地下より来たる影は続く

作者:幾夜緋琉

●地下より来たる影は続く
 神奈川県、川崎駅前に広がる地下街。
 様々な店が建ち並び、更に雨の日には割引が行われ、そして入口にはからくり時計があり、大体1時間に1回、音楽に合わせて中の人形が踊り出す。
 ……そんな地下街の入口に立つ、寝間着姿の少年。
『ここが……噂のダンジョンか……』
 呟いた一言……明らかにおかしな事を呟いている。
 ここは地下街で、ダンジョンなどではない。
 でも、少年ははっきりと、ダンジョンと言った。
 そしてそのまま少年は。
『だめだだめだ、弱気になっちゃ。ボクが、この悪夢を断ち切ってみせる!』
 そう言うと、少年の傍らに、剣を持った映像が映る。
 そして映った映像は、地下街へと向かい…何の罪も無い一般人達を、次々とその剣で切り裂いていく。
 悲鳴が響き、血飛沫が飛び散る中においても……少年は、VRゴーグルの下で、ニヤリと笑みを浮かべているのであった。
 
「ケルベロスの皆さん、集まって貰えたッスね! それじゃ早速ッスけど、説明を始めるッスよ!」
 と黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスに元気よく挨拶すると共に、早速。
「どうやら、神奈川県川崎市駅前の地下街に、VRギア型のダモクレスを装着した少年が現れて、人々を虐殺しまくる事件が予知されたんっす!」
「このVRギア型ダモクレスを装着した子は、現実をゲームであるように感じている様で、地下街に居る人達を、ダンジョンに棲まうゾンビだと感じている様で、そのゾンビ達を次々と殺して回っているんッス!」
「この少年のすぐ近くには、VRギアが実体化した少年のアバターが現れ、実際に攻撃してくるのはこのアバターッス!」
「ただ、このアバター、一定のダメージを与えれば消失するものの、少年がゲームを続ける意志が尽きない限り、すぐ新たなアバターがリセットされた状態で現れてしまうッス。彼がゲームを続ける意志を折る様な形でアバターを撃破する事が出来れば、VR型ダモクレスは撃破され、少年の救出が可能ッス」
「少年を攻撃すると、彼は身を守るためにアバターと合体してしまうッス。アバターと合体すると、戦闘力は強化されるものの、一度倒せば復活させずに撃破出来るんッスけど、この場合、少年の救出は不可能ッス」
「少年自身、ケルベロスやデウスエクスと同様に、通常のダメージは無効ッス。つまり、少年に対しグラビティによる攻撃を行わない限り、アバターと合体する事は無いッス。VRゲーム型ダモクレスを撃破する事が目的ッスから、対処方法はどちらでも良いッス。でも、可能そうならば救出して上げて欲しいっすよ!」
 更にダンテは。
「少年は、ロールプレイングゲームをしている様で、勇者になってダンジョンに潜り込み、立ち塞がる敵達を倒す、というゲームの体験をしている様ッス。その大剣でゾンビを次々と薙ぎ払っていく、というものの様で、つまり攻撃手段も剣撃による堂々たる戦闘方法になるッス」
「幸い、彼が事件を起こす直前に、ケルベロスの皆さんは彼の現れる地下街の入口に到着可能ッス。被害が出ないよう、周りの人達の避難を呼びかける事は可能ッスし、館内放送を利用して一般人達を避難させる事が可能ッス!」
「ただ、このVRゲーム型ダモクレス、ゲーム世界に相応しく無い現実を、ゲームの設定に合わせて修正し、認識させてる様ッス。ケルベロスについては『倒さなければならないボス敵』の様に認識させるッスから、優しい言葉やケルベロスとしての説得の言葉は、ダモクレスにより都合の良い敵の台詞になってしまうッスよ」
「ただ、皆さんが最初からゲーム世界の設定に相応しい、倒さなければならないボス敵の様な格好、演出をすると、その言葉や行動をそのまま伝える事が可能ッス。これを利用して、少年少女のゲームを続けよう、という意志を折る事が出来るかもしれないッス。つまり、このゲームがつまんないからやめたくなる様に思わせて欲しいって事ッスね」
 そして、最後に。
「少年がどうやってVRゲーム機を入手したかは解らないッスけど、こんな危険な機械が広まれば、とんでもない事になってしまうッス。どうか、皆さんの力で、悲劇を止めてきて欲しいッスよ!」
 と拳を振り上げ、元気よく送り出すのであった。


参加者
ベルフェゴール・ヴァーミリオン(未来への種・e00211)
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
天導・十六夜(天を導く深紅の妖月・e00609)
ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)

■リプレイ

●夢の箱
 神奈川県川崎市、その駅前に広がる地下街。
 極々普通の地下街ではあるが、そこにやってくるのは非日常。
 ある意味話題のVRギア。そのVRギア型ダモクレスが、少年を殺人者へと仕立て上げようとしている……そんな異常的状態。
「相変わらず癪に障る事をしてくれるよ……だが、一般人へ被害を出す訳にはいかんな」
「ええ。幼気な少年を幻で操り、その手を血に染めさせようなど悪趣味で非道。少年を無事に救出したい所ですね」
 天導・十六夜(天を導く深紅の妖月・e00609)とイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)の言葉。
 更にガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)、ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)も。
「しかし今回はVRゲーム型とは、ホント手を替え品を替え色々やってくるのう?」
「そうだな。ゲームと騙して子供の手を血に染め上げる、か。許せんな」
「そうなのです。ゲームは嫌いではないのですが、それで誰かに怪我させるのを放っておく訳にはいかないのですよ。その子に自覚が無いなら尚更なのです!」
 元気よく、拳を振り上げるヒマラヤン、そして幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)と霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)が。
「さて、無邪気な害悪を、一丁掬い上げてやりますかね?」
「ええ。俺達の手、で、確りと、救う。その為にも、俺達が……強敵を、装う。ゲームを、続けても、終わらない、って」
 と言うと、ベルフェゴール・ヴァーミリオン(未来への種・e00211)が。
「そうだね。嫌気が指すように仕向けるのは良いと想う。ボク達を倒せるまでは戦闘は一生終わらないみたいな感じにすると、流石に嫌になってきそうかな……?」
 と、軽く首を傾げると、それに鬼人、ガナッシュ、イッパイアッテナらも。
「そうだな。悪役である俺達が次々と立ち上がることで、無理ゲーと思わせるんだ。敵が沢山居すぎて、無理ゲーだと思わせる、と」
「そうじゃな。しかしわし等をボス敵とこのVRギア型ダモクレスは少年に思わせる様じゃしの」
「ええ、そうですね。でもみんなでゲーム悪役を演じるのだけは愉快そうです」
「うむ。少年にはどんな風に見えるのかちょっと気になるのう?」
 元々、なんだかボス的っぽい雰囲気があるガナッシュ。
 そんなガナッシュの言葉に、ベルフェゴールが。
「……まぁ……確かに。何にせよ、偶に見る無限ループの様なものが演出出来れば、気が狂ってきそうだよね……格好は、ちょっとゾンビっぽい感じで行ってみようかな……?」
「うむ。わしも楽しみじゃ」
 ニッ、と笑うガナッシュ。
 そしてケルベロス達は、地下街の入口へと到着するのであった。

●夢の中に映る自慢
 そして、地下街へと到着したケルベロス達。
 今の所、目の前に広がるは日常の風景……まだまだ、VRギア型アバターは現れていない状態。
「さて、と。早速、だけど、避難、館内放送、始め、よう」
 と、悠は言うと共に、警備センターの方へと向かう。その一方、十六夜や鬼人は、警察、地下街職員の方々に事情を説明し、ケルベロスカードも見せて説得。
 そして……館内放送を使い、地下街を訪れていた人達を、外へと避難させる。
 大体避難させた後は、多数ある入口を一つ一つ、キープアウトテープを使って封鎖。
 ……大急ぎで避難誘導と、出入り口封鎖をし、VRギアを待ち構える為に、それぞれが考えた、ボス敵の様な服装に着替える。
 一通り着替え終わった、その瞬間。
「……さあ、始めようかな」
 と、入口に立つ、VRギアを持った少年の姿。
 そしてVRギアを被り、その隣に産まれる勇者の格好に身を包んだ少年、手に剣を持つと共に、構えて。
「さぁ……このダンジョンの中に居る悪を、必ずやボクの手で成敗してみせる!!」
 剣を掲げ、地下街への入口の階段を駆け下りていく。
 そして降りた先の入口で、待ち構えているのはガナッシュ。
「良くぞ来たな勇者よ! わしはマスター番長じゃ!」
 と威風堂々と宣言するガナッシュ。それに少年のアバターが。
『っ! 現れたな魔王!! 今、このボクが成敗してくれるっ!!』
 と、力強く宣言て剣を掲げる。そしてガナッシュは。
「ははは、威勢良い話じゃのう。しかし儂の本気はまだまだじゃ! チェンジ! ドリルアタックモード!!」
 と宣言すると共にアルティメットモードを使用。両肩、両膝、身体の真っ正面にでっかいドリルが付いていく。
 更に、その周りにも仲間達……悠や旧介は、破けた服や血糊でゾンビを装っているし、イッパイアッテナは悪者っぽいカイゼル髭と武装で仮装。
 勿論、サーヴァント達もそれぞれが仮装を行い、勇者に対峙する。
 そんなケルベロス達の構えに、対する少年はちょっと怯む。だが、勇者として、退く事は出来ない、と思ったのだろうか。
『強そう……う、ううん。負ける訳にはいかないよ! ボクは勇者なんだ。絶対に、負けないんだ!!』
 と思い直す。そして悠、十六夜、ガナッシュ、鬼人が。
「よくぞ、辿り着いた。しかし御前の道は、此処で、途絶えるだろう、さァ、存分に、遊ンでおくれ」
「そうだ。悪いが現在此処から先は通行止めだ。通りたければ、俺達を倒して行くしかないぞ?」
「うむ。さあ、ゆくぞ勇者よ!! ほら、皆の者、掛かれ!!」
「はっ、魔王様」
 その言葉と共に、ケルベロスが左から、右から続々と攻撃していく。
 接近し、アバターへの攻撃。
 左、右から打ち下ろす剣撃は、少年を苦しめる……でも、あえて完全に追い詰めるような攻撃はしない。
 なぜならば、少年はこれをゲームと思い込んでいる……このゲームを辞めたい、と思わせなければ、いつまで経っても、アバターは復活し続ける。
『っ……!! 中々強い。でも、勇者のボクが、絶対に倒してみせる!!』
 と、少年は何度も何度も、そんな言葉を口にして、諦めずに攻撃。
 ただその太刀筋はまだまだ大振りで未熟。そんな剣戟に。
「この程度か……正直がっかりだな……強敵と相対出来ると思ったんだが……期待外れか……」
 と十六夜がぽつり。それにヒマラヤンが。
「そうなのです。まだまだ、この程度じゃ私達をやっつけるのは無理なのですよ!!」
 と、声を上げる。
 そんなケルベロス達の言葉に、更に怒りを覚え、剣を振り回すアバター。
 ……敢えて、その攻撃をカバーリングする事で、被害を装うと。
「……っ……!!」
 と、その攻撃をカバーリングし、倒れる九助のビハインド、八重子。
 すぐヒマラヤンが回復するものの、かなり重傷……そして九助が、咄嗟に抱え上げると。
「勇者、お前にも家族はいるか?」
『っ……何?』
 と問いかけると、九助は更に。
「俺にはいるぜ。例えば、そこの八重子だ。お前はそいつを殺そうとしている。この城にいる他のゾンビ達にも、人を傷付けない無害な家族が居る。御前はそれをも殺すんだろうなぁ? 俺は、子供なんか、殺したくねえんだがなあ」
 と、敢えて少年の罪悪感を刺激するように呟く九助。
 でも、ぶんぶんと首を振って、更に剣を振り回す。
 剣戟を受け手倒れる仲間達に。
「おう、勇者様よ? 異形とはいえ、無害な民を殺す気分はどうだ? 俺達からみればよ。御前の方が悪の権化に見えるぜ? だから、この鬼が勇者、貴様の悪行を正してやるよ」
 鬼人の言葉、そして……鋭い太刀筋で、一撃を叩き込む。
 その一撃に……アバターは崩れ墜ちる。
 が、次の瞬間、再度復活するアバター……コンテニューボタンを押したのだろう。
「息絶えて復活するその様は、まるでゾンビの様だ。死んで甦る程、お前の身体はどんどんゾンビになる。これでお前もゾンビの仲間入りだな。もう大剣を満足に振り回せないのではないか?」
『そ、そんな事無いっ!!』
 と力強く叫ぶ少年。そんな彼に、ガナッシュが。
「ほぉまだやるのか。中々頑張るのう。ならば、その頑張りに免じて一つ良い事を教えてやろう!」
『な……何!?』
「そうだ。わし等ボス敵は、まだ3万人以上おるぞ?」
『さ、3万人……?』
 驚愕の表情を浮かべる少年。
 まぁ、当然と言えば当然だろう……3万人なんて言う言葉は、にわかには信じられない……いや、信じたくないだろう。
「ほれ、どうしたのじゃ? わしらを倒すと意気込んでいたじゃないかのう?」
 と言うと、それに。
『さ、三万人なんて……そんなの、倒せる訳ないじゃん……そんなんじ、無理だよ……』
 すっかり気持ちが折れてしまった少年。
 一人倒すだけでも、こんなに苦労しているのに、それが3万人なんて言われては……絶望してしまうのも、至極当然。
 ……そして、ガナッシュは。
「はははは! さぁ、お前の力をもっともっと見せるのじゃ!」
 と言うと共に、ガナッシュの旋刃脚を軸に、ベルフェゴールが。
「接近戦はあまり得意じゃないんだけどね……」
 と言いながら幻剣舞、悠のサイコフォースと、イッパイアッテナの龍穴。
 ある程度体力を削っていった後、一気に鬼人が月光斬で撃ち抜き、十六夜が。
「戴くぞ、貴様の業……天導流神殺し、血神蓮華」
 と、『総餓天導流禁術奥儀【蓮華】』の一閃を叩き込むと……少年は倒れると、またも復活する事は無かった。

●夢亡き跡に
 そして……少年の元へと急ぐケルベロス達。
 少年はVRゴーグルを被ったまま、座り込み、う、うう……と啼いている少年。
 そんな少年の肩をぽん、ぽん、と軽く叩きながら。
「おい、大丈夫か?」
 と九助が声を掛ける。
 その言葉に、暫しいや、いやあ……と泣きじゃくる少年。
 そんな少年に、羽織るものをイッパイアッテナが掛けて、更にVRゴーグルを取る様に促す。
 ……そして、VRゴーグルを外した少年に、ニッと笑い掛ける九助。
「気付いたな……ほら、俺達の顔、見えるか?」
『……!?』
 暫しまどろんだ後……びくっ、となる少年。
 それに、ベルフェゴールとヒマラヤンが。
「どうやら……ボク達のこと、覚えてるみたいだね?」
「その様なのですね。んー……大丈夫なのです? 怪我とかしてないです?」
 と言うと、少年は。
『だ、大丈夫……だと、思う……』
「そうなのですか。それならまずは一安心なのです」
 にこっ、と笑い掛けるヒマラヤン。そして九助が。
「しかし……お前の太刀筋良かったぜ? こうゆうゲーム、さては結構やってんだろ。な?」
 と笑い掛けながら、首に手を掛ける九助。そして更に。
「少年、覚えておきな。ゲームとはいえ、自分の行いが正義だと思い込むのは危険だって事を、よ? そして、真の勇者は無益な殺生はしないもんだってのも、な」
 と鬼人の言葉に、ガナッシュも。
「そうじゃな。さて……おぬしに聞いてみたいのじゃが、わしはどう見えたのかの?」
 と問いかけると、少年はちょっと恐ろし気な表情で。
『……何だか、ローブを着た、大魔王……みたいな、感じだった……です……』
 と。
「ふむ……そうかの」
 と苦笑かつ、肩を叩いて。
「まぁ、何にせよ、無事に救えたわけじゃし、そろそろ帰るとするかの?」
「……そうだね。立てる? 肩を貸すよ」
 とベルフェゴールが少年に肩を貸しつつ、帰路へとつくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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