ミッション破壊作戦～拠点破壊の小剣

■リプレイ

●ミッションを見下ろして……
　瀬戸内海、愛媛県芸予諸島上空。
「いよいよだな」
　現場に到着し、これから始まる高空からの急降下作戦に、百丸・千助（刃己合研・e05330）は胸を躍らせている。
「新しい作戦に強いヤツとの戦闘、昂るじゃねェか。敵が強え程、斬り甲斐があるっつうモンだよなァ！」
　戦闘に生きがいを感じる真上・雪彦（狼貪の刃・e07031）。眼下に広がる瀬戸内海で小さく固まる船団、そして、それを包むバリアを見下ろし、彼はテンション高く叫ぶ。
　新たなる作戦。それに心躍るのは無理もない話だ。
　しかし、大半のメンバーは楽しみというよりは、この作戦に複雑な想いを抱いていて。
（「今年も、もうちょっとダラダラ行こうと思ったんだけどね……」）
　やや隠居気味の構えている、ソフィア・フィアリス（傲慢なる紅き翼・e16957）。
　ただ、年が変わる瞬間に視た、『地球が巻き戻った日』。彼女はそれによって、否が応にも気合を入れざるを得ない。
「なかなかの強敵ですが、どうにか１回で破壊していきたいところですね」
　ウィッカ・アルマンダイン（魔導の探究者・e02707）にとって、エインヘリアルは妖精種族を滅ぼした天敵とも言える存在。このミッションを破壊し、エインヘリアル打倒という状況を手元まで手繰り寄せたいものだが……。
「強い相手と戦うのはいいんだが、好き勝手暴れる海賊。いかにも迷惑って感じだぜ」
「我が物顔で海にのさばる海賊達……。これ以上の破壊も略奪も御免です！」
　千助の言葉に、レクシア・クーン（咲き誇る姫紫君子蘭・e00448）はグラディウスを強く握りしめる。相手は、この瀬戸内海を荒らす海賊達だ。その活動をこの場で止めたいと、彼女は強い想いをこめる。
　メンバーの中で、人一倍この作戦に強い気概で臨むのは、このミッションを発見したレクス・ウィーゼ（ウェアライダーのガンスリンガー・e01346）だ。
　以前の戦いが脳裏に蘇る。あの時は、家族を奪われた敵討ちにと戦った女性、家族を護ると息巻いた子供、そして、孫が生まれたことで最後の戦いにしようと言った老兵もいた。
（「皆の仇を討つ為にも……」）
　普段はハードボイルドな彼だが、今回ばかりは熱くならずにはいられない。
　ミッションの拠点となる強襲型魔空回廊を破壊する為、そして、女海賊を打倒する為、ケルベロス達はヘリオンから降下していくのである。

●魂の叫びを！
　ヘリオンから降下を始めるメンバー達は、その手にグラディウスを握りしめる。目指すは、海賊船を囲むドーム状のバリアだ。
「視えたぜ、魔空回廊！」
　叫ぶ雪彦。メンバー達の眼前には、海賊船のそばに口を開いた強襲型魔空回廊があり、それを包むようにバリアが展開されている。
　それに向け、メンバー達は叫びながら、グラディウスを握りしめて落ちていく。
（「聖王女様が、仲間達が、命を懸けて守ろうとしたこの地球で好き勝手させるわけにはいかない」）
　縛霊手を装着した手にある小剣。ソフィアはその手に力を込める。
「最強の調停者、舐めんじゃないわよ！」
　彼女は思いっきり腕をバリアに叩き付けた。バリアはガラスのように破壊され、魔空回廊が露出する。
　それだけでは終わらない。ケルベロスは次々に降下してきていたのだ。
（「しかし、仇の海賊退治か」）
　リヴィ・アスダロス（魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130）は思う。強い者を好む彼女は、海賊とて嫌いな人種ではない。
「だが、互いに競い合い高め合うものでない、一方的な略奪や殺戮は別だ！　そして、此処に因縁ある者が居るなら尚更というもの！」
　直に、その彼も降りてくるだろう。今は……。
（「強者が幅を利かす海賊の理屈。そいつを理解できちまう俺はきっと、テメエらに近ェんだろうなァ」）
　他の仲間達とは違い、雪彦は敵に理解すら示す。ただ、それだからこそ、そいつらを微塵の躊躇すら抱かずに、この一撃をブチかますことができる。
「強えから勝つんじゃねえ、勝った奴が強えんだ！　この戦いに勝つ俺達こそが強者だ！」
　その隣りには、千助の姿がある。彼もまた、年明けに見た夢を脳裏に過ぎらせていた。
（「……地球がぶっ壊されてた」）
　眼下のエインヘリアルを放置すれば、あれが再現してしまう。それならば、尚更放ってはおけない。もう、巻き戻りなどできないのだ。
「故に、貴様等には消えてもらう！！」
「この一刀で、沈みやがれッ！」
「だから、まずはこの魔空回廊からブっ壊す！！」
　リヴィ、千助、雪彦のグラディウスがほぼ同時に一閃し、魔空回廊に直接傷をつける。巻き起こる雷光と爆炎。その場にスモークが噴き出し始めた。
　しかし、ケルベロスの攻撃は止まらない。
（「強盗略奪を是とする海賊など、生かしておいて百害あって一利なしですね」）
　魔法使いの服装、そして、ツインテールにした赤い髪をはためかせながら、ウィッカは降下する。
「貴女方のような無法者は、私の魔術で滅ぼします！！」
　こちらは、レイン・プラング（解析屋・e23893）。彼女は、デウスエクスによって弄ばれた過去を持つ。
「お前達はいつも、他者からあらゆる物を奪い尽くす……」
　今回もまた、エインヘリアル達は他者を我が物顔で蹂躙しようとしている。そんな行為をレインは見過ごせるはずもない。
「地球の海は誰の物でもない、この星自身の大切な一部なんです！」」
　レクシアも女性２人に続く。今この手にあるのは、ケルベロスにとっての反撃の牙。防戦一方でないことを、この場で示さんとグラディウスを突き出す。
「生命の源である海を、決して貴方達の好きにはさせません！」
　土足で地球を踏みにじる海賊達に、無賃乗船などとは言われたくはない。ならば、その船賃として……。
「ここで海の藻屑となってください！」
「その愚かな行い、この一撃で終わりにしてみせる！！」
「その魔空回廊、破壊させて頂きますよ！」
　ウィッカ、レイン、レクシアの刃がさらに魔空回廊にダメージを与える。より濃いスモークが周囲を包み込む。
　そこに、レクスが降りてくる。
　この海賊船にいる女海賊。そいつの前に戦友達が散っていった。彼らの想いまで全て、レクスはぶつける。
「こいつは、漸く仇の手がかりを手に入れたと言ってやがった、ジェーン嬢ちゃんの分！　此れは、家族を守る為に震えながらも立ち上がった、ワイアット坊やの分！」
　グラディウスを２度振るったレクスは、さらに大きく振り上げる。
「此れは、俺を庇って死にやがった、ドク爺さんの分だ！」
　強く叩き付けた小剣。そこから、眩いばかりの光が放たれた。続く爆炎。それに、乗組員が無力化され、気絶していく。
　メンバー達は魔空回廊を確認する。確かに、ダメージは与えてはいるのだが、破壊には至らない。叫びの力が足りなかったのか、それとも、運がなかったのか。簡単には壊れぬ魔空回廊に、ウィッカはほぞを噛む。
　海賊船へと次々に着地していくメンバー達。グラディウスを敵に奪われまいと、自身の体へと固定させていく。
　どうやら、この船の乗組員は光と爆炎によって昏倒してしまっている。しかし……。
「ずいぶんなご挨拶だねえ……」
　スモークの中、ゆらりと現れる女性。エインヘリアル、海賊船長アルビルダ……レクスの因縁の相手だ。
「ま、こっちとしちゃ、楽しめるってもんだけどさ」
　大きな舵輪をこちらへと突きつけるアルビルダに、雪彦が言い放つ。
「強えヤツと戦うのが好きなんだって？　悪ィな、テメエを楽しませる程の暇はねェんだよ！」
　彼は啖呵を切りながら、日本刀を抜く。
「手前等みてえな奴に此れ以上、俺の戦友の命は奪わせねえし、今度こそ其の傷だけじゃ済ませねえ！」
　珍しく、感情をぶちまけるレクス。その傷とは、アルビルダの顔についた傷を指すのだろう。
「散っていった奴らの為にも、終わらせてやるさ！」
　ビハインドを従えた彼は敵へと駆け出す。
　海賊船の甲板で、女海賊とケルベロスが激しくぶつかり始める……。

●海賊船長とのバトル
　突き出す蛇輪から旋風を巻き起こす海賊船長アルビルダ。
　ミミックと共に前に出て、身構える千助は正面からその風を浴びる。それに足が竦みそうになってしまうが、彼はそのまま飛び込み、具現化した刀で斬りかかるミミックに合わせ、自らは縛霊手に雷の魔力を纏わせて貫手突きを行う。
　レクシアが続く。彼女は地獄の翼を噴き上げ、エアシューズで敵の前へと飛び出てきた。
「この後のこともありますから……。最初から全力、全速で戦わせて頂きます！」
　彼女は地獄の翼から、無数の小さな炎弾を生み出す。蒼く燃えるそれらは一斉に飛び出してアルビルダへと命中し、その生命力を喰らっていく。
　そこで、船に詰んであった樽を投げ飛ばしたのは、ソフィア……レクスに付き従うビハインドだ。
　それによって刹那足を止めた敵を、真上に跳んでいたレクスが狙う。
「地球を舐めんじゃねえ、海賊女！」
　アルビルダの二の腕を蹴りつけたレクスは、さらに叫ぶ。
「此処は此の星は手前等の遊び場じゃねえ！　俺達が生きる星だ！」
　しかし、アルビルダはまるで動じることなく、手にするハープーンを回転させる。
　その一挙一動をレインは出来る限り観察し、敵の能力を解析していた。
「貴方の逃げ場は、もうありません」
　レインはタイミングを見て、グラビティの弾丸を放つ。
　だが、それは牽制の一撃。躱した敵の先に回りこんだレインは、手にする惨殺ナイフで切りかかった。
　しかし、アルビルダはやや無理な体勢から、ハープーンを突き出してみせた。
　その一撃をビハインドが受け止めたが、その名が同じケルベロスのソフィア……フィアリスは、ふんぞり返った状態で仲間に指示を出しつつグラビティで癒す。
「この程度の実力なら、オオサカで『純なる愛の師団』を相手にした方がキツかったわ」
「それなら、本気を出さないとねえ」
　フィアリスは自身の宿敵を知らないかと思って鎌をかけたのだが、全く反応がなかったようだ。
　相手は１体だが、ぼやぼやしていると乗組員が駆けつける可能性がある。
　自身を御業で包んで強化を施したウィッカは、携えたバスターライフルからエネルギー光線を発射する。それが敵の舵輪に浴びせかかったところで、雪彦が告げた。
「目ェ凝らせよ」
　アルビルダと交錯した瞬間、彼は相手の体を刀で斬り捨てていた。
　敵もそちらにばかり注意を払ってもいられない。リヴィがハンマー……暴撃【墜滅】を振り上げ、超重の一打を叩きつけて来たのだから。
「強者を求めると言いながら、やっている事は弱者から奪うばかり……。これで戦いを楽しむとは、片腹痛い」
　着地したリヴィが言い捨てる。飛び散る血、凍る体にも驚かず、アルビルダはぺろりと自身の血を舐めとった。

　ミッションの破壊に重点を置いていたケルベロス達。
　布陣など、作戦でカバーする形でメンバー達はアルビルダを攻めていく。
「そろそろよいでしょうか」
　良い感じに敵の体が氷に包まれたところで、ウィッカは五芒星の魔法陣を描いていき、敵を痺れさせる魔法結界を展開させていく。
　敵が動きを鈍らせれば、雪彦が迫る。彼は左手を握りしめ、音速を超える拳をアルビルダへと叩きこむ。手応えは十分。かなりのダメージを与えたようだ。
　だが、敵の口元からは笑いが消えない。
　ケルベロス側は、チーム全体での火力が高いとは言えない。足止めする相手へと着実にダメージを与えはしているが、アルビルダがなかなか疲弊しないこともそれを裏付けている。
　思った以上に戦いは長引く。硬直状態にも見える中、アルビルダはこちらの守りを突き破ってくる。
　千助、フィアリスのミミックがほぼ同時に、アルビルダの起こした旋風によって消し飛んでしまう。千助自身は丹田に霊力を集中させることで自身を回復し、ソフィアも散布した紙兵の力で、仲間を癒していく。
　しかしながら、ビハインドのソフィアもまた、敵の大きなハープーンに貫かれて消えてしまう。レクスは歯噛みしながら、アルビルダに銃弾を打ち込み、その傷口へとさらに発砲して弾丸を叩き込む。
　畳み掛けるケルベロス。チェーンソー剣でレクシアが仲間の与えた傷口に沿うように斬りかかり、さらに、レインが重ねるようにジグザグに変形させたナイフの刃を振り払う。
　表情は笑ったままだが、アルビルダも相当疲弊しているはずだ。
「真の強者の戦いとは！　自身よりも格上の存在に、牙を突き立てる事！！」
　そんな相手に、リヴィが再び言い放つ。他の海には、戦艦竜、ドラゴンのメギドといったさらなる強敵がいるはず。それに挑まず、この海に篭っているのは、大海を知らぬ蛙に等しいと。
「貴様如きが強者を騙るな！！！」
　これまで討ち取ったデウスエクスの恐怖を、リヴィは暴風へと変える。そして、敵に躍りかかった彼女は、纏った風を回し蹴りと共に叩き込む。
　強烈なる一撃にようやく、アルビルダの体がぐらりと揺らぐ。
「ふふ、これで終わったと、思わないことね……」
　スモークの中に消え去るアルビルダ。倒れる重い音が聞こえはしたが、トドメをさせたかと言われると疑問だ。
　ケルベロス達はスモークが晴れつつある中、思い出す。『すぐに撤退を』という、ヘリオライダーの言葉を。

●次こそは……！
　周囲から、目覚めた海賊船の乗組員の奇声が聞こえる。敵の戦力が整ってしまえば、グラディウスを奪われかねない。
「よし、引きましょう！」
　仲間へと呼びかけるレクシア。海に視線を走らせれば、ミッションに挑むケルベロスが巡視艇で近づいてくるではないか。
　念の為にと、レクシア、ソフィアがメンバー達のグラディウスを預かり、翼で飛び立つ。
「グラディウスは任せてください、また後でお会いしましょう」
　彼女達はそのまま、巡視艇へと先に移動する。
　敵は動き始めている。メンバー達は乗組員に絡まれる前に、この場からの離脱を図った。
　船のそばに寄ってきた別の巡視艇に、メンバー達は次々と飛び移っていく。
　その間、雪彦が殿となって警戒を行う。だが、彼もまた、敵が近寄ってくる前に海賊船を離れることができた。離脱を想定していたメンバーが多く、スムーズな退避に繋がったようである。
　敵が戦闘態勢を整えた頃には、巡視艇は海賊船から距離を取っていた。
　無事に作戦を終えたとはいえ。ミッションを破壊できなかった悔しさが募る。とりわけ、メンバーで一番意気込んでいたレクスの無念さはひとしおだろう。
「俺は諦めんぞ。例え、何度挑むことになろうとも……！」
　遠くなる海賊船を見つめ、彼は拳を強く握りしめていたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年1月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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