血のクリスマス事件~機動聖夜ヴィクトリーサンタ

作者:のずみりん

「VRゲーム機型ダモクレスたちの狙いは『ゴッドサンタ』の復活だ」
 先日のVRゲーム機型ダモクレス事件を追っていたリヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)たちの調査結果を手に、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)はケルベロスたちに告げた。
 ゴッドサンタ。
 大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれる大虐殺を引き起こした恐るべきダモクレスを復活させようと、奴の配下が動き出したという侵略型超巨大ダモクレス。
 先の事件はかのダモクレスの配下たちが復活に向けた少し早いクリスマスプレゼントとして届けた、いわば前哨戦だったのだ。
「あまり時間はない、ケルベロス。敵は次の段階へ動き出しているようだ……次の仕掛けが動くのは恐らく、12月24日」
 クリスマスを楽しみにする人々を血祭りに上げ、集めたグラビティ・チェインをもってゴッドサンタを12月25日……聖夜に完全復活させる。
 ダモクレス一派の目論見が成功すれば、再び『血のクリスマス』の惨劇が起こり、大破壊を招く事になってしまうだろう。
 阻止しなければならない、絶対に。
 
「ダモクレスたちはクリスマスを楽しみにしている人々からグラビティ・チェインを奪うため、12月24日の早朝、日本各地に一斉に現れると予想されている。皆に頼みたいのは北関東の……この辺りだ」
 リリエが印をつけたのは子供も多いだろう、集合住宅の並んだ首都圏郊外。そしてあわせて、彼女はゴッドサンタの配下というダモクレスの資料を示す。
「名前の通り……と、いうか。配下もサンタクロース型のダモクレスだ。サンタクロース型は『ヴィクトリーサンタ』、トナカイ型は『ヴァンガードレイン』、二体一組で連携して襲ってくる」
 ヴァンガードレインは角から放つライトニングロッドのような電撃と防壁、そして強力な体当たり。ヴィクトリーサンタは足止め効果を伴う強力な鉄拳、ブースターを吹かせての回転突撃、装甲強化などドワーフに似たグラビティが多い。
「その他にヴァンガードレインへ騎乗しての戦闘も行えるようだが……要はライドキャリバーと同じような感じだ。見た目に気圧されないようにな」
 ロボットものは玩具の定番だが、さすがにこの二体はノーサンキューだろうとリリエ。
「ダモクレスは強敵だが、今の皆なら十分に戦える相手のはずだ。聖夜の平和を頼んだぞ、ケルベロス」


参加者
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
呂・花琳(鉄鍋のファリン・e04546)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
アトリ・セトリ(緑迅残影のバラージ・e21602)
リィナ・アイリス(クリスマスは大切な幼馴染と・e28939)

■リプレイ

●サンタ、団地に立つ
 薄霧の煙る早朝の宅地へ、サンタクロースがやってくる。
「メリィィィ……クリィィィスマァァァース!」
 鋼鉄の赤、ヴィクトリーサンタと騎馬たるヴァンガードレイン。ご丁寧にも分離状態、風格を見せつけるような歩みでの登場だ。
「VRギアか。中々ふざけた真似してくれるとは思ってたけど……こういう裏があったとはね」
 なるほど、更にふざけている。腕を組んで名乗りでも上げそうな風体のダモクレスをにらみ、星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)はガンベルトから七星の銃把を握り、引き抜く。
「VR機ダモクレスの頒布者もこいつら絡みかね。サンタたちがやってきた方角は記録しといたぜ」
「感謝」
 バイザーを下ろす霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)に礼をいい、発砲。
 鋼鉄のトナカイに火花が弾ける。更に冷たい闘気の弾丸が一撃、もう一撃。
「ドーモ。初めまして。ヴィクトリーサンタ=サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
 敵の出現を悟ったダモクレスへクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)が頭を下げる。呪装帯から胸がこぼれおちそうになるが、挨拶は大事。たとえ不意打ち後でも。
「メリィィィー!」
「サンタ殺すべき。慈悲なく、迷わず、スクラップヤードにゴートゥーアノヨでござる!」
 ヴァンガードレインからの返礼は角より走る電撃。大地を裂く衝撃にクリュティアは残像を残し、駆ける。
「ニンポ、ブンシンジツにござる!」 
「ダ、ダモクレス共め、感情が理解出来ぬと言う割には中々のギャグセンスではないか……び、ヴィクトリー……サンタに、ヴィクトリー……」
 すかさず『八獄顕正【分陀利】僧去の外套』をまとわせる呂・花琳(鉄鍋のファリン・e04546)……苦し気なのはダメージではない、いわゆる『ツボにはまってしまった』だけである。
 二体のダモクレスは間違いなく強い。相当な数の人命が危機にさらされる事態なのだが、このシュールさはなんなのか。
「別の個体だが、言っていたな。笑いや不条理……感情を理解して見えるのは俺たちの感傷なのだと」
 脚部の『LU100-BARBAROI』がうなりをあげ、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)がヴィクトリーサンタの突進に対抗する。ダモクレス達も完全にケルベロスを優先排除対象と捉えたようだ。
「どんなのでも……聖なる日に、悪さをしようなんて、許さないの……!」
 すかさずリィナ・アイリス(クリスマスは大切な幼馴染と・e28939)が妖精の祝福を込めた矢を『FURAI-BOW』の風に乗せて贈る。敵は強い、だが負けるわけにはいかない。特に今日この日においては。
「見た目はアレでも、やろうとしているのはとんでもない代物だね。いつも通り」
「そういえば、またダモクレス相手でチームだな。今回も頼りにしている……SYSTEM COMBAT MODE」
 突破を図るヴィクトリーサンタの巨体を押し蹴りで逸らし、アトリ・セトリ(緑迅残影のバラージ・e21602)が皮肉気にいう。着地する敵味方と同時、マークの戦闘モードも起動を完了した。
「C46 OPEN FIRE」
「クリィ!」
 突進を食い止めんと展開される『C46-FURY』アームドフォートの速射砲とガトリングガン。地と水平に打ち出される鋼鉄の豪雨にヴァンガードレインが跳躍して身をかわす。かわそうとした。
「おふざけはここまでにしてもらおうか、ダモクレス」
 一手先んじて、空を迎撃するのは蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)。けして翼を見せようとしない彼だが、空中戦で後れを取る事は全くない。
「メェェェリ!」
「陰と陽が混ざりし刃よ。我が放ちたる一撃に彼の者を儚く散らせ!」
 唸るように突っ込んでくるヴァンガードレインの首筋へ、手にした『巫霊刃』は死神が獲物を刈り取るがごとく走った。

●Vの呼び声
 朝の静寂に不協和音が激しく響く。
 騎士服をひるがえした真琴、着地するヴァンガードレイン。双方に浅くはない傷痕が刻まれた。
「痛み分け……ではないからな」
 装甲を纏ったヴィクトリーサンタがアトリたちから戻ってくる。負わせた傷の具合を確認し、彼は再び飛びのいて距離を置く。その威力の真髄はまだ後、今は次の動きに備えねば。
「合流する気だ、気を付けろ!」
「あいわかった! 月光!」
 めざとく軌道を見切った真琴の警告に、クリュティアの剣が弧を描いて応える。『緋桜一文字』の峰がヴァンガードラインの脛を強かに叩く。
 ダモクレスに泣き所があるかは定かではないが、怒りの電撃が周囲を荒れ狂う。
「大した火力じゃ……梵天丸、まだもつか?」
 花琳を守るシャーマンズゴーストが淡々と頷く。非実体化した爪に飛び退きつつ、再びの電撃。突き破られる護りに彼女は僧去の外套を張り直した。
「合体ロボは男の浪漫だろーが……!」
 援護の間隙にすかさず突進するサンタ。氷結エンジンをうならせ、カイト……と、飛びついた『たいやき』はステップで身をかわす。
 衝撃と電撃が不規則に冷色の『凍護-破軍-』を跳ね叩くが、ひるんではいられない。浪漫だろうが何だろうが、敵のロボに合体されるのは困る。
「癒しは任せた、リィナ! たいやき!」
 神経を目まぐるしく走る眼力の命中率を確認、決断。呼びかけつつ『凍護氣装』を練り上げる。
「わかったの!」
 ブレイブマインの鮮やかな爆発を背に、氷弾のような冷たい輝きがヴァンガードレインの脚を撃つ。
 冷たい気弾が食らいついた脚部に、今度はボクスドラゴン『たいやき』の熱く甘いブレスがダモクレスに吹きつけられる。崩れかけるヴァンガードレイン、だがその熱気を払い強引に突っ込むヴィクトリーサンタ。
「なんの特撮じゃこれは!?」
「これはまた……どちらが主役なんだか」
 花琳が思わず突っ込む爆発と光。光は思わず口笛を吹く。爆炎を突き抜けた騎乗姿のサンタクロースは皮肉にも随分とヒーローロボじみていた。

●迫撃、ケルベロス
『機動聖夜!ヴィクトリーサンタ!』
 今にも名乗りそうな完璧な角度と決めポーズ。ダモクレスらしい几帳面な正確さだが、もちろん付き合う必要はないわけで。
「見た目は派手だが!」
 ぽんっと跳ね返された『たいやき』を受け止め、カイトは気合と共に抜き手を回転させる。あくまで騎乗、強化や特殊能力ではないのなら、やることに変わりはないはずだ。
「メリィィヤァ!」
 跳躍から踏みつけるような体当たりを滑りこみでよけ、抜けざまに脚部へもう一撃。怒りの電撃がばらまかれるが、リィナの投げるハートエナジーが百発百中、的確な癒しのおかげでまだまだ戦える。
「みんなを傷つけるサンタさんや、トナカイさんは容赦しないよ」
 うっとおしいと向けられるダモクレスの目を、リィナは正面から睨む。本当は大好きなサンタクロースだが、こんな凶悪な機械は願い下げだ。
「クリィィィ!」
 売り言葉に買い言葉とばかり、旋回したサンタが突っ込んでくる。しかし一手早いのはケルベロスだ。
「おっと、相手はボクたちだよ」
 鋼鉄の黒と緑迅残影、力と技の盾がダモクレスに挑む。
「決して引かない意志を、この一発に込める!」
『ARMORED GRAVITY ON』
 打ち上げた『士気高揚の号砲』に一瞬ふらつくアトリだが、その効果は十分。威力を増したマークの『重力装甲』が真っ向から突進を受け止めた。
「主らに渡した六道隔てる地獄の風、容易く貫けはせぬ! 存分に押し込んでやれい!」
 激励しつつ両手の鉄塊剣を捩じ込む花琳。動きが止まったダモクレスの隙間、騎乗したサンタを振り落とさんと、テコの原理でゴリゴリとこじる。
 悲鳴のように火花が散り、振りほどこうと電撃が飛び散る。
「ぬぅ! しかし、将を射んと欲するならば……」
「ホース・マスト・キリング、でござる!」
 投げつけられた雷のケルベロスチェイン『ヤクトブリッツ』がクリティアを機動させ、態勢を崩させる。サンタを起点に旋回したクリュティアは勢いを乗せて上空へ。
「苦無嵐(シュトゥルムデアクナイダート)! イヤーッ!」
 遠心力にたゆんと豊満なボディが揺れ……チェインを手放すと同時、回転する四肢から飛ぶ無数の苦無雨!
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
「メリィー! メリィィー! メリィィィー!」
 豪雨じみた刃の強襲にダモクレスの身体が遂に離れた。マークを支えた体制からアトリが相棒を呼ぶ。
「キヌサヤ!」
「シャッ!」
 主の命を受け、ウイングキャットの尻尾がしなやかに宙を切る。
 艶めかしい黒毛の尾に絡んだキャットリングは、渋い輝きでヴァンガードレインの角へ絡み、ダモクレス最大の武器を締め上げていく。
「ヴァンガードレイン、まずはお前から倒させてもらうよ」
 光の『ハウリングリボルバー』が銃声を咆える。連続する着弾へ、拘束を振りほどこうと雷を蓄えるヴァンガードレインだが、飛び散るのははかなげな閃光のみ。
「無駄だ。死神の刃は既にお前を捕らえている」
 癒しを阻害し、魂をも切り裂く混沌の一撃こそが『翔星光軌斬』の真価。宣告と共に、真琴は蒼翼の天使が描かれた術符を放つ。
「熾炎業炎……スクラップになり果てろ」
 儀礼用に刻まれた巫霊刃の文字が妖しく輝き、御業の炎弾が乱舞する。ヴァンガードレインの機体が燃え上がり、爆ぜた。

●聖夜を駆ける
「残るは……」
「気を付けて! 上からっ」
 残心するクリュティアの呟き、リィナの声を飲み込んでブースターが咆える。クリュティアの螺旋掌が追撃するも、早い!
「梵天丸ッ!」
「メリヤァーッ!」
 咄嗟の炎を突き破り、鋼鉄の拳が花琳のサーヴァントを吹っ飛ばす。
 相方をやられた恨みか、狂的への高揚か、ヴィクトリーサンタの一撃は重さを増して見えた。あの火力を封じなければ、とりつくこともおぼつかない。
「……いけるかい?」
「AFFIRMATIVE」
 だが事も無げにマークは応えた。
 戦友を信じ、光は『FerriSeptentrion』リボルバーの空いた弾倉へ、切り札の弾丸を装填。同時、住宅の壁を蹴ったヴィクトリーサンタが戻ってくる。
「SYSTEM EX-GUNNER BETA ON」
 それを譲り受けた強敵の如く、マークのアイセンサーとスコープ『MN16-HAWKEYE』が紅く輝いた。
 衝突までの秒足らず、未来位置を予測。ミリ単位の演算が走り、兵装展開。無数のレーザーがヴィクトリーサンタを赤く焼く。
「ENEMY SURVIVE……!」
「メ、リィィィィ……!」
 驚くべきことに、それでもダモクレスは動いた。切り離されたブースターと共にマークの身体が跳ね飛ばされ、地を砕き吹っ飛ぶ。
「十分。後は任せろ」
 だがそこまでだ。残る勢いのまま離脱しようとしたサンタを、キャストしていたカイトの『氷獄棺:貪狼』が掴む。
「戒めるは凍気、喰らうは貪狼の顎、閉じるは氷獄への棺! 『氷獄棺:貪狼』、その欲深き者を覆え!」
「そして……砕けろ」
 光が詠唱を継ぎ、引き金を引く。氷の棺に撃ち込まれた『ブラストショット』が、封じられたヴィクトリーサンタを今度こそ粉砕した。

「なんとかグラビティチェインの収集は阻止できたでござるな」
 壁に穿たれたサンタの足跡へヒールを施し、クリュティアがほっと警戒を解く。敵の威力もあって被害は少なくないが、市民の命まで届かなかったのは幸いだろう。
「とはいえ……量産型、か。VRギアにしろ、用意がいい奴だね。クリスマスに何事もなきゃいいんだけど」
「そうだな……と、光。ここではまずいぞ」
 せめてと残骸を調査しようとする光に、マークが呼びかける。既にその目は温和な黄の色に戻っていた。
「……あぁ、そうか。夢は守ってあげなくちゃね」
 そうだった。ここは人の多い集合宅地、ダモクレスとはいえ、無残なサンタとトナカイなぞ見せれば子供たちにはトラウマものだろう。
「そうそう。復活阻止以外に大事な仕事……子供達に本当のクリスマスプレゼントを届けないとね」
「こんな朝っぱらからドンパチやっていれば、お寝坊な奴でも起きるだろうな……」
 片づけ始めるアトリに、真琴もヒールを手伝っていく。早く片付けて撤収するに越したことはない……クリスマスは、子供たちだけのものでもないのだし。
「(あとちょっと……あとちょっと)」
 ヒールするリィナの心も待ちきれない気持ちでいっぱいだった。終わったらすぐいこう、クリスマスに過ごす予定の幼馴染の家へ。
 彼女の心はもう、クリスマスを駆けだしていた。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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