血のクリスマス事件～破壊と絶望を運ぶ者達

■リプレイ

●聖夜を前にして……
　今日はクリスマス・イブ。
　ケルベロス達は和歌山県へと降り立ち、現場となるアパートを目指す。
「今年は、ダモクレスがクリスマスを狙うてきたかー」
　事前予想で、多くのクリスマス事件が予想されていることを受け、八蘇上・瀬理（家族の為に猛る虎・e00484）はやや呆れた様子で呟く。
「うちらが手ぐすね引いて待ち構えとうとこに、ご苦労さんやなホンマ」
　瀬理は空中で２段ジャンプしてアパートの窓縁に捕まり、壁を蹴って宙返りをし、さらに上へと空を蹴る。
「待ち合わせ、間に合うかしら」
　先約のあるクロエ・アングルナージュ（エルブランシュガルディエンヌ・e00595）はやや苛立ちげに呟く。本人はややか弱そうな文学少女と行った印象だが、依頼に臨む彼女は青いパワードスーツを全身に纏い、跳躍補助用ブースターで空中ジャンプをしながら進む。
「折角の休みだというのに働かせるとか、ケルベロスにもダモクレスにも休日はないのかねぇ……」
　アップテンポの曲を流しながら、道路をバイクで行く錆滑・躯繰（カリカチュア・e24265）も悪態づく。一見すると女性にも見える彼もまた予定を入れていたのか、「女の子達に連絡入れておかないとなァ」と愚痴を漏らす。
　とはいえ、皆がテンション低めなわけではない。
「さっさと偽物を退治しとかないとね♪　張り切っていっちゃおっか！」
　これが仕事納めになるかなと呟くアーシィ・クリアベル（久遠より響く音色・e24827）は班行動というのに懐かしさを覚え、楽しそうな表情をしている。
（「やっぱり、コロッサスさんが一緒だと頼もしいです……」）
　鈴原・瑞樹（アルバイト旅団事務員・e07685）は一緒に参加しているコロッサス・ロードス（金剛神将・e01986）を意識してしまう。ただ、現状は作戦中。その嬉しさをあまり表に出さないように努める。
　一方のコロッサス。彼もまた瑞樹に頼もしさを覚えており、内心では共闘できることを喜ばしく思っている。
「そろそろ現場だな」
　仲間にそう告げた彼は乗ってたバイクを止め、アパートに向かう仲間を見届けてから、自班メンバーと索敵に当たり始めたのだった。

●敵はどこから……？
　８人のケルベロスは２手に分かれて、現れるダモクレスに備える。
　メンバー達は警察に出動要請を行った上、避難のサポートを頼んでいた。これには、躯繰が率先して隣人力を使い、スムーズに話が進むよう努める。その際、彼は素の自分あまり出さず、人当たりよく人々と接する。
　さらに、可能な範囲で住民へ事情説明を行い、住宅街の進入禁止勧告、自宅待機を依頼し、ケルベロスの指示で避難出来るよう依頼していた。
　こちらでも、躯繰は笑顔で分かりやすく状況説明し、ケルベロスへの協力を呼びかける。親切丁寧なその言葉に、躯繰は人々から好感を抱かれていた。
　住宅地の外縁部。巡回へと当たるメンバーは地図を実際の立地を照らし合わせ、敵の出現を警戒する。
　光の翼で空を飛んでいたアーシィはその際、出歩く人の姿を見つけて帰宅するよう呼びかけていた。
「こちらクロエ。まだ見当たらないけど」
　アイズフォンを使い、クロエは他班メンバーに呼びかける。連絡を取り合い、できるだけ早く別班の元へ駆けつけられる状況を整えていたのだ。
　通信の相手は、別班の昴・沙由華（ドキドキレプリカント天使・e01970）だ。
　こちらのメンバーはアパート近辺を監視する。バイクに乗ったままの躯繰、そして、篁・鷹兵（大空羽ばたく紅の翼・e22045）は空から双眼鏡を手に警戒を強めていた。
「さて、視認性は高そうだが……」
　そこで、鷹兵がアパート周囲に発生した魔空回廊に気づく。
「ダモクレス出現しました！」
　沙由華もそこから現れるダモクレスを視認し、別班に連絡を入れた。
　同班メンバーも次々に駆けつける。バイクで颯爽と現れる躯繰。頭上に照明弾を飛ばした瀬理もダブルジャンプで壁を乗り越え、アパート前へとやってきた。
　現れたダモクレスは、サンタクロースとトナカイに見える。日の光を受けて光り輝く鋼鉄の体を持つそいつらは近場にやってきたケルベロスに気づき、戦闘態勢を整えようとする。
「皆が楽しみにしているクリスマス……壊させはしません！　フォームチェンジ・エレクトラ！」
　叫ぶ沙由華は全身を光り輝かせ、スーツ姿へと変身した。
「ダモクレス共！　我々が相手をするぞ！」
　空から地面に着地した鷹兵は全身をバトルオーラで包み、現れたダモクレスの迎撃に当たり始める。
「もう少し耐えてよね……！」
　クロエは敵を抑えるメンバーへ呼びかけ、スーツの跳躍補助用ブースターを噴射して家の壁を三角飛びで駆け上がり、屋上から屋上に飛び移って最短距離で現場を目指す。
「あっちかー、急がないと……！」
　アーシィは飛行したまま、直接現場を目指す。瑞樹もまた空を飛び、コロッサスが後を追うようにバイクで住宅地を疾走していくのだった。

●破壊と絶望が運ばれる前に
　ケルベロスの前に立つ２体のダモクレス。トナカイ型、ヴァンガードレイン。そして、サンタ型のヴィクトリーサンタ。
　特攻してくる金色のトナカイを躯繰が狙い、両手に握った惨殺ナイフでその胴体に傷を与えていく。
　そのトナカイは手始めに、頭に生やした角から電撃を発してきた。サンタもまた、背負っていた白い筒状のものから鋼鉄のプレゼントボックスを取り出して、乱舞してくる。
　飛んでくる電撃は沙由華が受け止めるが、乱舞される鉄の箱はそうも行かない。その身に重い塊を受けた瀬理がニィッと嗤う。
「プレゼントのお代はうちらのグラビティか。残念やけど手持ち無いから、代わりにこっち払うわぁ！」
　瀬理がトナカイに突きつけた獣の拳。白虎のウェアライダーの彼女は生粋の捕食者である虎の本能のまま、バトルオーラを纏った獣の拳で、一気呵成に殴りかかる。拳はトナカイの腹を抉るが、傷は浅い。
　ケルベロスはまず、攻撃が危険と思われるトナカイに攻撃を集中させる。
「受けよ！　時空凍結弾！！」
　バトルガントレットの指先をトナカイに突きつけた鷹兵は、その尖端から物質の時を止める弾丸を連続して撃ち放つ。
　だが、多少体を凍らせたところで、トナカイは止まらない。更なる攻撃と、トナカイは雄雄しい角を差し向けて突進してくる。それを鷹兵が押し留めようとしていたが、決してダメージは小さくないようだ。
　こちらも、序盤にトナカイの電撃を受けていた沙由華。
「エネルギーチャージ完了……セィフティ解除……言語入力『エレクトラ・ショック』」
　沙由華は拳にエネルギーを集め、腕力と共に地面へと叩きつける。そこから衝撃波が巻き起こり、浴びたトナカイが体に痺れを覚えていたようだ。
　ただ、沙由華はトナカイを狙い続けるわけでなく、サンタ型の前へと移動していく。そちらは鋼鉄の拳に握り締めて殴りかかってきていたのだ。
「まだです……。こんな攻撃では私は倒れません！」
　その拳に殴打はされたが、沙由華はそう呼びかけてサンタの気を引こうとしていた。
　しばし、敵を抑えながらの戦いが続くが、すぐに戦況は大きく変化する。
「おっまたせー！」
　テンション高く叫びながら空から斜めに急降下し、ザザーッと地面を滑って踏ん張ったのはアーシィだ。
　振り返るダモクレス達。アーシィはチームの火力として、全力で攻め込むことにする。
「ほら、足元注意だよ！」
　日本刀「星河」に雷の霊力を纏わせたアーシィは鋭い突きを繰り出し、駆け巡る雷でトナカイの装甲を砕く。
　こちらも頭上から降り立つクロエ。メットの下から冷静に敵の姿を観察した。
「どうせ化けるなら、赤鼻くらい付けなさいな」
　クロエは構えたバスターライフルから光線を発し、トナカイを牽制する。
　バイクを飛ばして駆けつけたコロッサスも、ダモクレスへと険しい表情を向けて告げた。
「悪しき終焉、絶望の未来は我らが武と意地を以て打ち砕く」
　コロッサスは早速戦線に加わり、砲撃形態としたハンマーから竜砲弾を発射する。重い一撃を受け、トナカイはやや脚を止めてしまう。
　翼を羽ばたかせて地上に降り立つ瑞樹は、先に戦っていた仲間、とりわけ敵を抑えるメンバーの為に、オウガ粒子を飛ばして彼らの傷を塞いでいく。
　その瑞樹を、トナカイが再び飛ばした雷撃が襲う。瑞樹は思わず目を瞑ってしまうが、攻撃は飛んでこない。うっすらと開いたまぶたの先には、コロッサスの背があった。
「守るって、誓っただろう？」
　その優しい声音に。瑞樹は小さく、「はい」と頷くのだった。

●プレゼントの返礼を
　町に降り立つ、サンタとトナカイのダモクレス。そいつらが繰り出す攻撃は苛烈だ。
　的確に後ろから狙うサンタ。沙由華が時に裂帛の叫びを上げながら抑え続ける中、メンバーは一撃の威力が非常に高いトナカイに攻撃を集中させる。
　ケルベロスへと突進して暴れ回るトナカイ。前に立つメンバーが押さえつけようとするも、トナカイは止まらない。左角が切り落とされ、全身に傷が増えてきているのだが……。
　意を決し、クロエは展開した開放型可変バレルに、巨大な結晶の矢を精製していく。
「アーバレストモード、イグニション。ＣＤＳ、フルドライブ」
　その制御はかなり難しいが、彼女は見事にコントロールして見せて。
「お待たせ、綺麗な流れ星を一つあげるわ。だから、そのまま……地に堕ちなさいッ！」
　その流れ星を投射したクロエ。刹那宙を飛んだ矢は穿ったトナカイの体ごと、近場の壁へと縫いとめる。
　しかし、トナカイはしぶとく、得意の雷撃を放つ。鷹兵が身を張って受け止めた後ろから、躯繰が古代語を紡いで光線を放射した。
　前足を石と化したトナカイへ、電撃に耐え切った鷹兵が叫びかける。
「砕けッ！　ブレェェドッ！　クラッシャァアァァァッ！！」
　彼はブレードを展開した両腕のバトルガントレットを、前方に突き出す。それらはロケットのように飛んでいき、トナカイの胸部装甲を破壊する。
「貴様もまた辛苦の時代を齎す者……消え去れ！」
　ガントレットは勢いを弱めることなく、トナカイの体を砕いてしまった。
　相方の方を見やるサンタだが、沙由華がそれを許さない。
「貴方の相手はこっちです！」
　彼女は守りから攻撃に転じる。仲間達もかなり疲弊しているはず。だからこそ、短期決戦で臨むべく、彼女は降魔の拳を叩きつけ、その体力を奪いつつダメージを与える。
　ただ、沙由華の傷も大きく、それだけでは苦しそうだ。
　しかも、サンタは腰のベルトのバックルを光らせ、前線のメンバーに圧力を与えてきた。
「オラトリオの力、ここに見せようッ！」
　鷹兵は紅の翼を広げる。彼の発するオーロラの光は、自身を含めて前に立つ仲間達を包み込む。
「聖王女様、どうかお力をお貸しください」
　回復役として動く瑞樹も祈りを捧げ、自身の力を高める。その祈りを今度は沙由華に向け、彼女を苛む傷を大幅に癒していく。
　その間にも、ケルベロスは攻撃を続ける。クロッカスがエネルギー光弾を発する後ろからクロエが狙う。
「冷たいメタルボディは、風情がないのよ！」
　紅い見た目には、全く人間味を感じさせはしない。そいつへとクロエは爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を連射し、叩き込む。
　ただ、敵もまた、鉄製のプレゼントボックスを後衛陣目掛けて投げ飛ばしてくる。
　仲間のガードが間に合わず、傷つく躯繰。しかし、体から血を流そうとも、彼は全く動揺することなく両手の刃でサンタの体を切り裂く。
　だが、サンタは幾度もプレゼントボックスを投げ飛ばす。これが欲しいのだろうと言わんばかりに。
「コースが甘いわ！」
　ケルベロスも負けてはいない。瀬理が飛んでくる箱を拳でかっ飛ばし、さらに敵へと攻め入る。敵の右肩を指突し、その部分を石のように固まらせてしまう。
　そこで、好機とアーシィが仕掛ける。
「戦場で私の前に立ちはだかるというのなら……。いきます！」
　アーシィはあらゆる熱を奪うほどの冷気で刀身を包みこむ。そして、その刀身を高速で振るい、サンタの体を凍りつかせていった。
　だが、サンタはまだ倒れない。そいつは腰のバックルを光らせてきたのだ。
「げっ、それは反則じゃないかな！？」
　危機感を募らせるアーシィの横で、クロッカスが闇を纏う神の神剣を顕現させていた。
「我、神魂気魄の剛撃を以て獣心を断つ――」
　破邪の神雷と八雷の輝きを宿した刀身。彼が一度抜けば、まさに終末の如く全てを断ち切る。
「だんちょー！」
　アーシィの歓喜の声と同時に、ヴィクトリーサンタの体が寸断されて。そいつは黄昏を見ることすらなく、散って行ったのだった。

●ホワイトクリスマス
　ダモクレスを討伐したケルベロス達は事後処理に当たり始める。
　アパート近辺で破壊された部分にヒールを撃ち出すが、他人向けのヒールがない沙由華などはメンバーのサポートに当たり、瓦礫などを撤去していく。
「しかし、奴らめ。中途半端に文化は取り入れているわけか……」
　散乱する鉄のプレゼントボックスに視線を落としつつ、鷹兵は呟いた。
「これなんかどうかな？」
　何かプレゼントできるものはないかと物色するうち、とある箱の中にアーシィは何か発見したが、それはサンタのベルトのバックル。残念ながら、目立った拾得物はなかったようだ。
「んー……。そんな気はしてたけど、サンタなのは外見だけ？」
　同じく、お土産を期待していたクロエが首を振る。
　そんな彼女の首筋に、ふわりと冷たいものが。
「……あら、雪ね」
「ほんまもんのサンタから、うちらへのプレゼントかもなぁ」
　空から降ってくる雪に、スーツのメットを外したクロエは笑顔を浮かべる。頭の後ろで手を組みながら、瀬理も空を見上げて笑っていた。
「良いクリスマスを迎えられますように……」
　雪降るクリスマスに、沙由華はサンタの衣装を用意していなかったことをやや残念がっていた。このままプレゼントを配るのも良かったのかもしれないが。
「プレゼントと言えば、帰って旅団パーティー用のケーキ作らんと」
　瀬理がそう呟くと、ケルベロス達はこの後の予定を思い出し、事後処理を急いで進める。
　程なくそれも終了して……。
「それでは、クリスマスの買出しに行きます？」
「ああ、一緒に行こうか」
　瑞樹の誘いに、コロッサスは一言返して彼女の手を握ると、瑞樹は顔を少し赤くしてしまって。
「旅団のみんなもパーティーを楽しみにしていますからね」
「俺も楽しみだよ、瑞樹とのクリスマス」
　微笑み返すコロッサス。２人はそのままバイクに跨り、街に出向いて行ったのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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