そろそろそんな季節の香りが漂う今日この頃。言之葉・万寿(高齢ヘリオライダー・en0207)がご立腹の様子でやってきた。
「また祭をジャマする輩が!」
リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)らの調査により、VRゲーム型ダモクレスの事件は、大侵略期の地球で『血のクリスマス』と呼ばれる大虐殺を引き起こした侵略型超巨大ダモクレス、『ゴッドサンタ』復活の予兆であったことが判明した。
「どうやら、VRゲーム機型ダモクレスは、ゴッドサンタの配下の手によって、少し早いクリスマスプレゼントとして子供たちに届けられたもののようなのです。更に『ゴッドサンタ』は、クリスマスを楽しみにする人々を血祭りに上げる事で、自らが復活するグラビティ・チェインを得ようと動き出したのです!」
襲撃が発生するのは、12月24日の午前中。
「けしからん……!」
この襲撃が成功し、グラビティ・チェインがゴッドサンタの元に集まれば、クリスマスの夜にゴッドサンタが完全復活し、世界に大破壊を招く事になってしまうだろう。
「何としても、それを阻止せねばなりませぬ! 皆様のお力が必要なのです! クーリースーマースーですぞ!」
『ゴッドサンタ』の配下として実際に襲撃を行うのは、角から放つ電撃攻撃を得意としている『ヴァンガードレイン』と、背中のポッドから猛吹雪を放ってくる『ヴィクトリーサンタ』という、2体一組の量産型ダモクレス。
「彼らはけしからんことに、12月24日の早朝、日本各地に一斉に現れ、クリスマスを楽しみにしている人々を襲ってグラビティ・チェインを奪い取ろうとしております」
現在、万寿が敵の出現を予知した場所は、埼玉のとあるマンション。若い世帯が多く、子供が沢山いる場所を狙ったと思われる。住民は共同でイルミネーションを飾るほど仲が良く、クリスマスを大いに楽しみにしているので目につけられたのだろう。
「現地到着は襲撃前。住民のフリをして待ち伏せし、周辺に被害が広がらぬよう、敷地内で闘って下さい。1階は駐車場となっておりますので、そこまで誘い込めればおいそれと逃げることもできますまい。何とか工夫して囲い込んで下さいませ」
敵はなるべく大勢のグラビティ・チェインを奪い取ろうとしているので、マンション内部に入るまでは『某おもちゃ会社から派遣されてきた』と言ってサンタに扮して大人しくしている。こちらもケルベロスだと正体が分からないよう住民に扮し、裏をかいて迎え撃ってやろう。
怪しまれそうなポイントは3箇所。まずマンション前。次に管理人室前。駐車場入り口。この3箇所の通過時に不審がられないよう、手を考えてもらいたい。
駐車場に入っても、うっかり敷地外に逃がさぬよう注意されたし。
「何せサンタにはトナカイがおりますからな。健脚は十分注意ですぞ」
サンタとトナカイを待ち伏せして逃がさない……ある意味ロマンだろう。
まあ、この2体は世間のイメージする『ホンモノ』ではなくデウスエクスなので、そのまま撃破させて頂くが。
「この襲撃を阻止する事が出来れば、グラビティ・チェインの枯渇したゴッドサンタを撃破するチャンスがあるかもしれませんからな。もー、遠慮なくポンコツにしてやるでございますよ!」
ヘリオライダーからの激励を背に受け、いざ不届き者を成敗しに参らん。
参加者 | |
---|---|
ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129) |
浦葉・響花(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196) |
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451) |
アリューシア・フィラーレ(亡羊の翼・e04720) |
八崎・伶(放浪酒人・e06365) |
早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638) |
アニマリア・スノーフレーク(疑惑の十一歳児・e16108) |
カティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831) |
●偽りのイヴ
現場に到着したケルベロスご一行。
敵が訪れるまであまり時間がない。急いで用意にかかろう。
脳内シミュレーションを終わらせた八崎・伶(放浪酒人・e06365)が、ボクスドラゴンの焔と共に駆け込んだのは、マンションの管理人室。
「ケルベロスです」
突然訪れた妙な団体に、管理人は怪訝な表情で驚いていたが、事情を説明されると青くなって協力を受け入れてくれた。
伶は管理人のフリをして敵を待ち受けるらしい。簡単に仕事内容を聞き、周辺の見回りで駐車場までのルートを覚える。
「しっかし……ゴッドサンタって何だ。聖人なのに神なのか? どっちにしろ復活させんのはヤバイよな」
子供を狙って動いているのも許せない所で、『けしからん』のはテメェらだとブツブツ文句を垂れている。
同じく腑に落ちていないのは、カティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)。
「ボクが知っているサンタじゃない……」
ウイングキャットのホワイトハートが、チラリとその彼女に視線を移す。
是非とも偽物サンタを懲らしめようと気合いを入れてから、管理人に指示を出した。
「危険なので、住民は部屋から出ないように伝えて。敵は必ず倒すから安心して欲しい」
その後ろでは、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)がポスターを張り回っている。
内容は勿論、敵を欺くための偽情報。『駐車場でパーティー』が行われると書かれたわざとらしいポスターを、一定間隔で入り口から駐車場まで並べていた。
時間が許す限り工作を行うつもりなのだろう。駐車場の出入り口付近にカーテンを引っかけ、中を見にくくしたり等、クリスマスの会場らしき雰囲気に近づけていく。
「実家の弟妹達とよくやったなぁ……」
過去の1シーン。楽しいことを思いだして無意識に口からこぼすと、ハッと我に返り、頭を振って意識を切り替えた。
それらも含め、様々な人々の思い出を破壊しようと試みるダモクレスに、強い敵愾心を覚えたのだろう。
アリューシア・フィラーレ(亡羊の翼・e04720)が、羽根と髪についた青のネモフィラをつぼめて隠しながら、持参した武器をボクスドラゴンのリュカに渡して言った。
「……駐車場で隠れて待機、ね?」
それからアニマリア・スノーフレーク(疑惑の十一歳児・e16108)と共にマンションの周囲や、ベランダに出ている住人にケルベロスカードを見せて協力を仰ぎ、効率よく各部屋に避難を促す。
一通り目につく範囲に声をかけた後、目立つ武器を待機組のサーヴァントに預け、サンタ帽を頭上に被せた。
早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)と浦葉・響花(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196)が、マンション住人になりすましてクリスマスパーティーの飾り付けや掃除をしていると、ドワーフのティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)が小走りで駆け寄ってきた。
『来た』と目で合図を受け、場が一気に緊張モードに突入する。
●鋼鉄のクリスマス
朝日を浴びてうっとおしい程に照り返しているサンタとトナカイを確認し、響花がその鈴の音を止めた。
「ちょっと! ここは動物の立ち入り禁止よ」
箒で道を遮ると、どこからどう見てもロボの2体がこちらを向く。
「某玩具会社カラ、派遣サレテ来マシタ。クリスマス、オ祝イシマショウ」
それを聞いた彼女は、わざとらしくアラと言い。
「ゴメンナサイ、呼ばれてたの知らなかったわ。さあ入って」
そしてアニマリアが合流し、市民の避難のために時間稼ぎを始める。
「駐車場でパーティーの為集まってるので、先ずはそちらに案内しますね。あ、管理人さんにも知らせないと」
彼女が管理人室の方に歩き始めたので、敵は大人しくそれに従った。マンション内に侵入するまでは、従順なサンタクロースを演じるつもりなのだろう。そうはいくかと、ケルベロス達は演技を続けて罠をはる。
「どうして朝からパーティーって分かったんです?」
話しかけられ、答えようとすると、『あ、言わないで下さい。当てます』と放された。ひっきりなしに話しかけられ、周囲の状況を解析できないまま、敵は管理人に扮する伶の元まで案内され、ここでもまた時間が経過する。
「某おもちゃ会社の人? 聞いたことないな」
続けて、『最近、このあたりに不審者が出るらしくてね』『年末は犯罪が多いからねえ』等、のらりくらりと会話が宙を舞う。
「今日はパーティーが駐車場であるみたいだね。誰かが呼んだのかな? ちょっとこっちは確認できてないんだけど、まあ大丈夫か」
そうこうしているうち、住人役のメンバー……主に子役が集まり始めた。
入り口付近でイルミネーションの飾り付けをしているスピカをその場に残し、横で遊んでいたアリューシアとティオがサンタとトナカイに走り寄る。
「あ、わーい♪ サンタさんだー♪ スゴーイ! アリューちゃん、トナカイさんもいるよ」
ティオの背後に隠れながらも、恥ずかしがりつつ、嬉しそうに顔を出すアリューシア。
「……ほんもの?」
そう首を傾げる少年に、鋼鉄のサンタはピントをあわせる。
「メリークリスマス! カワイイ、子供達」
一見、何も知らなければ、サンタがトナカイを連れて、純真無垢な子供達の所にプレゼントを運んできたように見えるだろう。だが裏を返せば、お互い血祭りに上げてやろうと騙し合いをしている訳で、末恐ろしい光景なのだ。
パーティーグッズのミニスカサンタ姿のスピカが、ため息をもらす。
「おもちゃ会社の方なんですか? この電飾、デパートのおもちゃ売り場で買ったんですが、つきが悪いみたいなんです。ちょっと見てもらっていいですか?」
ジャラジャラと壊れた電飾を持ち上げ、ここでもまた時間稼ぎをする。流石、普段に芝居の稽古をしているだけ有り、自然な口調だ。
「……サンタさん、夜じゃなくて、お昼なの? 煙突ないから? おうちいっぱいだから?」
スピカとアリューシアの質問攻めを処理していると、ティオがその手を引いた。
「えっとね、あっちでお母さん達がクリスマス会やるんだって言ってたの。サンタさんも一緒にクリスマス会しよー」
と、響花が箒を前に出す。
「どこ行くのよ! こっちよ。綺麗に掃除したのに、鹿に汚されたんじゃ敵わないわ、それに動物は臭いし」
「トナカイ、デス」
「糞落とさないでよ。私が後で叱られるから」
こちらも中々の名演技。まあ、演技4割、本心『年末はイベントの仕事で忙しいのに……こんな時くらいデウスエクスは来ないで休日とって欲しいわ』な思いが6割を占めていたが。
敵は2体とも、大勢のグラビティ・チェインが欲しい。案内されるがまま駐車場に続く道を歩き始めた。
●サンタとトナカイ、逃がすべからず
ポスターを横目に、イルミネーションの植え込みを道なりに進む。
疑わしき要素はどこにも見当たらず、サンタとトナカイはすんなり駐車場入口のカーテンを開けて中に入り込んだ。
複数台の車が目に入ったが、スペース内にはパーティーを開くような用意がされていない。
視界が拡大縮小を繰り返したが、それらしきアイテムは見当たらず、一つの答えに行き着いた時、背後から猛烈な攻撃を食らわされたトナカイが前に吹き飛んだ。
「ゴメンナサイ、ここはダモクレス立ち入り禁止なのよ」
響花に尻の穴目がけて凍撃を叩き込まれ、奇襲攻撃を受けた敵は慌てた様子で戦闘態勢に入る。
待機していたカティアと伶と詩月が出入口に滑り込み、逃走を阻んだ。
そちらに意識が向いている隙に、素早くスピカがキープアウトテープを通路に貼り、マンションの住人達の『いざ』な行動を止めるべく保護してやる。
「サンタさんは夢を届けるものです。あなたが届ける悪夢は、ここで打ち破らせていただきます」
隠れていたサーヴァント達も主人の足下に飛び出し、武器を手渡してから敵を睨み付ける。
スピカのバイオレンスギターが激しくかき鳴らされ、「欺騙のワルツ」が敵の回路を激しく揺さぶらせた。
「ただのクリスマスのオーナメントの十字架ですよ?」
アニマリアも巨大なロザリオを2つ手にし、ニッコリと微笑む。
「どうしてこんなに大きいかですって?」
言うやステップでトナカイの懐に飛び込み、轟竜砲をその頭上にたたき込んでから退いた。
「……それはね? サンタさんの頭をカチ割る為ですよ」
メルヘンな発言をしておきながら、自分を見つめたままトナカイに一発をたたき込んだ彼女にサンタは背筋が凍る。
天井の低い駐車場では戦闘がしづらい。敵は多くの破壊を望んでおり、サンタはここから脱出しようと出入口に走り出した。
そこでカティアがボディアタックでそれを阻止。はじき返してから、朽ちた世界で幸せを運ぶ不思議な道化師の詩を前衛の仲間達に施した。
「逃がさない」
足下をふらつかせるサンタの背後に鋭く回り込み、伶はローラーダッシュの摩擦でグラインドファイアを繰り出す。
炎を纏った激しい蹴りはサンタの装甲を傷つけ、バチバチと火花を周囲に流している。焔がそれを避けて高級車のボンネットへ上ると、主人は思わず声をもらした。
「あっ、あ……! ぅおお……」
どうかヒールできちんと修復できますように。思わず意識が高級車の修繕費にとられた時だ、サンタの反撃が伶目がけて至近距離から発射された。
「プレゼント、ダ!!」
「ヤベ……!」
筋肉に力を込め、思い切り大地に踏ん張ると、それを受けて背後に数メートル圧される。出入口に立つカティアとホワイトハートに受け止められて体勢を戻すと、身体にまとわりつく氷を振り払った。
駐車場に充満するスモークのような吹雪を割って飛び出したのはティオだ。
「通しません、私達もケルベロスです。色々な意味で逃がすつもりはありません。覚悟してください!」
顔を真っ赤にさせ、思い切り拳を握ってトナカイめがけて降りかかる。トナカイはそれを避けて大きくジャンプしたが、低い天井に頭をぶつけて落下してきた。間髪入れず、ティオが身体をひねって音速を超える拳をそのどてっ腹にたたき込む。
クラッシャーのハウリングフィストをマトモに喰らったトナカイは、鋼鉄の腹に穴を開け、吹き飛ばされて柱に激突すると、その場で爆死した。
2体一組の量産型ダモクレス、1体の能力はさほど高くもないらしい。健脚さえ封じてしまえば、逃走の確率もかなり低くなる。
爆風を避け、詩月とアリューシアのジャマーコンビは、柱を影にお互い目を合わせると頷いた。
煙の勢いが落ちた頃合いを見計らい、詩月がアームドフォートの主砲を一斉発射。フォートレスキャノンがサンタのシルエットに吸い込まれたのを確認した後、アリューシアが柱の陰からゆっくり現れ、構えてから言った。
「……さーてサンタさん、メリークルシミマース、かな?」
背中から両方の羽根が広がり、発光すると聖なる光が周囲に轟いた。主に金属の車を転々と伝わり、そのままサンタの身体へと一撃を流し込む。
「……プレゼントは良い子への御褒美。悪い子な君たちのボスには、消炭で十分」
サンタは口から煙を吐きながらも体勢を整えると、まだ諦めずに出入口に向き直る。
煙に紛れて外に脱出しようとしているらしい。出入口前を固める3名の隙間を分析し、サンタはその1点目がけて飛び込んだ。
「……リュカ!!」
アリューシアの声に反応したサーヴァントがタックルを仕掛ける。サンタはすでにジャンプしていたが、隙間を通り抜ける際に身体をひねろうとした時だ、突然頭のてっぺんからつま先に至るまで制御不能に陥り、激しい痺れで動きを止められる。
そのまま出入口の壁に激突し、追い打ちをかけられてリュカのボクスタックルを背に受け、壁を突き破るとイルミネーションの飾りの中に飛び込み、そこで絶命した。
●ハッピークリスマス!
テカテカ輝く高級車を前に、伶が笑顔でホッと胸をなで下ろしている姿が。その背後ではヒールも済んだ仲間達が、マンションの住人に安全になったことを伝えに走っていた。
ダモクレスの襲撃とはいえ、何やかんやとクリスマスの準備をしていたのだから、任務が終わってしまえばそれも終わり。詩月は少々寂しい気もしていた。
せっかくここまで飾り付けたのだ、ティオもそれに同意し、提案をしてやる。
「無事解決です。住民の方にも迷惑かけましたし、このままホントにクリスマス会やっちゃいますか」
響花が慌てた様子で武器を片付けている。
「用が済んだから私は帰るわ。これから、クリスマスライブイベントの仕事があるのよ。急いで戻らないと間に合わないわ」
「そうかあ……残念だなあ……」
連絡を受けた管理人が駐車場に来ていたので、詩月がダンボールに入った電飾を差し出した。
「この飾り付け、良かったら使って下さい。マンションの皆さんに、私達ケルベロスからのプレゼントと言ったら何ですが……任務がすんだからと、処分してしまうのももったいないので」
それをじっと見ていた管理人が頷く。
「ここの住人、仲いい人多いですし、きっと皆さんにお礼もしたいと思っているかと。残れる方だけでも、どうでしょう? 盛大にとはいきませんが、お昼くらいは持ち寄れるんじゃないかな。ぼく、声かけてきますよ」
ヤッタ! とティオが小さくガッツポーズ。
ダモクレスの企みも阻止、しかも頑張ったご褒美が思わぬ方向から飛び込み、良いケルベロス日和だ。
「じゃあ、飾り付けの続き」
詩月が電飾を手に取り、それを広げていく。
コンセントを羨ましそうに眺め、きっと夜にはステキな場所になるのだろうと思いを馳せた。
よいクリスマスを。
作者:荒雲ニンザ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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