神社で巫女さんバイト!

作者:地斬理々亜

●ミス・バタフライの暗躍
「あなた達に使命を与えます」
 螺旋忍軍の一員、ミス・バタフライは、配下2名を呼び出し告げた。
「この町に、巫女助勤という、一種の神職を生業としている人間がいるようです。その人間と接触し、その仕事内容を確認……可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインの収奪については、してもしなくても構わないわ」
 この言葉を聞いた配下達のうち、その片方……道化師風の姿をした螺旋忍軍の女が、静かに頷いた。
「承知致しましたぁ、ミス・バタフライ。一見意味のないように見えるこの事件も……巡り巡って、いずれ、地球の支配権を大きく揺るがすことになるのでしょうねぇ。うふふふぅ」

●ヘリオライダーは語る
「螺旋忍軍、ミス・バタフライが動くようです」
 白日・牡丹(自己肯定のヘリオライダー・en0151)は、ヘリポートに集まったケルベロス達へと語った。
「ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的には大したことはないのですが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれない……という、厄介な事件です。巫女助勤という、珍しい職業をしている一般人のところに現れて、その仕事の情報を得たり、あるいは習得した後に、殺そうとする事件になります」
 一度、牡丹は目を伏せる。
「阻止しなければ、風が吹けば桶屋が儲かるかのように、ケルベロスの皆さんに不利な状況が発生してしまう可能性が高いですし……無論、それがなくても、デウスエクスに殺される一般人を見逃すことなんて、できませんよね」
 顔を上げ、確かな信頼を宿した眼差しをケルベロス達に向け、牡丹は告げる。
「一般人の方の保護と、ミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破を。どうか、お願いします」
 それから、彼女はこう補足した。
「巫女助勤というのは、神社の巫女さんバイトの正式な呼び方です。まず、未婚の若い女性であることが資格となります。また、お仕事の間は巫女装束に身を包み、地味で清潔な身なりをしている必要があります。仕事内容は、お札やお守りの販売などですね。それと、スマイルが重要みたいです」
 牡丹は続ける。
「狙われる一般人の方は、イツキさんという25歳の女性です。18歳から毎年、年末年始に巫女助勤をしてきた方ですね。基本的にはイツキさんを警護して、現れた螺旋忍軍と戦うことになりますが、事前に説明してイツキさんを避難させてしまった場合は、敵が別の対象を狙うなどしてしまい、被害を防げなくなってしまいます」
 それから牡丹は、少し微笑みを浮かべて言った。
「そこで、です。皆さんは、事件の3日ほど前から、イツキさんに接触できます。事情を話すなどして、巫女助勤のお仕事を教えてもらえれば、螺旋忍軍のターゲットを変更させることができるかもしれません。囮になるには見習い程度の力量になる必要がありますので、そうされるならぜひ頑張ってください」
 牡丹は再度表情を引き締め、状況の説明に移る。
「イツキさんがいらっしゃる神社はかなり小規模で、巫女助勤の方はイツキさんしかいないようです。ただ、他に神社の関係者の方が数名います。それに、参拝客の方がそれなりに来られるはずです。螺旋忍軍がイツキさん以外の一般人を狙って攻撃することは考えにくいですが……」
 戦闘に巻き込まないよう、工夫はあった方がいいかもしれない。
「敵は、道化師風の『ファラ』という女性と、サーカス団員風の……今回は怪力少女の、『ミド』。この2名の螺旋忍軍となります」
 ファラは螺旋手裏剣の三種、ミドは螺旋忍者の三種のグラビティをそれぞれ使う。ファラがスナイパー、ミドがクラッシャーだ。
「もし、皆さんが囮になることに成功すれば、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始めることが可能になるはずです」
 例えば、2体の敵の分断や、一方的な先制攻撃などだ。
「バタフライエフェクトの、最初の蝶の羽ばたき。ここで必ず止めてくれると、そう私は信じています」
 牡丹はそう締めくくり、頭を深く下げた。


参加者
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
楼・晶(黒迦・e08450)
プロデュー・マス(サーシス・e13730)
宇喜多・由加(酢漿草・e15632)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
レイラ・クリスティ(蒼氷の魔導士・e21318)
西城・静馬(創象者・e31364)
長谷川・わかな(腹ぺこ少女が行く・e31807)

■リプレイ

●巫女助勤の修行
 作戦に従い、ケルベロス達はイツキに事情を伝えた。
 囮になるべく修行を希望したのは、男性2名を除いた女性ケルベロス6名。
 イツキは快諾し、かくして巫女助勤の修行が開始される運びとなった。
 がらんがらん、と神社の鈴を鳴らすのは、長谷川・わかな(腹ぺこ少女が行く・e31807)。イツキに教わった通り、お賽銭を入れ、二回深くお辞儀し、次に二回柏手を打ち、そっと手を合わせる。
(「神様神様、ちょっと場所をお借りしますね。氏子さん達は必ず守るから安心してね。皆が元気で過ごせますよーに!」)
 最後にわかなは一礼。神社に祀られた神様への挨拶を終えた。
「巫女装束。一度着てみたかったのですよね」
 ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)は、暖かいインナーの上に巫女服を着る。この時季の立ち仕事なのだから、防寒対策は欠かせないはずだとティは考えた。カイロも準備済みである。
「この忙しい時期に忙しい人を狙うとか、良い度胸してるわよね」
 呟きつつ、同様に巫女服に着替えていく、楼・晶(黒迦・e08450)。そう言ってはいるものの、内心ではこの格好に盛り上がっている。
「アレらに言っても仕方ないんだろうけどさ、ハレの日にやって来るんじゃないんだよ。あっちにとっちゃ、むしろ好機なんかも知らんけど」
 着付けの仕方を念入りに覚えながらも、宇喜多・由加(酢漿草・e15632)が、敵への文句を口に出す。
「ええ、神様の前で非道な行いはさせません。必ずイツキさんを守りましょう」
 レイラ・クリスティ(蒼氷の魔導士・e21318)が、きゅっと髪を後ろで束ねる。巫女服を着られたのはレイラにとっても少し嬉しく思えるが、想いは真剣だ。
「せやなー、頑張らんとあかんな」
「うん、まずは修行を頑張らなくっちゃね!」
 八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)とわかなが応じた。
「皆さん、お着替えお疲れ様です。まずはこちらへどうぞ」
 女性陣全員の着付けが終わったところで、イツキは彼女らを、お守りやお札が置かれた場所に案内した。
「種類が色々ありますが、すぐにお出しできるように、どこに何があるかをしっかり覚えてください」
 言われた通り、頭に入れる努力をする女性ケルベロス達。レイラと由加は想定済みだったようで、落ち着いて覚えることができたようだ。
「それと、爽やかな、気持ちのいい笑顔で、参拝される皆様をお迎えしてくださいね」
 イツキは続け、ケルベロス達の笑顔の特訓に移る。元から笑顔が得意なメンバーも多かったが、練習は皆でしっかりと行った。
「それから、アルバイトとはいえ、神様にお仕えするのだという意識をしっかり持たなければなりません。コスプレではないので、写真撮影などはお断りしてくださいね」
 なるほどなー、と、イツキの言葉に瀬理が頷いた。もし参拝客に撮影をお願いされたら、どうすればいいか分からず困っていたかもしれない。
「あとは、お札やお守りをお渡しする時のご挨拶は、『お買い上げありがとうございました』ではなく、『ようこそお参りでした』なので、お間違えのないようにお願いします」
 覚えるべきことは多いようだ。ケルベロス達は一つ一つ、しっかり頭に叩き込んでいく。
「皆さん、修行の調子はいかがですか」
 修行の途中、西城・静馬(創象者・e31364)と、プロデュー・マス(サーシス・e13730)が様子を見に来た。3日間を修行ではなく地形把握に使うことを選んだ、男性ケルベロス2名である。
「こちらで分かったこととしては、本殿の裏に、あまり使われていない駐車場があるようだ。そこに敵を誘導するといいだろう」
 プロデューが伝える。
「さよか、おおきにな」
 にっこりして礼を言った瀬理へと、静馬が顔を向けた。
「様になっていますね、八蘇上さん。お似合いですよ」
「あかんでー、誉めても何も出ぇへんで」
 自身の巫女服姿について言及された瀬理は、照れたように笑った。

●囮の巫女
 やがて訪れた、事件当日。
 道化師風の服装の女性と、サーカス団員風の少女の二人組――螺旋忍軍のファラとミドが、社務所に向かって歩いてきた。
 囮になるべく、女性ケルベロス達は素知らぬふりで巫女助勤の仕事を続ける。
「素敵な一年となりますように」
 一般人の参拝客へ、真心を込めて、スムーズな動きでお守りを授与したレイラに、螺旋忍軍達の視線が向いた。
「そこの巫女さん、ちょっとよろしいですかぁ?」
「……教えて欲しいことがある」
 敵は、イツキではなくレイラに声をかけた。囮作戦は成功したようだ。
 遠巻きに見守っていた静馬は、静かに一般人の避難を開始した。プロデューもそれに倣う――プラチナチケットは一般人には効果的に働くはず、きっと助けになるだろうと、そう思いながら。
「なるほど、巫女助勤の仕事内容を。そうですね、ここだと他の参拝者の方々のお邪魔になってしまいますので……どうぞこちらへ」
 レイラは、適当な理由をつけて、ファラとミドを駐車場の方へ誘導する。由加もそれに続いた。今のところ、怪しまれている様子はないようだ。
 敵が少し離れた後で、わかなと瀬理、ティが顔を寄せ合い、小声で相談する。
(「服装が派手だから身なりを整えましょう、って言うのはヤブヘビかな?」)
(「せやな、戦場への誘導がうまくいってるなら必要ないやろ。あのけばけばしさは、うちもツッコミ入れたいところやけど」)
(「そうですね……それに、この状況だと、ミドだけ分断しようとすると怪しまれるかもしれませんね」)
 頷き合った3人は、レイラ達の後について行く。
(「気をつけてね。私もすぐに向かうから」)
 念のため、イツキの傍に最後まで残ることにした晶は、駐車場に向かう面々を見送った。

「ええとぉ……ここで何をやるのかしらぁ?」
 駐車場で辺りをきょろきょろ見回しているファラ達は、まだ襲ってくる様子はない……完全に油断している。
(「こないだったら、わざわざ一回分、相手に攻撃させる必要はあらへんな」)
 わざと隙を見せることも考慮していた瀬理だが、先に奇襲する方向に切り替え、彼女は大きく息を吸い込んだ。
「グゥルァァアアアアッッッ!!!!」
 猛虎の咆哮、『虎撃:雷哮畏凝(コゲキ・ライコウイギョウ)』をミドに浴びせかける。
「……!?」
 すぐに反応できないミド。レイラがそこに攻撃を重ねる。
「行くよ、プリンケプス!」
 さらに、ティの持っていた箱からは、ボクスドラゴンが現れる。ティの一撃に合わせ、その竜『プリンケプス』は、ブレスをミドに浴びせかけた。
 わかなは、オウガ粒子による味方の援護を行う。
「えぇ!? 何事ぉ!?」
「残念ですが、ケルベロスです。神妙にお縄につきなさい!」
 驚き慌てるファラに、レイラがきっぱりと告げた。
「騙したのねぇ! おのれぇ!」
「……殺す!」
 悔しがりつつ、螺旋の仮面を被るファラとミド……ケルベロス達の奇襲は成功である。

●螺旋の行方
 まもなく、戦場外で待機していた男性陣と、晶も戦いに加わった。
 ファラは手裏剣をジャグリングし、分裂させて前衛陣に降り注がせる。
「危ない危ない」
 眼鏡をかけたままの晶は、負傷しつつも淑やかに笑う。
 ケルベロス側が防御寄りに固めた布陣のため、被害はさほど大きくない。
「うちの変装も見破れんようじゃ、忍者として半人前もええとこやなー」
「……黙れ!」
 挑発の成果か、あるいは先刻の咆哮で付与された危機感のためか、ミドは瀬理の胴体を狙い掌底を打ち込んだ。派手に吹き飛ばされる瀬理。
「瀬理殿!」
「へっちゃらや、こんなん」
 思わず声を上げたプロデューへ、瀬理は起き上がってひらりと手を振ってみせ、自分の身にオーラを溜める。
「わかなさん、回復を」
「うん!」
 時空凍結弾をミドに撃ち放ちながら言ったレイラに、わかながこくりと頷く。瀬理はまだ耐えられると判断し、雷杖『秋桜』をかざして、前衛に雷の壁を構築した。
 ティ、プロデュー、静馬、晶、由加……ケルベロス達はミドに攻撃を集中させていく。ミドの生命力が底をつくまで、そう時間はかからなかった。
「無慈悲なりし氷の精霊よ」
 ふらつくミドの真下に、レイラは巨大な魔法陣を展開する。
「その力で彼の者に手向けの抱擁と終焉を」
 巨大な水柱が噴出し、氷結してゆく。信じられないものを見るかのような表情をミドは浮かべた。
 何か言い残すこともなく、そのままミドは粉々に打ち砕かれた。
「えぇっ!? ミドぉ!!」
 叫ぶファラ。
「……哀れだな、単なる末端として散るというのも」
 呟きと同時にファラに振るわれるプロデューのナイフ。血しぶきが上がる。
「まあなんだ、残念だが、諦めるこったな」
 由加は張りのある声で言い放ち、右手を天に掲げた。左手は開いて自分の胸に添える。
「天をつかむ一条の光。カシオペヤシュート!」
 降ろした右手をファラに向けて、収束した光を光線として真っ直ぐにファラへと放つ。それを受けたファラの動きが鈍った。
 ケルベロス達は、ターゲットをファラに移し、幾重も攻撃を重ねた。
 ファラは手裏剣を投げ応戦したが、幾度攻撃しても、ケルベロス側の負傷は浅くとどまった。
「皆! もうひと踏ん張り頑張ろう!」
 それらの負傷も、メディックのわかなが、そのほとんどをただちに癒す。ケルベロス側に余裕のある戦いと言えた。
 ティが、不意に、機敏な動きでファラの懐に飛び込んだ。
「バン!」
 『零距離(ゼロ・グラビトン)』。グラビティコアを打ち込み、重力崩壊を起こさせて、エネルギーによりファラの体を内側から破壊する。
「此処は神のお膝元――神の威光に平伏せ」
 静馬が、天に拳を突き出した。その拳が輝きを放つ……刹那、陽光のような速度で、無数の乱撃がファラを襲った。彼の右手に集約した、変性ナノマシン『アマテラス』が、宙に拡散し、記憶した拳打を再現したのだ。
「さてと、そろそろ」
 晶が眼鏡を外す。纏っていた淑やかさは捨て、殺害衝動を露わにした。
「終わりにしようじゃない」
 打ち込むのは螺旋掌。かつてデウスエクスから伝授された忍術だ。軽くファラに触れる、それだけでファラの体内は滅茶苦茶に破壊された。
「あ……がぁっ……」
 ファラは血を吐き、その場にうつ伏せに倒れる。
「せめて過去を想え――不死の螺旋は此処が終点だ」
 静馬の言葉は届いたか否か。ファラは事切れ、その体は砂のように崩れて風に流されていった。

●新年の始まり
「……さて。無事に終わったことを伝えに行かなければな」
「うん、これで皆も安心だね!」
 プロデューとわかなが言葉を交わす。
「そうですね。イツキさんを守れて、本当に、良かったです。……うう、それにしてもちょっと寒いかも。カイロカイロ……」
「あ、多めに用意してきたので、よろしければどうぞ。この寒さはキツいですよね」
 寒がるレイラに、ティがカイロを差し出した。
「ありがとうございます」
 手渡された温もりに、静かにレイラは微笑む。
(「本当に、いつもお世話になっていますね」)
 静馬は、自分の右腕にふと視線を落とした。
「少し、本殿に行ってきます」
 願わくばこれからもご加護を――そう祈りを捧げるべく、静馬は歩を進める。
「私は、年始にバイトを雇ってないか聞いてみようかしらね」
 晶は、どうやら巫女姿が気に入ったようだ。
「あ、うちも。うちもやりたい!」
 瀬理は八重歯を見せて笑う。愛らしい彼女が、銀髪ケモミミ巫女として評判になり、この神社の招き猫ならぬ招き虎に……なんていう未来も、あるかもしれない。
 こうして、ハレの日の平穏を、ケルベロス達は守り切った。
 ぐっ、と由加が背伸びをする。
「新年の始まりだ。良い年になるといいねえ」
「そうだな」
 プロデューが頷く。
「私達ケルベロスにとっても、良き一年であるように」
 きっと誰もが、そう祈ることだろう。

作者:地斬理々亜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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