魔法少女は悪と戦う

作者:天木一

『きゃー!!』
 全ての窓ガラスが割れ、ぼろぼろに朽ち果てたビルやマンションが建ち並び、夜を照らすネオンもない街に女性の悲鳴が響く。
『へっへっへ、そら金出せ!』
『かわい子ちゃんじゃ~ん、どう、ちょっと俺らの相手してくんない?』
『いや、助けて!』
 レザージャケットにトゲトゲの肩パットをした、モヒカン頭の柄の悪い男たちが女性に絡む。
「まちなさい!」
 そこへ現れたのは輝く杖を持ったフリフリドレスの少女。
『ああ? なんだぁ?』
『お子様に用はねぇんだよ、帰っておねんねしてね!』
 柄の悪い男たちは邪険に手を振って女性へと視線を戻す。
「わたしは正義の魔法少女ルビー! 悪いことをする人は懲らしめてあげる!」
 杖をバトンのようにくるくると回し、ピタッと止めてポーズを決める。その背後には爆発が起こり炎がハートのマークを作った。
『おいおい、ヒーローごっこは夢の中でやるんだな』
『ガキが正義ぶって首突っ込むと怪我じゃすまねぇぞ?』
 男たちが厭らしい笑みを浮かべて嘲る。
「もう怒ったんだから! 今から謝っても許してあげないからね!」
 少女は杖を掲げる。するとすると炎の玉が浮かび、杖を男に向けると炎の玉が発射され、炎の柱が起こって男の一人を燃やした。
『うぎゃーー!!』
『ひぃっ!?』
 燃える仲間を見てもう一人の男が逃げ出す。
「悪は逃がさないんだから! ハートヒート!」
 放たれたハートの炎が敵を囲み、そのままオーブンで温めるような加熱で焼き殺した。
「おねえさん大丈夫だった?」
 座り込んでいる女性に少女は声をかける。
『は、はい。ありがとうございました』
 だがその女性の手に鈍く光るものが見えた。
「ファイアーボール!」
 女性の持つナイフが届く前に、少女の炎の玉が直撃した。
『ぐぎゃあああ!』
 隠し持っていたナイフを落とし女性は燃え尽きた。
「やっぱり、この街にいるのは全員エネミーみたいだね。死と暴力の街ブラッディークロスって名前だけのことはあるね」
 少女はまた杖をくるくる回しながら歩き出す。
「でも、この爆炎の魔法少女が来たからには、この街の悪党たちも今日までの命だよ!」
 元気いっぱいに少女は次なる敵を求め、廃墟と化した街の探索を始めた。
 
 整然と並ぶ街並みに電灯や自販機の明かりが暗闇を照らす。そんな場所に似合わぬVRギアをつけた寝巻きのような格好をした少女の姿。その横には少女と同じような顔をしたフリフリドレスの魔法少女の姿があった。
「あっちの方に人が多そうだね!」
 夜でもネオンの明りが賑やかな商店街へと少女がアバターを連れて歩いていく。後には焦げた臭いと火で焼けた跡が残る。そこにはどこにでも居そうな大学生らしき男性2人と、女子高生の焼死体、手元には携帯電話が転がっていた。
 
 
「さいたまの市街地で、VRギア型のダモクレスを装着した少女が現れ、街の人々を次々と殺していく事件が予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロス達に事件の概要を話す。
「VRギア型ダモクレスを装備した少女は、ゲームの中で行動していると思い込んでいます。目に映る一般人が全て敵キャラに、手に持つ小物は武器に見えているようです」
 VRギアが実体化したアバターが人々を襲うことになる。
「一定のダメージを与えればアバターは消えますが、すぐに復活してしまいます」
 少女がゲームを続けようとする限り復活し続ける。
「そこで少女にゲームをもう続けたくないと思わせ、それからアバターを倒す事でVR型ダモクレスも倒せ、少女を助ける事ができます。気を付けて欲しいのは、少女(VR機部分含む)を攻撃した場合、身を守るためにアバターと合体します。そうなると復活しなくなりますが、少女を助ける事も出来なくなってしまいます」
 少女は通常ダメージが無効となっている。あえて攻撃を与えない限りアバターとの合体はないだろう。
「現れる場所はわかっています。ですので被害が出る前に接触する事ができます」
 そこで待っていれば向こうから現れてくれる。
「ダモクレスの変換で、ケルベロスである皆さんの事を『倒さなければならない強敵』と認識しているようです。どんな言葉も行動も、悪意あるものとして変換されてしまいます」
 このままでは説得も意味がなく、少女を救う事ができない。
「そこで、ゲームの登場人物のように恰好や演出をすることで、変換の影響を受けずに言葉や行動を伝える事ができるのです」
 少女を説得しゲームを止めさせるには、このシステムを上手く使う必要がある。
「ゲーム中に殺人を犯してしまうなんて酷い話です。こんなゲームなんてつまらないと少女を上手く説得し、助けてあげてください。よろしくお願いします」
 セリカが一礼してヘリオンの準備に移る。ケルベロス達はどうやって説得しようかと作戦を考え始めた。


参加者
大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
御船・瑠架(紫雨・e16186)
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)
折平・茜(エスケープゴート・e25654)

■リプレイ

●VRゲーム
「ぶいあーる……?」
 夜道を歩きながら、それは何だと空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)が首を傾げる。
「機械にぁ疎いんでよくわからんが最近の玩具ぁ進歩してんだな。何ぁともあれ子供に後ろ暗い事はさせられんし頑張るかね」
 そんな訳の分からない機械の好きにはさせないと気合を入れる。
「VRですか……ふむ、ゲームも進化しているのですね」
 昨今のゲームの進化に大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)が感心する。
「ただこのままいくとリアルとヴァーチャルの区別がつかなくなる恐れがあります。ゲームは一日1時間」
 ゲームから戻ってこれなくなってしまわぬ前に助けようと、ちょうど会社からの帰宅中の人々で賑わう商店街を通り抜ける。
「没入感というのは結構恐ろしいものなんですね……。ともかく、あかねさんは絶対元に戻します!」
 イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)も少女に悪い事はさせないと、商店街を抜けた通りを見渡してその姿を探す。
「VR機のダモクレスですか、最近流行ってますものね。それを逆手に取って無垢な子どもを狙うなど許し難い所業です」
 巷の流行に乗った敵の作戦に、御船・瑠架(紫雨・e16186)は許してはおけないと憤る。
「しかし、いくら依頼とは言えこの格好はだらしないし、ちょっと恥ずかしいですね……」
 瑠架は流浪人の如くぼろぼろの和服姿を見下ろし、恥ずかしそうに俯いた。
「VRギア型ダモクレス。これも一種の洗脳か、リアル過ぎるゲームも考え物だね。いつもは正義のヒーローだけど、今回は少女の為に悪役に変身だ!」
 厄介な相手だとライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)は頭を振って、仮面を被った重武装戦士へと変身を遂げる。
「これも作戦の為、はー……気乗りしないな。茜、角弄っていい? 噛んでいい?」
 自らの恰好を見下ろしてテンションを下げ、ライゼルはじとっとした視線を向ける。
「ゲームで勝てたら考えなくもないです……」
 その視線から逃れるように、折平・茜(エスケープゴート・e25654)は目を逸らして返事をした。
「……見つけました、あそこです」
 仲間に声をかけた弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)が指差す。そこには冬の野外だというのに寝巻のようなラフな格好をした少女と、その隣に杖を持ち赤いフリルの魔法少女のアバターが立っていた。
「VRギアの、没入感を。逆手に……間接的に。子供を、操るとは。中々、考えた物ですね」
 敵のゲームを利用した企みに櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)は良く出来ていると舌を巻く。
「尤も。嫌悪感しか、覚えませんが……」
 そのアイデアが人を害する為のものならば阻止するまでと、叔牙は仲間と共に少女に向かって歩き出した。

●魔法少女
「誰!?」
 怪しい人影にVRギアを装着した少女は足を止め、魔法少女のアバターが守るように前に出る。
「さて……ここから、先は。通行止め……です」
 武闘着の上にボロボロの外套を纏った叔牙は剣を構えて通せんぼし、ゲームキャラっぽく声を作って演出する。
「わたしは正義の魔法少女ルビー! 敵だったらやっつけちゃうよ!」
 元気いっぱいに少女のアバターが杖をバトンのように振り回すと、炎の渦が巻き起こる。
「わたしは――あなたをこの先に待ってる悪夢から助けるために来ました」
 自分自身の胸に刻むように茜は同じ名前を持つ少女に言葉を投げかけ、鋼を纏った拳の一撃で炎を吹き消した。
「出ましたね、爆炎の魔法少女……いざ、勝負です!」
 ライバル魔法剣士っぽい姿をしたイリスが正々堂々勝負を挑み、剣を抜き放って乙女座の幻影を生み出し仲間達の力を高める。
「むむっ早くもライバルキャラ登場!? 受けて立つんだよ!」
 するとアバターも杖をくるくる回してポーズを決めると、炎が巨鳥の姿を取り空へ飛翔を始める。
「あれは鉄屑あれは鉄屑……」
 そう自己暗示した満願は粘鉄製の鎖を地面に張り巡らせて魔法陣を描き、仲間に守護の力を与えて倒しづらい強敵を演出する。
「いつからドラゴニアンに炎の攻撃が効くと錯覚していた?」
 そして満願は余裕の表情を見せて炎の鳥の勢いを軽減させた。
「おっと俺が先に相手をしてやるぜ」
 特攻服にルーンアックスを担いだ仁王が、荒々しい台詞で立ち塞がる。
「邪魔するならまずあなたからやっつけてあげるんだから!」
 アバターが杖で指すと空を舞う火の鳥が突っ込み、仁王は正面から受け止める。
「攻撃が軽いなぁ」
 炎に巻かれ体に火傷を負う、だがダメージなど無いという顔をしてみせた。その隣からボクスドラゴンが体当たりをしてアバターを撥ね飛ばす。
「まだまだ貴女は甘ちゃんですね」
 ライバルPLのスーパーヒロインといった設定の衣装で秋櫻が立ち塞がる。
「動き、難易度、プレイの仕方どれを取って私の演算能力で計算しても、未熟と言うほかないです。もっと他にもあなた向きのゲームは山ほどありますし、このゲームのプレイを中止すべきです」
「なにおー! わたしだってやれば出来るんだから!」
 秋櫻の挑発的な言葉に、少女はムキになって言い返す。
「やれやれ仕方ないですね。格の違いを見せつけてあげます。目標捕捉。戦闘モード起動。セーフティ解除。出力全開」
 肩をすくめた秋櫻が背面に巨大な2門のキャノン砲を展開し、アバターに向けて砲撃を開始する。その爆風に煽られアバターの体が地を転がる。
「このくらいでー!」
「私達はそこらの雑魚とは訳が違いますよ」
 アバターが杖を支えに起き上がったところで、抜き身の刀を引っ提げた瑠架は間合いに踏み込み一閃する。霊魂が集い黒く染まった刃が胴を薙ぐ。血の一滴も出ないが、体の汚れや服の損傷で深いダメージを負っているのが分かる。アバターの頭上にヒヨコマークが飛び体がよろめいた。
「ヒャッハー!」
 そこへ荒野を徘徊する狂人のようにライゼルが奇声を上げながら、虹色の刃を持つ大鎌を振るって襲い掛かり、アバターの胴を切断した。
「正義は負けないんだよ! リトライ!」
 すると倒れたアバターが消えて、新たに体が再構築されてゆく。
「魔法少女ルビー復活!」
 そして元通りになったアバターが杖から炎の玉を発射した。
「敵アバター……復活を、確認しました。攻撃を、続行してください」
 叔牙が仲間を援護する為に剣を地面に突き刺し、星座の力を与えて強化する。
「効かねぇヨ!! 詰まんねぇだるゥオオオオ!?」
 炎の玉を食らい火に巻かれたライゼルが、叫びながら自らの体を癒して前進する。
「ひゃっ!?」
 その姿に怯えた少女は座り込み、アバターが必死にハート型の炎を放って体を縛り付け近づかせないように拘束した。
「ふふ、炎が好きなようですが……、あまり効いてませんよ?」
 翼を羽ばたかせたイリスからオーロラの如き光が放たれ、炎を鎮火してしまう。
「次はこっちの番だな、覚悟しろよ」
 間合いを詰めた満願は拳に降魔の力を込めてアバターの顔を殴りつける。アバターの小柄な体は吹き飛んで壁にぶつかった。
「こちらの炎も強力です。試してみますか?」
 秋櫻の構えた三連式超大型ガトリング砲が回転し、炎の弾丸が吐き出される。燃える雨のように飛来する礫にアバターの体に負傷エフェクトが張られ、壁ごと蜂の巣にした。
「まだまだ! このくらいじゃ負けないんだよ!」
 杖で体を支えながら、アバターは宙に大きな火の玉を形成する。
「この身に宿るは戦場の力!」
 仁王は自分や周囲のグラビティをオーラ状にし、仲間達に纏わせて強固な鎧とする。
「どこからでも掛かってこい」
「真っ黒焦げになっちゃえ!」
 真っ直ぐに飛翔する火の鳥が仁王を直撃する。爆炎が広がり強い衝撃が伝わるが、仁王は耐えて凌ぎきった。
「そのような単調な攻撃が通じると思われるなんて……見くびられたものです」
 炎の余波を和傘を広げて受けた瑠架は、燃える意傘を打ち棄てながら近づき刀を袈裟斬りに振るう。刃が肩口から胴へと抜けた。
「丁度暖を取りたいと思っていたんだ、ありがとう」
 余裕の笑みを作った茜はルーンと思念により異形の羊を具現化し、アバターに喰らいつかせた。その羊が燃え盛った後、凍りついた傷跡が残る。

●挫折
「もう! まだゲーム始まったとこなのにどうしてこんなにあっさり死んじゃうの!」
 少女が腹立だしそうに拳を握り、また再構築されたアバターが杖を構える。
「何度でも木っ端微塵にしてあげます」
 敵が炎を放つより先に、秋櫻は背のキャノン砲を発射し、爆発を起こしてアバターの体を吹き飛ばす。
「復活してすぐは無敵があってもいいのに、無限コンテニューだからって難易度高すぎだよ!」
 アバターが地面に倒れながら杖を向け炎の玉を放つ。
「間合いの、取り方が……まだまだ、甘い……!」
 ローラーダッシュで炎を突っ切り叔牙は懐に入る。
「炎の、エフェクトは……こうやって、使う!」
 そして防ごうとする杖ごと炎を纏った足で蹴り上げた。
「防御しても全然ダメージが軽減してるように見えないよ! ならっ!!」
 攻撃に専念しようとアバターは火の鳥を放って周囲に炎の波を広げる。
「そんな攻撃なんて一気に吹き飛ばしますよ! はぁッ!」
 自らに纏わりつく炎を、イリスは気合一発で消し去った。
「お前の技で俺らを倒せると思ったら大間違いだ……まぁ精々無駄な足掻きをするといい、クソガキが」
 相手の攻撃を嘲笑うように満願の元より桜木が生え、果実が実ると輝く光が放たれ仲間を癒していく。
「その程度の攻撃じゃいつまでたっても俺らは倒せないぞ」
 仁王も同じように植物から黄金の実を生み、光を放ち治療を手伝う。
「回復魔法の使い手がいっぱいいるとかっバランスがおかしいよ~」
 少女の声に泣きが入り、アバターが炎を放って必死に抵抗する。それにボクスドラゴンが炎を吐いて対抗する。
「さぁ、もっと血を見せろ。鎖に恐怖しろ小娘ェ!!!!」
 血に飢えた獣のように吠えたライゼルの腕から雷を纏った鎖が伸びてアバターの体を縛る。そこへ仮面で表情の分からぬライゼルが大鎌を振り上げて近づく。その目は恥ずかしい演技に虚ろとなっていた。
「動けなっ!」
「これでまた死亡です」
 そこへ茜はチェーンソー剣を振り回し、アバターをズダズダに引き裂く。
「ああっまた死んじゃった!?」
 細切れにされたアバターの体が復活していく。
「蘇るのなら何度でも斬り捨ててあげます」
 瑠架が首を刈るように刀を横に振るうと、アバターは前屈みに躱す、そこへ瑠架は蹴りを放って顔を打ち上げた。
「近接高速格闘モード起動。ブースター出力最大値。腕部及び脚部のリミッター解除。対象補足……貴方は私から逃れられません」
 加速した秋櫻がアバターが落下する前に接近し、超光速で拳と蹴りの連打を叩き込み、アバターの体を踊るように幾度も打ち抜き宙へと舞わせた。
「もしかして、これって難しいゲームなの……全然進めないよー!」
「わたしは人類の悪夢から生まれた存在、ゆえに71億回殺さなければ死なないのです」
 弱気になる少女にハッタリをかまして相手を怯ませ、茜は異形の羊を生み出して噛みつかせた。アバターは炎弾を撃ち出して近づかせまいとする。
「そぉらぁアア! 逃げないと死んじまうぞォオオオ!?」
 正面からライゼルが大鎌を横に薙ぎ払い、炎を斬り裂いて間合いを詰める。
「ひゃっやだもうこの人怖い!」
「そんな攻撃では、私たちを倒すなんて夢のまた夢じゃありません?」
 逃げ惑うアバターに向け、イリスは翼から光の剣を創って射出した。放たれた刃は空間を歪め炎を掻い潜り突如現れたように腹に突き刺さる。
「攻撃の手本を見せてやる」
 跳躍した仁王が頭上から戦斧を振り下ろす。
「きゃっ」
 怯えて転んだアバターの足元に刃が打ちつけられ、アスファルトを砕いて大きな穴を空けた。
「こんなの絶対勝てないよー! もうやだ! 魔法少女やめる!」
 座り込んで少女が叫ぶ、すると装着していたVRギアが外れた。残されたアバターはただただ攻撃コマンドを行うだけの人形と化す。
「ぶいあーるだか、あばたーだか知らないが、喰い潰してやる」
 満願の右腕が地獄の黒炎に包まれ、右腕を突き出すと同時に黒炎は大顎を持つ魔獣の頭となってアバターを喰い千切った。ダメージを受けながらもアバターは杖から炎を出そうとする。
「その、攻撃モーションは……見切らせて、貰った!」
 叔牙が飛び蹴りで杖を強打し、アバターの手元から杖が転がり落ちた。
「お前に此の声が聴こえるか?」
 瑠架の周囲に無数の霊魂が集まり大鬼が呼び出される。その手にした鉄槌が振り下ろされ、アバターをぐしゃりと叩き潰した。地面もろとも粉々になったアバターが消滅し、VRギアも放電して動かなくなった。

●帰宅
「あの、お姉ちゃんお兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
 事情を知った少女がぺこりと頭を下げる。
「ゲームと言う物は本来楽しい物。勿論節度を守ることは大事ですが、今回の事で嫌いになったりしないでくださいね」
 少女の心に傷が残らぬように秋櫻が優しい言葉をかける。
「どうやら同じようなプレゼントをされた方も沢山いるようです。クリスマスになったら本物のプレゼントが届きますよ」
 こんなことでクリスマスを嫌いにならないようにと仁王も少女を励ます。
「遊ぶことも大切ですけど宿題もしないと本当のサンタさんからプレゼント貰えませんよ?」
「うん!」
 お姉さんぶった茜が慣れない笑顔とウインクで少女の心を軽くする。
「ヒャッハー……って 恥ずかしいね。 はぁ~……」
 深い溜息を吐いたライゼルは変身を解いて屈みこんだ。そんな落ち込む姿に茜が肩を叩くと、一転して笑顔になったライゼルが角を触ろうとする。それを茜が反射的に躱すと勢いをつけたライゼルがつんのめる。そんな様子を見て少女の顔が綻ぶ。
「目覚めの悪ぃ結末にならなくて良かったってもんだ、全く」
 少女の無事が分かり満願はほっと息をつく。
「必要あったとは言え酷い事言ってすまんかったな……あ、飴食うか?」
「ありがとー!」
 満願は誤りながらお詫びにと飴を差し出すと、少女は喜んで受け取る。
「あまり面白くないゲームでしたかね?」
「うん、ぜーんぜん進めないんだもん!」
 イリスが尋ねると、ほっぺを膨らませて少女が答えた。そして少女がくしゅんとクシャミをした。
「さぁ、もう遅いですしお家へ帰りましょう」
 冷たい風から守るように隣に立った瑠架が少女を促す。
「碌でもない、ゲームは……終了です。後は、僕達に任せて……帰りましょう」
 壊れた場所をヒールしていた叔牙も反対側に寄り添い、少女をエスコートする。
「うん、お家にかえろーっ」
 少女が二人と手を繋ぎ歩き始める。それを眺めたケルベロス達も微笑ましい気持ちで後に続いた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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