血のクリスマス事件～奇怪な贈り物

■リプレイ

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「封鎖終了っと。さあ、いい子にしてサンタをお出迎えするかぁ」
　風呂井・シンヤ（夢遊描・e33378）は最後に残った通りに、テープを張って出入りを禁止する。
　そして寒空を見上げながら、降下して来る仲間を出迎えた。
「さてさて。早朝とはいえ、クリスマスイブの予定を潰した罪は重いよ。……そっちはどう？」
「怪しい人影を見たぞ。しかし、くりすます（？）……と言うものはよくわからぬが皆が祝う祭りのようなものだと聞いておる」
　シンヤの確認にアデレード・ヴェルンシュタイン（愛と正義の告死天使・e24828）は翼を畳みながら応えた。
　怪しげな姿を見たと言う言葉に、仲間達はわずかに緊張の色を見せる。
「そんなめでたい日の混乱に乗じて人々を虐殺とするとは何たる邪悪か……。例え天が許しても我がそのような悪行を許す訳にはいかぬのぅ！」
　アデレードの言葉に一同は頷き、彼女が見付けた不審な影に向き直る。

　大通りの中でも、人々が目印にする時計台。
　そこを蹂躙する為に赤い魔人が現われる。
「現れましたね……」
「なになに、今度はサンタのコスプレ？」
　オランジェット・カズラヴァ（黎明の戦乙女・e24607）の視線の先へ、別口を封鎖してきたランジ・シャト（舞い爆ぜる瞬炎・e15793）が合わせて顔を向けた。
　迎え討つべき敵は二つ、挑むケルベロスは八人が三列Ｖ字にて相対する。
　鼻歌で歌っていたクリスマスソングは、いつしか戦いの歌に置き変わる。
「ったく、こっちもヒマじゃないっつーのに。こんな朝っぱらからとか、気が早すぎるんじゃないの。お陰で昨日から待ってました！　っつーか待たせすぎよ！」
　ランジは胸元にカメラを仕舞うと、炎を置き去りして走り出した。
　歓迎の挨拶に言葉はいらぬ、手には野太い鉄の塊に炎を胸にはボリュームのある夢をつめて弾けさせる！
「人々が楽しいクリスマスを過ごせるよう、ここで倒します……！　いざっ！！」
　オランジェットは斧槍をゆっくり一回転させると、途中でガードレールに引っ掛けてしまう。
　否、それはワザとだ！　あえて引っ掛けた後に、蹴りあげた反動で斧槍をかっ飛ばす！
　強引に曲げられた柄と、腕より強い脚によって投げつけられた格好で、緩急自在の動きが敵の目を引き付けたのである。
「救世主の生誕を祝う聖なる鐘の音につられてきおったか、邪悪の権化どもめ！　しかし、そなたらに相応しいのは聖なる鐘の音ではなく我が奏でる邪悪を弔う死のレクイエムよ！」
「……まぁ、駆り出される理由としてはリア充憎しで暴れる鳥類相手とかより幾分マシよね。止めはしないけど……」
　アデレードは厨二病なので使命という単語に反応しノリノリで雷電の結界を築くのだが、アーリィ・レッドローズ（ぽんこつジーニアス・e27913）の方は対象的にダウナー。
　頭をポリポリとかいて、面倒くさそうに魔書を開いた。
「まあいいか。急ぐ訳じゃないけど、片付けて帰りましょ」
　数枚のページを千切ると数本の水晶剣へと転じ、ゆらりと浮いたかと思うと、命令を待ち受ける。
　忠実なる魔剣の様子にも知ったことがと嘯いて、アーリィは戦場を引き裂かせた。
　散歩に飛ぶ出すワンコの様に、剣はドキューン！　と飛んで行ったという。

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『ハーハッハ！　ハイホーハイホー呼吸してるー。良い子のみんなにプレゼンッ』
「なんとぉ♪　危ない危ない」
　突如飛んでくる砂の嵐に、ヒューリー・トリッパー（笑みを浮かべ何を成す・e17972）は帽子を抑えながらタップダンスを踊った。
　爆発を回避しようとする彼を、前に合った箱（ミミック）が庇ってくれた結果だが、クラッカーみたいで気分が良い。
「サンタが運ぶのは、夢や喜びでしょうに……さっさと蹴散らしましょうかね」
「トナカイにサンタと、夢を配るはずが事件を起こすとはな。悪いサンタにゃ、しっかりお仕置きせんとな。……さすがやね、ナイスやツァイス」
　ステッキの様に黒いナニカを振りまわすヒューリーの後ろで、嘩桜・炎酒（星屑天象儀・e07249）が素敵な笑顔で笑った（牙を剥いて笑ったとも言う）。
　どうせ戦いを止める気なんてない、ならば笑って過ごさねばどうすれば良いのいだろう。仲間を庇ったミミックのツァイスをまずは褒めておこう。
　胡散臭い笑顔を浮かべた二人組は、背中合わせに頷いた。
「先に行くやで、おうらあ！」
　炎酒は最後衛から走り出すと、豪快にジャンプしてダイナミックな蹴りを放つ。
　なんだか同じ様な表現が被ったが、別に構うまい。
　要するに足止めであり、悪党とエライ奴を吹っ飛ばすお兄さんは空を掛ける技が大好きなのである。
「それでは流れに任せ、ゆらゆら……と。いきますよー、痛いですよー」
　そこへヒューリーが回り込み、足を止めた所に黒い杖……を振り回した。
　杖に思われた物は刀であり、刃が二重に現われる。
　刃紋を覆い隠すように現われた紫の刃は、自ら砕けで毒素の様に忍びこんでいく。
「みんなノリノリじゃない。一部違う子も居る様だけど……。まったく折角のお祭りにケチを付けるなんてなんて無粋な奴かしら」
　大弓・言葉（ナチュラル擬態少女・e00431）は溜息つきながら、別方向に賑やかな仲間達を眺めた。
　パンパンと爆発し損ねた火薬をはたき落とし、サーバントの方に一言。
「ぶーちゃん、しっかり皆を庇ってね！　みんなの希望、クリスマス・イブを守らないと」
　言葉はあえて、誰にとっての希望とは言わなかった。
　クリスマスといえば２５日だが、クリスマス・イブは恋人たちの熱い夜だ。
　それを口にするのも野暮であるし、天然自然ではない偽装ぶりっ子である彼女には似合わないのだから。
「というわけで、らーぶりー♪」
　大きな鎌を二つ持ち、ハートの形を無理やり作ると言葉はくるっとターンを決めて襲いかかる。
　当たるを幸いに振りまわし、逆巻く炎と共に鹿型ダモクレスへ汲みついて行った。

　群がるよう電鹿に攻め立てるケルベロス。だが敵とてダモクレス、むしろ待っていたと言えるだろう。
　周囲へ放電を開始し、迫る刃には毛皮のような装甲で身を守るのだ。
『しゅびびび！』
「凄いなあ無事な前衛は一人も居ないよ。でも、連続で食らってるのが範囲攻撃なら、まだなんとかなるかな。なに……このくらいなら軽いもんさ」
　シンヤは電鹿を見て、なんとなく、とある牡鹿を思い出した。
　ソレは出歩くことの出来なかった描いた夢の形。
　山野を軽快に走りまわり、どんな高い峰も丘の様に走り抜ける。
　しや、それほどの鹿である。きっと、角では無く翼があったのだろう。
『彼の夢は、疾くて、自由で、軽やかで』
　シンヤは夢と、現実を見比べた。
　夢見たあの鹿に比べて敵の何と卑小なことか、夢見る少年の過酷さに比べて、なんと傷の軽いことか。
　ここに因果が逆転する。
　電鹿が付けた傷は夢幻の如く、そして狙っているのは……ケルベロスの方である。

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「くっ……効きが甘い。しかし予定通りです……」
　オランジェットは突き刺した斧槍を、そのまま天へと逆袈裟に振りあげる。
　弧を描くように叩きつけるが、踏み込んで来た電鹿に最低限の威力に抑え込まれてしまった。
　ダメージが低いのは残念ではあるが、負荷を与えて徐々に削ると言う意味では予定通りと言えよう。
「流石にかってえわ。全部受けてくれるし、火力低いからえーけど」
「壁役が柔らかくて火力低い時は、ゾンビみたいな肉盾よね」
　炎酒はアーリィが口にした未来を考えて見る。
　無数にいるゾンビを蹴散らしながら本命のホッケーマスクを倒しに行くとか……。
「そらゾっとせん話や。しかたなー。ひとつでかいの食らわせたるさ」
　凍結波を放った炎酒は、カタい物を握り込むかのように指先を丸めた。
　そのままの態勢で走り込み、仲間の陰に隠れて、電鹿の近くまで接近した。
『目標確認・距離OK・圧縮ばっちり。さぁて、ひとつ奥の手でも見て行けや！！』
　そして超至近距離から、掌でも押しあてるかのように密接させる。
　だがそれは、決して掌底のような打撃技ではない。むしろ逆、圧縮空気砲を可能な限り近くで叩き込むのが炎酒の技である。
「ゾンビサンタとかゾンビトナカイなんて勘弁なの。……なら、協力するのね」
　言葉は人差し指を唇にあてながら少しだけ考えた後、プルっと可愛く震えてから時間を止めて投げキッス。
　彼女の箱竜であるぶーちゃんみたいにビビりなのおではなく……、単に、どうすれば可愛く見えるか計算していただけだったそうな。
　そして時間を止めてから一秒か二秒、真剣な目をした誰かが祈り始めた。
『願いを骨子に、その銘を刃に。届け、叶わざる幻想の大神宣言（グングニル・イマージュ）！！』
　オランジェットの祈りが天に届いた。
　斧槍を振りあげると、光の柱と共に振り降ろす。
　光の柱は刃と言うよりはビームに近く、まるで大砲のように解き放たれたのである。
　だが、そこから運命は変転する。
　大砲で有れば周囲に拡散するはずの光が、指向性を持って、さながら虹の様に集約したのだ！

　ゴトンと崩れ落ちた鹿型ダモクレス。
　それは単に戦力が半減したということでは無い。
　攻撃を受け止める壁役が落ちたと言うことであり、相手の火力はまだまだ健在とも言えるだろう。
「トナカイが居ないと益々別物よね。まあ油断は禁物だけど、まあ火力で押してけばいいか」
　アーリィはそれまでの範囲攻撃偏重を取りやめて、火力に優れる単独攻撃へ切り換えることにした。
　ペラペラと魔書を捲り、竜の幻影を召喚する。
　例え幻影であっても、一時的に竜が存在したと言う理によって、現実が置き換わって猛烈な炎を出現させたのである。
「トドメ刺し損ねた……残念。でも言われてみれば、パートナー居ないだけで、原典たちに近くなったかしら」
　ランジはアーリィの言葉でサンタクロースの元になった数々の伝承を思い出した。
　聖ニコなんとかさんが由来とされているが、オカルト的には少し違う。
　眠らない子に忍びよる何者かが、日ごろの行いによって、祝福をくれたり悪戯するというモノだ。
「似たような伝承は日本にもあるけど……そういう意味では、トナカイという記号もあって、サンタクロースは完成するのかな。……っと、いい加減終わらさないと」
　ランジは大きな杯を持つかの様に手を構えると、軽く揺らしてみた。
　その動きに合わせて、灼熱の炎がボールのように揺らいでいく。
『は～い、捕まえた。さようなら！』
　ランジは炎を掴むとヴィクトリーサンタに叩きつけ、熱いプレゼントを鉄拳と共に浴びせて行ったのである。
「あはは。悪い子いねーか？　ですか。悪い子には御仕置きしないとですねえ」
　カランコロン♪　とヒューリーは下駄を打ち鳴らした。
　犬の遠吠えには霊力が宿ると言うが、力と意図を込めた音魂にも霊力が宿る。
　中世で言う鳴弦の弓の如く、下駄による響きがヒューリーの意思を力に替えて爆破する。

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『スイホースイホー、水疱瘡！』
「なんじゃこの無茶苦茶な重さは……水疱瘡というよりはただの暴走じゃろうが！」
　アデレードは大火力の鉄拳攻撃で押され始めた壁役の治療に取りかかる。
　だが、先ほどまでの範囲・命中重視の技とは一味違う威力である。
「こっちと同じで戦法を変えたんだろうね。壁役が倒されたことで、一発逆転に出たんだと思う。それに言われてなかった？　シンプルだけど強い、というより、他に出来ないからこそ集中してるとか」
　シンヤは盤面全体を眺めて、冷静に状況を分析する。
　先ほどまでは火薬散布を中心に、ビームを放つ遠距離戦主体、それが得意なのだろうと思われた。
　それが威力には優れるが命中率の甘い技を、近くに居る壁役に使ったことで、無理やりにでも押し切ろうとする姿に思われたのである。
「なるほどのう。こちらが火力重視なら向こうもか。とはいえ予想していなかった訳でも無い……力を合わせるぞ」
「その為に二人居る訳だしね」
　アデレードの要請にシンヤは頷いて、壁役の前に障壁を打ち立てる。
　痛みも攻撃も夢幻の彼方に追いやる為に、精神力による盾を築いたのだ。

　先ほどまでは範囲攻撃に合わせて範囲回復を重視していたが、ここからは火力と治療の勝負。
　結界では無く、障壁に置き替えて癒し始める。
　それは消耗戦から一発逆転を抑えるための戦いに切り替わったこと、そして悪い夢の終わりを意味していた。
「あ……。これは流石に……」
「だーいじょう、ぶい！　クリスマスカラーで可愛くなあーれっ！」
　アーリィの目の前で、彼女のビハインドが吹っ飛ばされる。
　二転三転してボロボロになったところで、言葉がクルクルと踊りだした。
　そして炎と共に無数のリボンがビハインドに絡みつき、赤・白・緑・金……そして金とゴージャスなカラーで『わたしがプレンゼト♪』状態である。
「まさか私よりも先にリア充になるとは……まあ脳内ならいいか。反撃と行きましょ」
　アーリィは可愛くなったビハインドとか色々な物をスルーして、凍結波をサンタもどきに叩きつける。
　ここまで来れば、重傷ぽくても倒されなければ構わない。
　他人事のようにサバサバした表情で、攻撃を敢行したのである。
「貴方のようなサンタは即返品です……！」
「どこ見てるかね。注意散漫ってな」
　オランジェットは稲妻の様な踏み込みで突撃し、その反対側から炎酒は飛び蹴りを掛ける。
　二人で連携するとダモクレスの動きを止め、いよいよトドメに掛る為だ。
「んじゃ、時間がありませんし、いきましょうか。御手を拝借できますかね？」
「一緒に踊ってくれるのかしら？　……雪の国までぶっ飛んできなさい！」
　ヒューリーが左手の刀で空を裂くと、ランジのハンマーが豪音を上げた。
　それは勝利の鐘を鳴らす音、明日の夜明けを告げる鐘の音である。

　クリスマス仕様の時計台は、豪音によって軽く軋みを立てる。
　人形による鼓笛隊は、赤い鼻のルドルフ将軍を先頭に動きだすのではないだろうか……。
「勝ちましたね。あれが本当に動き出す前に、修復でもしますか」
「さぁ、忙しい一日になるわよ」
　シンヤが未来の出来事を予告すると、ランジはくすりと笑って出かけ前に撮った写真を指差した。
　それはまだ無事だったころの町の姿、そしてこれから置き変わるべき姿でもある。
「今度こそ終わりですか。クリスマスを改めて祝いましょうかね」
　ヒューリーは帽子を目深にかぶり直すと、打ちあげと称して一足早いクリスマスを愉しむ仲間達をいつものように胡散臭い笑顔で見守るのであった。

作者：ｂａｒｏｎ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 3
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