血のクリスマス事件~光・イルミネーション

作者:蘇我真

「1年も終わりに近づき、のんびりとした年末年始……とはいかないようだ」
 星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)は集まったケルベロスたちを前にして、今回の依頼の内容について語り始めた。
「敵は侵略型超巨大ダモクレス『ゴッドサンタ』の配下たちだ」
 リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)らの調査によって、VRゲーム型ダモクレスの事件が、大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれる大虐殺を引き起こした侵略型超巨大ダモクレス、『ゴッドサンタ』復活の予兆であったことが判明した。
 日本各地を騒がせたVRゲーム機型ダモクレスは、ゴッドサンタの配下によって少し早いクリスマスプレゼントとして子供たちに届けられたものだったらしい。
 更に『ゴッドサンタ』は、クリスマスを楽しみにする人々を血祭りに上げる事で、自らが復活するグラビティ・チェインを得ようと動き出したのだ。
「ゴッドサンタによる襲撃が発生するのは、12月24日の午前中。この襲撃が成功し、グラビティ・チェインがゴッドサンタの元に集まれば、クリスマスの夜にゴッドサンタが完全復活し、世界に大破壊を招く事になってしまうだろう……」
 このままでは楽しいはずのクリスマスも、阿鼻叫喚の血のクリスマスとなってしまう。
「もちろん、それがわかっていてただ手をこまねいているわけにはいかない。そこでケルベロスの皆の力を借りたい」
 続いて、瞬は今回討伐すべきゴッドサンタの配下について説明を始める。
「敵はヴィクトリーサンタとヴァンガードレイン。2体1組の量産型ダモクレスだ。ヴァンガードレインは雷を纏ったトナカイ型ダモクレスで、角から電撃攻撃を放つようだ。
 その電撃の威力に加え、ヴィクトリーサンタはプレゼントの詰まった大袋による鈍器攻撃のコンビネーションをしかけてくる。
 袋から爆発物を取り出して投げつけるといった遠距離攻撃もこなせるようだな。コンビネーション攻撃には注意したほうがいいだろう」
 彼らは12月24日の早朝に、日本各地に一斉に現れ、クリスマスを楽しみにしている人々を襲ってグラビティ・チェインを奪い取ろうとするのがわかっている。
「そして出現場所だが、宮城県仙台市にあるケヤキ並木……光のイルミネーションが有名なデートスポットだな。出現時は早朝だからそれほど人もいないだろうが、夜には多くのカップルで賑わうだろう。無事に倒して、イルミネーションもヒールしてやれば恋人たちの記憶に残るクリスマスも演出できるかもしれないな」
 そうして、瞬はケルベロスたちへと頭を下げた。
「サンタとトナカイのダモクレスを倒して恋人たちの聖夜を守るため、その力、貸してほしい。頼む……」


参加者
九道・十至(七天八刀・e01587)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
炬・灼(ドラコニック侍・e04527)
シャーロット・ノーラン(スノーフレーク・e04982)
長船・影光(英雄惨禍・e14306)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)

■リプレイ

●早めにサンタがやってきた
 ケヤキ並木にサンタクロース達が現れた。
 敵のヴィクトリーサンタではない。サンタクロースの衣装を身にまとったケルベロスたちだ。
「シングルベェル♪ シングルベェル♪ 鈴がナール……」
 ボディコンタイプのミニスカサンタ服を着た琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)はぼんやりと虚ろな目で孤独な歌を口ずさんでいる。その度に口から漏れ出る白い息が余計に哀愁を漂わせた。
「せっかくのクリスマスイブなんだからもっとノリよくいこーぜっ!」
 そう言うシャーロット・ノーラン(スノーフレーク・e04982)はフリルのついたワンピースタイプのサンタ服だ。両手を広げてその場をくるくると回るとスカートの裾がふわりと花のつぼみのように広がる。
「まあ人それぞれだ。嫌がる人に無理強いも悪いしな」
 腕組みをしつつうんうんと頷いているのは木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)。全身のサンタ衣装はもちろんのこと、白い付け髭まで用意した上にサーヴァントのボクスドラゴン、ポヨンにトナカイのコスプレまでさせている。
「~♪」
 トナカイの角に赤鼻を装着したポヨンは楽しそうに丸い身体を揺らしていた。
「そうそう、無理強いはよくないって」
「十至は何もコスプレしてないの、ずるいよね」
 九道・十至(七天八刀・e01587)に抗議するアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)。
「それなら私もこれ、しなければ良かった。こういうのあんまり似合わないし……」
 アビスはコスプレが恥ずかしかったのか、普段着にサンタ帽をかぶっているだけだが、十至に至っては普段着だった。
「いや、似合ってる。似合ってるさ。コンビニとかスーパーの店員みたいだ」
「褒めているのかいないのか、わからないでありますな……」
 苦笑する尾神・秋津彦(走狗・e18742)はしっかりとサンタ衣装を装着している。
「俺はサンタからは程遠い存在だしなァ。もしコスプレするってんなら、こいつみたいなブラックサンタかな」
 十至の視線の先には黒いサンタ服を着こんだ長船・影光(英雄惨禍・e14306)の姿がある。
「…………」
 口数も少ない影光だが、そのあたりの協調性は十至よりもあるらしい。
「ぶらっくさんた、たしか欧州の方で伝えられている姿でござるな。悪い子供に仕置きをするとかしないとか」
 セクシーなサンタ衣装を着た炬・灼(ドラコニック侍・e04527)が思い出したかのように付け加えると、影光は小さく呟いた。
「祝福よりも罰のほうが俺の手には馴染む。祝い事を汚す無粋な輩に、罰を喰らわせてやる」
 キープアウトテープを張っていた秋津彦が声を上げる。
「来たであります! 何気にかっこいいロボサンタたちが!」
 イルミネーションに彩られたケヤキをなぎ倒しながら歩いてくるヴィクトリーサンタとヴァンガードレイン。
「周りに人は……よし、いないっ!」
 シャーロットは辺りを見回して一般人がいないことを確認すると、ダモクレスたちに向かって吠えるのだった。
「せーぎのサンタさん、さんじょーだぜっ!」

●十字架
 その名乗りに反応したのはヴァンガードレインだ。トナカイの角から帯電した電流を稲妻のようにほとばしらせる。
「おわっ!?」
 かわすことができず、シャーロットを電撃が襲う。サンタ衣装が焦げ、ぷすぷすと黒煙をあげる。
「いきなりとか……!」
「まだですわ!」
 叫びながら庇いへと向かう淡雪。さらにそこへ、ヴィクトリーサンタが連携しようとしていた。
 サンタの大袋から何かを取り出す。それは導火線に火が付いた爆弾だ。
 後衛のシャーロット目がけて投げつける。
「させません!」
 シャーロットと爆弾の間に淡雪が割って入る。淡雪を中心とした爆発、爆風と火の粉が近くのケヤキを折った。
「くぅ……せっかくの一張羅が台無しじゃありませんの!」
「ポヨン、淡雪を頼む!」
 ケイの指示にポヨンが動く。ポヨンが淡雪を、シャーロットは自身を回復する。
「さて、敵の能力はよくわからねぇが……」
 日本刀である四天を正眼に構え、十至はヴァンガードレインへと向き直る。
 刀身が未だ空に浮かぶ白い月のように緩やかな弧を描き、ヴァンガードレインの前足、駆動部の関節へと叩き込まれる。
「ならば狙うは各個撃破であります! たあっ、二番槍!」
 秋津彦もヴァンガードレインへと蹴りかかった。流星の煌きを宿した飛び蹴りでヴァンガードレインの足を地面のアスファルトごと抉り取る。
「サンタだか何だか知らないけど、ここから先には行かせないよ」
 後ろ足2本で立ち上がり、いななくヴァンガードレインの足元へ更にアビスの飛び蹴りが決まる。地響きと共に横倒しになるヴァンガードレイン。
 連携する敵なら片方、いるのならばディフェンダーから集中攻撃する。それがケルベロスたちの選択だった。
「さんたは攻撃を庇おうとせぬ……護り手ではないようでござるな。しからば拙者も馴鹿へ……!」

 寒さなど物ともせず、肌の露出が多いセクシーサンタ衣装の灼が納刀したままの日本刀を携えて疾駆する。
「破ッ!」
 ヴァンガードレインと灼が交差する。前に突き出したその腕には、いつの間にか抜き身の日本刀が握られていた。
 刹那、ヴァンガードレインの足関節、駆動部からオイルが噴出する。黒いオイルが血の雨のように吹き付ける中、黒いサンタが狙っている。
「…………」
 影光は言葉の代わりに射殺すような視線を送ると、ドラゴニックハンマーを砲撃形態に変化させ、引鉄に指をかけた。
 放たれる竜の気。奔流する轟竜がヴァンガードレインの右前脚に喰らいつき、消滅させる。
「十至も灼も、見事な剣の腕だな。でもよ……」
 ケイは自らの斬霊刀、シラヌイを握り込む。
(俺にはこいつしかないんだ。剣の扱いについてだけは、譲れない!)
 雷刃突。遅れて聞こえる鯉口を切る音。繰り出された一撃はヴァンガードレインの雷よりも疾く、そのコアを貫き刺していた。
「決まったぜ、イェイ!」
 ケイの背後で爆散するヴァンガードレイン。その爆風で付け髭がずれる。最後までは完璧に決まらないらしい。
「皆様、あとはサンタだけですわ!」
 ボロボロの淡雪がライトニングウォールを維持しながら声を上げる。この間も、ヴィクトリーサンタの攻撃からパーティーの面々を守り通してきた。
「かいふくするよー、さーがんばれー!」
 シャルロットの掩護射撃、回復の魔力が雨のように降り注ぐ。
「もう少し寒かったら、雪になったのかな」
 同じくディフェンダーとして庇っていたアビスは、自らを癒す雨をわずかに見上げて呟く。
「そうしたらホワイトクリスマスでありますな」
「……っ!」
 アビスは呟きが聞かれていたことに頬を赤く染め、眦を吊り上げる。
「し、小生はからかうつもりなど全くない――」
 弁解しようとした秋津彦へ、アビスは腕を掲げオーラを展開する。その刹那、地面が揺れた。
 ヴィクトリーサンタが秋津彦目がけて振り下ろした大袋を、アビスが庇ってその腕で受け取めたのだ。霧散するオーラが朝焼けに煌めき、ダイヤモンドダストのように舞う。
「こいつを倒すよ……!」
「しょ、承知であります!」
 一瞬呆けていた秋津彦だが、すぐに意識をヴィクトリーサンタへと集中させる。
 毅然とした表情で敵へと向き直り、己の霊力を解放させる。宙空に召還された無尽の刀剣を光のような霊力で包み込み、自らの霊力で形成した野太刀を構える。
「名付けて蹂躙狩猟――"群狼剣"」
 一斉の斬撃がヴィクトリーサンタの全身を襲う。装甲に傷が穿たれ、大袋は切り裂かれ内蔵していた爆弾が零れ落ちる。
「逃がさないよ」
 その爆弾がアビスの冷気で凍り付く。地面から立ち上った幾条もの氷の鎖がヴィクトリーサンタを雁字搦めにし、その動きを制限させる。
「世に満ち充ちる影に立ち。人に仇なす悪を断つ」
 弱った瞬間を見計らったかのように、影光は己の肉体に英雄の記憶から情報をダウンロードした。その膨大な力は彼の寿命を確実に削り取る。
 明日を犠牲にしてでも、今日を護るために、その腕を振るう。捕縛から逃れようとするヴィクトリーサンタの動きを先読みし、足払いで宙に浮かせ、追撃を動力部に叩き込む。ヴィクトリーサンタの口から漏れるモデムのような機械音。
「その様子じゃ、念仏と辞世の句、どっちも口にできねえな」
 ケイは納刀した日本刀へと手をかけ、秘剣を繰り出そうとする。
「かなりの大技とお見受けしたでござる。ならば、拙者も久々にあれを使おう」
 合わせるように、灼は太刀を蜻蛉のように高く掲げてみせた。
 同時に駆け出すケイと灼。短い掛け声と、長い雄叫び。
 上から下へ振り下ろされる大地打と、居合の構えから横薙ぎに放たれる烈風散華。
 大地が割れ、炎の桜吹雪が舞う中、二筋の剣閃はヴィクトリーサンタの身体に十字架を刻みつける。
 大爆音と共に、ダモクレスは爆発四散するのだった。

●光の野外劇
「あー、今の俺にはあそこまでは無理だなァ。腕鈍っちまった」
「十至もヒールしてよ。早く帰りたいんだから」
 街行く人々がケルベロスたちを見ているのが恥ずかしくてアビスは口を尖らせた。
 冬は日の落ちるのが早い。ダモクレスとの戦いで派手に街が壊れたこともあり復旧は薄暮にまで及んでいた。
「そろそろケーキやチキンが安売りになり始めるでありますな」
 明かりがつき始めた街を眺め、呟く秋津彦。朝から動いていることもあり、ちょうどいい空腹だ。口にする食べ物は美味しいことだろう。
「……クリスマスか」
 ヒールドローンに修復を任せ、人々に目を移す影光。
 その多くは手をつないだ恋人たち。
(日本のそれは、降誕祭とはまた別物のようだが……これも、この国が諸々に寛容であるからこその形、なのだろうな)
「サンタさんからのプレゼントだぜーっ! めりくりー!」
 シャーロットはメディカルレインをケヤキ並木に振りまいていく。
 するとケヤキに飾られたイルミネーションが直され、シャーロットの手の動きをなぞるように明かりが点灯していく。
 わあ、と人々が口々に感嘆の声をあげ、シャーロットへ歓声を送る。
「なるほど、これは確かに光の野外劇でござるな」
「ほらほら、一緒にやろー!」
 感心していた灼へ、手を差し伸べて誘うシャーロット。
「ふっ、そうでござるな。せっかくなら楽しむでござる」
 友人の手を取り、灼も街を癒していく。灼の直したアスファルト自体がほのかに発光し、まるで地のオーロラのように目まぐるしく色を変える。
(ここで偽おっぱいビルシャナとして私が降臨してあげましょうかしら……)
 良いムードになるカップルたちを見て、淡雪は街灯を直す。どす黒く荒んだ心とは裏腹に、ピンク色の艶めかしい明かりが街を照らし出す。
「ビルシャナにはなるなよな?」
「なりませんわよ、多分」
 十至とやり合いながらも修復自体はしっかりとこなす淡雪。
「!」
 最後の歩道を、ポヨンがしっかりとヒールしなおした。
「よし、偉いぞポヨン。帰ったらとびきり豪勢なクリスマスディナーが待ってるからな」
「~♪」
 ケイに頭を撫でられ、喜んでいるポヨン。豪勢なディナーでもう少しぽよぽよしてしまうかもしれない。
 そうして全てのヒールが完了したことを確認し、秋津彦はこう宣言するのだった。
「皆さま、デウスエクスは小生たちが確かに退治したのであります。聖夜を存分に楽しんでください。メリークリスマス!!」

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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