討入で御座る!

作者:七凪臣

●討入で御座る!
 黒い拵えの太刀、白い拵えの脇差。
 二振りを腰に佩いた青年侍が、いかにも曰くあり気な屋敷の前にすっくと立った。
「……成程、ここがアクダイカンの屋敷だ――でござるか」
 ぽつり、青年侍が言う。その声には、悪を許さぬ清き心が染み出ている。
「我が名はジンタ! 民をシイタゲル悪人どもは、片っ端からこの刀のサビにしてくれるでござる!」
 タンっと軽やかに砂利の大地を蹴って、青年侍は悪代官の屋敷に踏み込むと、近くにいた忍び装束の盗賊に斬りかかり。見事に一太刀で斬り捨てたかと思うと、黄金色のお菓子が詰まっていそうな風呂敷包みを抱えた悪徳商人を次の狙いに定める。
「覚悟せよ、これは正義の討入で御座る!!」

 パジャマ姿に、VRギア。
 現実の出で立ちはそれだけの少年は気付かない。
 彼が今、殺めたのがただの観光客の青年であるのに。襲いかかろうとしているのが、人の好さそうな中年男性であることに。
「このゲーム、すっごいなー!」
 だって彼は。
 正義の侍となって悪を断つ和風RPGに興じているだけのつもりなのだから。

●ヴァーチャルリアリティの怪
 小江戸と称されるの似合いな街並の一角で、VRギア型のダモクレスを装着した少年が人々を虐殺する事件が起きる――と、リザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は切り出した。
「どうやら彼……えぇと、ジンタ君と言うのですが。彼は現実をゲームであるように感じているようです」
 ジンタが見えている風景は、まさに江戸時代。そして周囲に居る人々は、野盗や、よからぬ事を企む悪徳商人、民を虐げる非道な侍などに見えているのだ。
「まぁ、実際に攻撃しているのは。ジンタ君のすぐそばに実体化している侍の格好をしたアバターになるのですが」
 因みにこのアバター、一定のダメージを与えると消失する。しかし、ジンタがゲームを止めようとしないと、すぐに再生してしまうのだ。さながら、延々とコンティニューを繰り返すように。
 この連鎖に終止符を打つには、ジンタのゲームを続けようとする意志を折るような形でのアバター撃破が必要となる。
「VRギアやジンタ君を直接攻撃してしまうと、アバターはジンタ君を守ろうとして彼と合体してしまうらしいんです」
 こうなると敵の攻撃力は増してしまうが、一度倒せば復活することはない。ジンタの命ごと――無に還る。
「ジンタ君はケルベロスやデウスエクスのように、通常攻撃ではダメージを被らない状態になっているようですから。この辺りを気を付ければ、合体することはないと思います」
 目的は、VRギア型ダモクレスの撃破。
 可能であれば、ジンタは助けて欲しいとリザベッタはケルベロス達に願う。

 ジンタが現れるのは、資料館にもなっている立派な武家屋敷。
 ジンタにとって己の所業は正義の味方の討入りなので、武家屋敷の敷地内に入らない限り、ジンタが周囲の人々に危害を加えることはないようなので、この屋敷の外門付近で待ち構えれば一般人に被害を出さずに済むだろう。
「そして注意して欲しいのですが――」
 VRギア型ダモクレスはケルベロスの事を『倒さねばならない強敵』という風にジンタに認識させる為、優しい言葉や、現実を知らしめる説得などは、ダモクレスにとって都合の良い台詞に変換されてしまう。
 けれど、ケルベロス達が最初からジンタがプレイしている――つもりの――ゲームの世界設定相応しい『倒さねばならない強敵』の恰好や演出をしていれば、話は別だ。
「この場合だと、皆さんの言葉や行動をそのままジンタ君へ伝えることが出来るようです」
 これを利用すれば、ジンタのゲームを続けようとする気持ちを萎えさせる事が可能かもしれない。
「ジンタ君は人々を苦しめる悪人を成敗したいという気持ちの持ち主、正義感の強い少年のようですから。そこを上手く利用できたら、彼に『もうこのゲームはやめよう』って思わせられるかもしれません」
 と、そこまで真面目な顔で語り切った少年紳士は、肩の力を抜いて表情を和らげる。
「折角ですから、皆さんもなり切ってみてはどうでしょう? 年末年始は時代劇特番も増えますからね……?」
 いわば、この季節の風物詩。
 楽しんだ上で、皆を守れて、ジンタも救えたら最高な気分になれるのではないだろうか?
「御座る、御座る。ですよ」
 くすくすと漏れるリザベッタの笑いには、ケルベロス達への信頼が溢れていた。


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
泉本・メイ(待宵の花・e00954)
安曇野・真白(霞月・e03308)
花露・梅(はなすい・e11172)
ファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)
レオンハルト・シュトラウス(獅子の泪冠・e24603)
デニス・ドレヴァンツ(シャドウエルフのガンスリンガー・e26865)
氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)

■リプレイ

●参上で御座る!
 ででんっ。
「お代官様の、おなぁ~りぃ~」
 冬の澄んだ青空に、御出座しを告げる高らかな声が響く。ずずい、現れたのは「いかにも」な一団だ。
 中心にいるのは、金糸があしらわれたあまり趣味の宜しくない羽織袴に、金の蒔絵が施された二本差しの男。やや恰幅のよい腹を擦って霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)は、髪色と同じ灰の髭を蓄えた口元に不敵な笑みを浮かべている。
「父上ー、父上ー。ちょんまげが曲がったのですー」
 そんな奏多の周囲を、『父上』以上のきんきらゴージャス和装姿でうろちょろしているのが、揃いのちょんまげ姿の丸っこいフォルムの人形を抱えたレオンハルト・シュトラウス(獅子の泪冠・e24603)。なお、人形の顔が『なんで自分までちょんまげ』と言わんばかりの不満気に見えるのは――きっと気のせいではあるまい。
「花露様……じゃなかった、花露。ちゃぁんと自分と父上を守ってよねー」
 どこからどう見ても悪い方のお代官様と、その馬鹿息子。そしてその馬鹿息子の尊大な言種に、花緑青の忍装束に身を包んだ花露・梅(はなすい・e11172)は深く額づく。
「っは。お付きの我らにお任せ下さい」
「あんたらは、大人しくしておくんだな」
 燻らせていた煙管で肺に満たしていた紫煙を、ファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)は身を寄せ合う少女たちへ、ふぅと吹き掛けた。胸に巻いたサラシに袖を落とした着物、武骨な毛皮を肩にかけた山賊と思しき女の一瞥は、無垢な町娘たちを竦み上がらせるに十分で。
「おっ、お金ならっ、ここにある、のっ」
「この子たちに、酷い事はしないで下さい……!」
 丈の短い小袖に紅い鼻緒の下駄を履いた泉本・メイ(待宵の花・e00954)は怯えながら巾着袋の中から小銭を取り出し、巫女装束を纏う氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)は両手を広げてファニーからメイを懸命に庇う。
 だが巨大な悪を前に、善良な市井の臣はいつだって無力なもの。
「何だ、このトカゲ擬きは」
「乱暴しないで下さいませっ」
 見た目は優男ながら、鋭い眼光が全てを裏切る浪人崩れな用心棒のデニス・ドレヴァンツ(シャドウエルフのガンスリンガー・e26865)の視線から、安曇野・真白(霞月・e03308)は籠に入れた白いトカゲ擬きを隠そうと身を呈す。しかし抵抗は虚しく、精悍な体躯の男の腕一本で、華奢な少女の動きは封じられてしまう。
「こんなもん飼ってるのか?」
 真白を押し退けたデニスの手が、翼あるトカゲに迫る。一度捕らわれてしまえば、良い玩具にされるのは火を見るよりも明らかな状況だった。
「ああ、銀華!」
 真白の喉を悲痛な訴えが震わせた――その時。
「そこまでだ――じゃなくて、そこまででござるっ」
 威勢のよい声が、悪代官の屋敷の庭園に響き渡った。

●イミフで御座る!?
「お前達の悪事はしかと見届けたァッ!」
 パジャマ姿の少年――ジンタの咆哮を追い風に、青年侍姿をしたアバターが黒の拵えから白刃を抜き、奏多めがけて玉砂利の庭を駆ける。
「貴様、何をする」
 デニスの問い掛けに、ジンタの口の端がにこりと吊り上がり、
「何者じゃ」
 月の煌きを宿した一閃を真正面から受けた奏多の定型句に、少年はさも満足気に鼻を鳴らす。
「ふふん。僕……じゃくって。我が名はジンタ! 悪を斬りに来たでござる」
「この方を誰とお思いか! 悪の中の悪ですよ! 今すぐひれ伏しなさいっ」
「お断りでござる!」
 そして梅の一喝が飛ぶと、ジンタのテンションは最高潮。「きゃー、父上。こわいよー」とレオンハルトが慌てる素振りと、登場シーンを華やげるように巻き起こったカラフルな爆風に――その実、レオンハルトのブレイブマインなだけだが。勿論、仲間に向けた――、ジンタは肩を聳やかしてクールを気取った。
「アクダイカン、お前にはここで死んでもらう」
「小童が粋がりおって……曲者じゃ、斬り捨てい」
 手にしていた扇をすっと払い奏多が言えば、梅にファニー、そしてデニスが臨戦態勢に入る。
「この方に手出しはさせません!」
 背に負っていた弓を跳ねるように構えて、梅は敵をどこまでも追う矢を青年侍へ射掛けた。その様は、まさに闇に生きるくノ一。
「そう言う事だ」
 雑に結い上げた橙色の髪をゆうらり揺らす歩みで敵を威圧して、ファニーは前へ出る。どうせなら斧でも構えた方が山賊っぽかったかもしれないが、彼女が帯びるのは単動作輪胴式拳銃。だが平成の世にあっては時代遅れのそれも、ジンタが眺める光景においては似合いの一丁。
「何が目当てか知らねぇが此奴等に手え出すなら、雇われ者として只じゃおかねえぞ」
 放つ弾は、けん制の一撃。避ける為に青年侍の身が微かに傾いだ隙は、共に戦う者にとって絶好の機会と化し。流れに乗ったデニスは一足飛びで敵に肉薄した。
「貴様如きの腕で、私たちが斬れるとでも?」
 緩く一つにまとめた長い髪を靡かせ青年侍と直に触れ合える距離まで迫ったデニスは、そこで餓えた獣を解き放つ。
「――逃がしはしない」
 刹那、実体化されたアバターの脚に、紅く朱く燃える二つの宝玉を填め込まれた獣が喰らいつく。
 ケルベロス達、実にノリノリだった。奏多の多くは語らぬ威圧感ばりばりぶりは立派な悪の親玉だし、ちょこまかと奏多の周囲を動き回るレオンハルトは金にものを言わせる馬鹿息子で。梅とファニー、デニスも悪の手先な雰囲気ばっちり。おかげでジンタはゲーム世界にどっぷり――だったものだから。
「滅びろ、アクダイカン!」
「やめて! 彼等は恩人なの!」
 再び奏多に斬り掛かった直後、町娘なメイが発した台詞に思いっきり目を剥いた。
「っへ!?」
「あたな、私達の幸せを壊すの? 鬼! 人でなし!」
 豹変したメイが繰り出した超高速の突きに、青年侍も動揺したように鑪を踏み。おろおろしながらも矢を射かけて来る真白や、籠から出てきて真白の傍らにいるトカゲ擬き――白い毛並のボクスドラゴン――が奏多へ癒しの力を届けるのに、ジンタの混乱は激しさを増す。
 更にその上。
「いきなり一方的に攻撃してくるなんて……あなた、まさか盗賊の仲間では?」
 清廉な巫女と思っていた沙夜にドラゴンの幻影をけしかけられた挙句に悪を疑われ、思考は完全飽和した。
「え? 何、この展開?」
「力のない村人を敵に回すとは、お主も悪よのう……」
 御業よりアバターへ炎弾を放ちつつ、梅はテレビで聞き齧った口調でくくと笑い、ジンタの混乱を華麗に追い打つ。
 そして。
「自分が正しいと思ってるようだけど、父上達が街の人間からお金を巻き上げる代わりに立派な城で外敵避けしてるんだ!」
 只の馬鹿息子だと思っていたレオンハルトの訴えは、同年代の少年のハートを深々と穿った。
「……へ?」
「僕達を殺したら、直ぐに敵に攻められて滅ぼされちゃう。君はずっといられるわけじゃないのに、それって無責任だよね父上!」
 レオンハルト、ジンタの正義を道理で論破し、青年侍の方へは竜砲弾で撃つ。何というか、ジンタ的には凄まじい衝撃だった。
「えっと、ここ。悪の、そうくつ、だよ、ね?」
 それでも萎れかけた心に鞭打って、ジンタは――物理的にはアバターが――奏多に挑む。
「皆、困ってるん、だよ……ね?」
「あなた、悪なら私も殺すの……? おっかあと弟が、私を待ってるのに?」
 ぽろぽろと涙を流し、メイはジンタに言い募る。アバターに対してはしっかり眩い流星を降らせながら。
「女子供もお構いなしたぁ、とんだ鬼畜野郎だ」
 トリガーに指をかけた銃で己が肩を叩いて呆れを表わし、ファニーは心底軽蔑する眼差しでジンタを一瞥する。
「ぼ、僕が、きちくっ!?」
「そうです。あなたは鬼畜です、悪魔です、人の世の禍です」
 巫女な沙夜にも責められて、ジンタの顔が歪む。しかもそのまま沙夜が奏多を甲斐甲斐しく回復するものだから、少年の眉間の皺は深くなる一方。
「――お前は、自分のしていることが分かっているのか?」
 捕食形態へ転じさせた黒き残滓を青年侍にけしかけるデニスの詰問に、ジンタは金魚のようにはくはくと口の開閉だけを繰り返す。
 そんな子供へ、奏多は平らな声で言った。
「おぬしはしかと見たか、この町の平和を。領民の安寧を」
「某は確かに強欲であろう――しかし、金子が無ければ力は得られぬ。力が無ければ民は守れぬ」
 息子(レオンハルト)の弁を裏付ける大人の言葉に、ジンタの涙腺が緩む。
「何だよ、このゲーム……こんな人たち倒せって?」
 己が正義に反する事態に直面した少年は、今にも泣き出しそう。そんなジンタに、真白はおろおろ。でも、やらねばならぬものはやらねばならぬ。だってそれが戦いの理!
「世の中、難しいものでございますね」
 というわけで、真白と銀華。仲良く「えいっ」と青年侍を攻撃した。

●正義とは何ぞや
 繰り返す。ケルベロス達、心はお江戸に生きてるかのようにノリノリだった。
 例えば髭は付け髭で、でっぷり腹はタオルの詰め物な奏多が心中で「この齢になって演じる機会が増えるとはな……」と遠い目してたり。真白が「皆さま、凄いですね。銀華もそう思うでしょう?」と他の面子の迫真ぶりにきゃっきゃしていても、だ。
「力で解決しようとするのは間違いと申すか? では、お主はどうじゃ? 力で某らを討とうとする同類ではないか」
 磨き上げた戦いの腕を、握るナイフの切っ先に宿し。奏多は問いと刃で敵を貫く。あくまでも悪代官としての奏多の――否、ケルベロス達全員の役への没入ぶりは素晴らしく、彼ら彼女らの言葉は、曲げられる事無くジンタの心を揺さ振り続けた。お陰でジンタの正義はぼろぼろだし、アバターの体力も尽きる間際。
「正義ってのはそんな簡単なもんじゃないぜ。ま、俺らにも言えることだが」
 我が身で知る真理をジンタへの哀れみに換え、ファニーは青年侍の足元の大地へ銃弾を飛ばす。舞い上がった砂埃は、乾ききったジンタの心のよう。
「助けて下さるその想いが間違い私達を苦しめることを、気付いて下さいませんか?」
 糸掛け星――示す指先からアバターを貫く仄かな煌きを放ち、真白はVRギア越しにジンタの瞳を探した。
「ふふふ、正義の覚悟が足りない人間は、きらきら美形ちょんまげ2匹の前に敗北するのですー」
 ジンタを可哀想に思うのも大事だけれど、世の中やっぱり飴と鞭。どこまでもぐいぐい抉っていくスタイルのレオンハルトは、とぉんと高く舞い上がる。ふわり風をはらんで踊るキラキラお衣装。かくて綺羅星と化したレオンハルトは鋭い蹴りでアバターを貫き、実はお人形じゃなくてテレビウムだったアルトも、『まったく、変なことに付き合わさせて……』な貌をしつつも凶器で敵をボコった。
 とは言え、本当のところレオンハルトは表情筋が行方不明な性質なので。そろそろ終わってくれないと、あれこれツライ。
「貴方も所詮、考え無しの悪人と同じ。例えこの場から逃げ果せても、人相書きを町中に張り出して、必ず捕まえてみせます」
「ひぃっ」
 ぴしゃり言い放つ沙夜に、ついにジンタが竦み上がる。でも、沙夜だって好きでジンタを追いつめているわけではない。
(「ゲームを続ける気を失くさせる為とはいえ……心苦しいです」)
 胸を痛めているのはケルベロス達も同じ。全てはジンタの命を救う為、世界に平和をもたらす為!
「幼き頃より神童と呼ばれ、鍛錬をも欠かさなかった私の技から逃れられると思わないで下さい」
 祖父の蔵書や時代劇を参考にした派手な身振り手振りを加え、沙夜は凍てた弾丸で『敵』を氷らす。
 参上した正義の使者はどちらだったのか。そもそも正義とは何なのか。狼狽する子供の姿が、デニスはどうにも不憫で(何せ先ほど真白に無体を働いたのも、演技とは言え申し訳なかったのだ)。されど、だからこそ今この瞬間こそがジンタの心を折る好機と冷静に判じ、鋭く断罪する。
「独り善がりな正義は、時に害悪。お前が忌む私たちと同じ、な」
 疾く駆けさせる、宝玉宿す獣。禍々しき牙でアバターの右足を喰らえば、その時はもう目の前。
「うう! こんなの無理ゲーだよ! やってられないよっ。僕の正義に反するよ!!」
 堪らず漏れた苦痛の叫びに、梅とメイはにこり笑みを見交わす。
「それでは貴殿のお命、頂戴するであります!」
 どうせなら最後まで。悪の忍になりきって、梅は低く走った。
「忍法・春日紅!」
 はらはら舞い散らせた小振りの紅の花弁。それに紛れて梅は背後から青年侍の首筋を斬り裂き、
「たくさんの星の中の、たったひとつのお星さま」
 懐かしき日々を夢見るように、履き慣れぬ下駄でも軽やかなターンをくるりと決めたメイは、天の川を横切る流星が如き輝きを青年侍へ誘う。
 真昼の庭に、弾ける光。消え逝くアバター。
 同時にジンタのVRギアがことりと外れ消失する様に、メイは心の中で密かに安堵する。
(「良かった。重課金廃人コースはツライよ、なんて言わずにすんで……」)

●閉幕でござる!
 事が終わると、どっと疲れが押し寄せる。日頃と違う事をやったのだから、尚の事。
「表情筋が攣りそうです。これって労災降りますかー?」
 ぺたりとへたりこんだレオンハルトの肩を、これまたすっかり覇気が迷子になったファニーがぽむりと撫でる。
「まー、確かに疲れたな」
 そうして人派の竜族の女は、再び煙管をぷかり。そうして気怠げに吐き出された紫煙に、『現実』を視るジンタがびくりと肩を震わす。
「酷い事をして申し訳ありませんでした」
 真っ先に駆け寄ったのは沙夜だった。礼儀正しい少女は、ジンタを混乱させないように状況を説明してゆく。
「大丈夫? さっきは酷い事を言っちゃってごめんね、ジンタさん」
「ごめんなさい」
 シンクロするように詫びるメイと梅に、ジンタは懸命に首を横に振る。
「そんなこと、ない。みんなが正義で、僕が悪い」
 真っ直ぐ言い切る少年の心根は、彼が愛する正義の侭に。ゲームではなく、いつの日か現でその志を――と祈るデニスは、それとなくジンタの頭を撫でてやる。
「ゲームでただ遊ぶのも良いが、確り考える事も忘れるなよ……力以外の、何で人を救うのかとか、な」
「どうか竹のようにしなやかに、弱きを助けられる。そんな素敵な殿方になって下さいませね」
 変装を解きすっかり元の標準体型29歳男性に戻った奏多と、いつものように銀華を腕に抱いた真白の願いに、ジンタは力強く頷いた。
 でも。
「あ、そうだ。ゲームは一日30分までってお母さんが言ってたよ。やりすぎは駄目だからね!」
「う、ぁ。努力、するっ」
 メイの最後のお願いにちょっぴり渋ったのはご愛敬。
 気持ちは分からないでないが、やっぱりほどほどが何事も大事。立派な大人の皆さんだって、重課金廃人コースにはご用心☆
 かくて事件はこれにて一件落着。
 ででん、でんっ!

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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