ミッション破壊作戦~凍空より降る

作者:譲葉慧

「今年のクリスマスは、ゴッドサンタから中々乙なプレゼントがあったな」
 ヘリポートに集まったケルベロスに向けて、マグダレーナ・ガーデルマン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0242)はにやりと笑った。
 プレゼントとは、クリスマスの巷を襲おうとして敢え無く破壊されたゴッドサンタが携えていた、『グラディウス』なる小剣型の品のことだ。
 グラディウスの使い道がわかったのだと言い添えるマグダレーナは上機嫌だ。笑みを深める口元から牙が覗いている。
「喜べ。降下強襲作戦だ。目標はミッション地域に設置の魔空回廊。グラディウスには魔空回廊を破壊する力があってな。グラビティ・チェインを込めて叩きつければ、魔空回廊を防護するバリアごと一網打尽よ」
 日本各地のミッション地域では、デウスエクス各種族とケルベロスとの戦いが続いている。設置された強襲型魔空回廊からの増援の為、今まで制圧することは叶わなかった。
 グラディウスを用いれば、その状況を打破することができるというのだ。態度に出す出さないはそれぞれながら、ケルベロス達の意気が上がったのをマグダレーナは愉し気に見遣った。
「早速説明に入るぞ。とは言っても、魔空回廊はミッション地域の中枢にあり、地上突破はいささか無理がある。高高度のヘリオンから降下し、グラディウスでバリアを破り、魔空回廊を破壊するのだ。バリアは……そうさな、ドーム状で半径30メートルといったところだな」
 そこまで説明したところで、マグダレーナは傍らの保管箱の鍵を開けて見せた。中には人数分のグラディウスが入っている。
「これがグラディウスだ。作戦参加者1人に1振りずつ貸し出される。剣の形をしているが、魔空回廊攻撃の為だけにしか使えない。だが、グラビティ・チェインの充填で繰り返し使えるのでな、忘れず帰還時に持ち帰ってくれ」
 輝く剣をケルベロス達に手渡し、皆に行きわたったのを確認した後、マグダレーナは話を続けた。
「グラディウスの真価は、使用する者のグラビティの力に依るところが大きい。己のグラビティを高め、グラディウスを振るえ。極限まで高まったグラビティを叩きつけられれば、ただの一度で魔空回廊を潰せるかもしれんぞ」
 グラビティを高める……言うのは易いが具体的にどうすればよいのかと困惑しているケルベロスも居るのを、マグダレーナはその話は後だという風情で目配せし、更に続ける。
「グラディウスは攻撃時、雷光と爆炎を放ち、グラディウス所持者以外を襲う。それにより防衛戦力をある程度抑えることができるが、奴らが強襲に混乱している間に、攻撃で生じた煙幕に乗じ、撤退するのだ」
 防衛戦力はどのデウスエクスか、規模はどのくらいかと問う声があがり、マグダレーナは声の方へ目を向けた。
「迎撃に現れる者は、攻撃先のミッション地域によるな。規模は……まず、グラディウスの攻撃を潜り抜けた強敵との戦いが見込まれる。迅速に撃破し、撤退せねば、統制を取り戻した奴らに囲まれるぞ。現地でミッション中のケルベロスの力も借りられるかもしれないが、撤退を念頭に置いて作戦を立てねば、思わぬ窮地に陥るかもしれない。心せよ」
 マグダレーナは日本の地図を取り出し、ケルベロス達に見せた。各地のミッション地域に印がついている。
「どのミッション地域を攻撃するかは、作戦参加者の任意だ。その決定に従い、私はヘリオンを飛ばそう。ミッション地域によりデウスエクスの強さが異なるが、強ければ強い程、魔空回廊の破壊に必要な力は大きいと見てくれ」
 早速ミッション地域の選定にかかるケルベロス達に向け、マグダレーナはまたにやりと笑った。
「グラビティを高めるとは、己の心の力を高めるということよ。皆、それぞれに、デウスエクスと戦う理由やケルベロスとして抱えている思いがあるだろう。それを叫びに変えて、グラディウスの刃に乗せるのだ。つまり気合と根性というわけでな。至ってシンプルな話なのだ」


参加者
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)
眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
七星・さくら(桜花の理・e04235)
屋川・標(声を聴くもの・e05796)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)

■リプレイ


 高知県蟠蛇森。大蛇の伝説に因んだこの山は、今はグラビーチェリと称され、そして自らそう名乗っているドラグナーの本拠となっている。
 グラビ―チェリを駆逐するべく、今までケルベロス達は幾度ともなく攻勢をかけたが、攻め落とすことはできないでいた。蟠蛇森に設置されている強襲型魔空回廊からの増援のためだ。
 しかし、状況を打破する機会がついに訪れた。クリスマスに現れたゴッドサンタより奪取した『グラディウス』。グラビティ・チェインを内包する小剣型の決戦兵器は、自己のグラビティを高めたケルベロスの手で振るわれれば、強襲型魔空回廊にダメージを与え、破壊することができるのだ。
 直ちにケルベロス達が集まり、全国の強襲型魔空回廊へと旅立っていった。今蟠蛇山上空、高高度に到着し、ホバリング中のヘリオンもその1機だ。
 魔空回廊直近はグラビーチェリ達によって強固に守られており、地上から目指すことが困難だ。その為、上空からの降下強襲により魔空回廊の破壊を目指す。
 ヘリオンの扉は既に開け放たれ、グラディウスを携行したケルベロス達が効果するべく待機していた。彼らには、グラディウスに託す想いがあった。それぞれの想いは違えど、その力こそが、グラビティを高める唯一の鍵なのだ。

 枯れ色の混じる木々が、眼下に広がっている。冬只中の寒々とした景色だが、あとひと月程で、名物である雪割の桜が咲く季節が巡って来るのだそうだ。エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)が出立前に現地について調べた時に知った話だ。シャドウエルフである彼女にとって、生命を育む豊かな自然と森に、その簒奪者達が巣食うのは到底許せることではなかった。
 グラビーチェリを追い払い、蟠蛇森に元の静けさを取り戻す――それが、エスカがグラディウスに託す決意だ。柄をぐっと握りこみ、グラビティの力を籠める。
「森に生きる者として、これ以上この地を蹂躙はさせないです!」
 エスカは先陣を切り凍空に身を躍らせた。グラビティを発しながら落下する姿は、さながら一筋の流星のごとくであった。
 次に飛び降りたのは、ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)だ。彼は戦う『人』の姿を目の当たりにして、ダモクレスからレプリカントへと変わった。そしてケルベロスとなった今も、人の在り様、その『可能性』の底知れなさに驚異は尽きることが無い。
 デウスエクスに比べ、人は弱い。脆弱極まりない。攻撃されれば命尽きて終わりの、グラビティ・チェインを搾取されるだけだった種族。だが、それでも支配に屈せず足掻いた人は、今日という日に辿り着いたのだ。
 見るがいい――ジドは落下先、グラビーチェリ達の居る方を見据えた。魔空回廊の破壊など、今まで考えもできなかった攻撃だ。それが実現したのは地球の人々の『可能性』故だ。
「地球の人々の『可能性』を奪おうとする貴様らデウスエクスを、私は決して許しはしない!」
 ジドの叫びに応じ、グラディウスは共鳴し震えた。内包するグラビティ・チェインが増大していく。それはデウスエクスの兵器が、ケルベロスに応じた瞬間であった。
「僕は『人』が好きだ」
 屋川・標(声を聴くもの・e05796)はすっと目を閉じてそう呟いた。人の在り様に触れレプリカントに変化した者。彼もその点ではジドと同じだった。だが彼の中に心を生み出したのは、人のこころそのものだ。悲喜の感情、そしてそれが発露し、泣き、笑う人の表情。かたちを持たず、不確かな、しかし温かく標の胸を満たすそれは、何よりも彼にとって護り抜きたいものだ。グラビーチェリにこの地を追われた人達、そして同様に全国で居場所を奪われた人達のために。
「人の生きる場所を、生きていた場所を、思い出が詰まっていた場所を取り返すためなら、僕は命を賭けられる」
 標の手の内に熱が伝わった。それはあたかも彼に流れる血潮がそのままグラディウスに流れ込み熱く燃えるいのちを与えたかに思えた。
 降下具なしの高高度からの自由落下は、容赦なく身体に空気の奔流が打ち付けられる。だが、千歳緑・豊(喜懼・e09097)は空気の流れに身をゆだね、まるで些事といった様子で近づく地上を見ている。
「殺せるなら何でもいいんだよ、私はね」
 地上にいるのがドラグナーだろうが何だろうが、デウスエクスでありさえすれば良い。己の機能を最大駆動させ、生と死の境界の線一本の上に立ち戦う。己が境界のどちらに踏み込むかは、時の運も含め己次第、それこそが闘争というものだ。そこに在るのは、ただただ利己。お為ごかしの気振りすら豊にはなかった。
「さあ、本気の殺し合いと行こうじゃないか!」
 その思いは異色であり不純かもしれない。だが、それが豊の生きてきた、そして生きる道筋にあって最も強い欲求であった。何一つ偽らざる思いは、グラディウスと豊を繋ぐ触媒となる。膨れ上がるグラビティを感じ、闘争の予感に彼は愉し気に笑んだ。
 降下する仲間達のグラビティが高まっていく。目に見えずとも、眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)には空域に力が満ちているのが分かった。彼は手にしたグラディウスの刃を見つめた。小振りの剣は、武器として振るうには心もとなく見える。だが紛れもなくこれは決戦兵器であり、その真価は弘幸が引き出すものなのだ。
 全ての人を救う……弘幸は自分がそこまでの大義を持っている訳ではないと思っていた。しかし、グラビーチェリの本拠、魔空回廊を目前にし、胸を灼くこの思いは、なんだ。
「……疼くんだよ」
 それは渇望だ。
 グラビーチェリはドラゴニアンを狙い殺戮し、鱗を奪う。かつて己が主をドラゴニアンに傷つけられたからだという。奴らの手でどれだけの無辜の人が命を奪われたのか。
「なあ、分かるだろ? 俺の疼きが……今俺がどれだけ目の前のこいつを破壊したいのか」
 弘幸の語りかけに対し、グラディウスは生を得たかのように脈動する。己が手と一体となったような感覚を覚え、弘幸はグラディウスの応えを確かに感じた。
 高速で落下するケルベロス達に、地表が迫っている。バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)は、一撃で魔空回廊を葬るべく、グラディウスの切っ先を真下に構え垂直に落下していた。
「今度はこちらの番だ」
 今までの対デウスエクス作戦の多くは、ヘリオライダーの予知に基づく迎撃であった。言わば対症療法的な作戦である。ここに来てやっと、攻めに転じる機会が訪れたのだ。人がいつまでも甘んじていると思うな――バーヴェンは咆えた。
「地球を……舐めるなよーーーーッ!」
 この切っ先がデウスエクス共を塒に叩き返す嚆矢だ。グラビティが収束した刃を、バーヴェンは改めて真っ直ぐに構えた。
 真冬の冷たい風が七星・さくら(桜花の理・e04235)の身を切るようにすさぶ。だが、グラディウスを持つ手に残る温もりが守ってくれている。
 降下前まで、ドラゴニアンの虐殺者グラビーチェリが大切な人を何時か奪うのではないかとの思いは、打ち消しても打ち消しても、心からなくならなかった。
 ヘリオン内で人知れず震えるさくらの手に、大切な人……ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)の手が重ねられる。眼下の魔空回廊を見つめるヴァルカンは何も語らない。だがそれは、千の言葉にも勝る誓いであった。
 温かく大きな手が、寒さも不安も遠い処へと追い払ってくれた。大切な人と一緒なら、何処までも行ける。何でもできる。さくらの朗々とした声が空へ響き渡った。
「地球を、ケルベロスを……そして、恋する乙女をナメんじゃないわよこんにゃろーっ!」
 ヴァルカンは姿を見ずとも愛しい桜の娘を側に感じていた。さくらさえ傍に居れば、何にでも立ち向かえる。一歩も退かず戦える。必ず守りきってみせる。半ば咆哮と化した叫びが、ヴァルカンの喉から迸った。
「この身は力無き者達を、大切な人を守るためにあり! 括目せよデウスエクス……我が信念の刃を以て、貴様等の企てを打ち砕かん!」
 空を裂く8つの刃が、魔空回廊上を覆うバリアーへと接触する。地を揺るがす衝撃と共に、爆炎と雷光が魔空回廊全周を襲った。


 グラディウスの直撃は、魔空回廊付近のグラビーチェリ達を吹き飛ばし、一掃した。一帯は衝撃によって生まれた煙で覆われ、所々で帯電した空気が火花を散らしている。視界が阻まれる状況で、エスカは目を凝らした。……損傷を受けつつも魔空回廊は未だ残っている。
「魔空回廊はまだ残っています。増援が来る前に撤退しましょう」
 ケルベロスの力が足りなかったのではない。この魔空回廊の強度が高かったのだ。ここは後に続く仲間達に託し、標を先頭に、ケルベロス達は煙を突っ切り走り出した。
「こちら側なら、グラビーチェリ討伐に来ているケルベロスと合流できるはずだよ」
 あらかじめ、標は蟠蛇森の戦場について調査していた。ケルベロスの攻め口へ向けて脱出すれば、攻め手のケルベロスの支援を受けられる可能性がある。走りながら距離感を量る標の目前、徐々に薄まってゆく煙の中に、異形の影が揺らめいた。影はケルベロス達の行く手を阻み立っている。どうやら脱出前に一戦交える必要がありそうだった。

「我は運が良い。魔空回廊を害した者共を血祭りに上げる事ができるのだからな」
 ケルベロス達の姿を認め、目を眇めたグラビーチェリはくつくつと笑い、巨大な骨剣で斬りかかって来た。血が染み付き所々赤黒い刀身が、弘幸に打ちおろされる。
 これは、同朋の骨で出来ている。一撃を受けた弘幸の眉間の皺が、更に深く刻まれた。
「楽しそうだな、骸漁りさんよ。俺が遊んでやるぜ、もっと楽しいぞ……何せ俺はドラゴニアンだからなあ」
 弘幸は骨剣を持つグラビーチェリの腕を掴んで引き寄せ、出来た死角に炎を纏った蹴りを叩き込んだ。彼の脚から燃え移った地獄の炎がグラビーチェリの胴体を舐める。
 双方の間合いが離れた丁度その瞬間を見計らい、支援位置に陣取るジドは爆破スイッチを押した。仲間達の背で小さな爆発が連鎖して起こる。花火を思わせる明るい色と、爆風の勢いは仲間達の士気を上げ、攻撃力を上げる効果を持つ。
 次いで静かに燃える炎の壁が、グラビーチェリの至近で戦う仲間達の前に立ち昇る。それはヴァルカンが体内に巡る気を練り上げ炎の形に具現させた護りの意思そのものであった。炎の守護はグラビーチェリの骨剣を受け止め、その妄執の吐息を焼き清めるだろう。
 炎の壁を飛び越え、標は目を閉じ、スモーキン・サンセットを掲げた。知覚できるのは、ずっしりとしたルーンアックスの重みと、稼働する機関から噴き出す蒸気の音だ。それらは彼自身が一本のルーンアックスと化したような感覚をもたらした。身体をしならせ勢いをつけ、刃を振り下ろす。分厚い刃からは確かな手応えが伝わってくる。
 ジドの支援も相まっての恐るべき一撃に、グラビーチェリは一歩後ずさった。それに乗じ、豊は己の内奥の地獄の炎から、五つ目に先端が棘の尾を持つ犬のような獣を造りあげた。
「君たちの残霊は斬撃に弱かったけれど、君はどうかな?」
 形状し難い獣は、グラビーチェリに牙で食いついた。血の流れ落ちる傷痕の様を見、見立て通りと豊は笑んだ。だが血はもう少し派手に流れても良い。自分の流儀からは外れるが、腕に仕込んだドリルならもっと深手を負わせられるはずだ。その機を得んがため、豊はグラビーチェリの隙を狙い、間合いを図る。
 豊とは別の側では、双手に如意棒を持ったエスカがグラビーチェリの急所を探っていた。この戦いは迅速な決着が命運を決する。今この瞬間にもこの地に居る別のグラビーチェリ達が迫りつつあるはずなのだ。ここで彼らに取り囲まれたならば、突破は容易ではない。
 最大火力で当たる――伸びた如意棒は装甲の隙間、生身の部分を強かに突いた。急所を見抜く眼力と正確に狙う技量の両輪が揃っての達人の一撃だ。
「おのれ、小賢しい真似を……燃え尽きるがいい!」
 グラビーチェリはドラゴニアンに向け、怨念のこもる吐息を吐いた。粘り付くような妄念が至近で接近戦を仕掛ける4人に纏わりつき、バーヴェンと標の身体で発火した。
 だが、身を焼く炎が勢いを増すのも一向に介さず、バーヴェンは稲光を放つ斬霊刀を真っ直ぐ突き込んだ。迸る稲妻が、グラビーチェリの装甲を弾き飛ばし、生身の皮膚を顕わにする。
 グラビーチェリは深手を負っている。勝敗が決する時は近い。だが、周囲の気配に気を払っていたさくらは、増援らしき複数の気配が近い事に気づいていた。目の前のグラビーチェリは一切退く気配がない。もしも、このまま合流されたら……背筋に冷たいものが走る。しかし、不吉な考えを振り払い、さくらはにっこりと笑った。
「もう少しだよ。わたし達なら絶対勝てる!」
 仲間を鼓舞するさくらの身体が銀色に輝き、バーヴェン達前衛を照らした。妄執の炎は銀光と共に去り、傷を塞ぎ、そして潜在意識に眠る感覚を解き放つ。
 解き放たれたヴァルカンの超感覚は、刃先をグラビーチェリの傷痕をなぞるように導いた。刃の動きから一瞬遅れて、血煙が立つ。
(「これはお前達に殺められた者の分」)
 ヴァルカンはグラビーチェリを見据える。その目をグラビーチェリは血走った眼で見返し、骨剣をヴァルカンに振るった。だが、それこそが思う壺だったのだ。護りの態勢に加え、斬撃を和らげる防具を着込んだヴァルカンは、平然とその身で骨剣を受け止めた。
 忌々し気に間合いを離したグラビーチェリの目前に、滑り込むように立ったのは豊だった。ドリル化した腕で、たび重なる攻撃で装甲が欠けた部分、まだ傷を負っていない生身を抉る。手応えは確かに伝わったが、グラビーチェリはまだ双眼に瞋恚の炎を燃やし、まだ生きていた。
「大した執念だな。だが、悪い子はもうお休みの時間だ。……永遠にな」
 弘幸の蹴りが、豊に貫かれたままのグラビーチェリを打つ。衝撃で吹き飛ばされ、血と炎の赤で染め上げられたその身が地に叩きつけられてやっと、グラビーチェリは死の淵へと落ちていったのだった。

 立ちはだかるグラビーチェリを倒した以上、長居は無用だ。側に迫っている他のグラビーチェリに気取られる前にと、標を先導に、追撃に備え殿はヴァルカンと弘幸がつとめ、ケルベロス達は撤退を始める。
 顔と腕に返り血を滴らせ、豊は横たわるグラビーチェリを一瞥した。執念で生きながらえながら戦うデウスエクス……なかなか悪くない戦いだった。
「戦えて良かったよ」
 そして視線を上げた豊は背を向け、二度と後を顧みることなく去ってゆく。その場にはもう一人、バーヴェンが居た。
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……」
 バーヴェンは死せるデウスエクスの魂に向けて、手向けの言葉を紡ぎ、仲間の後を追った。

作者:譲葉慧 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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