シュニー・シュヴァルツェン

作者:天草千々

 冬の季節、陽が沈めば暗くなるのはあっというまだ。
 そんな中、とある公園のあずまやに、小さな少年の姿があった。
「――日、くもり。夜から雪の予ほう」
 手にしたメモ帳に書きながら、それを読み上げるクセは父の言葉によるところが大きい、曰く口にしながら書けばおかしなことを書きとめていることに気づきやすいのだと。
「いままでぼくの研究には夜間の観察が足りなかった。ぼちの『黒い雪の女の子』をみつけるため、今日の作戦はどうしても必要なのだ……」
 しばし考えたのち『※けんしょうは様ざまなじょうけん下で行なわなくてはいけない』と書き加えてメモを閉じると万年筆風のボールペンと一緒にコートのポケットにしまい込む。
 顔をあげた少年は、目の前に1人の女が立っていることに気づいた。
「あ」
「――私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 音さえ立てず、女の手にした『鍵』が少年の胸に突き刺さった。
 はらはらと雪が降りだした暗色の空に、少女の笑い声が響く。

「季節はかわっても、不思議な物事への『興味』を狙ったドリームイーターの事件はまだ終息しないようだ」
 困ったように言って、島原・しらせ(ヘリオライダーガール・en0083)は資料を確かめた。
「それで今回ドリームイーターを生み出した『興味』の対象だが『黒い雪と共に現れる少女』の噂だそうだ」
 言って、視線を向けた先にはベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)の姿。
 冬の季節を連想させる青年は、色眼鏡の奥で青の瞳を一瞬反らし、口を開いた。
「人づてに聞いた話で、どこから出たものか僕も詳しくは知りませんが……『墓地に黒い雪を降らせる女の子がいて、その子を見たものはどこかへ連れて行かれてしまう』と、去年の冬に子供たちの間でよく噂されていたそうで」
「当然だが少女を目撃したものは出ず、今年は噂も下火だそうだが……年を跨いでも興味を失わなかった子もいたようだ」
 『興味』を奪われた子供は、怪物さえ倒せば意識を取り戻す。
 これ以上の被害者が出る前に、ドリームイーターの怪物を倒して欲しいとしらせは言った。
 事件が起きるのは夜、現場はすでに雪が積もる地方のとある公園、そこに隣接する古い外国人墓地に、少女の姿をした怪物は現れる。
「黒檀に似た黒い肌、雪のように白い髪、血よりも赤い瞳……さしずめ黒雪姫だろうか。彼女は墓地に立ち入った人間に『世界で一番きれいなのはだあれ?』と質問し、気に入らない答えだと回答者を殺してしまう」
 使用するグラビティはヒールに加えて、黒いモザイクを飛ばす単体への攻撃が2種。
 それぞれ大きな雪の結晶と林檎にモザイクをかけたような見た目だという。
「問いかけはしてくるが、まともな会話は成り立たないようだ。少女の姿とは言え油断しないよう気をつけて欲しい」
 またドリームイーターは、自分の実在を信じていたり噂をする人間に引き寄せられる性質がある、と説明を終えてしらせはもう一点と表情を厳しくした。
「興味を奪われた少年だが、当日夜はこっそり家を抜け出たらしい。デウスエクスが関わらずとも危険はある、少し釘を刺しておいたほうが良いかもしれないな」
 ドリームイーターの説明の間は動かなかった表情を少し硬くして、ベルノルトは頷いた。


参加者
八千代・夜散(濫觴・e01441)
ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)
神乃・息吹(楽園追放・e02070)
鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)

■リプレイ

 星も月の光も見えない曇った空から白いものが降り始めていた。
 雪の日、枯れ草色の芝生と葉の落ち切った木々を、ぽつんと夜に取り残されたような外灯たちが照らし出す公園。
 静かな冬の世界に少女たちの声が響く。
「――黒い雪なんて本当に降るの?」
 ゆったりとした足取りで光の中を行きながら、気だるげに問うのはドラゴニアンの少女、リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)。
 その疑わしげな視線に、ややたじろぎながらベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)が頷く。
「はい。それを降らせる女の子と一緒に現れ、出会ったものをどこかへ連れて行くそうで」
「そう、でも字面はロマンチックかもしれないけど、実際は服とか汚れて汚くない?」
「それは……そうかもしれませんね」
 無論すべては件のドリームイーターをおびき寄せるための演技なのだが、ポンポンと指し挟まれる疑問に灰髪の青年は答えに窮してしまう。
「なんで墓地に出るのか、とかも気になるッスね!」
 助け船を出すようにコンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)がアタシは会ってみたいっス! と元気いっぱいに笑い、鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)がそれに頷く。
「少し怖いけど、そうね。わたしも会ってみたいかも」
 全てはゆっくりと白い雪に覆われつつあった。
 静かに眠りにつくようなその世界を、黒の色が上塗りしていく想像に冷たいものを覚えて、纏は墓地の方角にじっと目を凝らす。
(「黒雪姫様は、どんな世界を見せてくださるのかしら」)
 4人とは離れた位置で墓地に視線を向けながら、神乃・息吹(楽園追放・e02070)が同様の興味を内心で呟く。
 噂話をする面々は囮だ、だからこそ目立つように光の輪の中にいるが、明るいところから暗所は見通しにくいもの。
 警戒をする息吹らはあえて夜の中に身を置き、手持ちの照明を闇へとむける。
 2人のガンスリンガー、シュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)と、八千代・夜散(濫觴・e01441)が指先がかじかまぬように手を温めつつ、ややくつろいだ感じでその時を待っているのに対し、シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)は放たれるのを待つ矢のように身を小さく震わせる。
 ちらと視線を向けて気にするのは、この夜に迷い込んで――いや、自ら飛び込んでしまった守るべき存在、眠れる少年のいる場所だ。
(「お姫様に起こしてもらうわけにはいかないしね」)
 決意と共に視線を墓地の方角へと戻し、そこへ変化を見てとったオラトリオの少女は仲間たちに遅れることなく駆けた。

 その変化は、前触れも音もなく訪れた。
 地を覆う薄い白のヴェールに、はらはらと黒い雪が降る。
 異変の中心にいるのは少女だ。
 黒の帽子に白のコート、肌は艶やかな黒、流れる長い髪は白、モノクロの姿でただ一つ色づいた瞳は赤。
 笑みを浮かべ、上機嫌な足取りでケルベロスたちのほうへと歩み進む少女の周囲数メートルでは、まるで世界の法則が変わってしまったかのように雪は黒く姿を変える。
 それは、まるで夜のもっとも暗い部分がジワリと染み出してきたかのように思えた。
 ――くすくす。
 可愛らしいと形容してもいいような笑い声に、纏は不吉な予感が強くなるのを覚える。
 けれど唇を噛みしめたその表情に浮かぶのは恐れではない。
 そこに在るのは決意だ、必ず、ここで打ち倒すという
 警戒に当たっていた仲間たちも駆けつけ、黒雪の進行を阻まんと壁ができる。
「こんばんは、黒雪姫様。良い夜ね?」
 呼びかけた息吹の言葉が聞こえているのかいないのか、ドリームイーターの視線はケルベロスの方を向いてはいても、その先のどこか遠くを見るようでもあった。
 興味は引けずとも、その歩みはとまった。
「――世界で一番きれいなのはだあれ?」
 誰を見るともない様子のまま、白黒の少女は笑って問う。
 それに応じたのもまた2人の少女だった。
「勿論アタシっス! 夢はでっかくミスコン優勝っス!」
「そんなの知るわけないじゃない。馬鹿じゃないの?」
 コンスタンツァは快活に、リィは突き放すように。
 共通しているのは『自分こそがそうだと言いたいのならあいまいに問うな』という叩きつけるような意志。
 もっとも噂話から生まれた夢の少女には通じるところは無かったか、黒雪姫は笑みを浮かべたまま首を傾げた
「――雪はやはり、白銀が美しく」
 遅れてベルノルトがそう言うと、少女はコンスタンツァに向けて人差し指を突きつける。
 直後、モザイクのかかった黒い雪の結晶が矢のように放たれた。
「文句があるなら口で言ったらどうっスか!」
 身を貫かれながら不敵な態度でコンスタンツァは叫ぶ、同時に仲間たちも動き出していた。
「瞑色を明かす光を」
 ベルノルトの作り出した幻の刃が、纏に突き立つ。
 猛禽のごとき輝きが眼鏡の奥の瞳に宿る、纏は愛用の爆破スイッチに軽く口づけして握りこむ。遠隔爆破の衝撃が黒雪姫を揺らした。
「ここで、止めるよ!」
 決意の言葉と共に、雪をまきあげる風一陣。
 スターゲイザーの一撃を叩き込んだシエラシセロは仲間たちに前を譲りつつも、道は譲らないとばかりに距離を取って黒雪姫と正対する。
「さぁ、楽しませてくれよ」
 牙をむくような笑みを浮かべてシュリアがそれに続く。
 初手から出し惜しみなし、白と黒の雪を割っていくのは凍れる蒼の色。
 忽然と天に現れた巨大な刀剣は、ドリームイーターの少女を深々と切り裂く。
 並の生き物であればそれで終わりとなるはずの一撃を受けても、黒雪姫は変わらず笑みを浮かべたまま、遠くを見るような目にも警戒の色が浮かぶことはない。
 ドラゴニアンの女も面白いとばかりに笑みを深める。
「リィは煮え切らない、面倒くさい奴が世界で一番きらいなの」
 一方、声音こそ静かだが確かな不快感を叩きつけたのはリィだ。
 問いに期待する答えも気に入らなければ、敵対する意思も曖昧、加えて言うなら――。
「大体、黒雪姫の癖にコートも髪も白いじゃない」
 バトルオーラの密度を高めつつ、ちゃんと黒に染まりなさいよ、という主人の言葉に、白面のイドが居心地悪そうな視線を向ける。
 ブレスを吐くべく体を震わせるボクスドラゴンは、黒い体に白い顔、そして赤い瞳と奇しくも敵と同じ色が目立つ姿だった。
「人を襲おうって腹は真っ黒かもな」
 相槌のように言って、夜散が踏み込んだ。
 対する黒雪姫は相も変わらず興味を欠いて警戒が薄い、雪を蹴立てて長身の男が拳を握りこむ、その腕に夜の黒が凝り固まったような無骨な機械が在った。
「――噛み砕いてやる。粉々にな」
 拳を振りぬくと同時、魔力で作られた杭打機が牙をむき、白黒の雪を舞い上げる衝撃に遅れて吼えるような射出音。
 強烈な一撃に少女の身体が宙を舞うが、とうの夜散は眉根を寄せた。
 クイックドロウの射撃で続いたコンスタンツァが、弾丸の後を見届けて唸る。
「やけにあっさり抜けるッスね」
「――あぁ、手ごたえがあるんだかないンだか」
 手元に視線をちらりと落として夜散が同意した、拳に感じたそれは雪の像どころか、まるで宙を舞う雪そのもののように曖昧。
「試してみるか」
 くるり手の内で惨殺ナイフを握り直して夜散はひとりごちた。
 息吹のライトニングウォールの輝きが白黒の世界を眩しく照らす。

 戦場となった公園で地に落ちた雪は踏み荒らされ、灯りに照らされて複雑な影を描く。
 自然と人の手による絵画の上で一撃を交換し合ううちに、ドリームイーターの少女はケルベロスたちを『敵』と認識するように視線を定めた。
 黒雪姫が下手で投じたモザイクの黒林檎、緩やかに見えつつも虚を突いたそれがシュリアの身に触れるより早く、黒衣の青年が身を盾に割って入る。
「ベルノルト、あなたの死は無駄にしないわ」
「……いえ、あの、まだ生きて」
 痛みに呻くように小さく息を漏らしたところへリィの淡々と悼む言葉。
「ベルさん『まだ』はやめて。そうはならないから」
 ささやかな抗議を、メディックをつとめる息吹が聞きとがめた。
 ベルノルトはとっさの答えが浮かばず、ただ申し訳なさそうに小さく頷く。
「こっちの方が大変そうね」
「本当にね」
 敵を相手取っては臆することない青年が年少の娘たちに翻弄される様に、纏が表情を柔らかくし、シエラシセロは共感するところでもあったか深く頷く。
 だがそれも一瞬のこと、息をそろえて2人は駆ける。
 右から行く先んじた纏を追い抜いて、シエラシセロの旋刃脚が黒雪姫の胴をとらえた。
 あがった音は低くこもっている、そこへ魔力を込めた拳を握りしめ纏が腕を振りぬく。
 だが敵は初めからそちらに集中していたようにふわり身をひねってかわした、さながら雪が拳の圧に押されて踊るように。
 それを追った灰の瞳と赤の視線が交差する。
「面白え」
 重みをもたぬようなその動きに、シュリアが笑みを深くする。
 放った気效弾は獲物を狙う視線の鋭さそのままの勢いで食らいつく、ドリームイーターの体から黒い雪が粉と散った。
「雪遊びならリィはもっと楽しい相手とがいいわ」
 戦前の予想通り雪に濡れた足元にちらと目をやったリィは大儀そうに息を吐く。
 イドとともにベルノルトの傷を癒しながらも、言葉を尽くす甲斐のない遊び相手をじっと睨みつける。
「王子様を自分で探しに行くガッツは認めたいっスけどね」
「見染められた方は災難だろうよ」
 コンスタンツァの軽口に一言添えて、惨殺ナイフにも手ごたえの難を感じた夜散が拳を握った。ハウリングフィストが剣戟響く夜の戦場でひと際高く吼える。
「GO、ロデオGOっス!」
 間髪入れずにリボルバーから真っ赤な弾丸が放たれた。
 幻の牡牛が跳ねるように駆ける、赤い光を返して雪が燃える。
 弾丸は黒雪姫の腹部、そのど真ん中を撃ち抜いた。
 血の代わりに黒い雪が噴き出るように舞い、それまでとの明らかな差を2人は仲間たちへと伝える。

(「成長したところ、見せられてるかしら」)
 青年の背に視線を送り、息吹は羽織ったストールにそっと触れる。
 かの国の言葉で『白雪姫』をあらわす名前の贈り物は、送り主の願い通りに白い娘の身を温めていた。
 けれどその温もりに守られてばかりではいたくない、彼が仲間と共にその身を盾とするならばその背を自分が支えるのだ、と戦況の移り変わりに目を光らせる。
 幸い、敵の手は一度に1人にしか及ばない、盾をつとめる者は多く息吹を初めとして傷への備えは厚い。
 着実に勝利への手を進める中で『詰み』への流れは、リィがモザイクの黒雪をかわしたことから始まった。
 好機と見て取ったベルノルトの斬霊刀が閃き、追うように息吹が殺神ウイルスで続く。
「翼を震わせ響け、祈りの光響歌」
「おいで黒蛆、食事の時間よ」
 シエラシセロの呼び出した光の巨鳥が曇天の夜空に高く高く舞い上がる中、地の陰からは沸き立つように現れたのはリィの降魔の力そのもの。
 蠢く蟲のようなあるいは生けるタールのような黒が、自分たちと同じにせんと黒雪姫の身体をじわりじわりと虫食む。
 それでも笑い声を止めないドリームイーターを、高く鳴くような音を立てた光鳥がぶち抜く、ぐらり身を震わせたところにそっと纏の掌が触れる。
「――わたしは貴方、貴方はわたし、一番美しいのは、誰?」
 そう口にする自分自身の姿を、纏は確かに見た。そう感じた。
 積み重ねてきた布石、接触のたびに送り続けた魔力は今や黒雪姫のそれと完全に同調しており、黒雪姫のそれは纏のものでもあった――変質させるのに、何の労苦もありはしない。
 炎が上がり、ついに笑い声が絶える。
 白の雪も黒の雪も何もかもを赤く染めて飲みこむ火勢に仲間たちが一歩を引く中、一発の銃声が戦いの幕を引いた。
「……ま、楽しめた方じゃねーの」
 不満と言うほどではないが喜色もない、そんな言葉通りの表情でシュリアは止めとなる弾丸を放ったリボルバーをくるり回して収めた。

 難を排したケルベロスがあずまやにたどり着くと、ベンチに横たわる件の少年がわずかに身じろぎをしたところだった。
「ほら、こんなところで寝てるとうちの人が心配するっスよ」
 言ってコンスタンツァが軽く身を揺すると、小さく息を漏らして少年が瞳を開けた。
 自らを取り囲む見知らぬ大人たちの姿に、びくりと身を震わせて問う。
「……お姉さんたちは?」
「通りすがりのケルベロスっスよ」
 冗談めかした返事に曖昧に頷きながらも、少年の目には事態の把握につとめようとする理知的な光があった。
「子供が一人出歩いてちゃ、父ちゃんと母ちゃんも心配するだろーが」
 言って額を軽く小突いたシュリアは、氷に触れたような冷気を感じ顔をしかめる。
 分厚く着込んではいたものの雪降る野外での眠りが堪えぬわけもない、まして身体の小さな子供であればなおさらだ。
「寒いでしょ? とりあえずこれを飲みながら、ね」
 すぐそばの自販機で買った紅茶とコーヒーの缶を差し出して選ばせた纏は、残った紅茶を先に開けて口をつけると戸惑う少年を促す。
「ありがとうございます」
 頭を下げる姿に相好を崩し夜散が大きな体を屈めて、少年と目線をあわせる。
 差し迫っていた危険については伏せ、徒に脅かすより言葉を尽くすことを選んだ。
「俺も子供の頃は無茶をしたが……あぶねえことはそこらに転がってるモンだ」
「怖い人に襲われたりするかもしれないからね、何かあったら家族は悲しむよ」
 真剣そのもののシエラシセロの瞳に射貫かれて、自分の行いがどれほど心配されるものかに思い至ったのであろう少年は顔を伏せる。
「あまり夜遅くにひとりで出歩くものではないわよ」
「……ごめんなさい」
 ぴしゃりと言ったリィに応える声は震え、雫がぽつぽつ少年のコートを濡らした。
「次からは気をつけること、……約束ね」
「ま、好奇心は悪いもんじゃねぇ、礼と詫びが言えるンなら上等だ。こっから学んで格好いい大人になれよ」
 冷えた身を温めるようにシエラシセロは少年を抱きしめ、夜散がいささか乱暴に頭を撫でて話をきりあげる。
「――では、家まで送りますよ」
 声をかける機を逸して言葉を任せていたベルノルトが促すと、少年はこくりと頷く。
 ひとまず家族に電話した方がいいんじゃないか、と仲間たちが相談する中ふいにコートを引くものがあった。
 何事か声をかけようとして同じく機を逸し、耳が痛そうに仲間たちの言葉に耳を傾けていた息吹だ。
「ねえベルさん。イブ、少しは頼もしくなれたかしら?」
 迷い子ほどには頼りないわけではない、けれどしるべを探すような、あるいは帰り道を確かめるような問い。
「ええ」
 それに、言葉に翻弄され続けた青年はこの夜初めて淀みなく頷いた。

作者:天草千々 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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