どうなってしまうの? 北から迫るあぶないやつ

作者:ほむらもやし

●ひとり戦う魔法少女
「私、もう何も怖くない。とても幸せな気持ちだよ!」
 身体の周囲に満ちあふれる輝きと共に、女の子はふわっとしたピンクの衣装を纏った、魔法少女に変身する。
 青空のもと満開の桜並木の先に見える魔法学園がかつてない危機を迎えていた。
 現実の世界では、極めてふつうである小さな胸の中学三年生も、このゲームの世界では弓と変わる杖を操って戦う花の魔法少女。
「ウラー! ウラー!!」
「あなた方はシベリア寒気団?! この美しい花の世界をツンドラタイガ針葉樹林なんかには変えさせない。絶対にやらせはしないよ!!」
 迫り来る、赤い星のマークをつけた戦車、パワードスーツを装着した機動歩兵を見据えながら魔法少女は弓を引き絞る。
 この美しい世界は私たちのもの、北の奴らの好き勝手にはさせない。
 次の瞬間放たれた矢は分裂し、無数の光の雨となって降り注ぎ、敵を粉砕する。
 あっけなく爆発し車体と砲塔が分離する戦車、機動歩兵たちの四肢が光の矢の直撃を受けてバラバラに四散する様を目にして、魔法少女は満足げに微笑む。
「ウラー! ウラー! ウラー!!」
 だが、それも刹那のこと、味方の屍を踏み越えて来襲する新手に再び表情を引き締める。
「物量で押すしか能がないのね。でも負けない。早くやっつけて、学園の春を取り戻すよ。きっとイケメンの校長先生とのハッピーエンドが待っているよね!」

 女の子の目を覆うように装着されているのはVR機のヘッドマウント、着衣はくたびれた部屋着である。散りかけている、桜並木の葉は黄色や赤に色づいている。
 そんな普通の女の子が手にしたハタキを振り回すと、少女の脇に浮遊している、煌びやかなドレスを身につけた魔法少女の映像が引き絞った弓の弦を放す。
 放たれた矢は分裂し、無数の光の筋と変わり、逃げ惑う学生や走り去ろうとする乗用車に襲いかかる。
 女の子に見えているのは、VR機の見せる仮想世界。実際の世界では惨劇を引き起こしているとは全く知らない。
 
●事件対応のお願い
「もう冬だね、すっかり寒くなったね。鍋も美味しく食べられるようになったし、頂に雪を冠した富士山も風流だよね」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、冬にも冬に良さがたくさんあると、雑談でもするかのように切り出すと、茨城県つくば市にVRギア型のダモクレスを装着した、中学三年生の女の子が虐殺事件を起こす予知を告げた。
 VRギア型ダモクレスを装着した女の子には現実をゲームのように感じていて、ゲームの世界で敵を倒す感覚で、現実の人々を攻撃してしまう。実際に手を下すのは、VRギアによって実体化された、花の魔法少女のアバターあり、女の子の脇に居る。
「この実体化されたアバターだけど、ダメージを与えれば消滅させられるのだけど、女の子がゲームを続けたいと思う限り、すぐに全回復状態で復活するんだ」
 ずるいけれど、魔法少女のアバターだけが、ダメージもバッドステータスも無かったことにして復活する。少女がゲームのプレイを止めようと思わない限り何度でも蘇ってくる。
「VR機器部分や女の子を攻撃すると、女の子は身を守るために魔法少女のアバターと合体するよ。女の子と合体した魔法少女を倒せば、魔法少女は二度と復活しないけれど、女の子も死亡する」
 女の子やVR機器へのグラビティによる攻撃が、女の子の殺害に直結していると告げられ場の雰囲気は最高に重苦しくなった。
「女の子が、『もうゲームをやめたい!』と思わせて、アバターである魔法少女だけを倒すのが、女の子を殺さずに、VRギア型ダモクレスだけを倒すただひとつの手段だよ。もし女の子を助けてくれるなら、絶対に忘れないでね」
 但し、女の子に現実の声や風景を直接伝えることは出来ない。視覚、聴覚の全ての情報は装着したVRギア型ダモクレスを通じて女の子に伝えられるため、ゲームに相応しくない情報は全て修正されてしまう。
「つまり、『そのゲーム機を外して話を聞いて』みたいに呼びかけても、女の子には、『へへへ、その危ない弓を捨てて、降伏をするんだな。なあに殺しはしない。その邪魔な布っきれを引ん剥いてたっぷり可愛がってはやるがなあ』みたいな感じに意訳されてしか伝わらないってことだよ」
 おそらく、女の子にとってケルベロスたちは、倒さなければいけない、冬の国からやって来た、敵の兵士として認識させられることだろう。
 女の子が魔法学園と思っているのは、春になると美しい花を咲かせる並木のある中学校。
 避難指示は既に出されているため、現場となる中学校周辺は既に無人。大学キャンパスの西側に位置し、周囲は住宅もまばらな農村なので、戦う場所に困ることは無い。
 ここまで話してケンジは話を終えようとするが、念のため、蛇足かもしれないけれど、前おいた上で、言葉を続ける。
「魔法少女のアバターに戦いを仕掛けるとき、ゲームの雰囲気に合わせて振る舞えば、VRギア型ダモクレスによる情報修正を最小限か、無しにできるだろう。この仕様を上手く利用すれば、ゲームを止めたいと思わせることはできるはず」
 例えば、苦戦しながらも立ち向かってくる女の子に校長先生はイケメン眼鏡ではない、実は既婚者でお年を召した婦人であると、告げるとか、女の子が中学三年生ということを踏まえて、お前のように勉強もせずに戦ってばかりの者が学園の入学試験を突破できるのかな……などなど、いくら戦っても少女が求めるハッピーエンドは無いと思わせれば、あるいは、言葉巧みに正義のヒロインが悪墜ちしてしまうような会話や展開に持ち込めれば、ゲームへのやる気を大いに殺げるだろう。
「未来戦記物と魔法少女ものの設定が混じったような、不思議なゲームもあるものなんだね。僕にはよくわからないよ。でも、皆なら、うまくやってくれると信じている。あとはよろしく頼んだよ!」
 そう信頼を込めて、話を終えると、さあ現地に向かおうと、ケンジは呼びかけた。


参加者
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
七星・さくら(桜花の理・e04235)
マルファ・サンダーヘッド(チェルノマルファ・e18533)
エルナ・エルメリア(独奏的サイコロジー・e20882)
イリア・シャンティーナ(飢餓魔拳士・e34021)

■リプレイ

●ゲームと現実が混じっている
 VRギアを被った女の子の見えているのは桜が満開に咲き誇る並木道だった。
「うわあ、とってもリアル、本物みたいね」
 女の子が喜びの声を上げたのも束の間、すぐに強い風が吹いて、桜吹雪が起こった。
「くっくっくっくっ……、戦いの運命を受け入れた魔法少女には、世界の為に、戦って戦って戦って、戦い抜いても、なにも残らないのだぞ」
「誰?」
 桜吹雪の中から現れたのは、マルファ・サンダーヘッド(チェルノマルファ・e18533)、かつてのソビエトの政治将校の如き装束を纏い、邪悪そうな笑み、口調もそれっぽく変えて敵の幹部になりきっているその見た目は、11歳にしては高い身長も相まって雰囲気抜群である。
「同志魔法少女よ。私はシベリア旅団幹部、マルファ・サンダーヘッド中佐だ。かつては貴女と同じ、戦闘力が取り柄の魔法少女だった」
「あ、仲間なのね。まずはパーティを組むというわけね。職業は中佐なのね」
「ストーイ! 話は最後まで聞け――魔法少女が戦い抜いて悪を滅ぼした後に残るのは、過剰な戦闘力に向けられた恐怖だけだ。向けられた恐怖は刃に変わる。いいのか? お前を待っているのは、命がけで救った者に排除される運命が待っているのだ」
「いいたいことはそれだけかしら? サンダーヘッド中佐!」
 ようやくマルファを敵と認識した、女の子は戦う気満々、言い返すと同時に脇にいる魔法少女のアバターが、手にした杖を弓の形と変えた。
「かまわん、突撃――前へ!」
 魔法少女が弓を構えようとしたタイミングで、マルファが突撃させた、機械化歩兵の損害を顧みない攻撃が、容赦なく殺到する。
 次の瞬間、魔法少女のアバターはあっけなく撃破された。
「よ、弱い」
 無謀な洞窟探検者を思わせる、脆さにマルファが驚いたのも束の間、コインを落とすような電子音、続いて光の柱が立ち昇り、同じ形の魔法少女のアバターが出現する。
「なんて奴でしょう。あっという間に復活、いえコンティニューですか」
「素晴らしい根性です。学園に入りたい? どうやらあなたにはその資格があるようです」
 わざとらしいほどの拍手と共に現れた、エルナ・エルメリア(独奏的サイコロジー・e20882)が告げると、魔法少女はとても嬉しそう。
「では、入学の前に相応しい学力があるか、あなたの知識を試してあげるよ!」
「げげっ!?」
「じゃかじゃん♪ 第一問、ルーン魔法体系のa(アンサズ)の効果を述べよ!」
 即座に魔法少女の横の女の子は、スマートフォンを取り出して、音声検索エンジンを発動する。
「ぶっぶー!! ずるはいけません」
 小さな子どもがするように唇を尖らせて、エルナは不合格を告げると、続けて渾身の第七作を発動させる。
「さぁ片翼の天使(ヒト)よー♪ 楽園(リソウ)を求めー宇宙(ソラ)へー♪ 孤独な光(ホシ)たちよー♪ ただ地球(コキョウ)求ーめー散れー♪」
 今は未来のアイドルを信じる11歳の女の子だが、数年もたてば身長も伸びて、この歌詞も黒歴史になるかもしれない。そんな響きに包まれた魔法少女のアバターは羞恥に悶えるように両手を耳に当てて膝を着いて消滅した。
 チャリーン♪
 再び電子音。
「これってクイズのゲームだったかなあ、調子狂っちゃうなあ」
「まだ続けるつもりなの?」
「グルァァアアアアア!!!」
 そのガッツに驚くエルナの脇を、イリア・シャンティーナ(飢餓魔拳士・e34021)が、解き放たれた獣の如き叫びと共に駆け抜ける。
「一欠片だって勿体無い……皆お腹が空いてるの」
「へ、なんでお腹が空いているの?」
 直後、飢えた鴉の如き群れが現れて、魔法少女を追い立てる。今度は軽い身のこなしを見せる魔法少女だったが、追い立てられた先、待ち構えていたイリアの魂を引き裂く一撃がその身体を破壊した。
 すぐに、電子音が鳴り響いて、魔法少女のアバターは復活する。
「チュートリアルで死んじゃうなんて、普通ありえる? 何かおかしいよ」
 瞬間、飛来した時を凍らせる弾丸が爆ぜて、魔法少女の身体を氷で包み込む。
「あら、まだ倒れていないのかしら?」
 コサック帽子に長いコートを身につけた、七星・さくら(桜花の理・e04235)が、ライフを失ってなお立ち続ける魔法少女に歩み寄る。
「ここからはわたしたち精鋭がお相手するわ、お覚悟はよろしくて?」
 帽子の正面には赤い星に鎌と槌をあしらったエンブレムが厳かな艶を放っている。
「くっ、ひと思いに、殺しなさい……どうせすぐ再開できるし」
「あなたの力は私たち人民の脅威、どうやって手に入れたか、お聞かせ下さらない?」
「魔法少女の力は、少女の夢! おばさんには絶対手に入れられないよ!!」
「いわせておけば、そもそもあなた、中学三年生でしょう? 受験勉強は? この魔法学園、偏差値超高いし、異性交遊だって禁止されてるのよ!」
 次の瞬間、雷光を纏ったころころまあるい雛鳥たちが、ぴぃぴぃ、ちぃちぃ。さえずりながら魔法少女に群がった。――ぴぃぴぃ、ちぃちぃ。無数の雛鳥に啄まれて魔法少女の身体は跡形もなく消滅して、冷たい風の吹く並木道に暫しの静寂が戻って来た。
「今ので、諦めてくれたかしら?」
「なかなか再登場しませんし、もしかしたら……?」
 チャリーン♪
 閃光の中から無傷の魔法少女が姿を現す。まだ諦めていなかった。
「まずったなぁ。早く攻略してクリアしないと!」
「いいえ、勝てっこない相手と戦っているよりも、早く帰って勉強した方がいいんじゃないですか?」
 女の子は現実の自分の立場に気づいたが、あと少しだけと、性懲りも無くコンティニューした。そして少女と魔法少女の前に、今度は軍服を纏った、修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)が立ちはだかる。
 黒いマントをはためかせる、雰囲気は見るからに悪役。しかもただの悪役ではなく重要な敵っぽい。
「また新キャラなの?」
「あなたの学力では入学は到底無理ですし、面接で校長に会うこともできませんが、特別に教育してあげましょう」
 やけに親切だなあと構えを解く魔法少女に、雫は取り出したシャーマンズカードを、容赦なく突き出す。
「氷の槍騎兵よ、我が前に現れよ! この地を永遠の冬に閉ざしなさい」
 輝きと共に出現した、エネルギー体、フロスト・ランスナイトの繰り出す斬撃が、慌てて回避しようと身を引きかけた魔法少女を斬り捨てる。
「きゃあああーー!!」
 悲鳴を残して消滅した魔法少女が、間髪も入れずに復活する。
「随分と意気込んでいるが、お前は本当にこの世界を救いたいと思っているのか?」
 休む間を与えずに、ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)が語りかける。
「え、また違う敵? それってどういう意味なの?」
「どうもこうも、力を振るって、憂さを晴らしたいだけのように見えるのだが」
「違うわ! 私は美しい春を……」
「春だ春だとふざけやがッて、今は12月だ!」
 我慢しきれなかったのだろう、両者の間に割って入ってきた、クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)は、長い冬を越えた先にやってくるのが春だ。四季折々の風情も理解できねェ癖に正義気取ッてんじャねェ! と、涙目に見えるボクスドラゴンと共に抗議する。
「常春の国があっても良いじゃないですか?! キューバとか、常夏ですよ」
「勉強も仕事もしないで、遊ぶだけの世界があるもんか、受験まであとちょっとだろうが、無駄なことをするな、親を泣かせてェのか!」
「ふうん、でも、私、理想郷を目指した、ソビエトがどうして崩壊したか知ってるし」
 クラムの放った轟竜砲がキューバとソビエトの違いを語り出す、魔法少女を爆砕する。
「……可哀想な子、粛正リスト入りね。いずれ分かるでしょうけど。我ら、シベリアの精鋭軍団が、こんな魔法学園も桜並木も、たちまち凍らせてツンドラタイガ針葉樹林の一部にして差し上げましょう!」
 速攻で復活した魔法少女に笑み掛けるのは、ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)。豪邸が建ちそうなほどに高価そうなふわふわの毛皮のマントとロシアンハット、白く着飾ったボクスドラゴンとのツーショットは特殊な性癖をもつ高級幹部の雰囲気満点。その気配だけでも空気は凍りつく。
「あーらあら、もう言葉を返す気力も無くなったかしら?」
「粛正は怖い。収容所も嫌よ。人権を顧みない警察を持っても、可哀想な兵隊を操っても、人民の心が離れては、共産主義は成立しないのよ!」
「ふふ、目の前には敵わない強敵なのに良い心がけね。しかし退けば、貴女を利用する人民は貴女を責め立てる。大好きな友、家族でですら、だから何度でもやり直すのね」
 難関校に入学できなかっただけで、株で大損したような態度取られるのは本当に悲しいことだ。
「そろそろ諦めないと、本当に貴女のためにならないわよ」
「私のため? 本当だとすれば、私は幸せ者ね」
 女の子にゲームをやめさせるために、敢えてきつい態度をとり続けていたソラネの中に少しずつ心の痛みが蓄積されてゆく。――今度こそ諦めなさい。願いと共に撃ち放ったエネルギー光線が魔法少女を焼き払った。

●終わりの見えない繰り返し
 チャリーン♪
「お前は引き返す時を誤った。選べ。永遠にひとりでこの世界に留まるか。真にお前の生きる世界で誰かの手を取ることを選ぶか」
 ゲームプレイの中断を促すイリアの説得だったが、孤独な世界に篭もるなという真意は通じなかった。ここに留まり目の前の敵に立ち向かう。を、迷わず選択したことを象徴するように、弓を引き絞る魔法少女。
 次の瞬間、空に向かって放たれた矢が分裂し、無数の光の矢となって降り注ぐ。
 イリアを守るように前に出た、ナディア、続いて白いウイングキャットが、それらの直撃を受けた。
 ナディアは余裕を持って耐え凌いだが、もったりとした動きのウイングキャットは崩れ落ちるように姿勢を崩しながら、落下して行く。
「エルシアくん!!」
 己のサーヴァントの名を呼ぶ声と共にエルナの発動したサキュバスミストのピンクの霧が周囲に満ちる。
「また、この霧なの?」
「そうだ。お前はいくらやっても我々に勝てない。人民の名を騙ろうとも、現実にお前はひとり。共に戦ってくれる者もおらず、厄介ごとは全てをお前に押し付けられた。お前が失敗すればまた新しい、代わりの、魔法少女が現れるだけのこと。決してお前が特別なわけではない」
 孤独感を抉るようなナディアの責め言葉、氷柱の檻に閉じ込められたが如き、孤独感に苛まれる女の子。直後、少女の操る魔法少女のアバターを蹴り据えるのは、艶めかしい金属の光沢を持つ、強堅な、強圧な、強靭な、強暴な、鉄靴の一撃。
「泥黎に沈め」
 あり得ない方向にへし折れて、路面に叩き付けられた魔法少女の身体は爆ぜ消えた。
「今度こそ、終わるか?」
 少女は必ず救うと決めた、感謝もされなくても良い。悪と罵られようとも構わない。己の本音は北極圏の永久凍土に閉ざされた太古の生物の如きに表に現れることは無く。
 そして、絶対に根負けしない。
 ――終わっていなかった。
 電子音を響かせて、復活する魔法少女。そろそろ数えるのが嫌になってくる回数。
「突撃――前へ!」
 マルファが腕で指し示すと、無人アームドフォートと人型ドローンを中核とする機械化歩兵部隊が瞬く間に、魔法少女を蹂躙する。
 倒す行為自体が作業のようになってくるが、性懲りも無く、復活する魔法少女。
「なんで、何度やっても、ひとりも倒せないのよ!!」
 イケメン校長との出会いも、ハッピーエンドなどあり得ないと思い込まされ、やる気は徹底的に殺がれ、ほぼ無いと言える状態だったが、なぜかゲームをやめない。
 決断への最後の一押し、そのあと少しを押し切りたかった。
「わたしたちシベリア寒気団はみんな仲良しよ。愛と勇気だけが友だちの魔法少女に負ける要素が何かあるかしら? ひとりぼっちで戦うだけしか能の無い魔法少女が勝てると思って?」
 さくらの繰り出す破鎧衝。高速演算により見破った弱点を狙う痛烈な一撃と言葉が魔法少女を瞬く間に粉砕する。
 そして、魔法少女は出現しなかった。
「うるさいうるさいうるさーい!!」
 代わりに、イライラの限界に達したように、女の子は叫びと共に、頭部に着けていたVRギアを地面に投げつけた。
 グワシャカッ! と、VRギアが地面に当たる音が響いたく。
 ――今だ。
 それを合図に、女の子の身体を離れて、滑るように地面を転がったVRギアを目がけてケルベロスたちの攻撃が集中する。
 数秒を待たずして、VRギア型のダモクレスは驚くほど簡単に、木っ端微塵になって消し飛んだ。
 かくして長い戦いはシベリア寒気団に扮したケルベロスたちの勝利に終わった。

●戦い終わって
 塵と消えたダモクレスの余韻が残る脇で、女の子は顔に両手を当てて泣き崩れていた。
「すいませんでした……」
 お詫びの言葉を添えて、雫やナディア、ソラネがダモクレスによる事件であったことを告げると、事情を理解した女の子は神妙な態度で返す。
「私こそ聞き分けが悪くて、ご迷惑をおかけしました」
 ただ多少図太い性格であったとしても、向かう先には望むものは無い、ひとりぼっちだ。などと繰り返し言われ続けられれば、気持ちは落ち込む。
 そんな彼女に寄り添うようにして、声を掛けたのはエルナ。
「もうひとりじゃないよ。そうだ、どうせなら魔法少女なんかより、一緒にアイドルになろうよ! アイドルだってみんなの星、元気の魔法使いだよ!」
「アイ……ドル?」
 そのスペルが、イドラに似ていることに気がついて、女の子の中二思考が発動する。
「それも良いわね。実体を持つアイドルになって、私たちを非現実だ、虚像と言う連中に思い知らせてあげたいわね」
「そうと決まったら、春には新しい学校でいっぱい青春して、人を傷付けるんじゃなくて、あなたの大好きな人を笑顔にできる魔法をたくさん使ってね?」
 何を思い知らせるつもりなのか、微かな不安を感じた、さくらが方向性を間違えないように告げると、女の子は明るい表情で、だいじょうぶ。と頷いた。
 年末年始、冬休みとなる2週間ほどは、中学生や高校生にとっては受験勉強の総仕上げの時期。素早く立ち直れたのは彼女にとってとても幸運なことだった。
「ん、何か用か?」
「……何でもない。女の子に……プレゼント渡しそびれちゃった」
 後ろで手を組んで、近くをうろうろしているイリアに気がついた、クラムが首を傾げる。
「なら、今から、渡して来るんだな。大事に思ってくれているんだって、きっと喜ぶぜ」
「……わかった。そうする」
 ゲームではやり直しが出来るけれど、現実のチャンスはその時だけ。家に帰ろうとする、女の子の後を追いかける、イリアの背中は、なぜかとても暖かく見えた。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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