血のクリスマス事件~メカがサンタでやってくる!

作者:洗井落雲

●クリスマスの惨劇を防げ
「それでは、今回の事件の概要を説明しよう」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は集まったケルベロス達に資料を配りながら、そう言った。
 リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)らの調査によって、VRゲーム型ダモクレスの事件が、大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれる大虐殺を引き起こした侵略型超巨大ダモクレス、『ゴッドサンタ』復活の予兆であったことが判明した。
「ここ最近、VRゲーム機型ダモクレスが事件を起こしていただろう? そのVRゲーム機型ダモクレスだが、どうやら『ゴッドサンタ』の配下によって、少し早いクリスマスプレゼントとして子供たちに届けられたものようだ」
 『ゴッドサンタ』の企みはそれだけでは終わらない。
 『ゴッドサンタ』は、クリスマスを楽しみにする人々を血祭りに上げる事で、自らが復活するためのグラビティ・チェインを得ようと動き出したのだ。
「襲撃が発生するのは、12月24日の午前中だ。もし、『ゴッドサンタ』の企みが成功し、『ゴッドサンタ』がグラビティ・チェインを手に入れてしまえば、クリスマスの夜に『ゴッドサンタ』が完全復活してしまうだろう。君達には、それを阻止してほしい」
 12月24日に襲撃を行うのは、『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』という2体ひと組の量産型ダモクレスだ。
 彼らは12月24日の早朝、日本各地に一斉に現れ、クリスマスを楽しみにしている人々を襲ってグラビティ・チェインを奪い取ろうとしている。
「敵の戦闘力は、この2体でケルベロス8人と互角程度、と言った所か。敵の攻撃方法や外見、襲撃場所などは、先ほど渡した資料に記載している。参考にしてほしい」
「クリスマスの虐殺など、許せるわけがない。どうか、この2体のダモクレスを撃破し、人々の手にクリスマスの平穏を取り戻してほしい」
 アーサーはふむん、と唸ると、
「それでは、君達の無事と、吉報を待っている」


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)
罪咎・憂女(捧げる者・e03355)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
ステイン・カツオ(クソメイド・e04948)
ハインツ・エクハルト(光鱗の竜闘士・e12606)
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)

■リプレイ

●クリスマスを守れ!
 ヘリオンから眼下の住宅街へと降下したケルベロス達。
 着地と同時に、シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)は自身の武器を高く掲げ、
「わ、私達はケルベロスです! この場所は危険ですから、今すぐ……あ、えっと、でも、慌てず、ゆっくりで大丈夫です! とにかく、避難をお願いしますー!」
 殺界を形成しつつ、避難勧告を行う。
 ケルベロスと名乗る者が、殺気を漲らせての避難勧告である。従わない一般人など存在しなかった。
(「うう……やっぱり慣れないですね……」)
 やや頬を染めつつ、恥ずかし気なシャルローネ。人前で大声を出し、注目を集める事に慣れていないようであったが、何せ緊急事態だ、恥ずかしがってばかりもいられない。
 ハインツ・エクハルト(光鱗の竜闘士・e12606)も、サーヴァントのチビ助と共に避難を手伝う。
「落ち着いて、転ばないようにな! チビ助、誘導頼むぜ!」
 朝早い時間帯、かつ休日だったとは言え、通勤・通学、或いはその他の用事で出かける者など、決して人の数は少なくはなかった。だが、ケルベロス達の速やかな避難誘導により、人々は瞬く間に現場から離れていく。
「ハインツさん、此方は避難完了です!」
 シャルローネが、ハインツへ住民の避難完了を告げる。
 ハインツは頷くと、
「オッケー、避難完了! 封鎖頼む!」
 合図を送る。
 メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)とステイン・カツオ(クソメイド・e04948)が、地上と上空から、一斉にキープアウトテープを設置。戦場となる地域を一気に囲い込む。
「やれやれでございます。ダモクレスというのは年末年始はなにかやりたがるようでございますね。準備する側の身にもなってもらいたいものです」
 ステインがぼやく。
「ほんと! クリスマスプレゼントがこれ、なんて嫌だよ!」
 メリルデイが同意した。
「クリスマス、という所が嫌でございますね。最近のVRゲーム機事件と言い……どんな理由があろうと、子供を利用するやり方は許せないのでございます」
「そうだね……楽しいクリスマス、取り戻さないとね!」
 言って、メリルディが再び飛翔する。空から敵の襲来を警戒するためである。
「俺にとっては、定命化して初めてのクリスマスなんだ」
 周囲を警戒しつつ、レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)。
「そーなんだ! じゃあ、楽しみだね、クリスマス!」
 赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)が、屈託のない笑顔で答える。
 レスターは少しだけ困惑した表情で、
「でも、俺はもう大人だから……」
 その言葉に、緋色は首を振る。
「大人とか子供とか関係なく、クリスマスは楽しい物だよ! サンタさんは、子供だけのものだけど……クリスマスは、皆の物!」
「皆の物、か」
 レスターは自身の掌を見つめた。ぐっ、と握り、頷く。
「うん。じゃあ、悪いサンタとトナカイにはしっかりお仕置きして……皆のクリスマスを取り戻そう」
 どこか嬉しそうに、レスターは微笑んだ。
 緋色もにっこりと笑って、頷いた。
「しかし物騒なサンタも居たもんだ。サンタの皮被った殺戮兵器は、しっかり解体してやらないとな」
 八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)。その言葉に、
「ええ。サンタクロースを模したダモクレスとは、なんとも、夢を踏みにじる存在です」
 罪咎・憂女(捧げる者・e03355)は頷いた。
 先般のVRゲーム機型ダモクレス事件と言い、子供を利用した事件が連続している。全く、許されざる状況である、と2人は思う。
「まったく、さっさと偽サンタを解体して、平和なクリスマスを取り戻さねぇとな」
「同感です」
 爽の言葉に、微笑みつつ、憂女が頷く。
 と――。
 どこからか、ベルのような音が鳴り響いた。
「きたよー! サンタとトナカイ!」
 メリルディが叫ぶ。言葉だけを聞けば平和なものであるが、実態はダモクレスの襲来である。
 シャンシャン、鈴とベルを鳴らし、サンタとトナカイ――ダモクレス、『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』が現れる。
「ハッ、登場までサンタ気取りか」
 爽がぼやいた。
「招かれざる来訪者には、それ相応の対応をしませんと」
 憂女が言った。
「よーし、しっかりやっつけて、クリスマスを楽しまなきゃだね!」
 緋色が言った。
「こんな俺でも、子供の笑顔を守りたいんだ……だから!」
 決意を込めて、レスター。
「血染めのクリスマス、なんてホラーやスプラッタはクリスマスにはお断りだぜ!」
 ハインツが叫ぶ。
「楽しいクリスマスを迎えられるよう、最後のひと頑張りと行きましょう!」
 と、シャルローネ。
「さてさて……では、年末の大掃除と参りましょうか」
 苦笑しつつ、ステイン。
「よーし、クリスマスを守るため……行こう、皆!」
 メリルディが叫ぶ。
 それに応じるように、ケルベロス達が一斉に戦闘態勢に入った。まもなく、『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』が戦場に降り立つ。
 かくして、クリスマスを守るケルベロス達の戦いは始まった。

●激突! 『ヴィクトリーサンタ』&『ヴァンガードレイン』!
「サンタさんにはあまーい栗をサービスしちゃうよ!」
 メリルディが両手を掲げる。
「うー……じゃない。くー、りーーー!」
 『ヴィクトリーサンタ』の頭上に召喚された大量のイガグリには、特製のマヒ毒が仕込まれている。
 『毬栗召喚(チェスナットバーコーリング)』。イガグリとはいえ、グラビティであるその攻撃は、ダモクレスの装甲を傷つけるのに十分な威力だ。
「美味しかったかな? おかわり、まだまだあるからね!」
「よぉ、ポンコツトナカイさん。電波対策しっかりしてるか!?」
 爽の改造スマートフォンより放たれた特殊な電波が、『ヴァンガードレイン』の電脳を焼く。機械音の悲鳴をあげる。『ヴァンガードレイン』。
「ははっ、対策が足りてないぜ、ポンコツさん!」
「『すまないがここから先には進ませない。そして、他の場所へも行かせはしない』」
 普段の口調とは違い、何処か男性らしさを感じる口調で、憂女は宣言する。
「『熱と血を奪う、我が抜刀術。あなたからは何を奪うか』」
 翼を広げ、一気にトップスピードへと移る。瞬きする間もなく接敵。姿勢制御は尻尾によって行われる。
「『…………疾ッ!』」
 憂女の『無流崩れ『凍閃』(ムリュウクズレトウセン)』は、『ヴァンガードレイン』の装甲を切り裂いた。生物からは熱と血を奪うとされる神速の抜刀術は、『ヴァンガードレイン』から夥しい量のオイルを吹き出させた。
「クリスマスプレゼントのお手本を見せてやるぜ!」
 紙兵を散布するハインツ。人を鼓舞し、人を守る。彼のグラビティが、彼なりのプレゼントだ。
 そんな主人の心意気を受けてか、『チビ助』も『ヴァンガードレイン』へと攻撃を仕掛ける。『チビ助』の炎が『ヴァンガードレイン』を包み込んだ。
「プレゼントってのは、もらって嬉しくなきゃ嘘だぜ!」
「やはり、中身はダモクレスさんですか……!」
 シャルローネが呟く。ケルベロス達の攻撃により、装甲の下の機械が見え隠れしていた。シャルローネが何かを掴むような動作をする。それに応じるかのように、『御業』が『ヴァンガードレイン』を掴み、その行動を阻害させる。
「血のクリスマス、等と言う物を実行させるわけにはいきません!」
 と、そこで敵側にも動きがあった。まずは『ヴィクトリーサンタ』だ。『ヴィクトリーサンタ』は巨大な腕を振りかざす。
「オラ、そのなまくらパンチ打ち込んでみろやエセサンタ」
 挑発するステイン。『ヴィクトリーサンタ』は標的をステインへと定めたようだ。拳の一撃がステインを襲う。ステインは日本刀で攻撃をガード。衝撃が身体を駆け抜けるが、耐えられないほどではない。
「ハッ、案の定なまくらだぜ、エセサンタ! パンチってのはなぁ、こうすんだよ!」
 突如出現した光の矢が、『ヴィクトリーサンタ』を貫く。ノーモーションで放たれる光の矢。『怪光線(カイコウセン)』。
「あー、パンチじゃなかったなぁ……これは失礼いたしました」
 嘲る様に一礼するステイン。挑発が効いたのか、『ヴィクトリーサンタ』はステインを睨みつけるように顔を向ける。
 一方、『ヴァンガードレイン』も黙ってはいない。角から放たれる、対象を痺れさせる電撃攻撃がケルベロス達を襲う。
 前衛のケルベロス達に降り注いだ電撃攻撃。強力ではあるが、ケルベロス達の闘志を削ぐにはまだ足りない!
「皆大丈夫!?」
 緋色の、傷を癒す聖なる光がケルベロス達を包む。
「クリスマスを取り戻すためだよ、がんばろ!」
 仲間を助け、鼓舞するのがメディックの役割である。緋色は忠実に、的確に、その仕事をこなしていた。
「子供たちに夢とプレゼントを届けるトナカイが殺戮に走るなんて……乱獲されても文句は言えないよ」
 レスターの呟きと共に発射されたビームは、『ヴァンガードレイン』に着弾。
「それじゃ、予定通り、『サンタ』の方はわたしとステインで抑えるよ!」
 メリルディの言葉に、
「トナカイの方はよろしくお願い致します」
 礼を一つ、ステインが続けた。
「ええ、任せてください!」
「『各個撃破のため……こちらは可能な限り抑えて見せよう』」
 シャルローネと憂女が答えた。
 ケルベロス達は、まず『ヴァンガードレイン』を真っ先に討伐、その後、『ヴィクトリーサンタ』を叩くという作戦に出た。
 『ヴァンガードレイン』討伐中の『ヴィクトリーサンタ』の抑えは、メリルディとステインが担当する。
 勿論、メリルディとステインの負担は大きくなるが、支援と回復に徹した緋色とハインツにより、戦線の維持に成功。
 一方、爽と憂女、シャルローネとレスターによる波状攻撃により、ほどなく『ヴァンガードレイン』は地に倒れることになる。
「トナカイ、やっつけたよ!」
 緋色の喜びの声。言葉通り、『ヴァンガードレイン』はバチバチと火花を散らしながら地に倒れ伏し、もはや動く事はない。
「なら、次はサンタの番だ……悪夢はここで終わらせる!」
 レスターの宣言通り、ケルベロス達は『ヴィクトリーサンタ』へと一斉攻撃を開始。必死に抵抗を続ける『ヴィクトリーサンタ』ではあったが、ケルベロス達の猛攻の前では、その命も風前の灯火であった。
 そして、幾度目かの攻防の末に。
「悪夢も、血のクリスマスも、ここがデッドエンドだ!」
 レスターの顔の右半分に、紋章の刺青が浮かびあがった。レスターは特殊な呪文が刻まれた魔弾を発射。と、同時に目標を取り囲むように結界をはる。
 その結界内部において、彼の魔弾を避ける事能わず。『終止路の死十字(デッドエンド・スナイプ)』。その名のままに、そこは終止路となる。
 魔弾による攻撃を、『ヴィクトリーサンタ』は耐えた。だが、耐えただけだ。
「『サンタ』、もう限界みたいだよう!」
 追撃で相手を切りつけながら、メリルディが言う。
 言葉通り、『ヴィクトリーサンタ』の体のあちこちからは煙が吹き出し、その動きも精彩を欠いていた。もはや虫の息である。
「よう、ポンコツ! もうおねんねか!?」
 と、爽。
「血生臭いサンタなんてお呼びじゃねえんだよ。一片の鉄くず残さず壊してやるよ!」
 『【鉱石回路術式】輝石星雨(オリジネラル・ジュエルミーティア)』。それは、『【鉱石回路術式】』と呼ばれる、爽の独自魔術を用い、電脳空間に保管してある全ての陣式を顕現させ、敵を災厄の渦に叩き込む、美しく、鮮やかな、究極の一撃。
「終点は俺の示す先。さ、行ってきな」
 それが、 『ヴィクトリーサンタ』へと放たれた。幾重にも輝く光の奔流にのみ込まれた『ヴィクトリーサンタ』は、爽の宣言通り、一片の鉄くず一つ残さず、この世から消えさったのだった。

●そして聖夜の祝福を
「ふー、お疲れ様! 大体直ったかな」
 緋色が汗をぬぐいつつ、言った。
 戦闘終了後、ケルベロス達は、戦闘により壊れた建物や道路のヒールを行っていた。
「さて、これで無事にクリスマスを迎えられるでしょうか? 代わり映えない日常がいつまでも続くように頑張りたいものです」
 微笑みつつ、憂女が言う。
「みんな、お疲れ様。これで、ダモクレスの被害が減ってると良いなぁ」
 メリルディの言葉に、
「そうですね……しかし、彼らが燃料補給の度にこうも暴れようとされてはキリがありません……ゴッドサンタ探し出してぶっ壊した方がよろしいのでは?」
 と、ステインが答える。
「ゴッドサンタとかいうやつのことも、注意しておかないといけなさそうだな。……それにしても冬の朝から任務はきついな! 寒いしお腹が空いたぜ……」
 と、ハインツがぼやくと、同時に、ぎゅるる、と彼のお腹が鳴る。ハインツは照れ隠しに鼻をこすると、
「温かいものでも食べたい気分だな」
「あー、それは確かに。朝から重労働だったぜ」
 爽が同意する。
「でも、皆さん、クリスマスの準備は済んでいるのですか?」
 シャルローネが言う。
 そう、ケルベロス達には、この後、有る意味もう一つの戦いが――クリスマスの準備とパーティが待っているのである。
「はは、そうだね……クリスマスの準備もしっかり済ませて、笑顔で迎えたいね」
 レスターは、好きな人が隣にいればなおいい、と胸中で続けた。大事な仲間や気になる女性の顔が、胸中に浮かんだ。
「それでは、良いクリスマスを♪」
 シャルローネの言葉に、ケルベロス達は頷いた。

 今日はただ、全ての人に、等しく幸せが訪れますよう。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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