萌え狩り阻止計画

作者:桜井薫

 電気街やオタクショップが立ち並ぶ、繁華街の中心地。
「おおおー、まさに極上リアリティ! 神グラ過ぎる!」
 その中心に立つ少年は、周りの風景を感慨深げに360度眺め回した後、ハートの飾りがついたコミカルな見た目の銃を握りしめる。
「デュフフ、まずは……そこのメイドさんから、攻・略っ!」
 いつしか少年の周りには、いかにもな萌えキャラ風の女性たちがたむろしていた。少年は欲望に忠実な掛け声もろとも、手にした銃で、メイド風の女性キャラを撃ちまくる。
『ああん、たまらないの……強いんですね、ご主人さま♪』
 弾丸を浴びたメイド風の女性キャラは、頭のてっぺんから出してるようなアニメ声とともに、あざとい上目遣いで全身からハートを出し、消滅した。
「よーし、この調子で全キャラ攻略だっ!」
 少年は満足したように銃を構えなおし、他の萌えキャラたちに襲いかかっていく。

「メイド喫茶、『メイドのみやげ』でーす……っ!?」
 所変わって、現実世界の秋葉原。
 いつも通りチラシを配っていたメイド服の少女は、自分の胸元を貫いた痛みに言葉を失い、そのまま崩れ落ちた。
「おい君、何をして……!!」
 異変に気付いて止めに入った男性も、同じように胸元を撃ち抜かれ、悲鳴を上げる間もなく地面に倒れ伏す。
 周辺にはたちまち、無差別に撃ちまくられる銃による惨劇が広がってゆく。
「フッ……どんな最強萌えキャラでも、ぼくを止めることはできないっ!」
 騒乱の中心に居るのは、VRギアを装着した少年だ。少年の隣にはゲーム内のアバターであるらしい、若いイケメン風の男性が同じポーズを取っている。
 少年は楽しげに、『ゲーム』を続けるのだった……。
 
「押忍! ケルベロスの皆、よう集まってくれた。秋葉原の町中で、VRギア型のダモクレスを装着した少年が現れ、人々を虐殺しまくる事件が予知されたんじゃ」
 円乗寺・勲(ウェアライダーのヘリオライダー・en0115)は背筋を伸ばし、ケルベロスたちに事件の説明を始める。
「普通のゲームの話ならいいんじゃが……問題のVRギア型ダモクレスを身につけると、現実がゲームと同じように見えてしもうて、周りの一般人たちを実際に殺してしまうらしいんじゃ」
 VRギア型ダモクレスを装着した少年の側には、VRギアが実体化したアバターが出現し、ゲームの中の主人公の動きを再現して、実際に殺戮を行ってゆく。
「こんアバターは一定のダメージを与えると消失するんじゃが、被害者がゲームを続けることを自分の意志でやめん限り、何度でも復活するんじゃ」
 アバターを撃破すると共に、被害者のゲームを続ける意志を折ることができれば、VR型ダモクレスは撃破されて被害者を救出することができる、と勲は言う。
「それと、もし被害者本人やVRギア本体を攻撃した場合は、被害者は身を守るためにアバターと合体して戦うんじゃ。この場合は、戦力が強化されるじゃが、一度倒せば復活せずに撃破が可能じゃ」
 ただし、この方法を取った場合は、被害者を救出することは不可能になる。
「被害者の少年は、VRギア型ダモクレスを身に着けとる間、ケルベロスやデウスエクス同様、通常ダメージは無効になっとる。じゃから、少年に対してグラビティで攻撃しない限りは、アバターとの合体は起こらんじゃ」
 ダモクレスを撃破すれば目的は達成となるが、出来る限り被害者も助けてやってほしい……と、勲はケルベロスたちに頭を下げる。
 
「幸い、今からすぐに向かえば、少年が実際に被害を出し始める前に駆けつけることが可能じゃ。すんなりアバターとの戦闘に入ることができるとも思うんじゃが……一つ、注意してほしいことがあるじゃ」
 勲によると、問題のVRダモクレスには、『ゲーム世界に相応しく無い現実を、ゲームの設定に合わせて修整して認識させる』特徴があるらしい。
「皆のことは、『倒さなければならない強敵』であるように認識させるようじゃな。じゃけん、優しい言葉をかけたり、普通に説得したりしても、ダモクレスによって都合良い敵のセリフに変換されてしまうじゃろうの」
 だが、最初からゲームの世界観に合わせた『倒さなければならない強敵』のような格好や演出をした場合、その言葉や行動をそのまま伝える事ができるだろう、と勲は言う。それをうまく利用すれば、少年がゲームを投げ出す方向に持っていけるかもしれない、とも。

「さて、肝心のゲーム内容じゃが……」
 勲は眉根を寄せ、理解しがたいものを説明する苦労を伺わせる口調で話を続ける。
「敵は可愛いおなごばっかりのようじゃな。で、敵を銃で撃ちまくると、倒したおなごがなぜか主人公を好いてくる……と、まあ、そんな作品のようじゃ」
 いわゆる『萌え』を全面に出したガンシューティングで、登場キャラはメイドやアイドルや女子学生など、萌えの記号で埋め尽くされている。また、倒した相手は、ご都合主義かつベタなセリフで、主人公に『デレて』くる設定らしい……と、首をひねりつつ勲は言う。
「で、被害者の少年は、そげなゲームを好んで遊ぶだけあって、『都合のいい二次元的なおなご』が好きなようじゃのう。逆に、『都合良く好いてくれないおなご』や『三次元の現実をつきつけられること』、『そもそも女装した男だった』みたいな展開は好まんようじゃ」
 ゲームを続ける意思を折るには、そのあたりを意識して(?)戦うのが良いだろう。
「敵アバターの攻撃は、こっちの資料にまとめといたで、目を通しておいてつかあさい」
 勲は手元の資料をケルベロスたちに回し、締めの体制に入る。
「趣味はどうあれ、ゲームはゲームとして楽しめるんじゃなきゃ意味がなか。現実とごっちゃにさせるダモクレス、確実に倒してきてつかあさい……押忍っ!」
 いつも通り気合の入ったエールを切って、勲は皆を送り出すのだった。


参加者
椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)
長谷川・わかな(腹ぺこ少女が行く・e31807)

■リプレイ

●冥土のメイド
 秋葉原の街、風雲急を告げる。
 報せを受け取ったケルベロスたちは、無残な事件を防ぐため、急ぎ現場に駆けつけていた。
「よっしゃ、人払い完了だぜ! 早いとこターゲットを探さないとな!」
 いつも通り快活に声をかけつつ、事件の解決と戦いに臨むのは、峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)。普段の彼と何一つ変わる所のない、明るい快男児ぶりだ……だがその出で立ちは、少し(?)いつもと違っていた。
「……雅也もマティアスも、案外似合ってるわよ」
 五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)がこれまたいつもの彼女と変わりない優しげなまなざしで見つめるのは、雅也の服装だ。
 クラシックで可愛らしい和装給仕風ミニスカメイド服に、ヘッドドレスに、ハイニーソに、ブーツ……そう、雅也の身にまとっていたのは、まぎれもない女装。和風ミニスカメイドの女装だった。
 服装は隙無く美しくまとまっているが、中身は普通に野郎のままなので、絵面的には大変アレなことになっている。
「『萌え』というのも奥が深い世界なんだな。新鮮な体験だ」
 奈津美に呼びかけられたもう一人、マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)の装いもまた、メイド服だ。こちらのメイド服は、膝上ぐらいの短めスカートにエプロン姿の、メイド喫茶スタンダードとでも言うべきもの。
 こちらは黙っていれば中性的な美女でも通りそうだ……が、話し声を聞けば、やはり男の女装に他ならない。もっとも、当のマティアス本人は特に気負うでも臆するでもなく、いたって無邪気かつ好奇心旺盛な様子で、いつもと違う服装を楽しんでいる様子だ。
 ちなみに奈津美の服装は、これまたメイド服。こちらは、正統派ヴィクトリアン調のロングスカートをしゃんと着こなし、背筋を伸ばし、由緒あるお屋敷に仕える有能なメイド長といった趣だ。
「窮屈だろうけど作戦中は我慢してね、バロン」
 さらに、彼女の相棒・ウイングキャットのバロンもまた、猫サイズのメイド服に身を包んでいる。全体の黒にに白い靴下を履いたような毛並みとメイド服のコーディネートは、ぐうの音も出ないほどの可愛さだ! ……が、バロンのトレードマークである顔のお髭模様は、心なしかムスッとした角度を描いてるようにも見える。愛する主人のために慣れない服も着てみせているが、内心は不服なのかも知れない。

●JCJK
 さて、彼らケルベロスが、なぜこんな姿で一般人の避難誘導を行うことになったのか。それは、今回の事件の特徴が招いた事情によるものだった。
「さあ、VR界の嫁たちに、出・撃っ!」
 ケルベロスたちの視界に入ってきたのは、VRギアを装着し、隣にイケメン風のアバターを従えた少年だ。
「VRゲームって楽しそう! 私もやってみたいなー……でも、ダモクレスは倒しちゃわないとね!」
 こちらは白地に青いラインの入ったセーラー服にカーディガンを羽織った、正統派女子中学生姿。ナチュラルに着こなした衣装は自前のリアルJC、長谷川・わかな(腹ぺこ少女が行く・e31807)が、少年とアバターを見て元気よく気合いを入れる。
 そう、今回の敵は、VRゲーム機の形を取ったダモクレス。ゲームと現実を混同させ、VRギアに取り憑かれた犠牲者を現実の世界で暴れさせてしまう。
「撃たれてデレるとか超シュールってゆーか現実感ないってゆーか、ぶっちゃけ何それ? って感じだよねー」
 こちらはリアルJK、光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)の、マジ意味不明! と言いたげな言葉どおり、ゲームの内容自体もかなりアレなものだ。『可愛い女の子の敵キャラを撃つと、対象を攻略できる』……理屈もリアリティも皆無の、清々しいまでに女の子以外何もない世界だった。
 そして厄介なことに、このダモクレス、ゲームの世界観に合った存在以外は認識を歪めてしまう。ということで、このアレな世界に合わせて、野郎どもも萌えキャラに扮しているのだった。
「ったく、撃ってデレてくる奴の何がいいんだか……めんどくせえけど、片付けるぜ」
 外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)もけだるそうに、優しい世界に取り込まれた少年を見て呟いた。もっとも、めんどくさそうな態度とは裏腹に、犠牲者救出に対する咒八の準備は万端だ。きちんと体型の分かりにくい女性ものの服とウィッグで女装し、万が一に備えてか、手加減攻撃までしっかり準備してきている。どんな萌えキャラを演じるのかは置いといて、むしろ咒八本人が既にツンデレと言えなくもない。
「メイド服に、制服に、よりどりみどーり! やっぱ二次元はこうでなくちゃ、デュフフ!」
「小学生の時点で既に萌エロガッパの才覚を見せるなんて……ワタるん、恐ろしい子!!」
 ケルベロスたちに気付き、欲望全開の態度で銃を構える少年・秋庭・ワタル。そんな彼を見て、盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)は、白目で驚愕の表情を浮かべる。ちなみに、ぴえりの扮装は、印象的にリボンをアクセントに使った、ミニスカ女子高生風セーラーだ。
 果たして彼女は、どんな萌えキャラとしてワタルに向き合うのか? きっと、キュートなルックス通り萌え萌えきゅんきゅんな、超可愛らしいものに違いない。……何やらフラグっぽい言い回し? いやきっと気のせいだ。

●和風美少女戦士
「そこまでよ! 貴方ね? 萌えキャラたちを狩っているというイケメンは!」
 忍び寄る何かの予感をよそに、一番手を取って動いたのは、椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)だ。作ったアニメ声と共に、手元の和弓をびしっと構え、ワタルの前にすらりと立ちはだかる。
 細身な笙月の身体を覆うのは、和ゴス調にアレンジした華麗な着物だ。裾の後ろはしゃなりと長くたなびかせ、一方正面は大胆に短くカットし、黒のガーターと高下駄のセクシーな足を惜しげもなく晒している。
「貴方のハートを狙い撃ちヨ☆」
 笙月は切れ長の目をちらりと流し、『天駆ける龍の煌めき』の名を持つ弓から、心を貫く矢を放った。
「うおお、これは……ツインテールはツンデレの証、対決セリフは正統派ライバルの印! のぞむところ、攻・略っ!」
 胸に矢を受けたワタルのアバターが、オーバーアクションで身体をよろめかせる。おそらくゲーム内では結構なダメージを負ったとおぼしき反応だったが、ワタルはゲームの歯応えを楽しむかのように、手元の銃から一途に伸びる弾丸を笙月に撃ち出した。
「……痛い」
 強烈な勢いで放たれた弾丸と笙月の間に、マティアスが割って入る。マティアスは上目遣いのあざとい視線をワタルに送りつつ、しっかり女声を意識した声で、痛みの強さをこらえ控えめな悲鳴を上げる。
「回復させていただきます、ご主人様」
 奈津美はすかさずマティアスを脳細胞活性化の詠唱で援護し、回復と同時に火力を強化した。奈津美の詠唱は心地よく響き渡り、マティアスが今しがた受けた傷のほとんどはリカバーされた。
「って、その回復技、チートっぽい……ひどいじゃないか!」
 それがアバターのゲーム画面越しでも数字として現れたのだろう。少年が奈津美に向かって叫ぶ。
「回復するなんてズルイ? ですがこれもご主人様の成長のための試練ですわ。さあ、これもわたくしの愛の鞭です」
 奈津美に目配せされたバロンが、翼をはためかせてアバターに突進し、シャッとアバターの頬を引っかいた。バロンの爪は、不機嫌猫の本気的な威力で、アバターの頬に深い爪跡を作る。
「うう、リアルケモはちょっと……!」
 少年らはほっぺたを押さえ、小学生にあるまじき性癖ワードと共に銃を構え直した。そして、やや意気消沈した様子で、今しがた攻撃が飛んできた後列に向かって弾幕を展開する。
「きゃあっ! 何をするざんしヨ!」
 主に相手の装甲、すなわちゲーム内のバーチャルな表現としては服に主なダメージを与える、いやーんな弾幕。それは後ろに陣取るケルベロスたちの衣装を切り裂き、渾身の扮装にダメージを与えてゆく。笙月は切り裂かれた胸元を押さえ、コルセットでぎゅっと盛り上げられた胸部を隠すように身をくねらせた。
「もー、ワタルちゃんってば。早くしないと遅刻しちゃうよ! ほら襟曲がってるよ? じっとして」
 ケルベロスたちにダメージを与えつつも少しテンションが下がったワタルに向かって、甘ったるい声が飛ぶ。その声の主は、わかなだ。
「あ、うん……一緒に学校、行こうか」
 わかなの演技テーマは、『毎朝起こしに来てくれる隣の家の幼馴染』。分かりやすいコンセプトとリアルな年齢性別、適切な衣装のチョイスもあいまって、ワタルはすぐさまわかなの幼馴染空間に適応し、ギャルゲー主人公のテンプレセリフとともに、銃と気を取り直した。
「じゃあ、ここは王道ルート、攻・略っ!」
 そして、手にした銃をまっすぐわかなに向け、アバターのイケメン力を一途に絞ったエネルギーを彼女に向けた……その時!
「おっとおぉぉぉぉ! そのリビドー、MOE団団長、盛山ぴえりが、いただきマッスルっ☆!」
 雄々しさすら感じさせる仁王立ちで、ぴえりはわかなを庇った。そして、受けた傷などものともせずにワタルの正面に立ちはだかり、人差し指をびしっと突きつける。
「ただのリア充には興味はありません。我こそが『究極のリア充』と思うなら、かかってきなさい!」
 ぴえりは己の魅力を集結させ、ワタルの好感度に正面から殴りかかった。そう簡単にわかなルートになど行かせるものか! とばかりに、彼女は全力で、女子力を振り絞る。
「おお! こっちもツボ……よし、幼馴染とフラグが立ってるぼくは、間違いなくリア充! だからここは、同時攻略!」
 ワタルは意気揚々と銃を構え、わかなとぴえりごと、前に立つケルベロスに狙いを定める。
 その瞬間、だった。
 場の空気が一気に変わる、異変が起き始めようとしていた。

●ヤンデレパンデミック
「ねぇ、私だけじゃダメなの?」
 わかなの声が、さっきまでの甘いデレ声から一転、地の底から響くような怨念ボイスに変わる。
「え、え……!?」
「こんなにワタルちゃんの事、愛してるのに……ねぇ、出会いは私とだけでいいでしょ?」
 わかなの手には、どこか禍々しい、鉄鍋型のドラゴニックハンマーが握られていた。そしてわかなは、いつの間にか用意された曲がり角から全力で助走をつけてワタルに殺到し、病み切った瞳で鉄鍋を振り下ろす。
「ぐっ! こ、これはまさか、ヤンデレ化っ!?」
 頭をしたたかに打ち付けられたワタルはよろよろと立ち上がり、豹変したわかなから後ずさった。
「ねぇ……戦いって、デートみたいだね。どっちか倒れるまでお互いしか見えてなくって、お互いの一挙一動足が気になって。どうすれば殺せるかな、何が一番効くのかなって、そればっかり考えちゃう」
 だが、後ずさった後に待ち構えていたのは、新たなるヤンデレ。
 隙を見て後ろに回り込んでいた睦は、熱っぽい視線とどこか酷薄な薄笑いを浮かべながら、両手の凶器(チェーンソー剣とエクスカリバール)を手に、ワタルに迫る。
「ねぇ、私のこと好きになってもいーよ? 私も殺す気で応えるから」
 そして睦はアバターに狂った笑みを向け、鈍器に生やした釘で撲殺するまで殴ろうと、心底楽しげに腕を振り上げた。
「ちょちょちょ、そのルートに行く気は、って、ひゃあ!」
 ワタルはたまらず、死ぬまで殺す系ヤンデレと化した睦から逃げ出そうとする……が、睦は容赦なく、愛する人への思い(ヤンデレ流)を叩きつける。
「私以外の女の子に振りむくなんて、お仕置きが必要ね」
「って、君は誰……ぎぎゃー!」
 一難去って、また一ヤンデレ。
 今度のヤンデレは、咒八だ。しかもお姉さま系の女装から覗いた咒八の素顔は、どう見ても男です本当にありがとうございました、なイケメンフェイスとあって、少年の心理的ダメージもひとしおのようだ。咒八は淡々と、手元の武器を振り下ろす。
「他の娘に目移りするのは許さない……こっちだけを見てくれないなら、倒す」
 容赦なく追いヤンデレを浴びせるのは、マティアスだ。
「解析完了。再現プログラム構築……完了、出力」
「き、きみまでも……って、しかも、男ぉ!?」
 たたみかけるタイミングと見て、マティアスは女声も女のフリも止め、『Befehl "Black History"』で、本来の力を遠慮なく発揮する。
「ぴ、ぴえりんは、ぴえりんは裏切らな……」
「『MOE=萌え』だなんて誰が言った?」
 たまらずぴえりにすがりつくワタルに、ぴえりは満面の笑みを浮かべ、残酷なまでに可愛い笑顔でニッコリと微笑みかけた。
「残念! ぴょりろ~ん!」
 そしてぴえりは、可愛い姿に隠されていた己の正体を明かす。
「だが男だ!」
「!!!!!」
 ぴえりは男の娘である証を、なんかとってもショッキングな方法でワタルに見せつけたようで……ワタルの正気度は、一気にゼロからマイナスに振り切れたっぽい。合掌。
「MOE団とはっ、『盛山ぴえりが・男らしく・えげつない攻撃をする・団』のことだ……どやぁ!」
 男らしくえげつないズタズタラッシュの太刀筋は、アバターのお洒落な私服風防具を、容赦なく切り裂く!
「さっすがー、ぴえりちゃん可愛いっ! 男の娘でも全然オッケー!」
 実はぴえりのファンだった睦が、彼女(?)の活躍にエールを送る。
「他の子を見る為の目なんていらないよね……? 大丈夫、私がちゃんと面倒見てあげるから」
「コンティニューしたら私もついて行くね」
「ああっ、実は、私も男だった……でありんし」
 目を執拗に狙うわかな、どこまでもついていく気満々の睦、戦いの余波で破れた服からしれっと偽胸を持ち出して妖しく迫る笙月……ケルベロスたちの追い討ちは、どこまでも容赦なく続いていった。
「ひー、もう勘弁ーー」
「はぁい♪、お帰り下さいませ、ご主人様!」
 そんなカオス空間から逃げ出そうとしたワタルの前に、颯爽と降り立つ勇姿。
 それは、和風メイド服の雅也(20歳・身長177.5cm)・ザ、どう見ても男! だ。
 雅也はノリノリで、ニーソとミニスカの絶対領域(未処理)をチラ見せしながらアバターに駆け寄り、高らかに宣言した。
「女の子を攻略できない致命的なバグが発生しました! ……俺のハートをぶち抜いた責任取ってね、ご主人様!」
 あっけらかんとウインク一発、雅也のパッションは、集中された精神がもたらす爆発となって、アバターに襲いかかる。
「くあぁぁあーーー! ヤンデレも男の娘も女装も、ノーモアー!!!」
 アバターが力尽きると共に、心がボッキボキに折れたワタルの叫びが、辺りに響き渡った。
 何はともあれ、一件落着……ということにしておこう。
 どっとはらい。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 12
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