ミッション破壊作戦～ケルベロス降下！砕け魔空回廊！

■リプレイ

●魔空回廊へ降下せよ
　ケルベロスたちを乗せたヘリオンは、石川県・小松空港の上空を通過して、魔空回廊へと向かっていた。
「魔空回廊を壊してデウスエクスから生活圏を取り戻す。上等じゃねーか」
　狼のウェアライダーの耳で、ピアスが光る。
　上里・もも（遍く照らせ・e08616）の言葉に不敵な表情で応じたのは、同じく狼。
「荒らして奪って『ハイ、さよなら』じゃあ済まさねぇ。そろそろツケ払って貰わにゃなんねーよなぁ。機械の頭でも分かる様に、徹底的にやらせてもらうぜ」
　銀狼である狗上・士浪（天狼・e01564）も、小剣を手に眼下に告げた。
　視線の先にあるのは、直径３０ｍもあるドーム型のバリア。魔空回廊を覆うもの。
「これが、ダモクレスとして過去に活動してた自分の償い……と言っていいのかはわからないけど。このミッション、そして敵を確実に潰したい」
　滝・仁志（みそら・e11759）の柔和な表情には、決意がにじんでいる。
「目標直上に到着。攻撃の時間だ」
　黒鉄・鋼（黒鉄の要塞・e13471）がフルフェイスの黒い兜の下から皆に呼びかけた。
「今までになかった作戦を成功させりゃビッグニュース！　侵攻を食い止めてばかりだったケルベロスが今度は奪還するんだ」
　ももがグラディウスを構える。
「地球のみんなへ希望を齎すのに、これ以上のニュースはないだろ？　さあ行こうぜ」
　ケルベロスたちがヘリオンから順に宙へと飛び出していく。
「行けるか？　頼んだよ」
　仁志がテレビウムのカポに笑顔を見せ、それから表情を真剣なものに変えた。
「この日のために、私自身を見つめなおし、何度も声を出す練習をしてきました。機械の音を聞き、それを音楽にしてきた、私自身の音を声に乗せましょう。さぁ、開演です」
　アト・タウィル（静寂に響く音色・e12058）は目を閉じて大きく息を吸うと、ヘリオンから足を踏み出した。
「いいですねっ。あなたの音を聞かせてください。私も、ケルベロスとしてもアイドルとしても、全部の想いを乗せます」
　ロージー・フラッグ（ラディアントハート・e25051）は明るく笑って、アトに続く。
「剣なんざ持ちたくない……“あの日”を思い出すから……」
　少女にも見える狐の獣人が、グラディウスを握って顔をしかめる。
「なんて甘えたこと言ってる暇はねぇか。自分で選んだ道だしな
　ミツキ・キサラギ（狐影焦然・e02213）はなにかを振り切るように、グラディウスを一振りしてから飛び出した。
　７人がヘリオンから飛び出して、残るは１人だけだった。
「こんな所に飛び降りるなんて、手に汗握っちゃうよ～！」
　風陽射・錆次郎（戦うロボメディックさん・e34376）の声が情けなく響く。
　言葉だけ聞くと、最年長でありながら飛び降りることに恐怖を感じているようにも見えるが、視線は仲間たちが予定通り降下していくことを確かめていた。
　錆次郎の肥満気味の体が華麗に宙を舞い、ヘリオンはそのまま戦場を離脱していった。

●シャウト！
　直径３０ｍのドームは見る間にケルベロスたちへと近づいてきた。
　士浪やももの耳や尻尾が、アトのくせっ毛が、ミツキやロージーの長い髪が、下から叩きつけられる風に激しく揺れる。
　バリアが近づいてきた。
「アイドルとしてもケルベロスとしても、地球のためにもっともっと頑張るのです！　一人でも多くの人に希望を、笑顔を与えられるように！」
　ロージーの叫びが、風に負けぬ勢いで仲間たちの耳に届く。
「そうしてもっと有名になって、年末の音楽イベントに出るのが私の夢ですから！　そうすればもっともっと多くの人に私の歌を聴いてもらえますから！」
　彼女はマイクのようにグラディウスを両手に握っていた。
　他のケルベロスたちも同じだ。込めるべき想いを心に浮かべ、あるいは言葉に出しながら、息を大きく吸い込む。
　そして、グラディウスを振り上げる――。
「世界に、希望を！」
　もものグラディウスがバリアに触れて、激しい雷光と爆炎をまき散らす。
　爆発音に負けぬケルベロスたちの叫びが魔空回廊に響く。
「やられっ放しは気に食わねぇからよぉ！　全力でブッ壊させてもらうぜ、クソども！！」
　士浪の声はまるで吠えるようだった。
「私は、楽器を操るモノ！　声という楽器をグラディウスに合わせ、壊させていただきます！」
　アトがまるで歌うように叫んだ。
「夢を叶えるためにも、この戦いには絶対に目的を果たしてみせます！」
　ロージーの豊満なバストが先行した仲間たちの起こした爆発に揺れる。
　すでに４度の爆炎と雷光がまき散らされ、さらに上空からケルベロスたちが続く。
「誇りに掛けて！　名誉の為に！　さらばだ、飛翔機士！」
　鋼の言葉は魔空回廊の彼方まで届けとばかりに放たれる。
　仁志もまた、この地に現れる敵へと思いをはせていた。かつて彼自身もその一員だったからこそ、ダモクレスを１体でも破壊することが彼のすべきことだと、信じていた。
（「だから俺はここに来たんだ」）
　力を込めてバリアへと小剣を突き出す。
「頼んだぞ、グラディウス……吹き飛べっ！」
　６度目の炎。けれども回廊は壊れない。
　ミツキも剣を突き出す。
（「今はまだ乗り越えられなくてもいい。一瞬だけ……振るえれば、それでいいはずだ」）
　思い出したくない記憶。『剣客』だった彼が剣を置いた理由を押し殺す。
「８年……いや、９年ぶりか。西洋剣……しかもかなりブランクはあるが、問題ねぇぜッ！」
　かつて身に着けた技を心の中から引っ張り出す。
「元天才剣士如月が剛の剣！　受けてみなッ！！　ってなぁ！　だぁっしゃあらああああ！！」
　７度目。
　最後の錆次郎が、グラディウスを持った腕を回転させて落下する。
「こ、こんなに硬い物を殴る事になるなんて、僕、手に汗、握っちゃう、よぉぉぉおおおお！　砕けろこらぁ！」
　全力で叩きつけた剣先から、８度目の爆炎と雷光が散った。
「どうだ、砕けたか？」
　誰かが叫ぶ。
「ダメだよぉ！　手応えはなかったよ」
　最後に攻撃した錆次郎の肥満体が、見惚れるような華麗な着地を決めた。
　小松空港付近にある回廊は、現在見つかっている強襲型魔空回廊の中でも比較的高い実力を持つ敵が現れる。当然ながら、回廊破壊の難易度も高くなる。
　１回の攻撃で破壊できる可能性は０ではなかったのかもしれないが、よほどの大当たりを引けなければ無理だったようだ。
　だが、ダメージは与えた。
　破壊しきれなかったことを悔しく思う気持ちはあるが、役目は果たしたのだ。
　声をかけ合いながら、ケルベロスたちは攻撃で舞い上がった埃の中、移動を始める。

●撤退戦
　合流した８人とサーヴァントは魔空回廊から離れる方向へと移動していく。
「誰かグラディウスを預かっててくれ。剣は持ちたくないんだ」
「それじゃ、僕のリュックに刺しておきなよ～。僕は回復に回るつもりだから」
　ミツキの願いに、錆次郎が応じた。
　聞いていた通り、すべての敵を目くらましだけで突破できるわけではない。
　行く手をふさぐように敵が飛来する、青紫に輝く戦闘機型モジュールを駆り、ライフルを手にした女性型のダモクレス。小松空港や基地に幾度も現れた敵。
　否、空爆を繰り返してきた飛翔機士よりさらに強力な個体なのだ。
　無為に高空を飛ぶ不利は分かっているようで、ライフルを向けたまま飛翔機士は地上から手の届く高度でケルベロスに向かってくる。
　ロージーはチェーンソー剣で身を守りつつ前進する。
「わぁ、すごい飛行機ですねぇ。でも、落とさせてもらいますから！」
　強敵に前方をふさがれながらもロージーに緊張した様子はない。昔のことは覚えていないが、少なくとも今の彼女はこうなのだ。ピンチだからってそうそう変えられない。
　敵は無言のまま、ライフルから冷気のレーザーを放ってきた。
　一瞬にしてロージーの大きな胸が揺れるのをやめ、全身から熱が奪われる。
　強化型だけあって、守りを固めている者以外が食らえば一発で危険なほど体力を奪われてしまうだろう。いや、ロージーだっておそらく何発も耐えられない。
　それでも前進しながらいざという時の退路を確かめようとするが、この敵を避けたところでおそらく他の飛翔機士に遭遇するだけだとわかった。
「気をつけてください！　すっごく冷たいです。でも、倒さなきゃ撤退はできません！」
　仲間たちに呼びかけながら凍結光線を放つ。
「ロージーの言う通りだよ！　こっちに来てないだけで周りにまだたくさん敵がいる。急いで倒すしかない！」
　ももは言葉と共に、凍り付いた敵に竜砲弾を撃つ。
「スサノオ、みんなを守ってね！」
　呼びかけられたオルトロスは果敢に霊剣を叩きつけることで主に応えている。
　鋼はロージーの横に並んだ。
　なるべくディフェンダーの近くにいることで、かばわれやすくなることを期待しての行動だ。もっとも、戦場では皆動き回っているので、どの程度影響するかわからないが。
「倒すよりないならば、全力をもって敵を討つのみ！」
　守りは仲間に任せ、絶え間なく攻撃を続けるのが鋼の役目だ。
　真っ黒な兜の下から敵を観察し、構造的弱点を演算する。痛烈な勢いで振り下ろしたチェーンソー剣がモジュールの風防を割って穴を開ける。
　仁志の対デウスエクス用ウィルスカプセルが穴から飛びこんで、ダモクレスを冒した。
　回復に回った幾人かを除き、他のケルベロスたちも飛翔機士に攻撃を加えていた。その間にカポの動画とアトの歌がロージーを鼓舞し、錆次郎のオーラも彼女を癒す。
　敵は反撃をものともせずミサイルを降り注がせ、そして再びレーザーを放ってきた。
　冷凍光線から、ミツキをかばったのはカポだった。
「カポ！　ごめん、無理をさせちゃって」
　仁志は倒れたサーヴァントに呼びかけた。カポは仁志を見上げ、そのまま消えていく。
　サーヴァントは言葉を発しないが、仁志には気にするなと言っているように見えた。
　動きを止めている時間はない。カポならずとも、ミサイルのダメージが残っている状態で光線が直撃すると危ないのは他の者たちも同じなのだ。
「……凍えても心の根は枯れない、だから大丈夫」
　爽やかな風が吹き抜ける。デウスエクスに支配された地に、スミレの花が咲いていく。
　踏まれても立ち上がる花の姿は前衛のケルベロスたちに力を与える。
　仁志自身も心の痛みを乗り越えて１体でもダモクレスを討たなければならないのだと自分に言い聞かせた。
「助かったぜ、カポ！」
　ミツキの手にしたドラゴニックハンマーが力を噴射して飛翔機士を打った。
　士浪はいくら攻撃しても表情を動かさない敵を睨みつけた。
　盗り放題だと思いあがってる奴らに、思い知らせてやらねばならない。
「茶々入れてくる奴ぁ、皆……！　解体してやんぜ！　螺子一本、リサイクルできねぇ様になぁ！　只管に……喰らい尽くせ」
　狙いを定めて一気に敵に接近。移動しながらグラビティ・チェインで極限まで肉体を活性化させる。
　息吐く間もない拳の連打が、飛翔機士の体を何度もとらえる。
　だが、その反動で士浪自身の肉体もきしみ、悲鳴を上げているのがわかった。
「安いモンだ。この程度の……反動、なんざ、な」
　血のにじむ拳を握り直し、彼は敵から距離を取った。

●突破の代償
　いくら攻撃してもダモクレスは表情を変えず、時間だけが過ぎていく。機械である以上は当然のことか。けれど、刻みこんだ傷が無駄な攻撃でないことを教えてくれる。
　幾度かデータを解析して態勢を立て直そうとしていたが、仁志が最初に打ち込んだウイルスがそれをいくらか阻害しているようだ。
　仲間をかばって、次に倒れたのはスサノオだった。
「ありがとう、スサノオ」
　ももが呼びかけながら敵を睨みつけると、白い炎が爆発した。
　ロージーのチェーンソーが、アトの放つ使い魔が、敵の傷を広げていく。
　これまでの戦いでケルベロスたちの誰もが傷ついていたが、特に仲間を守る役目の仁志とロージーはギリギリのところで踏みとどまっているだけだった。
　錆次郎は両手をわきわきとさせながらロージーに近づいていく。
「さぁ、傷を見せてねぇ？　大丈夫、痛くしないからねぇ？」
「だ、大丈夫ですかぁ？」
　天真爛漫な彼女も、近づいてくる挙動不審な彼にちょっと抵抗を感じているようだ。ちょうど大きな胸の高さで手が動いているのも原因か。
「もちろん、大丈夫。下心なんて何にも無いから、デュフフフフ……」
　動きは怪しいが、その処置は的確。傷だらけの彼女を治療する。
　けれど、ロージーを癒している間に冷凍光線が仁志を凍結させていた。
「後は……任せるよ」
「ああ、やってやるぜ！　Sterben ！！」
　ミツキは仁志の言葉に応じて、符を構えて掌打を打ち込んだ。
　符術は敵の体内に直接斬撃を叩き込む。内外同時の攻撃が、敵の体内を破壊する。
　守り手が減ったことで他のケルベロスたちに攻撃が向かうことが増えた。
　冷凍光線を受けた鋼がたまらず後退してくる。全身を覆う鎧は傷ついていないようだが、中身は別だ。錆次郎が今度は彼の回復に回る。
　ももは後衛から、常に戦場を俯瞰しながら戦っていた。
　だから最初に気づいたのは彼女だった。
　戦闘に時間がかかりすぎている。
「まずいよ、スモークが収まってきた！」
　狙ったのは高難易度のミッションなのだから、もっと攻撃を重視するべきだったのか。とはいえ、攻撃に偏りすぎると強敵の攻撃に耐えきれなかっただろう。
　彼女はドラゴニックハンマーを噴射させて、叩き潰す。士浪もオウガメタルの拳を飛翔機士に叩き込んだ。けれど、敵はまだ倒れない。
　ミサイルが降り注ぎ、ロージーが倒される。
　サーヴァント以外に倒れたのは２人のみ……とはいえ、他の飛翔機士たちが集まってくれば８人全員が残っていたとしても突破の目はない。
「私が囮になります。皆さんは……逃げてください」
　アトは仲間たちに告げた。
　幼く見える彼女の体内から、歯車が軋む音と、モーターの駆動音が、仲間たちに聞こえるほど大きく響きだした。
「アトさん！」
　ももが叫んだ。
　高速で飛び出したアトが、最初からいた飛翔機士に激しい攻撃を加える。
「暴走か……くそっ、任せるしかないか」
「ひ、仁志くんとロージーさんを連れてかないとね～！」
　士浪と錆次郎が言葉を交わす。
　十倍の戦闘能力を得たアトが飛翔機士を撃破したところで、ケルベロスたちは一気に駆けだした。
「貴方は最後までダモクレスとして戦いました。俺は、貴方を誇りに思います」
　アトに倒された飛翔機士へと、鋼が静かに告げた。
「急ごうぜ。俺が殿になる」
　ミツキは仲間たちが逃げるのを待って最後尾で移動を始める。
　戦いはまだ終わりではない。グラディウスが再び力を得て、魔空回廊を破壊する機会を得るためにも、ケルベロスたちは全力で戦場を駆け抜けた。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：アト・タウィル（静寂に響く音色・e12058）
種類： 公開：2017年1月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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