血のクリスマス事件~北千住駅前デッキ広場の戦い

作者:砂浦俊一

●復活の予兆
「ケルベロスの皆さん、ヤバめの事件っす。リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)さんらの調査によって、頻発しているVRゲーム型ダモクレスの事件が、大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれる大虐殺を引き起こした侵略型超巨大ダモクレス、『ゴッドサンタ』復活の予兆であったことが判明したっす。VRゲーム機型ダモクレスは、ゴッドサンタの配下が少し早いクリスマスプレゼントとして子供たちに届けたものっぽいっす。更に『ゴッドサンタ』は、クリスマスを楽しみにする人々を血祭りに上げる事で、自らが復活するグラビティ・チェインを得ようと動き出した……ってわけっす」
 オラトリオのヘリオライダー、黒瀬・ダンテの説明に、集まったケルベロスたちは聞き入っていた。
「襲撃が発生するのは12月24日っす。この襲撃が成功して大量のグラビティ・チェインを『ゴッドサンタ』が得れば、クリスマスの夜に『ゴッドサンタ』が完全復活、世界に大破壊を招く事になっちまうっす」
 それを阻止するためにケルベロスの力が必要、という話だ。
「今回の襲撃を実行するのは、『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』という2体の量産型ダモクレスっす。こいつらの目的は12月24日の早朝に、日本各地に一斉に現れ、クリスマスを楽しみにする人々を襲ってグラビティ・チェインを奪い取ることっす。皆さんには、東京都足立区の北千住駅前デッキ広場に出現する連中を倒してほしいっす。戦闘力は、この2体でケルベロス8人と互角程度っす」
 油断のできる相手ではなさそうだ。
 ケルベロスたちの背筋にも緊張が走る。
「『ヴィクトリーサンタ』の武装はガトリングガン。背中に背負っているのはプレゼント袋ではなく、ガトリングガンの格納筒っす。『ヴァンガードレイン』は、角から放つ電撃攻撃が得意っす。電撃は【パラライズ】のバッドステータス付きなので、その点注意が必要っすね。出現地点の駅前デッキ広場は戦闘には充分な広さがあるっす。時間までに避難も完了させますんで、皆さんには心置きなく戦ってほしいっす」
 武装したサンタとトナカイが運んでくるプレゼントは、鉛の弾丸に電撃。どちらも貰って嬉しくないプレゼントなのは間違いない。
「『ゴッドサンタ』がかつて封印された地点は、マズいことに東京でクリスマスパーティが行われる場所っす。もしもゴッドサンタが完全復活しちまえば大惨事は免れません。皆さん、どうかよろしくお願いします!」
 ダンテが深々と頭を下げる。
 人々に平和なクリスマスを過ごさせるため、ダモクレスは討つ。ケルベロスたちの瞳に決意の輝きが宿る。


参加者
ヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)
レイラ・クリスティ(蒼氷の魔導士・e21318)
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の双銃猿忍・e29164)
一之瀬・白(魂魄喰いの幼白龍・e31651)

■リプレイ


 北千住駅の駅前デッキ広場はしんと静まり返っていた。
 駅ビルや広場と直結したデパートはクリスマスのイルミネーションで飾られているものの、一般人の姿は見られない。敵を待ち受けるケルベロスたちが、柱や壁の陰に身を潜めるのみだ。
 空は曇り空、吹き抜ける風も冷たい。今にも雪が降り出しそうな空模様だ。
「ロボトナカイにロボサンタか。一部の子供が喜ぶかも知れないが、出会った瞬間に悲惨なことになりそうだ」
「鉛玉に電撃のプレゼントですものね……サンタは子供に夢を与えるものでしょうに」
 同じ場所に身を潜める左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)の言葉に、レイラ・クリスティ(蒼氷の魔導士・e21318)が嘆息する。
「メリークリスマス!」
 駅前デッキ広場に、唐突に電子音声の叫びが響いた。『ヴィクトリーサンタ』と『ヴァンガードレイン』の出現である。
「ヨイコニモ、ワルイコニモ、ナマリダマノ、プレゼントヲ、アゲ……ウン?」
 しかし、駅前デッキ広場に人影は皆無。
「ナンダ! ダレヒトリ、イナイゾ!」
 サンタは憤り、トナカイも苛立たしそうに蹄を鳴らす。
「夢の無いプレゼントを届けるサンタクロースどものお出ましだな」
「対象の接近を確認。これより敵ダモクレスの迎撃任務を開始致します」
 物陰から敵の監視を行うルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)の瞳は闘志に燃え、ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)はアイズフォンでヴェスパー・セブンスター(宵の明星・e01802)に合図を送る。
「了解であります。ではクローネ殿、お願いするであります」
 クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)はこくんと頷き、呪文の詠唱に入る。
「春の訪れを告げる、豊穣の風。穏やかで優しい西風の王よ。我等に、花と虹の祝福を授けたまえ……」
 駅前デッキ広場を一陣の風が吹き抜ける。
 冬には似つかわしくない、暖かいそよ風を不審に思ったダモクレスたちは、周辺を警戒するように背中合わせに立つ。
 直後、柱の陰からバスターライフルが斉射される。突然の角への直撃弾に『ヴァンガードレイン』は体を大きく震わせた。
 そして隠密気流で身を隠していた岩櫃・風太郎(閃光螺旋の双銃猿忍・e29164)が姿を見せる。
「ドーモ、屑鉄の三下ども。エイプニンジャでござる。VRゲーム機型のオモチャは拙者たちが始末したでござる。今度は貴様らを地獄へ送って進ぜよう。慈悲はない!」
 風太郎の丁寧なお辞儀の後、潜伏していた仲間たちも一気に『ヴァンガードレイン』へと駆ける。
「ケルベロスカ! ネライウチダ!」
 背中の格納筒が動き、ガトリング砲が『ヴィクトリーサンタ』の肩にマウントされる。だが発射態勢を取ろうとした時、一之瀬・白(魂魄喰いの幼白龍・e31651)が眼前に立ちはだかった。
「あちらの戦線には、指一本とて手は出させぬ!」
 八極拳の構えを取る彼の周囲を散布された紙兵が飛び交い、渦を描く。


「クローネさん、一ノ瀬さん、無理はしてはダメですよ? 十郎さん、バックアップを頼みます!」
「任された!」
 レイラのライトニングボルトが『ヴァンガードレイン』の足元で爆ぜ、次いで十郎が仲間たちにサークリットチェインをかける。
(そういえば、知り合い同士らしき人たちが大勢参加しているのでありましたな)
 声を掛けて攻撃の連携を取るその姿に、仲が良いからできることなのかと、ヴェスパーは感心した。
「自分もいずれあのように誰かと仲良くなれるのでしょうか」
 そう呟きながらも、目前の敵へと彼女は集中する。
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってな!」
「お師匠、ぼくの友達をしっかり守ってね?」
 ルトはレゾナンスグリードで『ヴァンガードレイン』の視界を覆い、サーヴァントを援護役に回らせたクローネが轟竜砲を撃つ。まずは敵を分断して連携を断ち、各個撃破するのが狙いだ。
「貴様に与える慈悲など髪の毛一本程もないでござる! 喰らえ! サンライトォッ! フレイムゥッ! ニンジャヒュージシュリケェーンッ!」
 圧縮されたエネルギー光球は巨大な黄金の螺旋手裏剣となり、風太郎の手から投擲される。着弾と同時に爆発。『ヴァンガードレイン』は爆炎の中で前脚を掲げ、大きく一声いなないた。
「『クルセイダーズ因子:起動』……我らに勝利を、我らの敵に死を齎す翼を……ここに」
「トナカイはおとなしく鎖に繋がれるでありますっ」
 前衛組をサポートすべくユーリエルはD・インストールを、ヴェスパーは猟犬縛鎖を用いる。『ヴァンガードレイン』の前脚が鎖に絡めとられ、前衛組は火力を集中させるべく距離を詰める。
「イマイクゾ!」
「忘れたか、おまえの相手は余じゃ!」
『ヴィクトリーサンタ』は『ヴァンガードレイン』へと駆け付けようとするも、白が放った御霊殲滅砲に阻まれる。
「ナラバ、キサマカラ、チマツリダ!」
 ガトリング砲が火を吹き、弾丸が雨霰となって白に襲いかかる。『ヴァンガードレイン』に攻撃を集中させての速攻撃破が狙いだが、その間は白が単身で『ヴィクトリーサンタ』の相手をすることになる。こちらの方が危険度は上だ。
『ヴァンガードレイン』も反撃に出た。2本の角の間で電光が弾け、荒れ狂う電撃が前衛組へと襲いかかる。この2体でケルベロス8人と同等、決して油断はできない。
 天気は完全に崩れ、雪が降り出してきた。


 駅前デッキ広場は、爆煙と硝煙のたなびく戦場のホワイトクリスマスと化していた。
「メリー・クリスマス! ユキガフッテ、ホワイト・クリスマス! キサマラノチデ、ユキヲアカクソメテ、レッド・クリスマス!」
 ガトリング砲の弾丸が、広場の床を、駅ビルの壁を抉る。『ヴァンガードレイン』の電撃が命中したイルミネーションはショートし、豆電球が次々に爆ぜていく。広場を駆けるケルベロスたちは被弾を避けつつ、攻撃をしかけていく。
 レイラは『ヴァンガードレイン』の装甲を破壊すべくデスサイズシュートを撃つ。
 だが、直後に反撃の電撃が彼女を襲った。
「きゃあっ」
 動きの止まった彼女を踏み潰そうとするかのように、『ヴァンガードレイン』が前脚を振り上げる。
「お師匠、お願い!」
 クローネはサーヴァントを護衛につかせ、自らはレイラの前に立ってケルベロスチェインで『ヴァンガードレイン』の捕縛を試みる。
「クローネ殿、無茶はせぬように。常連客が欠けては寂しいでござるっ」
「女性を足蹴にしようとは、まさしく悪でありますなっ」
 後方から風太郎がフロストレーザーを、ヴェスパーがフォートレスキャノンをトナカイの腹部めがけて斉射した。
「大丈夫だ、心配はいらない」
 この機に十郎がメディックとしてレイラの傷を回復させる。十郎は内心ひやりとしていたが、顔には出さぬよう努めた。だが大切な人を傷つけた敵に、一発喰らわせてやらねば気が済まなかった。
 度重なる攻撃に『ヴァンガードレイン』の動きも精彩を欠きつつある。しかし電撃の威力は未だ健在、ケルベロス側にも負傷が目立っていく。
 一方、白は接近してきた『ヴィクトリーサンタ』と、両手で組み合う力比べとなっていた。
「フハハハ! リョウテガ、ツカエマイ! ダガ、コチラハチガウ!」
 肩のガトリング砲、その銃口が白の顔に向く。
「両手を塞いで攻撃出来ぬと思ったか? ……大間違いじゃ!」
 開かれたその口から熾炎業炎砲が放射される。
 炎に包まれた敵はたまらず離れたが、銃撃による反撃は忘れていない。
「……ぬかった!」
 避けきれず被弾した白は、膝をついてしまう。
(もしもの時は暴走もやむを得ぬか?)
 その考えが彼の脳裏をよぎる。
「攻撃を一時中断、白さんのカバーリングに入ります」
「待ってろ弟分! 今こいつを片づけるっ」
 ユーリエルが白に駆け寄って傷を回復させ、叫んだルトは開門―罪渦を裁く無間の氷獄―発動のモーションに入った。
「氷つけ! おまえの罪も、その魂も!」
 異界の門から現出した氷柱が『ヴァンガードレイン』を貫いた。急激に足元から氷結していく敵は悲鳴を上げるが、その声すらも凍りついていく。
「お仕置きだ」
 低く抑えた声で吐き捨て、十郎が追撃のグラインドファイアを放つ。急激な温度低下からの灼熱の業火が『ヴァンガードレイン』の全身に亀裂を走らせ、粉々に砕け散らせた。
「『ヴァンガードレイン』の破壊を確認。引き続き『ヴィクトリーサンタ』への攻撃に移行します」
 ユーリエルがバトルガントレットをはめた拳を、残った敵へと向ける。
「オノレ! ヨクモ、アイボウヲ!」
 ガトリング砲を掃射し、『ヴィクトリーサンタ』はケルベロスたちを近づけまいとする。
「ひとりぼっちでまだ頑張る気? もう観念して『ゴッド・サンタ』の情報でも教えて貰えないかな?」
 鉛弾の雨を避けながら、クローネはステルスリーフで仲間たちの負傷を回復させる。
「オシエルトオモウカ!」
「所詮は三下、何も知らないの間違いでござろう?」
 風太郎のクイックドロウ。弾丸がガトリング砲の機関部で跳ねる。
「チィッ!」
『ヴィクトリーサンタ』は腕を掲げ、機関部を守ろうとする。
「狙うは、あれでござる!」
 叫ぶ風太郎が、ガトリング砲の機関部を指した。


 ルトは投げバールでガトリング砲の機関部を狙うが、『ヴィクトリーサンタ』は左腕でこれを防ぐ。
「バレバレダ!」
「どうかな?」
 ルトの口元には、笑み。バールは装甲に防がれた、しかし左腕が『ヴィクトリーサンタ』の視界を覆い、わずかな隙が生じた。
 直後、懐に飛び込んだユーリエルの拳が、ガトリング砲の機関部に叩きこまれる。
「シマッタ!」
 機関部を破壊され、もはやガトリング砲は使い物にならない。
「どうやら年貢の納め時じゃのう」
「貴殿の行いは大罪に値するであります。その罪ごとぶった斬ってやるであります」
 白から千目千手観音の符を与えられたヴェスパーは跳躍、狙い違わず七星断罪剣を『ヴィクトリーサンタ』に浴びせた。
「オノレ……シメイヲハタセズニ、シネルカ!」
 全身から火花を散らし、小爆発が内側から装甲を吹き飛ばすが、なおも『ヴィクトリーサンタ』はケルベロスたちへと突撃する。徒手空拳でも戦うつもりか。
「いいえ、お別れの時間です。無慈悲なりし氷の精霊よ……」
 ライトニングロッドを広場の床に突き刺したレイラが呪文を詠唱する。
「その力で彼の者に手向けの抱擁と終焉を」
 敵の真下に展開された魔法陣から水柱が噴き上がる。それは標的を包み込む巨大な氷の柱となる。数秒後、氷の柱に亀裂が走り、崩れ去る。
 後に残ったのは、破壊された『ヴィクトリーサンタ』の残骸だった。

「『ヴィクトリーサンタ』及び『ヴァンガードレイン』の記憶領域の解析……不能。損壊が激しく、情報は引き出せそうにありません」
 ヒールで破壊された広場が修復されていく中、ユーリエルはダモクレスたちの頭部を拾い上げていた。『ゴッド・サンタ』の情報が欲しかったのだが、撃破時に記憶領域も解析不能なまでに破壊されたようだ。あるいは、撃破される前に敵自らが情報を消去したのかもしれない。
「敵の情報が得られなかったのは残念でござるが……依頼された任務は達成できたわけでござる。近くに有名な喫茶店があるが、これからそこで祝勝会はどうでござろう? 未成年組には御馳走するでござる」
 その風太郎の提案に、仲間たちが歓声を上げた。
「ぼくは、甘いものを、所望する。たくさん頑張ったから糖分が足りない」
「朝御飯を食べて無かったから、お腹ペコペコなのじゃ!」
「自分も参加したいであります。皆さんと親睦を深めたいのであります」
 クローネと白の顔がぱっと明るくなる。挙手して申し出るヴェスパーは、それが彼女なりの誰かと仲良くなるための第一歩だ。
「ふふ、クローネさんたら……はしゃいじゃって。でも、私も楽しみです……!」
 そんな仲間たちの姿にレイラは穏やかに微笑む。
「折角のクリスマスだし、少しくらい羽目を外すのも悪くないよな!」
 ルトも満面の笑みを浮かべる。
「となると、若い仲間も多いし俺の役回りは保護者といったところか……それも悪くないな。では風太郎、道案内を頼む」
 十郎が風太郎を促し、ケルベロスたちはヒールの効果によって幻想的な光景となったデッキ広場を後にする。
「そういえばクリスマスに『爆破』とか『終了のお知らせ』と聞くことがあるのですが、何なのでしょう? 誰か知っていますか?」
「ああ、それでありますか。ユーリエル殿、学校でヴェスパーが聞いた話によりますと、何でも――」
 会話の声も遠くなり、無人となったデッキ広場に雪が降り積もっていく。
 こうしてクリスマス・イブ早朝の事件は、終わりを告げた。

作者:砂浦俊一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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