●雪だるまの棲む並木道
広大な農地の生み出す、一面の雪景色。
雲一つない晴天と白い大地の美しいコントラスト。その中央を裂くように、すっかり葉も枯れ落ちた、背の高い街路樹の並木道が続いていた。
「わぁ、ここがゆきだるまさんのおうちなんだぁ」
もっこもこの可愛い冬着に身を包んだ小さな女の子が、とてとてと並木をくぐっていく。はしゃぎながら、おーい、と声を上げたり、木の裏を覗き込んでみたり。どうやら誰かを探しているようだ。
「……いないのかなぁ、『うごきまわるゆきだるま』さん。あやちゃんが「ゆきだまなげつけられた」ってゆってたのに。……ねー! ユズとゆきがっせんしようよぉ!」
せがむように空を仰いで声を張り上げる女の子の上に、人影が差した。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
唐突に現れた黒衣の女は、きょとんとしている女の子へ巨大な鍵を静かに差し向けると、幼い胸を難なく刺し貫いた。
とさり、と新雪の上に投げ出される小さな体。
その傍らに、雪玉を二つ重ねた、愛嬌ある顔立ちの雪だるまが佇んでいた。
●雪合戦型スノーマン
「こたびは、『興味』を司る魔女より生み出されたる、雪だるまのドリームイーターの一件にございます」
戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)が語るは、パッチワーク第五の魔女・アウゲイアスが新たに引き起こした事件の一つ。
「年端もゆかぬ童女――ユズさんが、魔女の手により『興味』を奪われてしまったようでございます」
魔女は奪った『興味』を元に、新たなドリームイーターを現実化し、姿を消してしまったという。
問題は、この残された新たなドリームイーター。
ユズは魔女に襲われる直前まで、近隣の子供らの間で噂になっている『動く雪だるま』を探していた。どうやら現実化されたのは、この『動く雪だるま』そのものらしいのだ。
「子供達の噂だと、『動く雪だるま』はヒトに向けて雪玉を投げつけてくるらしいなぁん」
独自に仕入れた情報を披露するのは、今回の事件を予測していたチェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)だ。
左様、と鬼灯は頷く。
「おそらくは普通の雪だるまの陰に身を隠しての、子供らの悪戯が噂の発祥でありましょう。が、ドリームイーターとして実体を得たからには、子供の悪戯で済む被害に収まるはずもございませぬ」
実際に何らかの事件に発展する前に、『雪だるま』のドリームイーターを撃破しなければならない。
『興味』を奪われてしまったユズは、心臓を一突きにされて並木道の半ばに昏倒しているが、外傷はない。『雪だるま』さえ倒せたなら、問題なく目を覚ましてくれるはずだ。
敵は『雪だるま』1体。配下はいない。
雪だるまは、雪玉二つ重ね、赤いバケツの帽子、しましまマフラー、枝に手袋をつけた腕、小枝などで書かれた愛嬌のある顔……と、日本で一般的に見かける形状だ。大きさは、ちょっと小柄な大人といった程度。
『動く』という枕詞の通り、ちょこまか動き回っては大小様々な雪玉で攻撃してくる。もちろん、グラビティの通った凶器的な威力だ。
「敵は通常、並木のいずれかの木の陰に、気まぐれに身を隠しております。並木道の近くで『動く雪だるま』の噂をしている方がいらっしゃれば、そちらに引き寄せられる性質がございますので、首尾よく誘き出す事が叶いますれば、戦いを有利に運べましょう」
また、『雪だるま』は人間に遭遇すると、『自分は何者であるか』といった内容を問いかけてくる。正しい答えを返せば何もせずに姿を消し、そうでなければ殺す、という行動パターンだ。
この場合の正解は、『動く雪だるま』となる。
「正解以外の対応が一つでも提示されれば、その場の全員は見逃されませぬ。誤答を返した人物だけが狙われるわけでもなければ、正解した人物は攻撃されないという事もございませぬ故、お気を付けください」
ちなみに『雪だるま』は、喋るには喋るが、交渉事等には応じない。建設的な会話は成り立たないだろう。
「幼子の愛らしい好奇心を、人を害するあやかしものに利用するなど、許すまじき所業。夢喰いの撃退、そしてユズさんの保護を、何卒よろしくお願い致します」
参加者 | |
---|---|
高原・結慰(四劫の翼・e04062) |
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190) |
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497) |
咲宮・春乃(星芒・e22063) |
セリア・ディヴィニティ(揺らぐ蒼炎・e24288) |
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222) |
オズ・ナハト(星読み・e26890) |
サラキア・カークランド(白鯨・e30019) |
●噂をすれば影がさす
空は抜けるように青く、大地は輝くように白い。
そんな絶好のロケーションを背に、等間隔に枯れ木が連なり、整然たる並木道を形成している。
周辺はほとんどが農地。並木道の横っ腹には放牧用の牧草地と思しき土地も広がっており、ケルベロス達はそこに陣取る事にした。
「雪だるまと雪合戦たのちみなぁん♪」
道すがら雪玉をぽてぽて作りながら、ご機嫌なチェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)。
「雪玉を投げつける雪だるまかぁ……実際にそんな姿を見たらちょっと、遊んでみたい気持ちは分かるかも……」
高原・結慰(四劫の翼・e04062)も、童心をくすぐられた様子だ。
「噂の君は、デウスエクス。夢のない、話ですが……被害が、出る前に……討伐、出来るのは。幸いですね……」
ユズの心を慮って、櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)は少し複雑そう。
邪魔にならない巻き方でマフラーをしっかり装備したボクスドラゴンのシュテルンを引き連れ、雪国出身のオズ・ナハト(星読み・e26890)は、寒さにも足元にも頓着せず、ざくざくと先陣を切りながら、ふと、並木道の中央を見やった。
「風邪を引かないと良いのだけれど……はやく倒さなくてはね」
ユズは今も、並木道のどこかで倒れているはずだ。
すぐにでも助けに行きたい気持ちは皆同じだったが、それでは誘き出す意味がない。敵は並木のどこにいるかわからないのだ。救助中に直接遭遇してしまっては、最悪、ユズを巻き込む事にもなりかねない。そう判断し、ケルベロス達は誘き出しに専念する事にした。
ほどなくして、一同はすっかり雪をかぶった牧草地に到着した。
「これで、だいじょうぶ」
近衛木・ヒダリギ(シャドウエルフのウィッチドクター・en0090)が一帯に殺界を敷いた。万一にも一般人が紛れ込む事故は避けられるはずだ。
あとは、敵を誘き出すだけだ。
「なんかめっちゃすごい雪だるまが出るって聞いたなぁん!」
やにわに口火を切ったのは、チェザ。興味津々のわくてか羊毛である。
「動き回る雪だるまさん! そういうの、あたしも会ってみたかったんだよね!」
咲宮・春乃(星芒・e22063)も前のめりに噂話に加わった。
「雪玉を投げつけてくる雪だるま、なんだってね。……よく枝の腕が折れないものだよ」
ごもっともなツッコミを入れるオズ。
「もの凄い、スピードで……動く、雪だるま。ですか……どうやって、移動。しているのでしょう?」
穏やかかつ淡々と疑問を呟く叔牙。
「うごきまわるゆきだるま……えっと、下の雪玉だけ転がるんでしょうか……」
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)は頭を捻って、おずおずと仮説を立ててみせる。
「足、生えてるのかしらね……それとも、浮遊能力……或いは特殊な魔術……概念……いえまあ、直に確かめられるのだけど」
大真面目に考察しつつ、セリア・ディヴィニティ(揺らぐ蒼炎・e24288)はクールな視線を並木道へとちらりと投げる。
「興味を元にそれだけのものを作り出す、というのも気になるのですよねー」
サラキア・カークランド(白鯨・e30019)は噂話には加わらず、牧草地の囲いの、人が出入りできそうな場所をキープアウトテープで封鎖していった。なにぶん牧草地自体が広大なので、テープの長さとかけられる時間を考えると、目につくいくつかの出入り口ぐらいしか塞げないが、ないよりは安心だ。
「うぅん……雪だるまさんは何処に居るのかな? 雪合戦の前にかくれんぼしてるのかな?」
そろそろ現れる頃かと、結慰もまた視線を転じたその時。
並木道の中ほどで、忽然と雪煙が舞い上がった。
●ナノダ!
並木道から、派手な雪煙を蹴立てて、猛然たるスピードで何かがやってくる。
「ィヤッホーッ!!」
そいつは、スキーの如く滑走するスピードを乗せ、高々と宙に躍り上がった。牧草地の柵を軽々と飛び越え、ぼずんっ、とケルベロス達の目の前に綺麗に着地。
盛大な雪煙が薄れゆく中、偉そうに胸を張って佇んでいたのは、どこからどう見ても雪だるまそのものだった。
「あれが……動き回る雪だるま……想像以上にシュール、ね……」
速攻コミカル路線をかましてきた敵に、シリアスな空気を維持せんと苦心して呟くセリア。
「キミタチ、おいらの噂してたノダ!」
『雪だるま』はケルベロス達を見回して、ニシャリと笑った。
「ホントーなら問答無用でもいいケド、チャンスをやるノダ! おいらは、だーれだ? ナノダ!」
春乃は無邪気に首を傾げる。
「え? かわいい白うさぎさんだよ!」
「目ん玉ついてんのかナノダ! おいらに耳はないノダ!」
続けて、チェザが元気よく挙手。
「えーと、空飛ぶ雪だるまー!!」
「フリか! 無茶ブリなノダ!? ……この羊やりおるノダ」
「ゆきだる……あ、いえ、やっぱりドリームイーターですね」
ユウマはうっかりまともに答えかけて、慌てて回答を逸らした。
『雪だるま』は、五秒で描いたような適当な顔を不穏に歪めて、冷めた視線を返す。
「……ツマランことを言うやつナノダ」
皆が一斉に身構えた。
与太話に付き合ってやるのはここまで。『雪だるま』を見るケルベロス達の眼差しは、すでに戦意を孕んでいる。
「……おまえの正体? おれ達が倒すべき敵、であることは確かだね」
オズが冷え冷えと目を細める。
「あはっ、おかしなことを言うものですねー? 貴方はタダのドリームイーター、それ以上でも以下でも無いでしょう?」
穏やかならざるサドっ気を漂わせつつ、毒をこめて突っ返すサラキア。その瞳は、敵への興味と戦闘への期待に小さくきらめく。
「ええ。噂から、生まれただけの……名も無き、ドリームイーター……ですよ」
体術の構えをとりながら機械の瞳孔をキュッとすぼめる叔牙の声音は、穏やかさを失い、冷徹に響く。
敵意を一身に浴びながら、『雪だるま』はクックックッと悪役っぽく笑った。
「……いい度胸ナノダ。どいつもこいつも、みぃんな大ハズレー!」
雪煙が前触れなく『雪だるま』の周囲を取り巻いた。白く霞む粒子が、枝に手袋をひっかけただけの掌の上に収束し、みるみる雪玉を形成していく。
「おいらは、子供達の間で今! 超絶話題の人気者! 『動く雪だるま』ナノダー!!」
雪合戦――もとい、戦闘のゴングが鳴った。
●雪合戦フルスロットル!
「くらえいっ、ナノダァー!!」
先手は『雪だるま』。ちょこまか動きながら、枝の両腕をぐるんぐるん回して雪玉を次々投げつけてくる。雪煙混じりの瀑布の如き攻撃は、もはや吹雪にも等しい。
「たのちい雪合戦の時間なぁん! みんな、がんばれ♪ がんばれ♪」
雪玉混じりの吹雪に巻かれた前衛を、チェザとふわもこ羊達の応援が温かく癒していく。
「……結局あれは、どういう理屈で動いているのかしら……」
セリアはインフェルノファクターに全身を包みながら、常識をガン無視して動き回る雪だるまに、蒼炎宿す瞳を胡乱に細めた。
雪玉投げに夢中の『雪だるま』は、ある時には滑走、ある時にはバウンドして跳躍、上下運動を交えてえっちらおっちら走るような仕草をする事も。足を生やす事も回転運動もなく、さりとて浮遊するわけでもなく、一面の雪野原に大胆な移動痕を残しながら、思うがままに動き回る。
目視の限り、原理は解析できそうもない。もはや『そういう生物』だと思うしかないだろう。
「人の想像力というのは、なんでもアリですね」
誰よりも前に立つユウマは、それまでとは打って変わって頼もしい。力強く叩き込まれたスターゲイザーは、調子に乗る『雪だるま』の横っ面を吹っ飛ばした。
「ぷぎゃっ! くぅぅ、なんのこれしき――」
「遅すぎ。そんなんじゃ、すぐに追いつかれるよ?」
吹き飛ばされながらもうまいこと着地しようと身をよじった『雪だるま』を、四色の翼を駆使して先回りしていた結慰の戦術超鋼拳が、下方へと叩き付けた。飛行しっぱなしでは出ない強烈な手応えに充足を覚えながら、結慰は一度地上で体勢を立て直す。
雪野原に突っ伏させられた『雪だるま』は、悔しそうに呻いている。
「ぷぎぃ~~っ」
「あら、情けない声ですねー? もっとたくさん、あなたの技を見せてくださいよー」
ヤンデレっぽい笑い声を上げるサラキアが、ドラゴニックミラージュで容赦なく『雪だるま』を焼き捨てる。
「すばしこい、その足……止めさせて、貰う!」
すっかり冷徹な戦闘モードに移行した叔牙が、よろよろと立ち上がる敵の下半身を轟竜砲で撃ちすえた。
「たのんだよ、シュテルン」
補佐をシュテルンに託しながら、オズも轟竜砲を駄目押しする。
「ぐぐぐ……なまいきナノダっ! 雪合戦の真髄、見せちゃるノダ!」
『雪だるま』は出し抜けに起き上がったかと思えば、どうやら動き回っている間に集めていたらしい小石をいくつか雪の上にばら撒き、今度はもの凄い高速手作業で雪玉を丸め始めた。瞬く間に仕上がった雪玉を、今度は一球ずつ、しかし信じられない超速度と正確無比の軌道で、一人を狙って連続で投げつける。
「いたっ、いたたたたっ、石を入れるのは反則ですよー」
骨に響くダメージに、痺れを催すサラキア。
雪玉テクニックを見せつけてやったった『雪だるま』は、ドヤ顔。言うまでもないが、良い子は真似しちゃダメなやつである。
●雪遊びもほどほどに
絶好調の『雪だるま』だが、その間に、ケルベロス達の陣固めは完了した。
「よぉし、耐性バッチリ! がっつり攻めまくるんだよ~!」
サーヴァント達と協力して味方を強化し終えた春乃は、翼を広げてシャイニングレイを照射した。
「なんナノダこの程度の光、ヌルいヌル――ぷぎゃっ!?」
調子ぶっこいて跳ね回っていた『雪だるま』は、すでに幾度となく叩き込まれていた行動阻害を増幅され、再び無様に雪上に突っ伏した。
息を合わせたケルベロス達の猛攻が殺到する。ユウマは片手で軽々と炎まとう大剣を叩き込む。セリアは凍てつく冷気のオーラを放ち、氷の華を咲かせる。なんとかかんとか起き上がろうとする『雪だるま』を、四枚羽で跳び上がった結慰が頭上から追撃してみたび沈める。
『雪だるま』も負けじと激しい雪玉を返してくるが、ケルベロス達の攻撃を避けようとするたびにずっころんで無防備に。その隙に、春乃の星光の欠片やヒダリギ達のフォローも行き届き、味方のダメージはあっけなく回復していった。
「くっそぉぉぉっ……おいらに雪のパワーを!!」
追い詰められた『雪だるま』は、空に向けて大きく両手を広げた。掌が仰ぐ頭上に雪煙が渦を巻いて収束し、瞬く間に大きな雪玉を形成した。
「おいらの全力、くらぇぇぇぇい、ノダッ!!」
大きな雪玉が地面に放り出され、凄まじい速度で直進、周囲の雪を巻き込んで急速に巨大化していく。
巻き込まれればかなりの衝撃は免れない。しかしその時、あえて自ら飛び込んだ人影があった。
体当たりを喰らって破砕する雪玉の影から現れたのは、負ったばかりのダメージを強固な防御膜で癒しながら立ちはだかる、ユウマの姿。
「……っ、この程度で、簡単に倒れるわけにはいきません!」
「にゃぬぅ!?」
渾身の一撃を無駄にされて、愕然とする『雪だるま』。
「この、間合いなら……後。踏み込み……ひとつ」
横合いには、すでに叔牙が詰めていた。
「懐の、ガードが……甘い!」
掌から放出される最大出力の放電が、機械の体を最大限活用した巧みな体術によって叩き付けられた。びゃびゃびゃ! と雷撃に打たれる『雪だるま』。
「あはっ、ズタズタにしてあげますねー?」
サドっ気全開、自らの手と一体化させた獣の爪を振るうサラキア。
「なんの危害も加えない、ただの雪だるまであれば良かったのに。さあ、壊れてもらおうか」
オズの禁縄禁縛呪が『雪だるま』をさらに縛り上げる。
「ぽちっとな。なぁん」
チェザの爆破スイッチが無慈悲に火を噴き、遠隔爆破。
「アナタが紡いだ歴史と世界は此処でお終い。壊劫は等しく滅びを齎す。例え世界でも関係無く絶対に、ね」
結慰が解き放ったのは滅びを司る力。破壊の光の一撃が、『雪だるま』を徹底的に打ち据える。
「ドリームイーターの雪だるまさん、人に迷惑かけちゃダメなんだよ!」
ウイングキャットのみーちゃんと呼吸を合わせて、同時に攻め込む春乃。流星煌めく飛び蹴りが、再び『雪だるま』を吹っ飛ばした。
「……もう充分、楽しんだでしょう」
セリアが小さく呟くと、宙に吹っ飛ぶ『雪だるま』を凍てつくオーラが打ち据え、一際大きな氷の華を咲かせた。それはまるで、蒼い炎のように。
「あなたの居場所は此処じゃない……夢の帳の向こうへ還りなさい」
凍てつく華と共に、『雪だるま』の全身が静かに雪上に不時着した。
ほんのちょっと前まで活発に動き回っていた雪だるまは、今はもうほとんど崩れ果て、積もった雪に埋もれ紛れて、二度と動く事はなかった。
「もっと雪合戦したかったなぁん」
ボクスドラゴンのシシィをもふもふして暖を取りつつ、サラキアと一緒に治癒を振り撒くチェザ。一部壊れてしまった柵や抉れた地面もあっという間に修復されていく。
一方、並木道半ばに倒れていたユズは、ケルベロス達の介抱によって、無事意識を取り戻した。
ユズの体調を心配したケルベロス達から、数々の防寒具が提供された。結慰からは防寒用の上着、手袋、カイロ。オズは厚手のブランケット、春乃は毛布、チェザからはふわもこあったかケープ、等々。
おかげで、道端の切り株に座らされたユズは、圧倒的な布量に取り巻かれて、もこもこのぬくぬくであった。
「ゆきだるまさん……いないの?」
ユズはすっかり顔色も良好な様子で、きょとんと首を傾げた。
叔牙は目線を合わせ、穏やかに諭す。
「はい。残念ながら……『動く雪だるま』は。デウスエクス、でした。あなたが、遭遇しなかったのは……幸い、でしたが……」
「でう、せく……」
まだ幼いユズには、デウスエクスがどうのという話はピンとこなかったようだが、『動く雪だるま』が存在しないというのは理解できたらしい。
しょんぼりと俯いてしまった姿に慌てて、ユウマはユズの前に掌を差し出し、ブレイズキャリバーの力で小さな火を出して見せた。
「えっと、これで少しは暖かくなりますか?」
「わぁっ」
ユズは顔を上げて目を輝かせる。あっという間にご機嫌だ。
「動く雪だるまさんは残念だったけど、でも、とってもステキな夢だと思うよ。あたしも動く雪だるまさん見たかったから」
十分に役目を果たした防寒具を取り払ってやりながら、ユズを励ます春乃。
「風邪をひかないように、早めに家に帰って暖かくしていなさい」
帰りを待つ人のいない天涯孤独のセリアが、帰りを待つ人がいるユズを見つめる視線は、ひどく優しげ。
「うん! おにいちゃん、おねえちゃん、ばいばーい!」
大きく手を振りながら、雪道をとことこ駆け去って行く元気なユズの姿を、ケルベロス達は微笑ましく見送った。
作者:そらばる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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