血のクリスマス事件~怪人キャラロボは本物の悪役!

作者:あずまや

 高松・蒼(ヘリオライダー・en0244)は頬を膨らませる。
「アーリィ・レッドローズ(ぽんこつジーニアス・e27913)さんがたの調査によって、VRゲーム型ダモクレスの事件が、『ゴッドサンタ』復活の予兆であったことがわかった。ゴッドサンタっちゅうのは、大侵略期に『血のクリスマス』っちゅう大虐殺を引き起こした、侵略型の超巨大ダモクレスや。VRゲーム型のダモクレスが、ゴッドサンタの配下によって子どもたちにプレゼントされとるっちゅうことらしい」
 小さくため息が混ざる。
「ゴッドサンタはクリスマスを楽しみにする奴らを血祭りにあげることで、グラビティ・チェーンを手に入れて復活する、っちゅう算段らしい。この襲撃の予測は12月24日の午前。まさにクリスマスでウキウキの時やな。ゴッドサンタの目論見が成功したら、クリスマスの夜にはゴッドサンタが大復活。『血のクリスマス』の再来や。ケルベロスのみんなの力で、これを阻止してほしい」

 蒼はヘリオンの中に飾ってあったクリスマスツリーから、サンタクロースとトナカイの人形を引きちぎった。
「ゴッドサンタの配下として実際に動いとるのは、『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』っちゅう2体1組の量産型ダモクレスや。12月24日の早朝に日本各地で一斉に暴れまわるっちゅう算段らしい。こいつらは、ちょうどケルベロス8人と互角程度の戦闘力を持っとるから、気ぃ付けえや。……それと、ヴィクトリーサンタは背中の荷物袋から砲撃、ヴァンガードレインは角から電撃、っちゅう具合で攻撃してくるらしいんやが……なにせ未知なことが多い。油断だけは、絶対にすんなや」

 机の上に置いた2体の人形を、机の端へと寄せた。
「クリスマスは、子どもにも、大人にも、平等にやって来る。人間の期待を奪うっちゅうのも胸糞悪いが、ここをきっちり叩ければ、ゴッドサンタそのものを倒すことだって出来るかもしれへん。キツい戦いになるやろうけど、絶対、生きて帰ってこいや」


参加者
ジャミラ・ロサ(癒し系ソルジャーメイド・e00725)
リーズレット・ヴィッセンシャフト(噎せ返るほどに世界を嚥下せよ・e02234)
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)
忍足・鈴女(キャットハンター・e07200)
エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)
アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)

■リプレイ

●とびきり悪いの、プレゼント
 冬の朝は寒く、息が白く凍って落ちた。
「こんな日に来るってんだから、本当に嫌になるわね」
 アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)はかじかんだ手をこすり合わせて口元へとやり、はあ、と温める。忍足・鈴女(キャットハンター・e07200)は小さく「仕方ないでござる」と言った。
「こういう日を狙ってくるということは、普段は襲いにくくなっているということ。それだけ我々が善戦しているということでござるよ」
 彼女のことばにクレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)はうなずいた。
「イベントに乗じてというのは許せないけれど、鈴女さんの言う通りだと思うよ」
 もしダモクレスの作戦が成功してしまったら、ひどい騒動になるだろう。人々の生活を守るために、きっちり制圧せねばならない。
「こちらは異常なしであります」
 ジャミラ・ロサ(癒し系ソルジャーメイド・e00725)は十字路の前後左右をきょろきょろと見回して言った。
「クリスマスなのですから、さっさと撃破してザギンでシースーにするであります」
「家で七面鳥食べなさいよ」
 アイオーニオンがぴしりと言うと、木枯らしが吹いた。
 別動隊では、リーズレット・ヴィッセンシャフト(噎せ返るほどに世界を嚥下せよ・e02234)が上空から街を見下ろしていた。
「見つからないな」
 彼女はむくれると、地上に一度降り立つ。
「どうだった」
 エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)がリーズレットに聞くと、彼女は目をつぶって小さく首を横に振る。
「来ないなら来ないままでいてくれたら助かるよね☆」
 瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)がにっこり笑ってそう言うと、エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)は「それはねーだろ」とぼそりと言った。
「今までヘリオンの予測が外れたことがあったかよ」
「ないけど……そうだったらいいよね、って話」
 うずまきがしょげると、エンデは「クリスマスだからって、奴らは変わらねーからな」と、どこか寂しげに言った。わずかな沈黙ののち、「もう1回空から見てくる」とリーズレットはその場を飛び立っていく。
「早く見つけて、子供たちの笑顔を守らなければな」
 エフイーはきりりとした顔で言った。

 ジャミラのもとにエフイーから連絡があったのは、それから少ししてのことだった。彼女は「すぐに向かうであります。引き付けと時間稼ぎをお願いするであります」と言って、それから通信が切れた。
「場所はここから非常に近く、300メートルほど先、ちょうど彼らB班と本機らA班の間のようであります。ミスター・スクラーヴェは、この辺りから一般人に退避を促して欲しいであります」
「わかった」
「ミス・忍足は、ミスター・スクラーヴェとともに行動し、退避を促して欲しいであります。連絡が取れれば、万が一場所が分からなくなっても連携が取れるであります」
 鈴女は「かしこまり申した」と言った。
「ミス・クリュスタッロスは、本機と共に現場へ向かうであります。攪乱して、人を遠ざけるための時間を稼ぐのであります」
「いいわよ」とアイオーニオンが言うと、4人は互いにうなずき合って、移動を始めた。

 エフイーが通信を切ると、リーズレットは「もう一度上空から偵察しようか」と提案した。
「そのほうがいいだろう」
 エフイーがうなずく。
「ボクとエンデ君は地上からダモクレスに近づくよ!」とうずまきが言った。
「悪役サンタは、倒される運命にあることを思い知らせなければな」
 リーズレットが笑って返すと、エンデは「本気でやるのかよ」と嫌そうな表情を浮かべた。
「本気も何も、すでに用意してしまっている」
 エフイーがわずかにほほ笑むと、エンデは顔を背けて「好きにしろ」と言い、殺気を放ち始めた。一般人を、この辺りから遠ざけるためだったのか、それとも感情によるものだったのかは判然としない。

「メリークリスマス」
 抑揚のない声でヴィクトリーサンタが言うと、「めぇぇ」と、決してトナカイではない鳴き声でヴァンガードレインがいなないた。
「しかし、子供がいない。子供は風の子。外に出て遊びなさい、サンタのおじさんが楽しいお人形をあげるよ」
「そこまででござるっ!」
 とうっ、と大きな声を上げて路上へと飛び出したのは、鈴女だった。ヴィクトリーサンタの目の前に仁王立ちになった鈴女は、両腕を組んで満面の笑みを浮かべている。
「何者だ、貴様」
 彼の驚きはもっともである。突然四つ角の隅から女の子が飛び出してきて、大声をあげて笑っているのだから。
「クロミアムオキサイドグリーンブリリアントサンタにござるっ!」
「く、くろ……え?」
 ざりっ、と砂を踏む音がして、彼の後ろを、うずまきが塞ぐ。
「ぶり……えっと、ブリリアント……ホワイト……あー、おひげ! 参上だよ!」
「はははっ!」
 上空から笑い声がして、それがゆっくりと地上に降り立つ。
「リーズレット・パープル・サンタ・アスモデウス!」
「カモフラサンタ・モードアーミーであります」
「ブルーサンタ」
「ゼノ・シルバー・フルメタルナイト・サンタ……推して参る」
 半ばコスプレ大会と化した路地で、ダモクレスが困惑して左右に首を振って全員の様子を見ている。
「正義のサンタ8人衆が、悪堕ちしたお主……赤サンタを更生してくれるでござる!」
「あ、おい、あの、ちょ……ちょっと待て」
 ヴィクトリーサンタが手を挙げた。
「え、サンタ8人衆?」
 質問に、クレーエは「そうだよ」とうなずいた。
「え、お前は?」
 指さされたエンデは、「エンデ・シェーネヴェルト」と答えた。
「サンタじゃないの?」
「サンタなんかじゃねーよ」
「サンタ8人衆じゃないじゃん」
 彼はダモクレスとは思えない表情で驚いて見せる。
「お前は?」
 次に指をさされたアイオーニオンは「私はコスプレに興味ありませんので」と答えた。
「もうこれで6人衆じゃん、どうなってんの」
 ヴァンガードレインが、「めぇ」と小さくうなずく。
「で、なんだっけ、そこの迷彩のお前」
「カモフラサンタ・モードアーミーであります」
「ござるのお前は?」
「クロミアムオキサイドグリーンブリリアントサンタでござる」
「緑かぶってんじゃん」
 ヴィクトリーサンタの咆哮に、ジャミラは眉をひそめた。
「別物であります、なんたる言い掛かり」
「雰囲気が似てるんだよ。もっと派手に違う色を展開していかないと」
 ヴィクトリーサンタがしゃべり終わる前に、エンデがヴァンガードレインに飛び掛かって旋刃脚を浴びせた。不意の一撃に、ヴァンガードレインは痙攣しながらその場に座り込む。
「遊びはもういい、さっさと終わらせるぞ」
「……なんだ、そういうことか。ケルベロスか貴様ら」
 ようやく彼はダモクレスらしい表情になる。
「子供が全然いないと思えば。これで納得がいった。貴様らを片付け、目的を達成させてもらう」

●悪いサンタにさようなら
 エフイーはドラゴニックハンマーを振りかぶり、倒れているトナカイに向かって思い切り振り下ろす。当初の作戦通り、このトナカイをまずは倒すこと、これがケルベロスたちのねらいであった。
「弱っているものを叩くとは、正義のサンタが聞いて呆れる」
「悪役の言う台詞じゃありませんわね」
 アイオーニオンは右手にオーラを集中すると、氷のメスを作り出す。
「痺れているかも知れないけれど、余り動かないでね。余計なところまで斬っちゃうわよ」
 彼女はそう言うと、ヴァンガードレインにメスを突き立てる。彼の体に切れ目が入ると、鋼鉄の装甲の隙間から何本かの断線したコードが見えた。
「それじゃ、『悪い正義のサンタ』に、たくさんプレゼントをあげちゃおう」
 彼が背中に背負っていた袋の口を開くと、そこからミサイルのようなものがばしゅばしゅと何発も飛んで来た。
「危ないっ!」
 うずまきは飛び出して、エンデに当たりそうになっていたそれの一部を代わりに被弾する。
「物語の美しくも悲しい姫からの優しい贈り物を」
 クレーエは即座に彼女に強力な回復を施す。事前情報から敵の攻撃力がある程度高いことは予想されていた。だからこそ、極力痛く苦しい時間を延ばさないためにも、彼はヴィクトリーサンタが攻撃を開始しようとしたその時点で、グラビティを構えていたのだ。
「そんなわけわかめなプレゼントはお断りであります」
 ジャミラのバスターライフルから放たれた凍てつく一撃が、ヴァンガードレインの身体を凍り付かせる。さらにリーズレットが追撃で放った矢が、彼の足に突き刺さる。
「めええぇぇ!!」
 はっきりといなないたヴァンガードレインは、煌々と角を光らせるそれから、耳をつんざくような絶叫があった。あたり一面に雷が落ち、次々とコンクリートの道路に黒焦げの穴が開いていく。ケルベロスたちの避けるべき場所もなく、そのうちの数激をみな喰らった。
「最後の抵抗か……」
 エフイーが体勢を立て直し、言った。彼の手に集まるフォトンエネルギーが、巨大な剣を形作っていく。エフイーはその柄をしっかりと握り、咆哮した。
「全を破断せし、乾坤一擲之一撃也!」
 目にもとまらぬ一撃が、ヴァンガードレインの首と胴とを切り離す。ショートして、ヴァンガードレインは爆散した。
「……ほう」
 ヴィクトリーサンタが眉を顰めた。
「まったく毎度毎度、貴様らはつまらない妨害をしてくれる」
 負傷したケルベロスたちを回復してまわるクレーエを彼はじっと見つめた。
「潔く、死ね」
 背中の砲筒から、一本の大きなミサイルが飛び出す。高速でそれは飛翔し、まっすぐクレーエに向かって襲い掛かる。
「そうはいかんでござる!」
 鈴女は跳ね上がり、着弾寸前でそのミサイルを受け止めると、軌道をそらして地面に叩きつけた。
「まったく忌々しい……」
 立て続けに、ヴィクトリーサンタは無数の小型ランチャーを放ち、無差別に爆撃を始める。
「この数は抑えきれまい」
「それはそれ」
 爆煙立ち込める中から飛び出したエンデはぼそりと言うと、愛刀・最期の晩餐を振るい、ヴィクトリーサンタに血襖斬りを喰らわせる。
「お前のような血のないものからも、エネルギーは吸収できるらしいな」
「それなら、私もあなたから力を分けてもらいますわ」
 アイオーニオンは簒奪者のかまを振るい、ヴィクトリーサンタの電力を奪う。
「さあ、悪者サンタさん、後悔の時間だよ!」
 うずまきは微笑むと、超音速でゲシュタルトグレイブを突き出した。分厚い装甲が貫かれ、一点の風穴が開く。
「ぐぎぎっ……」
 ヴィクトリーサンタが機械音を発する。
「なぜだ」
 彼は体に電撃をまとわせながら、問う。
「攻撃を受けて、爆風に傷つき、なぜ退かぬ。なぜ、自分と関係のない者を守る」
「それが、地球に息づく者のやり方であります。互いに助け合うのであります。ミスター・ヴィクトリーサンタも、定命化すれば分かるかもしれないであります」
「そんなもの、わかる必要はない。この星は、我々がもらう」
「残念であります」
 ジャミラはわずかに、悲しそうな顔をした。
「対象を認識……全兵装のリミッターを解除……照準を固定……鎮圧、開始」
 ジャミラの一斉射撃が、次々とヴィクトリーサンタに傷をつけていく。煙幕の向こうから、キィィン、と高い音がした。ヴィクトリーサンタのスピーカー機能が故障したらしい。
 判別不能な声と共に、もやがかった空間の中から何十発ものミサイルが飛び出してくる。そのミサイルの1つ1つを、鈴女のウイングキャットであるだいごろー、そしてリーズレットのボクスドラゴンである響が体当たりではじき落としていく。地上からはエフイーのブレイズキャリバーであるリーズレットが、落としそこなったミサイルを迎撃。さらに彼らをの体力をすぐにクレーエがスターサンクチュアリで回復してやり、加えてうずまきのウイングキャットであるねこさんもそれに力を貸す。
「見えなき鎖よ、汝を束縛せよ」
 リーズレットの放った魔術が、ヴィクトリーサンタの身体をぎっちりと固定した。
「刺し穿つ! 止めてみろでござる!!」
 鈴女が投げた針が、次々と動けなくなった彼に突き刺さっていく。
「これで終わりだ……さようなら、美しい世界にお別れを」
 エンデの凶刃が、すぱりとヴィクトリーサンタを真っ二つにした。
「ァァァ」
 かすれた音がして、それからスピーカーは音を発しなくなった。

●メリークリスマス
「これでよし、であります」
 ジャミラが修復した地面には「Merry X’mas」の白文字が浮かんでいる。
「よくねーだろ」
 エンデはジャミラをじろりと見た。
「特別仕様であります」
「26日からどうすんだよ」
「そのときはそのときであります」
 ジャミラはポケットに忍ばせておいた小さなガナッシュを取り出し、エンデに手渡す。
「イライラには、甘いものであります」
「怒ってるわけじゃねーけど」
 エンデは目をそらしながらそれを受け取って、小さく「ありがと」と言った。
「しかし、こんなものが襲ってくるなんて、世も末ですわね」
 アイオーニオンが機体をつまみあげて中をしげしげと見た。
「あとは、ゴッドサンタかしらね」
「そうだな」
 エフイーは破片を見た。
「だが、今は子供たちに楽しい思い出のクリスマスを与えるのが先だ」
 そう言うと、彼はポケットからお菓子の小袋を取り出す。
「配ってくる」
 ちらりとアイオーニオンを見ると、アイオーニオンは一言「私は結構」と言って手の平を柔らかく彼へと向けた。「残念だ」とエフイーはうっすらと笑った。
 すでに路地では鈴女とうずまきが子供たちに囲まれ、お菓子をねだられている。
「ありがとー、クロミアムオキサイドグリーンブリリアントサンタさん!」
「にゃにっ!?」
 鈴女は自分の長いサンタ名をすらりと言ってのける子供に驚いて、その子にもう一つお菓子をやる。
「あ、ずりーぞ! ねーちゃん俺にも!」
「順番順番♪」
 うずまきはニコニコと微笑みながら、子供たちにどんどんとお菓子を配る。これが悪役人形ダモクレスじゃなくて、本当に良かった。彼女は笑顔の裏でそんなことを考えていた。
 リーズレットは集団から少し離れたところで、クレーエにお菓子を手渡す。
「はい、これ」
「え、僕?」
 クレーエは突然の出来事に、戸惑いを隠さなかった。
「誕生日だろう? おめでとう」
「……ありがとう」
 リーズレットの行為に、思わずクレーエは微笑んだ。
「こんな誕生日も、悪くないかもね」
「そうそう。クリスマスも、誕生日も、一年に一度だからな」
 リーズレットは笑うと「さあ、子供たちにプレゼントだ」と笑った。
「そうだね」
 クレーエは彼女からもらったお菓子をしまいこみ、別のお菓子を手に取って輪の中へと飛び込んでいった。

作者:あずまや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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