●ヘリオライダー
「まずは、『ゴッドサンタ』討伐、お疲れさまでした」
クリスマス・イブに現れ、一切の攻撃を許される事無く撃破された超巨大ダモクレス。これほどまでに被害が少なかったのも、皆さんが血のクリスマス事件を阻止して下さったからですね、とアリス・オブライエン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0109)は微笑んでみせる。
「実は、その時に手に入れた光る短剣、ゴッドサンタ曰く『グラディウス』についてなのですが……」
彼女が言うには、グラディウスは普通の武器ではなく、魔空回廊を攻撃して破壊するための兵器だという事が調査で明らかになったらしい。
もちろん、通常の魔空回廊は、時間が経てば消えてしまう代物。わざわざこんなものを持ち出す必要もないのだが――。
「固定型の魔空回廊、特に『強襲型魔空回廊』に対しては、切り札ともいうべき有効な武器となる可能性が高いのです」
現在、日本各地で起こっているデウスエクスたちの活動――通称『ミッション』。そのデウスエクス側の拠点となっているのが、強襲型魔空回廊である。これを破壊できれば、デウスエクスの進行を大きく遅らせる事が出来るのは明らかだ。
「グラディウスは、一度使用すると再度使用できるようになるまでに、かなりの時間が掛かるようです。ですが、今回手に入れたものの殆どは、すぐに使用可能な物でした」
故に、アリスは告げるのだ。ミッション地域を一気に解放する『ミッション破壊作戦』が発令されたのだと。
「強襲型魔空回廊があるミッション地域の中枢へは、私のヘリオンでお送りします。上空からのダイビング、ですね」
強襲型魔空回廊の周囲はドーム型のバリアで囲われている。そして、このバリアにグラディウスを触れさせるだけで、魔空回廊への攻撃が出来るのだ。ならば、上空からの直接攻撃も可能であろう。
グラビティを極限まで高めた状態のグラディウスは強力だ。八人が同時に攻撃を集中すれば、一撃で魔空回廊を破壊する事も不可能ではあるまい。
「例え、一度の作戦で破壊できなくても、ダメージは確実に蓄積します。最大でも十回程度の作戦で、強襲型魔空回廊を確実に破壊できるでしょう」
もちろん、デウスエクス側もこの周囲には厚く戦力を配置し、守りを固めているだろう。だが、いかにデウスエクスとて、高々度からの降下攻撃を防ぐ事は出来ない。そして、グラディウスを所持すること以外で、それが放つ雷光と爆炎を防ぐ手段は無いのだ。
「皆さんは、一斉に攻撃を仕掛けた後、爆炎の煙に紛れて撤退してください。強力な敵を全て避けるのは困難ですが、敵が混乱している間なら、連携を取ってくることはないでしょうから」
逆に言えば、もたもたしていると撤退できなくなってしまうかもしれない、ということだ。遭遇してしまった敵だけを圧倒し、離脱。それこそが、成功への鍵だろう。
「多数に囲まれて、グラディウスを奪われるのは避けなければなりませんし――それに、何よりも」
皆さんの安全が、大事ですから。
そう言ったアリスは、けれど、と続けて。
「けれど、戦いを避けるわけにはいかないんです。デウスエクスの侵攻を食い止める為に」
その願いが孕む危険を知っていてなお、よろしくお願いします、と少女は一礼する。
それが、それだけが彼女の役目、彼女の使命だったから。
参加者 | |
---|---|
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121) |
ゼレフ・スティガル(雲・e00179) |
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621) |
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577) |
相摸・一(刺突・e14086) |
エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178) |
鉄・冬真(薄氷・e23499) |
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) |
●
天を裂くは輝ける雷霆、地に轟くは戦士の咆哮。
富山県黒部峡谷の魔空回廊上空、ヘリオンから降下したケルベロス達の手には、人類とデウスエクスとの戦いを大きく変えるであろう兵器が握られている。
「認めるわ。貴方達の力は強大よ」
真っ先に飛び降りたエディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)の小剣が光を増していく。美しい銀の髪と墨染めの外套をはためかせる彼女は、その言葉が全くの事実であると、自分の力が未だ及ばぬと知っていた。
「けれど、決して許さない。その力でアタシ達を蹂躙する、貴方達の理不尽を」
「ええ、全くその通りで」
次いで降下したのは西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)。くたびれたスーツ姿という、ある種場違いな恰好。けれど、何の衒いもなく彼は戦場に身を躍らせ、腰に差した短剣を引き抜いた。
「失敗だらけのカッコ悪いおっさんですよ、私は」
妻には去られ、娘も自立して独りぼっちですしね、と呟く彼の背には最早哀愁しか感じない。はぁ、と大きく溜息を一つついて。
でもね、と。
「彼女達の明日が少しでも良くなるように。そう願って戦う事の何が悪いんですか」
手にした兵器に想いを込める。全ては、想い出の中の家族の為に――。
「ああ、笑わば笑え!」
「さぁ、どでかい穴をあけてあげる!」
正夫とエディスの刃が、不可視の壁に突き刺さる。その背を追いかける仲間の声。
「………こういう熱いは、柄じゃないんだけどなあ」
中年仲間のまさかの熱血に、頭を掻くゼレフ・スティガル(雲・e00179)。無論、それは口先だけの事。声高に叫ぶのは苦手でも、意志を示すべき時はあるのだと知っていた。
――それが、家族の為ならば尚更だ。
「約束したしね。帰らないわけにはいかないし」
ゼレフの胸元で自己主張するお守りの一片。社で二人祈りを重ねたのは、つい先日の事だ。
「鉄すら熔かす炎さえ、この身に呑んだんだ」
覚悟なら十二分。また一つ眩い輝きが爆ぜる。
「……潰してやる」
自由落下のさなか、ひそやかな静けさで熱を覆い隠し――隠そうとして失敗した声が、周囲に張り詰めた線を引いた。
この男、相摸・一(刺突・e14086)は決して表情の読みやすい方ではない。だが、今日の彼は檄していた。研ぎ澄まされた殺気を溢れさせていた。
(「己と主人の平穏を脅かすなら、地獄の底だろうと――絶対に」)
目も眩まんばかりの光を放つ小剣が、一に同調するかの様に揺らぎ、瞬く。だが、その様な怒りを持つのは、ただ彼一人ではない。
「すべからく死ね、デウスエクス。この星に貴様らの居場所はない」
常はシニカルな態度を崩さないクロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)が、血を吐く様に漏らした言葉。怒りに声を荒げる事もなく、ただ、事実を告げるだけの様に。
「私が……彼の場所へと至る糧となれ」
コートの内から取り出した短剣は、掌の中で光球とも見紛う輝きを放っている。一に続き、クロハもまた渾身の力でそれを叩きつけた。
「遺志と共に、全てを守りきる為。僕は、お前達の企みを打ち砕く剣となろう」
僅かな差で最後に飛び降りた三人が、思い思いに自らの意思を紡ぐ。細身の身体を宙に踊らせ、鉄・冬真(薄氷・e23499)もまたその一人。
仲間を、両親を、弟を。奪われた皆の名を、胸に刻んで。
「これ以上奪わせない――行こう、春仁!」
無表情なのは常のまま。されど、その咆哮は強く、激しく。ケルベロスコートを翼と見立て、螺旋の忍者は舞い降りる。
「……ふ、良い心映えだ」
その様子を見て、ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)は能面の様な表情に僅かな笑みを浮かべた。
「……我ら魔の術の使い手、魔の法の繰り手。我らが想うは力、願うは強さなり」
無論、彼にもこの戦いに参じるだけの想いが、意思がある。だからこそ、肩を並べて戦う仲間の叫びにも響くものがあった。
もっとも、表立って彼が見せた反応は、ただそれだけだったけれど――。
「今を守るために! これが、これが僕の意志だ!」
「……我らが魂を、とくと見よ!」
黒鷺の翼を広げて滑空するディディエと、自由落下で勢いをつける冬真。その在り様は違えども、二人は同じく輝ける刃を翳し、闘志と牙とを剥き出しにするのだ。
「さぁ!ここからがわたし達のステージだよっ!」
そして、そんな二人に並ぶ光輝の翼。カラフルな衣装に身を包んだ歌姫の旋律。ギターをかき鳴らして滑空するシルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)が、八本目の刃を不可視の壁へと突き立てる。
「これ以上、ドラゴンの被害を増やさない為に!」
月喰島を始めとして、竜の眷属とは繰り返し戦ってきた。無数の惨劇を目の当たりにしてきた。だからこそ。
「派手に……いっけぇーっ!」
ああ、なれど。
強き意志の籠った八条の稲光を浴びせ、閃光と爆炎、轟音と黒煙を巻き散らしながらも。
この地の魔空回廊の破壊には、彼らはあと少し、届かない。
そして、不埒なる侵入者を排除すべく、氷の翼を広げた翼竜が、その姿を現すのだ。
●
出会い頭の一撃は、容赦なき翼竜のブレス。広範囲を薙ぎ払う圧倒的な暴力は、機動力を重視した前衛達の装備とは相性が悪かったが――。
「――だが、地獄の底というにはまだ温い」
一の手甲、鋼の五指が虚空を抉り取る。渦を巻いて道を開く氷嵐。巨大なる敵手を如何程にも畏れず、野茨の従士は己が拳を突き出した。
「災いは、この手で摘む」
ガントレットに纏う昏き闘気。撃ち放たれたオーラの弾丸が、地表より氷竜の翼を穿つ。そして、ほぼ同時に上空より降り注ぐ、星の弾丸。
「これはこれは、流石にすごい威力だ――ですが、私達も正念場です」
いや、それは流星の力を宿したクロハその人だ。鍛え上げた脚を穂先として天空より投じられた槍の穂先だ。
「狙いは同じ、ですか。成程、まだ私の嗅覚も鈍ってはいないようで」
彼女が狙うは翼、一の気弾が射抜いた傷。自由に飛び回る事など許さない。そう言わんばかりの蹴撃が、竜を大地に縫い止める。
「……滾るではありませんか」
「――『それ』しかないだけだ」
一方、生粋の戦士たる二人に比べれば、正夫は随分と頼りなく見える。無理もない、この中の誰よりも『一般人』の世界に馴染んでいた彼が、如何に覚悟を決めようとも戦闘機械の様に振る舞うのは難しかろう。
だが。
「生憎と、大雨だろうが大雪だろうが、出勤には慣れていますよ」
脳裏に娘の顔が過ぎり、消える。それで十分だった。背負った重みは、決して他の誰にも劣らない。
彼女らを護る為に受ける傷ならば、笑って耐え抜いてみせる。
「それに、年の功というのも馬鹿に出来ないものでして!」
皴の入ったトレンチの肩に載った、不似合いな程の大槌。ぐん、と一挙動で振り抜くその様は、正夫の長年の鍛錬によって培われたものだ。
「せいっ!」
一撃。大槌のインパクトが、硬い鱗を貫いて。
「……中々に、血が逸る」
それは強き敵にか、それとも強き味方にか。するり、と距離を詰めるディディエ。此度は表情が崩れる事こそなく、声色も気怠げだが――。
「ならばその価値もあろう……現し世へと至れ、妖精王よ」
地を這う様な韻律が紡ぐは、異界の物語という幻想。それこそは魔力の基、それこそが霊呪の源。
「汝の軌跡を、此処へ」
その一言が引鉄となり、魔術に染まる音階は今や竜鱗を削ぐ刃と化した。殺到する衝撃が、ドラゴンを打ち据え切り刻む。
「ひゃあ、みんな派手だねっ! わたしも負けてられない!」
速攻で撃破し撤退。その方針故に出し惜しみない仲間の攻撃に、シルヴィアはそう奮い立つ。アイドルたる者、こんな極上のステージで気後れなどしていられないのだ。
「さぁ、私の歌を聴なさいっ! ってねっ」
ギターをかき鳴らしメロディを紡ぎ、力強くされど澄み切った歌声を乗せる。戦え、立ち止まるな。吹雪に呑まれた仲間達の背を、彼女は力強く支えるのだ。
「私の歌で、みんなを救ってみせる! この世界の為にも!」
ウィンク一つ。シルヴィアのステージは、さらに加速していく。
「好きにはさせない。奪われるだけの生に、今度こそ終焉を!」
冬真が四方に符を放てば、霊力を帯びた式となって彼らを護らんと浮遊する。
この戦いで、彼は守護と支援に力を注いでいた。それは、ただ役割に従っただけなのかもしれない。けれど、そこには確かに守る者としての矜持があった。
「――その為に、僕は受け継いだんだから」
同意するかの様に、胸元で柊のペンダントが鳴る。棘が刺さるのも構わず、冬真はそれをそっと握った。――春仁、と呟いて。
「すんなり帰らせて貰えないなら速攻勝負よ!」
一方、前線の攻防も激しさを増していた。その中心に立ち続けるのはエディス。一歩も退かぬ彼女には、『虚仮威し』の銘など韜晦にも程がある。
「さあ、アタシの牙は痛いわよ」
彼女の首にはペンダントが二つ、宵の明星と闇の暗紅。にっと笑い、エディスはその一つ、自らの血を固めた玉を握りしめた。
「第参術色限定解除――喰われなさい、蒼の幻影に」
得物たる細身の槌に展開する青白い魔方陣。彼女が氷の鱗へと叩き付ければ、次々現れる青い幻影、槌を象った蒼光がその後を追って降り注ぐ。
その中を、するりと近づく白き影。
「やあ、君を壊しにきたよ」
人を食った台詞に笑みすら浮かべ、ゼレフが攻め立てる。僅かに青白い輝きを纏う、鋸の歯を彫った様な銀の刃。見た目にはさほど強烈とは感じないそれは、しかし恐るべき熱を秘め、振るわれるべき時を待っていた。
「受け取ってくれるかな。僕の内側の熱くらいには、よく灼けているよ」
それは不可視の炎、陽炎を揺らめかせる焔刃の迸り。いっそ無造作に斬りつけた短剣は、氷の鱗を瞬く間に水蒸気へと変え、その奥にある肉を鋭く裂いた。
「……まだまだ、これからだからね」
●
もう幾度目か、氷竜の吐くブレスがケルベロス達を包み、凍てついた世界に閉じ込める。だが、繰り返すように吹いた白霧を伴う冷気は、逆に彼らの傷を癒していった。
「穢れを祓い、傷みを癒し――」
虚空に手を伸べる冬真。それに重なり合うのは半透明の御霊だ。白姫と呼ばれしその存在の周囲には、雪の結晶が文様の様に浮かび上がっている。
「――そして、我が同胞を護り給え」
最後の請願と同時に、一際強くなった冷気がブレスのダメージを拭い去っていった。ああ、彼はどれほど切実に、護り給えと願ったのだろうか。
失われた人々を。家族と、妹を。九龍の仲間達を。――そして、書院で彼の帰りを待つ娘を。
「あぁ、良いですね。実にいい」
撤退するのが惜しい程です、とはクロハの言。敵は一体とは言え、人の力を超えた大敵である。むず、と湧き上がる激情。
「……ですが敵に、グラディウスを渡す訳にもいきませんし、ね」
心底残念がりながら、身軽に駆け出すクロハ。傭兵のならいか、今も様々な武器を身に着けている彼女だが、やはり一番の凶器は鞭のように鋭く棍棒の様に硬い、その蹴技だろう。
「この戦場を去るのは心苦しいですが、せめて一曲、お相手頂きましょう」
胴の下に潜り込み、地獄化した両脚をつるべ撃ちに叩き込む。苦し紛れに身を捩る竜。その前脚の付け根を、どこからか伸びてきた棍が鋭く打ち据えた。
「……見事な連撃だが、俺も火力には自信が有るのでな」
振るわれるは伸縮自在のディディエの棍、告げられるは物憂い口調に滲み出た自負。戦狂いには程遠くとも、彼もまた歴戦のケルベロスなのだ。
「想うは力、願うは強さ。……ならば、デウスエクスに後れなど取る訳がない」
グラディウスに込めた願いを繰り返し、更なる一撃。緋色の視線の先、主の意を受けて長さを増す如意棒が強かな打擲をくれる。
「それじゃ、私も気張ってみましょうか」
安物の眼鏡を曇らせた正夫が、よいせ、とハンマーを地面に突き立てる。汚れるのを嫌がってか、コートとジャケットを脱いでその柄に引っ掛け、けれど、うう寒い、と震えてやっぱり着込み。
「おじさんでも、たまには恰好つけさせて下さいね――」
いそいそと竜の足元へと駆け寄り、ぐ、腰を据えて。
「――六道輪廻に絶え無き慈悲を」
正拳突き。
何の変哲もない、パンチ一発。けれどそれは、千日の間絶え間なく打ち続けた愚直なる拳である。
氷竜の絶叫。その鱗に、大きなひびが走っていく。
「わぁ、おじさん凄い! カッコ……良くないけど!」
褒めているのか良く判らないシルヴィアだが、それはともかく仲間達を鼓舞する歌声は本物だ。何しろ彼女こそ、歌って踊って戦うケルベロス・アイドルなのだから。
「魂よ響け、この世界中に!」
そして彼女は紡ぐ。湧き出るままに響き渡る旋律を。聖なる祈りを湛えた歌声を。
「高らかに響け、この地球を守る為。空に希望紡いで――」
祝福の歌は与える。守護者には祝福を、破壊者へは罰を。彼女は信じる。歌の力は巨大なる竜すら討ち倒すのだと。
――さぁ、進もう。闇を掃い、世界に祝福を!
「ええ、認めるわ。アタシは憎い。それ以上にアタシは怖い」
今も彼女を苛む痛み。己が弱さを赦せない以上、それは決して癒える事のない傷だ。
それでも。
「アタシの力は微かなモノ。でも誰かの心に、理不尽に反逆する光を灯せるのなら」
竜の脚を蹴って跳び、そのまま首まで駆け上がる。彼女を導くのは、足元に輝いた『荒唐無稽な』ヒロイック・サーガ。
「アタシの心は絶対に折れない!」
精一杯の力で大槌を振り抜いた。衝撃。次いで、氷竜に襲い掛かる純粋殺意。
「早く、早く、早く――逝ってしまえ」
自らの傷をも顧みない一は、ただ、ただ攻め立てるのみ。手甲に仕込まれた刃は昏く、からっぽの心に満たされた殺気は、一息に解き放たれる時を待っている。
――ああ、それしかないのだ、それだけしかないのだ。
この身は一振りの刃。己と主人の平穏を脅かす者、その全てを斬り、潰す凶器。
「お前にくれてやる慈悲などないんだ。早く。早く」
縦に四斬、横に五閃。面を斬るかの様に重ねられた斬撃が、崩れ落ちそうな氷竜の胴に致命の傷を刻んでいく。
それこそが、その研ぎ澄まされた殺気こそが、ただ一つ安らげる場所へ戻る為の鍵であると――そう信じて。
「地獄にすら生を求める。皮肉なものだけどね」
琥珀に色付いた視界の中で一の背を見やり、ゼレフは小さく笑った。
来し方は違えど、自分とよく似ている。唐突にそう感じたのは、捨て鉢の様でその実、守るべきものを抱えた……そんな剣筋を好ましく思ったからか。
「終わりにしよう。待たせている人がいるんだ」
今や地に伏せんばかりの氷竜、その下げられた頭へと銀の刃が振り下ろされ、眉間を貫いた。小さく震えた竜は、どう、と地面に崩れ落ち、動かなくなる。
それは、戦場を包んだ爆炎が晴れる、ほんの少しだけ前の事だった。
作者:弓月可染 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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