ミッション破壊作戦～楔を穿ち、解き放つ

■リプレイ

●
　三重県渡鹿野島。そこにある廃墟群は、現在、シャイターンの奴隷使い達に占拠されている。
　デウスエクスが、デウスエクスに、デウスエクスを売り捌くおぞましき『奴隷市場』と化しているのだ。
　その中枢に、強襲型魔空回廊がある。
　通常の方法ではたどり着くことの難しいこの場所を破壊するため、ケルベロスたちはヘリオンに乗り、今まさにその上空へと近づいていた。
　ヘリオンの扉を開けて見下ろせば、魔空回廊を囲うバリアが禍々しく広がっている。

　誰よりも先んじて、ククロイ・ファー（鋼鉄の襲撃者・e06955）がヘリオンを飛び出す。
　彼はずっと待っていたのだ。ヴァルキュリア達を苦しめたシャイターンに意趣返しする、この時を。
「奴隷市場だァ！？　お前達はまたヴァルキュリアのように誰かを利用して自分達の利益を得ようってのかよ！」
　腹が立つどころではなく、煮えたぎる怒りを迸らせる。手にしたグラディウスが呼応し、沸騰するかのようにグラビティが高まっていく。
　魔空回廊のバリアに、切先が触れた。
　途端、凄まじい雷光が迸り、耳をつんざく轟音と爆炎が広がってバリアを破壊する。
　ククロイが狂乱し、吼え猛るほどに、その破壊力は増すかのようだった。
　それだけの怒りを持ってしても、魔空回廊はまだその異容を保っていた。
「いこ、琴ちゃん」
　シル・ウィンディア（蒼風の精霊術士・e00695）が笑いかければ
「……はい、行きましょう」
　幸・鳳琴（黄龍拳・e00039）は頷き返す。グラディウス同士の切先を合わせ、反対の手を触れあって。
　何の恐れもなく二人で飛んだ。
（「奴隷を使うシャイターン等には分からないでしょう……。心強い仲間が、何より大切な方が隣にいることの頼もしさを力強さを！」）
　鳳琴は、ありったけの想いをグラディウスに込めて振り被る。
「貴方達の邪な企み等、全て砕く。けして地球に残すものか！　私達の想いを、ありったけを―受けろぉぉっ！」
　心の熱が、グラディウスに伝わり、膨大な熱量となって、ドームを爆砕した。
「世界の平和もあるけど、でも、それよりももっと大切な旅団の人達の為、なにより、隣にいてくれる大切な子の為にもこんなところで止まってられないっ！」
　いつもは穏やかなシルの、裡に秘めた強さが解き放たれた。
　雷光はドームを縦横に走り、砕いていく。爆発し弾け飛ぶ炎は、ドーム内に降り注ぎ内部にも火災を引き起こし始めた。

　更に、もう一つの光が市場の上空に輝いた。
「自爆テロに、奴隷売買……そんなのなんか違うよ！　
　命を命とも思わず命を軽く見る、仲間も大切にしないヤツらには絶対絶対負けたくないんだよッ！！」
　リノ・ツァイディン（旅の魔法蹴士・e00833）は両手でグラディウスを握り、体の全てをぶつけるように回廊へと突進する。その肩で、ファミリアとボクスドラゴンも主と共に想いをぶつけている。
　叩きつけた所から起こる爆発、暴風が黒煙と砂塵を巻き上げた。どさくさで逃げ惑うデウスエクスや、巻き込まれるデウスエクスの姿も見えた。
　襲撃を知ったシャイターンの護衛部隊らが、群なして駆けつける。
　だが、グラディスのもたらす衝撃は彼らにも凄まじい勢いで襲い掛かった。
　ドームの内側に充満する炎と煙で状況がわからず、護衛部隊も立ち往生すしている。
（「反吐が出るぜ……くそったれ」）
　その光景を目の当たりにすれば、須藤・梨乃（鍵憑きサキュバス・e02913）の嫌悪はいや増した。
「商売人の風上にも置けねぇド外道がっ！！　他人の生を！　金儲けの道具にすんじゃねぇぇぇぇえ！！
　同じ『商売人』として。いや、商売人と呼ぶことすらおぞましい。
　普段からは想像もつかないほどの荒々しさで、梨乃はグラディウスを振りかざし魔空回廊へと叩きつけた。
　ドームの中を荒れ狂う炎と雷光の嵐を見下ろして、アシュレイ・ヘルブレイン（生まれたばかりの純心・e11722）は飛び降りる。
「人々の命との繋がりが、私に新たな進化を、命を与えてくれました。だから、命を道具のように弄ぶ、貴方は許せない！　ここで討たせて頂きます！」
　エフイー・ノワール（遥遠い過去から想いを抱く機人・e07033）もアシュレイの後を追って、降下した。
「これ以上、貴方達デウスエクスの侵略は許さない！　戦争で亡くなった仲間達の敵であるお前たちをこれ以上好きにはさせません！　今ここで、永劫に消え去りなさい！」
　2人は真っ直ぐに落下する。命への想いがグラディウスに伝わり、増幅する。
　二つの切っ先がバリアに触れたとたんに、迸る雷光は無数の奔流となってドームを奔り、さらなる爆発を呼んだ。　
　炎に包まれる魔空回廊へ、なおも一条の光が降って来る。まだ来るのかと空を見上げたシャイターン達は戦慄した。
　その光は、フィルトリア・フィルトレーゼ（傷だらけの復讐者・e03002）の想いをグラビティに変えて究極まで高めたグラディウスだ。
「命は道具ではありません。例えそれがデウスエクスのものであってもその事に違いはないはずです」
　凛と叫ぶフィルトリアに呼応し、グラディウスは震える高まっていた。
　おぞましき回廊めがけて、ためらいなく落ちる。
「他者を縛り付け、道具のように扱うなどという非道な行いをこれ以上繰り返させないため……この地に築かれた回廊を破壊します！」
　グラディウスを握り、全身全霊の力を込めて、フィルトリアはその切先を叩きつけた。

　ケルベロスらの熱い想い、魂の叫びは、魔空回廊を翻弄し震撼させた。
　ドームを縦横に雷光が奔り、その後から連鎖的に爆破が起きる。
　想いのありったけはぶつけた。魔空回廊へ降り立ったケルベロス達は、その顛末を見届ける。
　バリアは半壊し、魔空回廊へかなりの損壊を与えたことは間違いない。
　……それでも、魔空回廊は存在していた。完膚なき破壊には至らなかったのだ。
「くそッ！！」
　ククロイは地に拳を叩きつける。
　それでもかなりのダメージを与えたのは確かだ。敵地でいつまでも気落ちしていられないと、ケルベロスらは気持ちを切り替える。
　力を使い果たしたグラディウスをアシュレイのアイテムポケットに預け、それぞれダミーを装備する。万一の時、奪われないための用心だ。

　その時、燻る炎が急に勢いを増したかと思うと、膨れ上がり、炎の塊となってケルベロスらを襲った。

●
　咄嗟にリノが飛び出し、炎塊に一撃をぶつけて相殺する。
　立ち込める煙の向こう側から、ジャンビーヤに似た短刀を手にした、奴隷使いのシャイターンが現れた。
「いらっしゃいませ。奴隷市場へようこそ……困りますよお客さん、こんなに暴れてもらっては」
　慇懃な物腰で、挨拶をする。炎を放ったのは、どうやら、こいつらしい。
「悪いが、客じゃねえんだ」
　梨乃がイラついた口調で返せば、奴隷使いのシャイターンはヒヒッと奇妙な音を漏らした。
「そうでしょうとも。さしずめ、営業妨害に来たクレーマーってところですかねえ」
　濁った眼を一層歪ませて、シャイターンはケルベロスらを睨む。口調こそ丁寧だが、全身から発する殺気を隠そうともしていない。
「なんだか、いろいろ言ってたみたいですけど。商売ってのは、需要があるから成り立つんですよぉ？」
　話ながら間合いを詰めて来る。ケルベロスらも迎え撃つ構えを取った。
　アシュレイは、アイテムポケットにそっと触れる。
「殺したり殺されたり。無駄に命を捨てるデウスエクスどもに価値をつけてやってるんですよ、我々はぁ！」
　短刀を持った方の腕を大きく上げて見せながら、シャイターンは反対の掌から再度炎の塊を放った。
　梨乃を狙った炎は、鳳琴が引き受けた。弾け、四散した炎の後に他者に見えない影が立ち上り、鳳琴を苛む。
「負けるものか……このくらいの炎にっ」
　トラウマを振り払い、鳳琴は、オーラを纏う拳をシャイターンに叩きつける。
　鋭い打擲を跳んで躱しせせら笑う奴隷使いの隙めがけて、シルはスターゲイザーを叩きこむ。重力を込めた重たい一撃をまともに食らって、奴隷使いは地に叩きつけられる。
「去年、あなた達がヴァルキュリア達にしたこと、わたしは許さないよ！　それが、あなたに関係なくてもっ!!」
「はあ？　私、売買以外の事に責任もてませんよぉ！」　
　体をくの字に曲げて大げさに呻いて、奴隷使いは、理不尽だと訴えた。
「やってるこたぁ、おなじだろうがっ！」
　ククロイは、グラビティを増幅させ、今度は自分の武器に乗せる。
「超力刃二刀一閃！」
　極限まで集中し増幅したグラビティを破壊力に変え、卓越した技量を持って放つ。鎌刃は銘の通り喰らう牙となって奴隷使いを襲った。
　凍り付く敵へ、攻撃の手を緩めることはない。エフィーはバスターライフルに雷のエネルギーを纏わせ、射出した。
「どんなに強力な矛であろうとも、穿ち、破壊する！」
　雷光の弾速は回避を許さず、シャイターンの全身を痺れさせた。 短刀を握る手が痙攣している。
　アシュレイの胸の結晶から天へと火柱が上がった。
「護りたい人たちのために……力を与えてください！」
　熱く燃える戦いの意志をグラビティの灯火に変え、ケルベロスたちの魂に点す。それは闘志に呼応して、赤く強く燃え上がった。
　加護を受けて放つフィルトリアの斬撃は鋭く、奴隷使いを斬り刻み、深く傷つける。
「破ッ！」
　動きの鈍ったシャイターンに、リノは素早く近寄り、ロッドを地に突きたると、それを支点に勢いをつけハイキックを食らわせる。
　その反対側から梨乃は跳躍し、電光石火の蹴りを急所に浴びせた。

　いくつもの傷を負った奴隷使いの身体から、グラビティの蛇が生まれる。奴隷使いはそれを掴み食い千切る。すると、受けた傷がみるみる塞がっていった。
　鳳琴がバスターライフルで狙い定め、凍結光線を放つのに合わせて、シルは地水火風の属性エネルギーを収束させて撃つ。
　凍てつく光線に撃たれた奴隷使いが、体勢を立て直す間を与えず、エネルギー弾がいくつも追撃する。
　ククロイはチェーンソー剣を起動し斬りつけた。激しく高速回転させて斬り刻み、凄まじいモーター音で同時にその護りを破る。
　エフィーが目にも止まらぬ速さで銃を抜き撃つのを、奴隷使いは鈍った足と翼で必死に躱す。たとえ当たらなくとも、こうして惹きつけておけば、グラディウスを持つアシュレイから目を逸せるだろうと言う腹積もりでもあった。撃ちだす弾丸を受けた奴隷使いの短刀を削り、砕く。
　その後ろで、アシュレイはケルベロスチェインを展開して魔法円を描いた。緋色の炎のようなオーラを帯びて、あらゆる障害を焼き尽くそうとしていた。
　フィルトリアは負の感情を黒炎に変えて放出するが、奴隷使いの動きが勝った。飛んで躱したその後の地面を黒炎が焦がす。
「『風よ、烈風の力を――さぁ、いくよッ』 」
　リノの風邪纏う蹴りが急襲する。刃のような風が傷口を広げた。
　よろめく奴隷使いへ、梨乃のブラックフレイムが襲い掛かり、捕縛する。

　奴隷使いが短刀を妖しく蠢かせる。
「さあ、良いものをお見せしましょう。お代はお後で」
　ふらふらと切先を揺らし、読めない動きから繰り出す斬撃で、ククロイを斬り刻み、同時におぞましい記憶を映し出す。それは姿の見えない影となって襲い来る。
　捕らわれるククロイへとオロシが飛んで、癒しのエネルギーをインストールする。
　その力で、トラウマを打ち消したククロイは、刃に「虚」の力を纏って敵を激しく奴隷使いを斬りつける。その傷口から生命力を簒奪した。
「命を奪われる気分はどうだ！」
　奴隷使いのシャイターンは憎悪と怒りで顔を歪め、掌にまたも炎塊を作り出す。
　だが、エフィーの乱射する雷光の弾丸がシャイターンを捉え、容赦なく撃ち砕いた。
　アシュレイの放つフロストゲイザーは、奴隷使いの身体を再度凍てつかせり。
　炎を操るデウスエクスを氷漬けにする勢いだ。梨乃の召喚した『氷河期の精霊』が、吹雪となって襲い、氷に閉ざした。

　シャイターンは再度蛇を作り出すが追いつかず、傷は増えていく。
　さしもの奴隷使いにも、焦りが見えた。
　だが、手加減する理由は何もない。ククロイの無慈悲な斬撃で斬り刻み、エフイーのナイフがさらに傷口を広げた。
　タールの翼の皮膜が破れて落ちる。棒立ちになった奴隷使いを、リノの拳が捕らえ、音速を越える勢いで吹き飛ばした。
「『貴方の罪、私が断罪します……！』」
　濁った瞳をぎょろりと見開いて、奴隷使いはフィルトリアを凝視している。
　伝わってくる怒り、憎悪。その感情を吸いつくし、黒い炎へと換える。
「他者を虐げ、傷つけ、貶めるその行為。決して許しはしません！」
　断罪の言葉と共に、吸い込んだ負の感情は凄まじく噴き上がる黒炎となる。己の憎悪が罪を喰らう獣と化したのを見て、奴隷使いのシャイターンは恐怖した。
　凄まじい勢いで炎は奴隷使いを襲い、焼き尽くした。

　奴隷使いの心臓が砕けたと、感じる。
　タールの翼がどろどろに溶けて異臭を放っている。全身黒焦げになった奴隷使いは、体を折り曲げ、まだ何かを言おうとしていた。
「あ、ありがとう……ござ、い、ました……またの、お越しを…………」
　半ば炭と化した足が砕け、前のめりに頽れる。
「……待つ、わけ、ねぇだるぉおおおおおおおお！！！」
　身体を崩壊させながら、最後の力を振り絞り、奴隷使いは叫ぶ。
「私一人死んだって……奴隷市場は全然へーきなんですよォオ！　欲しがる奴らがいる限り、私たち商人も、絶えることは……ない……っ！
　ひゃ、ヒャハハはハハハハギャハハハハハヒッ！？」
　狂ったように笑うシャイターンの頭を、梨乃は得物で殴りつけた。
「……黙れ」
　それが、止めの一撃。シャイターンの奴隷商人は、今度こそ、その口を永遠に閉じた。

●
　魔空回廊の破壊には至らなかった。
　最後までやり遂げたいと願っても、グラディウスはその力を使い果たし、火勢も僅かだが引きつつある。
　増援のシャイターン達がやってくるのも時間の問題だろう。
　潮時だった。

　フィルトリアはバイオガスを放った。それを煙幕にして、ケルベロスたちは撤退を始める。
　見上げれば、魔空回廊を覆うドームはまだその半分近くを残していた。
　やり遂げられなかった悔しさ、まだ終わりたくない未練が、胸を締め付ける。
　だが、これで終わりではない。
　熱い魂を持ち続ける限り、この地を取り戻す機会はそう遠くない日に訪れるだろう。
　その時こそはと、ケルベロスたちは決意を胸に、魔空回廊を後にしたのだった。

作者：黄秦	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年1月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。