血のクリスマス事件~血みどろプレゼントを君に

作者:狐路ユッカ

「VRゲーム型のダモクレスが騒がせていた事件は知っているかな?」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は確認するように言うと、本題へ移った。
「リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)さん達が調査してくれた結果、あの事件は、大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれる大虐殺を引き起こした侵略型超巨大ダモクレス、『ゴッドサンタ』復活の予兆だってことがわかったんだ」
 祈里はぎゅっと眉を吊り上げる。
「……あのVRゲームはね、ゴッドサンタの配下が少し早いクリスマスプレゼントとして子供たちに届けたものなんだって……」
 純粋で無邪気な子供を陥れるなんて、それだけでも許せないのに、と祈里は付け足す。
「更にゴッドサンタは、クリスマスを楽しみにする人達を血祭りに上げて自分の復活に必要なグラビティ・チェインを奪おうとしているんだよ」
 襲撃が発生するのは、12月24日の午前中。もしこの襲撃が成功し、グラビティ・チェインがゴッドサンタの元に集まったら。
「クリスマスの夜にゴッドサンタが完全復活しちゃって、もう世界が滅茶苦茶になっちゃうよ、お願い……! みんなを守って!」
 祈里はぎゅっと祈るように手を組み、ケルベロス達を見つめる。
「ゴッドサンタの配下として実際に襲撃を行うのは、『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』という2体ひと組の量産型ダモクレスだよ。12月24日の早朝に、日本各地のクリスマスを楽しみにしてる人の元に現れて、グラビティ・チェインを奪う気でいるんだ。今回、僕から皆にお願いする場所は北海道にある大きなツリーを飾ってるおうちだよ。サンタさんが来るのを心待ちにしている子供がいるんだ……」
 そこへ、偽物のサンタなんかに行かせるわけにはいかないよね、と呟き、祈里は手元の資料をめくる。
「ヴァンガードレインとヴィクトリーサンタは、2体でケルベロス8人と互角程度の力を持っているね。ヴァンガードレインの方は、角から電撃攻撃を放つのが得意みたい。ヴィクトリーサンタの方は、プレゼントの袋に見せかけたアームドフォートから攻撃してくるようだよ。気を付けて」
 祈里はじっとケルベロス達の瞳を見てこう付け足した。
「サンタさんってね、僕はいると思うんだ。クリスマスの優しい心を踏みにじるような奴は許せないよ。だから……お願い!」


参加者
星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)
白神・楓(魔術管理人・e01132)
上月・紫緒(テンプティマイソロジー・e01167)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)
矢柳・夕(目元に縦線入ってる系女子・e32041)

■リプレイ


「……サンタを騙るダモクレスか」
 ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)は眉間にしわを寄せ、呟いた。自分のようなものならともかく、純粋な子供の夢を壊すような真似をするダモクレスが、許せないのだ。百鬼・澪(癒しの御手・e03871)も同じ気持ちだった。楽しみにしている子どもたちの気持ちを踏み躙る者は、決して許さない。
「子どもたちの気持ちも、サンタさんを信じる心も、守ってみせます……!」
 微笑みを崩さぬまま、そう告げて歩みを進める。星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)はサンタクロースのコートを羽織り、正しいサンタとはなんたるかを体現していた。
「サンタさん、サンタさん、私はプレゼントいらないからもっともっと必要としている子たちに幸せを送ってね♪」
 歌うように言って、上月・紫緒(テンプティマイソロジー・e01167)は背後から迫る気配に感覚を研ぎ澄ませる。
「っと、……うん。サンタさんは幸せを配るものだから、それを利用して悪いことをしちゃダメですよね」
 ケルベロス達は瞬時に戦闘態勢へと移行する。その背には、モミの木とクリスマスを心待ちにする少女の家。
「我が魔力、汝、救国の聖女たる御身に捧げ、其の戦旗を以て、我等が軍へ、勝利の栄光を齎さん!」
 ダモクレスの攻撃を待たず、ユルは叫んだ。戦旗を持つ聖女のエネルギー体が、前衛のケルベロス達を鼓舞する。
 シャンシャンと鈴の音を鳴らしながら迫るダモクレスを見据え、紫緒は告げた。
「偽物サンタさん、私はアナタを憎むよ?」
 砕月を振り上げ、アイスエイジインパクトをヴィクトリーサンタ目がけて叩き込む。
「だってアナタが配るのは幸せじゃないもの。だから私はアナタを愛するよ?」
 彼女の言う愛は憎しみと同義。狂気じみた一撃にヴィクトリーサンタのボディが軋む。窓からその様子を震えながら見ていた子供に、ラームスは叫んだ。
「ケルベロスだ! 大丈夫、必ず守るから心配しなくていい! 家の奥で待っていてくれ!」
 頷いた子供は、サッと窓から離れ姿を消した。これで良い、ラームスは全身の装甲からオウガ粒子を放出すると、自分を含めた前衛の仲間たちを包み込んで感覚を研ぎ澄ませる。


「ギ、ギギ……」
 ヴィクトリーサンタがプレゼントの袋を剥いで出したのは、アームドフォート。照準を前衛のケルベロス達へと合わせると、そこから無数のレーザーを放った。
(「こ、怖い……ッ、けど、やらなきゃ、わたしが、守らなきゃ……!」)
 矢柳・夕(目元に縦線入ってる系女子・e32041)は恐れを振り払い、シャーマンズゴーストのヨアケと共に仲間の前へと飛び出していった。被弾の痛みに思わず声を上げる。
「っひ……!」
 澪も同じように前衛に躍り出ると、その場で雷の壁を構築した。花嵐は、ヴィクトリーサンタの攻撃の手を止めるがごとくボクスブレスを吐き出す。
「ガガッ……」
「クリスマスは楽しくあるべきだよね!」
 家を背後に位置取り、ダモクレス達の前に滑り出た葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)は、その手のリボルバー銃の引き金を引いた。死角から迫る弾丸がヴィクトリーサンタを貫く。その時、傍らのヴァンガードレインの角が激しく光った。ほとばしる稲光が、前衛のケルベロス達を襲う。守るべく前に出たサーヴァント達は、その雷に打たれ地に激しく体を打ち付けた。自身に祈りを捧げていたヨアケとブリジッドはすぐに立ち上がったが、花嵐は痺れに震えている。
「花嵐――ッ」
 澪は凍てつくような笑みを顔に貼りつけたままヴァンガードレインを睨みつける。
「クリスマスに……悪趣味なプレゼントをするものだな」
 Iron Nemesisで地を駆ると、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は流星の煌めきと共に重たい飛び蹴りをヴァンガードレインへと叩き込んだ。
「メリークリスマス! 偽物のサンタにはご退場願おうか!」
 白神・楓(魔術管理人・e01132)は首の無い黒い女の上半身を召喚すると、そっとその『温もりと抱擁を求める者』に囁く。
「あそこにいるのはサンタだそうだよ。温もりが欲しいのならサンタにプレゼントして貰いな」
 ふぅわりと『彼女』が縋りついたのはトナカイの方だ。凍てつく抱擁に、酷い機械音を響かせる。
 ドンッ、とヴィクトリーサンタのアームドフォートの主砲が火を噴いた。守らねばと果敢にその前に躍り出た夕は、真正面からそれを喰らってがくん、と膝をついた。
(「あ、痛い……怖い……」)
 その時、痛みに恐怖のメーターが振り切れたのか彼女の瞳の色が冷める。――狩らなきゃ。すっと冷静になった視線で、夕は惨殺ナイフを掲げた。
「絶対に狩りとるよ!」
 刀身に映されるトラウマにヴァンガードレインはもがき苦しむ。その隙にユルは夕へと走り寄り、星降る銀環から具現化した光の盾で傷ついた夕を守った。
「あ、ありがとう、ございます……っ」
 ぺこり、と会釈をする夕にユルはにっと微笑んで頷く。
「さー、パチモンサンタとトナカイは大人しく滅べー」
「そうだそうだ! 壊れちまえ……!」
 唯奈はユルの言葉に同意すると、両手のリボルバー銃を構えて魔法の弾丸を打ち出す。追尾するかのような軌道を描く弾丸は、ヴァンガードレインの胴体へと命中し、その装甲に穴を開けた。続いて花嵐がボクスタックルを叩きこむ。その衝撃に合せるかのように、ヴァンガードレインは雷をその角から放出した。バリバリ、と音を立てて前衛に位置取っているケルベロス達に激しい痛みが走る。
「っつ、ぅ……」
 堪らず上がる悲鳴、花嵐とヨアケが力を失ってその場に倒れ込んだ。大切な相棒を撃たれた澪は口角を下げぬまま無言でヴァンガードレインを睨みつけて、ゲシュタルトグレイブを勢いよくその背に突き立てる。
「ガガッ……ギッ……」
 ガシャン、と音を立てて、ヴァンガードレインがその場に頽れた。澪も、被弾のダメージに息が上がっている。そんな彼女に走り寄ると、ラームスは左腕の籠手に薬をセットし、即座に調合した。何も言わずそれを吹き付ければ、澪の傷が癒えていく。
「ありがとうございます」
 さあ、あともう一体。澪の視線はヴィクトリーサンタを射るように。ラームスはその声に軽く首肯すると、ブリジットへと視線を投げた。シャーマンズゴーストの非物質化された爪が、ヴィクトリーサンタへと襲い掛かる。
「ガガッ、ガッ」
 振り払うように暴れながら、ヴィクトリーサンタはそのアームドフォートから焼夷弾をばら撒く。
「あああっ!」
 後衛を狙い放たれた炎に、夕と澪は咄嗟に庇いに出るも、紫緒がその身を焼かれて小さく呻いた。
「……ふふ」
 しかし、その声もいつしか笑みに代わる。彼女はルーンアックスを手に、高々と跳びあがった。ガキィン、と激しい金属音を響かせ、ヴィクトリーサンタの装甲を砕く。


 戦いながら民家に近寄ろうとするヴィクトリーサンタへ、ティーシャは告げる。
「そちらには行かせない」
 カリュプスレベリオンを鉄の鬼に変え、ヴィクトリーサンタの眼前へと回り込むとティーシャはその拳で勢いよく殴り掛かった。
「ゴッ、ガガ、ギ……」
「クリスマスに降らせるものは赤い血じゃなくて白い雪だろう?」
 楓は絶空斬を放ちながらヴィクトリーサンタを睨みつける。ガシャ、と装甲の一部を落としたヴィクトリーサンタを見て、付け足した。
「サンタの形をしているんだからそれ位知っておいたらどうだ」
 偽物は偽物に過ぎないな。小さくため息を零す楓。
「――当たって!」
 夕はリボルバー銃を両手でしっかりと構えると、影の弾丸を撃ちだす。ヴィクトリーサンタに掠めるように当たった弾丸は、赤いサンタの装甲を黒く黒く浸食していった。
「ははっ、赤いサンタ服よりお似合いだぜ」
 唯奈は唇の端をつりあげると、フォートレスキャノンを撃ちこむ。
「ガガッ……」
 お返しとでも言わんばかりに、ヴィクトリーサンタは無数のレーザーを放つ。夕、澪の二名が仲間を庇ってがくんと膝をついた。ブリジットは力を使い果たし、すっかり消え失せてしまっている。追撃を止めるべく、紫緒が高らかに歌い上げるは『愛翼の黒剣』
「繋ぎ合わせた黒と青、私の愛で切り裂くよ♪」
 鋭い刃が、ヴィクトリーサンタを切り刻む。その隙にユルは澪と夕へ【緋炎聖女】を施し、その傷を癒すのだった。ラームスは紫緒の傷が深い事を悟り、ウィッチオペレーションで大幅な回復を促す。ちら、と一度だけ視線を交わし、二人は再度ヴィクトリーサンタを見据えた。ティーシャはするりとヴィクトリーサンタの懐へ飛び込むとその惨殺ナイフの刃の形状をジグザグに変え、装甲の剥げたところを狙って捻じ込む。ガリッ、と嫌な音が響いて、ヴィクトリーサンタは身じろぎした。もがくように放つフォートレスキャノンの前に躍り出て、澪は護結を纏わせた拳を音速で突きだし、ヴィクトリーサンタを撃つ。相打つようにして喰らった痛みに眉を顰めながらも、笑顔は崩さない。畳み掛けろ。無言の合図がケルベロス達の間で交わされる。楓はすっと掌をヴィクトリーサンタへ向けると、燃え盛るドラゴンの幻影を放った。バチバチッ、と激しい音を立て、ヴィクトリーサンタが燃え上がる。
「今だよ!」
 楓が振り返った先には夕。頷き、炎に包まれるヴィクトリーサンタ目がけ、引き金を引く。頭部を貫く弾丸を放てば、ヴィクトリーサンタはその赤い体を真っ黒に焦がして消えて行くのであった。


「うーん、此の様子だとクリスマス当日も警戒しとかないといけないパターンかな?」
 ユルは周囲をヒールしながらぽつりと呟く。最後の一撃でかなり傷が深くなった澪を手招きして癒すと、クリスマスツリーの無事を確認する。前庭は少し荒れてしまったが、ツリーだけは死守できたと安堵していると、戦闘が終わったことに気付いた子供が二人、家の中から飛び出してきた。
「もう、わるいやつはいないの?」
 少女が見上げ尋ねてくる。夕はしっかりと頷き、目線を合わせて答えた。
「クリスマス前の、怖いことは、もう、ないよ。大丈夫」
 ぱあっと少年の顔が晴れた。
「やった! ありがとうおねーちゃんおにーちゃん!」
 あ、と夕は持ってきたお菓子入りの大きな靴下を取り出して少年に手渡す。
「はい、この靴下、サンタさんにプレゼント、入れてもらって、ね」
「えっ、いいの!? すっげえ! お菓子いっぱい入ってる~!」
 キャッキャとはしゃぐ少年に、紫緒は笑いかける。
「メリークリスマス♪ 偽物サンタをやっつけたケルベロスサンタさんですよ。良い子にはプレゼントですね」
 はい、と手渡したのは名古屋名物のどらやきだ。
「わー! みんなで食べるね! ありがとう!」
 無邪気に笑う少女。家の中から、両親も顔を出した。
「なんだかたくさんすみません……」
 苦笑する両親に、唯奈は笑いかける。
「メリークリスマス。ケルベロスサンタさんからのプレゼントだよ!」
 だから遠慮しないで、と渡したのは、ガンマンの恰好をしたふわふわのクマのぬいぐるみ。
「ふふ、あなたにそっくりですね、見るたびに今日守っていただいたことが思い出せそうです。大事にしますね」
 母親が柔らかく微笑んだ。きっと、子供部屋に飾ってくれることだろう。
「よかったら、これも」
 ティーシャが取り出したのはサンタの格好をしたもふもふのうさぎのぬいぐるみ。雪のように真っ白なうさぎにサンタ服が良く映える。
「わぁー! うさちゃん!」
 少女はぎゅうっとうさぎのぬいぐるみを抱きしめる。ティーシャは表情こそ変わらないものの、自分の選んだプレゼントを気に入って貰えて少し嬉しく感じた。
「喜んで貰えるといいのだが」
 ラームスは、最近凝っているフェイクスイーツから着想を得たクッキーのかたちのクッションを手渡す。
「ふかふかだぁ! 今日はこれで寝ても良い?」
 少年はクッションに顔を埋めて大喜びしている。
「メリークリスマス♪」
 今日はよかったらこれで遊んでね、とユルはカードゲームを少年に手渡してやった。
「わ、これどうやるの!?」
「私たちからはこれを」
 楓と、周囲の片づけを終えた澪はラッピングした児童小説を手渡す。
「ええと……サンタさんを、探す本?」
 表紙のイラストを見て、少女はワクワクした声で問うた。
「そう、サンタさんに会いに行くお話」
 他にもたくさんの冒険物語があるから、楽しみに読み進めてね、と楓が笑うと、子供たちは嬉しそうに頷く。ふと空を見上げると、真白な雪がふわふわと舞い降りてきた。
「あ……」
 降り積もる北の大地の雪は、一面を白く染め上げる。雪化粧したモミの木は陽光を受け、キラキラと輝いた。
「これで、ちゃんと楽しいクリスマスとサンタさんを迎えることができるね」
 唯奈が微笑みかけると、子供たちは嬉しそうに何度も頷く。別れを告げて帰路につくケルベロスの背中が見えなくなるまで、子供たちはずっとずっと手を振り続けていた。
「このまま無事に年末を迎えられるといいね」
 幸せそうな子供たちの顔を思い浮かべながら、唯奈が発した言葉に、ケルベロス達は頷き合うのであった。
 かくして、クリスマスはやってくる。誰の元へも、『相手に喜んでほしい』と思う心がある限り。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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