激闘! 魔界教団!

作者:陸野蛍

●『コータ』の戦い
「こいつには、剣が効きづらいな。武器を杖に持ち替えて魔法で攻撃だー!」
 ギルドに所属している彼は、3つの攻撃方法を上手く使い分けながら、モンスターを倒し、障害物を破壊しながら、戦場を先へ先へと進めて行く。
「もう少し進んだら、魔界教団のアジトだな。俺にかかれば、あっという間に全滅させられるぜ!」
 彼……冒険者『コータ』は、笑顔を湛えながら夜の草原を駆け抜ける。

『コータ』……いや、ゲームが好きな少年、伊草康太が走り去った道路には、何台もの煙をあげる車や壊された道路標識が折れ曲がって倒れていた。

●倒すべきはゲーム
「ヴァーチャル・リアリティ・ゲームって確かに憧れるんだよなあ。俺も格ゲーのがあったら実際やってみたいし。あ、俺、格ゲーなら自信あるんだぜ」
 そんな風に憧れを口にしていた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、ケルベロス達の視線に気付くと、少しだけバツが悪そうな顔をすると、依頼内容を話し始めた。
「鹿児島県の小さな村でVRギア型のダモクレスを装着した少年が周辺地域の破壊活動を起こす事件が予知された。VRギア型ダモクレスを装備した少年には、現実がゲームであるように映っていて、路上に止まっている車や標識と言ったものが攻撃対象に見えるみたいだ。少年のすぐ近くには、VRギアが実体化した少年のアバター、この子の場合はスマートな冒険者タイプが現れて、実際に攻撃を行うのは、このアバターになる」
 幸い、少年が破壊活動をする村は、夜に人が出歩くような場所では無く、早急に事件を解決する事が出来れば人的被害は出ないらしい。
「アバターは一定のダメージを与えると消失するんだけど、少年のゲームを続ける意志が尽きない限り、すぐに新たなアバターが戦闘開始時と同じ状態で現れてしまうんだ。ゲームでよくある『この場で復活しますか?』みたいなのが少年の視界に広がるっぽいな。少年のゲームを続ける意志を折るような形でアバターを撃破する事が出来れば、VR型ダモクレスは撃破され少年を救出する事が可能になる」
 少年がゲームを止めたくなるように誘導すれば救出出来ると言うことだ。
「但し、少年を攻撃した場合、少年は身を守る為にアバターと合体して戦闘しようとしてくる。アバターと合体すると、戦闘力は強化されるし、一度倒せば復活する事無く撃破する事が可能になるけど、同時に少年を殺す事になる。実際はただのゲーム好きの少年だから、よっぽどのことが無い限り、こっちの手段はお勧めしない」
 少年は、ケルベロスやデウスエクスと同様、通常ダメージは無効となっている様なので、少年に対してグラビティによる攻撃を行わない限りは、アバターと合体する事は無い。だが一撃でも、グラビティダメージを与えれば即座に合体すると言う。
「あくまで悪いのは、VRゲーム型ダモクレスだから、標的をVRゲーム型ダモクレスのみに絞って、少年の救出を出来る様にして欲しい」
 少年をこのままゲームの世界に居させれば、大きな惨劇に繋がるが、ダモクレスに利用されているだけの少年を犠牲にするのは、雄大としても嫌らしい。
「少年は、魔界教団のアジトと認識させられている村の集会所に向かっている。夜間で普段は人が居ない場所だから、みんなにはここで戦闘を行って欲しい」
 集会所に敵がいなかった場合、少年は教団の幹部が他の場所に潜伏していると思い、民家を襲撃する事になってしまう。
「ケルベロスについては、発するグラビティ・チェインから『倒さなければならない強敵』であるように認識されるから、優しい言葉や、ケルベロスとしての説得は、ダモクレスによって都合の良い敵のセリフに変換されてしまう」
 どんな説得の言葉も彼の耳には届かないのであれば、戦闘は避けられないと言うことだ。
「だけど、みんなが最初から、ゲーム世界の設定に相応しい『倒さなければならない強敵』のような格好や演出をした場合、その言葉や行動をそのまま伝える事が可能みたいなんだ。つまりこの場合、少年が全滅させなきゃいけないと思っている『魔界教団の幹部』っぽいセリフや行動はダモクレスに変換されずに伝わる訳だ。これを利用して、少年のゲームを続けようとする意志を折ってくれ」
『魔界教団の幹部って、どんなのだよ?』と言う顔をするケルベロスもいるが、雄大は続ける。
「さっき言った『ゲームを続けようとする意志を折る』って言うのは『このゲームつまんない、やーめた』と思わせることなんだ。この少年はゲームに関係ない、所謂エンドコンテンツとか強いレアモンスターとかは嫌いらしいんだ。だから、頑張らないと倒せない強ボス感とか、自分達を倒すにはもっと時間をかけなきゃいけないみたいな、プレッシャーをかければダモクレスの見せるゲームを止めると思う。簡単に言うと『自分達、ゲームクリアには関係ない、ただ強いだけの敵だけど、それでも戦い続ける?』って思わせれば勝ちって事な」
 少年を圧倒する様な強敵感を出せと雄大は言っているのだ。
「少年、正確にはアバターは、3つの攻撃を使ってくるけど。少年がやってるゲームって、武器持ち替え型ゲームみたいなんだよ。剣を持ってる時は単体斬撃、杖を持っている時は魔法攻撃、弓を持っている時は遠距離攻撃って感じ。武器持ち替えに時間はからないけど、アバターの攻撃は読みやすいと思う。但し5分に1回、必殺攻撃が出来るみたいで、これの威力はでかいから注意してくれな」
 少年は完全にゲームの主人公になりきっているので、躊躇なく攻撃を繰り出してくるだろう。
「VRゲーム機の入手経路は不明だから、原因の調査は続けるけど、今は普通のゲーム好きの少年が罪を犯すのを、何としても止めて欲しい。と言う訳で、みんな、しっかり強い悪役をやって来てくれ。嫌な奴な感じだと更にいいな! 頼んだぜ!」
 そう言って、雄大は笑顔を浮かべるのだった。


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)
ブラック・パール(豪腕一刀・e20680)
皆川・隠岐乃(銃闘士・e31744)

■リプレイ

●魔界教団を作れ!
「また厄介なものに目を付けたわね、ダモクレス……」
 鹿児島県の小さな村。
 その集会所に魔界教団風の装飾を施しながら、ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)が呟く。
「……まぁ、着眼点は悪ないよな。現実のモン壊さへんかったら、結構面白そ……いやいや」
 ノルンに答える、佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)は、ポロッと本音が出てしまい、すぐに否定する。
 彼等ケルベロスがこの場で待ち構えているのは、至って普通の少年だ。
 ダモクレスから与えられた悪魔のゲームをしているだけなのだ。
 だが、少年をこのままにしていれば、すぐに人的被害が出ることになり、その事実を知った少年の心も壊れてしまうかもしれない。
 ケルベロスとして一刻も早く少年を止める必要がある。
「ゲームはアタシも嫌いじゃないが、今回は事情が事情。きっちり『萎え落ち』してもらわないとねえ」
 集会所の入り口付近で、ライトノベルを読み耽っている、皆川・隠岐乃(銃闘士・e31744)もそう口にする。
 ちなみに隠岐乃が一生懸命読んでいるのは、雄大のヘリオン内に置かれていた、ファンタジーの冒険活劇であり、隠岐乃にとっては悪訳の口調や雰囲気の勉強なのである。
「髑髏に十字架、蝋の溶けた太い蝋燭……悪の教団と言えばこのような感じでしょうか?」
 集会所の会議用テーブルをゴテゴテと不気味に装飾しながら、レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)が首を捻る。
『VRゲーム型ダモクレス』は装着者に、情報を捻じ曲げて伝達するらしいが、ゲームの雰囲気に合ったものであれば、視覚情報、聴覚情報共にダイレクトに伝達するとのことだ。
 この場が、より『魔界教団』の雰囲気に合っていれば、少年はゲームをリアルに感じることになる。
 少年の心を折るには、一度ゲームに没頭させることも必要なのだ。
「演出ですか……何か考えてみるしか無いですね」
 フェイスガードの下の表情は窺えないが、どうやら、コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)も思案しているようだ。
(「それっぽく演出するって言ってもねぇ……コスモスに考えがある様だし、任せてもいいのかしら。私は、堂々と待ち構えて居れば落ち着いたボスに見えるかな」)
 ブラック・パール(豪腕一刀・e20680)は、真っ白な野太刀を手にしながら、コスモスをちらりと見る。
 各自、それぞれが集会所を飾り、自身の装いを整えた頃『バタン!』と扉が開いた。

●悪の手先達
「ここが魔界教団のアジトだな! 俺がここを壊滅させて、街に平和を取り戻すんだ!」
『VRゲーム型ダモクレス』を装着した少年『伊草康太』……いや、冒険者『コータ』は、鋼の剣を手に魔界教団のアジトに足を踏み入れる。
「…………来たか。この場に来ても意味が無いとも知らずに」
 何処とも分からない場所から、低く落ち着いた声が聞こえて来る。
「魔界教団員だな! 姿を見せろ!」
 声に怯むことなく、コータは雄々しく叫ぶ。
 すると、何も気配が無かった場所に炎が生まれると、炎が割れ長髪の眼光の鋭い男が現れる。
(「……やれやれ。あまり、こう言うのは得意ではないんだが……やれるだけやろうか」)
 心の中で呟きながら、フューリー・レッドライト(赤光・e33477)は、コータを睨み据える。
 フューリーの眼力に、コータが一歩身を引こうとした時、足元を灰色の煙が覆う。
「良く来たな……」
 煙の奥から見える、魔界教団の名に相応しいフードを深く被り、赤い外套に髑髏の仮面の男は、不気味に歓迎の意を見せる。
「……安っぽい言い方だけどさ……お前には消えて貰うぜ」
 髑髏仮面の男、氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)は、罠にかかったコータを嘲る様な声で言葉を発する。
「そんな言葉で俺が逃げるとでも思ってるのか! お前等を全滅させに来たんだからな、俺は! たった二人で俺に勝てると思うなよ!」
「あら、誰がお相手がそのお二人だけだと言いました?」
「えっ!?」
 突如聞こえた女性の声に、コータが驚きの声をあげる。
「……ようこそ、私達のアジトへ。運の良いことに……いえ、貴方には運の悪いことでしょうか。……今宵は、幹部8人とその従者全員が揃っていますの……10対1でお相手致しましょう」
 禍々しい青い翼の女性は旋律の走る様な微笑みで、穏やかにコータに言う。
「幹部クラスが10体だって!? 聞いてないぞ!?」
 コータが抗議する様にレクシアに言うが、レクシアは頬笑みを湛えたまま言い放つ。
「貴方をここに呼び出すのが、私達の目的。こちらの手の内を明かす必要など無いでしょう?」
「罠にかかったってことだ。魔王に仇成す不届き者が!」
 黒いローブを羽織った小柄な女が、雷を背に陰鬱な声を出す。
「ここを滅ぼした所で、お前は世界を救えない。全てが無駄足だったのだ」
 隠岐乃がライトノベルで得た、悪役の知識をフル活用し、コータに絶望を与える様に言う。
「獣人まで居るなんて……。でも俺が負けるもんか!」
「罠と知っても、まだ……炎と雷に愛されし私達を倒せると思っているのかしら?」
 最奥に構える、魔剣士の女が妖しく笑う。
 ノルンが『想刃・雷癒』を掲げれば、コータの見ている前で教団員達を護る、雷の障壁が構築される。
 ノルンの足元では、彼女の使役する魔の眷属たる従者『ディア』が、邪悪な魔族文字を身体に浮かべている。
「あなたには、この様な武器は使いこなせないでしょう? コータ?」
 巨大な砲塔を構えた女がそう言えば、その砲塔から無数の弾丸がコータを襲う。
「えっ!? このゲームで大砲とかありかよ!?」
「私達は魔王に選ばれた教団員、使えぬ武器などありません」
 地獄の炎を勢いよく吹き出しながらコスモスが言う。
「……コスモス」
「ブラック……その目は? 熱かったですか?」
 細めた緑の瞳でコスモスを見るブラックに、思わずコスモスは素の声で答えてしまう。
 そんなコスモスを横目に、ブラックはコータを射すくめる様に見ると、身の丈より長い白刃の太刀を鞘から引き抜く。
「私の刀の錆となれること……喜んでもらえるかしら?」
 口元を歪めて言うとブラックは、一気にコータの側まで踏み込み、空をも断ずる速さの斬撃をコータに……正確には、コータのアバターに浴びせる。
「クソッ! こいつ等、持ってる武器もバラバラかよ!」
 コータが魔界教団の攻撃に愚痴を零していると、教団内全体に響く重厚なストリングスのたっぷり効いた、低音の戦闘BGMが聞こえて来る。
「コータ、お前は此処でおっちゃ……じゃなかった、私達の手により死ぬんや。私達から逃げることは出来んのや。この場に来た事を後悔させたる」
 精一杯、悪役口調を使おうとする照彦だったが、身に沁み込んだ関西弁が抜けず、いまいち緊張感が持続しない。
 ボス戦のBGMを演出している『テレ坊』のディスプレイにも『……』と表示されている。
 照彦は表情を引き締めると、身に付けた鎧を更に禍々しき鎧へと変貌させる。
「この姿を見れた事を光栄に思うとええ。私の究極の姿で相手をしてやろか!」
 重々しい鎧を纏っているとは思えない身軽さで、照彦はコータに不吉な凶星を思わせる蹴りを放つ。
「クソッ! お前らなんかに負けるかっ! 俺が勝つんだ!」
 コータの剣が正義の意志と共に横に奔った。

●強過ぎる敵
「まだまだ……だな。見せてみろよ。お前の覚悟を」
 刃の鋭さを得た蹴りを放ちながら、緋桜がコータに言う。
「こいつは、格闘タイプか。なら、弓で距離を取れば」
 呟きながらコータは、手にした剣を森人の弓に変える。
「これでも喰らえっ!」
 コータの放った妖精の加護を受けし矢は、一直線に緋桜の肩を射抜く。
「白き焔舞い踊り、立ち上がりし者らに祝福を。仇名す者を惑いへと誘う加護を与えん」
 術師ノルンの詠唱が響くと白い焔が教団員達を覆い、傷を癒していく。
「一番後ろは、回復か!」
「……ここで、お前の戦いは終わる。何も成せぬまま、朽ち果てて逝け」
 フューリーは長髪を靡かせ、コータに近づくと重い言葉と重い蹴りをコータに与える。
「仲間の居ないあなたがどれだけ耐えられるか……楽しみね」
 身の丈より長い刀を軽々と扱い、ブラックは更に刀に雷を纏わせコータを刺し貫く。
「あなたに、こんな武器は使いこなせないでしょう?」
 黒鎖を猟犬の牙に変え、コータに喰らい付かせながら、コスモスは薄く笑う。
「貴様は踏み込み過ぎた。よってここで始末させてもらう!  魔界教団幹部『凶弾のミナガワ』アタシの名前を刻んで死ぬがいい!」
 銃弾をコータの脇腹に打ち込み、隠岐乃は慈悲無き笑みを浮かべる。
「追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ。 彼の者を喰らい縛れ―――迦楼羅の炎」
 レクシアが生みだした蒼き小さな炎弾の群れが次々にコータを襲えば、蒼き炎は燃え尽きること無く、コータの身体を束縛する。
「バステ撒きまで居るのかよ!」
「だからお前は死ぬて、おっちゃん言ったやろ?」
 一人称が完全に戻ってしまった照彦が、雷を纏わせた雷の槍でコータを貫けば、コータの視界のライフメーターが真っ赤に染まる。
「くそっ! こんな所で負けるか! 魔法で一気に吹き飛ばしてやる!」
「そうでなきゃいけねえ。さぁ、せいぜい俺を楽しませろ」
 髑髏の仮面の下から愉悦の言葉を漏らしながら、緋桜は拳に邪神を降ろしコータの鳩尾を打ち据える。
「くっそおぉぉぉぉぉ!」
 コータの怒りの叫びが魔界教団に……集会所に響いた。

●ゲームを手放す時
「必殺! スラッシュブレード!!」
 コータの必殺剣が前を固める教団員達を切り裂いた……だが。
「こいつ等、どんどん防御力が上がってんじゃねえの? しかも盾役まで居るとか有りかよ……」
 コータは、既に3回コンティニューしていた。
 コータには、回復薬も回復呪文も無い。
 傷つけられれば、それだけHPが減っていくだけ……。
 敵の攻撃を避けようにも、ゲームでは自分の意志だけで避けることが難しい。
 しかも、相手は10体、自分は1人なのだ。
 それに、こういったゲームなら、負け続けていれば難易度を下げる設定が出て来てもよさそうなものなのに、それが無いだけでは無く、敵の防御呪文の効果は自分が復活しても継続されているのだ。
 ただただ強くなっていく敵。
 一体も倒す事が出来ない自分の攻撃力、ストレスは溜まっていく一方である。
 逃げて出直そうかとも思ったが、敵に言われたのだ『この戦闘からは逃げられない』と。
 確かにこういうゲームのボス戦で『逃げる』が使えないのは普通だが、あまりに無理ゲーじゃないのかとコータが考えていると、敵がまだ集団で攻撃を仕掛けて来る。
「おっちゃんが居る限り、お前の攻撃は全部おっちゃんが受けるんや。お前は1人も倒せんのや」
 照彦の身体がオーラに包まれると、それは氷の魔法となってコータを襲う。
「さぁて、そろそろ本気でやろうか! その方が楽しいだろ!? ギャハハハハっ!」
 禍々しい幻影の翼を生やした緋桜が言えば、コータも流石にげんなりして来る。
(「まだこれ以上、強くなんのかよ……」)
「お前の必殺剣に敬意を顕わそう。無限に後悔しやがれ!」
 闇の力が緋桜の拳に集まれば、その拳は破壊の力となってコータを打ちのめす。
(「また、レッドかよ……」)
「多勢に無勢とは、正にこのことを言うのでしょうねぇ」
 緋桜の後ろから声が聞こえると、緋桜が床を蹴り射線を開く。
 そこには斧を振り上げた、レクシアが微笑んでいる。
 真っ直ぐに振り下ろされる、教団員の斧。
 コータの視界に『DEATH』の文字が大きく広がる。
 コータは、溜め息をつきながら『CONTINUE』を選択する。
 そして、4度復活したコータが目にしたのは、癒しの魔法であろう淀みし雨を降らせる、ノルンの姿だった。
「ディア、回復は私だけで十分よ。コータとたっぷり遊んであげて」
 ノルンの言葉を受ければ、魔の眷属『ディア』は禍々しき光をコータに向け放つ。
「アタシ達が飽きるまで、じっくりいたぶってやろう……殺しは快楽だ」
 手にした魔杖から雷を放つ隠岐乃の表情は、弱者を痛めつけて楽しむ悪意ある者のそれだ。
「まだ、やりますか? 勝てないと分かったでしょうに……」
 言いつつコスモスは、ライフルの引鉄を引く。
「せめて花ぐらい……美しく咲かせて頂戴」
 コスモスの散弾に追いすがる様に駆けるとブラックは、桜の花弁を全て散らせるかの如き斬撃でコータを切り裂く。
「俺達を倒すなどと言う、幻想を抱くからお前はここから逃げられないのだ……」
 フューリーの諭すような言葉がコータの耳に届くと『康太』は、気付いた。……この不毛な時間を終わらせる方法を。
「そうだよ! こんな無理ゲー止めちゃえばいいんだよ! こんな勝てない敵とずっと戦い続けるゲームなんて、つまんねーもん」
 そう言うと康太は、『VRゲーム型ダモクレス』を頭部から取り外す。
「ん? あれ?」
 康太の視界に映ったのは、見知った集会所の光景……そして、先程まで戦っていたゲームのキャラとそっくりな人達。
「少年! その機械を投げ捨てろ!」
 フューリーの怒声に驚き、康太は『VRゲーム型ダモクレス』を床に放り投げる。
「捻れ、砕け、朽ちて逝け……!」
 生みだされた破壊の暴風は、フューリーの意志通り『VRゲーム型ダモクレス』を飲み込むと、修復不可能な域まで破壊する。
 自分が今まで遊んでいたゲームが壊れていくのを、康太は呆然と見ていた……。

 康太はケルベロス達から全てが現実だったこと、先程まで戦っていたのがケルベロス達だったことを聞かされると、不安げな表情を見せたが、ノルン達に『誰も傷つけてはいない』事を聞かされ、少しだけホッとした表情を見せる。
「どうやって、あのゲーム機を手に入れたんだ?」
 仮面を外し、穏やかな表情に戻った緋桜が康太にそう尋ねると、康太は少し考えて首を振る。
「今朝、起きたら枕元に置いてあったんだ。少し早いクリスマスプレゼントかなって……。新しいゲームなんて、なかなか買ってもらえないから、今年はゲーム買ってってお母さんに言ってたし……こんな怖い物だと思わなくて」
「世にゲームはいくらでもあるんだから、クソゲー1つで落ち込まないの」
 顔を伏せる康太の頭を隠岐乃は、そう言いながら優しくポンポンと叩く。
「本当のクリスマスプレゼントが、今度こそきっと届きますから、親御さんの元へ帰りましょう」
 レクシアが優しく微笑むと康太は強く頷き、夜道をケルベロス達と共に歩き出した。
 本当のクリスマスプレゼントが康太の元に届くのは、康太があと数度眠りに着いた後……。
『メリークリスマス』の言葉と共に……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。