今年こそクッシーを!

作者:麻香水娜

 ゴーン……。ゴーン……。
 冷たく澄み渡った空に響く除夜の鐘。
 しっかり防寒対策をした木村・国俊はチラリと腕時計を見る。
 時刻は0時を過ぎ、新たな年が始まった。
「今年こそクッシーをこの目で見るんだ……!」
 木陰で水筒から湯気の立つあたたかいコーヒーを蓋に注いで意気込む。
「最近すっかり目撃情報がなくなってしまったが、アイヌの伝説にも湖に生息する大きな蛇の伝承があるんだ。それがクッシーだ!」
 改めて湖面に視線を走らせた国俊は、いきなり何かで心臓を穿たれ倒れてしまった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 大きな鍵を持った黒いローブ魔女・アウゲイアスが一人ごちる。
 その背後には、長い首がモザイクになった首長竜がいた。
 
「ふむ。このクッシーというのは2000年以降、ブームが去ったら目撃情報も殆どなくなってしまったようですね……」
 スマホで何かを調べていた祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が呟く。
「流行りで目撃したような気分になった、という事だろうな」
 蒼梧の呟きに天照・葵依(蒼天の剣・e15383)が冷静に分析した。
「でしょうね。で、天照さんが危惧しておられましたように、ブームが去ってもクッシーを追い続けていた男性が今回の被害者となります」
 クッシーへの『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消してしまったが、『興味』を元にして現実化した首長竜が事件を起こそうとしているようだ。
 被害が出る前に首長竜ドリームイーターを撃破して欲しいと続ける。
 時刻は0時すぎ。新年を迎えて早々、湖畔にある森。周囲に人はいないようだ。
「大きさは3m~4mくらいといったところでしょうか」
 口からモザイクを吐いたり、噛み付いてきたり、雄叫びを上げて傷を癒すようである。
 大きな体から繰り出される攻撃はかなり威力が高いようだ。
「こいつも自分が誰だって聞いてくるのか?」
 葵依は自分の関わった事件を思い出しながら訊ねた。
「はい。『クッシー』や『恐竜』『怪獣』と言った答えならば襲われません」
 逆に『化け物』や『モンスター』等と答えると襲ってくる。この特性を使って作戦を考えて欲しい、と集まったケルベロス達に説明した。
「木村さんの口ぶり的に、目撃情報の頻繁にあった時からクッシーを追っているのでしょう。どうか、偽のクッシーを撃破し、木村さんを救って下さい」


参加者
ロゼ・アウランジェ(時謡いの薔薇姫・e00275)
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)
幽川・彗星(剣禅一如・e13276)
天照・葵依(蒼天の剣・e15383)
ラッセル・フォリア(羊草・e17713)

■リプレイ

●クッシーを探せ!
 辺りは静寂に包まれ、月明かりが湖面を照らす。
「森と湖の国……祖国フィンランドのよう」
 後で写真を撮って博士に年賀メールしましょう、と異国で新年を迎える事となったエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)が、広がる光景に懐かしさを覚えながら腰に固定しておいたライトをつけた。
「周りに照明もなく、月明かりだけでは流石に心許ないな」
 天照・葵依(蒼天の剣・e15383)は周囲の木の根元や枝に、用意しておいた防風ランタンを設置して光を灯す。
「これで水に飛び込んでも大丈夫です」
 万が一湖の中に逃げられても後を追えるようにと、腰にライトを固定した七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)がグッと意気込む。
「クッシー! 湖にいる首長竜ですね。浪漫があります!」
 一度見てみたいと思っていたのです、とロゼ・アウランジェ(時謡いの薔薇姫・e00275)がキラキラと瞳を輝かせた。
「良い……クッシーもイッシーもモッシーもオジャッシーもマツドドンも、良い。UMAは好きだ。フッ……」
 どこかうっとりとラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)が愛おしそうに呟く。
(「クッシーを追い求める酔狂な人もいるもんですね……」)
 期待に瞳を輝かせるロゼや愛おしそうに呟くラハティエルを、横目で見ながら幽川・彗星(剣禅一如・e13276)が小さく溜め息を吐いた。
「恐竜や太古の生物が生きていたら、なんてロマンだよねぇ……」
 彗星とは反対に、ラッセル・フォリア(羊草・e17713)は2人を微笑ましく眺めた。
「しかも、結構信憑性高いのもあるみたいだよねぇ」
「そうだ。写真があったりするくらいだからな」
 ラッセルの言葉にラハティエルが食いつく。好きなだけあって噂にも精通しているようだ。
 最初の目撃情報は『ボートを逆さにしたような物体が屈斜路湖を泳いでいる』というもの。その目撃者が撮影した写真は確かに首長竜のようなシルエットに見えない事もない。遠足に来ていた中学生と教員が全員怪物を目撃したという話もあれば、急に馬がおびえ出したと思って屈斜路湖の方を見たら首だけを出したクッシーと思しき生物がいた、という話もある。
「えへへ、写真撮ってみたいですし背中にも乗ってみたいです!」
 ラッセルやラハティエルが話す噂話にロゼは身を乗り出し、七海やエルモアも瞳を輝かせた。
(「今の世代って、クッシー知ってる人そんなにいないと思うんですが……詳しいですね……」)
 彗星がどこか呆れたように内心で嘆息する。

 ――ザバーン!!

 その時、湖から何かが勢いよく飛び出してきた。
「出ましたわ!」
 エルモアが何よりも先にカメラを構えてシャッターを切る。
「さ、さむっ! さむっ!? クッシーだかネッシーだか知らないけど、さっさと倒すんだぞ!?」
 自分を抱き締めるように腕を擦って寒さに震える風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)が武器を構えた。
 真冬の北海道であるにも関わらず、水中戦を想定して水着に革のジャケットを羽織っただけの格好なのだから仕方ない。
「えぇ。ちゃっちゃか終わらせて帰りますよ」
「変身!」
 彗星が声を上げるとそれぞれ皆が武器を構える。そして響が掛け声と共に獣人態に変身して、全員が臨戦態勢に入った。

●湖面に現われたるは……?
『……我は何者ぞ……』
 8人の頭に直接声が流れ込んでくる。
(「喋るんじゃないんですのね……」)
 エルモアは軽く落胆した。
「クッシーでしょう?」
「ええと、串田さん? ……じゃなくて、屈斜路湖にいるからクッシーですわよね」
 彗星が冷静に答えると、エルモアも気を取り直して首を傾げながら口を開く。
「え、クッキー?」
 ラッセルがとぼけたように首を傾げた。
「化け物だろ! やい! 化け物!!」
 更に響が挑発する。
『ガアァ!!』
 それは『化け物ではない!』とでも言うかのように、首長竜は勢い良く首を鞭のようにしならせて響きの腕に噛み付いた。
「……っ……力が……」
「響さんを離して下さいっ」
 ロゼが鎌を回転させながら投げつけて顔の付け根を斬りつけて持ち主の下へと戻っていく。
『!!』
 首長竜は痛みに響から口を離して後ずさった。
「へメラちゃんも頑張りましょう!」
 サーヴァントのテレビウムに声をかけると、ヘメラは頷いて響の目の前に移動。応援動画でその傷を癒す。上手く力が入らなくなった原因である腕の痛みを取り除いた。
「ちょいと前を失礼……脳天に効きますよっと」
 薄笑いを浮べながら呟く彗星が、高く跳躍してドラゴニック・パワーを噴射し、思い切り頭上から叩き潰す。
「いくぞ」
 さっと紙兵を構えた葵依は、それを大量にばら撒いて前衛の仲間達に守護をつけた。更に響の傷も微量に塞いでいく。そこへ葵依のサーヴァントである月詠が響に駆け寄り、属性を注入して完全に回復させた。
「助かったぞ!」
 響はヒール不能ダメージはあれど、ほぼ全快に近い状態にしてもらえた事に、ヘメラに葵依、月詠にそれぞれ笑いかける。
「私はラハティエル・マッケンゼン、ケルベロスが一人! 恨みはないが、幻影のイッシー……汝、滅ぶべし!」
 ラハティエルが高らかに名乗りを上げると真っ直ぐ駆け出し、納刀状態から一瞬にして抜刀すると、鋭い光を閃かせながら斬り捨てた。
「まずは弱らせましょう!」
 エルモアが高速演算を開始する。ラハティエルがつけた傷口に更に痛烈な一撃を叩き込んで鱗全体に響かせて脆くした。
「それを更に深くします」
 同じタイミングで走り出した七海が、その傷口を惨殺ナイフで抉るように斬り付ける。
「未確認の水棲生物に見せかけたオバケ、だよねぇ?」
 ラッセルが、今度は自分に攻撃がくるように挑発をしながら飛び上がってその大きな胴体に飛び蹴りを炸裂させて重力の錘をつけた。
「やってくれたな」
 響が満月に似た光珠を作り出し、自身にぶつける事で凶暴性を高める。凶暴な光を宿した主人の横から飛び出したサーヴァントのヘルトブリーゼは、激しいスピンをしながら首長竜の足を轢き潰した。
『グオオオオオオオ!!』
 立て続けの攻撃に苦しげな雄叫びが上がる。
(「この隙にちょっと撮影してみようかな」)
 体勢を立て直したラッセルが携帯電話を取り出してカメラ機能を呼び出してシャッターを押した。

●集中砲火
『ウオォォォォン!!』
 澄み渡った夜空に首長竜の雄叫びが響き渡る。
 すると、首を覆っていたモザイクが広がり、あちこちにある傷を修復した。鱗も硬さを取り戻し、完全ではないが若干動きも軽くなったようである。
「因果よ歪め……敵対者を悉く皆殺しにする、月屠る刃」
 今まで飄々としながらも丁寧であった彗星の口調に鋭く冷たい色が宿った。
 刀身に紅き揺らめきが宿り、尋常ならざる威力で斬りかかる。
『ガアア!!』
 大きく首を斬りつけられた首長竜が何度も首を揺らしながら暴れる。
「一気にけりをつけるぞ!」
 葵依が手元のスイッチを押すと前衛の仲間達の背にカラフルな爆発が起こった。
「回復された上に避けられてしまったら大変ですね」
「その首圧し折って差し上げますわ! おーっほっほっほ!」
「動けないくらいにしてしまいましょう」
 ロゼが高々と飛び上がってスカルブレイカーで首長竜の頭から一気に叩き割ると、ロゼが飛び上がった瞬間構えたエルモアがバスタービームを放つ。更に七海が螺旋掌を撃ち込んだ。3人の連携攻撃により格段に動きが悪くなる。そこへヘメラがテレビフラッシュを使って自分に注意を引きつけた。
「全てのUMAを愛する者を代表して、偽物やフェイクは必ず倒す! さぁ、我が黄金の炎を見よ。そして……絶望せよ!」
 クッシーの偽物であるドリームイーターを強く睨み付けたラハティエルが背の翼を大きく広げる。その翼は目も眩むような鮮朱の炎に輝き、バサッと大きくはばたかれた。
『グオオォォォ!!!』
 灼熱劫火の超高熱エネルギーに首長竜が燃え上がる。
 その断末魔の叫びは夜を震わせ、全身がモザイクのように輪郭がぼやけると、跡形もなく消え去った。

●本物のクッシーは?
 首長竜ドリームイーターが消えると、ケルベロス達は周囲のヒールに取り掛かりひと段落する。
「あ、あけましておめでとうございますっ! 新年も良い年になりますように!」
 ふいにロゼがふわりと微笑んで仲間達に頭を下げた。隣のヘメラも、ロゼに倣ってペコリとお辞儀する。
 おめでとう、おめでとうございます等、皆が口々に新年の挨拶を口にした。
「あ、わたくし、木村さんの様子を見てきますわ。ついでに写真も見せて差し上げませんと!」
 挨拶がひと段落すると、首長竜が現れた瞬間にカメラを構えたエルモアが意気揚々と被害者の男性を探しに向かう。
 しかし、そのカメラのレンズキャップは一度も外されていないのだが。
「オレも行くよ。携帯で撮影したし」
 綺麗に撮れなかったけどねぇ、とラッセルが画面を見ながら苦笑する。戦闘中だったのもあり、思い切り画面がブレてしまっていた。
「今日もまた、生き延びたか。さぁ、婚約者のリリアの元へ、帰ろう」
 愛用のスキットルを取り出して中を一口煽ったラハティエルが一息吐いた。
「……その前に、イッシーがいないか湖を探索していかないと、な。フッ……」
 そして楽しげに口元を歪める。
(「ちょっと冬の湖に入るのは……」)
 ロゼが湖面をじっと見つめた。クッシーは本当にいると信じているからこそ実際に見たいし背にも乗りたいと考えているが、冬の湖に入る勇気がどうしても出ない。
「あ、みんな新年早々風邪引かないように、ね?」
 ラッセルが仲間達に声をかけてからエルモアの後を追った。水着に革のジャケットを羽織っていた響以外にも、服の下に水着を着込んでいた仲間達は次々と水着姿になっていたから。
「酸性がきつい? 冷たい? ケルベロスはそんなことじゃへこたれません」
 水着になった上にゴーグルまで装着した七海は、湖探索をする気満々だ。
「一時期ブームになってみたいだから、見た気になるのも仕方ないよな。……まったくこんな噂話を信じるのもなぁ……ハックション!!」
 冷静に口を開く葵依だったが、しっかり水着姿になってクッシーを探す準備万端である。流石に寒くて盛大にくしゃみをしたが。
「本当にクッシー探すんですか……? 私もいなきゃダメでしょうか……あ、ダメ……はー、付き合いますよもう……」
 釣り竿たらせば食いつきますかねえ、と言いながら釣竿を取り出しているのは彗星。

 エルモアとラッセルが倒れていた木村・国俊と共に賑やかな仲間達と合流し、共に初日の出を拝んで新たな1年の幕が上がった。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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