サーシャの誕生日~君の糸

作者:森高兼

「クリスマスか」
 街中の鮮やかなイルミネーションを眺めながら、サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)はふと呟いた。
 所用で一緒だった綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)が、ある事を確認してくる。
「聖夜はサーシャさんの誕生日でもあったはずです」
「ああ……そうだな、残念なことに予定は入っていないが」
 その答えの意味におろおろする千影。
 サーシャは別に意地悪で言ったわけじゃなかった。はっきりと伝えなければ、それはそれで千影が話を切り出せないと解っていたのだ。妖艶に微苦笑して、改めて彼女に尋ねる。
「パーティを開いてくれるのか?」
「そ、そのつもりなのですが……聖夜と重なりますので」
「素直にクリスマスパーティということにしよう。誕生日とイベントが一緒の者の宿命だ」
「なるほどですっ!」
 どこまでも真面目な千影だった。今回はサーシャの誕生日ということで、がんばって幹事を務めるようだ。

 そうして、クリスマスパーティの参加者は募られた。サーシャのことは気にしないでも構わない。恋人や仲間と一緒、お一人様も歓迎!
 折角のクリスマスだからプレゼント交換か、はたまた自分へのご褒美なんてどうだろうか?
 サーシャが手持無沙汰になっていて、珍しい口調で独り言を口にしてくる。
「……運命の人との出会いについて、何か聞けたりしないものかしら?」
 艶っぽいサーシャの一言を耳にしたケルベロスは、仕方ないから実話や妄想を長々と語ってあげてもいいのだった。


■リプレイ

●糸を紡ぐ
 本日はサーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)の誕生日だけど、普通のパーティも兼ねている。
「お、お料理の準備はできておりますっ!」
 綾小路・千影(がんばる地球人の巫術士・en0024)は色々とがんばっていたようだ。張り切り過ぎている気がするものの、沢山のご馳走が用意されていた。
 祝辞を述べようと、華上・玲子(餅は詠う・e26392)がサーシャと顔を合わせる。
「サーシャさん、お誕生日おめでとうもっちぃ」
 何やらのびっとした語尾。いきなり料理を口にしていたわけじゃない。不思議な語尾にツッコミは無用だろうか。
「ありがとう」
 半沢・寝猫(酒仙・e06672)は始めにサーシャを労うことにした。
「普段はなかなか休まれへんやろから、今日は楽しもうな」
「……そうしようかしら」
 いつもの口調に慣れ切っているためか、意識的に変えて苦笑してきたサーシャ。
 酒瓶を持参していた寝猫が、乾杯の音頭をとるように酒瓶を掲げる。
「サーシャはん、お誕生日おめでとうな」
「感謝するぞ」
 もうサーシャの口調が戻った。やっぱり、しっくりくるのかも。本人が気を抜けるのなら、それが一番だろう。
 端っこにて一息ついていた千影とは久しぶりで、酒瓶を持ったまま手を振ってみる。
「千影ちゃんは去年の復興イベント以来やな♪ 良しなに頼むで」
「半沢さんも、今日は楽しんでいってくださいっ」
 寝猫の元までやってきて、千影は肩の力が抜けていない様子で一礼してきた。声を交わしたことがあるためか、返事はどもらずに済んだようだ。
 玲子が千影と初対面なんて細かいことは気にせずに彼女の髪を観察する。
「ちかげちゃんの髪型いかす!」
「え、えっと……そうでしょうかっ? ありがとうございますっ」
 褒められて気恥ずかしそうな千影は、何度も丁寧にお辞儀してきた。その度、ちゃんと纏められている後ろ髪が腰元で動物の尻尾みたいに揺らめく。
 次に、玲子はサーシャの漆黒の髪を見つめた。
「サーシャさんも黒髪綺麗だねぇ」
「君の透き通るような白髪も素敵だ」
 さらっと歯の浮くようなセリフを言ってきたサーシャだけど。男装していなかろうとも、玲子の白髪を撫でていたら口説いているような感じだった。
 もっとも……玲子は男の子より食い気の少女だ。プレゼントに選んだのは特製バケツプリンだ。
「どうぞ」
「食べ応えがありそうだ」
 サイズに圧倒されることなく、サーシャがスプーンですくったプリンを口に運ぶ。その手は一定のペースで動いて、甘党の本領を発揮してきた。食べる様は妙に色っぽい。
 玲子はふと恋人と過ごすサーシャの姿を想像させられた。
「誕生日が聖夜て、なんだかロマンチックもっちぃ」
「予定がある者ならだが」
 一旦手を止めたサーシャが、あくまでプリン完食のために再びスプーンで軌道を描いていく。
 寝猫はサーシャの求めている出会いを小耳に挟んでいた。
(「……白馬の王子様か」)
 地球人ながら幼女と思わせるような容姿でも、実は成人している寝猫。夢見る少女に思うところがあったりする。
 サーシャの夢は『ロマンティック』か、はたまた『メルヘン』か。

●良縁はいつまでも
 それぞれが縁を結んだり結びつきを強めたりできて、皆はひとまず折角のご馳走が美味しさを損ねる前に舌鼓を打っていた。
「七面鳥美味しいもっちぃ」
「ここのお肉が美味しいな」
 わざわざお腹を空かせてはこなかった玲子と寝猫だけど、ご馳走は食が進むものだ。少食の千影も二人に引っ張られて、細々といただいているから微笑ましい。
 しばし食事の一時を楽しんでから、玲子がサーシャに話を振る。
「ところで、サーシャさんはどんな人がタイプもっちぃか?」
「タイプか」
 サーシャが考え込んでいる間に、ちょっと離れた場所にいた千影を確保することにした。
「ちかげちゃんも話きくもっちぃ」
「そ、その……」
 まごまごする千影。恋バナ参加は強制じゃなくて、離れたり耳をふさいだりできるのに玲子の後ろで俯いてくるだけ。彼女も年頃の女の子というわけのようだ。
 いずれにせよ、寝猫を含めた三人が寄ったら姦しくなっちゃうだろう。
 サーシャは妖しい笑みを浮かべてきた。
「やはり王子がいいな。白馬に乗って早く迎えに来てくれないものか」
 まさか言葉通りの意味だったのかと、サーシャの願望を知る者が思いかけた瞬間。
「……冗談だ」
 単なるジョークと分かって、寝猫が一杯ひっかけて少し思考を巡らせてから告げる。
「若いうちやから頑張って恋しいや。華上ちゃんは年頃なのに恋より団子つか、餅……」
「寝猫さんは旦那さんと学生結婚したもっちぃ」
 玲子は餅っぽいのんびり口調で寝猫の苦言を流しつつ、彼女が既婚者であることを明かした。
「うちの旦那は……ごく普通やな。何で結婚したんやろ」
「君自身にも自覚が無い程に、夫婦生活が自然になっているのだろうな」
 主婦歴の長い寝猫で微苦笑しながらも人生の先輩として、サーシャにアドバイスと共に問いかけてみる。
「恋に燃えるのは今のうちなだけやで。ほんまの話、王子様のタイプどんなんがええん?」
「今回のところは内緒ということにさせてもらおうか」
 サーシャは18歳になって一層大人びてきた顔で微笑してきた。
 またの機会が訪れるのはいつになるか分からないけど、寝猫がパーティ終了とならない内にプレゼントをサーシャに手渡しておく。
「どうぞや」
「銀のネックレスだな。早速身に着けさせてもらうぞ」
 寝猫と玲子の特大な胸には及ばないとはいえ、十分大きくて魅力的なサーシャの胸元で銀の淡い光が煌めいた。
「本当に綺麗もっちぃ」
「私の黒を基調した服装に、銀は似合うようだ」
「うちが思ったとおりやな」
 寝猫が玲子と話すサーシャを満足気に見やって、自前の酒をお猪口に注ぐ。もう一度彼女の誕生日を祝うように、お猪口を掲げて一気に飲み干した。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月5日
難度:易しい
参加:2人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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