轆轤忍法帖

作者:紫村雪乃


 闇の異様なものが羽ばたいた。
 蝶だ。薄く光っている。
 その光に、ぼうっと人影がうかびあがった。
 奇術師の姿をした女。顔は螺旋模様の仮面で隠されている。しかし露出している部分だけでも美女であることは推測された。
 女の名はミス・バタフライ。螺旋忍軍の一忍であった。
「……いますか」
 バタフライが口を開いた。ひやりとする冷たい声音だ。すると闇に平伏する二つの影が滲んだ。
「ギルティー、ここに」
「カロン、おりまする」
 二つの影がこたえた。一人は道化師のものに似た身なりをしている。もう一人の身なりはサーカス団員のそれだ。
「よく来てくれたわね」
 慰撫するようにバタフライは微笑った。
「あなた達に使命を与えます。葛西蘭堂。この街に住まう陶芸家です。その人間と接触しなさい。ひして、その仕事内容を確認し、可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「了解しました。ミス・バタフライ」
 ギルティーと名乗った螺旋忍者がこたえた。何の疑問も抱いていないようだ。
「一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう」
 カロンの口から含み笑うような声がもれた。


「ミス・バタフライという螺旋忍軍が動き出したようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がいった。
「ミス・バタフライが起こそうとしている事件は直接的には大した事はありませんが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという厄介な事件。今回のターゲットは葛西蘭堂さんです」
「葛西蘭堂?」
 一人のケルベロスが首を傾げた。太陽の煌きを瞳にやどした少女で、名を上里・もも(遍く照らせ・e08616)という。
「はい。陶芸家です。螺旋忍軍は彼のもとに現れ、その仕事の情報を得たり、或いは、習得した後に殺そうとするのです」
 セリカは告げた。
 この事件を阻止しないと、まるで風が吹けば桶屋が儲かるかのようにケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性が高い。勿論、それがなくてもデウスエクスに殺される一般人を見逃すことは出来ないだろう。
「皆さんには一般人の保護、それとミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破をお願いします」
 敵との接触方法は、とセリカは続けた。
「狙われる一般人を警護して現れた螺旋忍軍と戦う事になります。しかし事前に説明して避難させてしまった場合、敵が別の対象を狙うなどしてしまう為、被害を防ぐことができなくなります」
 が、方法はある。今回は事件の三日くらい前から対象の一般人に接触する事ができるのだ。つまりは待ち受けることが可能なのである。さらに事情を話すなどして仕事を教えてもらうことができれば、螺旋忍軍の狙いをケルベロスたちに変えさせることができるかもしれなかった。
「自分達が囮になるためには、見習い程度の力量になる必要はあるので、かなり頑張って修行する必要があるかもしれませんね。もし囮になることに成功した場合、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始める事が可能となるでしょう」
 セリカはケルベロスたちを見回した。信頼の光を秘めた瞳で。
「バタフライエフェクトという言葉は聞いたことがあります。しかし、最初の蝶の羽ばたきさえ止めれば問題はありません。皆さんを信じています」


参加者
樫木・正彦(は牡羊座の騎士になるようです・e00916)
源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
トート・ミスティ(サキュバスの鹵獲術士・e26692)
ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)
イ・ド(リヴォルター・e33381)

■リプレイ


「こんにちわー!」
 大きな声が響いた。振り向いた初老の男は、入口で佇む男女の姿を見出した。
 髪の毛がぼさぼさの太った若者、大きな金色の瞳と派手な顔立ちが特徴的な美少女、深い森の静けさを身にまとった少年、太陽の光と暖かさをにじませているような可愛らしい少女、夜が結実したような印象の若者、繊細という言葉が良く似合う女と見紛うばかりの美少年、中世ヨーロッパ風の漆黒のドレスをまとった秀麗な娘、精悍な風貌ではあるが、鋭く冷たい目をしている青年。八人の若者たちだ。
「なんだね、君たちは?」
 電動轆轤をとめると、男が問うた。
「ケルベロスだ」
 しんとした静けさを身にまとわせた少年がこたえた。名を樒・レン(夜鳴鶯・e05621)という。
 男は眉をひそめた。
「そのケルベロスが私に何の用だね?」
「葛西蘭堂。貴方は狙われている」
「私が?」
 男――葛西蘭堂は戸惑ったように笑った。
「私が狙われているとはどういうことかね?」
「それは――」
 ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)と名乗ると、秀麗な娘が目を閉じたまま口を開いた。どこか仄昏い神秘性をおびた娘だ。
 ヨルは説明した。彼がデウスエクスたる螺旋忍軍の忍者に狙われている事実を。
「ほう」
 この場合、むしろ蘭堂は笑った。
「面白い。一度デウスエクスとやらをこの目で見てみたかったんだ」
「笑い事ではありません」
 やや呆れたように、しかし声音は冷たく、男はいった。夜が結実した印象の若者だ。名を西院・織櫻(櫻鬼・e18663)という。
「下手をすれば殺されてしまうのですよ」
「非合理的だ」
 冷たい目の青年が独語した。
 イ・ド(リヴォルター・e33381)。レプリカントであった。
 機械と肉体が融合している彼らレプリカントの思考は時として論理性を偏重する。イの場合もそうだ。
「まあ、いい」
 蘭堂はいった。任せると。が、さすがにヨルが申し出た巣作りなる作業については断った。それができるほどの広さはここには、ない。
「では、修行させていただきたいですお」
 太った若者がいった。
「それはかまわんが」
 ニッと蘭堂は笑った。
「私のところの修行はかなりしんどいぞ」
「の、望むところですお」
 ややビビりながら、それでも真摯な瞳で、若者――樫木・正彦(は牡羊座の騎士になるようです・e00916)はうなずいた。

「源」
 声がかかった。ちらりと振り向いたのは、工房を観察していた大きな金色の瞳の少女だ。名を源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)という。
「ああ。トート・ミスティ(サキュバスの鹵獲術士・e26692)さんですか。何か?」
「何かじゃねえよ」
 声の主は美少女と見紛う少年であった。気だるげに辺りを見回すと、
「随分と熱心じゃねえか。何か面白いものでもあんのかよ」
「別に」
 那岐は首を横に振った。すると頭の横でまとめた煌く銀髪がさらりと揺れた。
「ただ戦場を確かめていただけです」
「ご立派なこった」
 興味をなくしたか、美少年――トートは欠伸を噛み殺した。


「特に力を入れて作りたいのは小皿。醤油やソースを入れるようなやつ!」
 太陽の光をやどしたような可愛らしい少女が瞳を輝かせた。上里・もも(遍く照らせ・e08616)である。
 すると蘭堂は微笑み、電動轆轤の前にももを導いた。それから轆轤に土をおく。
「これは信楽赤土といってな。初心者でも扱いやすい」
 蘭堂は電動轆轤を回転させた。水で手を濡らし、整形を始める。
「ほう」
 織櫻が感嘆の声をもらした。土塊が、命を得たようにある形をとっている。
 織櫻は土に触れた。ほんのわずかな指の動きで土の形が変わる。その繊細さは刃を繰る技に通じると織櫻は感じていた。
「なかなかに筋がいい」
 蘭堂が織櫻の手に目をむけた。
「君は初心者ではないようだな。が、今のままでは伸びん」
「伸びない?」
 織櫻は真剣な眼差しをむけた。
「では、どうすれば?」
「心を動かすのだ。心を伴わぬ技には限界がある。まずは土と戯れるんだ。あのように、な」
 蘭堂がちらりと目をむけた。その視線の先、ももの楽しそうな姿がある。
「どうどう? これ、ハニワ!」
 頬に土をつけたももが嬉しそうに笑った。見ているこちらの方まで笑みがこぼれそうになるほどの眩い笑みだ。
「ももは皿をつくっていたのではないのかお?」
 正彦が戸惑ったようにももの手元を見た。それから自分の手元を見て、ため息を零した。何だか奇妙なものができあがりつつある。
「失敗だお」
「失敗ではない。それは個性というものだ」
 蘭堂がいった。ふうむ、と唸ったのは那岐である。
 彼女は霊地である森を守護して来た一族の次期族長であった。そのためか生活に必要なものはすべて手作りしてきた。あまり楽しんだ覚えはないが。
「個性……。戯れるか」
 何だか楽しくなってきた。これが陶芸というものか。
「……なるほど」
 レンにも蘭堂のいわんとすることが理解できた。
 土や火と対話し、そして心を写しだし器を形作る。それは自然の螺旋の力を感じ、己のそれと共鳴させてより大きな螺旋を呼んで術と為す忍びの業と相通じるものであった。

「なかなか」
 蘭堂は面白そうに笑った。
 彼の眼前。二人の女が土を触っている。ヨルとイだ。対照的な様子で土と対していた。
「土を捏ねるも、楽しいもので御座いますね」
 蘭堂に気づき、ヨルは微笑んだ。黙々と何かをつくるという行いは魔女にとっては向いているのかもしれない。
 一方のイは怒りをぶつけているかのように荒っぽく土を触っていた。いや、実際に彼は苛立っていた。陶芸という行為に対して。
 ネットを検索、イは作業内容をすべて頭に入れていた。あとは実行に移すだけであるのだが――何と非合理的な過程であることか。
 作戦の目的は敵の撃破である。戦闘に関係のない行動は無駄であった。
「それもまた戦闘だぜ」
 イの耳元でトートが囁いた。ふふんと笑うと、床にちらばった土を片付ける。
 陶芸には興味はないし、またどうしてよいのかもわからない。それなら他者のために少しは力になりたい。そう考えるトートであった。
 そして――。
 三日が過ぎた時、彼らは現れた。


 陶芸を習いたい。
 そう申し出たのは二人の男であった。一人は痩せており、一人はがっしりしている。一見したところ、普通の陶芸家志望者としか見えなかった。
 が、レンと織櫻にはわかった。彼らが螺旋忍軍であると。
 ちらり目配せすると、レンと織櫻が轆轤の前で立ち上がった。そしてレンは二人のもとに。織櫻は蘭堂のものとに歩み寄った。
「奴らが来ました。表へ」
 織櫻が蘭堂の耳元で囁いた。同じ時、レンは二人の男に声をかけけている。
「まずは土選びだ」
「土選び」
 二人の男の視線が一瞬蘭堂に流れた。針のような鋭い視線だ。が、すぐに二人は穏やかに笑ってみせた。
「わかりました」
「では、裏へ」
 レンが歩き出した。後に二人の男が続く。
 裏は広い庭となっていた。隅に窯がある。
「……土はどこに?」
「それは」
 振り向きかけたレンの胸に手裏剣が突き刺さった。
「なっ」
 がくりレンは膝を折った。その口からは鮮血がたらたらと滴り落ちている。
「何の真似だ?」
「とは、こちらの台詞だ」
 痩せた男――ギルティーがいった。そして、ちらりと背後を見やる。
 そこに、いた。七人のケルベロスたちが。
「ただならぬ殺気を放つ奴ら。うぬら、何者だ?」
「ケルベロスです」
 凄絶の殺気の主がこたえた。織櫻である。
「ケルベロス?」
 ふふんとがっしりした体躯の男――カロンが笑った。
「それであの殺気か。なるほど」
「得心していただけましたか。では、観念していただきます。決して逃がしはいたしません」
 瞑目したままヨルが告げた。するとトートが叫んだ。換装、と。
 次の瞬間、トートの全身をおおう衣服が変化した。戦闘特化されたドレスへと。原子レベルで組み替えられたのである。
「逃げさぬだと?」
 ギルティーが口の端を吊り上げた。
「馬鹿め。逃げるものかよ」
 ミス・バタフライの命は絶対だ。果さぬ以上、彼らに未来はなかった。
「まずはうぬらを始末し、その後蘭堂から業を盗む。殺すのは、その後だ」
 ギルティーが叫んだ。
 刹那である。空に呪が流れた。同時にトートの眼前に明滅する魔法陣が展開。虚数空間から汲み出された魔力が結実し、光となって疾った。
 すると二人の螺旋忍者は同時に跳んだ。魔法光は空しくギルティーのいた空間を流れすぎている。
 地に降り立った時、二人の男は螺旋忍者たる本性をあらわにしていた。一人は道化師、一人はサーカス団員を思わせる衣服をまとっている。共通しているのは顔につけている螺旋模様の仮面であった。


 地に降り立つなり、サーカス団員の衣装をまとった螺旋忍者――カロンの手が視認不可能な速度で動いた。きらっと光った光流がひとつ。
 それは空で分裂した。必殺の意志を秘めた刃の雨となってケルベロスの頭上に降り注ぐ。
 咄嗟にケルベロスたちは跳んだ。が、刃の雨を逃れることは不可能だ。
 銀色の驟雨が降りしぶいた。ケルベロスたちの身はズタズタに切り裂かれている。いや――。
 二人、かすり傷の者がいた。ももとヨルだ。
 その二人の眼前。微笑みながらオルトロスとウイングキャットが消滅していく。彼らの名はスサノオとケリドウェン。ももとヨルのサーヴァントであり、二人を庇ったのだった。
「やったな!」
 ももの瞳に憤怒の炎が燃え上がった。
 次の間、飛燕と化してももが跳んだ。擦過熱で赤熱化した脚が炎を尾をひく。とてつもない重力を秘めた蹴りを、ギルティーめがけてももは放った。
「何のっ」
 ギルティーは腕を交差させ、ブロックした。ももの蹴りが肉にくい込む。衝撃に、ギルティーの足元の地が陥没した。ももの足は確かに骨が砕ける感触をとらえている。
「やった。あ――」
 ももの顔色が変わった。いつの間にかギルティーの指がももの足に触れていたからだ。
 螺旋力の凝縮、暴発。それをギルティーは一瞬でこなした。
 ももの足が爆ぜた。筋肉のみならず、骨まだ粉砕されている。
 同じ時、ヨルは魔術を行使していた。
 トリガーとなる呪文詠唱とともに発動座標軸固定。魔法光を放つ。
 反射的にカロンは横に跳んだ。その半身を光が撃ち抜く。
「くっ」
 カロンは呻いた。半身が石化している。
 が、かまわず残る右手からカロンは手裏剣を放った。空間を切り裂きながら疾ったそれは、しかし空ではじかれた。飛来した光弾によって。
「私は外しませんから」
 バスターライフルを構えた姿勢のまま那岐がいった。同じくバスターライフルをかまえたイはギルティーをポイント。撃つ。
 この場合、むしろギルティーは前に出た。跳ぶ。
 バスターライフルから放たれた冷たい蒼光はギルティーをとらえた。彼が突き出した腕を。
 腕を凍結させたギルティーの笑みがイに迫った。咄嗟にイが跳び退る。が、間に合わない。
 ギルティーの手がイの胸に――いや、別の胸に触れた。正彦だ。
 正彦がニヤリと笑んだ時、彼の胸が爆裂。そうとしか思えぬ破壊の様相であった。胸から血と肉片をばらまき、正彦が吹き飛んだ。


「木遁。臨ッ」
 レンが印を結んだ。すると木の葉が渦を巻いた。正彦を包み込む。
 旋風は木気が込められたものであった。地と風の二大精霊力が正彦の肉体を分子レベルで修復していく。
「ならば、癒せぬほどの痛みをくれてやる」
 カロンの手が再び動いた。空に放たれた手裏剣が分裂、流星のような光をはねながらケルベロスたちに降り注いだ。
「これは避けられまい」
「避けられぬのなら」
 血まみれになりながら、あえて織櫻を地を疾駆した。瞬く間に接近。その勢いを利用し、彼は神速の突きを放った。
「ぬうっ」
 カロンは呻いた。胸を貫いた織櫻の刃は彼の背から切っ先をのぞかせている。からみついていた紫電が放電された。
「ぐふっ」
 口から鮮血を噴きつつ、カロンは後ろに跳んだ。その頭上、小柄の影がひらりと舞っている。その手にあるのは、影の身と同じ程の巨大な斧だ。
「悪いな、今度は撃破させて貰うぜ」
 ルーンをおびて輝く巨斧を、影――トートは軽々と、しかし渾身の力を込めて振り下ろした。カロンの頭蓋がぐしゃりと潰れる。
 しかし、それでもまだカロンは生きていた。その手から放たれた白光がトートの武装を砕き、さらにはその肉体をも貫いた。
「その執念には感服しますお。けど、しつこそマチャヒコも負けないですお」
 すでに間合いに入っていた正彦の手に異様なものがあった。氷の壺だ。神話の美少年のように壺を捧げ持つと、正彦はカロンに叩きつけた。
 舞い散る氷片。それが赤く染まった時、カロンがもはや動くことはなかった。


「カロン!」
 叫ぶギルティーは地を蹴った。一気に十数メートルの虚空へと舞い上がる。
「逃がさないよ」
 ももは超鋼金属製の巨大ハンマー――ドラゴニックハンマーをかまえた。形態は砲撃だ。
 撃ち出された破壊の権化たる竜砲弾が爆裂した。空間そのものを打ちのめした巨大な熱量に巻き込まれ、ギルティーは地に落下。それでも受身をとったのはさすがであった。
「逃がさないといったはずです」
 那岐の身から黒い粘塊が飛んだ。それは空で巨大な顎に変化。ギルティーを飲み込んだ。いや――。
 顎が爆裂した。ギルティー得意の業である。
 刹那、怒涛のような破壊の嵐が吹いた。ばらまかれたガトリングガンの弾丸だ。
 ヨルが告げた。
「手裏剣の雨のお返しでございますわ」
「くっ」
 咄嗟にギルティーは腕を組んで身を守った。彼の魔性の肉体はミサイルの一撃すら通用しない。
 が、弾丸は対デウスエクス用に調整された特別のものであった。着弾の衝撃にギルティーの肉体が削れ、揺れる。
「とどめだ」
 バスターライフルのトリガーにイは指をかけた。すでにもてる全てのグラビティは充填済みだ。
 イはトリガーをしぼった。噴火エネルギーに匹敵する破壊のそれが迸り出る。
「ぐおっ」
 イはのけぞった。圧倒的破壊力の放出は彼自身にも無視できぬ損傷を与えていたのだ。
 光の奔流が流れすぎた後、肉体を半壊させたギルティーが佇んでいた。のみならず、彼の足は跳躍に備え、曲がりつつあった。
「まだ……まだだ」
「いや」
 レンの手がギルティーに触れた。
「螺旋掌なら負けぬつもりだ」
 ギルティーの胸が爆散した。

 戻ってきた静けさの中、レンは瞑目した。
 戦いは終結。もう、ここには用はなかった。いや、正彦はそうではないらしい。
「この壺を買えば貴方もろくろの螺旋が身に付きますお!」
 壺を片手に、正彦がレンの顔を覗き込んだ。
「い、いや、俺は――」
「それよりも私のハニワの方がおすすめだよ」
 ももが正彦に顔を突きつけた。
「違う。おすすめは俺の――」
 自己修復を果たしたイがよろめきながら工房にむかった。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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