロアリエの言葉に頷く相。各々蟠りを呑み、グラディウスを懐に撤退を図る。
「何だ、何が起こった！？」
「おい、伝令はまだか！？」
　コンタク党の殆どはパニックを起こし、無闇に怒鳴り右往左往。混乱を尻目に、敵地を駆け抜けるケルベロス達。
（「このまま逃げられたら、めんどくさくないんだけど」）
　一縷の期待を抱く相だが、流石にそうは問屋が卸さない。
「貴様らは！　ケルベロス！」
　「コンタクトは文明的」の巻物と巨大コンタクトレンズを構え、ゼッケンで「コンタク党」をアピール――立ち塞がった螺旋忍軍は、ミッションで対峙するコンタク党と変わらないように見えた。
「この奇襲も貴様らの仕業か！！」
　だが、逸早く混乱状態から立ち直ったのだ。それなりの強さに違いない。
「なるほど、お前が相手か？」
　素早く戦闘態勢を整えるアルトゥーロが、愛銃を抜くより速く。
「速攻行きます！」
　即座に練り上げた鈴音の霊力が紅刃を高熱化させ、神速の一撃を放つ。
「熱風の刃……疾れッ！」
　剣風と高熱で裂かれた気流がうねる。だが、鋭き熱風を上回る敏捷が尽くをかわした。
「眼鏡死すべし！　食らえ！　洗浄液手裏剣の術！」
　眼鏡には不要の毒液を浴びせられ、鈴音は苦しげに眉根を寄せる。
　攻撃をかわす一方、的確に当ててくる。攻防何れも優位なポジションは――キャスターのみ。
「曲がりなりにも忍者ですね」
　メタリックバースト、略してメガネ！（微妙に字が合ってない）　相は全身よりメガネ、もといオウガ粒子が放出する。
「こうなれば、眼鏡力でコンタクト分を中和、攻撃めがねです！」
　アルティメット眼鏡モードで威圧しながら攻撃するメリッサ。
「何が眼鏡だ！　只の降魔真拳だろうが！」
「私が既に眼鏡そのものですから問題ありません」
　……世の中、言い切ったモン勝ち、という場合もある。
「――あれれ。メガネどこやったんですかあ？　なくしちゃったんですか～あ？？」
　ならばとメロウが繰り出す形意眼鏡拳・『忘失』――相手の懐に潜り込み、眼鏡を模した両腕で顎下へ痛撃を見舞う。リムのキャットリングが追随した。
　一刻も早く決着を付けなければ、逆に囲まれかねない。ゼロアリエのブレイブマインは自らも含む後衛３人＋１体に。前衛の数は４人＋２体ならば、その判断は的確と言えよう。
「『蠍』の尾に撃ち抜かれたいなら、前に出な」
　一方、単体に範囲攻撃の制圧射撃は勿体無いが、二丁拳銃を愛用するアルトゥーロにも、譲れぬ拘りがある。
「残念だな、そいつは残像だ！」
　回復はディフェンダーの双吉やサーヴァントのトレーネ、フレアに任せ、只管に攻撃するケルベロス達。
「コンタクトでは容易に防げまい！　輝く陽の光に跪け！」
　スナイパーの位置から、碧人はフレアの力を光弾に変換、上空より叩き付ける。
　やはり狙いを付ける利点を活かし、ゼロアリエもスターゲイザーに轟竜砲を重ねていく。
　反撃に洗浄液手裏剣やコンタクトビームが奔るも、アルトゥーロのクイックドロウが確実に巨大コンタクトレンズを穿つ。
「く……ッ！」
　喩え強化型でも敵は１体。圧倒的な手数で封殺すれば。
「弾道計算完了、オーラ充填率うんにゃらかんにゃら諸々ＯＫ、あとは狙い撃つのみ……コンタク党死すべし！」
「痺れるね。惚れ惚れする眼鏡力だぜ」
　相のラディカル・ライカンス・ライトニング・パルス砲（略してラララ砲）が命中するに至り、思わずサムズアップする双吉。負けじとレゾナンスグリードを繰り出す。
「この一瞬、見逃さないでね！」
　すかさず、ゼロアリエは内蔵モーターフル回転。刹那の輝きで敵の目を晦ませて斬り裂く。
「おまけにどうだ？　熱い毒をたっぷり召しませ」
　更に精神を研ぎ澄ませたアルトゥーロの一撃は『蠍』の毒の如く。
「……俺１人倒したぐらいで粋がるなよ」
　尚も巨大コンタクトレンズを構えるコンタク党。
「魔空回廊がある限り、幾らでも補充は利く。替えの無い眼鏡に固執する貴様らは、使い捨てコンタクトの物量に屈するのだ！」
「ならば、割れるまで叩き潰すだけです！」
　今度こそ、鈴音の風斬が幾重にも忍影を刻む。フレアのブレスに合わせ、如意直突きで突貫した碧人は伊達眼鏡を掛け直して言い放った。
「ＴＰＯで付け替えられる眼鏡の方がお洒落ですよ」
「ほざくなぁっ！」
　この期に及んでのコンタクトビームを遮り、メロウは不敵に眼鏡越しの双眸を細める。
「フフフ……そんなにゆがんだレンズで私達を捉えられますか？」
　応酬の稲妻突きが貫いた瞬間、メロウは肩越しに声を張る。
「今です！　メリッサ教主！」
「これが、私の眼鏡だあああああああああ！！！」
　自身の身長より巨大な眼鏡をフルスイング。その大きさに相応しい莫大な眼鏡力を、一気に叩き付ける。その名も眼鏡天墜（メガネス）――メリッサ渾身のファイナルアタック。
「ば、馬鹿な……眼鏡如きに！」
　不倶戴天の眼鏡に引導を渡されるとは思ってもみなかっただろう。愕然とした呻きと共に、巨大コンタクトレンズが粉々に砕け散る――。
「撤退するぞ」
　ポジショニングで息を整えてアルトゥーロが促せば、一斉に身を翻すケルベロス達。幸い周囲は混乱のまま。速やかに離脱出来そうか。
「これにて一先ずは終幕……些か不本意ですが」
「次こそは必ず！」
　眉を顰めてフレアを抱ぐ碧人に、鈴音の言葉はいっそ前向きで力強い。
「鯖江解放は……まあ、また今度かね？」
　刹那、後ろ髪引かれるように立ち止まり――双吉は振り切るように駆け出した。

　――今回の作戦で破壊が成功したミッションは８ヶ所。上々とも言えるその成果をケルベロス達が知ったのは、首尾よく撤退して後。
　残念ながら鯖江市の解放は成らなかったが、魔空回廊に穿たれた刃は、確実に次回への礎となったに違いない。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年1月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 9
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