こっくりさん、こっくりさん……

作者:あずまや

 少女は暗い部屋で、一人紙に向かって指を走らせる。
「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたら、どうぞおいでください……」
 彼女の呼びかけに応えるように、何かが少女を貫いていった。
「こっくりさんかあ。わたしも興味あるんだけど……でも、モザイクは晴れなかったね。残念」
 彼女の心臓に、第五の魔女・アウゲイアスの鍵が突き刺さっている。アウゲイアスは妖狐の頭を撫でる。
「狐、狗、狸でこっくりさん……でも、あなたの見た目は狐なのね」
「化けて出たら、一番怖いからねえ」
 妖艶な響きで狐は言った。

 高松・蒼(ヘリオライダー・en0244)は小刻みに震えている。
「こっくりさん……特にお狐様はいかんやろ……何やってんねん」
 蒼はため息をついた。
「柊・乙女(黄泉路・e03350)さんが予測した通り、こっくりさんへの興味がドリームイーターになって現れた。犠牲になった少女は家で寝込んどる。実際にこっくりさんを一人でやっとるところ、後ろから鍵でグサーや。いつものアウゲイアスのやり口やな。あいつは他人の興味に手ぇ出しよるからなあ。今回もまったく同じ形で、少女の興味が狙われたんや。しかしよりにもよって『こっくりさん』とは……」

 蒼はため息を漏らした。
「こっくりさん、みんなも知ってると思うけど、あれは妖怪の類や。ちょっとやそっとじゃ退治できへん。納得して成仏してもらうほうが楽やろな」
「この手の未確認生物みたいなドリームイーターは、おのれが何者かを知りたいがために、噂をしている奴のところに行って、自分の正体を確認しようとする習性がある。なんかの作戦の役に立つとええけど……こっくりさんをおびき寄せるには、こっくりさんやってみるんが、一番早いかもな……先にドリームイーターやのうて、本物呼ばんように」
「こっくりさんからの攻撃についてはよう分かれへん。ただ、実力も本家のこっくりさんクラスやったら、一撃もらったらえらいことになる可能性は十分にある。……念のため、犬っぽいやつを1人、ディフェンダー兼回復役として同行させようと思うが、基本は戦闘に持ち込まずにうまく成仏してもらうんがええ。みんなで楽しくこっくりさんやって、納得して帰ってもらおう」

「こっくりさんは、いわば都市伝説かもしれん。せやけど、妖怪としてみた場合は最強クラスなんは間違いない。真正面からぶつかってどうこうなる相手かどうか……いろいろな角度から話をしてみて、こっくりさんを納得させてほしい」


参加者
ベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)
ロイ・メイ(荒城の月・e06031)
織戸・来朝(爆音鳴らす蒼き狼・e07912)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)
立華・架恋(ネバードリーム・e20959)
レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)
玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)

■リプレイ

●こんなところに呼び出して
「織戸くんの頼みだから聞いてあげるけれど、本来大学のラボというものはこういう風に使うものじゃないぞ」
「わかってますよ」
 織戸・来朝(爆音鳴らす蒼き狼・e07912)は元『上司』である教授に微笑みかけた。
「第一、こっくりさんなんていう非科学的なものが」
「はいはい、わかってますって」
「きみたちがここに来てから、なんだか背筋が寒いんだ。一晩使ってくれるのは勝手だがラボの器具は絶対に」
 教授はそこまで言ったところで来朝に部屋から押し出されてしまった。彼女は研究室の扉を閉め、鍵を落とした。
「大丈夫、だったのでしょうか」
 秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)は扉のガラス越しに見える教授の背中を見て、ぼつりと言った。
「いいのいいの。信じない人のところには来ないから、こういうものは」
 玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)は手に提げた紙袋の中を見た。
「油揚げ、いっぱい買っておいたわ」
「あと、来朝の言った通りの文字盤だ」
 ロイ・メイ(荒城の月・e06031)は黒い防火加工の実験机の上にA3ほどの大きさの紙を広げた。霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)は懐から10円玉を取り出し、来朝に手渡す。
「これで、必要なものは大体そろったかな?」
「そうね」
 来朝はうなずいた。
「この前話した作戦の通り、うまくやりましょ。本物の神様だと思い込まれて強くなられたら、たまったものじゃない」
「こっくりさんの毛艶を褒めるのは、どうでしょうか」
 ベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)が質問する。
「褒めていい気持ちになってもらうことも、大事だと思うよ。あとは、始めたら参加者は、絶対に10円玉から手を離さないこと。戦闘するときは大変かもしれないけど、それ以外でうまくカバーしよう」
 レクト・ジゼル(色糸結び・e21023)が、そっと10円玉に手を置いた。
「はじめましょう」
 そう言うと、立華・架恋(ネバードリーム・e20959)はじりりと一歩下がった。
「私はここから見ているわ」
「私も、そうさせてもらいます」
 アル・クランク(もふ医・en0243)も同じく一歩引いた。
「やろう」
 そう言って、ロイは10円玉をじっと見た。

「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」
 鳥居のマークの上に、四本の右人差し指が集まっている。「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください」
 辺りはしんと静まり返り、研究室の無機質な光だけが五十音の書かれた紙を白く照らしている。
「来ないね」
 ユーリがむくれたのを、来朝は笑った。
「そうそう簡単に来るもんでもないよ。こっくりさんやってる4人は、続けて。それ以外はそれ以外で、ちょっとそれっぽい雰囲気を醸し出していこう」
 こころは「こっくりさんって、『狐、狗、狸』なんでしょ? なんでキツネの見た目ばかりなの?」と言った。
「そうでもないよ、その時々で呼べる動物霊が違うんだもの。でも、お狐様が多いのは、それだけ呪詛の力が強い、ということなのかもしれないね」
「しっ」
 ロイが小さく言った。
「何かが、来ている」
 彼方はぐいとその様子を覗き込んだ。そして小さく「あ」と漏らした。4つの指に抑えられた10円玉が、『はい』の文字に向かってゆっくりと滑っていく。
「ベル、指に力入れてないよね」
「当然です」
 ユーリが吐いた息が、なぜか白く煙る。
「か、勝手に……」
「ホントに呼べちゃうのね」
 架恋が感心したように言う。
「でも、肝心のドリームイーターは……」
 こころがきょろきょろとあたりを見回した。
「来ていないのですか」
 ベルカントは自らの意思に反して動く10円玉から目を離せず、そう聞いた。
「ええ、来ていないようです」
 アルは警戒していろいろと見回すが、棚の隙間以外に隠れられそうな場所もない。
「もうちょっと、続けて」
 来朝のことばに4人は小さく首を縦に振った。
「こっくりさん、こっくりさん……」
 レクトが声をあげる。
「俺はこのまま勉強を続けていけば、ベルみたいな医者になれますか」
 10円玉がするすると動いて、文字盤をぐるりと一周し、そして再び『はい』にたどり着いた。
「おお……そ、そうなんだ……」
「レクト、あまり恥ずかしいことを聞くものではありません」
 ベルカントが言うと、さらにコインがするすると動く。ロイがそれを追って読み上げる。
「て、れ、る、な……」
 ユーリが笑った。
「あはは、照れてるの? ベルカントくん」
「誰か無理やり動かしたでしょう?」
「まあまあ」
 彼方がベルカントの肩をたたいた。
「じゃあ」
 ベルカントが『な』に止まっているコインをじっと見た。
「次は私が……こっくりさん、こっくりさん。私は来月、ちゃんと休みを取れますか?」
「切実な質問」
 架恋のぼそりとしたつぶやきに、「最近忙しくて」とベルカントは苦々しく笑う。コインはまたぐるぐると紙の上をゆっくり滑り、弱々しい軌道で、「す、こ、し」と移動した。
「少しか……」
 ベルカントががっかりしたように肩を落とす。
「こっくりさん、こっくりさん」
 ロイがぼつりと言った。
「次の戦争は、いつだ」
 再び、しんとラボが静まり返る。電子機器の音と不協和音を奏でるように、するするとコインが紙の上をすべる。
「い、ま」
「……ほう」
 ロイは辺りに目配せをした。
「面白い冗談だ」
「ちゃうんやけどなぁ」
 聞いたことのない声が、教室にこだまする。
「……だれ?」
 電灯がカチカチと点滅をはじめて、すぐにぷつりと切れた。非常灯の緑の明かりだけが、うすぼんやりと紙と9人を照らしている。
「空気が変わったっ……指離したらだめだよ!」
「人聞きの悪い。あんはんらで呼んでおいて、あんまりやわぁ」
「あっ」
 こころが小さく「ロッカーの上」と言った。
「あらぁ、見つかってしもたぁ」
 んふふ、と彼女は笑って、それからするりとしなやかに体躯をくねらせて降りてくる。柔らかそうな白の和服に包まれた、優しそうな表情の狐。これが、あの恐怖の対象であるこっくりさんを具現化した形だというのだろうか。
「こない、霊とは縁遠いとこに呼び出すなんて……変わったおひとらやねぇ」
「も、モフモフっ……!」
 ユーリは思わずそう口走り、彼女の目を見て問いかけた。
「こっくりさんこっくりさん。わたし、鬼天竺鼠なんですけど、毛並みがものすごく硬いんです……このままでいいのでしょうか、それとももっとモフモフを目指すべきなのでしょうか?」
「コインやのうて、もう直接うちに聞いてますやん」
 妖狐は、「かなんわぁ」と笑う。
「目指さんでも、ええんちゃいます? もふもふにはもふもふの、ごわごわにはごわごわの良さがおます」
「あっ、ありがとうございますっ……」
 ユーリは指をコインに付けたまま、頭を下げる。

●戦争は「い、ま」か
「待て」
 そう声を上げたのはロイだった。
「戦争が、『いま』だ、と言ったな」
「せやねぇ」
 妖狐が目を細め、首を傾げた。
「どこかで戦火があがってる、ということか」
「ちゃいますよ」
 彼女の笑みが、だんだんと暗い闇の色を放つ。
「せやけど、その答えの前に、さきにうちん質問に答えてもらいます」
 来る、と全員が身をこわばらせた。
「うちは、何者か」
「はい」
 架恋がすっと手を挙げた。妖狐はちらりと彼女を見て、「そっちゃの赤目の子?」と呼びかけた。
「私にわかるのは、貴女に敬意を持って接すれば、私たちに知識や知恵を授けてくれるということ……失礼をしてしまって怒った貴女の怖い話も聞く得れど、それは神様の振る舞いと同じ」
「つまり、うちは神様か何か、なんやろか」
「いや、それは違うよ」
 来朝が口をはさんだ。
「本物の神様なら、神社からは出て来られないはず。それも、こんな殺風景なラボになんてね。あなたは近所の神社にいる神様の御使い。だから、このお守りも抜けてこられた。神様じゃない」
 彼女は首からぶら下げたお守りを妖狐に見せつけた。
「ふむ」
 妖狐は首をかしげる。
「ということは、うちは神様やのうて、その御使い、なんやな」
 そうかそうか、と彼女は首を何度も縦に振った。
「御使いは御使いでも、ただの使い走りではありません。気高き御狐様ですね」
 ベルカントのことばに「うん?」と彼女は不思議そうな顔をして、首を傾げた。
「そうですとも」
 ユーリは目を輝かせる。
「とっても綺麗で興味深い、不思議なおきつねさま。目を離すことができないのです」
「そない言わはったら、照れるわぁ」
 彼女は恥ずかしがって、にこりとした。頬がうっすら赤く色づいている。ロイもそれに乗り、「その上、実に賢そうだ。聡明さに見合った美も備えているのだろう」と付け足した。
「もう、いけずぅ」
 彼女は耳を前足で抑えてふるりと頭を振った。
「しかし、御使いならば、神様をお守りする役目があるのでは?」
 レクトのことばに、「あんさん方が呼ばはったのにぃ」と妖狐は恥ずかしそうに顔をあげた。
「それにぃ、さっきも言いましたやろ、戦争が、はじまりますねや」
 ロイが身構える。
「どこで」
「ここで、うちと、あんさん方の、戦争が」
「ちょ、ちょっと待った」
 急に妖怪めいたオーラを放ったこっくりさんに、レクトが提案する。
「あなたに本気を出されては、俺らに勝ち目はない。いや、あなたが本気を出さなくたって、最初から俺らに勝ち目なんてないんです。どうかここはひとつ、俺らに稽古をつけていただく、ということでいかがでしょう」
「稽古」
 彼女は急に、がくりと肩の力を抜いた。
「せやなぁ……なんやケルベロスは悪もんやー聞いとったけど、こないうちのこと褒めてくらはるおひとらに、あんまり痛くはでけへんもんなぁ」
 妖狐は寂しそうにうなずいた。
「ええよ。このあと、うちがどうなるんか、もうわかっとるさかい」

●こっくりさん、こっくりさん、どうぞお戻りください
「それじゃ、いかせていただきますよ」
 彼方は飛び上がり、こっくりさんに脚撃を与えようとした。
「待ちぃな」
 だが、その攻撃は受け止められ、彼の体は優しく地に降ろされた。
「他んは我慢するけど、蹴りはやめてぇな。服がよごれるさかい」
「ご、ごめんなさい」
 そのあまりに落ち着いた物言いに、彼方はそれじゃあ、と彼女の右肩を一撃、重たい拳で貫いた。
「んー、なかなかやねえ」
 彼女はいかにも痛いといった声をあげ、右肩をさする。傷がじりりと埋まって、最後に小さな白い煙が出た。
「あんたの拳は、なんや荒削りやけど、強い気持ちを感じるわぁ。うちのこと、そないに嫌いなん?」
 んふふ、と彼女は笑って、「ほんまいけず」と言った。そして彼方に素早く駆け寄ると、その首元にかぶりと噛みついた。
「なっ……!」
 架恋はそう言うが早いか、ばっと飛び出し黒槍で妖狐に傷を付ける。
「甘噛みや、怖い顔せんで」
 妖狐が槍を体から抜き取り、「ほれ」と彼女に返す。
「えらい痺れるなぁ、ええ一撃や」
 レクトは目を見開き倒れてもがいている彼方を見て「催眠か」と口走る。
「その子、ええ夢見てるやろか」
 妖狐が笑う。
「いい夢ではないでしょうね、私たちの基準で言うなら」
 ベルカントのことばに、「あら、残念やわぁ」と彼女はこぼした。
「白き光で包み、癒せ……!」
 レクトは空いている左手を彼方へと差し出す。白い光が彼方を包み込む。首にぽっかりと空いた牙の痕が小さくなって、やがて赤い斑点が4つばかり残っているだけとなった。
「じゃあ、これはどうですかっ?」
 ユーリは左手に握った杖から、稲妻を放つ。それが妖狐に絡みついて、彼女の体を縛り付ける。
「ええ、ええ。ずっしりとしていて、うちの身体の自由も奪う、ええ攻撃や」
 ロイは右手をコインから離さないようにしたまま、Featherに炎を纏わりつかせていく。
「ん、次はあんたか……どれ、そこからやったら遠いやろ」
 妖狐はずりずりと痺れる後足を引きずりながら、彼女の前まで進み出る。
「どないなもんじゃろ」
 こっくりさんの微笑みから目をそらして、ロイは獄焔の一撃を叩き込む。
「あぁ、こらすごいわぁ、見た目だけやのうて、本当に燃えるんやねぇ」
 彼女はちりちりと焼け焦げた毛を見て悲しそうに言った。ベルカントはさらに彼女をエクスカリバールで打った。
「やぁん、痛いわぁ」
 妖狐は、くうん、と小さく鳴いた。来朝のギターが三拍子で掻き鳴ると「はぁ」とこっくりさんからため息が漏れた。
「なんやあんたら、強いやないの。手加減して、損したわぁ」
「そうでもないわ」
 架恋が微笑んで、「しっかり貴女を、元の場所まで帰してあげる」
「かなんわぁ」
 架恋の放ったイノセントレイが、妖狐を真っ白に照らしている。がりがりと、彼女の傷が広がって、空気に溶けていく。
「泡沫夢幻、砲一夢散、伽藍開砲、断滅」
 こころのミミック、ガランがむくむくと大きくなり、見る間に大砲となった。
「また、呼んでぇな」
 妖狐の声を、砲撃の音がかき消した。すぐに、静寂が戻った。

「これ、どうしたらいいんですか?」
 再び明かりをつけた部屋でベルカントはまだ10円玉の上に指を載せている。
「こっくりさんは今、帰ってくれたんですよね?」
 9人が見守るコインは、するすると『いいえ』に吸い込まれていく。
「こっくりさん、こっくりさん、お戻りください」
 レクトがそういうと、コインは小さくその場を行ったり来たりして、『いいえ』にまた着地する。
「うーん……」
 アルが様子を覗き込んだ。こころが顔を引きつらせる。
「さっき倒したのって、まさかホンモノじゃないわよね」
 コインがまた動き始めた。ロイが息を呑んでその文字を読み上げていく。
「に、せ、も、の」
「……え、じゃあ今コインを動かしているのは……」
 ユーリの指先が震える。
「その指、絶対離しちゃだめだよ」
 来朝のことばに、ユーリはさらに震えあがった。
「あ、またコインが動きますよ」
 彼方はその行く先をじっと見た。
「う、そ」
「うそ?」
 架恋もウイングキャットのレインを撫でながら、じっと紙を見つめている。
「お、お、き、に」
 コインはするすると鳥居に吸い込まれて、そのまま動かなくなった。
「……さっきのあれ、やっぱりホンモノだったんじゃ……」
 こころのことばに、違う違う、と来朝は肩をなで下した。
「もう、10円玉から指離しても大丈夫だよ」
 彼女のことばに、緊張しっぱなしだった4人も一気に肩の力が抜けたらしい。次々に、コインから手が離れて行った。
「あれはドリームイーター。今のは本物のこっくりさんが面白がってやっただけ」
「なんだ、そっかあ……とはならないですよ」
 レクトは思わず声が大きくなる。
「本物、呼んじゃってたんですか?」
 ベルカントが笑いながらレクトの肩を叩いた。
「大丈夫だよレクト、もう帰っちゃったから」
「大丈夫じゃないよ?」
 来朝が「まあまあ」と笑った。
「最後は紙を48に破って……ん」
 彼女の説明が止まって、全員が彼女の視線の先を見た。
「……さっき、最後、コインは鳥居のところに行ってたよね?」
「ああ、間違いない、私が最後に離したときは鳥居のところにあった」
 ロイの答えとは裏腹に、紙の上の10円玉は、『はい』のところに移動していた。
「……まだ、いるの?」
 架恋は思わずそう聞いた。コインは動かない。
「こっくりさん、お戻りください」
 彼方は小さな声で言った。……やはり、コインは動かない。ユーリは困惑した顔で「……気のせい、かもしれない、よ、ね?」と言った。
「……そう考えるのが妥当だろう。コインがひとりでに動くなど」
 ロイは鼻で大きくため息をついた。
「誰かが服の裾で弾いちゃったのかもしれないし」
 来朝はそういうと、「うん」と気合を入れた。
「この紙を48に破って捨てる。コインは自販機でジュースに変えよう」
 ユーリがコインを拾い上げようとしたとき、10円玉が、すっと鳥居のところまで戻っていった。
「……のど、乾いたね」
 ユーリは声を震わせながら、ケルベロスたちを振り返った。みな、一様に気まずい顔をしているが、来朝は「これ、ちゃんと効果あったのかな」と、いぶかしげに小さなお守りを見ていた。

作者:あずまや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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