籠絡姫に鎮魂はなく

作者:真魚

●山中のネクロム
 深夜の山は、静寂に包まれていた。月明かりに照らされた山道を、行く人は誰もいない。
 兵庫県、淡路島。冬の日に攻性植物に覆われ、そしてケルベロス達が救った島。その真ん中に位置する感応寺山の山頂付近に、現れたシスターは楽しそうに笑った。
「あら、この場所でケルベロスとデウスエクスが戦いという縁を結んでいたのね。ケルベロスに殺される瞬間、彼は何を思っていたのかしら」
 歌うように唇開き、死神は浮遊する怪魚へ言葉を続ける。
「折角だから、あなたたち、彼を回収してくださらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
 声に応え、青白く発光する怪魚型死神が空を泳ぐ。その様にクスクスと笑いながら、シスターの女は姿を消した。
 残された魚、泳ぐ軌跡が魔法陣のように浮かび上がる。その光の中召還されたのは、中東の踊り子のような衣装に身を包んだ女だった。

●籠絡姫に鎮魂はなく
「淡路島の感応寺山に、女性型の死神の活動が確認された。どうやらこいつは、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)の宿敵である、『因縁を喰らうネクロム』という個体らしい」
 集まったケルベロス達へ、ゆっくりとした口調で語りかけて。高比良・怜也(饗宴のヘリオライダー・en0116)は視得た出来事を説明していく。
「ネクロムは、怪魚型死神に『ケルベロスによって殺されたデウスエクスの残滓を集め、その残滓に死神の力を注いで変異強化した上でサルベージし、戦力として持ち帰る』ように命じている」
 このまま彼女の作戦を放置していれば、死神達は新たな仲間を迎えることとなるだろう。それを阻止するため戦ってほしいのだと、告げた怜也はその瞳を、隣に立つギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)へちらり向けた。
「今回サルベージされるデウスエクスは、ドラグナーのウージェニィという」
「私達が、光明神域攻略戦で倒した相手でございますね」
 ギヨチネの言葉に、ヘリオライダーは静かにうなずく。あの時、攻性植物に寄生され『カンギ』配下となっていた女。それが今度は死神に狙われ、死してなお安らげることがない点は同情もできる。
「こいつは、感応寺山の山頂に現れる。俺が今からヘリオンを飛ばして、出現地点に到着する時にはサルベージが完了しているだろう。お前達はヘリオンから降下次第、敵に攻撃を仕掛けてほしい」
 ドラグナーをサルベージした怪魚型死神は三体。皆が噛みつくことで攻撃してくるが、それしか起こす行動がないのでこちらは然程脅威でもない。
 問題なのは、ウージェニィ。彼女はブラックスライムを武器に持ち、攻性植物の力も宿している。回復しながら戦うという生前の彼女そのままの構成だが――サルベージ後の女は、その扱い方が異なる。
「ウージェニィは、知性を失っている。回復グラビティを持ってはいるが、どちらかというと攻撃優先で行動するみたいだ。それも、自分に一番近い敵を狙ってな」
 手近な敵へ、力任せの攻撃を行う。それは以前相見えた彼女とは違う戦い方だが、うまく利用すればこちらの受けるダメージをコントロールすることもできるだろう。
 そこまで語って、赤髪のヘリオライダーは小さくため息を零した。
「サルベージされたウージェニィは、外見も獣のような体毛に覆われ、会話が成立するような状況じゃない。だから、今回の依頼はただ倒すことが目的だ」
 ただ、倒す。そして死神の策略を阻止する。
 はっきり告げた怜也の言葉に、集まったケルベロス達が気を引き締める。そんな様が頼もしく、ゆるり笑った怜也はヘリオンの扉を開いた。
「さあ、急ぐぞ。夜の山はまだ寒い、気を付けて行ってこいよ」
 そして、今度こそこのドラグナーに終焉を。戦いへ向かう彼らへ一礼し、赤髪のヘリオライダーはその銀の瞳に信頼篭めて、ケルベロス達を送り出した。


参加者
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
来栖・カノン(夢路・e01328)
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
哭神・百舌鳥(薄墨の暗夜・e03638)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
香良洲・釧(灯燭・e26639)
クラレット・エミュー(凍ゆゆび・e27106)
藤里・露葉(春の野に和奏想ふ・e34473)

■リプレイ

●黄泉がえりの籠絡姫
 闇夜の中、浮かび上がる魔法陣が山中を照らし出す。青白い光に満たされた感応寺山から、響き渡るのは獣の如き咆哮だった。
「オォォォォ!」
 短い眠りから呼び起こされた女の声は、最早人のものとは言い難い。発する声と共に放たれるのは、ただ殺気のみで。それをその身に受けながら、西水・祥空(クロームロータス・e01423)は戦場へ降り立った。
 腰から下げた照明が、そして次々に着地する仲間達が設置した明かりが、敵の姿を照らし出す。露出の高い踊り子のような衣装、しかしそこにあるのは艶めかしい白い肌ではなく、金色の体毛だ。黄泉がえりの女がこちらへ意識を向けるより早く、祥空は力強く大地を蹴って超加速で敵陣へと突っ込んだ。握りしめる『ライトキング・ハーデース』の暗黒色の刀身が、彼の手の中でクロームシルバーの燐光を放つ。
 揮われる斬撃、その先制攻撃にウージェニィも怪魚型死神も浮足立った。この好機にも油断せず、祥空は後方へ跳んで距離を置く。
 入れ替わるように前進したのは、ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)。進む勢いと力乗せたハンマーは、ごうんと空切る音響かせ振り上げられる。並みの人ならば体が持っていかれるほどの勢いを、ギヨチネは鍛え上げた己の腕で制御し振り下ろしの力へと変えた。
 狙いはウージェニィ、叩き込まれる一撃。その攻撃は彼女の頭を打ってもなお勢い削がれず、そのまま大地へ落とされ地響きを轟かせた。
「アァァァァ!」
 上がる叫び声、そこに含まれるのは怒りと殺意。変わり果てた宿敵の姿に、ギヨチネは灰色の瞳に憐憫を滲ませる。
(「喪われた命はこの世に戻ってはなりませぬ」)
 それが過去の敵であったとしても、こうなっては最早憐れむべき存在だ。ただ鎮魂の想いで戦場に立つ彼と同様に、藤里・露葉(春の野に和奏想ふ・e34473)も瞳に決意を篭める。
(「縁は無くとも、死してなお死神に利用されてしまうのは……防がなければなりませんね」)
 そのためにも、今は自身が盾となろう。宿敵を見つけてすらいない自分に彼の胸中を量り知ることはできないけれど、少しでも手助けとなりたいから。
 腕の中のウイングキャット、碧を一度ぎゅっと抱きしめ無事を祈って。彼女は相棒をその手から解放し、ドラグナーへと接近した。水色の着物翻しオウガメタルの粒子を放出すれば、碧も隣で翼を羽ばたかせる。
 前方の仲間へ振り撒かれる支援を受けて、哭神・百舌鳥(薄墨の暗夜・e03638)もウージェニィへと駆け出した。細い手が握りしめる鈴が、シャンと涼やかな音を響かせる。
「さぁ……かくれんぼの時間だよ……」
 声に、鈴の音に、誘われるよう現れたのは五匹の管狐。彼らは首の組紐についた鈴を楽しそうに鳴らしながら、結界を張って百舌鳥を手伝う。広がるのは闇の檻。閉じ込め、奥へ奥へと誘えば黄泉がえりの女は唸り声上げてもがき苦しんだ。
 暴れるウージェニィを見つめ、クラレット・エミュー(凍ゆゆび・e27106)は表情を僅かに曇らせる。いちど死したものの宿命を簡単にひっくり返す、死神の行為。それをいただけないと評しながら、彼女は手套つけた左手をひらり空中へ滑らせて、寄り添うビハインドへ合図を送る。
「それでは、供をして呉れ、ノーレ」
 主の呼びかけに、少女は小さく微笑みうなずいた。目元を隠すネモフィラの花冠が、夜風に揺れる。次の瞬間、ノーレのグラビティが敵の体を空間に縫い止めた。
 大切な相棒の奮闘に、クラレットの瞳に優しい光が滲む。しかしそのまま敵を捉える視線は鋭く、彼女は手にした杖より雷光を放った。
 バチバチ、戦場に響く音と周囲を照らす光。その攻撃受けながら、ウージェニィは叫び声上げてブラックスライムを変形させた。開く口が、露葉を丸呑みにする。ダメージが軽減されているはずの守り手でも、その攻撃は重いもの。
 敵の攻撃力を目の当たりにして、鎖の魔法陣描き出すのは来栖・カノン(夢路・e01328)。展開する癒しは前方の仲間達を守護し、その守りを固めていく。
(「こうなる前のウージェニィの姿は、お話でしか聞いたことがないからわからないけれど……」)
 それでもきっと、こんな風に利用されることを望んではいないと思うから。吹き抜ける風に白い翼を翻し、少女は毅然とした顔で仲間の体力に気を配る。
 火力の高いウージェニィ、そしてそれを守る怪魚型死神。敵の布陣を崩し勝利するためには、癒しと守りが重要だろう。
 決意乗せた癒しのグラビティ受けて、彼女の相棒であるボクスドラゴンのルコがきゅいっと鳴く。その声は主も仲間達も激励するようで、ケルベロス達はうなずき合い武器を強く握りしめた。

●攻めと守りと
 ケルベロス達の攻撃は、初めから苛烈だった。叩き込まれるグラビティ、その痛みに抗うようにがむしゃらに戦うドラグーン見つめ、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)は僅かに瞳を伏せた。
(「かわいそうなウージェニィ。すっかり変わり果てた姿で、それでもなお、戦いから逃れられないのですね」)
 こんな姿で戦わされることなど、きっと彼女は望んでいない。だからなるべく早く終わらせることが、紺にできる唯一の慈悲。
 戦いへの決意胸に、ジャケット翻して紺は駆ける。握りしめる神の槍は、稲妻帯びて。
「言葉にならない思いを、好きなだけ叫ばせてあげましょう。私たちなら、きっとあなたの最期を受け止めてあげられるはずです」
 声と共に、繰り出す一撃。その高速の突きは、しかし割り込む怪魚に阻まれた。お返しとばかりに敵はその口を紺へ向けるが、今受けた麻痺のおかげで攻撃は空振りに終わる。
 ウージェニィを優先して狙っても、怪魚の妨害は避けられない。しかしそこまで織り込み済みのケルベロス達は、動じることなく攻撃を重ねる。
 襲い来るあと二体の怪魚達の攻撃は、ルコと碧が庇って。その隙に狙い定めた香良洲・釧(灯燭・e26639)は、戦場に立つ黄泉がえりの女へその身を向けた。吹き抜ける風にはためいて、灰白色の翼が闇夜に浮かび上がる。
 カンギ戦士団との戦い。多くのケルベロスが挑んだ光明神域での出来事はまだ記憶にも新しいが、死神のサルベージに遭っては余韻もあったものではない。
(「せめて心残りのないよう、俺は俺の役目を果たすとしようか」)
 すうと息吸いこめば、蛇のような尾にも力が入って。次の瞬間吐きだした炎の息は、全ての敵を包み込んだ。
「……熱と氷で溶かしてしまおうか」
 小さく浮かぶ笑み、手を伸ばす先にはゾディアックソード。次のグラビティの準備をしようとする釧を威嚇するように、ウージェニィは吠え、ブラックスライムを放つ。
「くっ……!」
 前衛へ向けられた攻撃、それは運悪く会心の一撃。百舌鳥を狙ったブラックスライムを受け止め、ギヨチネの身体が大きく揺れる。
 守り手達の被害は大きい。それでも決して彼らを倒させはしないと、祥空は地を蹴りウージェニィの前へと躍り出る。
「交代いたしましょう。皆様は回復をお願いいたします」
 真っ直ぐにウージェニィだけを見ながら、かける言葉は後方の仲間達へ。そのまま彼は内なる地獄の力を解放した。橙、青、白、緑、黄色に赤――九色の炎は奔流となり、祥空の周囲に九口の刃を創り出す。
「我が地獄を治めし可憐なる乙女達に願い奉る。神討つ力を我に与え賜え」
 詠うように、紡ぐ声。それに応えるかのように、炎の刃が次々と敵の身体へと向かっていく。斬りつけ、刺して、肉を断ち。その断面は炎に焼け焦げ、ウージェニィが身悶える。
 敵の隙生み出すことが、後退する守り手達を助けることに繋がる。だから紺は手にしたハンマーを変形させ、敵陣目がけて竜砲弾を放った。
「カノンさん、回復を」
「うん、任せてなんだよ!」
 促す声、返る言葉は頼もしく。カノンは自由のオーラを生み出して、癒しの力でギヨチネを包み込む。
 彼と同じく後退した露葉も、桜の花弁呼び寄せヒールグラビティを自身へ放つ。
「さくら、さくら」
 咲き誇れと願う言葉は、八重桜と仲間達へ向けて。ふわり優しく香る薄紅は、露葉の茶色の髪に絡み彼女を春色で癒していった。
 攻撃に特化したウージェニィの一撃は、油断のならないものだった。守り手が前に立ち続ければ、持ち堪えられず倒れる者もいただろう。
 しかし、ケルベロス達は疲弊した時に立ち位置を変え、守り手が復帰するまでの時間を稼ぐ作戦を採っていた。目の前の敵を狙う、ウージェニィの戦い方を利用した戦法だ。
 後退した守り手が即座に回復することにより、彼らの庇う行動が負担にならなかった点もいい方向に働いた。これが前へ出た祥空とクラレットへ回復を集中する作戦だった場合、庇った時のダメージ受けて守り手は無事で済まなかったはずだ。
 適切な作戦、そしてそれを達成するための声かけ。それは全て、黄泉がえりのドラグナーを必ず倒すという意志が繋いだ素晴らしい連携だった。

●最期は、せめて
 祥空とクラレットが耐える間に回復済ませた守り手達は、少ない時間で前線へと復帰した。傷は癒した、とは言え蓄積されたダメージの中には回復できないものもある。彼らが再び後退することになる前に、敵を倒せるかが勝敗を決めるだろう。
 大丈夫、まだ戦える。ウージェニィの目の前へと駆ける露葉の胸中に巡るのは、全てを失ったあの日の記憶。自分を守り生かしてくれた人達がいて、自分は今ここにいる。
「もう守られるだけでなく、今度こそは守りたいですもの」
 決意の声と共に足を揮えば、その回し蹴りは暴風を伴い周囲の敵を薙ぎ払う。その一撃は、怪魚型死神にとってのとどめとなった。庇うダメージの蓄積された一体が、暴風受けて吹き飛んだまま地に落ち動かなくなったのだ。
「そろそろ終わりにしましょう」
 攻め時と見て、紺が黒い影を走らせる。
「迂闊に踏み込んだ報いを受けなさい、私の世界は甘くないです」
 凛と響く声に合わせ、伸びる影は蔦のように怪魚の体を絡め取る。力奪う蔦に飲み込まれ、死神がまた一体力尽きる。
 続けてチェーンソー剣振り上げたのは釧、その深緑の瞳には静かに好戦的な光が浮かんでいた。敵は強い、だからこそ手に体に熱を感じる。満たされることはないと知っていても、彼にはデウスエクスを倒せる力がある。だからただ、それを揮うだけ。
「刃の錆へと変えてくれよう」
 口の端に、小さく笑み浮かべて。駆動音響かせる刃は怪魚の身を切り裂き、魂喰われた最後の死神はそのまま静かに消滅した。
 これで、敵はウージェニィ一人。しかも相手は体中血だらけで、最早勝負は見えていた。
 けれど、理性を失ったウージェニィに撤退する知恵はない。彼女は深手負った左腕を庇いながらも腰を落し、ギヨチネ目がけて駆け出した。
「アァァァァァ!!」
 咆哮、揮うは渾身の捕食のスライム。しかしその攻撃はルコが阻み、彼には届かない。
 苛立つ敵には隙が出来る。この機会を逃すまいと、敵の背後へ回り込むのは祥空だ。
「私は仏様ほど寛容ではございません。我が頼もしき戦友の前にあなたが立つのは、これが最後です」
 平時とは異なる冷たい声、迸る九色の炎と閃く刃達。
 獣化した身を震わせ、ウージェニィが唸る。黄泉がえりの女の再びの最期を目前に、クラレットは僅かに眉を寄せる。
 医者である彼女にとって、自身や同業が叶えられぬ死を越える力。死神の操るそれは、医者としては喉から手が出るほどほしいのだけれど。
(「生きるときは寄生され、眠らばこうして引き戻され。安楽医療は流派が違うが、あんまりに残酷だ」)
 ケルベロス達と相見えた、この冬の生き様。それを思えば、命扱う者として行うことは決まっている。
 再びの死に抗うよう立ち続けるウージェニィに、クラレットは静かに接近する。
「ウージェニィ、君の名を呼ぶのはこれが最初で最後だ。よく眠れるよう温かい寝床へ導いてやるとも」
 その前に、少しだけ冷たくなってもらうけれど。冷えた左手動かせば、凍てつく魔法の糸がゆびさきに絡む。
「芽ぐむことも、摘むことも、この指ならば」
 彼女の持てる医術でもって、ドラグナーの身に縫いこまれる糸。それは彼女の体内で芽差して、氷柱となり皮膚を貫いた。
「ウォォォォォ!」
 痛みに苦しむウージェニィの、咆哮はもう掠れていて。
 ひゅうっと息の音鳴らしながらも吠え続ける女に、百舌鳥は如意棒を構えた。
「言葉はもう聞こえないよね……?」
 問いに返るのは、荒い獣の息遣いだけ。夜空に輝く月の美しさも、きっともう彼女の瞳には映らない。そのことが、残念でならない。
 だから、もう一度眠りに誘うための送り火を。伸ばした如意棒は真っ直ぐウージェニィを狙い、懐へと突き立った。
「今度こそ本当におやすみなさい……」
 ふらつく敵を前に、カノンが夜生み出してギヨチネを癒す。あと、少し。満身創痍の彼が、最後まで戦えるように。
 回復受けた男は小さく礼告げて、敵へ腕を突き出した。
 仲間を見れば、自身と同じく前へ出た者の疲弊が激しい。そんな彼らを守りたくて、ギヨチネは静かに口を開く。
「私は昔時の業を裁く立場にはございません。しかし、仲間を傷つけるというのであれば、今の私は、それを許しませぬ」
 広がる結界、それはギヨチネとウージェニィを内へと封じ込める。
「貴女の業、私が引き受けましょう」
 それは、彼女の死刑台。敵が見る幻覚は、己が死の瞬間。
「ッ……ナ、ゼ、ワタ、シガ……」
 とぎれとぎれの最期の声は、獣化してから初めて聞こえた言葉らしきものだった。
 繰り返される、とどめの攻撃に――憐れな黄泉がえりのドラグナーは、静かに崩れ落ちたのだった。

●そして、再びの鎮魂を
 敵の姿が消えると、感応寺山は再び静寂に包まれた。
 しんと冷えた空気を感じて、やっと戦いが終わったのだとギヨチネが膝をつく。屈強な腕も力入らず、彼はハンマーを地へ落とす。
 そして、ギヨチネは瞳閉じて、静かに祈りを捧げた。憐れな敵へ、信じる神へ、そして天上に迎えられた亡き家族や仲間達へ――。
 二度目の戦闘を終えても、彼の心に復讐を果たしたという考えはなかった。ただ、これで結ばれた因縁から解き放たれたのだという安堵だけが胸にあって。故人が安らぎを得られるようにと、願う彼を見た仲間達も続けて鎮魂を祈る。
「いつか、こんなことをしている死神を止められればいいなあ」
 ぽつり呟いたカノンの言葉には、いくつも頷きが返る。死者を蘇らせ、手駒にする死神の行為。それを元から止めることができれば、きっと悲劇は抑えられる。
 ふと釧は、戦闘の熱冷めた瞳で山頂を見つめた。夜闇の中、そびえ立つ感応寺は荘厳で、静かな存在感を持っていて。戦いを見守ってくれたその寺は、彼らの願いも聞き届けてくれるに違いなかった。

作者:真魚 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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