伝説の黒サンタ現る

作者:あずまや

 少年はインターネットに夢中だ。画面には、「ブラックサンタ」の文字。
「サンタクロースはいい子にプレゼントを配るが……ブラックサンタは……」
 彼の声が文字を読み上げていくのを邪魔するように、何かが彼に突き刺さる。
「ブラックサンタ、ねえ。わたしのモザイクは晴れなかったけど、その『興味』、とっても面白いと思う」
 彼の心臓に、第五の魔女・アウゲイアスの鍵が突き刺さっている。彼女は画面をのぞき込み、へえ、ともらした。
「あなた、こんな気持ち悪いことして楽しい?」
「悪い子には、お仕置きしないといけないからね」
 黒い服に身を包んだ小太りの男が、はっはっは、と笑った。

 高松・蒼(ヘリオライダー・en0244)は口先を尖らせる。
「街中どこでもクリスマス一色やな……まったく」
 蒼はため息をついた。
「クララ・リンドヴァル(錆色の鹵獲術士・e18856)さんが予測した通り、ブラックサンタへの興味がドリームイーターになって現れた。犠牲になったんは、少年や。インターネットでブラックサンタを検索してて、後ろから鍵で一突き。いつものアウゲイアスのやり口やで。あいつは他人の興味に手ぇ出しよるからなあ。今回もまったく同じ形で、少年の興味が狙われたんや。興味持つだけでデウスエクスに狙われるとか、ホンマ洒落にならんで」

 蒼はため息を漏らした。
「サンタはええ子にプレゼントを配るが、ブラックサンタは……まあ、『なかなかなもん』をくれるらしい。え、俺? 俺はいらんよ、そんなもん」
「この手の未確認生物みたいなドリームイーターは、おのれが何者かを知りたいがために、噂をしている奴のところに行って、その正体を確認しようとする習性があるみたいなんや。……ブラックサンタをおびき寄せるには、そうやって大声で噂して回るか、そうじゃなきゃ『悪い子』を囮にするのも悪くないかもしれへんな」
「ブラックサンタの攻撃についてはよう分かれへんが、でっかい『ずた袋』を持って歩いてんねん。あれ自体でぶん殴ったり、あるいはあれの中から何か変なもん出しよるかもしれん。気ぃ付けぇや」

「ブラックサンタ言うんは、いわば都市伝説。信じるか信じないかは、みんな次第や。けれど、ドリームイーターになってしもうたら、そら倒さなあかん。激しく抵抗されるかもしれへんけど、絶対に倒してや」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)
ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)
千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
クララ・リンドヴァル(錆色の鹵獲術士・e18856)
ナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)

■リプレイ

●ブラックサンタって、何者……?
 日が暮れる前。
「今日はもう、お帰りになりなさい。冬至も近いですから、日暮れはすぐですよ」
 ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)が子どもたちに話しかけている。「えー」とすぐに否定的な反応を示した少年たちだったが、クララ・リンドヴァル(錆色の鹵獲術士・e18856)も一緒になって「帰ったほうがいい」と言ったことで説得力が増したらしい。しぶしぶ、という感じは否めなかったが、ひとまず子どもたちを『これから戦場になるであろう場所』から遠ざけることはできた。
「お疲れ様です」
 マロン・ビネガー(六花流転・e17169)はねぎらうと、通りにキープアウトテープを張って回る。これで人的被害は十分に防げそうである。
 その夜。
「ブラックサンタさんって、やっぱり全身真っ黒なのかなー」
 シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)の顔がスマートホンの明かりで白く光る。
「さー、どうでしょーねー?」
 千斉・アンジェリカ(空墜天使・e03786)は壁にイラストを描く。
「こんな見た目なんじゃないですかねー」
 アンジェリカの絵は、確かにどこかサンタクロースっぽさがあった。白く塗りつぶされた服。彼は右手に大きな袋を担ぎ、天高く左の拳を突き上げている。逆三角に吊り上がった目に、ギザギザの口、それに、ぼうぼうに伸びたひげ。その上に白で大きく『あんじゅちゃん参上!』と描かれている。
「あー、ぽいね、ぽいね」
 シエラは笑うと、その様子をスマホで撮影した。
「そんなことして、本当にブラックサンタが来るぞ」
 その光景を後ろから見ていて、ナクラ・ベリスペレンニス(オラトリオのミュージックファイター・e21714)が笑った。
「そうだ」
 暗がりから声が聞こえる。
「本当にわしが来たら、どうする?」
 暗闇に紛れて見えなかったその姿が、街灯に照らされてはっきりとわかる。
「……出た」
 それは、まさにアンジェリカが絵に描いたような――いや、拳は突き上げていないが――姿のブラックサンタであった。ナクラは急いで、残りのメンバーに電話を掛ける。しかし、「その必要はない」と、ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)の声がした。
「遠くからでも、ドリームイーターが現れた気配はしていましたので」
 十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)がふわりと笑うと、場の緊張感が増す。駆け付けたものも含めて、8人全員が、ブラックサンタをじっと見つめている。
「君たちは、わしの正体を知っているのかな?」
「ああ、『ドイツ産なまはげ』ことブラックサンタさんだろ!」
「なまはげ……」
 ブラックサンタは首を傾げた。
「……なまはげが、分からないが……」
 さすがはドイツ生まれ、秋田の風習は分からなかったらしい。
「な、なまはげってことは……ごめんなさいです!」
 震えながら声を上げたのは、マロンだった。
「私、サラダに入ってた生タマネギを残しちゃったのです……!」
「あっ、あんじゅちゃんも今かべに落書きをー……」
「わ、私は歩きスマホを……」
 急に懺悔大会が開かれて、思わずクララが吹き出した。
「ま、まあ……悪い子……!」
 そう言った彼女の肩が震えている。アンジェリカの落書きに使ったチョークは水ですぐに落ちるものであるし、歩きスマホだって「危ないかもしれませんが、頑張ります」とシエラが無理にやっていたことだと、クララは知っていた。そして、マロンの残した生タマネギなど、恐らくはブラックサンタが反応するほどの悪事ではないと理解していたから。
 困惑したのは、ブラックサンタだ。
「あ、あの、いいかな?」
「なんでしょう」
 冷静に泉は返した。
「わしは、結局、何者なんじゃ?」
「悪い子に、お仕置きをするサンタがいるそうで」
「ほう」
 彼は興味深そうに首をかしげて、「それで」と聞いた。
「悪い子に、じゃがいもやら石炭を配るんだよ」
 ナクラがそういうと、「ふむ、では……」と困惑したように彼は髪を掻いた。
「やかましい」
 沈黙を守っていたハートレスが口を開いた。
「お前たちは自分が何者なのか、他人に聞くしかないのか。それならば答えてやる」
 冷たい風が吹いた。
「ただの化け物だ」
「……なるほど」
 ブラックサンタは妙に納得したようにうなずいて、「そんなところだろうと思っておった」と言った。

●聖夜、サンタと殴り合い
「この袋の中、何が入っていると思う?」
 ブラックサンタは悲しそうに笑いながら、袋を地面に置いた。ぐちゃりと、変な音がする。それはジャガイモや石炭では、とても出ないような水分質な音。空気が凍り、背筋を何かが這っていく感覚。
「豚の内臓だ」
 その単語に、アンジェリカの顔から血の気が引いた。足元がふらついている。「いやっ……いやあぁっ!」と叫びながら、彼女はベルノルトに向けてドラゴニックハンマーを振り上げた。
「危ない」
 小さくつぶやいて、ハートレスがその間に入る。普段は無表情な彼だが、この一撃はさすがに痛かったらしく、わずかに顔をゆがめているのがわかる。彼の傷口から、地獄の炎が噴き出していた。
「ありがとうございます」
 ベルノルトは肩口に手を当てているハートレスの傷を癒そうとオーラを集中させる。
「いや、オレより先にアンジェリカだ。あのパニックをまずは抑えないと」
「……ああ」
 ベルノルトはうなずいて、アンジェリカにそのオーラを放つ。「あっ」と小さな声がして、彼女が振り回していた武器を下した。彼女の催眠は解けたようだが、場の状況を一目見て、自分が何をしたのかを理解したらしい。
「あ、ご、ごめんなさい……」
 彼女がそういった言葉に、ハートレスは「仕方ない、気にするな」と返した。 
「ブラックサンタさん……よく聞いてください……夢の力は、こうして使うのです……」
 クララはばっと両手を広げる。彼女のもとへ、光の粒が集まっていく。前衛たち全員を包む、光の空間を形成していく。傷ついた全員の傷が癒えた。
「これで、仕切り直しです」
 クララのことばに泉は「いや、違います」と言った。
「彼は手の内のひとつを晒しました……同じ攻撃は、二度と効きません」
 泉が大鎌を振るうと、ブラックサンタに傷がつく。
「ずいぶんと、余裕のある発言だ」
 ブラックサンタは優しそうな笑みをたたえている。悪魔の化身。
「余裕は作るものだよ」
 シエラの指弾が、ブラックサンタの足を鈍くする。チャンスとばかりに、マロンの惨殺ナイフが彼の腕に一太刀入れる。
「もうちょっと、そこにいてもらうぜ」
 ナクラの脚撃が、さらにブラックサンタの足を鈍くした。
「はっは……」
 しかし、ブラックサンタはずいぶんと落ち着いている。
「年寄りを寄ってたかっていじめるものじゃないぞ、まったく……」
 彼はずた袋を拾い上げると、それを放り投げる。マロンに向かって飛んで行ったそれを、ベルノルトがディフェンスに入って受け止めた。「ありがとうございます」とマロンが言うと、「いえいえ」とベルノルトは笑って返す。そして袋をその場に投げ捨てた。
「この中身がどうであろうと、サンタクロースである以上、夢を壊すようなのは非道ではありませんか」
 彼の斬霊刀が、鋭くブラックサンタを斬り付ける。血が出、彼は左腕をぐっと抑えながら、なお笑みを崩さない。
「素晴らしいのう……それでこそ仕置きのしがいのある『悪い子』じゃ……」
「ブラックサンタさん!」
 マロンの前には、いつの間にか湯気の立ち上るトーストがある。
「アツアツ出来立て高級トーストです!」
 小さな女の子とは思えないまっすぐな投擲テクニックで、彼女の激甘トーストが動きの鈍くなったブラックサンタの顔にぶつかる。
「食べきれない悪い子はお仕置きです!」
「あついぃ……」
 クリームの影響だろうか、顔にべっとりと張り付いたそれが、ブラックサンタの顔から離れない。
「完食不能、ってことでいいか」
 彼のノヴァ・ジェネシスによって放たれた熱線は、マロンのトーストごとブラックサンタを焼く。あたりに肉と小麦の焦げたにおいが広がった。同時に、ハートレスは先ほど負った傷口を再び抑える……地獄の炎を利用したグラビティが、ハートレスの体に負荷をかけたようだ。
「悪い子にだって、オシオキはだめなんだよ? どんな子だって、みんないい子なんだからね……。もちろん、デウスエクスは別だけど」
 シエラは柔らかな笑みを浮かべ、軽やかに踊り始めた。
「咲き乱れ、歓びうたえ、春の花よ――」
 花嵐が巻き起こり、ブラックサンタを飲み込んでいく。舞う花吹雪の中で、ブラックサンタからの反論のことばは、何も聞こえない。
「さっきは、いたいけな少女によくもひどいことをしてくれたね?」
 アンジェリカは大きく息を吸い込む。
「咲いた、咲いた、赤い薔薇。咲いた、咲いた、大きな薔薇。赤い花は彼岸へ流し、彼方の空へ」
 歌声が、夜の街に響く。聖歌とは思えない、破壊力を伴った歌。歌に、踊りに、花吹雪。泉は優しく微笑んで「ヒトツメ、行きますよ」と言った。優雅さの中心で、彼の一撃が正確にブラックサンタの動きを止めた。

「ん」
 ナクラは鼻の頭に、ふと何か冷たいものが触れたことに気が付いた。
「あ、雪だ」
 彼は天を仰ぎ見た。黒の中から、白がどんどんと落ちてくる。
「まだクリスマスには早いが、そろそろですね」
 ベルノルトのことばに、「サンタクロース本番になる前に倒せてよかったです」とクララがうなずいた。そして、「そうだ」と思い出したように声を上げた。
「アンジェリカさん、壁の落書きは消さないといけませんね」
「あー……」
 アンジェリカは、すっかり忘れていた、という顔をした。
「寒いし、ヒールで直しちゃお☆」
「……まあ、いいんじゃないかな、落書きが消えれば」
 アンジェリカの無邪気な笑みに、シエラは笑って相槌を打った。

作者:あずまや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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