血のクリスマス事件～待ち合わせは駅前で

■リプレイ

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　早朝の駅前、周りを見ると一般人の姿もちらほらあった。
　まだ敵の襲撃は無いようだ。
　そこは平和そのもので、クリスマスを楽しみにしている人々の声がいくつも聞こえてくる。特に、駅前で待ち合わせ、これからクリスマスデート、きゃっきゃウフフ、と言うような会話だ。
「ケッ、呑気なモンだぜ……」
　一般人の中に紛れていたデレク・ウォークラー（灼鋼のアリゲーター・e06689）が苛立つ声を上げた。敵の襲撃を知っているからこそ、この浮かれた周囲に苛立つのだ。
　……別に。
　別に、独り身だからってイラついているわけではない。
　そう言う訳じゃないんだからな。うん。
「せやな、カップルにはクリスマスを楽しんでもらわな」
　その真っ只中で、美津羽・光流（水妖・e29827）も呟いた。淀んだ瞳で、どこか遠くを見ながら。
「待った？」
　そこへ、いかにも待ち合わせをしていましたと言う風に橘・芍薬（アイアンメイデン・e01125）が現れた。テレビウムの九十九は今はかばんに隠れている。
　光流も片手を挙げて芍薬に応えた。
「平和を守るんは俺みたいな非リア充に任せとき」
「え？　何か言った？」
「いや、何でもあらへんし」
　そっと、血涙をぬぐう光流であった。
　他の仲間も一般人に紛れ敵の襲撃に備えている。
「楽しい気分の人を邪魔するのは良くないですね」
　カルナ・ロッシュ（彷徨える霧雨・e05112）は、本来狙われるはずのカップルの近くで待機している。
　その周辺には笹ヶ根・鐐（白壁の護熊・e10049）や雨咲・時雨（過去を追い求め・e21688）の姿もあった。
　一般人のカップルは、これからの予定を楽しそうに話し合っているようだ。
（「クリスマスか……」）
　そんな駅前の風景を眺めながら鋼・柳司（雷華戴天・e19340）は思う。
　プレゼントは、娘に送った後だ。もう他には予定はない。娘とは離れて暮らしているために会えないのだし、デウスエクス退治も一興だろうと。
「クリスマスに来るなんて人の予定を考えてほしいわ！　もう！」
　その時、耳と尻尾を立てて周辺を警戒していた死屍・骸（光のカデンツァ・e24040）が立ち上がった。
「あ！　ほら見て、上よ」
「来ましたか」
　時雨も表情を引き締める。
　突如、空からそれらは舞い降りてきた。
　煌く金ぴかの『ヴァンガードレイン』。
　それにまたがるは、赤と白の鋼鉄のボディ『ヴィクトリーサンタ』
　二体で一組のダモクレスが、勢い良く地面に着地する。
「またよく分からん迷惑なのが出たな……」
　ダモクレスは外宇宙的存在のはずだが、地球関連の姿になるのはなぜなのか。鐐は呆れたように二体のダモクレスを見て、一般人を助けるため走り出した。

●
「貴様達、今日この日に、待ち合わせたなァ」
「幸せそうに待ち合わせているナ。これは、ピッカリやっちゃうしかないナ」
　派手な音を立てて着地したヴィクトリーサンタとヴァンガードレインは、駅前で楽しげに待ち合わせをしていたカップルに鋭い視線むけた。
「えーと、あれ、貴様達も？」
「おや？」
　そして、待ち合わせのカップルを装っていた光流と芍薬にも。
　瞬間、ケルベロス達は動いた。
「ケルベロスだ！　ダモクレスが現れた、我々の指示に従い避難してくれ！」
　鐐が大声を張り上げ、周囲の一般人に呼びかける。
　呆気に囚われていた一般人たちが慌てて走り始めた。
「さあ、こっちです。早く逃げてください」
「逃げてーっ！」
　カルナと骸も順に一般人を逃がす。
「待てぇい！！　逃がさぬぞォ、幸せげなモノどもよ！！」
　気付いたヴィクトリーサンタが一般人へ身体を向けた。ガシャンと重厚な金属音を響かせ、光るベルトからまぶしい光を撃ち出す。
　その間に、デレクが割り込んだ。
「命惜しいならとっとと失せな！」
　戦場に残られちゃ邪魔なだけだ、と。武器を振るい、攻撃から庇ってみせる。
　残っていた一般人を更に鐐が促した。
「誰一人、殺させはしないですよ……」
　仲間が一般人を逃がそうとしている間に、時雨は影から自身の分身を出す。
「影の内から出でよ分身」
　影分身と共に跳び、ヴィクトリーサンタへ攻撃を仕掛けた。
　光り続けるベルトを蹴りつけ、角度を逸らす。
　一般人にこれ以上攻撃が行かないよう、仲間達が敵を囲うように走った。
「実際にこうして事件にあたってみると……イロモノね」
　敵の姿を見て、ひそひそと芍薬がカルナに耳打ちする。
「そうですねえ。サンタ型ならプレゼントの袋とか持っていないのでしょうか」
「サンタの袋にはプレゼントが詰まってそうだしね」
「いえいえ、別に強奪しようなんて思っていませんとも」
　言いながら、カルナがアームドフォートの主砲をトナカイに向けた。狙いを定め、一斉に射撃する。
「ま、今日は折角のクリスマスイヴだし楽しみにしてる人達に悲しい思いさせたくないものね」
　きっちりぶっ飛ばして奴らの企みは阻止してやるわよ、と。芍薬はサンタに攻撃を飛ばした。
「……あっ、でもなんかこのダモクレス格好良いかも」
　走りながら骸が瞳を輝かせる。
　まぶしい光を放つヴィクトリーサンタはもとより、角から身体から輝きまくっているヴァンガードレインと来ているのだ。
　気になってしまうのも仕方がないこと。
「超合金やな」
　ちょっとカッコイイと思ってしまった光流がそう言った。
「機械仕掛けのサンタやトナカイか」
　柳司は敵を眺めながらエアシューズを走らせる。
「子供の玩具にでもなって出直せ」
　そのままサンタの懐に飛び込み、とび蹴りを放った。
「と言うわけで、まずはサンタに集中攻撃ね」
　ゲシュタルトグレイブを構えた骸が続く。
「ちょっと、待ちたまえ。ほら、サンタのこと格好良いって言わなかったかなァ？！」
　よろめいたサンタが慌てたように身を引いた。
「うん。でも、悪いダモクレスにはお仕置きしちゃうんだから！」
　逃がさぬよう一歩踏み込み、骸は稲妻突きを繰り出す。
「ぐぬぅ」
　サンタが呻いた。
「は、そこで喚いていろや」
　追い討ちをかけるようにデレクが武器に纏わせた地獄の炎をたたきつける。
　それから仲間達の様子を確認した。
　まだ回復は足りているようだ。サンタに炎が燃え移る。しっかりと敵に炎が纏わりついたことを見て、デレクはチェーンソー剣を構え直した。次の攻撃のため、再び地面を蹴り走る。
「そもそも、ゴッドサンタって何やねん、その名前。そないなけったいなもん復活してたまるかいな」
　言いながら、光流は全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、前衛の仲間のの超感覚を覚醒させる。静かに足を運び、光流も戦場を駆けた。
　すでに周囲に一般人の姿はない。
　ケルベロスたちは上手く敵を囲みながら戦いを続けた。

●
　何度かの攻防を繰り返す間に、ケルベロスたちはサンタを追い詰めていった。
　柳司がサンタの目の前に立ち腰を深く落とす。
「静にして剛たる深奥の理を此処に」
　軽やかに触れるような掌底で敵の身体を突いた。
「な――」
　サンタはどうにか逃れようと身体を捩る。
　だが、柳司の方が早い。
「雷華戴天流、絶招が一つ……蒼龍雷掌！！」
　雷の魔力を衝撃へ変換し、強烈な物理エネルギーとして敵の内部へ伝道させた。
　衝撃でサンタの身体が吹き飛び地面に叩きつけられる。
「ぐはっ」
　くぐもった機械音のような呻き声が聞こえた。
「デウスエクス退治だからな。決して娘に会えない八つ当たりではないぞ」
　……完全な八つ当たりである。
　柳司はどこか遠くを眺めた。彼にも色々な背景があるようだ。
「くっ、させないナ。くらえッ」
　サンタが追い詰められたのを見て、ヴァンガードレインが角から強力な電撃を放った。
　時雨を狙った電撃のその前に、鐐が立ちはだかる。
「さあ、私の後ろに」
　戦い始めてからしばらくは一般人の避難を手伝っていたので、まだまだ体力に余裕がある。
　激しい電撃を受け止め、鐐は仲間たちを見た。
　まだ誰も倒れていない。上手くディフェンダーが仲間を庇い、体力を持たせているのだ。
「ありがとうございます。大丈夫でしょうか？」
　時雨が気遣うように鐐へ声をかける。
　鐐は頷きボクスドラゴンの明燦を呼んだ。
「すぐに回復する、大丈夫だ」
　明燦が属性インストールで鐐の傷を癒す。
「足りない分は私が回復するわ」
　芍薬も光の盾を飛ばし、重ねて回復させた。
「むう、まだだ、まだ」
　その間に、サンタがよろよろと立ち上がる。
　鋼鉄の拳を握り締め、攻撃の姿勢をとる敵サンタ。
　もはや体力がつきかけていると言うのに、サンタは地面を蹴り鐐に飛びかかってきた。
「チッ、下がってろ」
　今度はデレクが鐐を庇う。
　鋼の拳が下腹にめり込み、勢いに押されて体が後退した。
「ふざけたナリはしてるがダモクレスってか」
　逆流してきた胃液を押し戻し、デレクが言葉を吐き捨てる。
「大丈夫か？！　すぐに治したる！」
　すぐに光流が駆け寄ってきた。
　デレクの傷を見て、頭の上で空間を真一文字に切り裂く。
「西の果て、サイハテの陽よ、呼ばれて傷を癒しに来たって」
　光流の言葉と同時にあかね色の光があふれ出し、デレクをオーロラのように優しく包み込んだ。
　傷がしっかりと癒えていくのが分かる。
　その間に、カルナがするりと敵の前に滑り込んだ。
「今日は寒いですからね、防寒対策は万全ですか？」
「は？」
　静かに腕を伸ばし、大気を次元圧縮により急激に冷却する。大気は八本の凍てつく氷の刃となり、サンタへ向いた。
「ちょっと、まっ――」
「舞え、霧氷の剣よ」
　情けない機械音を響かせるサンタに、カルナは涼しい笑顔を向けた。
　氷の刃は飛び、牙獣の様に敵の身体に喰らいつく。
　これは魂をも凍らせる絶対零度の氷牙だ。
　逃れることなど出来るはずもない。
　それに、足止めもしっかり効いているのか、全ての刃がサンタの体を抉り凍てつかせた。
「あ」
　ギシと。
　金属が擦れる音がして、サンタの動きが止まる。
「よし、動きが止まったわ！」
　骸がそれを見て踏み込んだ。
　稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブを突き立て、敵の身体を引き裂く。
　深い部分から武器を引き抜くと同時に、サンタの身体が崩れ落ちた。
「！！　さ、サンタ？！　ヴィクトリーサンタ？！」
　ヴァンガードレインが駆けながら驚愕の声を上げる。
「うるせえよ！」
　傷の癒えたデレクが距離を一気に詰め、残ったヴァンガードレインに地獄の炎を叩きつける。
「？！」
　ヴァンガードレインが一瞬震えた。
　残り一体となった敵に、じりじりとケルベロス達が迫る。

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　仲間の様子を見て、鐐が杯を掲げた。
「想いの結晶たる至高の酒杯よ！　汝が根源たる癒やしの力を示せ！」
　これは熟成年数１００年を越える、半ば狂気とも言うべき人の心の結晶たる酒精だ。前衛の仲間達は、互いに庇いあい回復しあいながらここまで戦ってきた。ここで鐐が回復すれば、安心して攻撃に専念できるだろう。
　鐐は至高の薰杯を解放し、その輝きで前衛の仲間達を癒した。
　なお、酒気は届かないのでお子様にも安心である。
　仲間達はその後押しを受け、一斉に敵に斬り込んで行った。
「人の恋、邪魔をするなら、その身を裂かれ、死んで逝け」
　最初に時雨が斬霊斬を放つ。
　斬霊刀を非物質化し、霊体のみを汚染破壊する斬撃だ。
「ぬぅ、おのれ」
　ヴァンガードレインがよろめきながら角を柳司へ向けた。
　バチバチと電気の弾ける音が集まっていく。
　柳司は片足を一つ引き、スパイラルアームの構えを取った。
「くらえっ」
「そうそう何度も喰らうものか」
　電撃が放たれる、同時に柳司が攻撃を撃ち出す。
　二つの攻撃がぶつかり相殺された。
「ナイスよ。回復の必要は無いわね」
　芍薬が親指を立て、見事攻撃を相殺させた柳司に向ける。
　それから、熱エネルギーを手に集中させた。
「エネルギー充填率……１００%！　いくわよ、インシネレイト！」
　一気に敵の懐に飛び込み、その輝くピカピカの身体に触れてエネルギーを送り込む。
「！！」
　内部から爆砕され、ヴァンガードレインががくりと地に伏した。そこへ九十九が飛び込み、手にした凶器で何度も殴りつける。
「ぎゃ、ぎゃぃ」
　ヴァンガードレインが言葉にならない言葉を発した。
「おや、もう終わりですか？　もう少し遊んでいたかったのに残念です」
　追い討ちをかけるようにカルナが掌から『ドラゴンの幻影』を放ち、燃やす。
　炎が燃え、燃やし、敵の身体が炎の光を反射して赤く光った。
「く、幸せなモノ、壊す、壊……す」
　壊れた機械のように敵がぶつぶつと何かを呟いている。纏わり付く炎と氷が体力を奪い、麻痺が身体の自由を奪い、上手く動けないようだ。それに体力が限界なのだろう、満足に立てないと見た。
　ケルベロス達が更に攻撃を集中させる。
「人の恋路を邪魔する奴は顔に蛸ぶん投げたる」
　杖をペットの姿に戻した光流がファミリアシュートを放った。
「そうよね！　そもそも、待ち合わせのカップルを襲うって、悪いことよ！」
　骸はグレイブを二本同時に構え、無数の突きを繰り出す。
　何度も打たれ、貫かれ、ヴァンガードレインの身体が力なく地面を転がった。
「こんな、もので、ほろびない、ナ」
　息も絶え絶えだというのに、まだ敵は負けを認めない。
「上等、屑鉄にしてやらあ！」
　その様子を見て、デレクが地面を蹴った。
　全身のバネを駆使し、爆発的な瞬発力で敵に急接近する。
「刈り取ってやらぁ、その魂をよォ！！」
　気合一閃。
　駆け抜ける瞬間に、急所という急所を斬り付け、斬り捨てた。
「っ……」
　金属が崩れていく。
　もう角も光っていない。
　ヴァンガードレインが消滅した。

　戦いで被害が出た場所をヒールしていると、いつの間にか駅前に人が戻ってきた。クリスマスはまだこれからだ。
　ケルベロスたちは、再び楽しげな様子に戻った駅前を確認し、仕事を終えた。

作者：陵かなめ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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