「やっぱり明日になってからにすべきだったかなぁ」
マフラーに顔を埋め、頭に被るニット帽を引き降ろし少年は震えながら呟く。
雪の降る住宅街の道は暗く、足元には薄く雪が積もり始めている。明日の朝になればおそらく街は真っ白に染まってしまうだろう。
「この分にはでも、明日には調べられなくなるかもだし、しかたないか」
白く煙る溜息を吐きながら少年は手元の携帯端末に送られてきたメッセージを読み返す。
「まったく、部長も人使いが荒いよ」
そう呟きながらも彼の顔はどこか嬉しそうに緩んでいる。
「発火能力者による連続放火事件。犯人がもう数ヶ月捕まってないとなると、いよいよ、真実味を帯びてきたなぁ」
雪の上に微かな足跡を残しながら、少年は雪の降る夜の街を歩いていく。
「この間の現場、流石にこんな天気模様じゃ、野次馬もいないだろうな」
軽く呟き、交差路で一度足を止めた少年は、背中に衝撃をうけ、よろけるように、一歩踏み出した。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
その声を聞くことなく、少年は意識を手放し、雪の降り積もる道路の静かに横たわる。
「皆さんは火ってお好きですか? こう寒いと焚き火で焼き芋なんてのも良いですが、ちょっと間違えれば大惨事、なんてことになりかねません」
ガスのほうがお料理おいしいですしねぇ、などとニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は薄く笑みを浮かべながら、電気ケトルで沸かしたお湯で入れた珈琲をケルベロス達の前へと配っていく。
「そんな火を自由に操り、放火をして回る人間がいるなんて噂がここ最近とある街で話題になっていたりしたのですが。その事件に興味を持って調べていた高校生がドリームイーターに襲われ、その興味を奪われてしまったようです。
その興味は、ドリームイーターの手により、現実に怪物として、顕現してしまった、と」
平たくいえば、いつもどおり皆さんにこのドリームイーターを倒してきてほしいというわけですね。とニアはなんてことのないようにケルベロス達に語り、後を続ける。
「皆さんの中にも、炎を操るのが得意な方々もいらっしゃるでしょうし、デウスエクスなんかと戦ってるとまぁ、そこまで驚くようなことでもないですし、大丈夫だとは思いますが。
雪が降っているものの街中ですので、うっかり戦闘が長引くとあたり一面火の海で修復の手間が激増、なんてことはあるかもしれませんね?」
この時期、野外での活動は堪えますし、できるだけ早く終わらせたいところですよね? とニアは笑い、暗にできるだけはやく被害を少なく倒して欲しいと、告げる。
「元となった噂と同様、ドリームイーターは放火を行うために住宅街を彷徨っているでしょう。噂によれば、この放火魔は、やや目立つ格好をしており、もしその姿を目撃したことを気づかれると、どこまでも追ってきて、燃やされてしまうのだとか。
この手のタイプのドリームイーター同様、噂話をしているとよってくるため、先ほど述べた特直とあわせ、燃えるものが少ないところへ連れて行くといいかもしれませんね?」
詳しい噂上の外見情報や、予想される戦闘方法をまとめ、ケルベロス達の下へデータを送るとニアはすっかり冷めてしまった自分の分の飲み物をグッと飲み干して立ち上がる。
「いくら元に戻せるとはいえ、我が家が炎に包まれるなんてことは考えたくないものですし、周辺被害が出る前にささっと倒して、あったかいお部屋でぬくぬくとおいしいものでも食べてゆっくりしましょう」
参加者 | |
---|---|
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634) |
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772) |
橘・楓(メイプルワルツ・e02979) |
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652) |
セレス・アキツキ(言霊の操り手・e22385) |
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875) |
ヴィルヘルミナ・ザラマンダー(赤い矢印のヴァルキュリア・e25063) |
デニス・ドレヴァンツ(シャドウエルフのガンスリンガー・e26865) |
●
夜になって降り始めた雪は師走の街にゆっくりと降り積もり、色とりどりの住宅街の屋根を一様に白く染めていく。
明日の朝になれば屋根どころか街中真っ白に染まり、幻想的な光景を目にすることができるだろう。 しかし、日の落ち、月の明かりもない夜に降り続ける雪はただただ寒く、身を凍えさせるだけに過ぎない。
風がないのがせめてもの救いか、ゆったりと降り積もる雪の中、足跡を残し歩いていくケルベロス達は、時折空から降るそれに目を向けつつ。住宅街を迷いなく歩いていく。
「こう寒いと、 暖かい部屋が恋しいです」
雪を被る街並を眺めながら、両の手に息を吐きかけ八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)はポツリと呟く。それ程人の多い街でもなく、周囲の住宅から漏れる光は少ないものの、寒空の下ぼんやりと浮かぶその明かりはとても暖かそうに彼等の目には映る。
「そうだね、雪の降る夜に暖炉にくべた薪の燃える音を聞きながら、読書なんていうのはなかなか乙なものだろう」
デニス・ドレヴァンツ(シャドウエルフのガンスリンガー・e26865)のそんな言葉に、その場にいたケルベロス達は情景を想像し、その緩やかで暖かな光景にほぅと溜息を吐く。
「素敵ですね、暖炉で炎が燃える様は美しそうです」
うっとりとしながらメリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)は言いつつ、ふっと思い出したように、再び口を開く。
「炎で思い出しましたが、皆さんご存じです? 最近この辺りで連続放火事件が続いてるんですって! 怖いですねぇー!」
「噂は聞いたことありますね、フードを被りガスマスクをしているそうですよ。とても怪しく、まさに放火魔な服装ですね」
微笑を浮かべ、肩に積もる雪を払うアレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)メリーナの話題に乗りつつその視線を時折あたりの街並へと向けている。
住宅街を歩くケルベロス達の足取りに迷いはなく、その向かう先は、街外れの人気の少ない一体だ。
「よくご存知で、この噂実は続きがありましてですねぇ……」
アレクセイが話題に乗ってくれたのが嬉しいのか、メリーナははしゃぎながらも、話をもったいぶりややためを作り、他の仲間たちのほうにチラと視線を向ける。
「パイロキネシスのような能力を持っていると言われているらしいな……それが本当なら普通の人間とは思えないな……」
メリーナの取って置きの台詞をヴィルヘルミナ・ザラマンダー(赤い矢印のヴァルキュリア・e25063)淡々ととくに気にした様子もなくあっさりと口にし、一人考えるように唇を指でなぞる。
「本当にいるのかしらね、火を操る放火魔なんて……」
ヴィルへルミナ同様、怪訝な表情をうかべセレス・アキツキ(言霊の操り手・e22385)は話半分な様子で、耳に掛かる髪をそっとかきあげ、一時立ち止まった後、軽く頭を振る。
「発火能力者による連続放火……それが本当ならちょっと怖いですね……もし……今この場に現れたりしたら……」
疑り深そうなヴィルヘルミナとセレスとは対照的に、橘・楓(メイプルワルツ・e02979)はその放火魔が存在してるのを前提としているかの様に心配そうに語りつつ、不安げに辺りを見回す。
気づけば彼等は住宅街を抜け、寂れた公園をゆったりと歩いていた。
街灯に照らされる雪が白く浮かび上がる景色の中に彼等以外の人影はなく、辺りはしんと静まり返っている。
「えー、面白そうじゃないですか! ご『興味』ありません?」
楓の不安げな態度とは真逆にメリーナはその言葉通り興味しんしんといった様子で、仲間達にそのきらきらと輝く視線を向ける。
「傍迷惑ではあるけれど……本当なら、少し会ってみたい気もするわね」
セレスのその言葉には、他のケルベロス達も概ね同意なのか、同意の声や頷きがちらほらと上がる。
「連続放火事件の起きた現場を地図上で結ぶと何かを象っていると聞いたよ。
それを基に次の犯行予測地点がいくつか絞られているから、興味があるならその一つに行ってみようか?」
そんな仲間たちの様子に緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)がそんな話題を持ち出せば、当然、興味を示すケルベロス達が断るはずもない。
静かな公園に響くケルベロス達の声、彼等がこぞって移動を始めようとしたところにふと声が掛かる。
「何がそんなに興味をひいたの?」
何かに遮られるようなくぐもった中性的な声。
振り返った先、フードを目深に被り、顔を伏せる小柄な人影がぽつんと歩道の中央に立っていた。
濃いモスグリーンのトレンチコートは闇の中酷く暗く、その肩や頭に薄く積もる対照的な雪を軽く払い、それは顔を上げる。
無骨なガスマスクに覆われた顔からそれが何者なのか判別は出来ない、しかし、その格好こそが件の放火魔と同じであり、彼等ケルベロスが探している目標と同じであるいじょう、それはさしたる問題ではない。
「だってだって、何もない所から火が出せるなんて、そんなの――」
しかし、万が一という可能性は否定できない。メリーナは躊躇うかのように、視線をそらし、迷うかの様な仕草から、ふっと笑みを浮かべ、ガスマスクの奥のその目を見据えるかの様に、言葉を繋ぐ。
「そんなの――私たちケルベロスかあなたがたデウスエクスかくらいにしかできませんよね♪」
その答えにそれはコートののポケットに突っ込んだ手を引きぬくと掌をケルベロス達へと向ける。
「ふぅん……ま、別に何でもいいんだけどね。どうせ皆――消し炭になるんだから」
両の掌に炎が灯る。
突き出された掌から膨れ上がる炎は、闇の中赤々と燃え盛る火球となって、ケルベロス達を目掛け発射される。
●
放たれた火球が弾け、街路樹を燃やし周囲の雪が瞬く間に蒸発する。
爆炎が夜の闇に裂き、炎の音がごうと響く。
一瞬で炎に包まれた人気のない公園の一角、放火魔は佇み、燃え盛る炎を見つめていたかと思うと、突如右へと飛んんだ。
「まずは……『彷徨い続け 出会えたその笑顔 もう誰にも壊させない』」
響く歌声、続き、炎の中から飛び出した激しく回転する大鎌が、先程まで放火魔の佇んでいた場所を切り裂いて飛んでいく。
鎌に裂かれた炎から覗くのは楓の展開する雷の障壁に守られたケルベロス達の姿。
「これが住宅街、それも我が家のある街だったらと思うとなかなかゾッとします」
言葉と裏腹の笑顔を崩さないアレクセイは、自らの放った一撃が敵に交わされたのを気にした様子もなく、前に進み出るメリーナに道を開けるように、一歩横に退く。
「――ぜんぶぜーんぶ本物です♪」
炎を背に飛び出したメリーナの影が幾方向にも伸び、それらは前に進む彼女と共に敵へと迫る。それらは敵の目前で実体を得ると、影の伸びた先、街路樹の枝、街灯の頂点、敵の背後、四方八方から一斉に襲い掛かる。
避けられないと判断を下し迎撃の構えを取った放火魔、その背に衝撃が走る。
大きく弧を描き反転したアレクセイの大鎌が放火魔の背に突き立っていた。
その隙を逃さずメリーナは仕掛ける。
刃を振るい、攻性植物をけしかけ、次の実体がその首を落とそうと飛び掛ったところで再び炎が爆ぜた。
自らをも巻き込む爆炎の攻撃に数多のメリーナが焼かれ影へと巻き戻る。
炎の中放火魔はその身を炎に曝されることなく、立っている。しかし先ほどの一連の攻防に裂かれたコートからは白い肌とその下のモザイクが覗き、吹き飛ばされたフードからは肩ほどまでの真紅の髪が零れていた。
「自分の炎で身を焼かれる事はないってわけね……ま、そうでもないと、自爆なんてされたら、この寒い中待ってたのに張り合いがないものね」
喉元に手を当て、意匠を凝らした杖を握り、余裕を見せ付けるようにセレスは敵へと語りかける。自らを鼓舞し、力を込めるように。
「寒いなら遠慮せず炎に焼かれるといい」
再び放たれる炎弾は真っ直ぐにケルベロスの一団を目掛け飛ぶ。それに対し、同じ色の真っ赤な髪を揺らしヴィルへルミナは真っ向からその炎を受け止める。
「炎の赤。熱情の赤。ジェットエンジンの青みがかかった赤。徹甲焼夷弾の黒っぽい赤。私もとても好きだ」
右手を突き出し、受け止めた炎弾を握りつぶすかの様にヴィルヘルミナは拳をぎゅっと握りこむ。
荒れ狂う火球の熱に顔を顰め、髪の先が焼かれ、その腕を炎に包まれながらも彼女は退かずその視線を敵へと向ける。
「これほどまでに素晴らしい赤を、デウスエクス風情のものとはさせんよ」
言葉と共に炎が弾け霧散し、火の粉が闇の中に舞う。攻撃を防がれた事実に放火魔が驚く暇もなく、燃え盛る炎の合間を抜け結衣とセレスがその身に肉薄する。
セレスの放つ鋭い蹴りの一撃に敵の体勢が崩れ、結衣の振るう蒼雷の輝きを纏う刃の切っ先が敵の体へと沈み込む。
●
くぐもった声が響き、放火魔の体が傾ぐ。無理やりに体に突き立つ刃を抜き、放火魔は何とか距離を取ろうとする。
「逃がしませんよ。其処はまだ、私の間合いです」
肉薄する鎮紅からの間合いから逃れたと思われた敵の体を衝撃が貫く。届かないはずの舞うような斬撃の先から放たれた紫電の衝撃は、澄んだ音を奏で敵の体をその場へと縛りつける。
畳み掛けるように放たれるヴィルヘルミナの雨のような銃撃を足を止めなぎ払うように焼き落とした放火魔。
「――猛き者に、力を」
銃撃と炎の爆ぜる音にかき消されるデニスの微かな詠唱。隠密性を高めるその援護を受けたアレクセイは闇に紛れ、放火魔に休む暇もなく攻撃を繰り出す。
「炎がお好きなようですが、氷はいかがですか?」
背後からの声に咄嗟に腕を突き出し、防御した放火魔の腕が突如凍てつく。
逆の手で放たれた炎が闇を焼き、アレクセイの姿が再びかき消える。
降り続ける雪は彼等の戦いの繰り広げられる周辺にだけ積もる事なく消えていく。
メリーナの振るう光の剣を、敵は炎の拳で迎撃し、楓の歌声が反撃を受けたメリーナの傷を癒す。
そのまま畳みかけようとした敵を遮るように結衣の起こした爆炎が立ち塞がり、虚を突きしかけた鎮紅の振るう刃にたまらず放火魔は距離を取る。
戦いが長引くほどに辺りに火が周り、降りしきる雪などお構いなしに火勢は勢いを増す。
敵は決して容易には踏み込んでは来ない、自らの力をしかと理解し、可能な限り遠距離戦に徹している。これ以上の時はかけられない、そう判断を下し、デニスとヴィルヘルミナは仕掛ける。
「さぁ、食事の時間だよ。行っておいで」
銀の毛並みに紅の炎の輝きを映し、呼び出された狼は咆哮をあげ放火魔へと飛び掛る。
牙が腕に沈み込み、その体躯の差に放火魔の体が降りまわされ宙に浮く。
「シュテルング……フォイアアアアアアァァ!! ロオオオオオオオォォォスゥゥゥ!!」
瞬間、ヴィルヘルミナが駆ける。
高速の突進に咄嗟に防御しようと腕を掲げた敵の横をぬけ、彼女の体は反転し、空へと昇る。輝く翼が炎の光の届かぬ夜空に輝き、急停止したヴィルヘルミナの姿を敵は目で追いきれずその姿を視界から恥ずる。
銀色の狼が食いついていた腕を放し、離脱したところで、ようやく放火魔はヴィルヘルミナを捕捉した、同時に、その視界が真っ赤な光で埋め尽くされた。
ヴィルヘルミナの放つ炎よりも紅い純粋な熱量の塊が、放火魔の体を炎に包む。
舗装された道すらも雪と同様に溶かすその攻撃を受けながらも、しかし放火魔は倒れない、その身を切り裂かれ、焼かれ満身創痍ながらも、その身をもって地を蹴る。
ヴィルヘルミナが炎弾を受け止めたのと同様に、敵は真っ向から攻撃を受けながらも、前進を続け。掌に点した炎を燃え盛らせ、一撃をヴィルヘルミナへと叩き込む。
叩き落された彼女の体を炎が包み、すぐさまアレクセイと楓の二人が治療のために彼女の元へと駆け寄る。
「さあ歌おう この想い伝えるために さあ奏でよう 大切なモノのために」
楓の歌声が上がると同時、それを阻止すべく視線をそちらへと向けた敵の前に、メリーナが立ち塞がる。
「邪魔だ」
目の前の立ち塞がる敵に対し、放火魔は先ほどヴィルヘルミナに対し放ったのと同じ、なぎ払うような炎の一撃を見舞う。
弧を描く炎の軌跡、身の丈ほどの炎を宿し、なぎ払うようなその一撃はしかし、メリーナへは届かない。鎮紅が両の手に構えたダガーでその一撃を受け止め、流し、その体を崩させる。
「炎は人にぬくもりを与えたが、制御できない炎は全てを飲み込み焼き尽くす」
結衣の手に炎がぼうと宿り、それを眺めるのも一瞬。
「傷つけるだけの炎ならば、必要ない」
その炎を翳した刀身へと厭わせ、振り下ろす。
先ほどの敵の一撃よりもより大きな炎。
燃え盛るそれを彼は、周囲へ被害をもたらさぬようただ一点へと集中し、敵目掛け叩きつけた。
「その程度、避けられぬとでも――」
一点に集中したことで範囲を狭められたそれを、鼻で笑い、後ろに飛ぼうとした放火魔の足はしかし、動かない。
「幕引きよ」
紫陽花の武器飾りの揺れる、セレスの杖から放たれた稲妻の矢がその足を貫き、地へと縫いとめていた。
着弾と共に炎は火柱となり、集中し凝縮された炎は、放火魔の体を灰一つ残さず燃やしつくした。
●
「こう被害が多いと、元通りというわけにはどうしてもいかないものだね」
燃え広がる炎を何とか消化し、修復作業を始めたのは良いものの、その範囲は広大でどうあっても幻想を含む光景へと周囲は変わっていく。
その光景に軽く溜息を吐きつつも、表情の方は反対にどこか楽しげにデニスは作業を続けていく。
「こればかりは、しかたないです」
鎮紅も極力元通りになるようにと最低限の修復ですむよう注意を払いつつ修復にあたる。
「!? やーんなんか修復が変な感じにぃ!!」
その横でメリーナの修復した街灯が季節感溢れる幻想的な姿へと変わり果て、皆一様に苦笑する。
「皆さんにも、民家にも大きな被害はなかったですし、十分ではないですか?」
ヴィルヘルミナの傷を癒すついでに、燃え落ちた服の袖を修復する彼女の言葉に、アレクセイは深く頷きながら、辺りの被害に目を向ける。
「やはり火災というのは恐ろしいものです、僅かな時間でも甚大な被害に繋がる。誰かの大切なモノが失われなかったのは僥倖です」
笑みを浮かべる彼の脳裏に浮かぶのは大切な我が家と、帰りを待つ愛するただ一人の人。
その言葉にデニスもまた、溺愛する一人娘のことを思い出し、ふと街路樹の脇に咲いた幻想の白い花にその姿を重ねる。
そんな戦いの痕として残る幻想も、未だ降り続く雪に明日の朝にはすべて埋もれ消えてしまうだろう。街中を一面美しく幻想的に染め上げる一面の銀世界に。
それを知りつつも彼等は、大切な日常を取り戻すべく、ただただできる事を続けていくのだ。
作者:雨乃香 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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