――少年は、夢を見ていた。
きらきらと雪が降り続く公園の一角で、辺り一面に積もった雪を転がして大きな雪玉を作り、その上に一回り小さい雪玉を、えいやっ、と両腕で抱えるように持ち上げて乗せる。
少年が作っていたのは雪だるまだった。上の雪玉に赤いバケツをかぶせ、厚紙で作った黒くて大きな目と太い眉をくっつければ、なんとも愛嬌のある顔が出来上がる。寒くないようにと、ふわふわのマフラーを巻いてやれば、完成だ。
「出来たー! 雪だるさん、一号ー!」
完成した雪だるまこと雪だるさん一号を前に、両手を挙げて喜ぶ少年。
少年はさらに二号を作ろうと、雪を集めて雪玉の元を作り始める。
――そんな少年を覆う、黒い影。
「えっ……?」
少年が見上げると、いつの間にか動き出し、巨大化した雪だるさん一号が、丸い瞳で少年を見下ろしていた。
「……動いた……というか、大きくなってる……!?」
その場から逃れようにも、少年は腰が抜けてしまったらしい。そんな少年を見下ろす雪だるさんは、少年へゆっくりと、雪で出来た腕を伸ばしてきた。
「うわあああああっ!!」
その腕が少年へ触れようとした次の瞬間、少年は、現実世界のベッドの上で飛び起きた。
「あれ……夢……?」
見渡せば雪だるまの姿はどこにもなく、少年にとって見慣れた、彼の部屋の風景が広がっているだけ。
「びっくりしたあ……雪だるさんに襲われるかと思った……」
夢だったことにほっとした少年だったが、それも束の間のこと。
「えっ……?」
いつの間にか、少年の傍らに『誰か』が佇んでいた。御伽噺に出てくる獣のようなその『誰か』は、不意に手にした鍵で少年の心臓を貫いたのだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
そして、意識を失った少年は再びベッドに沈み、夢の世界へと囚われていく。
代わりに、少年の傍らに、愛嬌のある顔の雪だるまが姿を表した。
それを見届け、第三の魔女・ケリュネイアは――静かにその場から消え去った。
●スノウマンは夢と踊る
「おっきな雪だるまがビックリさせてくるとかあるかも? って思ってね」
「調べていたら本当に、おっきな雪だるまさんが現れてしまったというわけなんだ」
おっきな雪だるまさん、と両腕を上げてその大きさを表現したいらしいフリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892)を微笑ましく見やりながら、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)は、ドリームイーターによるものなんだ、と今回の事件についての説明を始めた。
夢にびっくりして飛び起きた少年がドリームイーターに襲われ、そのびっくり――もとい、『驚き』を奪われてしまった。『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているが、現場にはその奪われた『驚き』を元に現実化したドリームイーターが残っている。つまり――。
「このドリームイーターを、新たな被害が出る前に倒してほしいんだ」
倒すことが出来れば、『驚き』を奪われた少年も目を覚ますだろう。トキサはそう続け、ケルベロス達を見やった。
ドリームイーターは雪だるまの姿をしており、この一体のみで配下はなく、集中して攻撃すれば倒すことはそう難しくはないはずだ。
雪だるまは、深夜の市街地に現れる。行動範囲は狭く、被害者の少年の自宅周辺となるだろうと、トキサはタブレット端末の液晶画面にその地図を映し出した。
「幸い、と言っていいのかわからないけれど、この雪だるまは相手をびっくりさせたくてたまらないみたいで、極端な話、少年の家の周りを歩いているだけで勝手に向こうからやってきて、驚かせようとしてくるらしい」
そこで、とトキサは一つ提案をした。
ちょうど、少年の家の近くに小さな公園がある。昼前から降り出した雪がそこそこ積もっているが、そこならば街灯もあるし、戦うための広さも申し分ないだろう。そこで戦いの準備を整えつつ、余裕があれば雪だるま談義などなどに花を咲かせるなどすれば、雪だるまは必ず現れるはずだ。勿論、ただ待っているだけでも雪だるまはケルベロス達を見つけてくれるだろう。
ちなみに、ドリームイーターは自分の驚きが通じなかった相手――つまり、驚かなかったケルベロスを優先的に狙ってくるという性質があるようなので、これを利用すれば戦いやすくなるかもしれないね、とトキサは言った。
「というわけで、男の子が無事に明日の朝を迎えるためにも、頑張ってさくっと倒してきてね。頼んだよ!」
「もっちろん! ボクも頑張るから、皆も一緒に頑張ろう!」
フリューゲルはいつもの人懐っこい笑みを浮かべ、同胞達へ呼び掛けた。
参加者 | |
---|---|
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651) |
シェナ・ユークリッド(ダンボール箱の中・e01867) |
月霜・いづな(まっしぐら・e10015) |
フリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892) |
ジャスティン・ロー(水色水玉・e23362) |
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305) |
プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
夜を照らすのは人工的な明かりと雪明かり。昼間世界を白く染めた雪雲は既になく、星の瞬きが灯る空の下、ケルベロス達は人気のない公園へと足を踏み入れた。
とは言え、これから戦いが始まる場所だ。しっかりと準備をしておくに越したことはない。
「というわけで、ささっと人避けです」
そう言って、シェナ・ユークリッド(ダンボール箱の中・e01867)がキープアウトテープで入り口を塞ぐ。これで後は雪だるまのドリームイーターを待つだけとなったのだが――。
「――ゆき、ゆき!」
「わー、雪だ雪だ!」
瞳をきらきら輝かせ、雪の絨毯の上へと駆け出していく月霜・いづな(まっしぐら・e10015)とジャスティン・ロー(水色水玉・e23362)。二人分の足跡の隣に、いづなのミミック・つづらとジャスティンのテレビウム・ピロロの小さな足跡が点々と付け加えられていく。
(「……どうしてか、雪の日は駆け回りたくなってしまうのです」)
それは己の内に流れる血が騒ぐからか、いづなにはわからないけれど。
でも、雪の白さを、冷たさを、全身で感じれば――たちまちの内に胸がいっぱいになる。
「僕、雪大好きなんだよねー」
ジャスティンが思い起こすのは、雪に覆われた故郷の姿と、スキーやスノーボードで楽しんだ冬の日々。かまくらに雪だるまに雪合戦と、これだけの雪があればどれもめいっぱい遊べるだろう。
「よーし、やるぞー!」
一方、フリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892)もいつになくはしゃいだ様子で、スコップを掲げてみせる。
「カマクラも雪だるまも作りがいがありそうですわね」
一面に積もった真っ白な雪を見渡し、スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)は満足げに微笑んだ。
ドリームイーターの出現を待つ間、ケルベロス達はせっかくならばとこの雪を堪能することにしていた。
まずはかまくら作りである。集められた雪がスコップで固められてこんもりとした山になり、入り口がくり抜かれていく。さすがに全員が入れる大きさは難しかったが、急拵えながらもそこそこの広さを持つかまくらが出来上がった。
「温かい飲み物を用意しておくから、皆は心ゆくまで遊んでおいで」
早速かまくらへお邪魔したジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)が、電気コンロを用意しつつ皆を送り出す。
「雪合戦なら負けないぞー!」
気合たっぷりの声で、ピロロと共に雪玉を丸め始めるジャスティン。
「わしもちぃとばかし本気で行くとするかのう。喰らえィっ!」
受けて立つと言わんばかりに、服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が雪玉をぶんと投げる。
「雪たくさん積もってると、雪だるまさん作りたくなっちゃいますね。雪にお砂糖かけてみたくなっちゃいますね」
飛び交う雪玉を微笑ましげに見やりつつ、ころころと雪玉を転がすシェナ。
泥んこが付いても、真っ白な雪をぺたぺたしてお化粧すれば元通り。
かまくらの側で大きな雪玉を作っているのはプルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)だ。
「いちまる、これここに乗せてね」
プルトーネのお願いに応え、テレビウムのいちまるが大きな雪玉の上に一回り小さな雪玉を乗せれば、ぎゅっと雪が詰まった強そうな雪だるまが完成する。
「お鼻にって人参もらってきたんだー! かぶせるのにバケツもあるよ!」
すると、人参とバケツを手に現れたフリューゲルが、プルトーネといちまるが作った雪だるまを飾り付けた。
彼の周囲を取り巻く仲間達が大人ばかりであるからか、こうして誰かと思い切り雪遊びをするのはフリューゲルにとってはとても新鮮で。
勿論、大事な『仕事』が控えているのを忘れているわけではない。けれど、今だけは子供らしく全力で遊ぶのも悪くないだろう。
かまくらの入り口、その左右にいづなが飾ったのは、狛犬のような耳と丸っこい葉っぱの眉がついた小さな雪だるま。
「これで、かまくらの『ぼうはん』も、ばっちりですの! ……って、あら、つづら!?」
見ればわしゃわしゃと楽しげに雪を掻き回していたつづらがいつの間にか白く染まり――もとい、雪の中に埋もれていた。
そしてスノーもまた、雪だるまを二つ拵えていた。
一つはどことなくスノーに似た、羽の生えた雪だるま。そしてもう一つはそんなスノーの雪だるまによく似た、少年のような風貌の雪だるま。
「我ながら最高の出来栄えですわ……!」
少年の雪だるまを見つめるスノーの瞳が心なしかうっとりとしていたのは、おそらく気のせいではない。
一頻り遊び倒した後に、ジゼルが淹れてくれた温かいお茶でほっと一息。
「そういえば皆はクリスマスケーキとか決めた? 僕ブッシュドノエルとか食べたーい」
ジャスティンがふと切り出して、ピロロの顔の画面に色とりどりのクリスマスケーキを映し出すと、それを覗き込んだジゼルが微笑む。
「どれも美味しそうだ。見ているだけで、お腹の虫が騒ぎ出してしまいそうだね」
「……いよいよお出ましかのう」
不意に見張り番よろしく外にいた無明丸が眉を寄せて呟き、その声にかまくらの中で寛いでいた皆も外へ出る。
するとケルベロス達の目の前に、赤いバケツを被りふわふわのマフラーを巻いた小さな雪だるまがちょこんと現れていた。
まんまるな黒い目と、勇ましく釣り上がった太い眉。
雪だるまはケルベロス達の姿を捉えると――いきなり巨大化した。
「わー!?」
真っ先に驚きの声を上げたのはジャスティンだ。
「きゃぁあ!? ビックリしたわ、何この大きくて可愛いの!」
「どわーっ! 驚いたのじゃーっ! ……って、こんなんでほんとにいいのかのう?」
少々オーバー気味にスノーと無明丸が続く。確かめるような無明丸の声は、雪だるまに届かない程度の小ささで。
「……確かに、これは驚きだ」
ジゼルも瞳を大きく見開き、彼女なりに精一杯の驚きを顔に浮かべる。
「こんなにおっきな雪だるまさんびっくりです。そのうえ動いちゃうなんてすごくびっくりです。――夢みたいですてきですね」
シェナものんびりとした声音だが、口にしたのは驚きだ。
「まあぁ! すてき、すてき――まるで、おとぎばなしみたい!」
いづなが零したのは、驚きと歓声と、両方が入り混じった声。雪だるまがふふん、と胸を張ったように見えた――かもしれない。
「うわー、本当におっきい雪だるまさんなんだね。こっちが潰されちゃいそうで怖いかも」
最後にプルトーネが驚いてみせた所で、雪だるまの視線がフリューゲルへと向けられる。
黒くて丸い雪だるまの瞳。それを真っ直ぐに見つめ返し、フリューゲルはにっこり笑って大きく胸を張った。
「――全然、怖くないよ!」
次の瞬間、唸る風にも似た声を上げ、大きく飛び跳ねた雪だるまのパンチを、フリューゲルは真正面から受け止める。
「ピロロ、ディフェンダーで頑張って! 回復中心でお願いね!」
素早く指示を出したジャスティンが、杖の先から雪だるま目掛け雷光を迸らせる。その間にもピロロがフリューゲルを応援すべく、彼の好きそうな食べ物や可愛い動物などの映像を顔の画面に映していた。
自分の存在を驚かなかった者を優先して狙うという敵の性質を利用し、ディフェンダーのフリューゲルとサーヴァント達でその狙いを引きつけようというのがケルベロス達が立てた作戦の一つだ。
「僕が皆を守っちゃうんだから!」
軽やかな身のこなしで雪だるまへと迫り、魂を喰らう降魔の一撃を放つフリューゲル。
エクトプラズムの武器を構えるつづらの傍ら、いづなは巫女袴の裾をつまみ淑女の一礼を。
「いっしょにおどりましょう、ゆきだるまさん! あなたが、ぽかぽかになって、――ゆめのせかいへ、かえるまで!」
ステップを踏めば雪に残る足跡が楽しくて、いづなの心は弾むばかり。
その戦いを、儚き時間を、どうかどうか――心ゆくまで。
いづなが招いた半透明の御業が、氷を溶かしてしまいそうな熱い炎を踊らせる。
無論、グラビティの炎が焼くのはデウスエクスだけで、炎に照らされたかまくらやその周りの雪だるま達は、まるでライトアップされているかのように輝いていた。
炎に巻かれた雪だるまが後方へと跳ねて距離を取る。そこにすかさず斬り込むつづらと、反対側から攻め入ったのは無明丸だった。
「いざ尋常に――参る!!」
戦いの中に身を置く一人の戦士として、『敵』と向き合う無明丸。
難しく考える必要などどこにもない。ただ心地よく戦えればそれでいい。
無明丸はにっと歯を見せて笑うと、豪快な蹴りで雪だるまの胴体を貫いた。
「いちまるも皆を守ってね。大丈夫そうなら攻撃して、大丈夫じゃなさそうなら応援してあげて」
プルトーネの指示を受け、金のフォークを手に雪だるまへ躍りかかったいちまるに続くように、プルトーネも縛霊手を展開させた。
「――雪だるまは動いたりしちゃいけないんだよ!」
プルトーネの渾身の力が叩き込まれると同時に放たれた網状の霊力が雪だるまを縛り上げる。そこに流れるように動いたスノーが魔力弾を撃ち込んだ。
「大丈夫、逃げてもかならず当てるわ♪」
それはスノーが素敵な知人に術式を教わったという秘術。
雪だるまへと穿たれた魔力弾から刻印が侵食するようにじわりと広がっていく。すると描かれた刻印が突如として爆発し、雪だるまへとダメージを重ねた。
「ちょっとびりっとくるかもですが、いきますよー」
ジャスティンと並びもう一人のメディックであるシェナが、魔導書に記された禁断の断章を詠じた。紡がれる詠唱の向く先はフリューゲル。脳細胞へと直接働きかけて活力を吹き込み、秘められた力を解き放つ術だ。
「深夜のスノウマンか、まるで古い映画のようだね。楽しい夢のまま、朝を迎えるよう力を尽くそうか」
手にしたケルベロスチェインを心で制し、繰り出すジゼル。その狙いは寸分違わず雪だるまへと絡みついて大きな体を締め上げる。
「個人的にはスノウマンより、ユール・ゴートの方が好きかなぁ……といっても、君にはわからないだろうね」
ジゼルが思い浮かべたのは、遠い異国のクリスマスに飾られる藁の山羊。どうせ驚かされるのならばとジゼルは微かな笑みを浮かべてみせた。
「補助展開コード、鷹の目――千里を見透す眼となって!」
ジャスティンの澄んだソプラノが響いた次の瞬間、前衛陣の眼前に眼鏡の形のホログラフィが展開された。ホログラフィは掛ける各々によく似合うデザインで、視界をクリアにし、視力を飛躍的に引き上げる効果を与えるものだ。
仲間達の様子を見守るジャスティンの瞳に灯るのは、皆を癒し守ってみせるという強い意志。
ケルベロス達は守りと癒しの壁を厚くしながら着実に雪だるまの力を削り、動きを鈍らせていた。
堅実な作戦が功を奏し、やがて幾度かの攻防を経た頃には、雪だるまの攻撃を避けることが難しくなくなっていた。
雪だるまの体を形成する『雪』が、少しずつモザイクの欠片となって剥がれ落ちていくのを見て、ケルベロス達は戦いの終わりが近いことを悟る。
それでも戦いを止めようとしない雪だるまが、大きく吸い込んだ息を吹雪に変えて吐き出した。
凍てつく風が鳴きながら地上を翔けていく。その合間を縫うように踏み込んだ無明丸が渾身の力を込めて繰り出したのは光輝く拳。
「叩き割ってくれるぞその間抜け面――っ!!」
全力全開で打ち込まれた一撃にぐらりと揺れた雪だるまを、スノーの御業が放った業炎が包み込む。
そこに更なる彩りを添えたのは死角へと滑り込んだプルトーネが見舞った炎纏う蹴りと、フリューゲルの電光石火の蹴り。そして、
「みつけました、そこですね」
癒しではなく攻撃の手を選んだシェナが放ったプリズムの光だ。
夜空を翔けるプリズムが火花となって弾ける様は、まるで零れ落ちた星の最後の煌めきにも似て。
ドリームイーターの雪は炎では溶けない。けれど紡がれた夢は静かに解けてゆく。
「ずっと踊っていたいが、そろそろお開きとしようか。――喜ぶといい。これは君に捧ぐ詠だ」
歌うようなジゼルの声が、嘆きの妖精を呼び覚ます。姿なき慟哭が幾重にも交わり、生まれるはずのなかった夢を弔うかのように響き渡ると、それを聞いた雪だるまが嘆きとも呻きともつかぬ声を上げた。
「いざや共に参らむ、昼ひなかの天座す霜と呼ばれしや、清き宮の護り部よ――」
いづなは凛と真っ直ぐに敵を見据え、淀みなく祈りの言葉を紡ぎ上げた。
「――月の姫、月の彦、しろがねの爪牙打ち鳴らせ!」
高らかに響いた柏手二つ、現れたるは雌雄二頭の子狼。銀色の風が刃となって閃き冬空の下を駆け抜ける。
夢喰いへ刻まれたさいごの一撃にモザイクは砕け散り、夢は夢へ、在るべき場所へと還っていった。
「この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
高く拳を突き上げ、無明丸が戦いの終わりを告げる。
皆で作ったかまくらや雪だるまは幸い無事だったが、戦いによって公園内に全く被害が出なかったわけではない。
壊れた遊具にヒールを施せば、修復された箇所に淡く光る花が咲いた。
「身体も冷えてしまったことでしょうし、皆様、お汁粉でも召し上がりませんこと?」
「では、ついでに温かいお茶も淹れ直そうか」
スノーの提案にジゼルが頷いて、再びかまくらへ戻っていく。
「もう少し遊んで帰りたいよね」
まだまだ遊び足りないとプルトーネが子供らしい反応を見せれば、
「うん、ボクも雪だるまさんと、あと雪うさぎさん作る!」
「子供は風の子ですね。きれいな雪も残ってますし、私も雪うさぎさん並べます」
フリューゲルが嬉しげに、まだ残る雪を集め始めると、シェナもほわりと微笑んでそれに続いた。
「雪だるまと雪うさぎがいっぱいいたら、皆びっくりするかなー?」
「怖いビックリは嫌だけど、朝見た人が嬉しいビックリしてくれたらいいなーって思うよ!」
同じく雪だるま作りを始めながらわくわくとした表情を覗かせるジャスティンに、にっこりと笑ってフリューゲルが答える。
「あのように驚かそうとするだけなら、ドリームイーターにも可愛げがあるのじゃがのう。まあ、しかし、これはこれで冬らしいかの」
遊ぶ皆を見やりつつ、かっかっかっと笑い飛ばす無明丸。
(「――あなたが、とけてしまっても」)
先程戦った雪だるまの面影を新しく作る小さな雪だるまに託しながら、いづなはふと空を見上げた。
「……わたくし、こよいのゆめは、きっとわすれません」
小さく呟いた声が、夜風に紛れる。
だって、誰が聞いても。――きっと、驚いてくれるだろうから。
やがて公園を後にするケルベロス達を、大きなかまくらとその周りにずらりと並んだたくさんの雪だるまと雪うさぎが見送ることになる。
今宵の戦いを知っているのは、ケルベロス達と『彼ら』だけだ。
作者:小鳥遊彩羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2016年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 4
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|