血のクリスマス事件～ホワイトクリスマスの陽の下で

■リプレイ

●
　クリスマスイブの朝。
　周囲の家々では、色とりどりのデコレーションが施され、その演出に魔法をかけるのは、地面を覆い尽くす純白の雪景色。
「今回の敵って、そこはかとなく佐藤さんに似てるわね！　まさかモデルにされたとか？」
　子供の家へと急行しながら、踏みつける雪の感触に、羽丘・結衣菜（黒き翠緑の奇術師・e04954）は僅かに頰を緩めつつ、隣を走る佐藤・非正規雇用（さよならクリスマス・e07700）に問いかけた。
「どうだろうな？　だけど、もしそうだとしたら、あんな紛い物に大きな顔はさせない。俺こそが真のトナカイだ！」
「落ち着けアルバ、あれは機械で、お前はドラゴニアンだろう……」
　佐藤の脳裏に浮かぶのは、因縁あるヴァンガードレインの姿。
　キリッとした表情で、さも当然そうにトナカイを自称する佐藤の肩が、哀れみの混じった声と共に、ミツキ・キサラギ（伸びろ・e02213）に叩かれる。佐藤は、ミツキの言葉に、その事実を今思い出したかのようにポンと手を打った。
「お－、飾り付け綺麗だなー！　雪もいいぞー！」
　クリスマス気分に心躍らせるのは四葉・リーフ（天真爛漫・e22439）だが、敵が……それもサンタを名乗る輩がこの雰囲気をぶち壊しに来ると思うと、途端に腹が立ってくる。
「偽物のサンタなんて、私がぶっとばしてやるー！」
「そうね、皆の楽しみを壊すなんて許せないわ。だけど、間違えて佐藤さんを攻撃しないようにね？」
「できる限り気を付けるー！」
　怒りにまかせて腕をブンブンと振り回す四葉を、苦笑を浮かべた植田・碧（紅の癒し・e27093）がドウドウと落ち着かせる。
「え、もしかして俺ってば、背後からの攻撃にも気を付けないといけない？！」
「あら？　女の子にそういう事されるのは、佐藤さんにとってはご褒美じゃないのかしら？」
　振り回される四葉の拳を見て、戯けた様子で後ずさる佐藤に、鏡・胡蝶（夢幻泡影・e17699）が微笑みかけた。
　痛いのは勘弁だ！　そう叫ぶ佐藤の頰を「じゃあこういうのはどうかしら？」と、胡蝶がツンツンとつつくと、佐藤は赤面して黙り込んでしまう。
　その様子を見て、ハチミツ・ディケンズ（彷徨える琥珀・e24284）と黒岩・白（ドワーフの犬巫女・e28474）も笑った。
　だが、そうしたじゃれ合いも、続きは任務が終わってから。白が表情を引き締めると、その眼前は目的地周辺。
「佐藤お兄様、ヴァンガードレインの情報を改めて聞かせて頂けますこと？」
　足を止めたハチミツが、佐藤の顔を見上げる。
「敵は片方が倒れると、もう片方が代替機を組み上げるという噂がある。もし、そんな素振りを見せたら同時に倒すよう注意しよう」
「それがホントなら面倒っスねぇ……」
　真偽は実際に戦ってみるまで不明。だが、事実なら白の言う通り面倒この上ない。
「代替機を組み立てるなら、その間は格好の隙になりそうだが……いや、万が一のことを考えるべきだな」
　なんにせよ、油断はできない。ミツキが纏め、一同の顔を見渡すと、誰もが真剣な表情を浮かべていた。
　そこへ――。
　赤と黄金、それぞれメタリックなカラーを輝かせつつ、ヴィクトリーサンタとヴァンガードレインが地に降り立つ。タイミングとしては、タッチの差。先に到着できた事に、ケルベロス達は胸を撫で下ろしつつ、
「聖なる日に、あなた達はお呼びじゃないのよ！！」
　碧の守護星座がイブを祝福するように光り輝き、戦端は開かれるのだった。

●
　碧に続いてスノーが羽ばたき、前衛に癒やしと破邪の力を仲間に授ける。
「（ヴィクトリーサンタはともかく、ヴァンガードレインの電撃攻撃は厄介ね）」
　絶えず移動し、隙を伺いながら、胡蝶は思案する。
「（まずは敵のポジション探りから……かしら？）」
　敵の強みも弱みも手探り状態な戦闘序盤。胡蝶がチラリと後方へ視線を向けると、佐藤と目が合った。
　彼らの意思を疎通するのに、それ以上の言葉は無用。胡蝶が動くと、合わせるように佐藤も前に出る。
「店長！」　
　佐藤が名を呼ぶと、店長は果敢に口に咥えた剣でヴァンガードレインに斬り掛かる。
「グゥ……グゥグゥ！」
　すると、ヴァンガードレインはトナカイ特有の豚に似た鳴き声を上げ、雷を纏わせた角で応戦する。雷と得物のぶつかりあう轟音の中、
「頑丈な玩具め……ブチ壊れろ！」
　佐藤の振るうチェーンソー剣がヴァンガードレインの外殻に傷を付け、胡蝶の撃ち出した黒色の魔力弾が心に浸食する。
「どんな装甲だろうと撃ち貫くのみ、だぜ！」
　まずは、ヴァンガードレインを落とす！　そうした共通認識の元、ミツキもゴテゴテとした屈強な戦車型鎧装モードに移行し、電光石火の蹴りで急所を狙おうと試みるが――。
「ミツキさん、危ないっスよ！！」
　白の注意喚起により、ミツキは迫る脅威を感じ取った。
「ワレワレノ目的のタメ、排除スル！」
　敵はヴァンガードレインだけではない。ヴィクトリーサンタがミツキに向ける捻りの入れられた拳の迫力は、間違いなくクラッシャーとしてのそれだ。
「危ないっスから、こういう時こそ僕の出番っスよね？」
　だが、その拳はミツキの男とは思えぬ可憐な顔に傷をつける事は叶わない。間に割って入った白の両腕により、阻まれていた。
「――ッ」
　拳を受け止めた白は、重い一撃に顔を少し歪ませつつも、身振りでミツキに合図する。その意図を汲み取り、ミツキは今度こそヴァンガードレインに蹴りを叩き込んだ。
「白ちゃん、大丈夫！？」
　いくらディフェンダーとはいえ、クラッシャーの攻撃を受けてはただでは済まない。
「この恵みを以て、あなたを癒やすわ」
　魔法の木の葉を集めた結衣菜が、白の傷を優しく包み込んで癒やす。回復中の結衣菜の隙を潰すため、まんごうちゃんは爪でヴァンガードレインの魂魄を傷つけ、挑発した。
「グググゥ！！」
　思惑通り怒りを浮かべ、まんごうちゃんに向けてほとばしる雷を放つヴァンガードレイン。
「ムゥ、小癪ナ！」
　だが、以前健在のヴィクトリーサンタによる電光石火に蹴りに加え、ヴァンガードレインのポジションすら確定できない現状では、迂闊な行動をとることはできない。
「やはり、一刻も早くヴァンガードレインを倒してしまう事が先決ですわね。そのためには、皆様の火力の底上げが重要……なによりも――」
　ハチミツが中衛に陣取る佐藤の背中を一瞬見て、カラフルな爆発を発生させる。
「やはり貴方のような紛い物に大きな顔をされていては我慢がなりません！」
　いつの間にか、完全にトナカイ扱いが定着している事実に、最早誰も突っ込みを入れる者はいない。
「お前らなんかがいたらサンタさんが来れないだろー！！」
　それは、リーフも例外ではなかった。
「本物のサンタさんと、ついでに佐藤に迷惑かけるなー！！！」
　リーフは、サンタクロースの存在を心から信じている。脳裏に浮かぶのは、佐藤の引くソリに乗る、白髭のサンタクロースの姿。それを邪魔する敵に、リーフが容赦する道理はない。
　リーフの放ったオーラの弾丸が、ヴァンガードレインに着弾し、喰らいつく。そんなリーフに追随するように、腕を組み、戦況をどっしり構えながら見つめていたチビも、尻尾の輪で着実にダメージを積み重ねる。
「グブゥ！？」
　ヴァンガードレインが体勢を崩して呻く。
「やるっスよ、マーブル、幽！　憑依武装――マーブルファング！」
　そこへ、回転しながら突撃した白の一撃は、黄金の外殻に亀裂を生み出すのだった。
　
●
「っ、ううっ、効く……わね……」
　戦闘開始から数分。ヴァンガードレインの電撃を帯びた角をオウガメタルを盾にして受け止め、反撃に転じようとした結衣菜の動きが阻害され、硬直する。
「結衣菜お姉様！　……これは、やはりパラライズの効果ですわね！　ババロアも援護を！」
　動けない結衣菜に、ハチミツが慌てて桃色の霧を放出すると、ババロアも、もう一人のディフェンダーである白に改めて属性を注入する。
「私達も充分に気を配っていたにも関わらず、それが追いつかないという事は……」
「ああ、恐らくヴァンガードレインのポジションはジャマーだと考えて間違いないな」
　胡蝶がライトニングロッドと煙管を器用に駆使してヴァンガードレインに莫大な電撃を流し込み、
「でぃぃぃやっ！」
　ミツキが左手のフックから、右手のパイルバンカーという流れるような連撃で黄金の一部を粉砕する。
「メリィイイ……！　クリスマァアス！！」
　そうして崩壊し、脆くなった一部を庇おうとするヴァンガードレインに向け、そうはさせまいと佐藤が店長を力の限り投げつけようと振りかぶった。
「サセヌワッッ！！」
　だが、ヴィクトリーサンタも黙って見ている訳ではない。佐藤に極大の光と共に、魔法光線が襲いかかる。
「正義の味方を忘れてもらっちゃ困るっスね！」
「マタ貴様か！　何度モ何度も邪魔ヲ！！」
　佐藤を守るため、またしてもヴィクトリーサンタの前に白が立ちはだかる。何度攻撃しても倒れない白をきっとヴィクトリーサンタは壁のようだと思っているに違いない。
「佐藤さん、今っスよ！」
「応！　サンキューな、白さん！」
　今度こそ、佐藤のフォロースルーを阻む者は誰もいない。猛烈な速度でヴァンガードレインに突き進む店長は、ついにその肉体を貫通し、機能停止へと追い込んだ。
　雪が舞い散り、周囲を沈黙が満たす。
　だが、ヴィクトリーサンタは動かず、ヴァンガードレインも復活する様子はない。
「……デマ、だったのかしら？」
　碧が呟く。その意味する所は、隙だらけのケルベロス達に向かって、ヴィクトリーサンタが攻撃を仕掛けてきた事で確信に変わる。
「やーい！　こっちこっち――って、もうこっち来てるー！」
　四葉が誘導するまでもなく、寸前に迫っていた捻りの入った拳を四葉は両手のバトルガントレットで懸命に捌いていく。時折入れられる重い一撃に、四葉は内心の苦痛を表に出さず、むしろベーと舌を出して強がりながら、隙を狙ってヴァルキュリアとの戦いで習得した蹴り技をヴィクトリーサンタの頭上に決める。
「分身の術！　これで僕も二人分っス！」
　さらに追撃として、白が狐の霊で分身を生み出し、刀身を炎に包まれた刀で連携攻撃を繰り出すが、紙一重で躱されてしまう。
「黒岩さん、一旦体勢を整えましょう！　大丈夫、焦らなくともあと一歩よ！　スノーも、頑張れるわね？」
　碧は手負いの白を後退させ、オーラで回復させると、白の背中を追うヴィクトリーサンタをスノーの尻尾の輪で牽制させた。

「結局、佐藤さんの聞いた噂は誤情報だったってことでいいのよね？」
「そういう事になるかしら。佐藤さんてば、お茶目ね。そういう所も可愛いのだけれど」
「うう、面目ない」
　ヴァンガードレインが復活しないとなれば、結衣菜も攻めに回ることが可能だ。結衣菜がファミリアロッドを振ると、大量の魔法の矢がヴィクトリーサンタの深紅を覆い尽くす。
　所在なさげな佐藤にクスリと笑いかける胡蝶は、浪々と古代語を詠唱し、木馬の拷問器具でヴィクトリーサンタを徹底的に責め苛んだ。
　佐藤は、苛烈な拷問が罰として自分に降りかからない事を祈りつつ、店長と共にヴィクトリーサンタへとそれぞれの得物を手に斬り掛かり、傷口を広げていく。
「ふふ、それでこそ佐藤さんらしいって気もするけれど、ね」
「なにかよく分かんないけど、サンタさんの邪魔者を倒せるならそれでいいぞー！」
「ええ、まったくね」
　今回は、誤報であった事がむしろ有り難い内容だ。慎重に事を運んで、損をする事などあまりない。
　ただ、その情報源が佐藤だったからこそ、なんだか面白いというだけの話。
　最後をキッチリと締めてもらうため、碧が戦乙女の歌を歌い上げると、迷いのない様子で四葉がヴィクトリーサンタ周辺を爆発させる。
「キ、貴様ラ、調子ニ乗リオッテ！」
「あらあら、背中がガラ空きでしてよ？」
　集中砲火を浴び、煙を噴くヴィクトリーサンタの背後に回ったハチミツとババロアが、魔力弾とブレスで畳みかける。
　苛立った様子のヴィクトリーサンタは、魔法光線をハチミツに向けるが、
「まんごうちゃん、よろしくなの！」
　敵の行動を読んでいた結衣菜の指示で待機していた、まんごうちゃんに阻まれる。
「思ったよりも楽に終わりそうで、僕はむしろ佐藤さんに感謝したいぐらいっスよ？」
　気が抜けていた訳では断じてないが、面倒は少ない程いい。想像より楽だと分かり、何故か俄然やる気に満ちた白による怒濤の回転突撃が、ヴィクトリーサンタの鎧をボコボコに変型させる。
「絶望がお前のゴールだ！　なんつってな！」
　ミツキが鎧装をパージさせ、フィルムスーツのみになる。
「馬鹿メ！」
　それをミツキの油断と判断したヴィクトリーサンタは、最後の力を振り絞り、電光石火の蹴りを放つ。
「俺の本気は、もっと速いぞ？」
　だが、ミツキの速度はそれ以上。音の壁を超越した速度で放たれたミツキの連続攻撃は、嵐のようにヴィクトリーサンタに刻まれ、敗北の二文字をプレゼントするのであった。

●
「なんでこんなことに……」
　呆然と、ミツキは自身が着用している可憐なミニスカサンタ衣装を見下ろした。
　息をぜぇぜぇと荒げながら、懸命にソリを引くトナカイ姿の佐藤のお尻を眺めながら……。　
　きっかけは、結衣菜の言葉。
　サンタコスして街を回りたい！　そのためには、トナカイが必要ね！　なら佐藤さんがいるじゃないのよ！！　
　そして、最初こそ渋った佐藤は、結衣菜の「女の子の尻に敷かれてみたくない？」という提案に、全力の「YES！！！！」で答えたのだ。
　そこからは、もうトントン拍子。
「はい！　誠心誠意、ソリを引かせて頂きます女王様！」
　そう宣言し、プライドをかなぐり捨てた佐藤はトナカイとなり、白が「ずるい！　僕も！」と割って入り、大所帯となった。
　そこに、当然のようにミツキも巻き込まれたという寸法だ。
「何やってるのかしらって思ってたけど、なんだかんだ楽しいわね！」
　風に乱れる紅い髪を抑えながら、碧が笑う。
「もっと早くだー！　ロリコントナカイー！」
「誰がロリコンだ！？」
　四葉に煽られ、佐藤が転びそうになる。
「ほらほら、佐藤さん。お嬢さん方はもっと刺激を求めているそうよ？　頑張れたらご褒美を考えるから、ね？」
「佐藤お兄様、申し訳ございませんわ。……でも、わたくしももう少し早い方が嬉しいですわ！」
　これがクリスマスの魔力か。胡蝶もハチミツも容赦がない。
「うおおおお！」
　だが、ご褒美を鼻先にぶら下げられれば、頑張らずにはいられないのが男の性。
「ところで佐藤さん、ロリコンってマジっスか？　だったら逮捕しないといけないんっスけど？」
「だから違うわー！！」
　見物人のフラッシュが瞬く中、白の言葉に佐藤が叫ぶ。
　今年も、クリスマスがやってきた。

作者：ハル	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 2／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 3
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。