ナイトメア・マジック

作者:雷紋寺音弥

●魔法少女とアンデッド
 ゲームの世界で英雄になって、思う存分に楽しみたい。そんな夢に魅せられるのは、なにも少年だけとは限らない。
「ここが、悪い魔女の住んでいるお城なのね! よ~し……どんな怪物も、全部やっつけちゃうんだから!」
 寝間着姿のままゴーグル型の機器を装着し、ショッピングモールに現れた鈴木・穂果(すずき・ほのか)も、その一人。ゲームの世界で、彼女は魔法使いの少女に変身し、悪い魔女の手下であるゾンビや骸骨などを次々と退治して行く。
 城の中で蠢くアンデッドの群れ。それらは全て、リアルなものとして感知され、否応なしにテンションが上がって来る。
「よ~し、次はあいつらをやっつけるわよ!」
 右往左往するゾンビの群れに狙いを定め、穂果は杖先から魔法の稲妻を発射した。だが、その一方で現実の世界では……。
「あ……あぁ……」
「ひぃ……! 痛い……痛いよぉ……」
 ゴーグルを装着した穂果の側に、彼女のゲーム内でのアバターと思しきキャラクターが現れている。それはゲームをする彼女の動きに合わせ、本当に杖先から稲妻を発射し、ショッピングモールで買い物をしていた人々を黒焦げにして行った。

●マジカル? 本気狩る?
「招集に応じてくれ、感謝する。群馬県前橋市のショッピングモールに、VRギア型のダモクレスを装着した少女が現れ、大量虐殺を行う事件が予知された」
 その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)よりケルベロス達に伝えられたのは、ダモクレスの引き起こす新たな事件の報だった。
「少女の名前は、鈴木・穂果。彼女は現実をゲームだと思っているようで、ショッピングモールの一般人を邪悪な魔法使いが作り出したアンデッドだと思っているらしい」
 それを思わせているのが、他でもないVRギア型のダモクレスである。クロートの話では、彼女の側には魔法少女の姿をしたアバターが実体化しており、実際に攻撃を行うのは、このアバターになる。
「このアバターだが……一定のダメージを与えると消失するが、彼女のゲームを続ける意志が尽きない限り、すぐに新たなアバターが戦闘開始時と同じ状態で復活する。きっと、ゲームをコンティニューしたってやつなんだろうな」
 そのまま戦っても、いずれはこちらが力尽きてしまう。だが、穂果のゲームを続けようという意思を折ってアバターを撃破すれば、VR型ダモクレスだけを破壊することも可能となる。
 一方、VR機器を含む穂果本人を攻撃した場合、彼女は身を守るためにアバターと合体してしまう。こうなると、戦闘力が強化されるだけでなく、彼女を救うこともまた不可能となる。一度倒せば復活はしないが、当然のことながら穂果も生き返ることはない。
「唯一の幸いは、穂果がケルベロスやデウスエクスと同様、グラビティ以外の攻撃が無効になっていることだろうな。勢い余って彼女をグラビティで攻撃しなければ、アバターと合体することはないぞ」
 彼女が現れるのは、ショッピングモールの一階。現場には、こちらが先に到着できる。一般人の被害が出ないように準備した上で、彼女を迎え撃つことになる。
「戦闘になると、穂果のアバターは杖から放つ魔法で攻撃して来るぞ。お前達の使う、ライトニングロッドやファミリアロッドのグラビティと同じものだと思ってくれればいい」
 ちなみに、VRゲーム機型ダモクレスは、ゲーム世界に相応しく無い現実をゲームの設定に合わせて修整して認識させている。ケルベロスについては『倒さなければならない強敵』であるように認識させる為、優しい言葉や説得の言葉は、ダモクレスによって都合の良い敵のセリフに変換されてしまう。
 もっとも、ケルベロスが最初からゲーム世界の設定に相応しい『倒さなければならない強敵』のような格好や演出をした場合、修正の対象として見られない。
 これを利用すれば、ケルベロスとしての言葉をそのまま伝え、穂果のゲームを続けようとする意志を折ることができるかもしれない。
「VRゲーム機の入手経路は不明だが、今はそれを詮索している場合でもないな。罪もない少女が取り返しのつかない過ちを犯す前に、なんとしても彼女を止めてくれ」
 現実と空想の境界線。それを最悪な形で崩壊させないために。最後に、そう伝えて、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)
ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)
五月雨・沙弥華(普通のヴァルキュリア・e24287)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)

■リプレイ

●地獄の魔女軍団?
 年の暮れも迫り、人々で賑わうショッピングモール。そこへ、ふらりと現れたのは、ヘッドギアを装着したパジャマ姿の少女だった。
「ここが、悪い魔女の住んでいるお城なのね! よ~し……どんな怪物も、全部やっつけちゃうんだから!」
 店の自動ドアをくぐるなり、その少女、鈴木・穂果は嬉々とした様子で叫んでいた。そんな彼女の傍らには、アニメか漫画の世界から飛び出した、魔法少女のような姿をしたアバターが出現しており。
「まずは、雑魚をやっつけちゃうわよ! 食らえ、必殺……!」
 そう、彼女が叫んで腕を振り上げたところで、周囲の買い物客達が警備員の誘導に従い一斉に逃げ出して行く。もっとも、ヘッドギアを装着した穂果には、それらは全て逃げ惑うゾンビや骸骨の群れにしか見えていなかったが。
「なによ、あいつら! 敵が逃げちゃったら、私は誰と戦えばいいのよ!」
 出足をくじかれ、穂果は早くも不満顔。だが、そんな彼女を更に追い込むようにして、新たなる敵……もとい、ケルベロス達が姿を現した。
「VRダモクレスとは、随分とハイカラなモノが出てきたな」
 黒い歌姫と化した野和泉・不律(ノイズキャンセラー・e17493)が呟くが、しかし穂果の耳には届いていない。それよりも、一度に複数の魔女が現れたことで、完全に混乱しているようだった。
「魔女ノ城へ、ヨウコソ、オ嬢サン。困ッタ時は何デモ聞イテクダサイネー」
 敢えて片言の台詞で語り掛けながら、ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)が穂果へ近づいて行く。その姿は、さながら古びた鎧を纏った彷徨う騎士の亡霊だ。
「敵もユニークな皮肉の効いた嫌がらせを思い付くものだな」
「ええ、まったくです。それはそうと……正義のヒロインも此処までですよ」
 前後から挟み込むようにして、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)と月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が、それぞれ穂果に迫る。今の二人の姿は、穂果には巨大な人狼を引き連れた邪悪なる巫女にでも見えているのだろうか。
「えぇっ! ちょ、ちょっと! こんなにたくさん魔女が出てくるなんて、聞いてな……ひぃっ!?」
 瞬間、自分の背中に冷たい何かが触れたことで、穂果が思わず悲鳴を上げた。ふと、彼女が上を見上げれば、そこには月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)のナノナノである白いのが、穂果の首筋に向けて水滴を垂らしていた。
「もう! 脅かすんじゃないわよ! この、悪戯お化け!」
 どうやら、今の穂果には、ナノナノの姿も白いシーツを纏った幽霊のように見えている模様。だが、これから不死身の死霊兵団を演じようとしている者達にとっては、むしろ好都合な展開である。
「うふふ……。あなた程度の実力で、私達を倒せるかしら?」
「もし、負けたら……そうね、私のオモチャにしてあげる♪」
 少しばかり動揺している穂果に向かって、五月雨・沙弥華(普通のヴァルキュリア・e24287)とプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が、示し合わせたように薄笑いを浮かべて言った。演技の迫真さも相俟って、まるで本物の魔女のようであり。
「我は銃火にて幼子の夢砕き、残酷な現世へと送還せんとする者。対するは、幻想を胸に抱きて邪悪に挑みし幼き少女さぁ、夢現の狭間で打ち克つは何方様で?」
 舞い散る氷片を周囲に放ちながら、戦場へと舞い降りるツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)。その様は、さながら凍てつく世界を支配する冬の女王。身も心も、果ては夢や希望さえも、全て凍土の下へ還らせんとばかりに。
「うぅ……。もしかして、知らない内にハードモードで始めちゃってたのかな?」
 開始早々の大ピンチに、首を傾げながら呟く穂果。しかし、ここで辞めるのも悔しいと思ったのか、すぐに気を取り直し。
「まあ、それでも、やっつけちゃえば同じよね。よ~し、全員まとめて、私が相手になってあげるわ!」
 嬉々とした表情で杖を掲げる動作をすれば、その動きをアバターもまたトレースし、杖先から強烈な火炎を放ってきた。

●不死身の戦士
 紅蓮の炎がショッピングモールの床を包む。広がる灼熱の業火は陳列棚と共にケルベロス達を焼き、その向こうでは勝ち誇ったようにして穂果がアバターと共に仁王立ちしていた。
「ふん! まあ、私にかかれば、こんなものよ!」
 どうやら、もう勝ったつもりでいるらしいが、この程度の攻撃で倒れるケルベロス達ではない。オルトロスのリキが擦れ違い様にアバターを斬り付けたところで、朔耶はすかさず黄金の果実を生成して聖なる光を解き放った。
「我らに上手くダメージを与えられたと思いました? ざ~んねんでした♪」
 その言葉と同時に、倒されたはずの者達が力を取り戻し起き上がる。実際は、倒されたふりをしていたに過ぎないので、これは当然のこと。が、今の穂果には渾身の一撃を持って倒したはずの敵が、再び蘇ったように見えただろう。
「頼りにしてるぞ」
 それだけ言って白いのと共に、宝もまた仲間達へとオウガメタルの輝きや、強力なバリアを届けて行く。もっとも、ケルベロス達にとっては癒しの力として働くそれも、穂果には邪悪な魔術師の死者蘇生儀式として映っていたかもしれない。
「どれだけ殺しても良い相手なんて最高ですね」
 全ての準備は整った。後は全力で殺しにかかるだけだと、ヴォルフがリボルバーの引き金を引いた。無論、狙うのは穂果ではなくアバターの方だ。唐突に身体を射抜かれたことで、衝撃にアバターの魔法少女が思わず怯み。
「割断する」
 一瞬にして間合いを詰め、不律が振動する刃でアバターを斬る。その傷口が、どろりと溶けたようになって、穂果が軽い悲鳴を上げた。
 リアルな戦いとは、こういうものだ。相手が魔女なら、攻撃を受ければ普通に傷つくだけでは済まされない。ましてや、敗北しようものなら、楽に死ねるとは限らない。
「高らかに響くは戦場を彩る破滅の調べ。さぁ、奏でましょう。氷棺へと誘いし終焉への序曲を」
 呆気に取られている穂果には構わず、ツェツィーリアが愛用の銃を片手に舞い踊る。ローブがはためき、中から銃身が顔を覗かせる度に、その先から放たれるは氷の魔弾。
 突き刺さる痛みが力を奪い、纏わりつく氷雪が動きを封じる。夢も希望も、その全てを絶対零度の永久凍土へと飲み込んで、後に咲かせるは埋葬の花。
「つ、強い! こんなの、聞いてないよ!」
 洗練されたケルベロス達の戦い方を前にして、穂果は誰に言うともなく叫んでいた。が、それでも、一度始まった猛攻は止まらない。彼女をVRギア型ダモクレスの呪縛から解き放つためには、その心を折った上で、アバターを破壊せねばならないのだから。
「その程度の魔力で、私を倒せると思っているの?」
「負けたら、あなたもこの子達みたいにしちゃうわよ。ほら、この子達が貴女を仲間に入れたがってる♪」
 完全に悪役に成りきったまま、プランと沙弥華が意地悪そうな笑みを浮かべて穂果に迫った。
 亡霊の呪縛と称して御業でアバターを抑え込み、そこを狙って空中から一直線に蹴撃を浴びせる。アバターの魔法少女が体勢を崩したところで、すかさずラギアが手にしたエクスカリバールを投げ付ける。
「きゃぁっ! もう、なんなのよ! こうなったら、私も手加減しないわよ!」
 完全に翻弄されてしまったことで、穂果は苛立ちを隠し切れずに腕を掲げた。その動きに合わせ、彼女のアバターもまた手にした杖を掲げると、その先から多数の星形のミサイルを発射して来た。
「流星呪文、メテオストームよ! これならどう!?」
 彼女にとっては、必殺技のつもりだったらしい。だが、真正面から直撃を受けたにも関わらず、攻撃を食らったヴォルフは表情一つ変えていない。
「な、なんで……。どうして……」
 さすがに、これは少しばかり心を揺さぶられたようだ。もしかすると、自分は絶対に勝てないのではないか。穂果の中で生まれた小さな懸念。ケルベロス達との戦いを通し、それはいつしか彼女の心の中で、大きな不安となって膨れ上がりつつあった。

●恐怖の罰ゲーム?
 気が付くと、ショッピングモールの中は、相次ぐ連戦によって凄まじい状況になっていた。
 飛び散った食品や雑貨の山に、あちこちで倒れた陳列棚。壁には大穴が開き、床もタイルが剥がれている。そんな中、ケルベロス達との攻防を続ける穂果は、今や完全に押されていた。
「貴女を殺さなくちゃイケないなんて残念です」
 リキが敵を睨み付けると同時に、朔耶もまた御業から炎弾を発射してアバターを焼く。攻撃に特化した魔法少女に、広がる炎を止める術はない。しかも、それだけではなく、いつの間にか背後に回っていた白いのが、尖った尻尾を突き刺していた。
「じっくり味わいな……」
 炎と毒に蝕まれて行くアバターに、更なる追い打ちを仕掛ける宝。瞬間、襲い掛かるは見えない痛み。これは毒か、炎か、それとも別の何かなのか、もはやアバターを駆る穂果自身にも判っていない。
「さあ、次はどんな風に殺されたい?」
 そう告げながら迫るヴォルフの攻撃は、しかしぎりぎりのところで避けられた。やはり、同じ属性の技だけを連発すれば、見切られてしまうのは仕方がない。もっとも、今の穂果にとってはそんな攻撃でさえ、威嚇になっているのは幸いだった。
「作戦のためとはいえ、あまり虐めすぎるのも問題か……。後遺症になる前に、早々に終わらせるぞ」
 攻撃が外れて安堵の溜息を吐いたのも束の間。今度は不律が背後からアバターを蹴り飛ばす。今や、完全に翻弄されるだけとなった穂果の口から、思わず弱気な言葉が零れた。
「こ、こんなの酷いよ……。リセットして復活していいのは、私だけじゃないの!?」
 実際は、ケルベロス達が攻撃されても懸命に耐え、痛みや辛さを顔に出していないだけなのだが、それはそれ。
「左様、幾度立ち上がろうとも無駄な事。億度挑もうが結果が変わる事は無し。さぁ、人間性を捧げ、絶望を焚べよ。そして汝が死に、祈りを。この責め苦は、汝が心折れるまで永劫と続くと知れ」
 瞳に涙を浮かべ始めた穂果のことを、ツェツィーリアが冷徹な視線を向けて見下ろしながら言った。
 それは、彼女の本心ではなかったかもしれない。が、それでも、敵であるVR型ダモクレスに……穂果のアバターに対しては、情けも容赦もないという点では同じこと。
「光条閃き、螺旋宿す銃弾にて咲かせるは生命蝕む氷葬の華」
 銃口が輝き、凍てつく刃の如き鋭さを持った光線が、アバターの胸板を貫いた。それでも辛うじて耐えたようだが、そこは沙弥華とプランがさせなかった。
「あなたを私のゾンビにしてあげる。私と、私の家族と一緒に沢山の人間を殺して、幸せになりましょう?」
 ケルベロスチェインで拘束したまま、狂笑を浮かべつつ沙弥華が問う。プランもまた自らの思い浮かべたアバターの亡骸……無残な姿と化した魔法少女の姿を具現化し、笑みを浮かべて穂果へと迫る。
「これ、何の数か分かる? 貴女が彼女達を見捨てた回数よ。おかげで私の仲間はこんなに増えたわ、ありがとう♪」
 目の前に迫り来る腐った自分の分身達。それを見た瞬間、穂果の脳裏に今までの戦いでアバターが受けた様々な辱めの数々が蘇ってきた。
 ある時は触手で全身を凌辱され、またある時は気色悪い粘菌に身体の穴という穴から入り込まれ。果ては、巨大な食虫植物に飲み込まれて、服も体も溶かされたこともあった。
「あ……あぁ……」
 完全に戦意を喪失したのか、既に穂果からは強気な言葉は出て来ない。代わりに紡がれるのは、幼い少女が助けを求める、怯えの混じった声だけだ。
「も、もう嫌! こんなの、勝てるわけないじゃない! それに、こんな怖いゲームだなんて知ってたら、絶対にやらなかったのに!」
「勝テルワケナイ、デスカ? ソンナ時ノ対処方デス。コンナクソゲーム、ヤメテシマイナサーイ」
 泣き叫ぶ穂果に、あくまでコミカルな演技を加えたままラギアが告げる。あまりにシュールな光景に失笑しそうなものだが、今の穂果にはそれさえも救いだった。
「うん、もう止める! こんなクソゲー、止めてやるんだから!」
 その言葉が、ケルベロス達に勝利を告げる狼煙だった。
「……この一撃は内緒だぞ」
 満身創痍のアバターに、ラギアは超硬質化した拳と同時に、灼熱の吐息を吐きかける。顔面を燃やされ、力無く崩れ落ちる魔法少女。それと同時に穂果の頭を覆っていたVRギア型ダモクレスも破壊され、彼女もまたゲームの世界より解放された。

●悪夢からの帰還
 VRギア型ダモクレスは破壊され、穂果も無事に救出された。だが、ダモクレスの呪縛から解かれても、彼女は泣くことを止めなかった。
「悪かったね、馬鹿にして。それと……そのゲーム、どこで手に入れたか覚えてる?」
「し、知らないよぉ……。私が買ったんじゃないし……」
 沙弥華の問いにも、穂果は泣きながら首を横に振るだけだ。残念ながら、今は彼女を落ち着かせ、家に帰してやる方が大切なようで。
「ゴメンね、怖かったよね。もう大丈夫だから安心して」
 プランが穂果を優しく抱きしめ、それでも足りなければと、宝も白いのを貸し出した。ひとしきり泣いて落ち着いたところで、最後はラギアが彼女の頭に軽く手を置いて、今日のことは忘れるよう告げた。
「悪い夢を見ただけだよ。ゲームはほどほどにな」
「うん……。あんな怖いゲーム、もう絶対にやらないわ……」
 頷いて答える穂果の瞳に、嘘偽りの感情はない。本当に、最初から最後まで、ゲームをしているつもりだったのだろう。
 一歩でも誤れば大惨事になっていたところだったが、しかしケルベロス達の中に、穂果を責める者はいなかった。
(「デウスエクス……やはり、連中とは、同じ世界では住めそうにないな……」)
 悪いのは彼女ではなく、その夢を操り惨劇を引き起こそうとした存在である。そんな思いを心の中に刻み込み、ラギアは残されていたダモクレスの残骸を、無言のまま踏み抜いて破壊した。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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