忍ばない暗殺者之巻

作者:雷紋寺音弥

●忍ばない暗殺者
 ブラジル、サンパウロ州の某所にて。
 見渡す限りのコーヒー園。緑の灌木が続く圃場の中を、農場主のロベルトは日課の見回りで歩いていた。
 農園で働いているのは労働者達だが、経営者として全てを彼らに丸投げしていては、真に品質の高いコーヒーは作れない。父の父の、そのまた父の代から受け継いだ農園を守るためには、やはり自分の足で見回りをしなければ。
 だが、圃場の半ばまで歩を進めたとき、目の前に植えられたコーヒーの木が唐突に揺れ出した。
「ヘーイ! ようやく見つけマシ~タ、ミスター・ロベェェェルト!」
 灌木と灌木の間から、陽気な声と共に飛び出して来た謎の男。その頭は螺旋の描かれた覆面で覆われており、やたら露出度の高い鎖帷子のような衣装を身に纏っている。おまけに、身体のあちこちは、何故か煌びやかな羽で飾られていた。
「な、なんだ、お前は! 私の農場で何をしている!!」
 いきなりあらわれた不審者に、ロベルトは思わず叫びながら尋ねた。だが、謎の男は珍妙な動きで身体を揺らしながら服の隙間に手を突っ込むと、中から多数の手裏剣を取り出した。
「残念ですが、ユーのクエスチョンに答えることはできマセ~ン! なぜなら……ユーのライフは、ここでジ・エンドだからデ~ス!」
 そう言うが早いか、手にした手裏剣を投げつける男。哀れ、無数に降り注ぐ手裏剣の雨を受け、ロベルトは抵抗もできずに倒れ伏し。
「可哀想ですが、それもこれも、ユーがケルベ~ロス達に協力したからいけないのデ~ス! せいぜいそこで、コーヒーの栄養になっているのがお似合いデスネ!」
 既に物言わぬ塊となったロベルトの身体を放置して、謎の男は颯爽とコーヒーの木々の間へ消え去った。

●零之巻・先触
「まさか、このようなふざけた忍者が他にもいたとは……」
 その日、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)からの報告を受けた不忍・辛(螺旋忍者・e04642)は、思わず呆れた口調で呟かざるを得なかった。
 以前、彼は復活した螺旋忍軍の一人、オネェ忍者と戦ったことがある。だが、今回予知された存在は、そんなオネェ忍者をも別の意味で超える存在かもしれないと。
「えっと……とりあえず、詳しいことは自分から説明させてもらうっす。辛さんの予想していた通り、おかしな格好の螺旋忍軍が現れたっすよ」
 どうにも微妙な顔をしたままの辛に代わり、ダンテが詳細をケルベロス達に語り始めた。
 今回、事件の起きる場所はブラジルのサンパウロ州郊外にあるコーヒー農園。そこの経営者であるロベルトという男が、螺旋忍軍によって殺されてしまうのだという。
「ロベルトさんは、鎌倉争奪戦で大きく貢献してくれた人の一人っす。ケルベロス・ウォーに貢献した人間を粛正することで、今後のケルベロス・ウォーに協力する者を減らそうっていう目論見らしいっすね」
 ケルベロス達を直接狙わず、協力者を狙うとは嫌らしい作戦だ。しかし、これが有効な手であることは間違いなく、放っておけば直接的にも間接的にもケルベロス達の不利に働いてしまう。
「そういうわけで、ケルベロスの皆さんには、この螺旋忍軍による暗殺を未然に防いで欲しいっす。敵は1体のみで隠密行動しているっすから、他に伏兵が潜んでいる様子はないっすね」
 ダンテの話によると、襲撃が行われるのはロベルトが圃場の見回りを行っている最中。襲撃の事実をロベルト本人に伝えてしまうと螺旋忍軍が標的を変更してしまうかもしれないので、彼には普段通りに過ごしてもらった上で、ケルベロス達が姿や立場を隠して護衛に付くしかない。
 現場となるコーヒー農園は、見渡す限りコーヒーの木が植えられている。木の高さは3m程で、身を隠す場所には困らない。だが、それは即ち、敵もまた身を隠すのに苦労せず、どこから襲って来るか判らないということだ。
「あ、ちなみに、敵の螺旋忍軍は、やたら露出度の高い忍装束を派手な羽で飾ってるっす。得意な武器は螺旋手裏剣で、片言の語尾で話すのが特徴っすよ」
 一瞬、その場にいた全員の顔が、なんとも言えぬ微妙な表情になったのは言うまでもない。
 なるほど、先程から辛が頭を悩ませていたのは、この螺旋忍軍の格好が原因か。おまけに、パチモンのアメリカ人のような口調で喋ると来れば、頭が痛くならない方がおかしいだろう。
 だが、それでも敵は紛うことなきデウスエクス。油断すればロベルトは殺され、今後のケルベロス達の活動にも支障が出てしまう。
「こんなふざけた格好のやつを忍者と呼ぶのは、本物の忍者に申し訳ない気がするっす……。それに、世界のためにケルベロスの皆さんに協力してくれる人が、むざむざ殺されるのを黙って見ているわけにも行かないっすよ」
 色々と突っ込みどころのある敵だが、護衛の際も戦う際も、決して油断しないで欲しい。そう言って、ダンテは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
呉羽・律(凱歌継承者・e00780)
露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)
リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)
揚・藍月(青龍・e04638)
コンスタンツァ・キルシェ(地球人のガンスリンガー・e07326)
左野・かなめ(絶氷の鬼忍と呼ばれた娘・e08739)
エリン・コルヴィ(斑のカラス・e13526)

■リプレイ

●壱之巻:奇襲
 その日、農場主であるロベルトは、いつもの日課である圃場の見回りを行っていた。
「見回りお疲れ様です。良い天気ですね」
 コーヒーの木の手入れをしていた数名の労働者達が、ロベルトの姿を見つけて軽く頭を下げた。見覚えのない顔だったが、恐らくは新入りだろう。そう思い、あまり気にはしなかったのだが。
「ヘーイ! ようやく見つけマシ~タ、ミスター・ロベェェェルト!」
 人気のない場所へ足を踏み入れた瞬間、唐突に何者かの声がした。木々の梢が揺れ、飛び出して来たのは露出度の高い服装をした謎の男。明らかに労働者ではなく、おまけに頭は螺旋模様の描かれた覆面で覆われている。
「な、何者だ、お前は!?」
「残念ですが、ユーのクエスチョンに答えることはできマセ~ン! なぜなら……ユーのライフは、ここでジ・エンドだからデ~ス!」
 突然のことに驚き、叫ぶロベルトを余所に、謎の男、ド派手な鳥の羽で身体を飾った螺旋忍軍が、無数の手裏剣を投げ付けた。
 大量に分裂し、ロベルトの頭上から降り注ぐ手裏剣の雨。だが、それらが彼の身体に突き刺さるよりも早く、鋭い銃声が圃場の中に響き渡った。
「ふぅ……間一髪、セーフっスね」
 リヤカーに積まれた荷の隙間から、コンスタンツァ・キルシェ(地球人のガンスリンガー・e07326)が顔を出して言った。見れば、いつの間に現れたのか、他のケルベロス達もロベルトの周りを囲むようにして姿を現していた。
「まてぃ!」
 ロングコートを肩にかけ、颯爽と現れたのはリヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)。その豊満なスタイルを惜しげもなく魅せる格好は、ある意味では螺旋忍軍以上のインパクト!
「露出か派手さかのどちらかに傾けんド素人が! 貴様風情が露出道を戦闘に取り入れるなど百年早い!」
 仁王立ちのまま、リヴィは螺旋忍軍に堂々と告げた。
 いや、なんだよ、その露出道って。その場にいた全員が思わず突っ込みを入れそうになったが、しかし今はその暇も惜しい。
「大丈夫?」
 手裏剣を弾いた片手をさすりながら、エリン・コルヴィ(斑のカラス・e13526)がロベルトに尋ねる。数名が壁になって奇襲を防いだことで、幸いにもロベルトは無傷だった。
「き、君達は……新しく雇われた労働者ではなかったのか!?」
 再び目を丸くするロベルト。当たり前だ。名も知らない新入りと思っていた労働者達が、まさかケルベロスであったとは。
「下がっておれ。迂闊に動くでないぞ」
 呆気に取られているロベルトを庇うようにして、左野・かなめ(絶氷の鬼忍と呼ばれた娘・e08739)もまたロベルトの前に出た。敵の狙いが判っている以上、下手に動かれては却って危ない。
「戦争の支援者に手を出すなんて、ちょっと許せないね」
「だが、戦術としては理に適っている。……故にやらせるわけにはいかんな」
 敵と対峙する露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)と揚・藍月(青龍・e04638)の二人。その隣では藍月のボクスドラゴンが、何やら「きゅあきゅあ」と吠えていた。
 この場にいる以上、有象無象のサーヴァントに甘んじるつもりなどないとか、そんなことを言っているのだろう……たぶん。
「HA、HA、HA! ユー達はケルベ~ロスですか? これは面白いことになって来ましたネ!」
 羽飾りを揺らしながら、螺旋忍軍が妙な訛りのある口調で笑っている。数だけで見れば圧倒的な不利にも関わらず、この余裕。ふざけた格好とは裏腹に、なかなかどうして、実力は確かなものがあるのかもしれない。
 こんなやつには負けられない。言葉には出さなかったが、それはケルベロス達に共通の想いだった。
「我が嘴を以て貴様を破断する! 征くぞ相棒!」
 戦斧を構えるジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)。呉羽・律(凱歌継承者・e00780)も、二振りの長剣を抜いて答える。
「承知した……。さぁ、戦劇を始めようか!」
 昼下がりのコーヒー畑。一面に緑色の灌木が広がる場所で、奇妙な忍者とケルベロス達の戦いが幕を開けた。

●弐之巻:計略
 ド派手な飾りを付けた、螺旋忍軍の暗殺者。一見して色物にしか見えない相手だが、しかし敵は腐ってもデウスエクス。
 妖しげなステップと意味不明な動きを絡め、螺旋忍軍は軽やかにケルベロス達の攻撃を避ける。コーヒー農園の被害を考えなくても良い分だけ、地の利は敵にあると言って間違いない。
「へ~イ! ユー達の実力は、その程度デスカ~? それでは、ワタシの影を捉えることもできませんヨ!」
 羽飾りを揺らしながら、螺旋忍軍が笑っている。忍者の基本である『忍ぶ』という姿勢は、残念ながら敵の辞書にはないようだ。
「目立つ事だけを考えてはな!」
「そんな派手な格好をしなくても、このTシャツを着れば注目の的だよ!」
 リヴィが、エリンが、側方と真上から同時に蹴りを仕掛けた。が、螺旋忍軍は身体を左右に振る珍妙な動きで、巧みにそれらの技を避けて行く。それだけでなく、服の裾から取り出した毒手裏剣を、後ろにいた律に向かって投げつけた。
「ユーの技は、チョット厄介ですネ! 先に倒れてもらいますヨ!」 
 攻撃の主軸となっている前衛ではなく、敢えて後方の回復要因から潰そうという行動。人を食ったような口調で喋りつつも、戦い方は陰湿だ。
「流石に外道忍者、汚い。流石忍者」
 多少、本物の忍者に悪いと思いつつも、沙羅はそう口にせずいられなかった。非戦闘員の暗殺を計画していたことといい、人を小馬鹿にした格好や口調といい、見ているだけで癪に障る。
「忍ばぬ忍びとは……螺旋忍軍の恥さらしじゃな。貴様は今日だけは、螺旋道化師と名乗るのが良かろう……」
「大体、忍ぶのが苦手なシノビって、忍べない暗殺者のアタシとキャラ被りなんスよ! むきー!」
 そんなに踊りたいのであれば、思う存分躍らせてやろう。呆れた表情のかなめが氷結の螺旋を展開し、コンスタンツァが銃を構える。沙羅も続き、調子に乗った螺旋忍軍に一斉攻撃!
「ノォォォッ! ワタシのスペシャルでビューティフルなフェザーがぁぁぁっ!!」
 射出された氷の螺旋が、沙羅とコンスタンツァが撃ちまくった銃弾が、螺旋忍軍の身に付けている羽飾りを次々と撃ち落として行く。逃げ回るのであれば、手数で勝負。飛び道具で弾幕を張れるのは、ケルベロス達もまた同じなのだ。
「随分と変わった言い回しだが、貴殿は何処に住んでいるんだろうね」
 軽口を叩きながら、藍月が尋ねた。もっとも、その瞳は決して油断することなく、敵の動きを見定めており。
「ワタシの住んでいる場所デスカ? それは企業秘……むぐぐっ!?」
 螺旋忍軍が何かを叫ぶよりも早く、その身体を藍月のブラックスライムが飲み込んだ。
「大丈夫か、相棒?」
「ああ、この程度ならば問題はない」
 後ろを気遣うジョルディに、律は何事もなかったかのようにして気合を入れ直す。身体に回った毒が抜けたところで、未だ態勢を崩したままの敵にジョルディが仕掛けた。
「派手なだけでダサい格好だな。見つかった時の言い訳用か?」
「こ、このスペシャルデラックスなスタ~イルが理解できないのデスカ!? なんとも残ね……グホッ!!」
 無駄口は叩かせないし、何より聞くつもりもない。未だスライムに取り込まれたままの螺旋忍軍を、ジョルディは巨大な鉄塊剣の一撃で容赦なく叩き潰した。

●参之巻:誤算
 コーヒー畑を戦場に、激しい戦いを繰り広げるケルベロス達と螺旋忍軍。
 戦いが長引くにつれて、双方の顔から余裕の色が失われて行く。数だけで見ればケルベロス達が圧倒的に有利だが、圃場の木々を傷つけないよう心掛け、おまけにロベルトまで守らねばならないとなれば、不利になるのは否めない。
 もっとも、限界が近いのは螺旋忍軍もまた同じだった。ド派手な羽飾りは沙羅とコンスタンツァの銃撃で完膚なきまでに撃ち落とされ、今や哀れなハゲ鳥である。
「ん~、これは拙いデスネ。ミイラ取りがミイラになっては、螺旋忍軍として末代までの恥晒しデ~ス」
 相変わらずの口調だが、その声色に余裕はない。というか、既に最初の格好からして、色々と恥を晒しているような。
「嫌がらせといこうじゃないか」
 敵が余裕を失っているのを察して、エリンが大きく翼を広げた。それは、羽飾りを失った螺旋忍軍に対する当て付けの意味合いもあったのだろうか。
 オーラを纏った翼の羽ばたきが、仲間達に力を与える追い風を生む。正直、少々地味な技であるが……その効果は決して馬鹿にできるものではなく。
「なにかと思えば……そんな地味な技が、ユーの切り札なのデスカ~?」
「さて、どうだろうね?」
 強がりを言う螺旋忍軍に対して、エリンは不敵に微笑んでいるだけだ。
 彼女の翼が生み出す風は、敵を傷つけるための物ではない。味方の力を高めることに、その本質があるのだから。
「さて、そろそろ終わりにしようか」
 ボクスドラゴンの紅龍と共に、藍月が敵の側方から襲い掛かる。右と左からの挟み撃ちだ。超硬化した竜の爪が、小さいながら強烈なドラゴンの体当たりが、それぞれに螺旋忍軍へと炸裂し。
「本物の忍者なら、お色気の術くらい使ってみろ!!」
 間髪入れず、沙羅がグラビティチェインを乗せたリボルバーの銃身で、敵の頭を容赦なく叩いた。
「アウチッ! そろそろ本当に拙いデス! こうなれば、タクティクス的なエスケ~プさせてもらいますヨ!」
 要するに、戦略的撤退と言いたいのだろう。
 懐から大量の手裏剣を取り出し、螺旋忍軍はケルベロス達に投げ付ける。無数の手裏剣を弾幕代わりにすることで、足止めしながら逃げるつもりなのだろうが……仲間達の頭上に降り注ぐ攻撃は、リヴィが身を呈して全身で受け止めていた。
「ホワット!? 自分のボディをシールドにして、ワタシの攻撃を受け止めたのデスカ? ユー、アー、クレイジーガール、デスヨ!」
 降り注ぐ手裏剣の雨に切り刻まれる姿を見て、攻撃を仕掛けた螺旋忍軍でさえも完全に呆気に取られている。
 身体だけでなく衣服を余すところなく切り裂かれ、リヴィはどう見ても満身創痍。少しでも大胆な動きをしようものならば、そのまま服が破けて大変なことになってしまいそうな状況である。
 だが、そんな姿になっても、リヴィはギリギリで踏み止まっていた。見えては危険な個所は的確に隠しつつ、しかし衣服の破れ目は豪快かつ大胆に。見えそうで見えない絶対領域! それこそが、真の露出道!
「魅せる露出とはこういう物だ! 怒り猛る雷、存分に味わうがいい!」
 その拳に宿る怒りを雷に変えて、リヴィはそれを螺旋忍軍に向けて叩き込んだ。強烈な閃光が迸り、攻撃を受けた螺旋忍軍の身体が小刻みに痺れて動きを止める。
「こ、これは……ストロ~ングなエレクトリックパワー……レスネ……。ボ、ボリィがひびれて……」
 哀れ、身体を痙攣させながら、軽口さえ叩けなくなった螺旋忍軍。もっとも、そんな姿を前にしても、誰一人として同情する素振りは見せなかったが。
「安心せい。貴様が死んだら、最高の道化であったと伝えておいてやろう」
 淡々とした口調で、かなめが冷たく言い放ちながら毒手裏剣を投げ付けた。それが敵の頭に突き刺さったところで、コンスタンツァが怒れる猛牛のオーラを纏い跳躍した。
「GO、ロデオGOっス!」
 銃口から放たれる、真っ赤に光り輝く魔法の弾丸。雄牛の幻覚を伴うそれは、狙った獲物を逃がさない。
「ノォォォッ! う、牛さん、来ないでくらさ……ぐはぁっ!?」
 残念ながら、螺旋忍軍の頼みはオーラの雄牛に聞き届けてもらえなかったようである。
 鋭い角に突き上げられて、ボロボロの忍者が宙を舞う。そのまま真っ直ぐに落下して来る相手を見定めて、律とジョルディは最後の一撃を。
「我等の絆をお見せしよう。澄み渡る青き風歌よ……我等の目を開き給え!」
「鉄鴉連奏! 魂の狂葬曲(ソウル・ラプソディ)! 終演!」
 律の奏でる第六の凱歌を背に受けて、ジョルディは変形した胸部から必殺のエネルギー光線を解き放った。なんとか身体を捻って避けようとする螺旋忍軍だったが、ジョルディの狙いは正確無比だ。
「ジ、ジィィィザァァァス!!」
 眩い光の奔流が、敵を内と外の双方から破壊して行く。後には欠片も残さない。必殺必中の攻撃を受けて、奇妙な格好と奇妙な口調の螺旋忍軍は、コーヒー畑の空に輝く花火と化した。
「緑のカメを読んで出直して来いっス!」
 螺旋忍軍が消滅した空を仰いで、コンスタンツァが何か呟いている。果たして、それが何を意味するのかは、本人のみぞ知るところだ。
 珍妙な格好と口調の螺旋忍軍。彼の誤算は衣装や奇襲のタイミングではなく、この場にケルベロス達が現れてしまったことだったのかもしれない。

●終之巻:珈琲
 圃場の全体を見渡せる高台の上。備え付けられた簡素なテラスにて、ケルベロス達は戦いの後のコーヒーを楽しんでいた。
「ふぅ……疲れたのじゃ……。ロベルトよ、ここの珈琲は飲めるのかの? ブラックで頼むのじゃ……」
「コーヒーっていえばアメリカンっス! ドーナツによく合うんス! ブラックじゃ飲めないスけど、カフェオレはイケるっス」
 かなめとコンスタンツァが、それぞれロベルトに自分の好きなコーヒーを注文している。その隣では、藍月のボクスドラゴンである紅龍が、一足先に優雅な仕草でコーヒーを飲んでおり。
「任せておきなさい。直ぐに、淹れ立てを用意しますよ」
 その程度ならお安い御用だと、ロベルトは直ぐに新しく湧いた湯でコーヒーを淹れていた。
「所謂、勝利の一杯と言う奴だな」
「うむ。仕事の後の一杯は格別だ♪」
 リヴィとジョルディも、それぞれにコーヒーを受け取って堪能しつつ、平穏の訪れた畑を眺めている。
 戦いで壊れてしまった個所は、律がヒールをかけて修復済みだ。一部、コーヒーの木とは違った妙な木が生えていた気もするが、それはそれ。グラビティの作用で不思議な形に修復されてしまうのは、致し方のないことだから。
「とりあえず、これで一安心……かな?」
 ほっと溜息を吐くようにして、エリンが言った。
「なんとかね。それに、また狙われても、次も僕たちがちゃんと守るから大丈夫だよ!」
 だから、これからも安心して、美味しいコーヒーを作って欲しい。そんな沙羅の言葉に、ロベルトは淹れ立てのコーヒーを差し出して答えを返した。
「ええ、これからも頼りにさせて……そして、応援させていただきますよ。ケルベロスの皆さん」

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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