血のクリスマス事件~メリー・苦シメマス

作者:こーや

 リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)、リー・ペア(ペインキラー・e20474)、アーリィ・レッドローズ(ぽんこつジーニアス・e27913)。
 この3人の調査によってVRゲーム型ダモクレスの事件について判明したことがある、と河内・山河(唐傘のヘリオライダー・en0106)は告げた。
「大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれる大虐殺を引き起こした侵略型超巨大ダモクレス、『ゴッドサンタ』復活の予兆やったんです」
 VRゲーム機型ダモクレスは、ゴッドサンタの配下によって『少し早いクリスマスプレゼント』として子供たちに届けられたものらしい。
 『ゴッドサンタ』は、クリスマスを楽しみにする人々を血祭りに上げる事で、自らが復活するグラビティ・チェインを得ようと動き出したのだ。
「襲撃が起きるのはクリスマスの前日。12月24日の午前中です」
 この襲撃が成功してしまえば、グラビティ・チェインがゴッドサンタの元に集まり、クリスマスの夜にゴッドサンタの完全復活に繋がる。
 世界に大破壊を招くことになってしまう。
「襲撃を行うのは、『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』という2体で1組の量産型ダモクレスです。彼らは事件当日の早朝に日本各地に一斉に現れて、クリスマスを楽しみにしてる人々に襲い掛かります」
 トナカイ型のダモクレス、ヴァンガードレインは角から放つ雷撃攻撃を得意としている。その体躯を活用した突進もしかけてくる。この2種類のみ。
 その名の通りサンタ型のヴィクトリーサンタは、袋のような見た目の大砲からプレゼントを弾丸にして発射。キャンディーケーンならぬキャンディー剣を戦場に降り注がせる。クリスマスツリーの飾りを飛ばしての複数人の治療も行う。
 そういうところでクリスマス意識しなくてもいいのに、朝倉・皐月(萌ゆる緑・en0018)がぼそりと呟いた。
 山河は苦笑いを零し、唐傘をくるりと回して見せた。
「この襲撃を阻止出来たら、グラビティ・チェインが枯渇したゴッドサンタを撃破できるかもしれません。なにより、大惨事を未然のものとするためにも、皆さん、よろしくお願いします」


参加者
東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
ヨエル・ラトヴァラ(白き極光・e15162)
イングヴァル・ヴィクセル(鎧装機兵・e15811)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)

■リプレイ

●じゅんび
 イングヴァル・ヴィクセル(鎧装機兵・e15811)は慎重に荷物を下ろした。
 茶色の鉢に収まるくらいのモミの木だ。メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)の背丈より僅かに低い。
 この大きさであれば部屋のどこからでもツリーが良く見える。
 微妙に角度を調整したり、置く場所をずらしたり。無表情のイングヴァルだが、ささやかな行動の1つ1つから彼の感情が読み取れる。
 そんなイングヴァルの様子にヨエル・ラトヴァラ(白き極光・e15162)がくすりと笑みを零す。手元には神社マンクッキーやチョコレートなどをラッピングしたオーナメント。
「やっぱりワクワクしちゃいますね」
「そうですね。目的を忘れそうなくらいに超楽しいです!」
 こちらも無表情な京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)だが、オーナメントを取る手は軽やかで、楽しんでいることが窺える。
 その足元には、主人の手によってモールで飾られたオルトロス『えだまめ』。ちょっとチクチクするらしく、きゅいんきゅいんと困ったような鳴き声が上がる。
 朝倉・皐月(萌ゆる緑・en0018)はじっと小さな体を見つめてしまう。
「夕雨さん」
「どうかしましたか?」
「可愛いからそのままにしといて欲しいって思っちゃうんだけど」
「私もそう思います」
 というわけで可愛いは正義を合言葉にえだまめはしばらく放置されることが決まりました、ご了承ください。
 一方。
「むう……」
「むむ……」
 東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)とウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)はツリーを見上げて唸る。
 片や約136cm、片や約108cm。エアシューズで上げ底してもまだ足りない。対してツリーは170cmを超えている。
 ツリーの上部を飾るには、爪先立ちに加え、手を目いっぱい伸ばさなくてはいけない。
 綿菓子は飾り付けの間だけと決め、エアシューズを脱いで黒塗りの高下駄に履き替えて身長水増しで高さ問題をクリア。
「おやおや」
 メイザースの眦が下がった。
 自称とは言え英国紳士としては見過ごせない。そっとウィゼに踏み台を用意してやる。
「おお、かたじけない。使わせてもらうのじゃ」
 頭を下げると、ウィゼは早速踏み台を登る。
 背が届かなかったが為に歪に乗せてしまった飾りを調整しつつ、部屋を見回す。
 ヒールドローンに色を付けて飛ばすことが出来れば賑やかになっただろう。本来の用途から外れてしまうので実際は出来ないが、そんなプランを思い描くのも楽しんでいる証だ。
「どう? 今はキリがいいところかしら?」
 ドアからひょいとマキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)が覗き込む。
 給湯室でケーキのデコレーションの準備をしていたのだ。
 事前に焼いてきた3つのスポンジに慣れた手つきで生クリームを伸ばしてやれば、あとは飾るだけ。
「そちらの準備が大丈夫でしたら、こちらはいつでも。かかりきりじゃなければいけない作業ではありませんもの」
 壁を飾り付けていた霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)は手を止め、ニコッと笑って見せた。
 イングヴァルも作業を中断すると、給湯室に備え付けられてある冷蔵庫へと向かう。ケーキのデコレーション用にフルーツを持ち込んでおいたのだ。
「苺にクランベリー、それとラズベリーとブルーベリーかな? 随分と多いね」
「デコレーションで余ってもこれならそのまま食べることが出来るからな」
「それはいい考えだ。賑やかになっていいね」
 かくいうメイザースが取り出したのはサンタを模ったシュガークラフトだ。クリスマスケーキには欠かせない。

●けーき
 綿菓子は絞り袋を手に取り、生クリームで彩り始める。1度目はなかなか上手くいった。形も大きさもいい。
 続けての2度目、3度目は少々歪になってしまった。
「……結構難しいのね」
「持ち方を変えてみたらどうかしら」
「持ち方?」
「ええ、両手で袋を握るんじゃなくて、右手で上の方を持って、左手は絞り金のあたりに添えるだけにするの。左手で狙いをつけて、右手で袋からクリームを押し出すイメージね。あとは失敗を恐れずに楽しむことが肝要かしら」
 マキナの助言通りにしてみれば、安定性の違いは歴然。面白くなってきたのか、綿菓子は黙々とクリームを絞り始める。
 失敗したところはマキナがフォロー。絞りすぎたところはあえて同じくらいにクリームを盛る。
 どうしようかと悩んでいた皐月に声をかけ、そこにフルーツを散らせ、たっぷりのクリームが大胆なデザインに見える。
 一方。
「クリスマスケーキは、なんか派手なものですよね」
「うむ、とにかくカラフルにするものじゃ」
 夕雨の言葉と、同調したウィゼの手により、どんどんフルーツが乗せられていく。
 メイザースは止めるどころか笑みを浮かべて見守っている。
「実に賑やかだね。キルケもそう思わないかい?」
 その肩に乗っている、ファミリアである白い長毛猫は返事の代わりにぱたりと尻尾を振った。
 3つ目のケーキは山盛りベリーで赤主体に飾られているところだ。ヨエルがアクセントとして透明感ある緑のマスカットを乗せる。
 ちさはピンクの瞳を細めて笑った。
「ふふ、赤と緑の宝石箱みたいですわね」
「クリスマスカラーですからね」
 そう言ったヨエルだが、その後に物騒なことをぽつり。
「本当はキュウリ位の緑色があるといいんですけどね」
「却下だ」
 しっかり聞いてしまったイングヴァルが慌てず騒がずすかさず一蹴。
 ふいに、ノエルが顔を上げた。大きなガラスの窓の向こうに、何か2つの影が見えたのだ。
 すべてを察した他のケルベロスもそちらに視線を向ける。
「……そういえばそうでしたね、ゴッドサンタがらみで来てたんでしたね……」
 夕雨の声音はやれやれと言わんばかりだ。ぶっちゃけ、本来の目的忘れかけてたしもうどうでもいいとか思ってもいたわけだが、そうは問屋が卸さない。
 ケルベロスは速やかに戦闘準備――すなわち、ケーキの避難を始めたのであった。

「ホッホッホ、メリー・苦シメマーーーーースッ!」
「フゴフゴーーーーーーーーー!」
 どうも、皆さんのサンタですとばかりにヴィクトリーサンタとヴァンガードレインが登場。ご丁寧に玄関から入ってきやがりました。
「挨拶からしてパチモノくさいのう」
「デウスエクスじゃければ、帰れって言いたくなるレベルですね」
「本物のサンタさんにも謝ってほしいですわね」
 ウィゼ、夕雨、ちさによる先制口撃。3コンボ。
 ぐさぐさと何かが刺さったらしいサンタが胸を抑えている。レインは痛ましげにサンタを見ている。なお、トナカイは英語でレインディアというらしい。
「諸行無常!!!」
「グハッ!」
「フゴーン!?」
 容赦のない綿菓子の渾身のパンチがサンタに叩き込まれる。
 ケルベロスは待ってはくれないのである。
「豪快だね。そうそう、よい子の皆はサンタさんへのお願いは決まったのかな?」
「今はサンドバッグが欲しいなぁ。出来れば赤いのと金色の」
「ふむ、それなら金属だけどお誂え向きのサンドバッグがいるね、そこに」
「あ、ホントだぁ♪ サンタさんありがとう、これでばーんっと殴れるね!」
 まるで今日の晩御飯について話すかのようなノリのメイザースと皐月である。
「という訳だ。よい子を泣かせる悪いサンタにはお灸をすえてやらなければね?」
 赤い瞳がシニカルな輝きをたたえたのは一瞬。泰然とした態度はそのままに、メイザースの彼岸花がサンタを捉えた。
 サンタの体からゴウッと上がった彼岸花のようは炎目がけて、マキナは走った。
「心を暖め、楽しい気持ちにするクリスマス、人々をダモクレスが苦しめるというのなら。貴方達を排除するわ」
 エクスカリバールの先端を赤い装甲に突き立てると、床を蹴って跳び退り、その勢いで一気に剥がしとる。
 サンタが体勢を立て直す間は無い。マキナの体がサンタから離れた途端、槍へと変化を遂げたウィゼの黒い液体が襲い掛かった。
 紙一重で躱したサンタが白い大砲を構える。
「四ノ五ノ言ワズ苦シメ! プレゼント・フォー・ユー!!」
 轟音と共に放たれたプレゼントボックス。そこにちさが飛び込んだ。
「私の家にはちゃんと優しくてプレゼントを置いていくサンタさんがいるのにこのようなサンタもいるとは……いけませんわっ。エクレア!」
 着弾した腕から上がる煙には構わない。それよりも、夢を与えるサンタを語った罪を償わせることの方が大事だ。
 ちさの全身をオウガメタルが覆う間に、黒いウイングキャット『エクレア』が羽ばたく。
 途端、レインが嘶いた。
 前足を持ち上げて立ち上がると、猛然が前衛のケルベロスへと突っ込んだ。

●れっつぱーりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
 表情はそのままに、夕雨は腕を振るう。首を彩る氷狼の翼が揺れ、紙兵を前衛へと散布する。仲間への支援は、プレゼントを配る本物のサンタのような気分になる。
 その足元からモールで飾られたままのえだまめが飛び出し、咥えた剣でサンタに襲い掛かった。
「ドイツモコイツモ、クリスマスクリスマス、浮カレヤガッテ!」
「ヴィクトリーサンタなんて名乗っておいて、言うに事欠いてそれですか」
「リア充爆発シロッテ、母親カラ教ワラナカッタノカ!?」
「ブルスコー!! リア充爆発大義名分ブルスコー!!」
「……イーさん、さっさと潰してしまいましょう。こんなサンタもどきとトナカイもどき、これ以上喋らせる訳にはいきません」
「ああ、速やかに殲滅しよう」
 ヨエルがライフルで狙いを定めたのと、イングヴァルが集会所の床を蹴ったのはほぼ同時。
 サンタに痛烈な一撃を叩き込んだイングヴァルがサンタから離れた瞬間、時空を凍結する弾丸がサンタの装甲に食らい込んだ。
 後に続いた皐月が電光石火の蹴りを繰り出し、ぽってぽてと走って来たテレビウム『スキルニル』はチェーンソー状の剣でずぎゃーんと残虐ファイト。
 数拍置いてサンタに迫った綿菓子の蹴りが宙を裂いた。
 けれど、サンタが身を翻した先には、狙ったようにメイザースが待ち構えていた。鬼の拳が、赤く光る装甲を砕いた。
「メ、リー……苦シメ、ラ、レ、タ……」
「ヴィクトリー! フゴォォォン……!」
 ゴトリ、重々しい音を立てて倒れ込むヴィクトリーサンタ。
 レインの鳴き声には哀愁が漂っているが、他人事ではなかった。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ」
 クリスマス色の室内に響く笑い声。
 レインがそちらに視線を向ければ、髭をしごくウィゼの姿がある。
「現れ出でるのじゃ、そして敵を殲滅するのじゃ」
 呼び出したのは本人を模したロボ。ロボじゃない方のウィゼがびしりとレインを指さした。
「ウィゼロボ、GOなのじゃ」
 それは、ヴァンガードレインがボロ雑巾のようにめっためたにされる合図でもあった。

「呆気なかったな」
「クリスマスの邪魔をする輩は馬に蹴られて倒されるのがお約束というものです」
 さて、とヨエルは室内を見回す。戦場だったにもかかわらず、それほど荒れてはいない。少しヒールしてやるだけで終わり。
 あとは途中だった飾り付けとケーキの盛り付けだけ。それはダモクレスをおびき寄せる為のものではあったが――。
 全員が沈黙し、互いの様子を視線で探る。皆、考えは同じのようだ。
 くすくすとちさが笑い声を漏らす。
「では、仕上げをしてパーティーにしましょう」
「クリスマスイブにも働いたのですから、まあご褒美ということで」
 デウスエクスのおかげで年中無休のケルベロスなのだから、このくらいの役得はないと。
 オーナメントの1つをえだまめの武器に括りつけ、さらに飾ってやった夕雨は満足げ。
 メイザースが目を細めて言う。
「それに折角準備したんだ、楽しまなくては損だろう?」
 普段利用している人々も呼ぼうかという話も出たが、避難してもらっていたから呼ぶにも時間がかかる。それに何と言ったってクリスマス前日で冬休み。それぞれの予定もあるだろうということで、ケーキは9人で食べることになった。
 余った分は持ち帰ればいい。
 飾り付けと盛り付けを終え、皆でケーキを取り囲む。
 すとん、とマキナがケーキにナイフを差し込んだ。菓子作りは得意だが、こんなケーキは自分では作れない。仲間と一緒だから作ることが出来たケーキだ。
 まだ味わってないが、もうマキナには分かる。いや、きっと全員が分かっている。
 きっとこのケーキは格別の美味しさで、記憶に残るものだと――。

作者:こーや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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