血のクリスマス事件~サンタクロースを出迎えよう

作者:深淵どっと


「立て続けにすまない、今回集まって貰ったのは、ダモクレスの襲撃に備えてもらうためだ」
 集まったケルベロスたちに、フレデリック・ロックス(蒼森のヘリオライダー・en0057)は早速事件のあらましを説明し始める。
「VRギア型ダモクレスの件については耳にしている者も多いだろう。数名のケルベロスの調査により、ヤツらの目的が明らかになった」
 どうやら、件のダモクレスは大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれる大虐殺を引き起こした侵略型超巨大ダモクレス『ゴッドサンタ』の配下が仕向けたものらしい。
 そして、今回はそのゴッドサンタ復活のため、12月24日にダモクレスの襲撃がある事がわかったのだ。
「クリスマスを楽しみにしている人々を虐殺する事でグラビティ・チェインを収集しようとしているのだろう。そんな事になれば、クリスマスどころか来年すらまともに迎えられないだろう」
 無論、それを阻止する事こそが、今回のケルベロスたちの目的という事である。
 襲撃は24日の午前、日本各地に一斉に行われるらしい。
「キミたちにはある高層マンションの一つ、その屋上で敵を迎え撃ってもらいたい」
 出現するダモクレスは2体。サンタ型の『ヴィクトリーサンタ』、トナカイ型の『ヴァンガードレイン』だ。
 ヴァンガードレインが素早い動きで撹乱したところに、ヴィクトリーサンタが的確な一撃を与えてくる連携を得意としている。
 どちらかを確実に抑える事で、連携を断つのが賢明だろう。
「師走、とは言うが……このところは特に忙しないな。ゆっくり年越しを迎えるためにも、何としても襲撃を阻止してくれ。頼んだぞ」


参加者
鈴代・瞳李(司獅子・e01586)
小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)
天津・総一郎(クリップラー・e03243)
アッシュ・ホールデン(無音・e03495)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
リー・ペア(ペインキラー・e20474)
水限・千咲(斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る・e22183)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)

■リプレイ


 クリスマス。
 年末と言う一つの節目を目前にしたこの日を待ち望んでいた人は決して少なくないだろう。
 大切な恋人と過ごす時間。家族との団欒。そして――サンタクロースからのプレゼントを待ちわびる子供。
 しかし、その日街に降り注いだのは、そんな人々への祝福ではなかった。
 鳴り響く鈴の音色。赤と白のシルエットと空を滑空する金色の光。きっと、窓からそれを見上げた子供は口を揃えてサンタクロースが来た、と言っただろう。
 ……だが、そのサンタが持ってきたのは、プレゼントでは無かった。
「――目標、捕捉」
 空より飛来したその影が、高層マンションの一つに降り立とうとした瞬間、朝日を裂く閃光と共に無数の光弾が空を駆け抜けた。
 閃光に晒されるのは、鋼鉄のサンタとトナカイ。それを迎え撃つのは8人のケルベロスとサーヴァントだ。
「どこがサンタクロースだよ……ったく、休みに物騒なもん送り込んできやがって」
 リー・ペア(ペインキラー・e20474)に続き、アッシュ・ホールデン(無音・e03495)が飛来するサンタとトナカイを砲弾によって迎撃する。
「来るよ! 後は手筈通りに!」
 爆炎と硝煙が空を覆う中、一瞬の雷光を見抜いた小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)の声が響く。
 直後、トナカイが放った雷撃に合わせ、キラキラと輝く光の粒がが降り注いだ。
 一見すれば冬の空を彩るイルミネーション。だが、飛び出た導火線が露骨過ぎる。考えるまでも無く、あれは爆弾だ。
「おいおい、もうちょっとカモフラージュとかないのかよ? 夜朱、行くぞ!」
 直後、澄んだ朝の風を爆音と立ち昇る火柱が消し飛ばす。
 襲撃直前に屋上に人が入ってこないよう細工はしたが、騒音ばかりは防げない。瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)の脳裏に近所迷惑の4文字が過るが、今は我慢してもらう他無い。
 2体のダモクレスはケルベロス達への反撃と同時に空中で二手に別れ、マンションの屋上に飛び降りていた。
 サンタ型ダモクレス、ヴィクトリーサンタ。そしてトナカイ型ダモクレス、ヴァンガードレイン。
 見た目こそコミカルだが、この2体をここで阻止できなければ、奪われたグラビティ・チェインにより超巨大ダモクレス『ゴッドサンタ』が復活し、血のクリスマスが再来してしまう。
「ったく、無茶してくれやがる……サンタのイメージが悪くなったらどうしてくれんだ!」
 屋上を覆う爆炎が微かな音と共に浄化されていく。煙の中に見えたのは、灰を中心に咲き広がった勿忘草の花々。
「プレゼントどころか人から奪い取ろうなんてサンタに存在意義なし! 情け無用でブっ飛ばす!」
 灰とそのサーヴァント、夜朱らと共に仲間を爆炎から庇っていた天津・総一郎(クリップラー・e03243)が晴れた煙の先に立つ2体のダモクレスを睨みつける。
「流石に、2体1組ってだけはあるね……ペースに飲まれないようにしないと……!」
「任せてください! どんな連携だろうと断ち斬ってみせます!」
 初撃はお互い痛み分け、と言った結果に終わった。
 すぐさま朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)が怪我を負った仲間の支援に回り、水限・千咲(斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る・e22183)は砲撃に使った大鎚から大鎌へと持ち替え、それをヴィクトリーサンタへ向かって投げつける。
 そのヴィクトリーサンタへの攻撃を察知し、ヴァンガードレインがすぐに援護へ向かおうとするも、その頭上を影が覆った。
「行かせはしない。私の役割を果たさせてもらう」
 声と衝撃。そして、銃声の雨が遅れて響く。
 釘付けにされたヴァンガードレインの目の前に鈴代・瞳李(司獅子・e01586)が降り立った。
「クリスマスに降るのは雪だけでいい。そうだろう?」


「将を射んと欲すれば、将を狙い撃ってしまえばそれまでです!」
「階下には決して行かせませんよ!」
 狙いは各個撃破。まずはリーの言うように、敵の主力であるヴィクトリーサンタの撃破が最優先だ。
 リーの放つ砲弾の雨を後方支援とし、千咲の蹴り上げた地面が激しい炎を生み出し、ヴィクトリーサンタへ襲いかかる。
 その一方で、瞳李、総一郎、アッシュ、灰は敵の連携を断つべくヴァンガードレインへ攻撃を重ねていく……が。
「(少し、戦力を割きすぎたかね……)」
 戦い始めて数分、アッシュは戦況を改めて鑑みる。
 作戦自体は上手く行っている。それは間違いないだろう。
 しかし、思った以上に素早いヴァンガードレインへの妨害に手間取っているのも事実だ。
「お前の相手はこっちだっての!」
 枝分かれした大きな角を突き出し、ヴィクトリーサンタへ攻撃する仲間へと突撃するヴァンガードレイン。
 すぐさまその間に割り込み、灰が突撃を受け止める、が鋭い角は皮膚を切り裂き、肉を貫いた。
「大丈夫!? すぐヒールするよ!」
 結の迅速なヒールによりダメージは最小限に抑えられるも、この戦いの中での治療ではすぐさま完治とはいかない。
「あっちは……まだかかりそう、かな」
 ボクスドラゴンのハコが遊撃するのに合わせ、結は2体のダモクレスの状況を観察するが、このままではヴィクトリーサンタの撃破にはまだ時間がかかりそうだ。
 そうなれば、こちらの被害も大きくなっていく。最悪、負傷者の出る可能性もあるだろう。
 もう一手、ヴァンガードレインを抑えておければ――と思った瞬間、灰が抑えていたヴァンガードレインの頭部に、何かが強烈に叩き付けられた。
「こっちは俺に任せろ! 鼻っ面ぶっ叩いて真っ赤にしてやる!」
 思わず引き下がったヴァンガードレインの鼻頭に、鋭く尖った釘で武装した無慈悲なバールの追撃。
 総一郎の見事な一撃はヴァンガードレインの動きを止めるには十分だった。
 戦況の変化に咄嗟に動いたのは、瞳李とアッシュ。
 まるで事前に示し合わせたかのように、ヴィクトリーサンタへ向かって走り出す。
「……!」
 言葉は不要。一瞬の視線の交錯が互いの戦いを語っていた。
 ヴィクトリーサンタの方は、背負った大きな袋上のパーツから大型のミサイルが顔を覗かせている。
 その様子を見て、先行するのは瞳李。発射直前の隙を突いて、アームドフォートを斉射する。
「今だ、やれ!」
「逃しはしねぇぜ、悪いがとっとと黄泉路を辿ってもらうぞ」
 間一髪でミサイルは不発。発射装置の駆動系を砲弾が撃ち抜いたのだ。
 不測の事態に足が止まったヴィクトリーサンタに間髪入れず鎖が纏わり付き、縛り上げる。
「アッシュ、そのまま!」
「決めてやりな、里桜の嬢ちゃん!」
 絡まる鎖にヴィクトリーサンタは完全に遅れを取っていた。そして、それを逃すほどケルベロスは甘くない。
 里桜の放った業炎の御業は一瞬にしてヴィクトリーサンタを包み込み、鉄の身体すら焼き焦がす。
「鉄サンタの丸焼き、出来上がり!」
 炎が収まった後、熱により赤一色に染まっていたヴィクトリーサンタは、そのまま炭と化して崩れていくのだった。


 ヴィクトリーサンタが倒れ、残るはトナカイ型のヴァンガードレインのみ。
 想定より長引いてはいるが、こちらはまだ誰一人倒れていない。これならば、押し切るのは難しくはないだろう。
「あっちは片付いたみたいだな、一旦仕切り直すぜ!」
 魂を喰らう総一郎の拳撃にヴァンガードレインが僅かに退た。
 敵の攻撃から身を挺して仲間を守り続けていた総一郎と灰は、この隙にできるだけ傷を癒し、体勢を立て直していく。
 しかし、同じ時間を敵に与えたりはしない。
「夜朱、ここからは攻勢だ。頼んだぜ」
 結からヒールを受けた灰が一気にヴァンガードレインへ接近する。
 夜朱のリングと、至近距離から灰が放った霊気は投網の如くヴァンガードレインの角に絡まり、反撃のチャンスを潰していく。
「今度は鉄トナカイを丸焼きだよ!」
 立て直す暇も与えず、怒号と共に業焔の拳がヴァンガードレインを襲った。そこには、里桜の召喚する紅蓮の鬼の姿があった。
「動き回られると厄介だ、このまま片を付けるぞ」
「はいよ、任せな」
 ヴィクトリーサンタとの戦いを終えた瞳李とアッシュも、ほぼ同時に駆け付ける。
 左右に分かれてからの砲弾による挟撃、これでは自慢の機動力はほぼ殺されたと言っていいだろう。
「このチャンス……逃しません!」
「敵は1体、満身創痍、ならやる事は一つ! 斬ります!」
 それでも屋上を暴れ回り、駆け回る姿は野生のトナカイそのものである。
 だが、逃げた先には鈍重な鉄塊と鋭く研ぎ澄まされた大鎌を担ぐリーと千咲が待ち受けていた。
 猛突進は止まらない。2人に向かってヴァンガードレインは角を突き出し、直進する。
「させないよ、ハコ!」
 その横から飛び出す小さな影。ボクスドラゴンのハコだ。
 吹きかけられたブレスによって、ヴァンガードレインは目標を見失う。
「そちらから近づいてきてくれるとは、ありがたい話です!」
 突進の勢いに合わせ、振り下ろされる鉄槌。そして――。
「これで、終わりです」
 粉になるまで砕くのが粉砕ならば、それは粉斬とでも言うべきか。
 リーに頭部を叩き潰された瞬間には、ヴァンガードレインだった鉄の塊は千咲によってバラバラに斬り刻まれていたのだった。


「やったー! 瞳李、お疲れ様だよー!」
「あぁ、お疲れ様、大活躍だったじゃないか」
 戦闘が終わり、里桜は飛び付くようにして瞳李に抱き着く。まるで喜びを全身で表すかのような仕草に、瞳李も表情を緩めるのだった。
「ま、俺の完璧なサポートもあったからな。さて、そんじゃあさっさと片して朝飯でも行くとするか」
 人避けのテープを引き剥がし、アッシュが軽口を叩いた。
「お片付け、手伝いますよ! 不要な破片などあれば塵になるまで斬りますねっ!」
「いや……それなら既に千咲の嬢ちゃんが自分で木っ端微塵にしてるから、間に合ってる」
 それは残念、とばかりに千咲は肩を落とす。
「でも、最期の一撃は凄かったよ。お疲れ様でした、だよ」
「そうだな、これで安心してクリスマスを迎えられるぜ」
 結と総一郎は一息つきながら、派手な攻撃の数々で傷ついた屋上のヒールを行っていく。
 これでひとまず、血のクリスマスなどと言う惨劇は回避できるだろうか。
 他の場所へ迎撃へ向かったケルベロスたちは同じように無事に戦いを終えられただろうか。
「……しかし、去年は電流マシーン、今年はサンタ……ダモクレスにはクリスマスに強襲しないと気がすまない習性でもあるのでしょうか」
 最近定命化を果たした自分には、そんな記憶も記録も残ってないが。
 無表情の中に微かな疑問を浮かべるリーの隣で、灰はわかりやすくため息をこぼす。
「全く、クリスマスのイメージが悪くなったら困るぜ。サンタのバイトに支障が出る」
 ゴッドサンタなんてものが人々を蹂躙するような事になれば、きっと世界中でサンタ自粛ムードが広がるに違いない。
「でも、防げてよかったな。折角のクリスマスが台無しになっちゃ子供たちがかわいそうだ」
 修復され、深緑に満ちた屋上の景色を見渡して、総一郎は朗らかにほほ笑む。
 サンタを見ては怯えるクリスマスなんて、あんまりだ。
 多くの人にとって、年に一度の幸せな時間を守れた事は少なからず誇らしい事に違いない。

作者:深淵どっと 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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