道路はお前のゴミ箱じゃねえ!

作者:あずまや

 おばさんが道端で両腕をさすっている。彼女の視線の先には、ガムがべっとりと張り付いている。
「汚らしい」
 彼女の声がくぐもって、不快そうなため息がこぼれた。
「町内会で掃除する人の気持ちにもなってほしいものだわ……」
 彼女はそう言って、顔をゆがめながら火バサミでガムをこそぎおとしはじめた。
 不意に、ざしゅりと何かが彼女を貫通した。
「道に吐き捨てられたガムねえ。……わたしのモザイクは晴れなかったのは残念だけど、確かに気持ち悪いよねえ」
 彼女の背中に、第六の魔女・ステュムパロスの鍵が突き刺さっている。
「表情に似合わず、こんなに嫌だったんだね? わたしも、ちょっと近寄りたくないかも」
 ステュムパロスは彼女ほどの大きさのそれを見て、おばさんと同じように顔をしかめた。

 高松・蒼(にゃんころヘリオライダー・en0244)は深いため息をついた。
「道に吐き捨てられたガム……環境美化だのなんだの難しい話はさておき、嫌やなあ」
 彼は顔をゆがめている。
「蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)さんが予測した通り、今回の敵は道路に吐き捨てられたガムや。おばちゃんが掃除してたらたまたま見かけて、そこをドリームイーターが具現化したらしい。気持ちが強かったせいか、まあまあおっきいガムになっているみたいやな……具現化を行ったドリームイーターは魔女集団『パッチワーク』のメンバー、ステュムパロスという奴なんやが、そいつは既にいなくなってもうてる。ガムのドリームイーターを倒せば、襲われたおばちゃんは目を覚ますはずや」

 蒼は口に手を当てた。
「おばちゃんが襲われたんは住宅街の路上。今もガムはそこにおるはずや。一刻も早く倒さんと、一般人にも危害が及ぶかもしれん。大胆かつ繊細に、一気に片づけてほしい。ただ、相手はガムやから、その辺はちょっと考慮したほうがええな……そのまんま斬りに行ったら、べたついてえらいことになるかもしれんで」
 蒼は不安そうに言った。
「ガムの攻撃パターンについては、一応情報がある。ただ、恐らく今までみんなが見たガムの中では、一番デカいやろなあ。誰かが噛んだあとのガムやし、気ぃ悪いわぁ……」

 彼はため息を漏らした。
「ガム道端に吐き捨てるやつ、ほんま何考えてんねやろな……吐き捨てたやつに相手させたいっちゅうんが本音の部分やが、まあ、しゃあない……よろしゅう頼んます」


参加者
灰木・殯(釁りの花・e00496)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)
水無月・実里(彷徨犬・e16191)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)
クララ・リンドヴァル(錆色の鹵獲術士・e18856)
赭嶺・唯名(紫黒ノ蝶・e22624)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)

■リプレイ

●ガムのかたまり
 キャーっ、と甲高い悲鳴が上がった。ヘリオンから飛び降りたケルベロスたちは、2から3メートルほどもあるガムの塊を見上げる。すでにガムはゆっくりとした動きである。一方でその巨体から放たれる威圧感が、タチの悪いドリームイーターであることを感じさせる。ガムは今にも崩れ落ち、女の子を押しつぶさんとしていた。
「ヤタガラスっ!」
 秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)が大きく声を張り上げると、彼のライドキャリバーが飛び出してガムに体当たりする。衝撃でガムの動きは止まったが、ヤタガラス自身の動きもきっちりと絡めとられている。強烈に空ぶかしする音がして、どうにかこうにか彼はガムから逃げおおせることができたようだ。赭嶺・唯名(紫黒ノ蝶・e22624)は地面に倒れている女の子の肩を抱き上げて「大丈夫?」と声をかけた。
「はやくここから逃げて」
 唯名のことばに少女はうなずくと、小さく「ありがとう」と言ってケルベロスたちの隙間を縫っていった。
「声掛けを急ごう」
 水無月・実里(彷徨犬・e16191)がそう言うと、みなそれぞれに首を縦に振った。蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)が、さらに付け加える。
「さっきヘリオンから見たときは、このあたりの一般人はほとんど逃げきれているようだった……だが、これから近づいてきているものもいるだろうから、二手に分かれて声掛けと、キープアウトテープの準備だ」
 
「あの、すみません、ここは危険ですので、できるだけ遠くへ離れていただけますでしょうか」
 クララ・リンドヴァル(錆色の鹵獲術士・e18856)ははっきりとした声でそう言った。
「何だ、危険って……」
 男はきょとんとしてそう言い返したが、彼女の後ろに巨大な物体の影を見て顔をしかめた。
「うへえ、なんだアレ……」
「アレが、その、危険なんです」
 クララの返答に男は小さくうなずいて、「どうも」と言った。灰木・殯(釁りの花・e00496)が道路の端から端までキープアウトテープを伸ばしながら、「こちらは、これで大丈夫ですね」と言った。
「あのガムのドリームイーター、のんびりしてて助かったですネ」
 ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)がにこりとほほ笑んだ。
「確かに……追っては来ていますが、まだ全然追いつきそうにありませんね」
 姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)もうなずいて同意した。彼ら4人のところから見えるガムのドリームイーターは、一向に近づいてくる気配がない。もしかしたら、あまりに大きくなりすぎて、自分の重みでアスファルトに貼り付いてしまっているのかもしれない。
「そんな単純なドリームイーターなら、いいのですけれど」
 クララはそう言って、通路にバイオガスを放った――通行人がガムのドリームイーターに無用の興味を持って、近づいてくることのないように。


「ノロマなら、それに越したことはない」
 真琴はサクリファイスを展開すると、彼は果実を宿して金色に輝く。まばゆい光はケルベロスたちを包み込んで、彼らの士気を高めていく。光を浴びた楓の声が、戦場に響き渡る。
「私に眠る脅威……異形の魂……お願い……私を……皆を助けてあげて……!」
 風が一陣吹いて、彼女の放つ色が変わった。目がきりりと吊り上がっている。先ほどまでおどおどとしていた楓の姿はそこにはなかった。口元にはこの状況を楽しんでさえいるような微笑。
「……ふふ……ちょっとは、楽しませてくれるんじゃろ?」
 彼女は黒光りする流体金属を身にまとわせ、ガムをじっと見つめた。
「さあ、行きましょう」
 殯は隊列の後ろからガトリングガンを構えると、狙いをつけてガムへと打ち込んでいく。弾丸は見事にドリームイーターに的中していくが、ガムは少しも動じる様子がない。
「んん、これは今一つのようですね」
 殯はがっかりしたような表情を浮かべた。弾丸がガムにめり込んで、その表面にぼつぼつと大きなゴマ粒がついているようにも見える。
「どうやら飛び道具で単純なダメージを与える、というのは難しいようですね」
 クララの描く蟹座の紋様が、実里の頭上を神々しく照らす。
「これで、突っ込んでいっても平気だね」
 実里は口元にうっすらと笑みをたたえて、ガトリングガンを構えた。
「ただの物理攻撃が難しいなら、こういうのは、どうかな」
 彼女は銃を握り込んだ右手に、魔力を込めていく。
「熱いのは、苦手だろう?」
 実里のことばと同時に発された灼熱の弾丸が、ガムの体に風穴を開ける。焼けただれた傷口からは、路上に捨てられていたガムとは思えない、脳天に突き刺さるような甘い匂いがした。
「オー、効いてるネー!」
 ジジがゲシュタルトグレイブを構えた。
「そンなら、ウチもアッチアチの攻撃、お見舞いするヨー!」
 右手に、炎を纏わせている。獄炎が真っ赤に燃え盛り、鋼の色が変わっている。
「焼きガムになるのデース!」
 飛び上がり、斬りかかる。熱でグレイブはどんどんとガムを溶かしながら切っていく。……が。
「……グレイブ、バッチくなっちゃった」
 ジジのしょげた声に、ケルベロスたちは瞬間吹き出す。
「大丈夫ですよ」
 彼方は鎧装の砲門を開きながら言った。
「このドリームイーターを倒せば、そのべとべとも消えますって」
 彼はガムをにらみつけた。
「そのためにも、こいつを、倒さなきゃいけないですね……!」
 放った砲弾からはスパークが放たれている。強力な電磁を持った一撃が、ガムにめり込んだ。
「……んー」
 唯名は頭を小さく掻いた。
「電撃の効果は、いまひとつ、かな」
 彼女は斬霊刀を構えると、その刀身に意識を集中する。
「……じゃあ、冷たいのは」
 声が、その場に取り残される。瞬間的に彼女はガムへと斬りかかる。「どう」という声は、遅れてその場に響いた。冷たいのも、有効。凍ったガムが斬撃に耐え兼ねて砕け、地に破片をまき散らしている。……しかし、それはドリームイーターに新しい攻撃方法を与えてしまった。
「……え?」
 彼方の足元に飛んで行った大きなガムの塊が、彼の足をがっちりと捉えたのだ。
「大丈夫?」
 クララはすかさず、彼に電撃を放つ。筋肉の活性がびんと上がり、彼は飛びぬけるように、その場から離れた。
「ありがとうございます……傷は何ともありませんが……」
 彼方はフィールドを見回す。そこかしこに飛び散ったガムの残骸が、溶けて自発的に活動し始めている。
「どうしたら……」
「簡単だ」
 真琴が冷焔龍手を取り出した。
「……とにかく、ぶっ叩く」
 彼の手に、力がこもる。振りかぶって、振りぬく。ガムが見事にへしゃげて、再び粉々になる。
「そうだね」
 実里の体がしなやかな毛に覆われていく。
「切り刻む」
 彼女の体は空中を飛び回り、縦に、横に、ガムを切り裂いていく。ばらばらと落ちて、ちらばる。
「コマ切れにすれば、熱いのも冷たいのも効きやすいよね」
 実里によって切り刻まれた破片の1つを、ジジが一撃で叩き潰す。
「これだけ小さければ、叩いても平気ネ!」
 彼女は無邪気に、次から次へとガムを叩き潰す。
「それなら、ウチもそのコマ切れ、つくるよ」
 唯名の構えた刀は、しかし怪しげな光を放っている。
「もっとも、斬れちゃったら、それこそ終わりなんだけどね」
 ゆっくりとした動きだったはずの刀は、途中でその刃先を失い、いつの間にか比較的大きな塊が袈裟懸けに切れてずるりと崩れ落ちた。
「……」
 彼方はその様子を、息を呑んで見ていた。
「……ブレイブスター」
 彼の呼びかけに、左手のガントレットが輝きを放つ。凪が、やがてつむじ風となって彼の左手を覆う。まだどこか頼りない暴風を伴いながら、彼方は精一杯の力で、ばらばらになったガムたちを殲滅していく。
「なんじゃ、もう終いかの? つまらん」
 楓は手に超低温の渦を作り出し、残骸たちの中でも比較的大きなそれに一撃を与えた。
「ゴミの掃除というだけでも汚らわしいのに、その上これほど弱いんじゃあ、話にならんのう」
 彼女の攻撃が、ガムを粉砕する。
「それでは、さようなら。二度とあなたのような不快なデウスエクスが現れないことを祈ります」
 殯のガムに触れた手から、真っ赤な花びらが零れ落ちる。最後のガムが砕け散って、あたりは静寂に包まれた。

●ポイ捨て禁止
 倒れていたおばさんにも、べっとりとガムの跡がついている。ケルベロスたちの武器にも、ところどころ残ったままになっている。
「ひとまず、意識を戻してあげる前にきれいにしてあげよう」
 唯名はそう言っておばさんに掌を向けた。
「真琴」
 実里が真琴に声をかけた。
「買ってきたハリセンはどうした?」
「ああ」
 真琴はおばさんの体から汚れが消えていくのを見つめながら口を開いた。
「あそこは、一気に行ったほうがいいと判断した。それとも、次から次へとガムにハリセンがくっついていく光景を見たかったか?」
「いや」
 実里は冷たく言った。
「そう言うと思った」
 真琴はしゃがみ込み、綺麗になったおばさんの傷を、サクリファイスで癒していく。
 少し離れたところで、殯と楓が壁に飛び散ったガムの剥がしをやっている。合わせて、たばこの吸い殻なんかも拾っているようだ。
「うう……こういうのが、少しでもなくなれば……」
 まさに『憑き物が落ちた』楓のことばに、殯はわずかに微笑んで、そうですね、と返した。彼らの拾ったごみはすでに小さなビニール袋いっぱいになっている。ガムだけでもまだ相当な量があるようだ。
「これは唯名さんにこちらもクリーニングをお願いしたほうがよさそうですね」
 クララはその傍らで、長手袋を脱いで、道路へとふわりと落とした。かさ、と小さな音がして、手袋は熱を失っていく。
「マドモアゼル・クララ! それはナンですか?」
 誰もこの行動を気にかけていないと思っていた彼女は、思わず背筋をびんと張って振り返った。唯名と彼方の姿が、そこにはあった。
「なんでも……」
 クララの顔が赤くなっている。
「なんでもないです」
 彼方もまた、恥ずかしそうに小さく声を上げた。
「あの……さっきは、助けてくれて、ありがとうございます」
「え?」
 クララは意外なことばに目を丸くして、それから思わず少し笑った。
「……傷ついている仲間がいたら、助けるのが普通でしょう?」
 彼女のことばに、彼方は赤面した。ジジはその様子をのぞき込んで、困惑の表情を浮かべた。

作者:あずまや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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