閑散とした一軒の文房具店のカウベルは鳴らない。
小さな店の中の棚には色とりどりの便箋、大きさも様々な封筒、書き味も滑らかなペン、封をするためのシール。
どれも所狭しと丁寧に並べられている、けれど。
触れられた形跡はほとんどない。
「――どうして、この気持ちは届かないの?」
店内の奥の隅に据えられたレジカウンターに座った女性は、がっくりと項垂れたまま、まだ消印のない封筒を持つ手に力を込めた。
SNSなんて、メールなんて、電話なんて、生ぬるい。
自らの言葉と、そして何より……手書きの文字で綴られたラブレターこそ想いを伝えるには一番のはずだ。
恋するお手紙をコーディネイト。
インク色も、便箋も、封筒も、シールも、全てあなたに合ったものを選びます。
「それには、内容が、気持ちが一番大事なのに……っ! ラブレターを書きたいお客様も、お相手の方のことももっともっと知って、それで私が」
表のカフェ看板には『下書きのラブレターをお持ち下さい!』の文字。
「そうよ、伝えるわ。絶対に……絶対に伝えるはず、だったのに」
閑古鳥の鳴く店は、閉店を余儀なくされていた。
そこへ、コツン、と響くヒールの音。
「あなたの『後悔』、奪わせてもらいましょう」
女性が顔を上げると、そこには長い桃色の髪を揺らした女が立っていた。
「な、に?」
彼女の問いに答えることはなく、手にした大きな鍵でその心臓を一突きにする。どさりと崩れゆく彼女を見下ろして、女――第十の魔女・ゲリュオンは言い放つ。
「私のモザイクは晴れることはありませんが」
立ち去るゲリュオンの背後で、ペンを手にしたドリームイーターが姿を現す。その胸に、モザイクを抱いて。
「そんなラブレター専門店があったんですよー♪」
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)は弾むような楽しげな口調でそう告げた。
「ラブレターを赤の他人に読まれるなんて地獄ね」
詩・こばと(ミントなヘリオライダー・en0087)が呆れたように肩を竦めるのに、ピリカは、のんのん、とばかりに人差し指を左右に振って見せる。
「のろけ話、し放題じゃないですか! らぶは大事です!」
パチン、とウインクして見せると、ボクスドラゴンのプリムが嬉しそうに応えて鳴く。
今どき、ラブレターという手段を選ぶ人はそもそも少なく、お店では根掘り葉掘りプライベートなことを聞かれるので、潰れてしまったのは仕方ない……のかもしれないけれど。
店の主の店を潰してしまった『後悔』がドリームイーターに奪われ、その『後悔』を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こしているらしい。
「そのドリームイーターを皆には倒してきて欲しいの」
それも、ドリームイーターによる被害が出るよりも前に。
ドリームイーターを無事に倒すことができれば、『後悔』を奪われてしまった店の店主も無事に目を覚ますことだろう。
「お店に行ってくればいいんですねっ!」
ピリカが賑やかな声で言うのに、こばとは頷く。
ドリームイーターの力で営業を再開している店舗を訪れて欲しい。現れるドリームイーターはインク瓶の中身をぶちまけたり、一筆箋を飛ばしてきたり、ペンで宙に愛の言葉を描き出したりしてくるらしい。
「そのまま戦ってもいいんだけど、サービスを受けてあげると、……弱体化させることができるみたいね」
「つまり、ラブレターを読んで貰うと!」
楽しそうなピリカにくすりと笑み、「それでもいいけど」とこばとは前置いて、付け加える。
大好きな人ののろけ話をしたり、大切な誰かを想って封筒や便箋を選んだり、心を込めてお店の中でラブレターを書いたり。
そんな風にお店を楽しめば、ドリームイーターは満足するだろう。ドリームイーターが満足すれば、意識を取り戻した被害者も前向きな気持ちになることができるようだ。
一石二鳥である。
「なかなか楽しそうですねぇ」
ピリカはころころと笑って、近くを飛んでいたプリムをふわりと抱き締めた。
「誰かを幸せにしたいって気持ちは、ホンモノだったんだと思うわ」
こばとの言葉に、うんうんとうなずくピリカ。
伝えた想いが、必ず叶うとは限らないけれど――まずは始めなくては、伝えることから。
参加者 | |
---|---|
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031) |
エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330) |
アマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993) |
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106) |
天羽・舞音(アーマードケルベロス・e09469) |
フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368) |
アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974) |
柊崎・胡桃(くるみみっくす・e30419) |
●
カラン、カララン……♪
鳴らないはずのカウベルの、軽やかな音。
「こんちはーーっ!!」
元気いっぱいの声はピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)。わいわいがやがや、楽しげな声を響かせながら入ってくる客の姿に一人の影がパッと顔を上げた。
シンプルな白地に、筆記体の流れるような文字がプリントされたエプロン、後ろで括った黒髪を跳ねさせて笑顔を見せる店長(ドリームイーター)。
「いらっしゃいませ!」
店内に並べられているのは全て、ラブレターを書くために揃えられた、紙に、ペン。
キラキラ瞳を輝かせるピリカに、お店の中をきょろきょろ見回しながら、瞳を瞬かせる柊崎・胡桃(くるみみっくす・e30419)。
「ろまんちっくで素敵さんです……!」
「そうでしょう? お相手はどんな方ですか? 年齢は、職業は、趣味は、どんなふうに出会って、どんな風に恋されたんですか? 一目惚れですか? 癖はどんなで……」
矢継ぎ早のドリームイーターの質問に思わずケルベロスたちはきょとん。
「あっええと、憧れのお姉さまへのお手紙を書きたいさんです……あたしの、初恋なんです。どうか手伝って頂けませんか?」
胡桃の声に、とりあえずドリームイーターが彼女をカウンセリング席へ案内したので、ケルベロスたちは思い思いにお店を楽しむことにする。
「どんな方なの、お姉さまって」
わくわく。席を勧めながら楽しそうな店長(ドリームイーター)に、ちょっとだけ申し訳なくなりながら、胡桃は切り出す。
「その、お姉さまは遠い親戚の方で」
もじもじ。ちょっとだけ、言い難い。
「今は遠くに引っ越してしまいました……お空の上に」
声を小さくした胡桃に合わせたトーンで、店長が眉根を寄せる。
「……そうなの」
「……ちょっと普通のラブレターとは違ってしまっているでしょうか?」
「でも、素敵な方なんでしょう?」
大切な気持ちを送りたいほどに。
――その気持ちは、覆せない。
「違っていたっていいじゃない、きっと届くわ」
にっこり笑ったドリームイーターに、胡桃もパッと顔を輝かせる。
「便箋は空色にしたいんです」
明るくて優しかったお姉さまを思い出す色。
「じゃあ、便箋から選びましょっか、もっと聞かせてお姉さまのこと、いろいろ」
「はいっ」
「あ、この便箋凄く素敵ですね、綺麗な空色……」
さっそく、とエイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)は便箋の棚に釘付けになっていた。
淡い空色に、雲が浮かぶ便箋。
手に取れば、既にどんな言葉を綴ろうかと頭を巡る。
「ラブレター、決して悪手じゃないのよね」
実際に自分がラブレターを書くなら、どんな品を使うだろう?
店内の文房具を矯めつ眇めつしながら、フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)はふーむ、と人差し指を頬に当てて肩を竦める。
「SNSやメールって、赤の他人がなんで知ってるんだ!って引かれる事もあるし……」
電話や直接話すのもいいけれど、緊張して呂律も回らなくて、何を言ったかも覚えていない、なんていうのも――あんまりだし。
「手紙を書く時間は全て相手のもの、ですからね」
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が目を細めて、頷く。
手紙は好きだ。
筆に想いを載せ、綴る時間。
返信が来るまで待つ時間。
何より想い寄せる方からの返事を読む時間。
全てが愛おしい。
「そうだ、封筒を飾る紐やリボンはあるかな?」
いつも使うのとはちょっと趣が違うものを選びたい、と店内を見回す泉。
「あの人が喜びそうな、可愛らしい便箋はあるでしょうか」
天羽・舞音(アーマードケルベロス・e09469)ふむぅ、と唸りつつ便箋の棚にご執心。
こんな機会はなかなかないから、よく考えて選びたい。
「えっと……」
それは、アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)もおんなじ。
いつも仲良くしてくれるあの人には、あの便箋がいいかな?
大好きなあの人には、その便箋が素敵かな?
大切なあの人にはどの便箋が――。
「ティナ、どうしよう」
「にゃ」
想いが溢れすぎて、ひとつを選ぶのにも時間が掛かる。
「これなんかどう?」
覗き込んだ泉が選んだのは、アーニャの髪のように少し煌めく星色の便箋。
「わぁ、すてきです。ね、ティナ」
泉に問われて、アーニャは少し照れたように笑って、こくりと頷いた。
アーニャの腕の中にすっぽり収まっていたティナが、ぱたぱたと羽を羽ばたかせて「にゃー」と鳴く。
選んだ便箋に想いを綴れば、カンペキだ。
「どんな内容で渡すの?」
「えっ……感謝状! 的な!?」
うんうんと唸って便箋1枚に相当な時間をかけていたアマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993) は、不意に声を掛けられて飛び上がらんばかりに驚いた。
「感謝状?」
顔を覗き込んでくる店長。
顔をそんなに真っ赤にして渡す感謝状ってあるだろうか。
「ほら、愛はいーっぱいあるから、ある意味らぶれたー……という事でっ!」
●
店の隅、通りに面した硝子窓の脇のティーテーブルで、ふぅん、とアマルガムはため息をついた。ここなら皆にも見えない。たぶん。
選んでもらった便箋とにらめっこ。
『小さい頃から、いつもそばにいてくれてありがとう。おかげで嬉しさや楽しさは倍、悲しみや辛さは半分になったよっ! これからもよろしくね』
その先を、書くのを躊躇う。
片想いの彼女に、好きな人がいるのは知っているから。
溢れている、ほんの簡単な言葉。
けれどそこに強く強く想いを込めれば……意味は少しずつ違ってくる気がして。
――だいすきだよ。
そして、名前で締め括る。
(「う、改めて書いてみると恥ずかしい……!?」)
もだもだと突っ伏すことになる。
「誰に書いてるの?」
店長に不意に覗き込まれて、エイダは慌てて顔を上げた。
過度な装飾はなく、すっきりとしていて文字がハッキリと見えやすい。エイダが選んだ便箋は淡い色合いが優しくて、それでいて可愛らしさは失っていない――可愛すぎる物を敬遠しがちな殿方には最適と思われるチョイスだ。
「えっひ、秘密です」
だって恥ずかしい。
「可愛い、いいわね」
わたわたと頬を赤くするエイダに、便箋や封筒を選び終え、すっかりティータイムモードのフォトナの穏やかな声が飛ぶ。
さすが大人の余裕!
――でも実は、肝心な時に押しが弱いのはナイショです。
「綺麗な字ね」
そんなエイダに、にっこり微笑む店長さん。
「大事に書いたんだもの、きっと喜んでくれるわ」
「そうですね」
その言葉に、大切に選んだ便箋に、悩みながら指先を滑らせていた舞音が頷く。
……自分のは『恋』と言うのだろうか。
そう、届けたい素直な言葉を、綴ればいいのだから。
テーブルに腰を落ち着けて、アーニャはお手紙執筆に勤しんでいた。
好きな人、大事にしてくれる人、感謝と好きとを文字にして。
可愛らしい笑顔溢れるイラストでいっぱいにしたい。
ちょっとのドキドキにソワソワしながら書き進める。
「にゃ?」
アーニャの頭の上からティナが不思議そうにその様子を覗き込んで首を傾げた。
「それは私なの?」とでも言いたげだ。
ときめく気持ちをいっぱいいっぱい、詰め込んで。
その向かい側ではピリカが鼻歌交じりに楽しげに手紙を書いている。
「だ・い・す・き♪ ……っと!」
まんまるの可愛い文字にたっぷり想いを込めて、うさぎのイラストがちょこんとおすまし。
「読んで貰うの?」
その様子を(中身を見ない程度に)ひょい、と覗き込んで泉が尋ねる。
「もちろんですっ店長さーん、見て見てー!」
封をする前の手紙を手にとたた、と駆けて行ったプリムは彼女の座っているテーブルに前のめりに寄り掛かる勢いで手紙を見せびらかす。
「私のらぶぱわー、どうですかっ!?」
加速するのろけ話の嵐。
「帰って渡したら、真っ赤になって恥ずかしがりながら、嬉しがるんだろうなぁー……今夜がたのしみですよう、にへへっ♪」
「皆本当に、すてき。きっと届くはずだわ!」
目を細めて手紙を読む店長さんも、なんかテンション上がっている。
ポジティブで、背中を押してくれる声。それは、もしもダメだったときに刃に代わってしまうのではないかと思うくらい本当に、勇気をくれる声で。
「その夢、頂きましょう」
不意に低い声。その眼は、ケルベロスたちを真っ直ぐに見据えていた。
――そう。
君はドリームイーターだから。
●
「誰かの夢をこれ以上、食べさせる訳にはいかないんだよ」
ごめんね、それとも――ありがとう?
最初に動いたのは、アマルガム。
こんな機会がなければきっと、手紙を書くだなんて、想いを伝えるだなんて――怖くて考えもしなかったかもしれない。
だから、やっぱり「ありがとう」だ。
自らの拳に、音を乗せた一撃……哀しい鐘の音が、響く。
「どっかーん!」
ピリカの勢いのいい発生と共に、ブレイブマインが仲間たちを鼓舞する。
ウインクして見せれば、きゅう、とプリムが鳴く。
「雷壁展開……さあ、ガンガン護るわよ!」
キラキラと輝くライトニングウォールを纏わせながら告げる、フォトナの明るい声がチカラをくれる。安心できる。
だから、大丈夫。
「神妙にしていろ…!」
普段の柔らかな舞音の声音からは想像できない低い声が告げた。
こちらを狙え、仲間たちを、傷付けさせたりはしない。その決意を込めて。
ただ激しく、蒼い炎を纏った薙刀が、ドリームイーターに襲い掛かる。
「――ッ!」
インクのボールが飛ぶ。
「きゃあっ」
「クッ」
狙われたエイダの前に身を躍らせた舞音が、刃を食い縛ってその攻撃を受け止める。
インクが激しく飛び散るのに、棚を背にするように立っていた泉が顔を顰めた。
全てを遮るのは難しい。
並べられた文房具たち。それは、店長さんが数多の恋人たちの幸せを思った気持ちの塊だ。――だから、
「例え後悔でも、これは尊いもの」
庇いきれなかった便箋に飛んだインクを指先でなぞって、泉はドリームイーターを見た。
「貴方もそう思いません?」
だから、できるなら壊れないでほしい。ヒールで直るから、だけでなく。
返す刀、とばかりに泉が指先を振るう。
「ヒトツメ、行きますよ?」
制御できる自信はない。けれど、しなければならない。お店を壊さないために。
より早く、より重く、より正確に。
狙い打つ。ドリームイーターを真っ直ぐに。
「援護しますさんです!」
「さあ、一気呵成に攻めるわよ!」
重ねられる胡桃のライトニングロッドから打ち出される光の弾は、淡く輝き――その姿はまるで蛍のよう。儚げな輝きは、けれど確実に敵を食らう。
フォトナの大きな雷撃が、容赦なく敵を襲う。
その光景を真っ直ぐに見据え、すぅ、とエイダが息を吸った。
目の合った舞音が、「行け」と言うように頷いた。
「さぁ踊りましょう、蝶のように」
エイダの伸べる指に誘われるように、無数の赤い蝶々が踊るように飛び回るひらり、ふわり、ドリームイーターの周りに集まって、集まって群れていく。
それは、虫たちの競演ようにキラキラ輝いて美しく。
「これで……どうです!!」
高く優しい声が、気合を込めた一声と共に駆けたのは、アーニャ。
煌めく月の煌めきを纏った一撃が――ドリームイーターの身体を貫く。
そして。
ほんの一瞬の間の後、空気に溶けるように消える。
――そこには、ドリームイーターの姿はなかった。
●
「大丈夫ですか?」
エイダがカウンターの奥を覗き込めば、そこでは寝息を立てている女性の姿。
エプロンの彼女が身じろいだので、ホッと胸を撫で下ろして彼女を揺り起こす。
「お店も無事なようですし、良かったです」
店内にヒールを掛ける胡桃に、もうすっかり戦闘モードを解除した舞音が頷いて。
「落ち着くわよ」
テーブルに腰掛けさせた店長――彬の顔を覗き込み、フォトナが、カップを差し出す。
湯気の立つ紅茶はそっと、心を落ち着けてくれる香り。
「ありがとう」
「思うんだけど……想いを伝える手紙って、想いを伝えたい本人が悩んで書かないと意味無いんじゃないかしら?」
向かいに腰を下ろし、彼女が落ち着いたのを見計らって、フォトナは言葉を選んでゆっくりと告げる。
「貴方がチョイスした言葉は幾ら優れていても、その人の言葉じゃないんだから」
「あたしは、このお店とっても素敵だと思いましたさんです」
少し困ったような彬に、助け舟を出した胡桃が、ふわと笑う。
プラスアルファのパワーはきっと、無駄なんかじゃないはずだ。
「良ければ便箋をいくつか、見繕ってもらいたいのですが」
泉が軽く首を傾げて見せるのに、店主――彬はもちろん、と立ち上がった。
どんな人に贈りたいか……彼女の言葉はドリームイーターのそれよりも柔らかく、泉からヒントを聞き出していく。
「……あっ、そうだピリカちゃん」
つい、と袖を摘まんだアーニャの声に、ピリカは振り返る。
「なーに?」
「はい」
アーニャの差し出したのは可愛いオレンジ色の封筒。
「わっありがと! わたしも書いたよ、アーニャちゃんっ」
カスタード色の封筒をお返し、とばかりに渡すプリム。
二人は同時に封筒の封を切って読んでから――目を見合わせた。
『いつもありがとう、大好きだよ。』
手紙に詰め込まれた想いはおんなじで、二人は思わず顔を見合わせてはにかむ。
そんなピリカの髪をプリムが、アーニャの髪をティナが、つい、と引っ張った。
「あっ! ちゃーんとプリムにもあるよっ!」
「ティナにも、あるよ」
賑やかにお手紙交換をする少女たち。
その姿は本当にただただ幸せで、嬉しくて、だから。
「うん、素敵ですね……これだけでも十分、人を幸せにできていますよ?」
その様子を見守りながら、彬から手渡された便箋に笑む泉。
「私の一途な想いも通じるはずです!」
書き上げた手紙に、エイダは満足げに笑みを浮かべている。
だって、一文字一文字大切に綴った手紙だ。
王子様にだって、きっと届くはずだ。
……まだ見ぬ、というところは内緒だけれども。
「届くといいな」
空色の封筒。お姉さまを想って、大切に選んで、綴った手紙。
封筒を抱き締めて、胡桃はそっと頷く。
「俺も、手紙渡しに行かないと、ね」
アマルガムも呟くように囁いてから、窓からの陽に自分の書いた手紙を透かして、目を細めた。封をした封筒の中身はもう――自分と、彼女だけのもの。
「一歩ずつ踏み出すよ」
アマルガムは照れたように彬に微笑み掛けた。
言われた彬はきょとん、と瞳を瞬いてから緩く、笑み返す。
この店が、誰かの背中を押すことが出来たのなら――きっと無駄じゃない。
誰しもの幸せを願ったその優しい想いが、いつか報われますように――。
そして、いつかその手紙の封が切られるときに、幸せが芽吹きますように。
作者:古伽寧々子 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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