血のクリスマス事件～戦場のサンタクロース

■リプレイ

●クリスマス・イヴ
　無数のイルミネーションで飾り付けられた広場。だがその光はまだ灯されず、朝の早い時間には人通りも少なく、足を止める者も居ない。そんな中、ケルベロス達だけがその場で立ち止まり、周囲を警戒するように視線を飛ばす。
「ハロウィンと言い、今回と言い、こうした大きなイベントには必ずデウスエクスが襲ってくるのだな」
　厄介なものだとシヴィル・カジャス（太陽の騎士・e00374）は飾り付けられた会場を見渡す。
「デウスエクスとの戦いが終わるまですべてのイベントを中止にしたほうが良いと思うのだが、そうもいかないのがつらいところだな」
　イベントは大勢の人が楽しみにしているものだ。デウスエクスの襲撃の度に中止にすれば何も出来なくなってしまうとシヴィルは頭を痛めた。
「サンタクロースとトナカイなんて季節感があるねー」
　ちゃんと季節に合わせてくる敵に葉月・静夏（戦うことを楽しもう・e04116）は感心する。
「子供達にプレゼントを配ってくれるのなら、サンタクロースの正体はデウスエクスでしたー、というのも面白かったかもしれないけれど、そうでないなら倒すのみ！」
　クリスマスを邪魔しにくるのなら容赦はしないと拳を握った。
「ゴッドサンタに血のクリスマス……せっかくの楽しいクリスマスを邪魔させるわけにはいかないわ」
　楽しいクリスマスを血で汚させはしないと、サブリナ・ロセッティ（ブリスコラの魔女・e21766）はガトリングガンを手元に出現させいつでも迎撃出来る用意をする。
（「……ゴッドサンタ……、……すごく、強そうな、お名前、です、ね……」）
　神宮時・あお（最果テ幻想花・e04014）は名前から神々しい髭のお爺さんを想像する。
（「……それに、しても。……クリスマスって、いつから、ある、のでしょう、ね……」）
　ふとそんな疑問に頭を傾げながら、あおは寒さにも表情を変えずに敵の出現を待つ。
「暴れン坊、のサンタクロース。クリスマス前、に、やって来ル」
　敵を待つ間にエンミィ・ハルケー（白黒・e09554）は立入禁止テープを張り巡らせ、会場に一般人が入ってこないように通路を塞いだ。
「クリスマスを邪魔する輩にはさっさと退散してもらおう」
　今ならば被害を出す心配をせずに存分に戦えると、大神・凛（剣客・e01645）は戦場となる会場の地形を確認する。
「ケルベロスとして初めてのお仕事……色々思うところはあるけど、人々の素敵なクリスマスを守るために頑張るよ！」
　初依頼に緊張しながらも、草薙・ひかり（闇を切り裂く伝説の光・e34295）はやる気に瞳を輝かせて、今か今かと敵を待ち構える。
　そうして準備を整え暫くすると、ガチャンキュィィッガチャッと金属とモーター音を発しながら会場にロボットが姿を現す。それは赤と白のカラーリングのサンタ型ロボと、金色に輝くトナカイ型ロボ、クリスマスらしいダモクレスだった。
「ボンジュール、ダモクレス。……アナタ達を、壊しに来たわ」
　左腕の腕輪に触れて心を落ち着かせ、エヴァンジェリン・エトワール（白きエウリュアレ・e00968）がサンタとトナカイの前に立ち塞がりアームドフォートを展開した。放たれる砲撃が戦いの狼煙を上げる。

●サンタとトナカイ
　前に出たトナカイが攻撃を受け、その後方からサンタが背負った筒を肩口に構える。それと同時にシャンシャンシャンッとクリスマスのBGMが２体のロボから流れ始め、巨大な砲弾が発射された。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参！」
　堂々と名乗りを上げたシヴィルが太陽の黒点を彷彿とさせる大剣をかざすと、地面に光が走り獅子座を描いて仲間に力を与える。
　その光を帯びながらライドキャリバーのライトが車体で砲撃を受け止め、装甲を撒き散らしながら吹き飛ばされた。
「大神凛まいる！」
　その爆風を抜けて凛は左右に白と黒の刀を抜き放ち、道を塞ぐトナカイに二刀流で右に左に斬りつける。
「あなたの相手はこっちよ、海外で磨いたプロレスラーの力、見せてあげる！」
　毛皮のコートを脱ぎ捨て、ゼブラ模様のリングコスチュームを露わにしたひかりは、トナカイと対峙してミドルキックを打ち込む。
　対するトナカイも角を輝かせて放電し、ひかりを感電させる。
「初手、は、自己強化、で、パワーアップ、でス」
　頭上に矢を放ったエンミィは自らの矢を頭部に突き刺して、ぎゃあーと悲鳴を上げて邪を打ち破る祝福を得る。
「VR型ダモクレスに、イヴの朝の襲撃……迷惑なサンタとトナカイ。ノエルを、血で穢して、小さな子を、知らないうちに加害者にして、いけないサンタ……ダチュラのオラトリオが、オシオキしてあげる」
　エヴァンジェリンが手元から鎖を伸ばし、猟犬のように放たれた鎖はサンタに絡みついて拘束する。
「戦いの興奮とスリルというプレゼントを期待してるよ！」
　そこへダッシュで接近する静夏はロンダートからバック転を決め、後方ひねり宙返りから炎を纏った左拳でサンタの顔面を殴りつけた。
「サンタクロースとトナカイの組み合わせ、憧れたことがないって言ったらウソになるけれど……でも、こんなサンタとトナカイは嫌ね。サンタさんは夢とプレゼントを持ってくるべきよ」
　更にサブリナがサンタに銃口を向け、炎の弾丸を雨あられのように撃ちまくる。それを庇おうと電撃を放ちながらトナカイが割り込もうとする。
（「……まずは、トナカイの、動きを、妨害、します……」）
　花の如き純白のオーラを纏って駆け寄ったあおが、トナカイの脚の付け根を蹴りつけ姿勢を崩させた。
『メリークリスマース！』
　そんな電子音声と共にサンタは大砲を構え、中から大きなコンテナを撃ち出す。それはケルベロス達の頭上に達するとハッチが解放され、中から無数の小型ミサイルを撃ち出した。ミサイルの雨に見舞われてケルベロス達が吹き飛ばされる。
　その被害を少しでも軽減しようとウイングキャットのアレッタが身を挺して仲間を庇い、爆風に煽られ地面を転がる。
「クリスマスを楽しみにしている人々を襲うつもりだったのなら、貴様は出てくる時間帯を間違えたな。こんな早朝では誰もいないぞ？」
　シヴィルがオーラを手に集めて放ちアレッタの傷を癒す。
「アナタたちみたいなサンタは、いらない」
　お返しとばかりにエヴァンジェリンはアームドフォートから砲弾を撃ち込み、爆風でサンタの体を吹き飛ばす。
「ハロウィンと同様で予想できていた！　クリスマスは、今の子供たちにとって楽しいイベントだ！　悪事を働く下郎は成敗してくれる！」
　好きにはさせないと凛はオーラの塊を放ち、それを追うように近接して刀を振り抜き、防ごうとしたサンタの腕を抉った。
　その凛の体を横から突進したトナカイが角で刺しで吹き飛ばす。
（「……トナカイが、庇って、は、サンタ、を、倒せま、せん……」）
　あおが放つ魔法光線がトナカイの胴を照射し、みるみる内に灰色の石へと変えていく。そこであおは視線を一瞬仲間に向ける。
「サンタさん。プレゼント、は、平和なクリスマス、が良いナ。……でも、私、良い子じゃなイ、ので。自分で戦っテ、手に入れよう、と、思いまス」
　その間に、電子音混じりの声を発しながらエンミィはローラーダッシュで加速し、火花を散らしながら跳ね上げた足でサンタに蹴りを浴びせる。
「これが私からのプレゼント、だんしんぐひまわり！」
　続けて静夏の元からひまわりの花が踊るように蠢き、大きな口を作ってサンタの脇腹に噛みついた。
『ハッピーホリデーズ！』
　サンタが筒から取り出したカラフルなクラッカーを投げつける。すると周辺で爆発が次々と起こり爆風がケルベロスを薙ぎ倒す。
「サンタのプレゼントが爆弾なんて、誰も喜ばないわ」
　サブリナは御業を呼び出し、サンタに組み付かせて投擲を止めさせる。
「サンタの元へは行かせない！」
　ひかりはサンタを治癒しようと雷を溜めるトナカイの顔を脇に抱え、ヘッドロックで締め付けた。
『ホーホー！　メリークリスマス！』
　サンタは筒から砲弾を撃ち出して、サブリナの体を宙に吹き飛ばす。
「子供たちにVRゲーム機型ダモクレスを配っていたのは貴様らだったのだな。ダモクレスに操られていたとは言え、人を傷つけたという記憶は子供たちの心に一生残り続けるのだぞ。それを貴様らは……許せん！」
　子供を利用するような奴は許せないと睨みながら、シヴィルはオーラを放ってサブリナの怪我を治し、仲間達が全力で戦えるようサポートする。
「悪いケド、偽サンタに、帰る場所はないわ」
　エヴァンジェリンが鎖を脚に巻きつけてサンタの動きを封じた。
「よそ見してる暇なんてないよ！」
　ダッシュから跳躍したひかりがドロップキックをトナカイに浴びせて注意を引く。
　邪魔者を倒そうと、トナカイは雷を放ってひかりの体を弾き飛ばす。
（「……雷を、放った、後、なら……」）
　攻撃直後の隙を狙い、近接したあおが縛霊手でトナカイの脚を殴りつける。すると放たれた霊力が糸となって絡みつき、前脚二本を纏めて縛りあげた。
『メリークリスマース！』
　サンタの筒からまたもやコンテナが撃ち出され小型ミサイルがケルベロスを襲う。
「子供を襲うサンタクロースがいるか！」
　前に出た凛が刀でマイクロミサイルを幾重にも斬り捨て、空中で爆発を起こしてた。
「煌き輝け！　この一撃は、夏の夜空を翔る流れ星！」
　その爆炎を抜けて静夏は軽やかにロンダートから飛び跳ね、宙返りしながらサンタの頭上を取って燃える左拳を叩き込む。
「夢もプレゼントも持たないサンタなんて、お呼びじゃないわ」
　ガトリングを構えたサブリナが弾幕を張り、サンタの装甲を穴だらけにしていく。
「サンタさん、にも、プレゼント、を、お返し、しまス」
　エンミィはアームドフォートの銃口を向け、放たれた砲弾はサンタの顔に直撃し、大きな爆発が起こりサンタの上半身が消し飛んだ。

●暴れトナカイ
　サンタが倒れてもトナカイは戦意を失わず、角を突き出し地面を蹴って突進しようとする。
「動いては、ダメよ」
　翼を生やして飛行したエヴァンジェリンが頭上から砲弾を撃ち込み、弾幕で敵を怯ませた。
「大神、行くぞ！」
「クリスマスは、私たちが護る！」
　右からシヴィルが雷光のように鋭く槍を膝の関節部に突き入れて動きを鈍らせ、反対側から凛の刃がトナカイの右前脚を斬り飛ばした。
　トナカイは角を振るって二人を押し退ける。
（「……ロボットのサンタと、トナカイ、敵で、なければ、子供達が、喜びそう、ですが……」）
　白い花弁を散らしながら跳躍したあおは、赤と白のフォルムのロボットの腕を蹴り上げた。
「スカルブレイカーーー！！」
　静夏は道路標識っぽい斧を振り回し、跳躍して頭上から振り下ろす。トナカイは咄嗟に身を捩って斧は片角を切断する。
　トナカイは反対の角で静夏の腹を貫こうとする。
「もうサンタは居ないわ、あんたも大人しく消えなさい」
　サブリナの背後から現れた御業がその腕でトナカイの角を掴み押し留める。
「ククちゃん、Go！」
　エンミィが呼びかけると、手にした杖がフクロウへと変化し、飛翔してその鋭い爪を顔面に突き立てた。
「その程度？　海外のプロレスラー達の方が手強かったよ！」
　顔を背けたところへ、突進したひかりが正面から胸でトナカイにぶつかり吹き飛ばす。
「サンタクロース気分を味わってみたかったんだよねー」
　静夏はトナカイに跨り、左の拳に炎を宿して後頭部を何度も殴りつけた。倒れ込むトナカイから静夏は飛び降りる。
　倒れながらトナカイは電撃を放つ。ライトが電撃を受け、その間にアレッタが肉球を鼻っ面に叩き込んだ。
「七面鳥ならぬ、トナカイの丸焼きにしてあげるわ」
　サブリナがガトリングから無数の炎の弾を浴びせ、地面に張り付ける。
「その首貰った！」
　そこへ踏み込んだ凛が刀を振り抜くと、トナカイは角で受け止める。そこへもう一刀を放ち、角を斬り落とした。
「人々を守る騎士として、貴様を叩き斬ってくれる！」
　シヴィルが大剣を構えて前傾姿勢で突っ込む。
「カジャス流奥義、サン・ブラスト！」
　背中の翼を羽ばたかせて加速した一刀はトナカイの胸に大きな亀裂を走らせる。
『アルくん、ビーム』
　エンミィの髪飾りアルクトスのつぶらな瞳が輝く。放たれる光線がトナカイの傷ついた装甲を崩壊させた。
「私が架ける七色の虹の橋、あなたは最後まで渡り切れるかな！」
　ひかりはトナカイに正面から組み付きフロント・スープレックスを決め、体位を変えながら次々と違う種類のスープレックスで投げ続ける、そして７回目の投げにフィッシャーマンズ・スープレックスを決めてトナカイを抑え込んだ。
　体中から漏電しながらトナカイはもがいて起き上がろうとする。
（「……風が、紡ぐ、不可視の、刃。優しくも、鋭い、久遠の、詩」）
　祈るように目を失せたあおが心の中で唄う。波紋のように広がる魔力が空気を震わせ、一陣の風が吹き抜けるとトナカイの胴を真っ二つに切り裂いていた。
「今日は、アタシも、忙しいのだから……オルヴォワール。ダモクレス」
　エヴァンジェリンは月光のように刀身を閃かせ、ナイフを頭に突き立てた。流れ続けていたBGMが途絶え、トナカイは動きを止めた。

●楽しい日の始まり
「は～、作戦成功ね！」
　大きく息を吐いたひかりは、ケルベロスとしての初仕事が上手くいって良かったと安堵して汗を拭う。
（「……ロボロボしい、敵、でした、ね。……ゴットサンタは、変形、合体、する、巨大ロボ、にでも、あたる、の、でしょうか……」）
　ゴッドサンタの幻を見上げるように、あおは空へ視線を移した。視界にはまだ灯らないイルミネーションの飾りが映る。
　ケルベロス達は戦いで壊れた箇所にヒールを掛けて回る。
「これで無事にクリスマスのイベントを行う事が出来るな」
「イルミネーションか、楽しみだな」
　シヴィルが元通りになった周囲を見渡し、夜にライトアップされた姿を想像して凛は頬の緩ませる。
「夜になったらここも賑やかになるわ」
　サブリナもイヴの夜が待ち遠しいと、夜の到来を待ち遠しく感じた。
「やっぱりクリスマスは楽しいものじゃないとねー」
　ヒールを終え、これで楽しいクリスマスを迎える事ができると、静夏は満足そうに笑みを浮かべた。
「皆も、どうか素敵な、ノエルを、ね」
　そう言い残してエヴァンジェリンは一足早く空を飛んで待ち人のところへ去っていく。
「平和なクリスマス、を、手に入れまし、タ。平和が、良い子への、プレゼント、でス」
　エンミィは勝ち取ったプレゼントに満足し、人々にもその平和をおすそ分けする。
　今から仕事に行く人も夜にはクリスマスを家族や大切な人と過ごすのだろう。サンタになって子供にプレゼントを贈る姿を想像し、ケルベロス達は穏やかな表情でその場を後にした。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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